【解決手段】半導体発光素子において、基板の表面上に形成され発光層を含む半導体積層部と、基板の表面側に形成され発光層から発せられる光が入射し当該光の光学波長より大きく当該光のコヒーレント長より小さい周期で凹部又は凸部が形成された回折面と、基板の裏面側に形成され回折面にて回折した光を反射して回折面へ再入射させる反射面と、を備えるようにした。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から
図4は本発明の第1の実施形態を示すものであり、
図1は発光素子の模式断面図である。
【0017】
図1に示すように、発光素子1は、回折面2aを有するサファイア基板2の表面上に、III族窒化物半導体層からなる半導体積層部19が形成されたものである。この発光素子1は、フェイスアップ型であり、サファイア基板2と反対側から主として光が取り出される。III族窒化物半導体層は、バッファ層10、n型GaN層12、多重量子井戸活性層14、電子ブロック層16、p型GaN層18をサファイア基板2側からこの順に有している。p型GaN層18上にはp側電極20が形成されるとともに、n型GaN層12上にはn側電極24が形成されている。
【0018】
サファイア基板2は、窒化物半導体が成長されるc面({0001})である回折面2aを表面側に有している。回折面2aには、平坦部2b(
図2(a)参照)と、平坦部2bに周期的に形成された複数の凸部2c(
図2(a)参照)と、が形成されている。各凸部2cの形状は、円錐、多角錘等の錘状の他、錘の上部を切り落とした円錘台、多角錘台等の錘台状とすることができる。本実施形態においては、周期的に配置される各凸部2cにより、光の回折作用を得ることができる。
【0019】
サファイア基板2の裏面側には、例えばAlからなる反射膜26が形成されている。この発光素子1においては、反射膜26のサファイア基板2側の面が反射面28をなしており、活性層14から発せられた光が回折面2aを回折作用によって透過し、透過した光を反射面28にて反射する。これにより、回折作用により透過した光を回折面2aに再入射させて、回折面2aにて再び回折作用を利用して透過させることにより、複数のモードで光を素子外部へ取り出すことができる。
【0020】
バッファ層10は、サファイア基板2の回折面2a上に形成され、AlNで構成されている。本実施形態においては、バッファ層10は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により形成されるが、スパッタリング法を用いることもできる。また、バッファ層10は、各凸部2cに沿って周期的に形成される複数の錘台状の凹部を回折面2a側に有している。第1導電型層としてのn型GaN層12は、バッファ層10上に形成され、n−GaNで構成されている。発光層としての多重量子井戸活性層14は、n型GaN層12上に形成され、GalnN/GaNで構成され、電子及び正孔の注入により青色光を発する。ここで、青色光とは、例えば、ピーク波長が430nm以上480nm以下の光をいうものとする。本実施形態においては、多重量子井戸活性層14の発光のピーク波長は450nmである。
【0021】
電子ブロック層16は、多重量子井戸活性層14上に形成され、p―AIGaNで構成されている。第2導電型層としてのp型GaN層18は、電子ブロック層16上に形成され、p−GaNで構成されている。n型GaN層12からp型GaN層18までは、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長により形成され、サファイア基板2の回折面2aには周期的に凸部2cが形成されているが、III族窒化物半導体の成長所期に横方向成長による平坦化が図られる。尚、第1導電型層、活性層及び第2導電型層を少なくとも含み、第1導電型層及び第2導電型層に電圧が印加されると、電子及び正孔の再結合により活性層にて光が発せられるものであれば、半導体層の層構成は任意である。
【0022】
p側電極20は、p型GaN層18上に形成され、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透明な材料からなる。本実施形態においては、p側電極120は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0023】
n側電極24は、p型GaN層18からn型GaN層12をエッチングして、露出したn型GaN層12上に形成される。n側電極24は、例えばTi/Al/Ti/Auから構成され、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0024】
次いで、
図2を参照してサファイア基板2について詳述する。
図2はサファイア基板を示し、(a)が模式斜視図、(b)がA−A断面を示す模式説明図、(c)が模式拡大説明図である。
【0025】
図2(a)に示すように、回折面2aは、平面視にて、各凸部2cの中心が正三角形の頂点の位置となるように、所定の周期で仮想の三角格子の交点に整列して形成される。各凸部2cの周期は、多重量子井戸活性層14から発せられる光の光学波長より大きく、当該光のコヒーレント長より小さくなっている。尚、ここでいう周期とは、隣接する凸部2cにおける高さのピーク位置の距離をいう。また、光学波長とは、実際の波長を屈折率で除した値を意味する。さらに、コヒーレント長とは、所定のスペクトル幅のフォトン群の個々の波長の違いによって、波の周期的振動が互いに打ち消され、可干渉性が消失するまでの距離に相当する。コヒーレント長lcは、光の波長をλ、当該光の半値幅をΔλとすると、おおよそlc=(λ
2/Δλ)の関係にある。ここで、各凸部2cの周期は、多重量子井戸活性層14から発せられる光の光学波長の2倍より大きいことが好ましい。また、各凸部2cの周期は、多重量子井戸活性層14から発せられる光のコヒーレント長の半分以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態においては、各凸部2cの周期は、500nmである。活性層14から発せられる光の波長は450nmであり、III族窒化物半導体層の屈折率が2.4であることから、その光学波長は187.5nmである。また、活性層14から発せられる光の半値幅は63nmであることから、当該光のコヒーレント長は、3214nmである。すなわち、回折面2aの周期は、活性層14の光学波長の2倍より大きく、かつ、コヒーレント長の半分以下となっている。
【0027】
本実施形態においては、
図2(c)に示すように、回折面2aの各凸部2cは、平坦部2bから上方へ伸びる側面2dと、側面2dの上端から凸部2cの中心側へ湾曲して伸びる湾曲部2eと、湾曲部2eと連続的に形成される平坦な上面2fとを有する。後述するように、側面2dと上面2fの会合部により角が形成された湾曲部2e形成前の凸部2c(
図4(e)参照)のウエットエッチングにより、角を落とすことで湾曲部2eが形成される。尚、平坦な上面2fが消失して凸部2cの上側全体が湾曲部2eとなるまでウェットエッチングを施すようにしても差し支えない。本実施形態においては、具体的に、各凸部2cは、基端部の直径が200nmであり、高さは250nmとなっている。サファイア基板2の回折面2aは、各凸部2cの他は平坦部2bとなっており、半導体層の横方向成長が助長されるようになっている。
【0028】
ここで、
図3及び
図4を参照して発光素子1用のサファイア基板2の作製方法について説明する。
図3は、サファイア基板を加工する説明図であり、(a)は回折面に第1マスク層が形成された状態を示し、(b)は第1マスク層上にレジスト層が形成された状態を示し、(c)はレジスト層に選択的に電子線を照射する状態を示し、(d)はレジスト層を現像して除去した状態を示し、(e)は第2マスク層が形成された状態を示している。
【0029】
まず、
図3(a)に示すように、平板状のサファイア基板2を用意し、サファイア基板2の表面に第1マスク層30を形成する。第1マスク層30は、例えばSiO
2からなり、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等により形成される。第1マスク層30の厚さは、任意であるが、例えば1.0μmである。
【0030】
次いで、
図3(b)に示すように、サファイア基板2の第1マスク層30上にレジスト層32を形成する。レジスト層32は、例えば、日本ゼオン社製のZEP等の電子線感光材料からなり、第1マスク層30上に塗布される。レジスト層32の厚さは、任意であるが、例えば100nmから2.0μmである。
【0031】
次に、
図3(c)に示すように、レジスト層32と離隔してステンシルマスク34をセットする。レジスト層32とステンシルマスク34との間は、1.0μm〜100μmの隙間があけられる。ステンシルマスク34は、例えばダイヤモンド、SiC等の材料で形成されており、厚さは任意であるが、例えば、厚みが500nm〜100μmとされる。ステンシルマスク34は、電子線を選択的に透過する開口34aを有している。
【0032】
この後、
図3(c)に示すように、ステンシルマスク34へ電子線を照射し、レジスト層32をステンシルマスク34の各開口34aを通過した電子線に曝す。具体的には、例えば、10〜100μC/cm
2の電子ビームを用いて、ステンシルマスク34のパターンをレジスト層32に転写する。
【0033】
電子線の照射が完了した後、所定の現像液を用いてレジスト層32を現像する。これにより、
図3(d)に示すように、電子線が照射された部位が現像液に溶出し、電子線が照射されてない部位が残留して、開口32aが形成される。レジスト層32として日本ゼオン社製のZEPを用いた場合、現像液として例えば酢酸アミルを用いることができる。
【0034】
次いで、
図3(e)に示すように、レジスト層32がパターンニングされた第1マスク層30上に、第2マスク層36を形成する。このようにして、第1マスク層30上に第2マスク層36を電子線照射を利用してパターンニングする。第2マスク層36は、例えばNiからなり、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等により形成される。第2マスク層36の厚さは、任意であるが、例えば20nmである。
【0035】
図4はサファイア基板を加工する説明図であり、(a)はレジスト層を完全に除去した状態を示し、(b)は第2マスク層をマスクとして第1マスク層をエッチングした状態を示し、(c)は第2マスク層を除去した状態を示し、(d)第1マスク層をマスクとして回折面をエッチングした状態を示し、(e)は第1マスク層を除去した状態を示し、(f)はウェットエッチングにより凸部に湾曲部を形成した状態を示す。
【0036】
図4(a)に示すように、レジスト層32を剥離液を用いて除去する。例えば、レジスト層32を剥離液中に浸し、所定時間だけ超音波を照射することにより除去することができる。具体的に、剥離液としては例えばジエチルケトンを用いることができる。これにより、第1マスク層30上に、ステンシルマスク34の開口34aのパターンを反転させた第2マスク層36のパターンが形成される。
【0037】
次いで、
図4(b)に示すように、第2マスク層36をマスクとして、第1マスク層30のドライエッチングを行う。これにより、第1マスク層30に開口30aが形成され、第1マスク層30のパターンが形成される。このとき、エッチングガスとして、第2マスク層36に比してサファイア基板2及び第1マスク層30が耐性を有するものが用いられる。例えば、第1マスク層30がSiO
2で第2マスク層36がNiである場合、SF
6等のフッ素系ガスを用いると、NiはSiO
2に対してエッチングの選択比が100程度であることから、第1マスク層30のパターンニングを的確に行うことができる。
【0038】
この後、
図4(c)に示すように、第1マスク層30上の第2マスク層36を除去する。第1マスク層30がSiO
2であり、第2マスク層36がNiである場合、水で希釈して1:1程度で混合した塩酸及び硝酸に浸漬したり、アルゴンガスによるドライエッチングによりNiを除去することができる。
【0039】
そして、
図4(d)に示すように、第1マスク層30をマスクとして、サファイア基板2のドライエッチングを行う。このとき、サファイア基板2のうち第1マスク層30が除去された部位のみがエッチングガスに曝されることになるため、サファイア基板2にステンシルマスク34の各開口34aの反転パターンを転写することができる。このとき、第1マスク層30は、サファイア基板2よりも、エッチングガスへの耐性が大きいため、第1マスク層30に被覆されていない箇所を選択的にエッチングすることができる。そして、サファイア基板2のエッチング深さが所期の深さとなるところでエッチングを終了させる。ここで、エッチングガスとしては、例えば、BCl
3等の塩素系ガスが用いられる。
【0040】
この後、
図4(e)に示すように、所定の剥離液を用いてサファイア基板2上に残った第1マスク層30を除去する。これにより、側面2dと上面2fの会合部により角が形成された湾曲部2e形成前の凸部2cが形成される。剥離液としては、例えば、第1マスク層30にSiO
2が用いられている場合は希弗酸を用いることができる。
【0041】
そして、
図4(f)に示すように、ウェットエッチングにより凸部2cの角を除去して湾曲部2eを形成する。ここで、エッチング液は任意であるが、例えば160℃程度に加温したリン酸水溶液、いわゆる“熱リン酸”を用いることができる。尚、エッチング方式としてドライエッチングのような他の方式を用いてもよく、要は凸部2cの角に湾曲部2eが形成されればよい。
【0042】
以上のように作製されたサファイア基板2の回折面2aに、横方向成長を利用してIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させ、各電極を形成した後に、ダイシングにより複数の発光素子1に分割することにより、発光素子1が製造される。
【0043】
以上のように構成された発光素子1では、活性層14から発せられる光の光学波長より大きく、当該光のコヒーレント長より小さい周期で凸部2cが形成された回折面2aと、回折面2aにて回折した光を反射して回折面2aへ再入射させる反射面28と、を備えることにより、サファイア基板2とIII族窒化物半導体層の界面にて、全反射臨界角を超える角度で入射する光についても回折作用を利用して素子外部へ光を取り出すことができる。具体的には、回折作用により透過した光を回折面2aに再入射させて、回折面2aにて再び回折作用を利用して透過させることにより、複数のモードで光を素子外部へ取り出すことができる。本実施形態については、回折作用により光を取り出していることから、散乱作用により光を取り出すものとは異質な作用効果を奏し、発光素子1の光取り出し効率を飛躍的に向上させることができる。
【0044】
ここで、凸部2cが短い周期で形成されているので、単位面積あたりの凸部2cの数が多くなる。凸部2cがコヒーレント長の2倍を超える場合は、この凸部2cに転位の起点となる角部が存在したとしても、転位密度が小さいために発光効率には殆ど影響を与えない。しかしながら、凸部2cの周期がコヒーレント長より小さくなると、半導体積層部19のバッファ層10中の転位密度が大きくなり、発光効率の低下が顕著となる。この傾向は、周期が1μm以下となるとさらに顕著になる。これは、凸部2cの周期をコヒーレント以下まで小さくした場合の新規の課題であり、従来公知の文献では発せられた光の取り出し効率にのみ着目して周期を短くする点についての開示があるが、発光効率の低下については一切考慮されていない。尚、発光効率の低下は、バッファ層10の製法によらず発生し、MOCVD法で形成されていても、スパッタリング法で形成されていても生じる。本実施形態においては、各凸部2cの上側に転位の起点となる角部がないので、バッファ層10の形成時に当該角部を起点として転位が生じることはない。この結果、多重量子井戸活性層14においても、転位の密度が比較的小さい結晶となっており、回折面2aに凸部2cが形成されることにより、発光効率が損なわれることはなく、上記の新規な課題を解決したものといえる。
【0045】
また、本実施形態の発光素子1によれば、サファイア基板2の回折面2aに凸部2cが形成されているものの、III族窒化物半導体層の横方向成長による平坦化の際に転位の終端が生じるので、これによってもIII族窒化物半導体層にて転位の密度が比較的小さい結晶が得られている。この結果、多重量子井戸活性層14においても、転位の密度が比較的小さい結晶となっており、回折面2aに凸部2cが形成されることにより、発光効率が損なわれることはない。
【0046】
尚、前記実施形態においては、発光素子1がフェイスアップ型であるものを示したが、例えば
図5に示すように、発光素子1をフリップチップ型としてもよい。
図5の発光素子1は、サファイア基板2上に、バッファ層10、n型GaN層12、多重量子井戸活性層14、電子ブロック層16、p型GaN層18がこの順に形成され、p型GaN層18上に例えばAg系、Rh系等の反射性材料からなるp側電極20が形成されるとともに、n型GaN層12上にはn側電極24が形成されている。この場合、p側電極20のp型GaN層18側の面が反射面22をなす。
【0047】
また、例えば
図6に示すように、p側電極20の表面に第2の回折面20aを形成してもよい。この第2の回折面20aの凹凸周期も、多重量子井戸活性層14から発せられる光のコヒーレント長より小さくすることが望ましい。これにより、サファイア基板2の回折面2aと、p側電極20の回折面20aの両方の回折作用を得ることができる。
【0048】
図7から
図16は本発明の第2の実施形態を示すものであり、
図7は発光素子の模式断面図である。
【0049】
図7に示すように、発光素子100は、回折面102aを有するサファイア基板102上に、III族窒化物半導体層からなる半導体積層部119が形成されたものである。この発光素子100は、フリップチップ型であり、サファイア基板102の裏面(
図1中は上面)から主として光が取り出される。III族窒化物半導体層は、バッファ層110、n型GaN層112、多重量子井戸活性層114、電子ブロック層116、p型GaN層118をサファイア基板102側からこの順に有している。p型GaN層118上にはp側電極120が形成されるとともに、n型GaN層112上にはn側電極124が形成されている。
【0050】
サファイア基板102は、窒化物半導体が成長されるc面({0001})である回折面102aを有している。回折面102aには、平坦部102bと、平坦部102bに周期的に形成された複数の錐状の凹部102cと、が形成されている。各凹部102cの形状は、円錐、多角錘等の形状とすることができる。本実施形態においては、周期的に配置される各凹部102cにより、光の回折作用を得ることができる。
【0051】
バッファ層110は、サファイア基板102の回折面102a上に形成され、GaNで構成されている。本実施形態においては、バッファ層110は、後述するn型GaN層112等よりも低温にて成長されている。また、バッファ層110は、各凹部102cに沿って周期的に形成される複数の錘状の凸部を回折面102a側に有している。第1導電型層としてのn型GaN層112は、バッファ層110上に形成され、n−GaNで構成されている。発光層としての多重量子井戸活性層114は、n型GaN層112上に形成され、GalnN/GaNで構成され、電子及び正孔の注入により青色光を発する。ここで、青色光とは、例えば、ピーク波長が430nm以上480nm以下の光をいうものとする。本実施形態においては、多重量子井戸活性層114の発光のピーク波長は450nmである。
【0052】
電子ブロック層116は、多重量子井戸活性層114上に形成され、p―AIGaNで構成されている。第2導電型層としてのp型GaN層118は、電子ブロック層116上に形成され、p−GaNで構成されている。バッファ層110からp型GaN層118までは、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長により形成され、サファイア基板102の回折面102aには周期的に凹部102cが形成されているが、III族窒化物半導体の成長所期に横方向成長による平坦化が図られる。尚、第1導電型層、活性層及び第2導電型層を少なくとも含み、第1導電型層及び第2導電型層に電圧が印加されると、電子及び正孔の再結合により活性層にて光が発せられるものであれば、半導体層の層構成は任意である。
【0053】
p側電極120は、p型GaN層118上に形成され、p側GaN層118側の面が反射面122をなしている。p側電極120は、多重量子井戸活性層114から発せられる光に対して高い反射率を有する。p側電極120は、活性層114から発せられる光に対して80%以上の反射率を有することが好ましい。本実施形態においては、p側電極120は、例えばAg系、Rh系の材料からなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0054】
n側電極124は、p型GaN層118からn型GaN層112をエッチングして、露出したn型GaN層112上に形成される。n側電極124は、例えばTi/Al/Ti/Auから構成され、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0055】
次いで、
図8を参照してサファイア基板102について詳述する。
図8はサファイア基板を示し、(a)が模式斜視図、(b)がB−B断面を示す模式縦断面図である。
【0056】
図8(a)に示すように、回折面102aは、平面視にて、各凹部102cの中心が正三角形の頂点の位置となるように、所定の周期で仮想の三角格子の交点に整列して形成される。各凹部102cの周期は、多重量子井戸活性層114から発せられる光の光学波長より大きく、当該光のコヒーレント長より小さくなっている。尚、ここでいう周期とは、隣接する凹部102cにおける深さのピーク位置の距離をいう。また、光学波長とは、実際の波長を屈折率で除した値を意味する。さらに、コヒーレント長とは、所定のスペクトル幅のフォトン群の個々の波長の違いによって、波の周期的振動が互いに打ち消され、可干渉性が消失するまでの距離に相当する。コヒーレント長lcは、光の波長をλ、当該光の半値幅をΔλとすると、おおよそlc=(λ
2/Δλ)の関係にある。ここで、各凹部102cの周期は、多重量子井戸活性層114から発せられる光の光学波長の2倍より大きいことが好ましい。また、各凹部102cの周期は、多重量子井戸活性層114から発せられる光のコヒーレント長の半分以下であることが好ましい。
【0057】
本実施形態においては、各凹部102cの周期は、500nmである。活性層114から発せられる光の波長は450nmであり、III族窒化物半導体層の屈折率が2.4であることから、その光学波長は187.5nmである。また、活性層114から発せられる光の半値幅は63nmであることから、当該光のコヒーレント長は、3214nmである。すなわち、回折面102aの周期は、活性層114の光学波長の2倍より大きく、かつ、コヒーレント長の半分以下となっている。
【0058】
本実施形態においては、
図8(b)に示すように、回折面102aの各凹部102cは、円錐状に形成される。具体的に、各凹部102cは、基端部の直径が200nmであり、深さは250nmとなっている。サファイア基板102の回折面102aは、各凹部102cの他は平坦部102bとなっており、半導体層の横方向成長が助長されるようになっている。
【0059】
図9は、異なる屈折率の界面における光の回折作用を示す説明図であり、(a)は界面にて反射する状態を示し、(b)は界面を透過する状態を示す。
【0060】
ここで、ブラッグの回折条件から、界面にて光が反射する場合において、入射角θ
inに対して反射角θ
refが満たすべき条件は、
d・n1・(sinθ
in−sinθ
ref)=m・λ・・・(1)
である。ここで、n1は入射側の媒質の屈折率、λは入射する光の波長、mは整数である。本実施形態では、n1は、III族窒化物半導体の屈折率となる。
図9(a)に示すように、上記(1)式を満たす反射角θ
refで、界面へ入射する光は反射される。
【0061】
一方、ブラッグの回折条件から、界面にて光が透過する場合において、入射角θ
inに対して透過角θ
outが満たすべき条件は、
d・(n1・sinθ
in−n2・sinθ
out)=m’・λ・・・(2)
である。ここで、n2は出射側の媒質の屈折率であり、m’は整数である。本実施形態では、n2は、サファイアの屈折率となる。
図9(b)に示すように、上記(2)式を満たす透過角θ
outで、界面へ入射する光は透過される。
【0062】
上記(1)式及び(2)式の回折条件を満たす反射角θ
ref及び透過角θ
outが存在するためには、回折面102aの周期は、素子内部の光学波長である(λ/n1)や(λ/n2)よりも大きくなければならない。一般的に知られているモスアイ構造は、周期が(λ/n1)や(λ/n2)よりも小さく設定されており、回折光は存在しない。そして、回折面102aの周期は、光が波としての性質を維持できるコヒーレント長より小さくなければならず、コヒーレント長の半分以下とすることが好ましい。コヒーレント長の半分以下とすることにより、回折による反射光及び透過光の強度を確保することができる。
【0063】
図10は、III属窒化物半導体層からサファイア基板へ入射する光の回折作用を示す説明図である。
図10に示すように、発光素子100において活性層114から等方的に放出される光のうち、サファイア基板102へ入射角θ
inで入射する光は、上記(1)式を満たす反射角θ
refで反射するとともに、上記(2)式を満たす透過角θ
outで透過する。ここで、全反射臨界角以上の入射角θ
inでは、強い反射光強度となる。反射光は、p側電極120の反射面122にて反射して、再びモスアイ面102aへ入射するが先に入射したときの入射角θ
inと異なる入射角θ
inで入射するため、先の入射条件とは異なる透過特性となる。
【0064】
図11は、凹部又は凸部の周期を500nmとした場合の、III属窒化物半導体層とサファイア基板の界面における、半導体層側から界面へ入射する光の入射角と、界面での回折作用による反射角の関係を示すグラフである。
図11に示すように、入射角が45°を超えた領域では、上記(1)式の回折条件を満たすm=1,2,3,4での回折モードでの反射が可能である。これらの回折モードで反射した反射光は、p側電極120の反射面122で反射され、再び回折面102aへ入射する。このときの入射角θ
inは、先に回折面102aで反射された角度を維持しており、2回目の入射によって再び回折されることとなる。
【0065】
図12は、凹部又は凸部の周期を500nmとした場合の、III属窒化物半導体層とサファイア基板の界面における、半導体層側から界面へ入射する光の入射角と、界面での回折作用による透過角の関係を示すグラフである。
回折面102aに入射する光には、一般的な平坦面と同様に全反射の臨界角が存在する。GaN系半導体層とサファイア基板102との界面では、臨界角は約45°である。
図12に示すように、入射角θ
inが45°を超えた領域では、上記(2)式の回折条件を満たすm’=1,2,3,4での回折モードでの透過が可能である。ただし、発光素子100の光出射面をなすサファイア基板102の裏面が平坦面であると、サファイア基板102と素子外部との全反射臨界角が存在するため、透過角θ
outが当該臨界角以内でないと、透過光を発光素子100の外部へ取り出すことはできない。仮に外部が空気である場合、サファイア基板102と空気の界面における臨界角は約±34°となり、この場合における有効な回折モードはm’=2,3である。
【0066】
図13は、凹部又は凸部の周期を500nmとした場合の、III属窒化物半導体層とサファイア基板の界面における、半導体層側から界面へ1回目に入射する光の入射角と、界面での回折作用により反射した後、2回目に入射した光の界面での回折作用による透過角の関係を示すグラフである。
図13においては、2回目に入射した光の透過についてのモード指数lを、1回目に入射した際の反射についてのモード指数mと、2回目に入射した際の透過についてのモード指数m’の和として定義しており、l=m+m’である。2回目に入射した光の透過についてのモード指数lは、1回目の反射のモード指数mと、2回目の透過のモード指数m’がいかなる値をとっても、モード指数lが同じであれば同様の透過特性を持っている。1回目に入射する光の透過特性では、m’=0が許容されていないが、2回目に入射する光の透過特性では、l=0が許容される。例えば、l=1の場合、(m,m’)=(2,−1),(3,−2),(4,−3),(−1,2),(−2,3)の5つのモードが存在する。すなわち、l=1で透過する角度の光強度が比較的強いものとなる。回折面102aにおける周期がコヒーレント長よりも無限に小さいと仮定すれば、高反射率のp側電極120の付加によって、回折作用によって取り出される光の増加分は約5倍となる。
【0067】
このように、活性層114から発せられる光の光学波長より大きく、当該光のコヒーレント長より小さい周期で凹部102cが形成された回折面102aと、回折面102aにて回折した光を反射して回折面102aへ再入射させる反射面120と、を備えることにより、サファイア基板102とIII族窒化物半導体層の界面にて、全反射臨界角を超える角度で入射する光についても回折作用を利用して素子外部へ光を取り出すことができる。本実施形態については、回折作用により光を取り出していることから、散乱作用により光を取り出すものとは異質な作用効果を奏し、発光素子100の光取り出し効率を飛躍的に向上させることができる。
【0068】
特に、本実施形態では、発光層としての活性層114を、回折面102aと反射面120とで挟んでいるため、回折面102aにて入射角θ
inと異なる反射角θ
inで反射した光を、先の入射角θ
inと異なる角度で再び入射させることができる。このように、1回目と2回目で異なる条件で回折面102aへ光が入射することから、多くの透過モードが存在し、光取り出しにおいて極めて有利である。
【0069】
さらに、本実施形態では、III族窒化物半導体層の屈折率が2.4であり、サファイアの屈折率が1.8であることから、回折面102aは屈折率の差が0.5以上の異なる材料同士の界面に形成されている。材料同士の屈折率の差が0.5以上であると、光取り出しが比較的不利であるが、本実施形態の発光素子100では的確に光を取り出すことができ、実用に際して極めて有利である。
【0070】
ここで、
図14を参照して回折面の周期と素子の発光出力の関係を説明する。
図14は、光学波長を258nmとし、サファイア基板とIII属窒化物半導体層の界面に回折面を形成した場合の、回折面の周期と相対光出力の関係を示すグラフである。相対光出力は、サファイア基板とIII属窒化物半導体層の界面が平坦面における光出力を1.0としている。尚、
図14においては、活性層から回折面までの距離を3.0μm、回折面からサファイア基板の裏面までの距離を100μmとして、室温にて1.0mm角のチップに100mAの直流電流を流してデータを取得した。また、相対光出力が1.0倍で40mWに相当している。
【0071】
図14に示すように、回折面の周期が光学波長の1倍以下の領域では、全反射臨界角以下におけるフレネル反射抑制の作用によって光取り出し効率が向上する。そして、光学波長の1倍を超えて2倍以下の領域では、回折作用と、フレネル反射抑制の作用の両方を得ることができ、光取り出し効率が向上する。光学波長の2倍を超えて2.5倍以下の領域では、フレネル反射抑制の作用が消失するため、光取り出し効率が僅かに低下する。光学波長の2.5倍を超えると回折条件を満たす入射角が増えるために、再び光取り出し効率が向上する。そして、光学波長の3倍以上5倍以下の領域では、光取り出し効率は平坦面の3倍以上となる。ここで、
図14においては、周期について光学波長の6倍程度までしか図示していないが、周期がコヒーレント長の半分になると発光出力は平坦面の2.0倍程度となり、コヒーレント長となると発光出力は平坦面の1.8倍程度となる。コヒーレント長においても出力が平坦面よりも大きいのは、凹部又は凸部による散乱効果を得ることができるからである。このように、界面における回折作用は、周期が光学波長の1.0倍を超えると得られるが、光学波長の2.5倍を超えると発光素子1の光出力が顕著に増大することが理解される。
【0072】
ここで、
図15及び
図16を参照して発光素子100用のサファイア基板102の作製方法について説明する。
図15は、サファイア基板を加工する説明図であり、(a)は回折面に第1マスク層が形成された状態を示し、(b)は第1マスク層上にレジスト層が形成された状態を示し、(c)はレジスト層に選択的に電子線を照射する状態を示し、(d)はレジスト層を現像して除去した状態を示し、(e)は第2マスク層が形成された状態を示している。
【0073】
まず、
図15(a)に示すように、平板状のサファイア基板102を用意し、サファイア基板102の表面に第1マスク層130を形成する。第1マスク層130は、例えばSiO
2からなり、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等により形成される。第1マスク層130の厚さは、任意であるが、例えば1.0μmである。
【0074】
例えば、マグネトロンスパッタリング装置を用いて第1マスク層130を形成する場合、Arガスを用い、高周波(RF)電源を用いることができる。具体的には、例えば、Arガスを25sccmとし、RF電源の電力を材料に応じて200〜500Wとして、600nmの第1マスク層130をサファイア基板102に堆積することができる。このとき、スパッタリングの時間は適宜調節することができる。
【0075】
次いで、
図15(b)に示すように、サファイア基板102の第1マスク層130上にレジスト層132を形成する。レジスト層132は、例えば、日本ゼオン社製のZEP等の電子線感光材料からなり、第1マスク層130上に塗布される。レジスト層132の厚さは、任意であるが、例えば100nmから2.0μmである。
【0076】
例えば、スピンコーティングによりレジスト層132を形成する場合、スピナーの回転数を1500rpmとして均一な膜を形成した後、180℃で4分間ベーキングを行って硬化させることにより、160〜170nmの膜厚のレジスト層132を得ることができる。具体的にレジスト層132の材料として、日本ゼオン社製のZEPと、日本ゼオン社製の希釈液ZEP−Aとを、1:1.4の割合で混合したものを用いることができる。
【0077】
次に、
図15(c)に示すように、レジスト層132と離隔してステンシルマスク134をセットする。レジスト層132とステンシルマスク134との間は、1.0μm〜100μmの隙間があけられる。ステンシルマスク134は、例えばダイヤモンド、SiC等の材料で形成されており、厚さは任意であるが、例えば、厚みが500nm〜100μmとされる。ステンシルマスク134は、電子線を選択的に透過する開口134aを有している。
【0078】
ここで、ステンシルマスク134は、厚みが一定の薄板状に形成されているが、例えば格子状、突条の肉厚部を設けるなどして部分的に厚みを大きくして強度を付与するようにしてもよい。本実施形態においては、ウェハ状のサファイア基板102に一括して複数の発光素子100に対応する凹部102cを作成し、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長後にダイシングすることにより、複数の発光素子100を製造する。従って、ステンシルマスク134の肉厚部を、ダイシングブレードの通過位置に対応させて形成することが可能となっている。尚、肉厚部は、サファイア基板102側に突出しても、サファイア基板102と反対側に突出しても、さらには両側に突出してもよい。サファイア基板102側に突出する場合、肉厚部の先端をレジスト層132と当接させることにより、肉厚部にレジスト層132とのスペーサの機能を付与することができる。
【0079】
この後、
図15(c)に示すように、ステンシルマスク134へ電子線を照射し、レジスト層132をステンシルマスク134の各開口134aを通過した電子線に曝す。具体的には、例えば、10〜100μC/cm
2の電子ビームを用いて、ステンシルマスク134のパターンをレジスト層132に転写する。尚、電子線は、ステンシルマスク134上においてスポット状に照射されるため、実際には電子線を走査させることにより、ステンシルマスク134の全面わたって電子線を照射することとなる。レジスト層132は、ポジタイプであり、感光すると現像液に対して溶解度が増大する。尚、ネガタイプのレジスト層132を用いてもよい。ここで、レジスト層132が感光する際に、レジスト層132に含まれていた溶剤が揮発することとなるが、レジスト層132とステンシルマスク134との間に隙間があることによって揮発成分が拡散しやすくなり、揮発成分によってステンシルマスク134が汚染されることが防止できる。
【0080】
電子線の照射が完了した後、所定の現像液を用いてレジスト層132を現像する。これにより、
図15(d)に示すように、電子線が照射された部位が現像液に溶出し、電子線が照射されてない部位が残留して、開口132aが形成される。レジスト層132として日本ゼオン社製のZEPを用いた場合、現像液として例えば酢酸アミルを用いることができる。また、現像後にリンス液にて洗浄するか否かは任意であるが、レジスト層132として日本ゼオン社製のZEPを用いた場合、リンス液として例えばIPA(イソプロピルアルコール)を用いることができる。
【0081】
次いで、
図15(e)に示すように、レジスト層132がパターンニングされた第1マスク層130上に、第2マスク層136を形成する。このようにして、第1マスク層130上に第2マスク層136を電子線照射を利用してパターンニングする。第2マスク層136は、例えばNiからなり、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等により形成される。第2マスク層136の厚さは、任意であるが、例えば20nmである。第2マスク層136も、第1マスク層130と同様に、例えば、マグネトロンスパッタリング装置を用いて形成することができる。
【0082】
図16はサファイア基板を加工する説明図であり、(a)はレジスト層を完全に除去した状態を示し、(b)は第2マスク層をマスクとして第1マスク層をエッチングした状態を示し、(c)は第2マスク層を除去した状態を示し、(d)第1マスク層をマスクとして回折面をエッチングした状態を示し、(e)は第1マスク層を除去した状態を示している。
【0083】
図16(a)に示すように、レジスト層132を剥離液を用いて除去する。例えば、レジスト層132を剥離液中に浸し、所定時間だけ超音波を照射することにより除去することができる。具体的に、剥離液としては例えばジエチルケトンを用いることができる。また、レジスト層132除去後にリンス液にて洗浄するか否かは任意であるが、リンス液として例えばアセトン、メタノール等を用いて洗浄を行うことができる。これにより、第1マスク層130上に、ステンシルマスク134の開口134aのパターンを反転させた第2マスク層136のパターンが形成される。
【0084】
次いで、
図16(b)に示すように、第2マスク層136をマスクとして、第1マスク層130のドライエッチングを行う。これにより、第1マスク層130に開口130aが形成され、第1マスク層130のパターンが形成される。このとき、エッチングガスとして、第2マスク層136に比してサファイア基板102及び第1マスク層130が耐性を有するものが用いられる。例えば、第1マスク層130がSiO
2で第2マスク層136がNiである場合、SF
6等のフッ素系ガスを用いると、NiはSiO
2に対してエッチングの選択比が100程度であることから、第1マスク層130のパターンニングを的確に行うことができる。
【0085】
この後、
図16(c)に示すように、第1マスク層130上の第2マスク層136を除去する。第1マスク層130がSiO
2であり、第2マスク層136がNiである場合、水で希釈して1:1程度で混合した塩酸及び硝酸に浸漬したり、アルゴンガスによるドライエッチングによりNiを除去することができる。
【0086】
そして、
図16(d)に示すように、第1マスク層130をマスクとして、サファイア基板102のドライエッチングを行う。このとき、サファイア基板102のうち第1マスク層130が除去された部位のみがエッチングガスに曝されることになるため、サファイア基板102にステンシルマスク134の各開口134aの反転パターンを転写することができる。このとき、第1マスク層130は、サファイア基板102よりも、エッチングガスへの耐性が大きいため、第1マスク層130に被覆されていない箇所を選択的にエッチングすることができる。そして、サファイア基板102のエッチング深さが所期の深さとなるところでエッチングを終了させる。本実施形態においては、エッチング初期の段階では第1マスク層130に転写された開口130aは、直径50nmであるが、エッチングが深さ方向に進行するにつれて、サイドエッチングも進行するため、最終的には基端部の直径が150nmの円錐状の凹部102cが形成されるようになっている。本実施形態においては、エッチングの進行に伴って、第1マスク層130とサファイア基板102との接点が失われて、第1マスク層130が外縁から除去されていく。ここで、エッチングガスとしては、例えば、BCl
3等の塩素系ガスが用いられる。尚、サイドエッチングが進行しない第1マスク層130とエッチングガスの組合せを選択する場合は、ステンシルマスク134の開口134aの反転パターンが、各凹部102cの基端部と同一形状となるよう設計すればよい。
【0087】
この後、
図16(e)に示すように、所定の剥離液を用いてサファイア基板102上に残った第1マスク層130を除去する。剥離液としては、例えば、第1マスク層130にSiO
2が用いられている場合は希弗酸を用いることができる。
【0088】
以上のように作製されたサファイア基板102の回折面102aに、横方向成長を利用してIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させ、各電極を形成した後に、ダイシングにより複数の発光素子100に分割することにより、発光素子100が製造される。
【0089】
以上のように発光素子100を製造すると、サファイア基板102の回折面102aに凹部102cが形成されているものの、III族窒化物半導体層の横方向成長による平坦化の際に転位の終端が生じるので、III族窒化物半導体層にて転位の密度が比較的低い結晶が得られている。この結果、多重量子井戸活性層114においても、転位の密度が比較的低い結晶となっており、回折面102aに凹部102cが形成されることにより、発光効率が損なわれることはない。
【0090】
尚、前記実施形態における活性層114の発光波長や、回折面102aの周期は任意であるが、活性層114が青色光を発する場合は、回折面102aの周期を300nm以上1500nm以下とすると良好な光取り出し特性を得ることができる。
【0091】
また、前記実施形態においては、発光素子100がフリップチップ型であるものを示したが、例えば
図17に示すように、発光素子200をフェイスアップ型としてもよい。
図17の発光素子200は、サファイア基板202上に、III族窒化物半導体層が、バッファ層210、n型GaN層212、多重量子井戸活性層214、電子ブロック層216、p型GaN層218がこの順に形成され、p型GaN層218上に例えばITO(Indium Tin Oxide)からなるp側透明電極220が形成されるとともに、n型GaN層212上にはn側電極224が形成されている。サファイア基板202の裏面側には、例えばAlからなる反射膜226が形成されている。この発光素子200においては、反射膜226のサファイア基板202側の面が反射面228をなしており、活性層214から発せられた光が回折面202aを回折作用によって透過し、透過した光を反射面228にて反射する。これにより、回折作用により透過した光を回折面202aに再入射させて、回折面202aにて再び回折作用を利用して透過させることにより、複数のモードで光を素子外部へ取り出すことができる。
【0092】
また、前記実施形態においては、サファイア基板102とIII族窒化物半導体の界面に回折面102aを形成したものを示したが、例えば
図18に示すように、発光素子300の表面に回折面312aを形成してもよい。
図18の発光素子300は、いわゆる薄膜型の発光ダイオードであり、導電性基板302の上に高反射材料からなるp側電極320、p型GaN層318、電子ブロック層316、多重量子井戸活性層314、n型GaN層312がこの順で形成されている。n型GaN層312の表面の中央にはn側電極324が形成され、n型GaN層312におけるn側電極324以外の部分は素子表面をなし、この部分に回折面312aが形成されている。この発光素子300においては、前記実施形態と同様に、回折面312aとp側電極320の反射面322は、活性層314を挟んで互いに反対側に配置されている。この発光素子300は、回折面312aは、n型GaN層312と素子外部の媒質との界面をなし、当該界面にて回折作用を得ることができる。
【0093】
また、前記実施形態においては、回折面102aに複数の凹部102cが形成されたものを示したが、例えば
図19に示すように、サファイア基板402の回折面402aに複数の凸部402cを形成してもよい。
図19の発光素子400は、
図17の発光素子200の回折面402aを変更したものであり、角柱状の凸部402cが所定の周期で仮想の正方格子の交点に整列して形成される。さらに、凹部又は凸部を三角錐状、四角錐状のような多角錘状としてもよく、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。