特開2016-149358(P2016-149358A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-149358(P2016-149358A)
(43)【公開日】2016年8月18日
(54)【発明の名称】二次電池用電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20160722BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160722BHJP
   C07C 43/225 20060101ALI20160722BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/052
   C07C43/225 CCSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-21782(P2016-21782)
(22)【出願日】2016年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-23855(P2015-23855)
(32)【優先日】2015年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】591180358
【氏名又は名称】東ソ−・エフテック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀典
(72)【発明者】
【氏名】平山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅裕
【テーマコード(参考)】
4H006
5H029
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB91
4H006GP03
4H006GP20
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ03
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】過充電防止効果を備えた二次電池用電解液と、該電解液を用いてなる過充電が抑制された二次電池を提供する。
【解決手段】一般式(1)

(式中、R及びRは、各々独立に、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。)で示されるフェニルエーテル化合物を含む二次電池用電解液、及び本電解液を用いてなる二次電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、R及びRは、各々独立に、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。)で示されるフェニルエーテル化合物を含む二次電池用電解液。
【請求項2】
が炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基、Rが水素原子、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基であるフェニルエーテル化合物を含む請求項1に記載の二次電池用電解液。
【請求項3】
がフッ素原子、tert−ブチル基又はトリフルオロメチル基であり、Rがtert−ブチル基又はトリフルオロメチル基であり、Rが水素原子、フッ素原子、tert−
ブチル基又はトリフルオロメチル基であるフェニルエーテル化合物を含む請求項1又は2に記載の二次電池用電解液。
【請求項4】
がフッ素原子又はtert−ブチル基であり、Rがtert−ブチル基であり、Rが水素原子、フッ素原子又はtert−ブチル基であるフェニルエーテル化合物を含む請
求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用電解液。
【請求項5】
が、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基であるフェニルエーテル化合物を含む請求項1〜4いずれかに記載の二次電池用電解液。
【請求項6】
フェニルエーテル化合物を、0.01重量%以上20重量%以下で含む請求項1〜5のいずれかに記載の二次電池用電解液。
【請求項7】
Li/Li基準電極に対する酸化還元電位が4.5V以上である請求項1〜6のいずれかに記載の二次電池用電解液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の二次電池用電解液を含む非水系二次電池。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の二次電池用電解液を含むリチウムイオン電池。
【請求項10】
一般式(1a)
【化2】
(式中、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。)で示されるフェニルエーテル化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過充電防止効果を持つフェニルエーテル化合物を含む電解液と、該電解液を用いてなるリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池、例えばリチウムイオン電池は、その高い駆動電圧及びエネルギー密度から、携帯電話やノートパソコン等の小型用途、及び電気自動車や家庭用蓄電装置として広く実用化されており、またエネルギー貯蔵用途等の大型用途への利用が期待されている。近年、そのさらなる高容量化を目的として、従来よりも高電圧(Li/Li基準電極に対して4.5V以上)で作動する正極を用いたものが提案されている。
【0003】
一般に二次電池は、正極中の金属イオンが負極に吸蔵されることにより充電され、通常の充放電の動作電圧範囲においては金属イオンの吸蔵/放出量に過不足がないように設計されている。しかし、二次電池がこの動作電圧を超えて充電を受けると、許容量以上の金属イオンが正極から放出され、また、負極に吸蔵されることになる。この様な通常の動作電圧範囲を超えた充電状態を過充電といい、過充電状態では、金属イオンを放出し尽くした正極の結晶崩壊が起こり、また、負極では過剰の金属イオンが負極表面に析出し、内部短絡や電解液の還元分解を引き起こす。さらに、動作電圧範囲を超えた電圧では、電解液溶媒の酸化分解が進行し、可燃性ガスを含む分解物が発生する。
【0004】
このような二次電池の過充電を抑制する対策として、レドックスシャトル剤を添加した二次電池用電解液を用いる方法が検討されている(非特許文献1)。レドックスシャトル剤とは、過充電時に正極表面で電子を受け渡した後、自らの拡散によって負極表面で電子を受け入れる事で過充電時の電流を消費し、かつ自らが再生される剤である。従って、レドックスシャトル剤は、サイクリックボルタンメトリー(CV)等の測定にて、酸化側において可逆的な酸化還元挙動を示す事が必要である。電解液にレドックスシャトル剤を添加することで、繰り返して過充電時の電流を消費する事ができ、電池構成部材を保護することができる。
【0005】
特許文献1には、2-(1−アダマンチル)−4−ブロモ−アニソールが5V級リチウ
ムイオン二次電池のレドックスシャトル剤として提案されている。該アニソールは、骨格に臭素原子を有するが、一般に臭素原子を有するレドックスシャトル剤を添加した電解液は分解により臭素イオンを生じ、これが電池ケースや集電体を腐食することが問題となる。また、特許文献2には、レドックスシャトル剤としてヒドロキノンエーテル類が開示されている。しかし、特許文献2の図7及び図9には、後述する比較例−1の化合物及びその類似化合物のCVスペクトルが記載されているが、還元分解電位は各々0.2V及び0.5Vであり、還元側の電気化学的安定性に問題がある。さらには、本特許で後述する比較例−1及び比較試験例−1に示すように、特許文献2に従って合成した化合物を添加した電解液を調整し、これを用いて作成したリチウムイオン電池にて過充電試験を行ったが、その過充電防止能力は十分なものではなかった。また、特許文献3には、ナフタレン環の全ての水素原子をフッ素に置換することにより酸化側の酸化還元電位を高めたパーフルオロナフタレン類が提案されているが、一般にパーフルオロナフタレン類は還元時にフッ素原子が脱離することが知られている。また、該特許文献中にも還元側の電気化学的安定性については触れられておらず、還元側の電気化学的安定性の対策が十分でない。特許文献3には、2つのトリフルオロメチル基と2つのメトキシ基を有する酸化側の酸化還元電位を高めたヒドロキノンエーテル類がレドックスシャトル剤として提案されているが、特許文献2同様にヒドロキノンエーテル類であるため、還元側の電気化学的安定性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−171715号公報
【特許文献2】特開2011−512014号公報
【特許文献3】特開2013−232328号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「リチウムイオン電池の高安全技術と材料」株式会社シーエムシー出版、2009年、116〜123頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レドックスシャトル剤が添加された電解液を高電圧で作動する二次電池に用いる際には、酸化側での可逆な酸化還元挙動と、該二次電池に適した高い酸化還元電位を実現する事、及び還元側の高い電気化学的安定性を有する必要がある。
【0009】
本発明の課題は、二次電池における過充電を防止する効果を持つレドックスシャトル剤を含むことで過充電防止効果を備えた二次電池用電解液と該電解液を用いてなる過充電が抑制された二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で示されるフェニルエーテル化合物を含む電解液が、高電圧二次電池における過充電の防止に適した酸化還元電位と優れた酸化還元耐性を持つことを見出し、また、該電解液及び該電解液を用いてなる二次電池が、本電解液を用いない場合と比べ、過充電を抑制する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、
(i)一般式(1)
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R及びRは、各々独立に、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。)で示されるフェニルエーテル化合物を含む二次電池用電解液;
(ii)一般式(1)中、Rが炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基、Rが水素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基であるフェニルエーテル化合物を含む二次電池用電解液;
(iii)一般式(1)中、Rがフッ素原子、tert−ブチル基又はトリフルオロメチル基であり、Rがtert−ブチル基又はトリフルオロメチル基であり、Rが水素
原子、フッ素原子、tert−ブチル基又はトリフルオロメチル基であるフェニルエーテ
ル化合物を含む二次電池用電解液;
(iv)一般式(1)中、Rがフッ素原子又はtert−ブチル基であり、Rがtert−ブチル基であり、Rが水素原子、フッ素原子又はtert−ブチル基であるフェニ
ルエーテル化合物を含む二次電池用電解液;
(v)一般式(1)中、Rが、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基であるフェニルエーテル化合物を含む二次電池用電解液;
(vi)フェニルエーテル化合物を0.01重量%以上20重量%以下で含む、前記(i)〜(v)のいずれか一項に記載の二次電池用電解液;
(vii)Li/Li基準電極に対する酸化還元電位が4.5V以上である前記(i)〜(vi)のいずれか一項に記載の二次電池用電解液;
(viii)前記(i)〜(vii)のいずれか一項に記載の二次電池用電解液を含む非水系二次電池;
(ix)前記(i)〜(viii)のいずれか一項に記載の二次電池用電解液を含むリチウムイオン電池;
(x)一般式(1a)
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。)で示されるフェニルエーテル化合物;
等に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電解液は、二次電池の過充電を抑制する過充電防止剤として有用であり、これを含む二次電池用電解液を用いてなるリチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験例−7、比較試験例−1及び比較試験例−2に用いたコインセルの電池を示す模式断面図である。
図2】試験例−1で測定したCVのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図3】試験例−2で測定したCVのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図4】試験例−3で測定したCVのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図5】試験例−6で測定したLSVのリニアスィープボルタモグラムを示す図である。
図6】試験例−7、比較試験例−1及び比較試験例−2で作成したコイン型電池素子の充電放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明のフェニルエーテル化合物を含む二次電池用電解液(以下、本発明の電解液という。)におけるR、R、R及びRの定義について説明する。
【0020】
、R及びRで表される炭素数4〜10の第三級アルキル基は、非環状又は環状第三級アルキル基のいずれでもよく、tert−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基
、1−エチル−1−メチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,1−ジ−isо−プロピル−2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1,1−ジエチルブチル基、1,1−ジプロピルブチル基、1−エチル−1−メチルブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルペンチル基、1,1−ジメチル−3−エチルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルヘキシル基、1,1−ジメチルヘプチル基、1,1−ジメチルオクチル基、1−メチルシクロプロピル基、1,2,2,3,3−ペンタメチルシクロプロピル基、1−メチルシクロブチル基、1−ヘキシルシクロブチル基、1−メチルシクロペンチル基、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチル−4−プロピルシクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基等を例示することができる。電解液への溶解性が良い点で、分岐状第三級アルキル基が好ましく、ter
t−ブチル基がさらに好ましい。
【0021】
、R及びRで表される炭素数1〜4のフルオロアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状フルオロアルキル基のいずれでもよく、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1−ジフルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、1,1−ジフルオロプロピル基、ペルフルオロイソプロピル基、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基、ペルフルオロシクロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロシクロプロピル基、ペルフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル基、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、1,2,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(トリフルオロメチル)プロピル基、1−(トリフルオロメチル)プロピル基、1−メチル−3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペルフルオロシクロブチル基、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブチル基等を例示することができる。耐久性が良い点で、直鎖上フルオロアルキル基、具体的にはトリフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基又はペルフルオロイソプロピル基が好ましく、合成容易である点でトリフルオロメチル基がさらに好ましい。
【0022】
電解液としての性能が良い点で、Rはフッ素原子又はtert−ブチル基、Rはtert−ブチル基、Rは水素原子、フッ素原子又はtert−ブチル基であることが好ま
しい。
【0023】
で表される炭素数1〜4のフルオロアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状フルオロアルキル基のいずれでもよく、前記R、R及びRで例示したフルオロアルキル基と同様のものを例示することができる。中でも電解液としての性能が良い点で、直鎖上フルオロアルキル基、具体的にはフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基が好ましく、合成容易である点で2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基がさらに好ましく、2,2,2−トリフルオロエチル基が殊更好ましい。
【0024】
一般式(1)のフェニルエーテル化合物としては、以下のような化合物が例示されるが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
【化6】
【0029】
【化7】
【0030】
【化8】
【0031】
【化9】
【0032】
【化10】
【0033】
【化11】
【0034】
【化12】
【0035】
【化13】
【0036】
【化14】
【0037】
【化15】
【0038】
【化16】
【0039】
【化17】
【0040】
【化18】
【0041】
次に本発明のフェニルエーテル化合物(1a)を含む、本発明の電解液に用いるフェニルエーテル化合物(1)の製造方法について説明する。
【0042】
フェニルエーテル化合物(1)は、次の工程1に示される方法により製造することができる。
【0043】
【化19】
【0044】
(式中、R及びRは、各々独立に、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数4〜10の第三級アルキル基又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。Lは脱離基を表す。)
【0045】
工程1は、フェノール化合物(3)を、塩基及びR−Lで示される化合物と反応させ、フェニルエーテル化合物(1)を製造する方法であり、一般的なWilliamson合成の反応条件を適用することにより、収率よく目的物を得ることができる。
【0046】
Lで表される脱離基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、p−トルエンスホネ−ト、メタンスルホネ−ト、トリフルオロメタンスルホネ−ト等のスルホネ−ト等を挙げることができる。これらのうち、反応性がよい点で、スルホネートが好ましい。
【0047】
工程1に用いるフェノール化合物(3)は、当業者のよく知る一般的な合成法に従って製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0048】
工程1に用いることのできる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等の炭酸塩、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のリン酸塩、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロピルオキシド、カリウムtert−ブトキシド等の金属アルコキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の水素化金属、塩化エチルマグネシウム、臭化イソプロピルマグネシウム、メチルリチウム、ブチルリチウム等のアルキル金属、リチウムジイソプロピルアミド、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジド等の金属アミドを例示することができる。取り扱いが容易である点で、炭酸塩、金属アルコキシド又は水素化金属が好ましく、炭酸塩がさらに好ましい。塩基とフェノール化合物(3)とのモル比に特に制限はないが、収率が良い点で1:2〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、経済的な観点から1:1〜4:1から適宜選ばれた比がさらに好ましい。
【0049】
−Lで示される化合物は、当業者のよく知る一般的な合成法に従って製造することができ、また市販品を用いてもよい。R−Lで示される化合物とフェノール化合物(3)とのモル比に特に制限はないが、収率が良い点で1:2〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、1:1〜4:1から適宜選ばれた比が経済的にさらに好ましい。
【0050】
工程1は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。該溶媒として具体的には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジメチルスルホキシド等を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。溶媒の使用量に特に制限は無い。収率がよい点でDMF、アセトンを用いることが望ましい。
【0051】
工程1を実施する際の反応温度には特に制限はないが、0〜200℃から適宜選択された温度にて実施することができ、収率が良い点で、40〜150℃から適宜選択された温度にて実施することが好ましい。
【0052】
フェニルエーテル化合物(1)は、工程1の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー又は昇華等で精製してもよい。
【0053】
また、本発明のフェニルエーテル化合物(1a)を含む、本発明の電解液に用いるフェニルエーテル化合物(1b)は、次の工程2及び3に示される方法により製造することができる。
【0054】
【化20】
【0055】
(式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキレン基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
【0056】
工程2は、フェノール化合物(3)を、塩基及びX−R−Xで示される化合物と反応させ、中間体(4)を製造する方法であり、一般的なWilliamson合成の反応条件を適用することにより、収率よく目的物を得ることができる。
【0057】
で表される炭素数1〜4のフルオロアルキレン基は、直鎖状又は分岐状フルオロアルキレン基のいずれでもよく、ジフルオロメチレン基、テトラフルオロジメチレン基、1,1−ジフルオロジメチレン基、2,2−ジフルオロジメチレン基、2,2,3,3−テトラフルオロトリメチレン基、3,3−ジフルオロトリメチレン基、1,1−ジフルオロトリメチレン基、2,2−ジフルオロ−1−(トリフルオロメチル)ジメチレン基、1,1,2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロテトラメチレン基、3,3,4,4−テトラフルオロテトラメチレン基、4,4−ジフルオロテトラメチレン基、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−(トリフルオロメチル)トリメチレン基、1−(トリフルオロメチル)トリメチレン基、1−メチル−3,3−ジフルオロトリメチレン基等を例示することができる。耐久性が良い点で、直鎖上フルオロアルキレン基、具体的にはジフルオロメチレン基、1,1,2,2−テトラフルオロジメチレン基、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロトリメチレン基、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロテトラメチレン基が好ましく、合成容易である点で1,1,2,2−テトラフルオロジメチレン基がさらに好ましい。
【0058】
Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を例示することができる。これらのうち、入手容易である点で臭素原子が好ましい。
【0059】
工程2に用いるX−R−Xで示される化合物は、当業者の良く知る方法に従い製造することができる。また、市販品を用いてもよい。X−R−Xで示される化合物とフェノール化合物(3)とのモル比に特に制限はないが、収率が良い点で1:2〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、1:1〜4:1から適宜選ばれた比が経済的にさらに好ましい。
【0060】
工程2に用いることのできる塩基としては、工程1にて例示した塩基と同様のものを例示することができる。中でも、取り扱いが容易である点で、炭酸塩、金属アルコキシド又は水素化金属が好ましく、水素化金属がさらに好ましい。塩基とフェノール化合物(3)とのモル比に特に制限はないが、収率が良い点で1:2〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、経済的な観点から1:1〜4:1から適宜選ばれた比がさらに好ましい。
【0061】
工程2は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。該溶媒として具体的には、工程1にて例示した溶媒と同様のものを例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。溶媒の使用量に特に制限は無い。収率がよい点でジメチルスルホキシドを用いることが望ましい。
【0062】
工程2を実施する際の反応温度には特に制限はないが、0〜200℃から適宜選択された温度にて実施することができ、収率が良い点で、40〜100℃から適宜選択された温度にて実施することが好ましい。
【0063】
中間体(4)は、工程2の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー又は昇華等で精製してもよい。また、単離することなく、次工程へ供してもよい。
【0064】
工程3は、中間体(4)を、酸及び低原子価金属と反応させ、本発明の電解液に用いるフェニルエーテル化合物(1b)を製造する方法である。
【0065】
工程3に用いることのできる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪族カルボン酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸を例示することができる。これらのうち、常温液体である点で脂肪族カルボン酸が好ましく、安価である点で酢酸がさらに好ましい。酸と中間体(4)とのモル比に特に制限はなく、酸を溶媒量用いてもよい。
【0066】
工程3に用いることのできる低原子価金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、鉄、銅等の遷移金属、亜鉛、アルミニウム、スズ等の典型金属を例示することができる。これらのうち、収率が良い点で、亜鉛が好ましい。低原子価金属と中間体(4)とのモル比に特に制限は無いが、収率が良い点で1:2〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、経済的な観点から1:1〜4:1から適宜選ばれた比がさらに好ましい。
【0067】
工程3を実施する際の反応温度には特に制限はないが、0〜200℃から適宜選択された温度にて実施することができ、収率が良い点で、40〜100℃から適宜選択された温度にて実施することが好ましい。
【0068】
フェニルエーテル化合物(1b)は、工程3の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー又は昇華等で精製してもよい。
【0069】
また、本発明のフェニルエーテル化合物(1a)を含む、本発明の電解液に用いるフェニルエーテル化合物(1c)は、次の工程4に示される方法により製造することができる。
【0070】
【化21】
【0071】
(式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。)
【0072】
工程5は、ジチオカルボネート化合物(5)を、ハロゲン化剤及びフッ化水素と反応させ、本発明の電解液に用いるフェニルエーテル化合物(1c)を製造する方法である。
【0073】
工程5に用いるジチオカルボネート化合物(5)は、例えば、参考例−1に示した方法に従い、製造することができる。
【0074】
工程5に用いることのできるハロゲン化剤としては、フッ素、N−フルオロピリジニウム テトラフルオロボレート、N−フルオロピリジニウム トリフルオロメタンスルホネート、1−クロロメチル−4−フルオロ−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン ビス(テトラフルオロボレート)、N,N’−ジフルオロ−2,2−ビピリジニウム
ビス(テトラフルオロボレート)、塩素、N−クロロスクシイミド、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、N−クロロフタルイミド、臭素、N−ブロモスクシイミド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジブロモイソシアヌル酸、ベンジルトリメチルアンモニウム トリブロミド、三臭化ホウ素、N−ブロモアセトアミド、2−ブロモ−2−シアノ−N,N−ジメチルアセトアミド、ブロモジメチルスルホニウム ブロミド、N−ブロモフタルイミド、N−ブロモサッカリン、臭化三塩化炭素、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ブロミド、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン=三臭化水素錯体、5,5−ジブロモメルドラム酸、1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン、4−ジメチルアミノピリジン=三臭化水素錯体、ピリジン=三臭化水素錯体、三臭化リン、オキシ三臭化リン、2,4,4,6−テトラブロモ−2,5−シクロヘキサジエノン、テトラブチルアンモニウム トリブロミド、トリメチルフェニルアンモニウム トリブロミド、トリフェニルホスフィン ジブロミド、ヨウ素、N−ヨードスクシイミド、1,3−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン等を例示することができる。これらのうち、反応収率が良い点で、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインが好ましい。ハロゲン化剤とジチオカルボネート化合物(5)とのモル比に特に制限はないが、収率が良い点で1:2〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、経済的な観点から1:1〜4:1から適宜選ばれた比がさらに好ましい。
【0075】
工程5に用いることのできるフッ化水素としては、フッ化水素ガス、フッ素水素酸、又はピリジン=フッ化水素錯体、トリエチルアミン=フッ化水素錯体、メラミン=フッ化水素錯体等の有機塩基=フッ化水素錯体を例示することができる。これらのうち、取扱いが容易である点で、有機塩基=フッ化水素錯体が好ましく、収率が良い点で、ピリジン=フッ化水素錯体がさらに好ましい。フッ化水素とジチオカルボネート化合物(5)とのモル比に特に制限はないが、収率が良い点で1:2〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、経済的な観点から1:1〜4:1から適宜選ばれた比がさらに好ましい。
【0076】
工程5は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。該溶媒として具体的には、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、DMF、アセトン、ジメチルスルホキシド等を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。溶媒の使用量に特に制限は無い。収率がよい点でハロゲン化炭化水素を用いることが好ましく、ジクロロメタンがさらに好ましい。
【0077】
工程5を実施する際の反応温度には特に制限はないが、−80〜100℃から適宜選択された温度にて実施することができ、収率が良い点で、−40〜0℃から適宜選択された温度にて実施することが好ましい。
【0078】
フェニルエーテル化合物(1c)は、工程5の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー又は昇華等で精製してもよい。また、単離することなく、次工程へ供してもよい。
【0079】
次に、本発明のレドックスシャトル剤を含む二次電池用電解液(以下、本発明の電解液という)の調製方法について説明する。
【0080】
本発明の電解液は、二次電池用電解液に本発明のレドックスシャトル剤を添加することにより調製することができる。
【0081】
二次電池用電解液は、当業者が通常用いるものであれば特に制限はなく、市販品を用いてもよい。また、二次電池用電解液は、支持電解質を有機溶媒に溶解させることによっても得られる。支持電解質としては、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、六フッ化アンチモン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド、テトラキス(ペルフルオロフェニル)ホウ酸リチウム等を例示することができ、リチウムイオン電池の性能が良い点で、四フッ化ホウ酸リチウム又は六フッ化リン酸リチウムが好ましい。リチウムイオン電池用電解液に用いる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、γ−ラクトン等のエステル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等のエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、バレロニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル、DMF、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン等のアミドを例示することができ、これらを混合して用いてもよい。溶解性が良い点で、エステル又は炭酸エステルが好ましく、リチウムイオン電池の性能が良い点で、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はこれらの混合溶媒がさらに好ましい。
【0082】
本発明の電解液の調製をする際、二次電池用電解液に添加する本発明のレドックスシャトル剤の量は、0.01重量%以上20重量%以下から適宜選ばれた量であることが好ましく、過充電防止効果が高い点で、0.1重量%以上10重量%以下から適宜選ばれた量であることがさらに好ましい。
【0083】
次に、本発明の電解液を含むことを特徴とするリチウムイオン電池(以下、本発明のリチウムイオン電池という)の作成方法について説明する。
【0084】
本発明のリチウムイオン電池は、正極及び負極によりセパレータを挟み、これらをセルケースに収納した後、本発明の電解液を注入することで作成される。正極の材質としては、当業者が通常用いるものであれば特に制限はなく、具体的にはコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウム(マンガン−コバルト複合酸化物)、リチウム(マンガン−ニッケル複合酸化物)、リチウム(ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物)、リチウム五酸化バナジウム、バナジン酸リチウム、リチウム(オリビン型リン酸鉄)等を例示することができる。電池の性能が良い点で、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウム(マンガン−コバルト複合酸化物)、リチウム(マンガン−ニッケル複合酸化物)、リチウム(ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物)又はリチウム(オリビン型リン酸鉄)が好ましい。負極の材質としては、リチウムを可逆的に吸蔵及び放出できるものであれば特に制限はなく、具体的には、リチウム金属、天然黒鉛等の炭素、アルミニウム;ケイ素;ゲルマニウム;スズ;鉛;インジウム;亜鉛;チタンから選ばれる1種類以上の元素とリチウムとの合金、チタン酸リチウム、リン;バナジウム;スズ;銅;ニッケル;コバルト;鉄から選ばれる1種類以上の元素を含有するリチウムチタン複合酸化物等を例示することができる。電池の性能が良い点で、天然黒鉛、ケイ素;スズ;チタンから選ばれる1種類以上の元素とリチウムとの合金又はチタン酸リチウムが好ましい。セパレータの材質としては、当業者が通常用いるものであれば特に制限はなく、具体的には、ポリオレフィン樹脂、フッ素系樹脂、ガラス繊維、ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂等を例示することができる。電池の性能が良い点で、ポリオレフィン樹脂又はフッ素系樹脂が好ましい。セルケースの材質としては、当業者が通常用いるものであれば特に制限はなく、具体的には、ステンレス、アルミ合金、チタン合金、ニッケル合金等を例示することができる。耐久性が良い点で、ステンレス又はチタン合金が好ましい。
【実施例】
【0085】
次に、本発明を実施例、参考例、比較例、試験例及び比較試験例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
フェニルエーテル化合物(1)の同定には、以下の分析方法を用いた。H−NMR及び19F−NMRの測定には、Bruker ULTRASHIELD AVANCE II(400MHzおよび376MHz)を用いた。H−NMRは、重クロロホルム(CDCl)を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。19F−NMRは、重クロロホルム(CDCl)を測定溶媒とし、内部標準物質としてベンゾトリフルオリドを用いて測定した。
【0087】
本発明の電解液の物性評価には、以下の評価方法を用いた。サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定は、マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタット(VMP−3)を用いて行った。CV測定は、アルゴン雰囲気下、10mMのフェニルエーテル化合物(1)及び1.0Mの支持電解質(六フッ化リン酸リチウム)を含むエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶液(体積比:3/7)を調製し、これに作用電極として白金、基準電極としてリチウム箔、対極としてリチウム箔を挿入し、25,50,100,200mV/sの各走査速度にて測定を行った。CV測定の結果から、酸化還元電位(E1/2)及び拡散係数Dを算出した。E1/2は、可逆なボルタノグラムにおける酸化及び還元ピークの半波電位である。拡散係数D(cm/s)は、式(4)
=2.69×10(3/2)AD(1/2)(1/2)c (4)
(式中、Iは酸化ピーク電流値(A)、nは移動電子数、Aは作用電極面積(cm)、vは電位の走査速度(V/s)及びcは本発明のレドックスシャトル剤の濃度(mol/cm)を表す。)に従って算出した。リニアスィープボルタンメトリー(LSV)測定は、マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタット(VMP−3)を用いて行った。LSV測定は、アルゴン雰囲気下、10mMのフェニルエーテル化合物(1)及び0.1Mの支持電解質(過塩素酸テトラブチルアンモニウム)を含むエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶液(体積比:3/7)を調製し、これに作用電極として白金、基準電極としてリチウム箔、対極としてリチウム箔を挿入し、5mV/sの走査速度にて測定を行った。LSV測定の結果から、電流密度が−0.2mA/cmの時の電位を、還元分解電位とした。電池試験は、はじめにアルゴン雰囲気下、1.0Mの支持電解質及び0.1Mのフェニルエーテル化合物(1)を含む、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶媒(体積比:3/7)を調整し、本発明の電解液を得た。次にセパレータ6(無機フィラー含有ポリオレフィン、日本板硝子製)を挟んで正極1(活物質:コバルト酸リチウム、単層シートプレス品、パイオトレック製)、負極4(活物質:天然球状グラファイト、単層シートプレス品、パイオトレック製)を対向配置し、負極ステンレス製キャップ3にステンレス製板バネ5を設置し、負極4、セパレータ6および正極1からなる積層体をコイン型セル内に収納した。この積層体に本発明の電解液を注入した後、ガスケット7を配置後、正極ステンレス製キャップ2をかぶせ、コイン型セルケースをかしめることで電池素子を得た(図1)。 上記電池素子をマルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタット(VMP−3)を用いて、25℃の恒温条件下、0.1Cの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を3回行った後に25℃の恒温条件下、0.2Cで定電流充電を行い、4.95Vを上限電圧として、容量が規定の2倍(6mAh)になるまで充電を行い、その後、充電した電池素子を0.2Cで、3.0Vまで定電流放電を行った。
実施例−1
【0088】
【化22】
【0089】
アルゴン雰囲気下、ふた付きテストチューブに2,4−ジ−tert−ブチルフェノール(103mg,0.5mmol)及び炭酸カリウム(104mg,0.8mmol)を取り、DMF(0.5mL)に溶解した。さらにp−トルエンスルホン酸2,2,2−トリフルオロエチル(381mg,1.5mmol)を加え、150℃にて17時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にジエチルエーテルを加え、SiOプラグを用いてろ過した。ろ液を減圧留去することで目的の2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼンを無色油状物として得た(110mg,76%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ1.30(s,9H),1.39(s,9H),4.33(q,J=8.2Hz,2H),6.68(d,J=8.5Hz,1H),7.18(dd,J=8.5,2.4Hz,1H),7.36(d,J=2.4Hz,1H)
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ−74.1(t,J=8.2Hz,3F).
実施例−2
【0090】
【化23】
【0091】
窒素雰囲気下、ふた付きテストチューブに4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロフェノール(The Journal of Organic Chemistry,1981年,46巻,3784−3789頁に従い合成:224mg,1.00mmol)及び炭酸カリウム(159mg,1.15mmol)を取り、アセトン(1.0mL)に溶解した。さらにトリフルオロメタンスルホン酸2,2,2−トリフルオロエチル(267mg,1.15mmol)を加え、80℃にて24時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にクロロホルム及び飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、水層を分離後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム)で精製し、4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼンを白色固体として得た(277mg,収率91%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ1.29(s,9H),1.39(s,9H),4.46(q,J=8.4Hz,2H),6.98(d,J=14.4Hz,1H),7.10(s,1H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ−130.3(d,J=14.4Hz,1F),−74.9(t,J=8.4Hz,3F).
実施例−3
【0092】
【化24】
【0093】
窒素雰囲気下、ふた付きテストチューブに4−tert−ブチルー2−フルオロフェノール(The Journal of Organic Chemistry,1981年,46巻,3784−3789頁に従い合成:168mg,1.00mmol)及び炭酸カリウム(159mg,1.15mmol)を取り、アセトン(1.0mL)に溶解した。さらに トリフルオロメタンスルホン酸2,2,2−トリフルオロエチル(267mg,1.15mmol)を加え、80℃にて24時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にクロロホルム及び飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、水層を分離後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム)で精製し、4−tert−ブチルー2−フルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼンを無色油状物として得た(187mg,収率75%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ1.29(s,9H),4.39(q,J=8.0Hz,2H),6.96(dd,J=8.8Hz,J=8.8Hz,1H),7.33(d,J=8.8Hz,1H),7.13(d,J=13.6Hz,1H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):−133.3(dd,J=13.6Hz,J=8.8Hz,1F),−74.9(t,J=8.0Hz,3F).
実施例−4
【0094】
【化25】
【0095】
窒素雰囲気下、シュレンク管に4−tert−ブチルー2−フルオロフェノール(1.00g,5.94mmol)を取り、ジメチルスルホキシド(20mL)に溶解し、続いて60%−油分散水素化ナトリウム(262mg,6.54mmol)を加えた。さらに1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(1.85g,7.13mmol)を加え、50℃にて21時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にジエチルエーテル及び飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、水層を分離後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシュレンク管に移し、酢酸(20mL)に溶解した。さらに亜鉛(2.55g,39.0mmol)を加え、80℃にて24時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にジクロロメタンを加え、セライトろ過を行い、得られたろ液を2%水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水、純水で洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、4−tert−ブチルー2−フルオロ−1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)ベンゼンを無色油状物として得た(717mg,収率44.9%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ1.32(s,9H),5.96(t,J=53Hz,1H),7.20(m,3H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ−137.2(d,J=53Hz,2F),−130.0(m,1F),−89.4(s,2F).
実施例−5
【0096】
【化26】
【0097】
窒素雰囲気下、テフロン容器に1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(1.91g,6.68mmol)をジクロロメタン(65mL)に溶解した。この混合物を−78℃に冷却し、70%−ピリジン=フッ化水素錯体(4.5g,173mmol)を加え、続いてO−4,6−ジ−tert−ブチル−2−フルオロフェニル S−メチル ジチオカルボネート(700mg,2.23mmol)をジクロロメタン(65mL)に溶解した溶液をゆっくり滴下し、−20℃にて2.5時間撹拌した。反応液に氷水を加え、水層を分離後、有機層を5%−亜硫酸ナトリウム水溶液、2%−水酸化ナトリウム水溶液及び純水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、目的物の4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロ−1−トリフルオロメトキシベンゼン及び3−ブロモ−4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロ−1−トリフルオロメトキシベンゼンの混合物を得た。
【0098】
窒素雰囲気下、上記にて合成した4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロ−1−トリフルオロメトキシベンゼン及び3−ブロモ−4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロ−1−トリフルオロメトキシベンゼンの混合物をTHF(10mL)に溶解した。これを−78℃に冷却し、n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(1.63M,1.1mL
,1.76mmol)を滴下し、30分撹拌した後、0℃に昇温した。反応液にジエチルエーテル及び飽和塩化ナトリウム水を加え、水層を分離後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮した。得られた油状物を、窒素雰囲気下、THF(10mL)に溶解した。この溶液を−78℃に冷却し、n-ブチルリチウム/ヘキサ
ン溶液(1.63M,2.0mL,3.26mmol)を滴下し、3時間撹拌した後、0℃に昇温した。反応液にジエチルエーテル及び飽和塩化ナトリウム水を加え、水層を分離後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、4,6−ジ−tert−ブチル−2−フルオロ−1−トリフルオロメトキシベンゼンを無色油状物として得た(182mg,収率27.4%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ1.30(s,9H),1.40(s,9H),7.04(d,J=12.4Hz,1H),7.17(s,1H).
19F−NMR(376MHz,CDCl)δ−127.6(qd,19.6,12.4Hz,1F),−55.3(d,J=19.6Hz,3F).
実施例−6
【0099】
【化27】
【0100】
アルゴン雰囲気下、ふた付きテストチューブに炭酸セシウム(4.56g,14.0mmol)、ヨウ化銅(190mg,1.0mmol)、4−tert−ブチルヨードベンゼン(2.60g,1.79mL,10.0mmol)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール(3.00g,1.99mL,20.0mmol)、及び2−オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル(340mg,318μL,2.0mmol)を取り、81℃にて17時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にクロロホルムを加え、シリカゲルを用いてろ過し、ろ液を減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製し、目的の4−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルオキシ)ベンゼンを無色透明の油状物として得た(1.23g,4.3mmol,43%)。H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.34(d,J=8.9Hz,2H),6.88(d,J=8.9Hz,2H),4.40(t,J=12.4Hz,2H),1.31(s,9H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ-83.41(s,3F),-123.44(s,2F).
実施例−7
【0101】
【化28】
【0102】
アルゴン雰囲気下、ふた付きテストチューブに炭酸セシウム(4.56g,14.0mmol)、ヨウ化銅(190mg,1.0mmol)、4−tert−ブチルヨードベンゼン(2.60g,1.79mL,10.0mmol)、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブタノール(4.00g,2.50mL,20.0mmol)、及び2−オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル(340mg,318μL,2.0mmol)を取り、98℃にて17時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にクロロホルムを加え、シリカゲルを用いてろ過し、ろ液を減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製し、目的の4−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルオキシ)ベンゼンを無色透明の油状物として得た(2.12g,6.4mmol,64%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.34(d,J=8.9Hz,2H),6.88(d,J=8.9Hz,2H),4.44(t,J=12.9Hz,2H),1.31(s,9H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ-80.74(t,J=9.8Hz,3F),-119.42〜-119.50(m,2F),-121.96(t,J=9.0Hz,4F),-122.70(s,2F),-123.09(s,2F),-126.04〜-126.12(m,3F).
実施例−8
【0103】
【化29】
【0104】
アルゴン雰囲気下、ふた付きテストチューブに炭酸セシウム(456mg,1.4mmol)、ヨウ化銅(19mg,0.1mmol)、4−tert−ブチルヨードベンゼン(260mg,179μL,1.0mmol)、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクタノール(800mg,2.0mmol)、及び2−オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル(34mg,32μL,0.2mmol)を取り、164℃にて10時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にクロロホルムを加え、シリカゲルを用いてろ過し、ろ液を減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製し、目的の4−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチルオキシ)ベンゼンを無色透明の油状物として得た(359mg,0.67mmol,67%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.34(d,J=8.9Hz,2H),6.88(d,J=8.9Hz,2H),4.45(t,J=12.9Hz,2H),1.30(s,9H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ-80.86(t,J=9.1Hz,3F),-120.47〜-120.55(m,2F),-127.48(s,2F).
実施例−9
【0105】
【化30】
【0106】
アルゴン雰囲気下、ニトロメタン(5.2mL)に懸濁した塩化亜鉛(2.73g,20.0mmol)に4−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルオキシ)ベンゼン(565mg,478μL,2.0mmol)及び塩化tert−ブチル(1.85g,2.18mL,2.0mmol)を加え、室温にて21時間攪拌した。反応終了後、クロロホルムで有機層を抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、及び飽和食塩水で洗浄した。有機層に硫酸ナトリウムを加え乾燥した後、乾燥剤をろ別し、溶液を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製し、目的の2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルオキシ)ベンゼンを無色透明の油状物として得た(427mg,1.26mmol,63%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.38(d,J=2.5Hz,1H),7.20(dd,J=2.5,8.5Hz,1H),6.73(d,J=8.5Hz,1H),4.41(td,J=12.7Hz,2H),1.39(s,9H),1.31(s,9H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ-83.33(s,3F),-122.76(s,2F).
実施例−10
【0107】
【化31】
【0108】
アルゴン雰囲気下、ニトロメタン(5.2mL)に懸濁した塩化亜鉛(2.73g,20.0mmol)に4−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルオキシ)ベンゼン(665mg,536μL,2.0mmol)及び塩化tert−ブチル(1.85g,2.18mL,2.0mmol)を加え、室温にて96時間攪拌した。反応終了後、クロロホルムで有機層を抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、及び飽和食塩水で洗浄した。有機層に硫酸ナトリウムを加え乾燥した後、乾燥剤をろ別し、溶液を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製し、目的の2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルオキシ)ベンゼンを無色透明の油状物として得た(431mg,1.1mmol,55%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.38(d,J=2.5Hz,1H),7.20(dd,J=2.5,8.5Hz,1H),6.73(d,J=8.5Hz,1H),4.45(t,J=13.3Hz,2H),1.39(s,9H),1.31(s,9H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ-80.82(t,J=9.4Hz,3F),-119.87〜-119.80(m,2F),-126.06(q,J=16.1Hz,2F).
実施例−11
【0109】
【化32】
【0110】
アルゴン雰囲気下、ニトロメタン(5.2mL)に懸濁した塩化亜鉛(2.73g,20.0mmol)に4−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチルオキシ)ベンゼン(1.07g,739μL,2.0mmol)及び塩化tert−ブチル(1.85g,2.18mL,2.0mmol)を加え、室温にて96時間攪拌した。反応終了後、クロロホルムで有機層を抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、及び飽和食塩水で洗浄した。有機層に硫酸ナトリウムを加え乾燥した後、乾燥剤をろ別し、溶液を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)により精製し、目的の2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチルオキシ)ベンゼンを無色透明の油状物として得た(763mg,1.3mmol,65%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ7.38(d,J=2.5Hz,1H),7.20(dd,J=2.5,8.5Hz,1H),6.73(d,J=8.5Hz,1H),4.46(t,J=13.4Hz,2H),1.39(s,9H),1.31(s,9H).
19F−NMR(376MHz,CDCl3):δ-80.72(t,J=9.7Hz,3F),-118.78(t,J=6.2Hz,2F),-121.918(t,J=9.0Hz,4F),-122.75(d,J=46.0Hz,4F),-126.06(q,J=16.4Hz,2F).
参考例−1
【0111】
【化33】
【0112】
窒素雰囲気下、60%−油分散水素化ナトリウム(220mg,5.51mmol)を取り、DMF(3.0mL)に懸濁した。0℃まで冷却し、4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロフェノール(1.03g,4.59mmol)をDMF(6.0mL)に溶解した溶液を滴下し、室温にて1時間撹拌した。この混合物を0℃に冷却し、二硫化炭素(699mg,9.18mmol)を加え同温にて30分、さらに室温で16時間撹拌した。ここにヨウ化メチル(782mg,5.51mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にヘキサン及び飽和塩化ナトリウム水溶液を加え、水層を分離後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、O−4,6−ジ−tert−ブチル−2−フルオロフェニル S−メチル ジチオカルボネートを微黄色油状物として得た(967mg,収率66.0%)。
比較例−1
【0113】
【化34】
【0114】
アルゴン雰囲気下、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン(2.75g,12.4mmol)及び炭酸カリウム(5.12g,37.1mmol)を取り、アセトン(30mL)に懸濁した。この混合物に2,2,2−トリフルオロエチル トリフルオロメタンスルホン酸エステル(5.34mL,37.1mmol)を加え、60℃にて24時間撹拌した。反応終了後、反応混合物にクロロホルム及び飽和塩化ナトリウム水を加え、水層を分離後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム)で精製し、目的の1,2−ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−2,5−ジ−tert−ブチルベンゼンを白色固体として得た(3.58g,75%)。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ1.30(s,9H),δ1.39(s,9H),δ4.33(q,J=8.2Hz,2H),δ6.68(d,J=8.5Hz,1H),δ7.18(dd,J=8.5,2.4Hz,1H),δ7.36(d,J=2.4Hz,1H).
19F−NMR(376MHz,CDCl):δ−74.1(t,J=8.2Hz,3F).
【0115】
試験例−1
実施例−1にて合成した2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン用いて電解液を調整し、CV測定を行った。図2に、走査速度100mV/Sの時のサイクリックボルタモグラムを示した。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=4.7V(vs.Li/Li+)であり、高い酸化還元電位を
有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。また、拡散係数Dは、2.2×10−6cm/sであった。
【0116】
試験例−2
実施例−2で合成した4,6−ジ−tert−ブチル−2−フルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼンを用いて電解液を調整し、CV測定を行った。図3に、走査速度100mV/Sの時のサイクリックボルタモグラムを示した。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=4.9V(vs.Li/Li+)であり、高い
酸化還元電位を有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。
【0117】
試験例−3
実施例−3で合成した4−tert−ブチル−2−フルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼンを用いて電解液を調整し、CV測定を行った。図4に、走査速度100mV/Sの時のサイクリックボルタモグラムを示した。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=4.9V(vs.Li/Li+)であり、高い酸化還元
電位を有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。
【0118】
試験例−4
実施例−4で合成した4−tert−ブチルー2−フルオロ−1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)ベンゼンを用いて電解液を調整し、CV測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=5.3V(vs.Li/Li+)であり
、高い酸化還元電位を有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。
【0119】
試験例−5
実施例−5で合成した4,6−ジ−tert−ブチルー2−フルオロ−1−トリフルオロメトキシベンゼンを用いて電解液を調整し、CV測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=5.3V(vs.Li/Li+)であり、高い酸化還元
電位を有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。
【0120】
試験例−6
実施例−9で合成した2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルオキシ)ベンゼンを用いて電解液を調整し、CV測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=4・7V(vs.Li/Li+)であり、高い酸化還元電位を有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。
【0121】
試験例−7
実施例−10で合成した2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルオキシ)ベンゼンを用いて電解液を調整し、CV測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=4・7V(vs.Li/Li+)であり、高い酸化還元電位を有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。
【0122】
試験例−8
実施例−11で合成した2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチルオキシ)ベンゼンを用いて電解液を調整し、CV測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムから、E1/2=4・7V(vs.Li/Li+)であり、高い酸化還元電位を有し、可逆な酸化還元挙動を示す事が分かった。
【0123】
試験例−9
実施例−1にて合成した2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼンを用いて電解液を調整し、LSV測定を行った。図5に、リニアスィープボルタモグラムの測定結果を示した。
【0124】
図5より、還元分解電位は−0.09Vであり、還元側に高い電気化学的安定性を有することが確認できた。
試験例−10
支持電解質として六フッ化リン酸リチウム、実施例−1にて合成した2,4−ジ−tert−ブチル−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン、及びエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶媒(体積比:30/70)を用いて電解液を調整し、コイン型リチウムイオン二次電池素子を得た(図1)。
【0125】
上記電池素子を0.1Cの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を3回行った後に25℃の恒温条件下、0.2Cの充電電流で定電流充電を行い、4.95Vを上限電圧として、電池容量が規定の2倍(6mAh)になるまで充電を行った。この時の電圧は4.5Vであった。また充電した素子を0.2Cの放電電流で、3.0Vまで定電流放電を行った時の容量は、3.3mAhであり、過充電電流の消費が確認された(図6)。
【0126】
比較試験例−1
フェニルエーテル化合物を添加しなかった他は、試験例−7と同様に行った。作成したリチウムイオン電池を5.2mAhまで充電した時、上限電圧(4.95V)に達し、それ以上の充電を行うことはできなかった(図6)。
【0127】
比較試験例−2
フェニルエーテル化合物の代わりに、参考例−2にて合成した1,4−ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−2,5−ジ−tert−ブチルベンゼンを用いて電解液を調整した他は、試験例−7と同様に行った。作成した電池素子は、充電容量が2.5mAhから3.7mAhまで一旦電圧上昇が抑えられ、さらに4.7mAhまで充電した時点から再び電圧上昇が抑えられ、6.0mAhまで充電した時の電圧は4.5Vであった。また充電した素子を3.0Vまで放電した時の容量は、2.8mAhであった(図6)。
【0128】
本発明のフェニルエーテル化合物を添加した試験例−7より、比較試験例−1に比べて充電に伴う電圧上昇が抑制されており、本発明のフェニルエーテル化合物が過充電防止剤として機能していることがわかる。また、比較試験例−2では、4.0V付近の低電圧領域にて電圧上昇の抑制が開始されており、その放電容量も2.8mAhと試験例−7より0.5mAh小さいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、過充電時においてもリチウムイオン電池等の二次電池の電圧上昇を抑制することができるため、安全性に優れた二次電池を提供することができる。また、本発明はリチウムイオン電池のみならず、ナトリウムイオン電池、リチウム硫黄電池、カルシウム;マグネシウム;アルミニウム等の金属負極電池等への利用も可能である。
【符号の説明】
【0130】
1 正極
2 正極ステンレス製キャップ
3 負極ステンレス製キャップ
4 負極
5 ステンレス製板バネ
6 無機フィラー含浸ポリオレフィン多孔質セパレータ
7 ガスケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6