【実施例】
【0021】
本発明の第一の実施態様に係る生体電池治療具は、ミトコンドリア活性に適した治療具で、円盤状の台座10の表面(
図1の表面側、
図2の上側)に円盤状の絶縁層20を設け、この絶縁層20の表面に負極30を設けて構成されている。絶縁層20は、台座10と同芯円盤状に形成され、台座10よりも小径である。負極30は、複数の負極片30a・・・からなり、全体として絶縁層20と同芯円盤状に形成され、絶縁層20よりも小径である。
【0022】
台座10は、チタン製の円盤体で、その表面(
図1の表面側、
図2の上側)のうち少なくとも絶縁層20で覆われていない外周領域10aに不動態被膜を形成している。そして、この不働態被膜を形成した領域が正極として作用する。不働態被膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、従来知られている不動態被膜の形成方法を適宜適用することができる。一例を挙げれば生理食塩水中に正極を形成するチタン製円盤体と銅片とを浸漬し、両者を電気的に接続することにより、不働態被膜が形成される。
絶縁層20は、例えばウレタン樹脂製で、印刷法等により形成される。絶縁層20は、
図2、
図3に示すように、複数の透孔22・・・ を形成している。各透孔22は貴金属の各負極片30aの略中央部分に対応した箇所に厚さ方向に形成されている。
負極30は、例えば、印刷法などにより銀ペーストを絶縁層20上に塗布して形成される。この負極30は、最内側の円盤状の負極片30aと、その外周にある分割周面状の5つの負極片30aと、さらにその外側にある8つの分割周面状の負極片30aとで構成されている。
【0023】
最内側の負極片30aと、その外周にある5つの負極片30aと、さらにその外側にある8つの負極片30aとは、互いに離間しており、絶縁層20を介して絶縁されている。最内側の負極片30aの外周にある5つの負極片30aは、それぞれ均等の形状、寸法であり、等間隔で配置されている。そして、それぞれ絶縁層20を介して絶縁されている。5つの負極片の外側にある8つの負極片30aは、それぞれ均等の形状、寸法であり、等間隔で配置されている。そして、それぞれ絶縁層20を介して絶縁されている。そして、前記各透孔22には、塗布された銀ペーストが充填され、その結果、負極30を構成する各負極片30aと正極を構成する台座10とは電気的に接続されている。
【0024】
このように構成された生体電池治療具は、表面側を生体に接触させることにより、正極を形成する台座10と、負極30の各負極片30aとがそれぞれ所定距離離間した状態で生体に接し、その結果生体に微弱電流が流れる。このことにより、生体電池治療具として作用することになる。
【0025】
ところで、生体電池治療具は、負極から放出されるイオンが正極に向かうことにより、生体に刺激を与えてその効果を発揮するものであるため、負極を多数配置すれば、多数の個所からイオンが正極に向かい、生体電池として、より優れた効果を発揮することができる。他方正極は特にその数を多くする必要はない。従って、この種の生体電池治療具は、負極を多く配置している。
この実施態様では、負極が貴金属なので、この実施態様のように貴金属のペーストを塗布することにより、任意の形状の多数の負極を容易に配置形成することができる。他方、不働態被膜を形成した台座は加工が困難なチタンであるが、例えば平板からパンチ抜きしたような円盤状のままで正極として使用することができる。
従って、この実施態様によれば、多数の負極を容易に配置形成することができ、かつ、加工性の悪い台座を複雑な加工することなく利用することができるという製造上の利点があり、しかも、多数の負極を備えることにより、治療効果がより優れた生体電池治療具を得ることができる。
【0026】
なお、貴金属は微細粒子に加工されて、樹脂に添加されたエレクトロニクス向け各種ペーストが開発されている。従って、実施態様の銀に限らず他の貴金属も同様の方法で負極を形成することができる。また、負極の形成方法はペースト塗布に限らず、従来公知の他の任意の方法により形成できることは勿論である。そして、負極は、すべてが貴金属である必要はなく、生体に接する箇所が貴金属であればよいことは勿論である。
【0027】
この実施態様では正極と負極との間に絶縁層が介在され、この絶縁層がウレタン樹脂であるが、絶縁性を有する熱可塑性樹脂、絶縁性を有するアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネートおよびフェノキシ樹脂なども可能である。また、絶縁性であれば、絶縁性樹脂に限らず、他の材質でも可能なことはもちろんである。
【0028】
次に、ポリモーダル刺激に適した第二の実施態様に係る生体電池治療具を説明する。第二の実施態様に係る生体電池治療具は、第一の実施態様に係る生体電池治療具において、負極片30a・・・の材質を、亜鉛に変更したもので、その他の変更はない。その形状などは
図1〜
図3に示された第一の実施態様と同様であるので、第二の実施態様の図面は省略する。
この第二の実施態様によれば、貴金属を使用しないので、製造コストを抑えることができ、かつ、ポリモーダル刺激に適した電流を安定して流すことができる。
【0029】
(実験例1)
以下にミトコンドリア活性に適した生体電池治療具に関し、不働態被膜を形成した金属が正極、貴金属が負極となることを確認する実験例を示す。
生理食塩水中にチタン板片と銀板片とを浸漬し、両金属片を電気的に接続して、その電圧、電流を測定した。当初、130mV〜160mVの電圧で銀板片からチタン板片に電流が流れた。しかし、24時間程度放置すると、90〜100mV程度の電圧でチタン板片から銀板片に0.1μA〜2μAの電流が流れ、この値でほぼ安定した。この結果から、チタン板片の表面が不働態化して正極として作用し、銀が負極として作用していることが確認された。しかも、上述した微弱電流療法に適した電圧・電流値であることも確認された。
【0030】
チタン板片と銅板片とを用いて上記と同様の実験を行ったところ、24時間程度放置すると、300mV程度の電圧でチタン板片から銅板片に4μA〜5μAの電流が流れ、この値でほぼ安定した。この結果から、チタン板片の表面が不働態化して、正極として作用し、銅が負極として作用していることが確認された。
【0031】
(比較例)
上記と同様の実験方法にて、本発明者は不働態被膜を形成したチタンと金との組み合わせ、及び不働態被膜を形成したステンレス鋼と金との組み合わせについても実験した。この実験では、金が正極としての挙動を示し、この実験方法で不働態被膜を形成したチタン及びステンレス鋼はいずれも負極としての挙動を示し、本発明に係る生体電池治療とはなりえなかった。さらに、不働態被膜を形成したステンレス鋼と銀との組み合わせについても同様に実験した。しかし、少なくともこの実験では、銀が正極としての挙動を示し、この方法で不働態被膜を形成したステンレス鋼は負極としての挙動を示し、本発明に係る生体電池治療具とはなりえなかった。
なお、この比較実験は、本発明においては、「正極を構成する不働態被膜を形成した金属が、負極を形成する貴金属よりもイオン化傾向が貴である」であることが必要であり、単に不働態被膜を形成すればよいのではないことを示す実験例である。言い換えると、不働態皮膜には種々の形成方法があり、得られ不働態被膜の特性が一定ではないことを斟酌すれば、この比較実験が、例えば、不働態被膜を形成したチタンと金との組み合わせ、不働態被膜を形成したステンレス鋼と金との組み合わせ、及び不働態被膜を形成したステンレス鋼と銀との組み合わせ、それ自体を本発明から排除することを意味するものではないことは明らかである。
【0032】
(実験例2)
次に、ポリモーダル刺激に適した生体電池治療具に関し、不働態被膜を形成した金属が正極に、亜鉛が負極となることを確認する実験例を示す。
上記と同様の実験方法にて、正極に不働態被膜を形成したチタンを、負極に亜鉛を用いた生体電池治療具について、その電圧、電流を測定した。その結果、900mV程度の電圧で650μA程度の電流が流れ、この値でほぼ安定し、ポリモーダル刺激に適した生体電池治療具であることが確認された。
【0033】
なお、金属のイオン化傾向等の電気化学的知識を有する当業者にとっては、本発明の技術思想を理解することにより、正極を構成する不働態被膜を形成した金属と負極を構成する金属とを適宜組み合わせて、上記実験例に例示した生体電池治療具以外の本発明に係るミトコンドリア活性に適した生体電池治療具やポリモーダル刺激に適した生体電池治療具を容易に設計、製造できることは明らかである。