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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-149169(P2016-149169A)
(43)【公開日】2016年8月18日
(54)【発明の名称】光記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 7/24035 20130101AFI20160722BHJP
   G11B 7/243 20130101ALI20160722BHJP
   G11B 7/24041 20130101ALI20160722BHJP
【FI】
   G11B7/24 522D
   G11B7/24 511
   G11B7/24 522Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-24035(P2015-24035)
(22)【出願日】2015年2月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】尾下 順二
(72)【発明者】
【氏名】浅野 翔
(72)【発明者】
【氏名】下舞 賢一
【テーマコード(参考)】
5D029
【Fターム(参考)】
5D029JA01
5D029JB03
5D029JB05
5D029JB14
(57)【要約】
【課題】広いパワーマージン特性を備えた光記録媒体を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る光記録媒体は、金属Xの酸化物を含む第1の記録膜と、金属Yの酸化物を含み上記第1の記録膜に隣接して配置された第2の記録膜とを具備する。
上記金属Xは、W、Mo、Fe、Cuからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
上記金属Yは、Cu、Feからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属Xの酸化物を含む第1の記録膜と、
金属Yの酸化物を含み前記第1の記録膜に隣接して配置された第2の記録膜と
を具備し、
前記金属Xは、W、Mo、Fe、Cuからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記金属Yは、Cu、Feからなる群より選ばれる少なくとも1種である
光記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の光記録媒体であって、
前記第1の記録膜は、GeWOx、GeWOx−CuO、GeWOx−CuO、GeWOx−Fe、GeWOx−Feのうちの少なくともいずれか1つを含む
光記録媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の光記録媒体であって、
前記第2の記録膜は、CuO、CuO、Fe、Feのうちの少なくともいずれか1つを含む
光記録媒体。
【請求項4】
請求項1に記載の光記録媒体であって、
前記第1の記録膜と前記第2の記録膜とをそれぞれ含む複数の記録層を具備し、
前記複数の記録層のうち少なくとも1つの記録層の第1の記録膜は、他の少なくとも1つの記録層の第1の記録膜と異なる構成元素を含む
光記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な記録特性を備えた光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの分野においては、高密度記録化および大容量化を目的として、青色レーザに対応した追記型多層光記録媒体の開発が進められている。当該光記録媒体においては、高密度記録化および大容量化に加え、良好な記録特性を有することが望まれている。
そこで、特許文献1には、記録膜と、当該記録膜に接して設置された光吸収膜をさらに備えた情報層を含む光記録媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5292592号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、光記録媒体の多層化等に伴い、情報を記録する際の記録光のパワーの制御が問題となることがあった。そこで、記録パワーのパワーマージンがより広い光記録媒体が求められている。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、広いパワーマージン特性を備えた光記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る光記録媒体は、
金属Xの酸化物を含む第1の記録膜と、
金属Yの酸化物を含み上記第1の記録膜に隣接して配置された第2の記録膜とを具備する。
上記金属Xは、W、Mo、Fe、Cuからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
上記金属Yは、Cu、Feからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0007】
上記構成によれば、第1及び第2の記録膜が上記金属酸化物を含むことにより、広いパワーマージン特性を備えた光記録媒体を提供することができる。
【0008】
上記第1の記録膜は、具体的には、GeWOx、GeWOx−CuO、GeWOx−CuO、GeWOx−Fe、GeWOx−Feのうちの少なくともいずれか1つを含んでもよい。
【0009】
また、上記第2の記録膜は、具体的には、CuO、CuO、Fe、Feのうちの少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。
【0010】
さらに、上記光記録媒体は、上記第1の記録膜と上記第2の記録膜とをそれぞれ含む複数の記録層を具備し、
上記複数の記録層のうち少なくとも1つの記録層の第1の記録膜は、他の少なくとも1つの記録層の第1の記録膜と異なる構成元素を含んでいてもよい。
これにより、記録層が多層化した場合であっても、光入射側からの距離に応じて、各記録層を所期の記録特性に調整することができる。したがって、多層化された記録層においても記録特性の高い光記録媒体を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、データの長期保存性と、広いパワーマージン特性とを兼ね備えた光記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る光記録媒体を示す概略断面図である。
図2】上記光記録媒体のガイド層の構成を示す概略断面図である。
図3】上記ガイド層のガイドトラックを示す模式図である。
図4】上記光記録媒体の記録層の層構造を示す概略断面図である。
図5】試験例1における、記録パワー[mW](横軸)に対するi−MLSE[%](縦軸)の値を示すグラフである。
図6】試験例1における、パワーマージンをより詳細に分析するためのグラフであり、縦軸はi−MLSE[%]、横軸は、最適記録パワーを1とした場合の記録パワー比である。
図7】試験例1における、各サンプルの記録層のモジュレーション(変調度:Modulation)を示すグラフであり、横軸は最適記録パワーを1とした場合の記録パワー比、縦軸はモジュレーションを示す。
図8】試験例1における、各サンプルの記録層のアシンメトリを示すグラフであり、横軸は最適記録パワーを1とした場合の記録パワー比、縦軸はアシンメトリである。
図9】試験例2における、各サンプルの記録層の記録特性を評価するグラフであり、横軸は最適記録パワーを100%とした場合の記録パワー比[%]、縦軸はジッタ(Jitter)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る光記録媒体を示す概略断面図である。
[光記録媒体の構成]
本実施形態の光記録媒体11は、ガイド層112と複数の記録層113とを有する、ガイド層分離型の多層光ディスクで構成される。図示する光記録媒体11は、4層の記録層113を有する。これに限られず、1層〜3層あるいは5層以上の記録層を有してもよい。光記録媒体11は、円盤状をなし、中央部分にはセンターホールが形成されている。
【0015】
光記録媒体11において、ガイド層112とこれに最も近い記録層113との間、及び、隣り合う記録層113の間には、光透過性を有するバッファ層116及び中間層114がそれぞれ介層されている。これらの層は、図示しない記録再生装置内の光ピックアップからの記録再生光R1およびガイド光R2が入射される側から、保護層(カバー層)115、記録層113(L3)、中間層114、記録層113(L2)、中間層114、記録層113(L1)、中間層114、記録層113(L0)、バッファ層116、ガイド層112の順に積層される。
【0016】
記録再生光R1及びガイド光R2は、対物レンズ60を介して目的とする記録層113及びガイド層112に焦点を結ぶように制御される。記録再生光R1及びガイド光R2には相互に異なる波長のレーザ光が用いられ、典型的には、記録再生光R1には青色レーザ光が用いられ、ガイド光R2には赤色レーザ光が用いられる。
【0017】
(ガイド層)
図2はガイド層112の構成を示す概略断面図であり、図3はガイド層112のガイドトラックを示す模式図である。
【0018】
図2及び図3に示すようにガイド層112は、一方の面に渦巻き状の凹凸部111(ガイド溝)を有する円盤形状のポリカーボネート等のプラスチック基材110と、凹凸部111の凹凸形状にならって凹凸部111を被覆する反射膜120との積層構造を有する。
【0019】
基材110は、典型的にはスタンパ等の成形金型を用いて成形され、外径は120mm、厚さは1.1mmで形成される。反射膜120は、例えば銀(Ag)やその合金等のように赤色レーザ光に対して反射率の高い金属材料のスパッタ膜で形成される。反射膜120の厚みは特に限定されず、例えば20nm〜100nmであり、本実施形態では80nmである。
【0020】
ガイド層112において記録層113に対向する側の面には、図2及び図3に示すようにトラッキング制御用のガイドトラック121が形成される。ガイドトラック121は、渦巻き状に形成されたランド・グルーブ構造を有する。ランドはグルーブ間に形成され、グルーブはランド間に形成される。以下の説明では、ガイドトラック121において、レーザ光源(光ピックアップ)に近い方のトラックを「グルーブ」あるいは「オングルーブ(On-Groove)部」と称し、レーザ光源から遠い方のトラックを「ランド」あるいは「イングルーブ(In-Groove)部」と称する。
【0021】
ガイドトラック121は、ランドによるガイドトラック(イングルーブ部121L)とグルーブによるガイドトラック(オングルーブ部121G)とからなり、一周毎にランドトラックとグルーブトラックを切り替える手段が用いられる。いわゆる「ダブルスパイラルトラック」を構成してもよい。本実施形態では、イングルーブ部121Lおよびオングルーブ部121Gは光記録媒体11の内周側から外周側にかけてそれぞれ渦巻き状に連続的に形成されているが、これに限定されない。例えば、イングルーブ部121Lおよびオングルーブ部121Gは、光記録媒体11の内周側から外周側にかけて所定周期で(例えば周ごとに)交互に入れ替わるように渦巻き状に連続的に形成されてもよい。
【0022】
イングルーブ部121Lは、オングルーブ部121Gとの境界を形成する一対の側壁121sに囲まれている。側壁121sは、典型的にはテーパ面で形成されるが、基材110の表面に垂直な面で形成されてもよい。側壁121sのテーパ角は特に限定されず、スタンパ金型の抜き勾配や凹凸部111の凹凸高さ、反射膜120の厚さ等に応じて適宜設定される。
【0023】
ガイドトラック121には、側壁面のウォブリングあるいはピット列などによって物理アドレス情報が形成されている。イングルーブ部121Lおよびオングルーブ部121Gは、例えばDVD(Digital Versatile Disk)の記録再生に用いられる赤色レーザ光に対応するトラックピッチ(0.64μm)で形成される。ランドとグルーブ間のピッチの平均は0.32μmであり、これはガイドトラック121のトラックピッチに相当する。以後、赤色レーザ光のレーザ光を「ガイド光」と呼ぶ。
【0024】
光記録媒体11を駆動する記録再生装置では、ガイドトラック121のランドとグルーブのそれぞれにおいて、例えば、プッシュプル法(PP:Push-Pull)、差動プッシュプル法(DPP:Differential Push-Pull)、3ビーム法などによるトラッキング制御が行われる。ガイドトラック121のランドとグルーブのそれぞれにおいてトラッキング制御が行われることで、記録層113に対する情報の記録は0.32μmのトラックピッチで行うことが可能である。
【0025】
(記録層)
図4は、記録層の層構造を示す概略断面図である。
【0026】
各層の記録層113(L0〜L3)はそれぞれ同一の層構造を有し、中間層114を挟んで相互に積層されている。ガイド層112に最も近い記録層113(L0)は、反射膜120で被覆されたガイドトラック121の深さよりも大きな厚みで形成されたバッファ層116(平坦化層)の上に成膜される。したがってバッファ層116上に成膜される記録層113及び中間層114は、溝(ガイドトラック)のない平坦な平面上に順次積層される。
【0027】
各々の記録層113は、第1の記録膜131と、第2の記録膜132と、第1の光学調整膜133と、第2の光学調整膜134との積層構造を有する。
また、本実施形態において、各記録層113の対応する各膜は、同一の構成元素を含むものとすることができる。
【0028】
第1の記録膜131は、例えばブルーレイディスク(登録商標)の記録再生に用いられる波長380〜450nm(本例では405nm)の青色レーザ光に対応するトラックピッチ(0.32μm)で情報の記録が行われる層である。以後、この青色レーザ光を「記録再生光」または「記録光」と呼ぶ。
第1の記録膜131は、金属Xの酸化物を含む。金属Xは、W、Mo、Feからなる群より選ばれる少なくとも1種である。より具体的には、第1の記録膜131は、GeWOx、GeWOx−CuO、GeWOx−CuO、GeWOx−Fe、GeWOx−Feのうちの少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。このような材料を用いることにより、情報の追記は可能であるが書換えができない追記型無機記録層を構成することができるとともに、後述するように、所期の記録特性を実現することができる。
第1の記録膜131は、典型的には、スパッタリング法で成膜される。第1の記録膜131の厚みは特に限定されず、例えば10nm〜70nmであり、記録層113の層位置や層数等に応じて適宜設定される。
第1の記録膜131は、また、膜中に、アルゴンガス及び酸素ガス、窒素ガス等のガスを含んでいてもよい。これらのガスは、第1の記録膜131の成膜時に巻き込まれた雰囲気ガスであると考えられ、後述するように、記録マークの形成に関与し得る。
【0029】
第2の記録膜132は、第1の記録膜131だけでは不足する熱吸収効率を補うためのものであり、第1の記録膜131に隣接して配置される。
第2の記録膜132は、金属Yの酸化物を含む。金属Yは、Cu、Feからなる群より選ばれる少なくとも1種である。より具体的には、第2の記録膜132は、CuO、CuO、Fe、Feのうちの少なくともいずれか一つを含んでいてもよい。さらに第2の記録膜132は、上記材料に替えて、GeN、SiC、BがドープされたSi(B−Siと称する)等を用いてもよい。これにより、熱吸収効率を向上させ、記録光に対する感度等の記録特性を高めることができる。
第2の記録膜132は、典型的には、スパッタリング法で成膜され、例えば第1の記録膜131の厚みよりも薄い1nm〜10nmの厚みを有する。
【0030】
第1の光学調整膜133は、例えば、記録層113の透過率の調整や、第1の記録膜131に記録された情報(記録マーク)の再生に必要な反射率を確保する目的で、第1の記録膜131のレーザ光入射側、すなわち反射膜120側とは反対側に配置される。第1の光学調整膜133は、金属酸化物材料で構成され、例えば、SnO2系、TiO2系、SiO2系、ZnO−SnO2系等のガラス材料で構成される。
第1の光学調整膜133は、中間層114を形成する際に用いられる光硬化性樹脂の溶剤が第1の記録膜131に浸透する混和現象を防止するための保護層としての機能をも有する。
第1の光学調整膜133は、典型的には、スパッタリング法で第1の記録膜131の上に成膜される。第1の光学調整膜133の厚みは特に限定されず、例えば10nm〜100nmであり、目的とする反射率や記録層113の層位置あるいはその層数等に応じて適宜設定される。
【0031】
第2の光学調整膜134は、第1の光学調整膜133による記録層113の光学特性の調整機能を補助するためのものであり、反射膜120と第1の記録膜131との間に配置される。第2の光学調整膜134は、金属酸化物材料で構成され、本実施形態では、第1の光学調整膜133と同一の材料で構成される。
第2の光学調整膜134は、第2の記録膜132とバッファ層116あるいは中間層114との間を仕切る境界層としての機能をも有する。これにより第2の記録膜132とバッファ層116あるいは中間層114とを適切に分離することが可能となる。
第2の光学調整膜134は、典型的には、スパッタリング法でバッファ層116あるいは中間層114の上に成膜される。第2の光学調整膜134の厚みは特に限定されず、例えば5nm〜100nmであり、第1の光学調整膜133の厚みや目的とする反射率、記録層113の層位置あるいはその層数等に応じて適宜設定される。
【0032】
中間層114、保護層115及びバッファ層116は、ガイド光及び記録再生光に対して透明な樹脂材料、例えば紫外線硬化型の樹脂材料で構成される。中間層114、保護層115及びバッファ層116は、典型的にはスピンコート法等の塗布法によって成膜される。中間層114、保護層115及びバッファ層116の厚みは特に限定されず、目的とする透過率等の光学特性に応じて適宜設定される。
【0033】
(記録マークの形成原理)
本実施形態に係る記録層113は、第1の記録膜131及び第2の記録膜132の2層の記録膜を有する。記録光を照射すると、熱を吸収しやすい第2の記録膜132がアモルファスから結晶へと相変化することで、第1の記録マークが形成される。
一方、第1の記録膜131は上述のように、ガスを含み得る。この場合、第2の記録膜132に蓄熱された熱が第1の記録膜131に伝播し、第1の記録膜131中に含まれるガスが膨張して第2の記録膜132との界面付近に放出される。これにより、第1の記録膜131の第2の記録膜132との界面付近に、ガスを収容する凹部が形成される。この凹部は、第1の記録マークに隣接して形成され、第2の記録マークとして機能し得る。
また、第1の記録膜131には、凹部が形成されずとも、あるいは凹部の形成とともに、アモルファスから結晶質への相変化が生じてもよい。この場合は、相変化した部分が第2の記録マークとして機能してもよい。
このように、記録層113は、記録光により、第1及び第2の記録膜131,132に、それぞれ第1の記録マークと第2の記録マークの2つの記録マークが形成される。これにより、再生時に、これら隣接する2つの記録マークが1つの記録マーク部として機能し得る。
【0034】
[光記録媒体の製造方法]
続いて、光記録媒体11の製造方法について説明する。
【0035】
まず、ガイド層112を構成する基板が作製される。ガイドトラック121は、基材110の凹凸部111の表面に反射膜120を形成することで作製される。基材110は、典型的には射出成形で形成される。反射膜120は、典型的には、スパッタ法により成膜される。
【0036】
続いて、ガイドトラック121の上にバッファ層116が形成される。バッファ層116は、ガイド層112に紫外線硬化樹脂を塗布して塗膜を形成し、紫外線を照射して塗膜を硬化させることによって形成される。
【0037】
次に、バッファ層116の上に、第2の光学調整膜134及び第2の記録膜132が順に成膜される。第2の光学調整膜134及び第2の記録膜132は、それぞれスパッタ法で成膜される。第2の光学調整膜134及び第2の記録膜132は、同一のスパッタ装置において異なるターゲットを用いて順に成膜されてもよいし、別々のスパッタ装置で成膜されてもよい。
【0038】
続いて、第2の記録膜132の上に第1の記録膜131が成膜される。第1の記録膜131は、金属酸化物ターゲットを、例えばアルゴン及び酸素等を含む雰囲気中でスパッタすることで成膜される。アルゴンは放電用のスパッタガスとして、酸素は酸素欠損を抑制するガスとして機能し得る。なお、これらのガスに加え、窒素ガスを用いてもよい。
スパッタ装置の種類は特に限定されず、例えば、DCマグネトロンスパッタ装置や、RFマグネトロンスパッタ装置を用いることができる。
成膜時の圧力(スパッタ圧力)も特に限定されず、真空チャンバへ導入されるガス(アルゴン及び酸素等)の流量に応じて設定される。また、スパッタレートも特に限定されない。
【0039】
次に、第1の記録膜131の上に、第1の光学調整膜133及び中間層114が順に成膜される。第1の光学調整膜133は、スパッタ法で成膜される。中間層114は、第1の光学調整膜133の上に、紫外線硬化樹脂を塗布して塗膜を形成し、紫外線を照射して塗膜を硬化させることによって形成される。
【0040】
続いて上述のとおり、第2の光学調整膜134、第2の記録膜132、第1の記録膜131及び第1の光学調整膜133が順に繰り返し成膜される。これにより図4に示す多層光記録媒体11が作製される。
【0041】
以下、複数の試験結果に基づき、記録層113の作用について説明する。
【0042】
[記録層の作用]
(試験例1)
まず、試験例1として、第1の記録膜の材料について検討した。なお、本試験例1に用いた参考例2は、感度やモジュレーション等の記録特性は良好であるが、後述するパワーマージンについては十分でない記録層を有するものとする。
表1に、本試験例に係る実施例1、実施例2、実施例3及び参考例2の第1及び第2の記録膜の材料を示す。なお、第1及び第2の光学調整膜は、いずれも、30nmのZnO、SnO系のガラス材料を含む膜である。これらの各膜は、マグネトロンスパッタ装置(実施例1,2,3の第1の記録膜は、芝浦メカトロニクス株式会社製「i-Miller」、その他の各膜はユナクシス(Unaxis)社製「DVD Sprinter」)を用いて、それぞれ表1に記載の厚みで形成された。
また、実施例1の第1の記録膜は、2つのターゲットを用いた2元スパッタリングによって形成された。スパッタ条件は、以下に示す。なお、「/」の前後に記載した材料及び数値は、それぞれ異なるカソードにおける条件を示す。
・ターゲット:W/Ge
・電源:DC/DC
・パワー:200[W]/150[W]
・アルゴン(Ar)流量:15[sccm]
・酸素(O2)流量:30[sccm]
・スパッタレート:1.00[nm/sec]
一方、実施例2の第1の記録膜は、3つのターゲットを用いた3元スパッタリングによって形成された。スパッタ条件は、以下に示す。
・ターゲット:W/Ge/Cu
・電源:DC/DC/RF
・パワー:200[W]/150[W]/300[W]
・アルゴン(Ar)流量:15[sccm]
・酸素(O2)流量:30[sccm]
・スパッタレート:0.80[nm/sec]
また、実施例3の第1の記録膜は、3つのターゲットを用いた3元スパッタリングによって形成された。スパッタ条件は、以下に示す。
・ターゲット:W/Ge/Fe
・電源:DC/DC/RF
・パワー:60[W]/80[W]/200[W]
・アルゴン(Ar)流量:15[sccm]
・酸素(O)流量:30[sccm]
・スパッタレート:0.13[nm/sec]
【0043】
【表1】
【0044】
続いて、作製された各記録層の記録特性を調べた。
【0045】
図5は、記録パワー[mW](横軸)に対するi−MLSE[%](縦軸)の値を示すグラフである。なお、i−MLSEは、2値化された再生信号の品質の評価指標として用いられる、エラーレート相関の評価値であり、低い値の方が記録特性が良いとされる。また、本実験では、1トラック記録した場合のi−MLSEを評価した。
同図に示すように、実施例1〜3は、いずれも、参考例1と比較して、i−MLSEが最も小さい値となる記録パワー(試験例1において、最適記録パワーとする)が大きく、記録光に対する感度は高くなかった。実施例1と実施例2,3とのデータを比較すると、第1の記録膜にCu及びFeが含まれる実施例2,3の方が、第1の記録膜にこれらが含まれない実施例1よりも記録光に対する感度が高かった。これにより、第1の記録膜がCu,Feを含むことで、感度を改善できることが確認された。
一方で、実施例1〜3及び参考例1のデータは、いずれも下に凸の曲線であるが、実施例1〜3のデータを示す曲線は、全体として、参考例1のデータを示す曲線よりも緩やかだった。これは、実施例1〜3の記録層が、参考例1と比較して、記録光として用いることができる記録パワーが広いことを示唆している。以下、記録光として採り得る記録パワーの幅を「パワーマージン」と称し、さらにパワーマージンについてより詳細に分析した。
【0046】
図6は、パワーマージンをより詳細に分析するためのグラフであり、縦軸はi−MLSE[%]、横軸は、最適記録パワーを1とした場合の記録パワー比である。このグラフにより、最適記録パワーを中心とした記録パワーのマージンを、感度の大小によらず評価することができる。なお、パワーマージンは、i−MLSE12%以下の記録パワー比の範囲で評価するものとする。
同図に示すように、参考例1のパワーマージンは0.12〜0.13であるのに対し、実施例1のパワーマージンは約0.20、実施例2のパワーマージンは約0.25、実施例3のパワーマージンも約0.25であった。これにより、実施例1〜3のパワーマージンは参考例1のパワーマージンと比較して大きく向上していることが確認された。さらに、実施例1と実施例2,3とのデータを比較すると、第1の記録膜がCu及びFeを含む実施例2,3の方が、これらを含まない実施例1よりもよりパワーマージンが広いことが確認された。
【0047】
図7は、各記録層のモジュレーション(変調度:Modulation)を示すグラフであり、横軸は最適記録パワーを1とした場合の記録パワー比、縦軸はモジュレーションを示す。
同図に示すように、実施例2,3のデータは、参考例1のデータと同様の傾向を示した。これらの結果から、実施例2,3の記録層は、モジュレーションに関しても良好な特性を有することが確認された。また、実施例1のデータは、参考例1よりも若干値が小さいものの、他の記録特性を鑑みても問題ない値であった。
【0048】
図8は、各記録層のアシンメトリを示すグラフであり、横軸は最適記録パワーを1とした場合の記録パワー比、縦軸はアシンメトリである。アシンメトリとは、記録マークが形成された記録媒体から再生されるRF信号(ピックアップの出力)において、信号の対称性がくずれ、データの判定すべきレベルが中心からずれたときのずれ量を全体の振幅の比で表したものである。すなわち、アシンメトリのデータの傾きが緩やかなほど、記録パワーの変化に対する記録マークの対称性の乱れが少なく、パワーマージンも広い傾向を有する。
同図に示すように、実施例1のデータは、記録パワー比が1以上の領域において参考例1よりも傾きが小さい傾向が見られた。また、実施例2,3のデータは、参考例1と比較して、全体的に傾きが小さい傾向が見られた。この結果によっても、実施例1〜3の記録層は、パワーマージンが広い傾向を有することが確認された。
【0049】
以上の結果より、第1の記録膜にWが含まれる実施例1〜3の記録層は、第1の記録膜にWが含まれない参考例1の記録層と比較して、パワーマージンが広いことが確認された。また、パワーマージンに加え、記録光に対する感度やモジュレーションも含めて総合的に判断すると、実施例1〜3の記録層は、良好な記録特性を有していることが確認された。
さらに、第1の記録膜にCu及びFeがそれぞれ含まれる実施例2,3の記録層は、これらを含まない実施例1の記録層よりも、パワーマージン、感度、モジュレーションにおいてより一層良好な記録特性を有していた。これにより、Cu,Feが添加された第1の記録膜は、パワーマージンがより広く、かつ感度やモジュレーション等の記録特性も高いことが確認された。
【0050】
(試験例2)
続いて、試験例2として、第2の記録膜の材料について検討した。
まず、参考例2、参考例3の記録層を作製した。参考例2の第2の記録膜は、5nmのFe、参考例3の第2の記録膜は、5nmのCu−Oであった。なお、参考例2及び参考例3の第1の記録膜、第1及び第2の光学調整膜はいずれも共通であり、第1の記録膜は35nmのGeBiON、第1及び第2の光学調整膜は30nmのZnO、SnO系のガラス材料を含む膜であった。
【0051】
図9は、参考例2,3の記録特性を評価するグラフであり、横軸は最適記録パワーを100%とした場合の記録パワー比[%]、縦軸はジッタ(Jitter)である。なお、ジッタとは、記録信号の時間的揺らぎを示すパラメータであり、値が小さいほど記録特性は良い。また、ここでいう最適記録パワーは、ジッタが最も小さい場合の記録パワーをいう。
同図に示すように、参考例2,3とも同様のデータが得られ、いずれも同等の記録特性を有することが確認された。また、参考例2,3の最適記録パワーは、参考例2が21.7mW、参考例3が22.1mWであり、こちらもほぼ同等であった。
ここで、参考例2のFeを含む第2の記録膜は、実施例1〜3の第2の記録膜と同一である。また上述のとおり、実施例1〜3の記録層は、パワーマージンが広く良好な記録特性を有している。したがって、試験例2の結果より、実施例1〜3の第2の記録膜の材料をCuOに変えた場合であっても、広いパワーマージンを有し、良好な記録特性の記録層を得ることができると考えられる。
【0052】
以上の結果より、第2の記録膜は、Feの酸化物を含む膜であっても、Cuの酸化物を含む膜であっても、いずれも良好な記録特性が得られることが確認された。
【0053】
[本実施形態の作用効果]
以上より、本実施形態によれば、第1の記録膜が、W,Fe,Cu等の酸化物を含むことにより、記録光のパワーマージンを広げることができる。これにより、光ピックアップ側において、レーザの記録パワーを高精度で制御せずとも、良好な記録特性を発揮することができる。
さらに、記録層が多層化した場合は、記録光が入射側から遠い記録層(例えば図1のL0)に到達するまでの間で記録光パワーの減衰等があり得る。また、各層の透過率が所期の透過率からわずかにずれることで、全体として当該透過率のずれが大きくなることもあり得る。そこで、本実施形態によれば、記録光のパワーマージンが広いため、記録層が多層化した場合であっても安定した記録特性を発揮することができる。
加えて、第1の記録膜が、Wに加え、Fe,Cuを含んでいる場合、記録光のパワーマージンをより広げることができ、多層化した場合でもより安定した記録特性を得ることができる。これは、第1の記録膜がFe,Cuを含むことにより、第1の記録膜の熱吸収性を高め、上記第2の記録マークの形成をより安定的に行うことができ、その結果パワーマージンの拡大と良好な感度を得ることができるためと考えられる。
【0054】
[変形例]
上述の実施形態では、各記録層113の対応する各膜が、同一の構成元素を含むものとすることができると説明したが、これに限定されない。
例えば、複数の記録層113のうち少なくとも1つの記録層113の第1の記録膜131は、他の少なくとも1つの記録層113とは異なる構成元素を含んでいてもよい。これにより、記録層113が多層化した場合であっても、記録特性の高い光記録媒体11を提供することができる。
【0055】
図1を用いて説明する。同図において、記録再生光R1は記録層L3側から記録層L0側へ向かって照射されるものとする。
例えば、光入射側から遠く、基材110及び反射層120に近い記録層113(L0)(以下、記録層113(Lx)を単に記録層Lxと称する)は、光入射側により近い記録層L3,L3,L1でパワーが減少した記録光によっても記録を可能とするため、感度が良好な構成が望まれる。また、記録層L0は、光入射側の記録層L3,L3,L1において所期の透過率が得られなかった場合でも安定的な記録を可能とするため、パワーマージンが広い構成が望まれる。
【0056】
そこで、本変形例の光記録媒体11では、上述の図5図8を参照し、例えば、記録層L1〜L3の第1の記録膜131はWを含み、記録層L0の第1の記録膜131はW及びCu又はFeを含む構成とすることができる。これにより、特に光入射側から遠い記録層L0をパワーマージンが広く、感度の高い構成とすることができ、記録層を多層化しても記録特性の高い光記録媒体11を提供することができる。
【0057】
また、光記録媒体11は、上述の構成に限定されない。例えば、記録層L0、L1の第1の記録膜131はW及びCu又はFeを含み、他の記録層L2、L3の第1の記録膜131はWを含む構成としてもよい。
【0058】
他の変形例として、第1の記録膜及び第2の記録膜の材料は、試験例で用いた材料(表1参照)に限定されない。
例えば、第1の記録膜は、GeWOx−CuO、GeWOx−Feを含んでいてもよいし、W,Cu,Feを含むその他の金属酸化物を含んでいてもよい。
また例えば、第2の記録膜は、Fe、CuOを含んでいてもよいし、Cu,Feを含むその他の金属酸化物を含んでいてもよい。
また、第1の記録膜は、試験例で用いたW,Cu,Feの他、Wの同属元素であり、Wと近い特性を有するMoの酸化物を含んでいても、Wと同様に記録光のパワーマージンを広げることができる。
【0059】
また、本発明の光記録媒体は、複数の記録層を備えた例に限定されず、1層の記録層を備えていてもよい。すなわちこの場合、光記録媒体は、1つの第1の記録膜と、1つの第2の記録膜とを備えた構成となる。
【符号の説明】
【0060】
11…光記録媒体
113…記録層
131…第1の記録膜
132…第2の記録膜
133…第1の光学調整膜
134…第2の光学調整膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9