特開2016-144634(P2016-144634A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小蒲 賢司の特許一覧 ▶ 小蒲 祐介の特許一覧 ▶ 小蒲 耕平の特許一覧 ▶ 小蒲 圭亮の特許一覧

<>
  • 特開2016144634-生体電池治療具 図000003
  • 特開2016144634-生体電池治療具 図000004
  • 特開2016144634-生体電池治療具 図000005
  • 特開2016144634-生体電池治療具 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-144634(P2016-144634A)
(43)【公開日】2016年8月12日
(54)【発明の名称】生体電池治療具
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/20 20060101AFI20160715BHJP
【FI】
   A61N1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-5156(P2016-5156)
(22)【出願日】2016年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-19139(P2015-19139)
(32)【優先日】2015年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】395012215
【氏名又は名称】小蒲 賢司
(71)【出願人】
【識別番号】505416500
【氏名又は名称】小蒲 祐介
(71)【出願人】
【識別番号】505416511
【氏名又は名称】小蒲 耕平
(71)【出願人】
【識別番号】505416522
【氏名又は名称】小蒲 圭亮
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】小蒲 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小蒲 祐介
(72)【発明者】
【氏名】小蒲 耕平
(72)【発明者】
【氏名】小蒲 圭亮
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053GG04
(57)【要約】
【課題】ミトコンドリア活性に適した微弱電流、又はポリモーダル刺激に適した微弱電流を安定して流すことができる生体電池治療具を提供する。
【解決手段】この生体電池治療具は、正極10と負極20とを電気的に接続してなり、前記正極10と前記負極20とを生体に接触させることにより生体に微弱電流を流す電気回路を形成する生体電池治療具であって、前記正極10は、不働態被膜を形成した金属で、不働態皮膜を形成することにより、前記負極20を構成する金属よりもイオン化傾向が貴の性質を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを電気的に接続してなり、前記正極と前記負極とを生体に接触させることにより生体に微弱電流を流す電気回路を形成する生体電池治療具であって、
前記正極は不働態被膜を形成した金属で、不働態皮膜を形成することにより、前記負極を構成する金属よりもイオン化傾向が貴の性質を有することを特徴とする生体電池治療具。
【請求項2】
正極と負極とを電気的に接続してなり、前記正極と前記負極とを生体に接触させることにより生体に30〜1000mvの電圧で、0.01〜1200μAの微弱電流を流す電気回路を形成する生体電池治療具であって、
前記正極は不働態被膜を形成した金属で、不働態皮膜を形成することにより、前記負極を構成する金属よりもイオン化傾向が貴の性質を有することを特徴とする生体電池治療具。
【請求項3】
前記正極は、不働態被膜を形成した、チタン、チタン合金、及びチタン化合物の群から選択された金属であり、前記負極は、銀及び銅の群から選択された貴金属であることを特徴とする請求項2に記載の生体電池治療具。
【請求項4】
正極と負極とを電気的に接続してなり、前記正極と前記負極とを生体に接触させることにより生体に200mv〜1300mvの電圧で、0.01μ〜3000μAの微弱電流を流す電気回路を形成する生体電池治療具であって、
前記正極は不働態被膜を形成した金属で、不働態皮膜を形成することにより、前記負極を構成する金属よりもイオン化傾向が貴の性質を有することを特徴とする生体電池治療具。
【請求項5】
前記正極は、不働態被膜を形成したチタン、チタン合金、及びチタン化合物の群から選択された金属であり、前記負極は、亜鉛又は亜鉛合金であることを特徴とする請求項4に記載の生体電池治療具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電池治療具、詳しくは、皮膚等の生体に接した状態で使用され、微弱な直流起電力の皮下組織への通電刺激により対象部位の処置を行う生体電池治療具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、慢性的な肩こりや腰痛に悩まされる患者が増加しており、これまでにパップ剤、温灸、金属粒、磁気治療具、低周波治療器などが家庭用治療具として多数市販されている。これらの治療具は、種々の原理によって患部の血行を促進し、局部的に滞留した老廃物を浄化する効果を示す。
【0003】
上記の一般的な治療具と異なる原理に基づく治療具として、通電刺激によって筋肉および神経の疲労を癒す生体電池治療具が提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。当該生体電池治療具は、皮膚に接触したときに生体電池を形成して直流電流を与えるものであり、上記の家庭用治療具と同等乃至それ以上の治療効果を有する優れた治療具であることが実証されている。
【0004】
従来の生体電池治療具は、負極にZn等のN型半導体を使用し、正極に貴金属を使用して接皮する生体電池である(例えば、特許文献5〜10参照)。図4に、このような従来の生体電池治療具の典型的な形状を示す。この治療具は台座1、N型半導体2及び支持体3とから構成されている。台座1は、金めっきが施された合成樹脂製であり、金メッキされた箇所が電池の正極として作用する。一方、N型半導体2は、台座1に起立保持されて電池の負極として作用する。この生体電池治療具は、正極として作用する台座1と負極として作用する半導体2とを皮膚4に貼付することにより、生体に微弱電流刺激を与えて治療効果をもたらす治療具である。
【0005】
ところで、微弱電流刺激には、ポリモーダル刺激とミトコンドリア活性との2種類の微弱電流刺激がある。
ポリモーダル刺激は、侵害刺激(ストレス)を感知するポリモーダル受容器を刺激することができる微弱電流を流すことができる生体電池治療具が好適である。
一方、ミトコンドリア活性は、神経や身体を流れる生体電流値に近似した極微弱の電流を流すことができる生体電池治療具が好適である。
このように、生体電池治療具といっても、その目的により必要とされる電流値に相当の開きがあった。しかるに、従来の生体電池治療具は、上述のように、正極が貴金属に、負極がZn等のN型半導体にそれぞれ特定されているため、正極と負極との選択に限度があり、生体電池治療具を設計する上でネックとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−173554号公報
【特許文献2】特開平11−123245号公報
【特許文献3】特開2000−84093号公報
【特許文献4】特開2000−126308号公報
【特許文献5】特開2000−237322号公報
【特許文献6】特開2000−237323号公報
【特許文献7】特開2000−237324号公報
【特許文献8】特開2007−130145号公報
【特許文献9】特開2009−050360号公報
【特許文献10】特開2012−205884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者は、正極を貴金属に代えて、不働態被膜を形成した金属を用いることを検討し、不働態被膜を形成した金属には、貴金属と同等の電位、更には、貴金属よりも貴な電位を有する金属があることを見出した。その結果、負極を構成する金属として、貴金属を含めて各種金属を選択でき、目的に応じて種々の生体電池治療具を設計することが可能であることが分かった。
【0008】
さらに研究を進めた結果、正極に、不働態被膜を形成した金属、特にチタン、チタン合金、及びチタン化合物から選択された金属を、負極に貴金属、特に銀、銅を用いた生体電池治療具がミトコンドリア活性に有効な極微弱な電流を流すことができることが分かった。
また、正極に、不働態被膜を形成した金属、特にチタン、チタン合金、及びチタン化合物から選択された金属を、負極に、正極との電位差の大きな金属、特に亜鉛を用いたポリモーダル刺激に有効な微弱電流を流すことができることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の知見に基づいてなされたもので、以下の構成を備える。
本発明に係る生体電池治療具は、正極(陽極)と負極(陰極)とを電気的に接続してなり、前記正極と前記負極とを生体に接触させることにより生体に微弱電流を流す電気回路を形成する生体電池治療具であって、前記正極は不働態被膜を形成した金属で、不働態皮膜を形成することにより、前記負極を構成する金属よりもイオン化傾向が貴の性質を有する。
【0010】
本発明における「生体電池治療具」とは広義の意味で用いられる。すなわち、生体電池治療具は、接皮治療具とも称され(例えば特開2002-37322、特開2002-37323、特開2002-37324、特開2009-050360参照)、このような接皮治療具も本発明に含まれるが、本発明はこれらの名称に拘泥されるものではない。たとえば、本発明を適用した髪梳き具(「髪梳き具」自体の構成については例えば特開2000-236932参照)、美容器具(「美容器具」自体の構成については例えば特開2002-236946参照)、電子歯ブラシ(「電子歯ブラシ」自体の構成については例えば特開2002-36948参照)、経皮投薬に利用される機器(このような機器自体の構成については例えば特開2003-169853参照)、超音波美顔器(「超音波美顔器」自体の構成については、例えば、特開2012-205884参照)、鼻腔拡張部材(例えば、「鼻腔拡張部材」自体の構成については、例えば、特開2012-205884参照)もまた本発明の構成要素を備える限り本発明の技術的範囲に含まれる。
要は、正極と負極とを生体に接触させることにより生体に微弱電流を流す電気回路を形成する機器であって、正極が不働態被膜を形成した金属、負極が上記電気回路を形成する環境下において、前記正極は不働態被膜を形成した金属で、不働態皮膜を形成することにより、前記負極を構成する金属よりもイオン化傾向が貴の性質を有する金属であれば、本発明の「生体電池治療具」に包含される。
【0011】
正極と負極とを「電気的に接続し」とは、正極と負極とが物理的に直接接触している場合に限らず、他の導電性部材、導電性材料を介して間接的に電気的に接続している場合を含む。「正極と負極とが電気的に接続」している具体的態様は、上述した特許文献1〜10などの記載から分かるように多種多様である。ここでは、特に例示しないが、特許文献1〜10に限らず公知の多種多様の形態を当然に包含するものである。
「生体」とは、人体に限らず、生物一般を示す。
「正極と負極とを生体に接触させる」とは、接触させることにより生体に微弱電流を流すことを意図しているのであるから、正極と負極とがそれぞれ生体に微弱電流を流しうる距離だけ離間して接触していることを意味する。接触個所は皮膚など電流が流れる電解質の個所である。
【0012】
「微弱電流」とは生体電池治療具の目的を達成するために必要かつ十分な強度の電流を意味する。ミトコンドリア活性を目的とする場合は表皮からの深度にもよるが、30〜1000mv程度の電圧で、0.01μA〜1200μA程度、好ましくは0.05μA〜800μA程度、特に好ましくは0.1μA〜600μA程度の微弱電流が好ましい。ポリモーダル刺激を目的とする場合は表皮からの深度にもよるが、200mv〜1300mv程度の電圧で、0.01μA〜3000μA程度、好ましくは10μA〜1500μA程度、特に好ましくは50μA〜1200μAの微弱電流が好ましい。
「貴金属」とは、学術的には金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)を言うが、実用的には、金、銀、白金、銅が挙げられる。特に銀や銅はイオン化しても生体に悪い作用をしない事が広く知られているので、好適である。なお、本発明の「貴金属」には貴金属を主成分とする合金も含まれる。
【0013】
本発明において「金属」とは、正極や負極を構成し得る材料としての金属を意味し、記載上の矛盾や重複が生じない限り、合金や金属の酸化物等を包含する広義の意味で用いられる。
「不働態被膜を形成した金属」とは、少なくとも、生体に接触する側の表面に不働態被膜を形成した金属をいう。不働態被膜を形成しうる金属としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、これらの金属を主成分として含む合金や化合物、さらにはステンレス鋼などが挙げられる。不働態被膜は、一般に、金属が環境に触れると形成され、時間の経過により成長してより安定化するが、陽極酸化処理、酸化処理、希硫酸などを用いた電気分解などの処理をすることにより形成することもできる。不働態被膜のそれぞれの形成方法は当業者に広く知られており、本発明では、負極として使用される金属(貴金属を含む)よりもイオン化傾向を「貴」とすることができる不働態化処理、好ましくはイオン化傾向を水素より小さくすることができる不働態化処理であれば、その処理方法は限定されない。
【0014】
「前記正極は不働態被膜を形成した金属で、不働態皮膜を形成することにより、前記負極よりもイオン化傾向が貴の性質を有する」とは、正極の金属が元来持っているイオン化傾向が不働態皮膜を形成することにより「貴」の性質に変化することを利用し、この不働態被膜を形成した金属と他の金属(貴金属を含む)との組み合わせの中から、生体電池の使用環境下(一般的には大気雰囲気中)において、不働態被膜を形成した金属が正極に、その他の金属(貴金属を含む)が負極になるような組合せを選択するという趣旨である。例示すれば、不働態被膜を形成したチタン、チタン合金、及びチタン化合物から選択された金属と銀との組み合わせ、不働態被膜を形成したチタン、チタン合金、及びチタン化合物から選択された金属と銅との組み合わせ、不働態被膜を形成したチタン、チタン合金、及びチタン化合物から選択された金属と亜鉛との組み合わせなどが挙げられる。なお、この場合、負極を構成する亜鉛の表面の酸化などの変質は問わない。
最初に記載した組合せと二番目に記載した組み合わせは、ミトコンドリア活性に特に適した組み合わせであり、三番目に記載した組み合わせは、ポリモーダル刺激に特に適した組み合わせである。
なお、チタン合金は、α合金・β合金・α−β合金いずれも適用可能であり、具体的なチタン合金を例示すれば、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−7Nbなどが挙げられる。また、チタン化合物を例示すれば、TiC等のTi炭化物、TiN等のTi窒化物、TiCN等のTi炭窒化物、TiCO等のTi炭酸化物、TiCNO等のTi炭窒酸化物などが挙げられる。ただし、例示したチタン合金、チタン化合物はあくまで例示であり、本発明のチタン合金、チタン化合物は、これらの例示したチタン合金、チタン化合物に限定されるものではないことは勿論である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正極には不働態被膜を形成した金属を用いることにより、負極の金属として貴金属を含めて適宜選択することができ、その結果、ポリモーダル刺激に適した生体電池治療具やミトコンドリア活性に有効な生体電池治療具を適切に設計、製造することができる。
【0016】
そして、本発明により得られるミトコンドリア活性に適した生体電池治療具(負極に貴金属を用いた生体電池治療具)は以下の特有の効果を発揮する。
すなわち、身体の細胞レベルでの活性化を促す方法として、微弱電流療法(micro current therapy)と言う理論が有り、近年米国FDAにおいて治療法として認可された。細胞それ自体を活性させるためには、細胞の唯一のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸、Adenosine Triphosphate)は、細胞中のミトコンドリアにより生成されるが、この理論は、細胞に微弱電流を流してミトコンドリアによりATP生成を活発化さる治療法である。即ち、細胞は主としてナトリウムイオン、カリウムイオン等の細胞内外の濃度差に従い通常状態では、細胞膜内は細胞膜外との電位においてマイナス40mV〜50mVの負の電位にある。しかし、細胞が活性化してくると細胞膜内の電位が徐々に正方向に高まり、30mVほど高まったマイナス10mV〜20mV程度でミトコンドリアがATPを生成し始める。細胞はエネルギー源であるATPを消費して盛んに活性している場合は、細胞膜内電位がプラス70mVに達すると言われている。この細胞が休息中のマイナス40mV〜50mVから活性中のプラス70mVとの電位差120mV相当を外部から細胞に与える事で細胞を活性化させようと言う理論が微弱電流療法(micro current therapy)である。
しかし、従来のN型半導体(亜鉛)を負極、貴金属(金)を正極とした生体電池治療具では、約1000mVで650μA〜1200μA程度の電流が流れており、微弱電流療法に適用するには電流値が高すぎ、微弱電流療法に適した電流値とはいえない。
また、微弱電流治療具自体は知られているが、現在使用されている微弱電流治療具は、正極・負極それぞれの電極を手に持って患部に微弱電流を通電させるというもので、降電圧・降電流の為に数百万円もするような大掛かりな装置となっている。しかも電気の特性として正負極間は唯1本の電流回線が流れているだけである。さらに、電極を手に持って皮膚を滑らせながら施行するが、人力によるものなので治療可能な時間が30分程度に過ぎず、必要十分な時間治療することができない。
これに対し、本発明の生体電池治療具は、基本的に安価な使い捨てであり、長時間貼付することで長時間の細胞活性効果が可能であり、損傷した細胞の復活や活性化、アンチエイジングに効果がある。例えば顔のしわの原因は繊維芽細胞の老化により弾力を失ってしわになるが、本発明によって繊維芽細胞の活性化によるしわの予防、アンチエイジングが可能となる。また骨折や外傷等の損傷における早期の細胞形成が可能である。このような微弱な起電は、従前の貴金属正極、卑金属負極の組み合わせでは成し得なかった顕著な効果である。
【0017】
さらに、ミトコンドリア活性に適した生体電池治療具は、貴金属を負極に用いることができるので、イオン化する金属による金属アレルギーの問題を解消できる。
すなわち、厚労省の資料によれば殆どの金属においてアレルギーの可能性が指摘されているものの、所謂貴金属(金、銀、銅等)においてはアレルギーの危険性は弱く、特に銀においては食器などに使われていることからもわかるように、極めてアレルギーの可能性の低い優良な金属として広く知られている。
金属アレルギーの問題を解消するには、正極に貴金属よりもイオン化傾向が低い貴金属を使用しなければならないが、このようにすると、正極と負極の双方に貴金属を使用しなければならず、コストが高くなる問題がある。
本発明では、正極には不働態被膜を形成した金属を用い、金属アレルギーを起こしにくい貴金属を負極に用いているので、製造コストを高くすることなく、金属アレルギーの問題を解消、軽減することができる。
【0018】
また、本発明により得られるポリモーダル刺激に適した生体電池治療具は以下の特有の効果を発揮する。
すなわち、従来の生体電池治療具は、貴金属の使用を必須としていた。本発明では、不働態被膜を形成した金属が、貴金属の代わりに正極として機能するため、貴金属は使用する必要がなくなる。その結果、従来よりも製造コストを抑えることができる。特に、チタンを正極に、亜鉛を負極に用いた生体電池治療具は、ポリモーダル刺激に適した電流が安定して流れるので、ポリモーダル刺激に適した生体電池治療具の効果が有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は生体電池治療具の一実施例を示す平面図である。
図2図2図1の生体電池治療具のA−A断面図である。
図3図3図1の生体電池治療具の絶縁層の平面図である。
図4図4は従来の生体電池治療具の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施態様の一例を図1図3を用いて説明する。
なお、本発明はこの実施態様に限定されるものでない。本発明は、先に具体的に説明した本発明の各構成要素を任意に組み合わせた生体電池治療具を包含するものである。
【実施例】
【0021】
本発明の第一の実施態様に係る生体電池治療具は、ミトコンドリア活性に適した治療具で、円盤状の台座10の表面(図1の表面側、図2の上側)に円盤状の絶縁層20を設け、この絶縁層20の表面に負極30を設けて構成されている。絶縁層20は、台座10と同芯円盤状に形成され、台座10よりも小径である。負極30は、複数の負極片30a・・・からなり、全体として絶縁層20と同芯円盤状に形成され、絶縁層20よりも小径である。
【0022】
台座10は、チタン製の円盤体で、その表面(図1の表面側、図2の上側)のうち少なくとも絶縁層20で覆われていない外周領域10aに不動態被膜を形成している。そして、この不働態被膜を形成した領域が正極として作用する。不働態被膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、従来知られている不動態被膜の形成方法を適宜適用することができる。一例を挙げれば生理食塩水中に正極を形成するチタン製円盤体と銅片とを浸漬し、両者を電気的に接続することにより、不働態被膜が形成される。
絶縁層20は、例えばウレタン樹脂製で、印刷法等により形成される。絶縁層20は、図2図3に示すように、複数の透孔22・・・ を形成している。各透孔22は貴金属の各負極片30aの略中央部分に対応した箇所に厚さ方向に形成されている。
負極30は、例えば、印刷法などにより銀ペーストを絶縁層20上に塗布して形成される。この負極30は、最内側の円盤状の負極片30aと、その外周にある分割周面状の5つの負極片30aと、さらにその外側にある8つの分割周面状の負極片30aとで構成されている。
【0023】
最内側の負極片30aと、その外周にある5つの負極片30aと、さらにその外側にある8つの負極片30aとは、互いに離間しており、絶縁層20を介して絶縁されている。最内側の負極片30aの外周にある5つの負極片30aは、それぞれ均等の形状、寸法であり、等間隔で配置されている。そして、それぞれ絶縁層20を介して絶縁されている。5つの負極片の外側にある8つの負極片30aは、それぞれ均等の形状、寸法であり、等間隔で配置されている。そして、それぞれ絶縁層20を介して絶縁されている。そして、前記各透孔22には、塗布された銀ペーストが充填され、その結果、負極30を構成する各負極片30aと正極を構成する台座10とは電気的に接続されている。
【0024】
このように構成された生体電池治療具は、表面側を生体に接触させることにより、正極を形成する台座10と、負極30の各負極片30aとがそれぞれ所定距離離間した状態で生体に接し、その結果生体に微弱電流が流れる。このことにより、生体電池治療具として作用することになる。
【0025】
ところで、生体電池治療具は、負極から放出されるイオンが正極に向かうことにより、生体に刺激を与えてその効果を発揮するものであるため、負極を多数配置すれば、多数の個所からイオンが正極に向かい、生体電池として、より優れた効果を発揮することができる。他方正極は特にその数を多くする必要はない。従って、この種の生体電池治療具は、負極を多く配置している。
この実施態様では、負極が貴金属なので、この実施態様のように貴金属のペーストを塗布することにより、任意の形状の多数の負極を容易に配置形成することができる。他方、不働態被膜を形成した台座は加工が困難なチタンであるが、例えば平板からパンチ抜きしたような円盤状のままで正極として使用することができる。
従って、この実施態様によれば、多数の負極を容易に配置形成することができ、かつ、加工性の悪い台座を複雑な加工することなく利用することができるという製造上の利点があり、しかも、多数の負極を備えることにより、治療効果がより優れた生体電池治療具を得ることができる。
【0026】
なお、貴金属は微細粒子に加工されて、樹脂に添加されたエレクトロニクス向け各種ペーストが開発されている。従って、実施態様の銀に限らず他の貴金属も同様の方法で負極を形成することができる。また、負極の形成方法はペースト塗布に限らず、従来公知の他の任意の方法により形成できることは勿論である。そして、負極は、すべてが貴金属である必要はなく、生体に接する箇所が貴金属であればよいことは勿論である。
【0027】
この実施態様では正極と負極との間に絶縁層が介在され、この絶縁層がウレタン樹脂であるが、絶縁性を有する熱可塑性樹脂、絶縁性を有するアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネートおよびフェノキシ樹脂なども可能である。また、絶縁性であれば、絶縁性樹脂に限らず、他の材質でも可能なことはもちろんである。
【0028】
次に、ポリモーダル刺激に適した第二の実施態様に係る生体電池治療具を説明する。第二の実施態様に係る生体電池治療具は、第一の実施態様に係る生体電池治療具において、負極片30a・・・の材質を、亜鉛に変更したもので、その他の変更はない。その形状などは図1図3に示された第一の実施態様と同様であるので、第二の実施態様の図面は省略する。
この第二の実施態様によれば、貴金属を使用しないので、製造コストを抑えることができ、かつ、ポリモーダル刺激に適した電流を安定して流すことができる。
【0029】
(実験例1)
以下にミトコンドリア活性に適した生体電池治療具に関し、不働態被膜を形成した金属が正極、貴金属が負極となることを確認する実験例を示す。
生理食塩水中にチタン板片と銀板片とを浸漬し、両金属片を電気的に接続して、その電圧、電流を測定した。当初、130mV〜160mVの電圧で銀板片からチタン板片に電流が流れた。しかし、24時間程度放置すると、90〜100mV程度の電圧でチタン板片から銀板片に0.1μA〜2μAの電流が流れ、この値でほぼ安定した。この結果から、チタン板片の表面が不働態化して正極として作用し、銀が負極として作用していることが確認された。しかも、上述した微弱電流療法に適した電圧・電流値であることも確認された。
【0030】
チタン板片と銅板片とを用いて上記と同様の実験を行ったところ、24時間程度放置すると、300mV程度の電圧でチタン板片から銅板片に4μA〜5μAの電流が流れ、この値でほぼ安定した。この結果から、チタン板片の表面が不働態化して、正極として作用し、銅が負極として作用していることが確認された。
【0031】
(比較例)
上記と同様の実験方法にて、本発明者は不働態被膜を形成したチタンと金との組み合わせ、及び不働態被膜を形成したステンレス鋼と金との組み合わせについても実験した。この実験では、金が正極としての挙動を示し、この実験方法で不働態被膜を形成したチタン及びステンレス鋼はいずれも負極としての挙動を示し、本発明に係る生体電池治療とはなりえなかった。さらに、不働態被膜を形成したステンレス鋼と銀との組み合わせについても同様に実験した。しかし、少なくともこの実験では、銀が正極としての挙動を示し、この方法で不働態被膜を形成したステンレス鋼は負極としての挙動を示し、本発明に係る生体電池治療具とはなりえなかった。
なお、この比較実験は、本発明においては、「正極を構成する不働態被膜を形成した金属が、負極を形成する貴金属よりもイオン化傾向が貴である」であることが必要であり、単に不働態被膜を形成すればよいのではないことを示す実験例である。言い換えると、不働態皮膜には種々の形成方法があり、得られ不働態被膜の特性が一定ではないことを斟酌すれば、この比較実験が、例えば、不働態被膜を形成したチタンと金との組み合わせ、不働態被膜を形成したステンレス鋼と金との組み合わせ、及び不働態被膜を形成したステンレス鋼と銀との組み合わせ、それ自体を本発明から排除することを意味するものではないことは明らかである。
【0032】
(実験例2)
次に、ポリモーダル刺激に適した生体電池治療具に関し、不働態被膜を形成した金属が正極に、亜鉛が負極となることを確認する実験例を示す。
上記と同様の実験方法にて、正極に不働態被膜を形成したチタンを、負極に亜鉛を用いた生体電池治療具について、その電圧、電流を測定した。その結果、900mV程度の電圧で650μA程度の電流が流れ、この値でほぼ安定し、ポリモーダル刺激に適した生体電池治療具であることが確認された。
【0033】
なお、金属のイオン化傾向等の電気化学的知識を有する当業者にとっては、本発明の技術思想を理解することにより、正極を構成する不働態被膜を形成した金属と負極を構成する金属とを適宜組み合わせて、上記実験例に例示した生体電池治療具以外の本発明に係るミトコンドリア活性に適した生体電池治療具やポリモーダル刺激に適した生体電池治療具を容易に設計、製造できることは明らかである。
【符号の説明】
【0034】
10…台座(正極)
10a…不働態被膜形成箇所
20…絶縁層
22…透孔
30…貴金属の負極(負極片全体)
30a…貴金属の負極片
図1
図2
図3
図4