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特開2016-147838副作用が低減された抗癌剤並びに癌治療及び癌再発防止のための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-147838(P2016-147838A)
(43)【公開日】2016年8月18日
(54)【発明の名称】副作用が低減された抗癌剤並びに癌治療及び癌再発防止のための装置
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/24 20060101AFI20160722BHJP
   A61N 5/04 20060101ALI20160722BHJP
【FI】
   A61K33/24
   A61N5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-26776(P2015-26776)
(22)【出願日】2015年2月13日
(71)【出願人】
【識別番号】512247371
【氏名又は名称】鈴木 秀夫
(71)【出願人】
【識別番号】515040782
【氏名又は名称】中村 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 靖彦
【テーマコード(参考)】
4C082
4C086
【Fターム(参考)】
4C082MA01
4C082MC03
4C082ME27
4C082MJ02
4C082ML02
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA12
4C086HA24
4C086HA26
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】 抗癌剤投与の際、対象者が被る副作用をより低減させる手段の提供。
【解決手段】 白金製剤であって、当該白金製剤を対象者に投与した後、マイクロウエーブを当該対象者に照射する用途にて使用される白金製剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金製剤であって、当該白金製剤を対象者に投与した後、マイクロウエーブを当該対象者に照射する用途にて使用される白金製剤。
【請求項2】
前記白金製剤がシスプラチンである、請求項1記載の白金製剤。
【請求項3】
マイクロウエーブ照射装置であって、白金製剤が投与された対象者に対してマイクロウエーブを照射する用途にて使用されるマイクロウエーブ照射装置。
【請求項4】
前記白金製剤がシスプラチンである、請求項3記載のマイクロウエーブ照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤投与の際、対象者が被る副作用をより低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
抗癌剤としては、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、抗癌性抗生物質、分子標的薬、抗生物質、ホルモン剤及びアルキル化剤等、様々な種類が知られている。中でも、白金製剤は、現在の抗癌剤治療で重要な役割を果たしている。これら白金製剤は、アルキル化剤等と同様に、DNAの二重らせん構造に結合してDNAの複製を阻害する他、癌細胞を自滅(アポトーシス)へ導く働きも併せ持つものである。
【0003】
このような白金製剤の代表的な例として、シスプラチンが知られている。例えば、特許文献1には、活性成分の制御放出を可能としたシスプラチンを含有するマイクロ顆粒が、経口投与用シスプラチン配合物として開示されている。
【0004】
しかしながら、シスプラチンは副作用が強いことで知られている。その副作用として、末梢神経異常、吐き気、嘔吐及び腎臓障害等が挙げられる。
【0005】
これらの副作用を軽減するための多くの研究がなされている。例えば、特許文献2には、シスプラチンの吐き気、嘔吐の軽減のための新規な複素環式化合物が開示されている。
【0006】
また、シスプラチンの重篤な副作用の一つである腎障害について、臨床では、シスプラチン投与と同時に大量の輸液を行い、尿量を増加させる方法等が行われている。しかし、大量の輸液は循環器系に負担がかかり、治療としては非効率的なものになりやすい。そこで、特許文献3にはエンテロコッカス属に属する微生物の菌体等を有効成分とする腎毒性軽減剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−512433号公報
【特許文献2】特開昭62−53920号公報
【特許文献3】特開平09−48733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの副作用に対する対策は、対症療法的なものに過ぎず、根本的な解決策を提供するものとは言えなかった。
【0009】
そこで、本発明は、抗癌剤投与の際、対象者が被る副作用をより低減させる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、白金製剤をマイクロウエーブ波の照射する患者に対し使用する用途で投与することにより、より副作用の少ない白金製剤の投与量においても、同等の効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の通りである。
【0011】
本発明(1)は、白金製剤であって、当該白金製剤を対象者に投与した後、マイクロウエーブを当該対象者に照射する用途にて使用される白金製剤である。
本発明(2)は、前記白金製剤がシスプラチンである、(1)記載の白金製剤である。
本発明(3)は、マイクロウエーブ照射装置であって、白金製剤が投与された対象者に対してマイクロウエーブを照射する用途にて使用されるマイクロウエーブ照射装置である。
本発明(4)は、前記白金製剤がシスプラチンである、(3)記載のマイクロウエーブ照射装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抗癌剤投与の際、対象者が被る副作用をより低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、マイクロウエーブ照射装置の一実施形態を示す模式図正面図である。
図2図2は、マイクロウエーブ照射装置の一実施形態を示す模式図側面図である。
図3図3は、マイクロウエーブ照射装置の一実施形態を示す斜視図である。
図4図4は、マイクロウエーブ照射装置の駆動手段の一例を示す模式図である。
図5図5は、マイクロ電磁波発生部の一実施形態を示す模式図である。
図6図6は、マイクロ電磁波発生部の他の実施形態を示す模式図である。
図7図7は、白金製剤の構造及びマイクロウエーブとのDNAに対する相乗作用の模式図である。
図8図8は、マイクロ波照射による、シスプラチンのDNAへの架橋及び破壊の促進作用を表す模式図である。
図9図9は、マイクロ波照射による、1塩基結合型のシスプラチンが2塩基結合型となることで、DNA開裂を促進する作用を表す模式図である。
図10図10は、シスプラチン添加とマイクロウエーブ照射のスケジュールと試料へのマイクロウエーブの照射の配置を表す模式図である。
図11図11は、シスプラチンとマイクロウエーブ照射の併用効果による大腸癌細胞増殖抑制に対する影響を示すグラフである。
図12図12は、マイクロウエーブ照射のシスプラチンに対する大腸癌細胞増殖抑制効果の比較(シスプラチン単独の場合を1とした場合)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態に係る白金製剤に関して、以下の順番で説明する。
(1−1)白金製剤の説明
(1−2)白金製剤の投与方法
(2−1)マイクロウエーブ照射装置の説明
(2−2)マイクロウエーブ照射装置の使用方法
(3)マイクロウエーブと白金製剤の相乗効果に関する作用機序
【0015】
≪白金製剤≫
本実施形態に係る白金製剤について詳述する。
【0016】
<種類>
抗腫瘍性白金錯体を有効成分として含む製剤は、プラチナ製剤(白金製剤)として知られている。そのような白金製剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ゼニプラチン、エンロプラチン、ロバプラチン、オルマプラチン、ロボプラチン、セブリプラチン、オキサリプラチン、ミボプラチン又はスピロプラチン等が挙げられる。
【0017】
<効能・効果>
これら白金製剤は、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、胃癌、骨肉腫、小細胞肺癌、悪性リンパ腫、及び肝細胞癌等の適応で承認又は開発されている。また、パクリタキセルとの併用による非小細胞肺癌、及びジェムシタビンとの併用による非小細胞肺癌等、白金製剤と種々の薬剤との組み合わせによる種々の癌に対する併用療法が承認又は開発されている。尚、本実施形態に係る白金製剤の投与により治療できる悪性腫瘍の種類としては、白金製剤に感受性を示すものであれば特に制限されない。
【0018】
(白金製剤を含む併用療法)
上述のように、白金製剤と他の抗癌剤又は他の癌治療方法との併用は、盛んに研究されている。しかし、白金製剤が抗腫瘍効果を有するものであっても、その効果を高めるために単に他の薬剤や治療方法と併用すればいいというものではなく、どの薬剤と併用すればよいか、又はどの治療方法と併用すれば抗腫瘍効果が高まるかは明らかとはなっていない。
【0019】
<製造方法>
これらの白金製剤の製造方法としては、限定されない。公知の方法で製造できる。また、これらの白金製剤は、市販品を購入することによって入手することもできる。例えば、シスプラチンは、日本化薬株式会社からRanda(登録商標)、ファイザー株式会社からPlatosin(登録商標)、メルク株式会社からCisplamerck(登録商標)及びブリストル・マイヤーズ株式会社からBriplatin(登録商標)として市販されている。カルボプラチンは、ブリストル・マイヤーズ株式会社からParaplatin(登録商標)及びメルク株式会社からCarbomerck(登録商標)として市販されている。ネダプラチンは塩野義製薬株式会社からAqupla(登録商標)として市販されている。オキサリプラチンは、ヤクルト本社からElplat(登録商標)又はEloxatin(登録商標)として市販されている。ミボプラチンは、中外製薬からミボプラチン塩酸塩又はLobaplatin(登録商標)として市販されている。
【0020】
<白金製剤の取り得る形態>
本実施形態に係る白金製剤には、酸又は塩基と薬理学的に許容される塩を形成する場合もある。また、それらの溶媒和物及び光学異性体が含まれる。さらに、本実施形態において、本実施形態に係る白金製剤は、結晶でも無結晶でもよく、また、結晶多形が存在する場合には、それらのいずれかの結晶形の単一物であっても混合物であってもよい。
【0021】
また、本実施形態において、抗腫瘍性白金錯体を含有する白金製剤は、生体内で酸化、還元、加水分解等の代謝を受けて本実施形態に係る抗腫瘍性白金錯体を生成する化合物をも包含する。
【0022】
<副作用>
ここで、副作用とは、投与時に見られる治療上不必要な作用或いは、臨床上障害となりうる作用をいう。本実施形態に係る白金製剤の副作用の具体例としては、骨髄抑制、消化器障害(吐き気、嘔吐、下痢を含む)、造血障害及び全身倦怠感が挙げられる。特に、骨髄抑制は、その程度が高い場合には、白血球、赤血球や血小板を作り出す造血幹細胞の破壊が起こり、時に重度な貧血、致命的な感染症又は出血(頭蓋内、胃腸、肺の出血)を起こし、最終的には死亡に至ることもある重篤度の高い副作用である。
【0023】
白金製剤等の細胞障害性の抗癌剤は、癌細胞だけでなく細胞分裂を盛んに行っている正常細胞に対しても障害を与えるため、癌治療に有効な量を投与できないことが欠点とされている。本実施形態に係るマイクロウエーブを照射する対象者に投与する白金製剤は、癌治療に有効な白金製剤の量を軽減することができるため、副作用の軽減の点で、特に有効であると言える。
【0024】
<投与方法>
本実施形態に係る白金製剤を使用する場合には、投与経路は特に限定されない。経口若しくは非経口的に投与することができるが、通常、静脈内投与(点滴静注)である。その投与量も特に限定されない。通常の白金製剤の投与量は、白金製剤の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、医薬製剤の性質、調剤及び種類、有効成分の種類等によって異なる。例えば、通常成人1日1回あたり10〜2000mg/m2、好ましくは15〜1000mg/m2、さらに好ましくは20〜600mg/m2を投与することができる。患者が過度の毒性を経験した場合は、投与量の減少が必要となる。投与量及び投与計画は、本発明の併用療法に加えて、1又はそれ以上の追加の化学療法剤が使用される場合に変更してもよい。また、投与期間と休薬期間とを1クールとして、これを繰り返すことが通常である。投与計画は、特定の患者を治療している医師により決定することができる。
【0025】
(投与量の軽減)
本実施形態の白金製剤の投与量(有効成分の質量)においては、通常の投与量から減量して投与することができる。その量については、特に限定されないが、例えば、通常成人(体重60kg)に対する投与量の好ましくは、0.75倍以下、より好ましくは0.40倍以下、とくに好ましくは0.30倍以下であり、これら投与量の軽減により、上述したような治療の妨げとなる正常細胞への障害、即ち重篤な副作用を軽減することができる。
【0026】
(投与される剤型)
本実施形態の白金製剤は、投与される際の剤型は限定されない。また、それぞれ市販されている剤型のものを用いることができる。
【0027】
≪マイクロウエーブ照射装置≫
本実施形態に好適に使用されるマイクロウエーブ照射装置(癌治療・再発防止装置)について図を参照しながら、詳細に説明する。
【0028】
本実施形態に係るマイクロウエーブ照射装置によれば、治療効果がより向上し、かつ液性癌に対しても充分な治療効果が得られ、自動運転することが可能な、マイクロ電磁波を照射することにより癌を治療するためのマイクロウエーブ照射装置の作動方法が提供される。
【0029】
本実施形態に係るマイクロウエーブ照射装置よれば、抗癌剤等を併用することによる副作用の懸念がないうえ、従来の技術と比較して、治療対象の肉体的及び精神的負担が少なく、かつ高い治療効果が得られる。また、ステントや金属歯を埋め込んだままでも治療が可能であり利便性が高い。本実施形態に係る白金製剤と、より併用時のリスクが少ないと言える。
【0030】
以下、図面を参照しながら、本実施形態において好適に使用されるマイクロウエーブ照射装置の一例について、説明する。尚、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率は説明のものとは必ずしも一致しない。又、本発明の効果を奏する限り、一般に購入できるマイクロウエーブ照射装置を用いてもよく、また、複数台を用いてもよい。
【0031】
図1等に示すように、マイクロウエーブ照射装置100は、一対の相対向するマグネトロン65(マグネトロンヘッド61及びマグネトロン本体60からなる)、マグネトロン65をその内部に有する筒状の筐体10、治療対象5の皮膚表面の温度データを取得可能な温度測定手段75、マグネトロン65と治療対象5との間の距離データを取得可能な距離測定手段70、及びマグネトロン65を筐体10の内部の壁面に沿って移動させることのできる距離調整手段80を有するマイクロ電磁波発生部を有する。マイクロ電磁波発生部は、一対のマグネトロン65が相対向して配置されるようにホルダー90に取り付けられている。
【0032】
マイクロウエーブ照射装置100は、更に治療対象5を載置可能な支持台20と、支持台20を当該支持台20の短手方向に移動させることのできる、ボールスクリューから構成される第1の駆動手段と、支持台20の長手方向に略平行に配置され、マイクロ電磁波発生部が取り付けられたホルダー90を支持台20の長手方向に略平行に移動させることのできる、ボールスクリューから構成される第2の駆動手段とを備える。上記第1の駆動手段を備えることにより、治療対象5を支持台20に載置した状態で、支持台20を当該支持台20の短手方向(図2中、軌道Bで表す方向)に移動させることが可能となる。
【0033】
マイクロウエーブ照射装置は、上記マグネトロンと上記治療対象との間の距離データを取得可能な距離測定手段、及び上記マグネトロンを上記筐体の内部の壁面に沿って移動させることのできる距離調整手段を更に備えていてもよい。
【0034】
<駆動手段>
マイクロウエーブ照射装置100における第2の駆動手段は、ガイドバー30、ボールスクリュー40、モーター50及びホルダー90に取り付けられた移動部35を含む。ガイドバー30と平行にボールスクリュー40が配置されており、ボールスクリュー40はモーター50に接続されている。モーター50が回転することにより、移動部35が、ガイドバー30及びボールスクリュー40に沿って移動することができる。これに伴い、ホルダー90及びこれに取り付けられたマイクロ電磁波発生部が、支持台20の長手方向に略平行に移動する。モーター50の回転数を制御することにより、移動距離を制御することができる。
【0035】
モーター50の回転運動はボールスクリュー40により直線運動に変換され、移動部35が移動する。モーター50は、正確な位置決め制御を実現できることからパルスモーターであることが好ましい。パルスモーターとボールスクリューを組み合わせることにより、移動部35を高精度に再現性よく位置決めすることができる。
【0036】
マイクロウエーブ照射装置100における第1の駆動手段は、上記第2の駆動手段と同様の構成を備えており、ガイドバー、ボールスクリュー、モーターを含む。モーターはパルスモーターであることが好ましい。モーターが回転することにより、支持台20が、ガイドバー及びボールスクリューに沿って移動することができる。これに伴い、支持台20が当該支持台20の短手方向に移動する。モーターの回転数を制御することにより、支持台20の移動距離を制御することができる。
【0037】
尚、マイクロウエーブ照射装置は、駆動手段を支持台に取り付け、支持台を当該支持台の長手方向に移動させるものであってもよく、支持台とホルダーの双方を移動させるものであってもよい。治療対象が動くことによる治療効果の低減を回避する観点、及び設置スペースが小さくて済むとの観点から、ホルダー90を移動させるものである本実施形態のマイクロウエーブ照射装置100が好ましい。
【0038】
<マイクロ電磁波発生部>
マイクロ電磁波発生部は、筒状の筐体の内部に収容されたマグネトロンを少なくとも一対有しており、当該一対のマグネトロンが相対向するように配置されている。治療対象はこの相対向する一対のマグネトロンの間に配置される。マイクロ電磁波発生部は、温度測定手段も有する。マイクロ電磁波発生部は、更に距離測定手段及び距離調整手段を備えていてもよい。
【0039】
マグネトロンは二対以上配置されていてもよい。この場合、対となるマグネトロンは相対向するように配置される。
【0040】
図5は、マイクロ電磁波発生部の一実施形態を示す模式図である。マイクロ電磁波発生部200は、筒状の筐体10、マグネトロン65、温度測定手段(図示せず)、距離測定手段(図示せず)及び距離調整手段80を有する。マグネトロン65は、距離調整手段80により、マイクロ電磁波の照射軸に沿って移動することができる。
【0041】
図6は、マイクロ電磁波発生部の他の実施形態を示す模式図である。マイクロ電磁波発生部210は、筒状の筐体(図示せず)、マグネトロン65、温度測定手段75、距離測定手段70及び距離調整手段80を有する。マグネトロン65は、距離調整手段80により、マイクロ電磁波の照射軸に沿って移動することができる。この例では、モーターのシャフトとマグネトロン65とがワイヤーで連結されている。これにより、モーターが回転してワイヤーを巻き取ると、マグネトロン65をモーター側に移動させることができる。逆にモーターが回転してワイヤーを伸ばすことにより、マグネトロン65をモーターから離れた方向に移動させることができる。
【0042】
(マグネトロン)
マグネトロン65は、マグネトロン本体60とマグネトロンヘッド61を有し、マグネトロン本体部60内に存在するマイクロ電磁波発振部62で生成させたマイクロ電磁波をマグネトロンヘッド61から発射する。マイクロ電磁波の周波数は1.00〜5.00GHzであることが好ましく、2.00〜3.00GHzであることがより好ましく、2.45GHzであることが更に好ましい。マイクロ電磁波の電磁エネルギーは約500〜1000Wが好適である。
【0043】
本実施形態に係るマイクロウエーブ照射装置のマイクロ電磁波発生部は、筒状の筐体10にマグネトロン65が収容されており、マイクロ電磁波はマグネトロンヘッド61から発射され、筐体10の開口部から発射される構成となっている。意外なことに、本実施形態のマイクロ電磁波発生部は、このような構成を採用することにより、より高い治療効果を実現することができる。
【0044】
(温度測定手段)
温度測定手段75としては、特に制限されないが、治療対象の皮膚表面の温度データを非接触でリアルタイムに十分な精度で測定できるものが好ましい。このような温度測定手段としては、例えば、放射温度計が例示できる。放射温度計としては、例えば赤外放射温度計が例示できる。
【0045】
(距離測定手段)
距離測定手段70としては、特に制限されないが、例えば、超音波、レーザー、赤外線等を発射し、その反射波を受信するまでの時間から距離を測定するもの、カメラ及び画像処理を利用するもの等が使用可能であり、例えば、レーザー測長器であってよい。
【0046】
(距離調整手段)
距離調整手段80としては、特に制限されないが、例えば、油圧ジャッキ、モーター、ボールスクリューとモーターとの組み合わせ等が挙げられる。距離調整手段80は、例えば、上述した第1の駆動手段及び第2の駆動手段と同様に、ガイドバー、ボールスクリュー及びパルスモーターを含むものであってもよい。
【0047】
<回転手段>
本実施形態のマイクロウエーブ照射装置100は回転板32を有している。図2及び3に示すように、回転板32が回転すると、中心点Cを中心とする円状の軌道Aに沿ってホルダー90が回転する。これにより、相対向するマグネトロン65を、支持台20の長手方向に略垂直な平面内で回転させることができる。
【0048】
マイクロウエーブ照射装置100には、本発明を逸脱しない範囲で各種改変を加えることができる。
【0049】
≪マイクロウエーブ照射装置の使用方法≫
本実施形態のマイクロウエーブ照射装置の使用方法としては、例えば、温度測定手段が治療対象の皮膚表面の温度データを取得する温度データ取得工程と、マグネトロンがマイクロ電磁波を照射する照射工程と、第1の駆動手段が、支持台を短手方向に移動させる第1の移動工程と、第2の駆動手段が、マイクロ電磁波発生部を支持台の長手方向に沿って移動させる第2の移動工程と、を有し、マイクロ電磁波発生部が予め設定された位置に到達するまで、温度データ取得工程、照射工程、前記第1の移動工程及び第2の移動工程が実行され、マグネトロンが、温度データ取得工程で取得された温度データの値が第1設定値を超えた場合にマイクロ電磁波の照射を中断し、温度データの値が第2設定値以下に下がった場合にマイクロ電磁波の照射を再開するように動作するものである。
【0050】
マイクロウエーブ照射装置の作動方法は、距離測定手段が、マグネトロンと治療対象との間の距離データを取得する距離データ取得工程、及び、距離調整手段が、距離データに基づいて、マグネトロンと治療対象との間の距離が予め設定された距離になるようマグネトロンを移動させる距離調整工程を更に備えていてもよい。
【0051】
<固形癌の場合>
例えば、治療対象が腹部に腫瘍(固形癌)を有する場合、マイクロ電磁波発生部がマイクロ電磁波の照射を開始する始点を治療対象の胸部に設定し、上記「予め設定された位置」を下腹部に設定する。このようにして設定された照射対象領域を例えば9分割し、これらの領域に順次マイクロ電磁波を照射する。
【0052】
より具体的には、まず、第1の移動工程及び第2の移動工程により、マイクロ電磁波発生部を、上記9分割された領域の1つにマイクロ電磁波を照射可能な位置に移動させる。続いて、マイクロ電磁波発生部がマイクロ電磁波を照射する。例えば、1つの領域について、マイクロ電磁波の照射を1回当たり1〜10秒間、より好ましくは3〜8秒間、特に好ましくは7秒間行い、これを3回以上繰り返す。照射と照射の間の間隔は例えば3秒間である。このようにして、上記9分割された領域の1つへのマイクロ電磁波の照射が終わると、再び第1の移動工程及び第2の移動工程により、マイクロ電磁波発生部を上記9分割された領域のうち、未照射の領域の1つに移動させる。続いて、上記と同様に、マイクロ電磁波発生部がマイクロ電磁波を照射する。以上の工程を9分割された領域の全てについて行う。
【0053】
この間、温度データ取得工程により、治療対象の皮膚表面の温度データをリアルタイムでモニターし、取得された温度データの値が第1設定値を超えた場合には、マイクロ電磁波の照射を中断し、温度データの値が第2設定値以下に下がった場合にマイクロ電磁波の照射を再開する。第1設定値は、40〜43℃であることが好ましく、特に41.5℃であることが好ましい。治療対象の皮膚表面の温度がこの温度に達すると、治療対象が熱さに耐えられなくなる。そして、取得された温度データの値が第2設定値以下に下がった場合にマイクロ電磁波の照射を再開する。第2設定値は、マイクロ電磁波の照射を開始する直前の治療対象の皮膚表面の温度に設定することが好ましい。マイクロ電磁波の照射中に、治療対象の皮膚表面の温度データが第1設定値を超えたことにより、マイクロ電磁波の
照射を中断後、再開する場合、例えば、照射予定であった残りの時間、マイクロ電磁波を照射するとよい。
【0054】
以上の作動方法により、腫瘍形成部(腹部)のみならず腫瘍から離れた遠部(胸部〜下腹部)に亘って広範囲にマイクロ電磁波を照射することが可能となる。
【0055】
(フォーカス照射)
また、本実施形態に使用されるマイクロウエーブ照射装置は、1台以上の電磁波発振器と焦点合わせ(フォーカス)手段を用いて、2以上の電磁波を照射し、共振点を作ることができ、より癌部位にフォーカスして、患部を熱することが可能であることが好適である。ここで、シスプラチン等は、癌部位に集積することが知られている。このようなマイクロウエーブ照射装置においては、白金製剤の投与後の照射において、シスプラチン等が癌部位に集積した時点で、この癌部位にフォーカスして、照射することができる。他の正常細胞への影響をより最小限に抑えることができ、効率的な治療が可能である。
【0056】
このマイクロウエーブをフォーカスして照射した場合の癌患部は、42℃以上となることが好ましく、より好ましくは、43℃以上である。43℃以上となることで、後述するシスプラチン等の活性化によるDNA破壊の促進及びマイクロウエーブによる相乗作用が顕著となるからである。
【0057】
また、上記作動方法において、距離測定手段が、マグネトロンと治療対象との間の距離データを取得する距離データ取得工程、及び、距離調整手段が、距離データに基づいて、マグネトロンと前記治療対象との間の距離が予め設定された距離になるようマグネトロンを移動させる距離調整工程、が行われてもよい。
【0058】
<液性癌の場合>
治療対象が液性癌を有する場合、上記始点を頭頂部に設定し、上記「予め設定された位置」を足の指先に設定する。これにより、マイクロ電磁波を全身に照射することが可能となり、抗癌剤等の併用がなくても液性癌に対して高い治療効果を得ることができる。
【0059】
このようにして設定された照射対象領域全体に順次マイクロ電磁波を照射する。より具体的には、まず、第1の移動工程及び第2の移動工程により、マイクロ電磁波発生部を、上記始点に移動させる。続いて、マイクロ電磁波発生部がマイクロ電磁波を照射する。この場合、マイクロ電磁波発生部はマイクロ電磁波を照射し続け、この間に第1の移動工程及び第2の移動工程が連続的に治療対象の照射対象部位を移動させてもよい。また、第1の移動工程及び第2の移動工程に、後述する回転工程を更に組み合わせてもよい。マイクロ電磁波を治療対象の全身に照射するのに要する時間は、約5分間である。
【0060】
上記工程を実行している間、温度データ取得工程により、治療対象の皮膚表面の温度データをリアルタイムでモニターする。そして、取得された温度データの値が第1設定値を超えた場合には、マイクロ電磁波の照射、第1の移動工程及び第2の移動工程を中断する。ここで、回転工程を行っている場合には、回転工程も中断する。そして、温度データの値が第2設定値以下に下がった場合にマイクロ電磁波の照射、第1の移動工程及び第2の移動工程を再開する。ここで、回転工程を行っている場合には、回転工程も再開する。第1設定値及び第2設定値は、上述した固形癌の場合と同様である。
【0061】
以下、各工程を説明する。
【0062】
<温度データ取得工程>
温度データ取得工程では、温度測定手段75が、治療対象5の皮膚表面の温度データを取得する。上記したように、一実施形態において、温度測定手段75は放射温度計である。
【0063】
<距離データ取得工程>
距離データ取得工程では、距離測定手段70が、マグネトロン65又はマグネトロンヘッド61と治療対象5との間の距離データを取得する。上記したように、一実施形態において、距離測定手段70はレーザー測長器である。レーザー測長器は、レーザー発射器とレーザー受信器とを有する。レーザー測長器は、レーザー発射器からレーザーを発射する。続いて、レーザー受信器がレーザーを受信する。この結果に基づいて、マグネトロン65又はマグネトロンヘッド61と治療対象5との間の距離データが取得される。
【0064】
<距離調整工程>
距離調整工程では、距離調整手段80が、距離データ取得工程で得られた距離データに基づいて、マグネトロン65と治療対象5との間の距離が予め設定された距離になるようマグネトロンを移動させる。
【0065】
マグネトロン65と治療対象5との間の距離が離れすぎていると、マイクロ電磁波を照射した効果が得られにくい傾向にある。また、マグネトロン65と治療対象5との間の距離が短すぎると、治療対象5が熱さに耐えられなくなる等の問題が生じる場合がある。マグネトロン65と治療対象5との間の距離は、次の(1)〜(3)のいずれかであることが好ましい。これにより、治療効果が顕著に向上する。
(1)マグネトロンと、治療対象の患部(癌)との間の距離が20〜30cm
(2)マグネトロンと治療対象の皮膚表面との間の距離が20〜30cm
(3)一対の相対向するマグネトロン間の距離が40〜60cm
【0066】
上記(1)のマグネトロンと治療対象の患部(癌)との間の距離は、より正確には、マグネトロンのマイクロ電磁波発振部と治療対象の患部(癌)との間の距離である。マグネトロンヘッドと治療対象の患部(癌)との間の距離としては、10〜30cmとなる。この場合、治療対象の皮膚表面から患部(癌)までの距離は、予めCT画像、PET画像又はMRI画像に基づいて求めておき、マグネトロンヘッドと治療対象の患部(癌)との間の距離が10〜30cmとなるように調整する。
【0067】
上記(2)のマグネトロンと治療対象の皮膚表面との間の距離は、より正確には、マグネトロンのマイクロ電磁波発振部と治療対象の皮膚表面との間の距離である。マグネトロンヘッドと治療対象の皮膚表面との間の距離としては、10〜30cmとなる。
【0068】
上記(3)の一対の相対向するマグネトロン間の距離とは、より正確には、一対の相対向するマグネトロンのマイクロ電磁波発振部間の距離である。一対の相対向するマグネトロンヘッド間の距離としては、20〜60cmとなる。
【0069】
マグネトロンと治療対象との間の距離を上記(1)又は(2)に設定する場合、距離データ取得工程で得られた距離データに基づいて、距離調整工程によりマグネトロンと治療対象との間の距離が調整される。また、マグネトロンと治療対象との間の距離を上記(3)に設定する場合、マグネトロンは、筒状の筐体の所定の位置に固定された状態に保たれる。
【0070】
上記(1)〜(3)のうち、最も治療効果が期待できるのは(1)の場合である。しかしながら、上記(1)の場合、患部(癌)から離れた遠部において、マグネトロンと治療対象との間の距離をどのように設定すべきかの判断が困難な場合がある。また、予め治療対象の体内のどの位置に患部(癌)が存在するかがわかっている必要がある。このような場合には、マグネトロンと治療対象との間の距離を上記(2)に設定することが簡便であり、この場合においても、上記(1)には及ばないものの、ある程度の治療効果が期待できる。また、治療効果は上記(1)、(2)には及ばないものの、状況に応じて上記(3)に設定してもよい。
【0071】
<照射工程>
照射工程では、マグネトロン65がマイクロ電磁波を一定時間照射する。マイクロ電磁波発生部は、対をなすマグネトロン65が相対向するように配置されているため、対をなすマグネトロンから照射されたマイクロ電磁波が互いに干渉し、より強い電磁エネルギーが得られる。
【0072】
照射にあたり、ステントや金属歯が存在していてもよい。上記したように、マグネトロン65が照射するマイクロ電磁波の周波数は例えば2.00〜3.00GHzである。マイクロ電磁波の照射時間は、マグネトロン65と治療対象5との間の距離によっても変化する。より具体的には、マグネトロン65と治療対象5との間の距離が上記した(1)〜(3)のいずれかである場合、1〜10秒間であることが好ましく、3〜8秒間であることがより好ましい。照射時間が上位範囲内であれば、治療対象が「熱さ」を感じる頻度が少なく、高い治療効果を得ることができるうえ、HSP(ヒートショックプロテイン)の発現が抑制され、短期間で繰り返し治療を行うことも可能となる。例えば、1日に2回治療を行ってもよい。
【0073】
<移動工程>
第1の移動工程では、第1の駆動手段が、支持台20を短手方向に移動させる。また、第2の移動工程では、第2の駆動手段が、マイクロ電磁波発生部を支持台20の長手方向に沿って移動させる。
【0074】
<回転工程>
一実施形態において、マイクロウエーブ照射装置の作動方法は、回転工程を更に含んでもよい。回転工程では、上記回転手段(回転板32)が、マイクロ電磁波発生部を支持台20の長手方向に略垂直な平面内で所定の角度回転させる。これにより、治療対象5に異なる角度からマイクロ電磁波を照射することが可能となり、更に治療効果を高めることができる。
【0075】
本実施形態のマイクロウエーブ照射装置の作動方法では、マイクロ電磁波発生部が予め設定された位置に到達するまで、温度データ取得工程、照射工程、第1の移動工程及び第2の移動工程、並びに場合により距離データ取得工程、距離調整工程及び回転工程を実行する。
【0076】
温度データ取得工程は、マイクロウエーブ照射装置の作動中継続的に実行してもよく、照射工程が実行されている間のみ(マイクロ電磁波の照射が中断されている間を含む)実行してもよい。また、照射工程、第1の移動工程及び第2の移動工程、並びに、存在する場合、距離データ取得工程、距離調整工程及び回転工程は、本発明の効果が得られる限り、任意の順序で実行してもよい。
【0077】
また、照射工程、温度データ取得工程、第1の移動工程及び第2の移動工程、並びに、存在する場合、距離データ取得工程、距離調整工程及び回転工程は、マイクロウエーブ照射装置の作動中継続的に実行してもよい。
【0078】
<自動運転>
マイクロウエーブ照射装置は、各治療対象に応じた治療ルーチンをプログラムすることにより、自動運転により作動させることができる。
【0079】
<照射開始時期>
本実施形態においてシスプラチンを投与後、マイクロウエーブの照射を開始する時期としては、特に限定されないが、シスプラチン投与中、又は投与2〜8時間後が好ましい。シスプラチンが癌部位に集積した後の方が、マイクロウエーブの照射がより効果的であり、正常細胞への副作用の回避の点からも望ましいからである。
【0080】
<フォーカスの効果>
本実施形態に係るマイクロ波照射では上述したフォーカスすることにより、癌部位のみに照射することが可能であり、正常細胞への損傷を最小限に抑えられる。また、白金製剤に耐性を持つ癌に対しても、後述する実施例にあるようにマイクロウエーブ照射をフォーカスすることによるシスプラチンとの相乗効果により、有効性を発揮することが考えられる。
【0081】
≪マイクロウエーブと白金製剤の相乗効果に関する作用機序≫
本実施形態の白金製剤の作用機序について、主に、マイクロウエーブとの相乗効果に関し、以下詳細に説明する。この相乗効果により、白金製剤の投与量を減らしても通常の投与量と同等の効果を得ることができ、副作用を効率的に防ぐことができる。
【0082】
<白金製剤の作用機序>
白金製剤の作用機序は、細胞中に入った白金製剤が、癌等のDNAの構成塩基であるグアニン、アデニンのN−7位に結合することによる。二本のDNA鎖に白金のような重原子が結合することにより架橋が形成され、DNAの複製が阻害されるのである。又、アポトーシスが誘導されるために、抗癌活性が発現されると考えられている。
【0083】
<マイクロウエーブの癌細胞殺傷作用の機序>
上述したように、マイクロウエーブでは短時間に温度を上げるため、HSP(ヒートショックプロテイン)ができにくく、癌細胞を殺傷する。通常の温熱療法ではゆっくりと温まるためにHSPが増加しやすい。マイクロウエーブ単独の作用機序としては、AKT−mTORタンパクを阻害し、4E−BP1及びp70S6キナーゼのリン酸化を介したmRNAの翻訳、オートファジーの抑制、リボソームの生合成、そしてミトコンドリアの代謝や脂肪生成につながる転写活性化を抑制し、アポトーシスを起こすものである。
【0084】
(マイクロウエーブによるイオン化の促進)
また、マイクロウエーブでは2.45GHzの電磁波をベンゼンにモノクロロベンゼン(クロル1基をつけた物質)に20秒照射したのみで、Clイオンの増加が通常の場合に比べて10倍以上のClのイオンが増加し、Clイオン化が促進されることが認められており、イオン化は20秒の照射のみで12時間後にピークに達するまで続いた。この他にも各種ハロゲンや炭水化物化合物(カルボニル基等)等のイオン化も進むと考えられる。
【0085】
<マイクロウエーブと白金製剤の相乗作用の原理>
マイクロウエーブと白金製剤の相乗作用について、以下詳細に説明する。
【0086】
図7に示すように、DNAに架橋した白金製剤の存在する部位に、マイクロウエーブを照射することにより、白金製剤を電磁波により励起し、DNAを破壊するため、相乗効果が生まれると考えられる(図7)。
【0087】
より詳細には、本実施形態に好適に使用されるシスプラチンを例に挙げて説明する。シスプラチン類は細胞中で白金塩化物であり、塩素Clが細胞中のHOと置換する。この反応は5配位中間体を経る正方平面型置換反応機構(SN2)に従う。生理的pHにおいて水和錯体は2価の酸として挙動し、白金に配位した水分子から水素イオンが電離するため、生成した白金錯体は細胞中で平衡状態にある。この加水分解白金産物が塩基と直接、1塩基又は隣接する2塩基に結合されDNAの複製を破壊する、或いは、結合部位のDNAを開裂させ、複製をできなくする。1塩基結合型のシスプラチンではDNA塩基に結合していない短鎖はタンパク質と結合していると考えられている。シスプラチンの2DNA塩基結合型は約1オングストロームの距離を短縮することにより、DNAの開裂を起こし、DNAを破壊する。また、単体の加水分解物として1塩基に結合する白金錯体もある。即ち、全てのシスプラチンがDNAの開裂に関与できているわけではない。
【0088】
そこで、マイクロ波の白金製剤等に対する相乗効果作用については、以下のことが機序として推定される。
(1)マイクロ波照射による電場の増強により、電気的平衡状態を変動させ、平衡状態にあった白金錯体の加水分解物を促進、増加させることにより、癌細胞の破壊を相乗的に増加させる。(図8
(2)2塩基に結合した白金錯体でDNAシークエンスの開裂が起きていないものをマイクロ波により、電場による振動増加させ、1オングストローム以上の距離を短縮することにより、DNAを破壊し、相乗効果を示す。(図8
(3)また、1塩基に結合した白金錯体の塩基部位でないほうの結合(タンパク質と結合)をマイクロ波により、電子的に解き放ち、2塩基結合型の白金錯体にする。2塩基結合型の白金錯体を多くすることにより、白金錯体のDNAへの付着・架橋を増加させることで、DNAの破壊を促進する。(図9
(4)更に、アルキル化剤等の他の薬剤においても、イオン結合により、DNA架橋を起こし、アポトーシスを発生させる系統の薬剤であれば、シスプラチンと同様の相乗効果が期待できる。マイクロ波が、薬剤の架橋部位の原子の離脱を促進させ、DNAへの架橋が増強され、癌細胞の破壊が起こると考えられるからである。
【0089】
上述したように、白金製剤は正常細胞のDNAも架橋するため、正常細胞のDNAにも同様に作用し、副作用発現が大きい。しかし、本実施形態にかかる白金製剤によれば、マイクロウエーブを照射した癌部位のみにおいて、シスプラチン等の作用を増強でき、アポトーシスを起こすことが可能となる。更に、本実施形態に好適なマイクロウエーブ照射装置は、照射のフォーカスを絞ることにより、人体への影響(副作用)を少なくすることが可能であり、より効率的な効果が期待できる。
【実施例】
【0090】
次に、本実施形態を実施例及び比較例により、更に具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0091】
白金製剤投与後のマイクロウエーブの照射による効果を調べるため、以下の方法により試験を行った。
【0092】
≪実施例≫
シスプラチン製剤とマイクロウエーブの相乗効果について調べるため、HCT116(大腸癌細胞)を対象として、細胞増殖抑制についてin vitro試験を行った。本試験には、以下の材料及び機器を使用した。
【0093】
使用製剤:シスプラチン製剤(製品名:ランダ(登録商標)10mg/20ml、日本化薬社製)
細胞:
(1)細胞株(HCT116(ATCC(登録商標)CCL−247TM))
(2)起源・由来:ヒト大腸癌由来細胞株
(3)供給源:ATCC(American Type Culture Collection)
使用機器:名称(マイクロウエーブ治療器)、製品名(Onco Cure)
【0094】
<実施例1>
マッコイ5a培地に細胞株を播種し、18時間後(以後、細胞播種後の時間として記載する)、シスプラチン濃度を7.5μmol/Lとした試験液を添加した。24時間後(即ち、シスプラチン投与後6時間後)に図10に示すような機器の配置(プレートの中心とマグネトロンヘッドとの距離を30cm)により、2.45GHzの周波数でMW(マイクロウエーブ)による第1回目の照射を行った。以降48時間、72時間後に第2〜3回のMWによる照射を行った。それぞれのMW照射1回に付き、7秒照射、2秒休止、7秒照射、2秒休止、7秒照射で行った(図10)。その後、96時間経過後に染色測定を行った。
【0095】
<実施例2>
添加するシスプラチン濃度を15.0μmol/Lとした以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0096】
<比較例1>
マッコイ5a培地に細胞株を播種し、96時間経過させた。
【0097】
<比較例2>
MW照射を行わない以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0098】
<比較例3>
MW照射を行わない以外は、実施例2と同様に試験を行った。
【0099】
<比較例4>
シスプラチンを添加しない以外は実施例1と同様に試験を行った。
【0100】
表1に上述した条件を纏めて示した。
【0101】
【表1】
【0102】
試験の結果を図11に示した。IC50でみると、1/3以下の量で、十分にシスプラチンがDNAに架橋され、がん細胞のアポトーシスが起こった。即ち癌細胞の破壊が促進されたと考えられる。これらのことから副作用の多いシスプラチンの投与量を半分から1/3量に減量させることができ、効果は同程度或いはそれ以上の効果が期待できると考えられる。尚、IC50の算出方法については、シスプラチンの濃度に対して、生存率の自然対数を取り、回帰直線を引くことにより算出した。
【0103】
更に、この結果について、シスプラチン単独の場合を1とし、マイクロウエーブ照射のシスプラチンに対する大腸癌細胞増殖抑制の効果について、検討した。上述のように、マイクロウエーブ照射により、50%細胞死薬物濃度(IC50)がシスプラチン単独添加時より3.33倍に増加し、相乗効果のあることがわかった。また、表2には、最もフォーカスの当たった部分(マグネトロンヘッドから29〜30cm)での大腸癌細胞増殖抑制の効果を示したが、大腸癌細胞生存率の比は、CDDP7.5μM/mLと15μM/mL添加時のそれぞれで2.43倍、1.94倍(最大値)であり、より低用量でマイクロウエーブの併用による増強作用は大きかった。結果を図12に示した。尚、フォーカスされた部位のプレート上の細胞の温度は、43℃以上であった。
【0104】
【表2】
【符号の説明】
【0105】
5・・・治療対象、10・・・筐体、20・・・支持台、30・・・ガイドバー、32・・・回転板、35・・・移動部、40・・・ボールスクリュー、50・・・モーター、60・・・マグネトロン本体部、61・・・マグネトロンヘッド、62・・・マイクロ電磁波発振部、65・・・マグネトロン、70・・・距離測定手段、75・・・温度測定手段、80・・・距離調整手段、90・・・ホルダー、100・・・マイクロウエーブ照射装置、200,210・・・マイクロ電磁波発生部、A,B・・・軌道、C・・・中心点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12