特開2016-148508(P2016-148508A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2016-148508熱交換器およびそれを用いた地熱利用システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-148508(P2016-148508A)
(43)【公開日】2016年8月18日
(54)【発明の名称】熱交換器およびそれを用いた地熱利用システム
(51)【国際特許分類】
   F24J 3/08 20060101AFI20160722BHJP
   F28D 21/00 20060101ALI20160722BHJP
   F28D 9/02 20060101ALI20160722BHJP
【FI】
   F24J3/08
   F28D21/00 Z
   F28D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-20583(P2016-20583)
(22)【出願日】2016年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-21914(P2015-21914)
(32)【優先日】2015年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500004461
【氏名又は名称】株式会社洸陽電機
(74)【代理人】
【識別番号】100174643
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 健
(72)【発明者】
【氏名】小林 義一
(72)【発明者】
【氏名】西井 一
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA20
3L103BB05
3L103CC02
3L103CC04
3L103CC30
3L103DD15
3L103DD57
(57)【要約】
【課題】地熱熱水を利用するシステムの配管その他の機器へのスケールの付着を抑制する。
【解決手段】バイナリー発電システムなどの地熱利用システムに、熱交換器30と、バイナリー発電機12とを備える。バイナリー発電機12は、熱交換器30で温められて真水配管24を通じて供給される真水の熱を利用する。熱交換器30には、一次側流路と二次側流路とが形成されている。一次側流路は、一次側入口から、その一次側入口よりも上方の一次側出口まで延びる。二次側流路には、一次側流路を流れる流体と熱交換する流体が流れる。地熱熱水を供給する熱水供給配管22は、地下から延びて、熱交換器30の一次側入口41に直接接続されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下から延びて地熱熱水を供給する熱水供給配管と、
前記熱水供給配管に直接接続された一次側入口からその一次側入口よりも上方の一次側出口まで延びる一次側流路およびその一次側流路を流れる流体と熱交換する流体が流れる二次側流路が形成された熱交換器と、
前記二次側の流体の熱を利用する熱利用装置と、
を有することを特徴とする地熱利用システム。
【請求項2】
前記一次側入口の圧力は大気圧よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の地熱利用装置。
【請求項3】
前記地熱熱水には二酸化炭素が溶存しており、
前記一次側流路を流れる液体のpHを所定の範囲内に制限するように前記一次側流路の圧力を調整する圧力調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地熱利用システム。
【請求項4】
前記一次側流路を流れる液体の前記一次側入口での温度は80℃以上であって、
前記所定の範囲はpH7以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の地熱利用システム。
【請求項5】
地下から延びて地熱熱水を直接供給される一次側入口からその一次側入口よりも上方の一次側出口まで延びる一次側流路およびその一次側流路を流れる流体と熱交換する流体が流れる二次側流路が形成されていることを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器およびそれを用いた地熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地熱熱水を用いた地熱発電は、年間を通じて安定した電力を得られるという利点を持っている。このため、ベースロード電源としても利用することができる。また、二酸化炭素排出量が極めて少ないため、環境に優しい発電方式である。地熱発電の方式としては、バイナリー発電方式が知られている。地熱熱水のエネルギーは、熱エネルギーとして、直接あるいは熱交換した他の流体を介して間接的に用いる場合もある。
【0003】
地熱熱水には、炭酸カルシウム(CaCO)やシリカ(SiO)などのスケール成分が溶解している。このため、地熱熱水の圧力および温度が低下して炭酸カルシウムやシリカなどが過飽和の状態などになった場合には、スケールが析出して熱交換器や配管などの地熱熱水の流路に付着し流路が閉塞する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−173800号公報
【特許文献2】特開2013−230433号公報
【特許文献3】実開昭62−056973号公報
【特許文献4】実開昭58−010572号公報
【特許文献5】実開昭61−044153号公報
【特許文献6】特開2011−196197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地熱熱水の流路へのスケールの付着の抑制方法として、スケール成分の化学形態を変化させたり、地熱熱水のpHを変化させる方法などが知られている。しかし、これらの方法では、地熱熱水の流路へ何らかの化学成分を添加する装置が必要となる。
【0006】
そこで、本発明は、地熱熱水を利用するシステムの配管その他の機器へのスケールの付着を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、地熱利用システムにおいて、地下から延びて地熱熱水を供給する熱水供給配管と、前記熱水供給配管に直接接続された一次側入口からその一次側入口よりも上方の一次側出口まで延びる一次側流路およびその一次側流路を流れる流体と熱交換する流体が流れる二次側流路が形成された熱交換器と、前記二次側の流体の熱を利用する熱利用装置と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、熱交換器において、地下から延びて地熱熱水を直接供給される一次側入口からその一次側入口よりも上方の一次側出口まで延びる一次側流路およびその一次側流路を流れる流体と熱交換する流体が流れる二次側流路が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地熱熱水を利用するシステムの配管その他の機器へのスケールの付着を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る地熱利用システムの一実施の形態のブロック図である。
図2】本発明に係る地熱利用システムの一実施の形態における熱交換器の側面図である。
図3】地熱利用システムの20日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例である。
図4】地熱利用システムの100日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管の写真の例である。
図5】本発明に係る地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例である。
図6】本発明に係る地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管の写真の例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る地熱利用システムの一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれに限定されない。同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明に係る地熱利用システムの一実施の形態におけるブロック図である。図2は、本実施の形態における熱交換器の側面図である。
【0013】
本実施の形態の熱利用システムは、温泉水を用いたバイナリー発電システムである。このバイナリー発電システムは、熱交換装置20とバイナリー発電装置10とを有している。
【0014】
熱交換装置20は、熱交換器30を有している。熱交換器30は、地面50よりも下方に位置する地熱熱水の生産井である源泉から延びる熱水供給配管22を通じて供給される地熱熱水と真水とを熱交換させる。ここで真水とは、地熱熱水よりもスケールが発生しにくいものであればよい。熱交換器30の一次側を流れる地熱熱水で温められる熱交換器30の二次側を流れる真水は、真水配管24を通じてポンプ28によりバイナリー発電装置10に供給される。熱交換器30で二次側の真水に熱を与えて温度が低下した地熱熱水は、排出配管26を通じて排出される。排出配管26から排出される地熱熱水を二次利用してもよい。
【0015】
熱水供給配管22は、たとえば大気圧に解放された貯湯槽などを介さずに、地下から延びて直接、密閉された状態のまま、熱交換器30に接続されている。このため、熱交換器30の一次側入口の圧力は、大気圧よりも高い。また、熱水供給配管22は、熱交換器30の下部の一次側入口41に接続されている。熱交換器30の一次側流路は、下部から上方に向かって形成されている。排出配管26は、熱交換器30の上部の一次側出口42に接続されている。
【0016】
バイナリー発電装置10は、バイナリー発電機12を有している。バイナリー発電機12は、熱交換器30に二次側入口43から入り、地熱熱水で温められて、二次側出口44から出て、真水配管24を通じて供給される真水のエネルギーによって発電する。より具体的には、この真水と代替フロン(HFE)などの低沸点媒体とを熱交換させ、低沸点媒体を気化させる。気化した低沸点媒体が差動媒体としてタービンを駆動し、バイナリー発電機12は発電する。タービンを駆動した低沸点媒体は、外部から供給される冷却水によって冷却されて凝縮する。この冷却水は、冷却水配管14を介して供給される。冷却水配管14の途中には冷却水ポンプ16が設けられている。
【0017】
本実施の形態では、熱交換器30を井戸元(坑口)にできるだけ近い位置に配置し、地中における源泉水に近い状況で熱交換器30内に源泉水(蒸気との二層流)を導入させるものとした。熱交換器30に於ける源泉水の取り込みを下部ノズルより行い上部ノズルに排出することで、仮想的に熱交換器30内に凝縮水の貯留槽をつくっている。地熱熱水の凝縮水の排水を連続的に行うため、源泉側の取出し位置を熱交換器30出口(排水側)に極力近づけるか、より上部の位置とすることが好ましい。
【0018】
温泉水のスケールに特徴的な高温スケール(炭酸カルシウム:CaCO)と低温スケール(酸化珪素:SiO)は、地中では源泉水に溶解している。地上に湧出する際の減圧でHやCOがガス化すると、地熱熱水中のCaCO濃度が高まり、スケールが析出しやすくなる。また、スケールは、温度、pHにより生成しやすい条件がある。一般的に、温度が高いとき、pHが8程度のときに最も生成率が高いと考えられる。また、温度が80℃以上の場合は、pHを7以下に制限しておくことにより、スケールの生成を抑制できる。より好ましくは、温度が80℃以上の場合、pHを6.5以下に制限しておくことにより、スケールの生成を大幅に抑制できる。一次側を流れる流体の温度は低くなれば、スケールは発生しにくくなり、温度が80℃以下であれば、スケールの発生は実質的に問題とはならない。つまり、一次側入口での温度が80℃以下の場合であれば、スケールの発生は実質的に問題とはならない。
炭酸カルシウムスケール Ca(HCO+CO→CaCO+H
シリカスケール HSiO+HSiO→HSi+OH
【0019】
本実施の形態では、地熱熱水およびその凝縮水を熱交換器30内部にとどめて大気と遮断している。このため、COが地熱熱水およびその凝縮水とともに封じ込められる。その結果、COが地熱熱水およびその凝縮水に溶け込み、CaCOスケールの発生が抑制される。また、COの溶け込みにより地熱熱水およびその凝縮水のpHが低下する。ある試験例では、pH8.3からpH6.0に減じられた。その結果、スケールが生成しやすい条件から外れ、CaCOスケールおよびSiOスケール生成が抑制される。
【0020】
さらに、地熱熱水およびその凝縮水の温度が下がることにより、COが溶解した状態は安定し、排出される。熱交換器出口配管は80℃以下となりほぼスケールが生じない環境となる。
【0021】
熱交換器の一次側を流れる流体の温度は、入口から出口に向かって低下していく。このため、COなどの液体中に溶存する気体の濃度は、温度が低いほど、圧力が高いほど、大きくなる。したがって、熱交換器の一次側を流れる流体中に溶存しない気体の濃度は、入口から出口に向かって低下していく。
【0022】
熱交換器の一次側を流れる流体中でCOなどの気体が発生した場合には、その気体に浮力が生じる。熱交換器の一次側の入口が出口よりも上方に位置していると、気体に生じる浮力と、熱交換器の一次側を流れる流体の流れの向きがほぼ逆になる。このため、熱交換器の一次側の入口が出口よりも上方に位置していると、熱交換器の一次側の入口の近傍にCOなどの気体が溜まりやすくなる。その結果、溜まった気体が液体の流れを阻害し出口に向かって液体が流れ難くなることが有る。
【0023】
本実施の形態においては、熱交換器30の一次側の入口を出口よりも低い位置に設けている。このため、気体に生じる浮力と、熱交換器30の一次側を流れる流体の流れの向きがほぼ同じである。熱交換器の一次側の入口の近傍で発生したCOなどの気体は、熱交換器30の上方に向かって熱交換器30の一次側を流れる流体とともに流れていく。その結果、熱交換器30の一次側の入口の近傍に気体は溜まり難くなり、圧力も高い状態が維持される。
【0024】
このように、本実施の形態では、熱交換器30の一次側流路などが一次側流路を流れる流体の圧力をあまり低下しないようにする圧力調整手段として機能している。圧力調整手段として、さらに、たとえば排出配管26にオリフィスを設けてもよい。
【0025】
熱交換器30の一次側流路などが一次側流路を流れる流体の圧力をあまり低下させないまま熱交換により温度を低下させることにより、一次側流路を流れる流体に溶存している二酸化炭素の濃度の低下が抑制され、一次側流路を流れる液体のpHを所定の範囲内に制限することができる。一次側流路を流れる液体のpHを所定の範囲内に制限することによって、CaCOスケールおよびSiOスケールなどが、熱交換器30の一次側流路に付着する量を低減できる。
【0026】
さらに、熱水供給配管22は、終端、すなわち、熱交換器30の一次側入口付近においても、二酸化炭素の濃度が実質的に低下せず、pHを所定の範囲内に制限することができる。その結果、熱水供給配管22へのスケールの付着も低減できる。また、排出配管26は、始端、すなわち熱交換器30の一次側出口付近では温度が十分に低下しているため、スケールの付着は抑制される。
【0027】
図3は、地熱利用システムの20日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例である。図4は、地熱利用システムの100日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管の写真の例である。
【0028】
この地熱利用システムは、地熱熱水を大気開放の貯湯槽に一旦貯めた後に熱交換器に供給するものである。図3に示すように、ここで用いた地熱熱水は、大気開放された後に熱交換器に供給されると、熱交換器にスケールを付着させるとともに、一次側流路に接続された配管にもスケールを付着させている。
【0029】
図5は、本実施の形態の地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例である。図6は、本実施の形態の地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管の写真の例である。
【0030】
図5および図6は、図3および図4で用いた地熱熱水と同じ位置から採取した地熱熱水を用いた結果である。図5および図6に示すように、熱交換器および配管に付着するスケールの成分を含む地熱熱水を用いた場合であっても、本実施の形態の地熱利用システムにおけるスケールの付着は非常に少ないことがわかる。このため、熱交換器および配管のスケールの定期的な除去の頻度を抑制することができる。したがて、メンテナンスのための費用が低減できる。さらに、メンテナンスのための地熱利用システムの停止期間が短くなるため、地熱利用システムの利用率が向上する。
【0031】
また、熱交換器30を2台並列に設けて、安定化させてもよい。
【0032】
このように、本実施の形態によれば、地熱熱水を利用するシステムの配管その他の機器へのスケールの付着を抑制できる。また、COを溶け込ませることにより、温泉水のpHを低減させ、同一の源泉で2種類の温泉を利用することができる。たとえば、弱アルカリ性線の源泉そのものと、本実施の形態のバイナリー発電システムから排出される弱酸性泉の2種類を利用できる場合がある。
【0033】
さらに、本実施の形態によれば、110℃前後の二層流を直接熱交換できる。このため、潜熱を含めたエネルギーの有効利用を図ることができる。本実施の形態は、100℃以上の高温源泉全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
10…バイナリー発電装置、12…バイナリー発電機、14…冷却水配管、16…冷却水ポンプ、20…熱交換装置、22…熱水供給配管、24…真水配管、26…排出配管、28…ポンプ、30…熱交換器、41…一次側入口、42…一次側出口、43…二次側入口、44…二次側出口、50…地面

図1
図2
図3
図4
図5
図6