【解決手段】信号光の波長の光を吸収せず、制御光の波長の光を吸収する色素を内包した無機多孔質粒子から成る無機多孔質粒子層6に、前記無機多孔質粒子と屈折率が同一になるよう調整された混合有機溶剤10を含浸させた制御光吸収領域を有する熱レンズ形成素子100である。
信号光の波長の光を吸収せず、制御光の波長の光を吸収する色素が内包された無機多孔質粒子から成る多孔質層に、前記無機多孔質粒子と屈折率が同一になるよう調整された混合有機溶剤を含浸させた制御光吸収領域を有する熱レンズ形成素子。
前記制御光吸収領域が角型断面中空管の内壁の1つの面に形成され、前記内壁の対向面との間に空房を挟んで前記制御光吸収領域が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱レンズ形成素子。
前記制御光吸収領域が形成された前記角型断面中空管の一端が溶融封止され、前記空房の一端には前記混合有機溶剤が充填され、前記空房の他端には1気圧以下の圧力で前記混合有機溶剤の蒸気および不活性気体が充填され、前記角型断面中空管の他端が溶融封止されていることを特徴とする請求項2に記載の熱レンズ形成素子。
前記制御光吸収領域が形成された前記角型断面中空管の断面形状は4つの平面について互いに平行な2つの外側平面および2つの内側平面を有する角型断面中空管であって、前記互いに平行な2つの外側平面および2つの内側平面はともに、前記制御光が照射されず前記信号光が直進する場合の光軸に対して垂直であり、前記互いに平行な2つの外側平面および2つの内側平面の大きさは、前記制御光および信号光の入射する領域および直進または光路切替されて出射する信号光が通過する領域において平面である大きさであり、前記角型断面中空管の両端はその素材の融点において溶融封止されており、前記制御光吸収領域には、前記制御光吸収領域が吸収する波長帯域から選ばれる波長の制御光と、前記制御光吸収領域が吸収しない波長帯域から選ばれる波長の信号光とが各々収束されて照射され、かつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が同一または相異なるように照射され、前記制御光吸収領域が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に形成される屈折率の分布に基づいた熱レンズが形成され、
前記制御光が照射されず熱レンズが形成されていない場合は前記収束された信号光が通常の開き角度と直進方向で出射する状態と、
前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が同一になるよう制御光が照射されて熱レンズが形成される場合は前記収束された信号光が通常の開き角度よりも大きい開き角度で出射する状態、または、前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が相異なるよう制御光が照射されて熱レンズが形成される場合は前記収束された信号光が通常の開き角度と異なる開き角度と直進方向とは異なる方向で出射する状態とを、
前記制御光の照射の有無に対応させて実現させること
を特徴とする請求項1に記載の熱レンズ形成素子。
水平に載置された角型断面中空管の内部に、信号光の波長の光を吸収せず制御光の波長の光を吸収する色素が内包された無機多孔質粒子を高分子バインダー溶液に分散させた液を注入した後、100℃以下の温度の気体を前記角型断面中空管の内部に送風して乾燥させ、前記角型断面中空管の底面に前記無機多孔質粒子の水溶性高分子バインダー塗工膜を形成する工程、
前記塗工膜形成工程を繰り返し行い、所望の厚さの前記塗工膜を、前記底面の対向面との間に空房を挟んで形成する工程、
前記角型断面中空管に乾燥気体を送風し前記塗工膜中の水分を除去する工程、
前記角型断面中空管を500〜600℃に加熱し、前記角型断面中空管に500〜600℃の空気を送風して、前記水溶性高分子バインダーを焼成除去し、前記無機多孔質粒子から成る多孔質層を形成する工程、
前記角型断面中空管の一端を溶融封止する工程、
前記角型断面中空管の前記空房に、この空房を残して前記無機多孔質粒子と屈折率が同一になるよう調整された混合有機溶剤を充填し、前記多孔質層に前記混合有機溶剤を含浸させる工程、
前記空房を減圧しこの空房内に前記混合有機溶剤の蒸気を充満させる工程、
前記空房内に前記混合有機溶剤の蒸気および不活性気体を1気圧未満で充満させた状態で、前記角型断面中空管の他端を溶融封止する工程、
を有することを特徴とする熱レンズ形成素子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、全く新しい原理に基づく光路切替方法および装置として、熱レンズ形成素子中の制御光吸収領域に、制御光吸収領域が吸収する波長帯域の制御光、および、制御光吸収領域が吸収しない波長帯域の信号光を各々の光軸が一致するよう収束させて照射し、制御光が照射されていない場合は信号光が鏡の穴を通して直進するようにし、一方、制御光が照射される場合は、信号光の進行方向に対して傾けて設けた穴付ミラーを用いて反射することによって光路を偏光させる方法およびそのための装置を発明した(特許文献1参照)。この発明以前の背景技術については、特許文献1に詳しく記載されている。
【0003】
本発明者らは、また、熱レンズ形成素子および穴付ミラーを複数組み合わせて用いる光制御式光路切替型光信号伝送装置および光信号光路切替方法を発明した(特許文献2参照)。なお、特許文献1および特許文献2に記載の光路切替方式において制御光を照射した場合、熱レンズ効果によって信号光のビーム断面形状はリング状になる。そこでこの方式を以下「リングビーム方式」と呼ぶ。
【0004】
本発明者らは、以下に説明する発明も、出願している。熱レンズ形成光素子中の制御光吸収領域に、制御光吸収領域が吸収する波長帯域の制御光、および、制御光吸収領域が吸収しない波長帯域の信号光とを入射させ、その際、前記制御光および前記信号光が、前記制御光吸収領域にて収束するように照射されかつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が相異なるように照射され、これにより、前記制御光と前記信号光は、光の進行方向で前記制御光吸収領域の入射面またはその近辺において収束したのち拡散される。これにより、前記制御光吸収領域内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に熱レンズが形成され、形成された熱レンズによって、屈折率が変化し、前記信号光の進行方向を変えることを特徴とする光偏光方法および光路切替装置を開示した(特許文献3〜5参照)。特許文献3〜5において、熱レンズ形成光素子の制御光吸収領域としては、色素を溶剤に溶解したものをガラス容器に封じたものが開示されており、溶剤としては、少なくとも使用する色素を溶解するものであって、熱レンズ形成時の温度上昇に際し、熱分解することなく、かつ、沸騰する温度(沸点)が100℃以上、好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上のものを好適に用いることができると記載されている。なお、特許文献3〜5に記載の光路切替方式においては制御光を照射しても信号光のビーム断面形状はほぼ円形に保たれる。そこでこの方式を以下「丸ビーム方式」と呼ぶ。
【0005】
本発明者らは、液状の光応答性組成物を充填した光学セルを熱レンズ形成素子と呼び、前記光応答性組成物が感応する波長の制御光を吸収する色素溶液の溶剤として、160℃以上における粘度が0ないし3mPa・sであり、かつ、160℃における粘度の値で、40℃における粘度の値を除した値が1以上、6以下である溶剤を用い、更に、光学セルの形態として前記色素溶液を入射信号光の光軸を中心軸とする円柱またはその円柱に外接するN角柱(Nは4以上の整数)の形状の第1の空間内に充填して制御光吸収領域とし、前記第1の空間を溶液導入路および堰を介して第2の空間に接続させ、この第2の空間には前記色素溶液および不活性気体の気泡14が充填されている構造を開示した(特許文献6参照)。
【0006】
本発明者らは、また、素子の向きに依存せず広い使用温度範囲で高速に熱レンズを形成・消滅させることを目的に、熱レンズ形成素子として、信号光の波長の光を吸収せず、制御光の光を吸収する色素を溶剤に溶解させた色素溶液を収納する容器の形態が、合計4つの当該平面について互いに平行な、2つの外側平面および2つの内側平面を有する、両端が溶融封止された角型断面中空管であって、前記互いに平行な2つの外側平面および2つの内側平面はともに、制御光が照射されず信号光が直進する場合の光軸に対して垂直であり、前記互いに平行な2つの外側平面および2つの内側平面の大きさは、制御光および信号光の入射する領域および直進または光路切替されて出射する信号光が通過する領域において平面である大きさであり、色素溶液部分に近接して1つの気泡が存在する構造を開示した(特許文献7参照)。
【0007】
特許文献6および7には、制御光の光を吸収する有機色素の光および熱による分解を防ぐためには、色素溶液から酸素および水を徹底的に除去することが効果的であること、また、特許文献7には、色素溶液を不活性気体とともに、例えば石英ガラス製セルに溶融封止することで色素の分解を防止できることが記載されている。
【0008】
本発明者らは、また、少なくとも光吸収層膜を含む薄膜光素子中の光吸収層膜に、互いに波長の異なる制御光および信号光を各々収束させて照射し、前記制御光の波長は前記光吸収層膜が吸収する波長帯域から選ばれるものとし、少なくとも前記制御光が前記光吸収層膜内において焦点を結ぶものとし、前記光吸収層膜が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に生ずる屈折率の分布に基づいた熱レンズを用いることによって、前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う薄膜光素子において、前記光吸収層膜の厚さが、収束された前記制御光の共焦点距離の2倍を越えないことが好ましいことを見いだした(特許文献8参照)。
【0009】
一方、特許文献9には、十分な光触媒性能を示し、有機バインダーなどの媒体が劣化し難く、耐候性に優れた光半導体微粒子を提供する手段として、0.5nm〜10nmの細孔直径を有する多孔質シリカ膜で被覆された光半導体微粒子を製造する為の方法であって、少なくとも界面活性剤水溶液と、水溶性有機溶剤とを1〜10℃で混合して混合溶液を調製する工程と、1〜10℃で、光半導体微粒子およびアルコキシシランを前記混合溶液に添加し、撹拌することにより、該光半導体微粒子の表面に膜を形成する工程と、該膜で被覆された光半導体微粒子を焼成することにより、多孔質シリカ膜を形成する工程とを含むことを特徴とする光半導体微粒子の製造方法、多孔質シリカ膜の厚さが1nm〜300nmである前記光半導体微粒子の製造方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1a〜
図7の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
熱レンズ形成素子の構成:
まず、熱レンズ形成素子100の概略構成について説明し、その後、熱レンズ形成素子100を構成する各構成要素及びその製造方法について詳しく説明する。
図2cに示すように、熱レンズ形成素子100は、内部が中空の直方体であり、内部に内側平面16,17を含む4つの平面を備える角型断面中空管1と、そのうちの1つの平面である内側平面16に形成された無機多孔質粒子層6と、角型断面中空管1の内部に所定量充填される屈折率が調整された混合有機溶剤10と、角型断面中空管1の内部に封入される不活性気体からなる1つの気泡11とを備えている。角型断面中空管1の内部は、混合有機溶剤10及び気泡11によって満たされている。角型断面中空管1の一端7が溶融封止された後に混合有機溶剤10が充填されて、さらに、気泡11が封入された後に角型断面中空管1の他端12が溶融封止される。また、角型断面中空管1の内側平面16,17に対応する外側平面14,15には無反射コートが施される。
【0021】
[角型断面中空管]
図2c、
図3a等に示すように、本発明の熱レンズ形成素子100に用いられる、合計4つの当該平面について互いに平行な、2つの外側平面14,15および2つの内側平面16,17を有する角型断面中空管1の材質は石英ガラスが好適に用いられる。
【0022】
角型断面中空管1の管壁を構成する石英ガラスの板材の厚さSは100μmないし500μmが好適である。石英ガラスの板材の厚さSが100μmよりも薄いと、強度不足で加工時に破損し易くなる。一方、石英ガラスの板材の厚さが500μmよりも厚いと、収束しながら入射する信号光あるいは拡散・偏光しながら出射する信号光のビーム形状が屈折の影響で劣化する度合い、すなわち、ビーム断面形状の円からの乖離が大きくなり好ましくない。
【0023】
角型断面中空管1の寸法は加工上の制約、内部に注入される混合有機溶剤10の液柱の長さの制約、および、熱レンズ効果の大きさ、との関係で最適な大きさが決定される。
まず、加工上の制約として、外側平面の幅1mm以下の角型断面中空管1の末端を石英ガラスの融点約1700℃において加熱溶融によって封止する場合、内部の色素溶液の端部と溶融封止部分の距離Hは最小10mmであり、上限については加工上の制限はなく、産業上の利用の観点からはできるだけ短いことが好ましく、15mm以内であれば好適である。一方、角型断面中空管1の寸法は加工上の制約、内部に注入される色素溶液の液柱の長さMは、最小1mm、最長15mm程度であることが好ましい。液柱の長さMが1mmよりも短いと、信号光および制御光の通過する平面部分が、角型断面中空管1の溶融封止端面の形状の影響を受けるおそれがある。液柱の長さMには特に上限はないが、色素溶液充填操作上、最長15mmよりも短いことが好ましい。したがって、角型断面中空管1の一方の端に色素溶液の液柱を一端に寄せて5ないし10mmの長さで充填した場合、角型断面中空管1の全長は20ないし25mmである。
【0024】
一方、熱レンズ形成素子100に用いられる角型断面中空管1の内側平面2つ(内側平面16および17)の間隔、すなわち、無機多孔質粒子層6の厚さd1に、屈折率が調整された混合有機溶剤の厚さd2を加えた光路長d0は、熱レンズ形成および消滅の応答速度の観点から最適な大きさが決定される(
図2c参照)。すなわち、制御光吸収領域における熱レンズ形成をできるだけ効果的に行うには、特定の領域にある程度の熱エネルギーが蓄積される必要がある。例えば、一例として、ガラス基板に色素薄膜を真空蒸着によって直接形成した場合には、制御光を収束照射しても発生した熱は瞬時に拡散してしまうため、検知できるような熱レンズ効果は起こらない。無機多孔質粒子層6の厚さd1および屈折率が調整された混合有機溶剤10の厚さd2を各々変えて、熱レンズ効果の大きさを調べた結果、無機多孔質粒子層6の厚さd1は100μmから200μmが好ましいこと、また、屈折率が調整された混合有機溶剤10の厚さd2については、熱レンズ効果の大きさよりも無機多孔質粒子層6を製造する際の空房4の厚さが、作業上、200μmないし500μmであることが好ましいことから、厚さd1にd2を加えた光路長dは400μmから700μmが好ましいことが判った。無機多孔質粒子層6の厚さd1が100μm未満であると、無機多孔質粒子層6を構成する無機多孔質粒子に内包された無機色素が制御光を吸収したときの熱が角型断面中空管1の内側平面16に逃げてしまい、熱レンズの形成が妨げられる。一方、無機多孔質粒子層6の厚さd1が200μmを超えると、色素が制御光を吸収したときの熱が無機多孔質粒子層6に止まり、近接した混合有機溶剤10における熱レンズ形成に有効に利用されない。屈折率が調整された混合有機溶剤10の厚さd2は無機多孔質粒子層6を製造する際の空房4の厚さに相当するが、これが200μm未満であると、多孔質粒子の分散液の注入抵抗が大きくなり、作業に支障をきたす。一方、厚さd2が500μmを超えると、厚さd1にd2を加えた光路長dが700μmを超えることとなり、熱レンズ効果によって光路が偏光される信号光の偏向角度を考慮すると、角型断面中空管1の信号光入射面および出射面の幅を、相応に大きくする必要が生じる。その結果、角型断面中空管1の断面サイズが外寸で1.2mm以上となり、有機溶剤注入後の溶融封止に大きな炎が必要となり、溶融封止に失敗する可能性が高くなってしまう。
【0025】
また、熱レンズ形成素子100に用いられる角型断面中空管1の内側平面16,17の幅Dは、平面部分に収束されて入射する制御光および信号光のビーム径、および、広がりながら出射する信号光のビーム径、および、光路が偏光されて出射する信号光のビーム径と出射位置から規定される。なお、信号光は角型断面中空管1の内側平面16または17に内接する円(その直径Q=D)の中心を通過するものとする。具体的には、熱レンズ形成素子100に入射する前記信号光および制御光のビーム直径の大きい方をRとしたとき、角型断面中空管1の内側平面16,17の幅Dの最小値は、前記大きい方のビーム直径Rの2倍程度であれば良い。幅Dの最小値または長さMの最小値が2Rよりも小さいと、広がりながら出射する信号光が、角型断面中空管1の内側平面16,17に直交する内側側面16,17に遮られる可能性がある。ビーム直径Rが最も大きくなるのは、マルチモードファイバーからの出射光をコリメートした平行光を信号光または制御光として入射させる場合であって、Rは100μm前後である。すなわち、2RすなわちDの最小値は200μmである。
【0026】
角型断面中空管1の内側平面16,17の幅Dは、角型断面中空管1の管壁を構成する石英ガラスの強度上の制約を受け、当該石英ガラスの板材の厚さSの2倍を超えると破損し易くなる。厚さSが100μmの場合、信号光または制御光ビームの制約、すなわちDは200μmとすると前記2つの制約を同時に満足する。厚さSが200〜250μmの場合、Dの最大値は400〜700μmであり、強度的にも信号光または制御光ビームの透過上にも好適である。
【0027】
以上まとめると、熱レンズ形成素子100に用いられる角型断面中空管1の寸法上の好ましい実施の形態は次の通りである。
【0028】
(1)角型断面中空管1の管壁の厚さS:200〜250μm。
【0029】
(2)角型断面中空管1の内側平面の幅D:500〜700μm。
【0030】
(3)角型断面中空管1の外側平面の幅D:1000〜1200μm。
【0031】
(4)角型断面中空管1の内側平面2つの間隔d0:500〜700μm。
【0032】
(5)角型断面中空管1の内部の一端に注入される混合有機溶剤の液柱の長さM:1〜15mm。
【0033】
(6)内部の混合有機溶剤10の端部と溶融封止部分の距離H:10〜15mm。
【0034】
[角型断面中空管の製造]
公知の方法によって製造された角型断面中空管1のプリフォームを公知の方法によって溶融延伸・冷却することによって、本発明の熱レンズ形成素子100に用いられる角型断面中空管1を製造することができる。角型断面中空管1の寸法上の好ましい実施の形態は前述の通りである。
【0035】
信号光が通過する角型断面中空管1の4つの面(2つの外側平面14,15および2つの内側平面16,17)の平行度および平滑性については、次のような公差を満足することが好ましい。なお、X,Y,Z軸は以下のように定義する。
【0037】
Y軸:信号光が通過する角型断面中空管1の4つの面14〜17に平行で、角型断面中空管の長軸に直交。
【0038】
Z軸:角型断面中空管1の4つの面14〜17を垂直に通過する信号光の方向。
【0039】
(1)平滑性:波長(λ)400〜1600nmの光についてλ/4。
【0040】
(2)Z軸に対するX軸方向の角度ずれ:1度以下、好ましくは0.5度以下。
【0041】
(3)Z軸に対するY軸方向の角度ずれ:1度以下、好ましくは0.5度以下。
【0042】
[角型断面中空管1の切断および洗浄]
熱レンズ形成素子100の長軸方向の長さ(H+M)は、例えば、混合有機溶剤10の液柱の長さMが10mmの場合、20〜25mmである。この長さの熱レンズ形成素子100を製造するためには、後述の工程で失われる部分の長さを補って、予め、長さ(H+M)の2ないし3倍の長さ(具体的には50〜80mm)に、角型断面中空管1の切断を行うことが好ましい。角型断面中空管1の切断は公知の方法で行うことができる。
【0043】
[有機色素は使用不可]
本発明の熱レンズ素子において多孔質層を構成する、色素を内包した無機多孔質粒子は500〜600℃における焼成行程の高温に曝されるため、有機色素を使用することは困難である。
【0044】
[無機色素]
本発明の熱レンズ素子において多孔質層を構成する無機多孔質粒子に内包させるのに好適な無機色素を以下に列挙する。
【0045】
〔a〕金属塩(例、塩化コバルト、臭化銅など)
【0046】
〔b〕金属酸化物、複合酸化物顔料(例、大日精化工業株式会社製、ダイピロキサイド(登録商標)各種)
【0047】
〔c〕金属硫化物(例、硫化カドミウム、硫化銅)
【0048】
〔d〕金属微粒子およびコロイド(例、金、銀、ケイ素、ゲルマニウム)
【0049】
〔e〕化合物半導体(例、テルル化カドミウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、セレン化銅インジウム)
【0051】
なお、表1に掲げるような無機色素の吸収波長は、微粒子とした場合、粒子径と周辺環境によって変化するため、表1に記載する波長は、あくまで「一例」である。
【0052】
[無機多孔質粒子からなる無機多孔質粒子層の作成]
図1b〜1eに示すように、本発明の熱レンズ形成素子100の無機多孔質粒子層6は、無機色素を内包した無機多孔質粒子からなり、水平に載置された角型断面中空管1へ高分子バインダー溶液に分散させた無機多孔質粒子分散液2を注入した後、この無機多孔質粒子分散液2の大部分を流し出した後に角型断面中空管1の内側平面16の上に残留した残留無機多孔質粒子分散液3を、100℃以下の温度の送風空気8を角型断面中空管1の内部に送風して乾燥させる操作を繰り返し実施し、所望の厚さの無機多孔質粒子塗工膜5を形成し、これを完全に乾燥してから500〜600℃の送風空気9によって焼成し、高分子バインダーを除去することで作成される。
【0053】
[無機多孔質粒子]
本発明の熱レンズ形成素子100の無機多孔質粒子層6を形成する無機多孔質粒子としては、後述の混合有機溶剤10との屈折率の適合性の点から、酸化ケイ素(シリカゲル;波長588nmにおける石英ガラスの屈折率の例、1.5168)が好適である。酸化ケイ素からなる多孔質粒子は公知のゾルゲル法で好適に製造でき、その製造工程において、無機色素微粒子を内包させる。
【0054】
本発明の熱レンズ形成素子100の無機多孔質粒子層6を形成する無機多孔質粒子の粒度分布を制御することで、内包させた色素の吸収スペクトルの形、特に最長吸収波長(吸収端)をシャープに整えることができる。これは、制御光波長と信号光波長を、できるだけ近づける必要がある場合、重要である。
【0055】
本発明の熱レンズ形成素子100の無機多孔質粒子層6を形成する無機多孔質粒子の平均粒子径は、1次粒子として1〜100nm、1次粒子の凝集体として10〜1000nmが好適である。これらの粒径を外れた場合、粒度分布をシャープに制御することが困難になるおそれがある。
【0056】
[無機多孔質粒子の分散液]
無機多孔質粒子としてシリカゲルを用いる場合、分散液の溶剤としては水が好適である。高分子バインダーとしてはポリビニルアルコールが好ましく、特に分散剤を使用することなく、安定かつ低粘度の分散液(塗工液)を調整することができる。
【0057】
無機多孔質粒子としてシリカゲルを用いる場合の分散液の好適な具体的実施の形態は、例えば、シリカゲルの1次粒子径7nm、凝集体としての粒子径100nmを8重量%で水に超音波分散した液とポリビニルアルコールの8重量%水溶液を1:4重量部で混合したものである。
【0058】
[無機多孔質粒子塗工膜の作成]
図1aに示すように、角型断面中空管1を例えば長さ300mmに切断し、その一端を保温・加熱炉35の内部に載置された注入ヘッダー20の挿入孔21へ差し込む。注入ヘッダー20に取り付けられた空気導入バルブ22を閉じ、分散液導入バルブ23を開き、無機多孔質分散液25を角型断面中空管1へ注入し、廃液受器30に余剰分散液が流れ出るまで注入を続けた後、分散液導入バルブ23を閉じる。次いで、空気導入バルブ22を開き、空気余熱器26で室温以上、100℃未満に加熱された空気を、水平に載置された角型断面中空管1へ穏やかに注入する。空気の流速は、毎秒10〜30mmになるように流量を制御する。こうして、角型断面中空管1の内側平面16の上面へ、無機多孔質粒子塗工膜5を形成する。この分散液注入及び乾燥の手順を繰り返して行い、角型断面中空管1の内壁17の上面に、所望の厚さの無機多孔質粒子塗工膜5を形成する。加温した空気を注入により水分を除去し、無機多孔質粒子塗工膜5を完全に乾燥する。次いで、保温・加熱炉35の内部温度を500〜600℃に加熱し、空気導入バルブ22を開き、送風空気24を空気余熱器26で加熱して500〜600℃に加熱された空気を角型断面中空管1へ注入する。空気の流速は、毎秒100〜500mmになるよう、流量を制御する。こうして無機多孔質粒子塗工膜5に含まれる高分子バインダーを燃焼・除去し、無機多孔質粒子層6を角型断面中空管1の内側平面16の上面に形成する。以上の行程で、空気の注入速度が高すぎると、無機多孔質粒子層6にヒビが入ったり、表面が波打ったりする。また、焼成温度が600℃を超えると、シリカゲルの孔が融着するおそれが出る。
【0059】
[無機色素を内包した無機多孔質粒子の作成]
本発明の熱レンズ形成素子100の製造プロセスにおいて、無機多孔質粒子層6を構成する無機多孔質粒子に無機色素を内包させる手順は、無機多孔質粒子層6の焼成工程の前に行うことが好ましい。無機多孔質粒子層6を構成する無機多孔質粒子に無機色素を内包させる手法は以下に列挙する方法が好適に利用できる。
【0060】
〔A〕必要に応じて界面活性剤を用い、水と、水溶性有機溶剤と、無機色素微粒子と、アルコキシシランとを含む溶液を、温度調整下で撹拌することにより該無機色素微粒子の表面にシリカゲル膜を形成し、無機顔料微粒子を内包した無機多孔質粒子を作成する。
【0061】
〔B〕必要に応じて界面活性剤を用い、水と、水溶性有機溶剤と、アルコキシシランとを含む溶液を、温度調整下で撹拌することによりシリカゲル微粒子の核を形成させ、そこへ無機色素微粒子の分散液を追加して、温度調整下で撹拌を続けることによって無機顔料微粒子を内包した無機多孔質粒子を作成する。
【0062】
いずれの場合も、アルコキシシランの反応温度は20℃以下、好ましくは0℃ないし10℃に保つことが好ましい。前記の温度範囲以下では水が凍結するおそれがある。一方、反応温度が高いと粗大なシリカゲル粒子が形成され、無機多孔質粒子層6を構成する無機多孔質粒子としては不適切となる。
【0063】
[好適な色素濃度]
本発明の熱レンズ形成素子100において、無機多孔質粒子層6の厚さd1および屈折率が調整された後述の混合有機溶剤10の厚さd2を各々変えて、熱レンズ効果の大きさを調べた結果、無機多孔質粒子層6の厚さd1は100μmから200μmが好ましいことを見いだした。ここで、無機多孔質粒子層6を構成する無機多孔質粒子に内包される色素の濃度は、使用される制御光の波長において、透過率が0.1%から10%になるよう、調整することが好ましい。前記透過率が0.1%未満になるよう、色素の濃度を高めると、信号光の波長領域まで裾を引いた吸収の影響や散乱の影響が大きくなり、熱レンズ形成素子100を透過する信号光の減衰が増すおそれがある。また、前記透過率が10%を超えると、制御光照射時、充分な大きさの熱レンズの形成が困難となるおそれがある。
【0064】
言うまでもなく、使用する色素の吸収係数が大きいほど、無機多孔質粒子に内包させたときの色素濃度の調整が容易になる。
【0065】
[混合有機溶剤]
熱レンズ形成素子100に好適に用いられる有機溶剤の一般的諸物性は特許文献7に詳細に記載されている。本発明の熱レンズ形成素子100に用いられる混合有機溶剤10は、これらの諸物性を満足する上に、制御光が照射されない場合の信号光透過率を最大にするよう、無機多孔質粒子層6と屈折率を等価にする必要がある。
【0066】
石英ガラスないしシリカゲルの屈折率は石英ガラスの組成、特に水酸基の含有量に応じて異なるが、一例として、波長588nmにおいて1.51680、波長1060nmにおいて1.50669である。これに対して、下記の4成分混合溶剤の市販品(これを「溶剤#1」と呼ぶ。)の波長588nmにおける屈折率は1.563と、石英ガラスよりも若干大きい。因みに、有機溶剤分子中のフェニル基など芳香族残基の含有量が大きいほど、屈折率は高くなる。一方、脂肪族系有機溶剤の屈折率は比較的低い。
・第1成分:1−フェニル−1−(2,5−キシリル)エタン
・第2成分:1−フェニル−1−(2,4−キシリル)エタン
・第3成分:1−フェニル−1−(3,4−キシリル)エタン
・第4成分:1−フェニル−1−(4−エチルフェニル)エタン
【0067】
溶剤#1の諸物性は以下の通りである。
・外観:無色透明液体
・臭気:弱い芳香臭
・沸点:290〜305℃
・融点:−47.5℃
・蒸気圧:0.067Pa (25℃)
・蒸気密度:7.2(空気=1)
・比重(水=1):0.987
・水溶解度(20℃):水に溶けない。
・体積熱膨張率(25℃から85℃):約5%
【0068】
溶剤#1に第5の成分として、屈折率の低い脂肪族系有機溶剤として、n−パラフィンを混合することで、混合有機溶剤としての諸物性、特に粘度−温度特性を熱レンズ形成素子用有機溶剤として好適に保ったまま、屈折率の値を石英ガラスないしシリカゲルの値に近づけることが可能となる。
【0069】
n−パラフィンとしては、沸点が溶剤#1に近いものとして、n−ヘプタデカンを好適に用いることができる。
【0070】
n−ヘプタデカンの諸物性は以下の通りである。
・外観:無色透明液体
・臭気:弱い灯油臭
・沸点:302℃
・融点:22〜24℃
・屈折率:1.436(20℃、波長588nm)
・比重(水=1):0.77
・水溶解度(20℃):水に溶けない。
【0071】
溶剤#1に種々の割合でn−ヘプタデカンを混合した場合の屈折率および信号光透過率の測定例を表2に掲げる。なお、屈折率の測定はナトリウムのD線(波長588nm)を光源とするアッベ式屈折率計を用い、赤外線波長の信号光透過率の測定は、外寸1mmスクエア(正方形)、内寸500μmスクエア(正方形)の角型断面中空管1の内側平面16に厚さ200μmのシリカゲル焼成層(シリカゲルの見かけの粒子径100nm)を設け、一端のみ封止した熱レンズ形成素子100に混合有機溶剤試料を注入し、シリカゲル焼成層に混合有機溶剤を充分含浸させた後、熱レンズ効果測定用テストベンチ(
図4)に取り付け、信号光として赤外線レーザーを強度1mWで照射し、当該混合有機溶剤のみを注入した、シリカゲル焼成層を有さない、角形断面中空管・素管を参照試料として、透過信号光の強度を比較する方法で実施した。なお、透過率測定の場合、
図4における直進出力側信号光・光ファイバー420の代わりに光パワーメーターのセンサーを設置した。本測定の場合、一端のみ封止した熱レンズ形成素子の外側平面にARコートを行っていないため、信号光の透過率は最良でも90%前後である。
【0073】
[角型断面中空管の一端封止と真空乾燥]
図2a〜
図3cに示すように、角型断面中空管1の一端7をバーナーで加熱溶融し、封止する。封止部分を光学顕微鏡で拡大して観察し、ピンホールが残っていないことを確認することが好ましい。バーナーの燃焼ガス中の水分が溶融封止した角型断面中空管1の内部に結露することがあるので、一端封止した角型断面中空管1を、適当な密閉可能な真空容器(図示せず)に入れ、例えば80℃以上に加熱しながら真空乾燥する。真空乾燥チャンバー内部の圧力が3×10
-4Pa未満に到達すれば、乾燥は充分である。
【0074】
[角型断面中空管への溶液注入]
混合有機溶剤10への水分および酸素の悪影響を避けるため、混合有機溶剤10の調整および以下の注入工程は、次のような条件を満足するグローブボックス(図示せず)内で実施することが好ましい。
【0076】
(2)水分濃度0.5ppm未満(露点温度−80℃以下)
【0077】
前記密閉可能な真空容器(図示せず)をパスボックスを通じて前記グローブボックス内部へ入れてから、真空乾燥が済んだ一端封止済みの角型断面中空管1を取り出す。
図2bに示すように、一端封止済みの角型断面中空管1の内部へ混合有機溶剤注入管19を、その先端が一端封止済みの角型断面中空管1の封止端に届くまで挿入し、混合有機溶剤注入管19を通じて混合有機溶剤10を注入する。混合有機溶剤10の注入量は、混合有機溶剤注入管19を引き抜いた後で、混合有機溶剤10の液柱の長さが1〜15mmになるように調整する。
【0078】
[角型断面中空管の他端仮封止]
溶融封止端側に混合有機溶剤10が注入された一端封止済の角型断面中空管1を、硬化に1時間以上を要する接着剤であって、後述の圧力まで減圧した際に揮発する成分のない接着剤を入れた容器の中に入れ、これを適当な真空チャンバー(例、前記パスボックス)に入れて、例えば圧力を0.01気圧に保ち、接着剤が硬化するのを待つ。接着剤としては、例えば、揮発成分のないエポキシ接着剤を好適に用いることができる。接着剤の使用量は一端封止済みの角型断面中空管1の開放端(他端)を仮封止するに最小限の量、例えば50〜100mgが好ましく、接着剤を入れる容器の大きさは、例えば、高さ10〜20mmで、一端封止済みの角型断面中空管1を縦に支えるのに充分な大きさであり、断面は、一端封止済みの角型断面中空管1を挿入するのに必要最小限な大きさ、例えば、直径2〜3mmの円形であれば良い。
【0079】
[不活性気体の気泡]
角型断面中空管1の他端の仮封止を行う前に、一端封止済みの角型断面中空管1の内部に不活性気体を充填して1つの気泡11を形成する。本発明の熱レンズ形成素子100は
図2(c)に示すように、角型断面中空管1の一端には混合有機溶剤10が1本の液柱として気泡無しに存在し、他端には後述の不活性気体からなる1つの気泡11が混合有機溶剤10の液柱に接して存在することを特徴とする。混合有機溶剤10が1本の液中として存在しているため、角型断面中空管1の壁面と溶液の摩擦力によって、熱レンズ形成素子100に外部から衝撃を受けても、液中は分断されにくくなっている。不活性気体からなる1つの気泡11の好適な長さHは、前述のように10〜15mmである。不活性気体としては窒素、アルゴン、ヘリウムを好適に使用できる。なお、気泡11の好ましい圧力については特許文献7に詳細に記述されている。
【0080】
[角型断面中空管の他端封止]
前記接着剤が硬化し、一端封止済みの角型断面中空管1の仮封止が完了した後、一端封止済みの角型断面中空管1をグローブボックス・前記真空チャンバーから取り出し、混合有機溶剤充填部分を上にしてつり下げ、混合有機溶剤10の存在しない部分をガスバーナーで溶融封止する。溶融封止を必要最小限の大きさのバーナー炎を用い、1秒以内で行うことで、内部の混合有機溶剤10に影響を与えること無しに、石英ガラスの溶融封止を完了することができる。両端が封止されて完成した本発明の熱レンズ形成素子100の封止状態の完全性を確認するため、熱レンズ形成素子100の重量(10〜数十ミリグラム)をμg単位で精密に測定した後、例えば、85℃において1000時間、加熱を継続した後、重量を精密に測定した。その結果、重量変化が±2μg以内であることが確認され、封止が完全であることが判った。
【0081】
[無反射コート]
空気の屈折率1.00に対し本発明の熱レンズ形成素子100の角型断面中空管1の材質・石英ガラスの屈折率は可視光領域から波長1.5μmの赤外線領域において1.56ないし1.50である。したがって、無反射コートを行わないと、平面部分14または15へ垂直入射する信号光または制御光について4〜5%の反射ロスが発生するため、使用する信号光および制御光の波長に対応した無反射(AR)コートを行うことが推奨される。ARコートとしては公知のものを使用することができる。例えば、使用する信号光および制御光の波長に対応した誘電体多層膜や空気と石英ガラスの屈折率の中間の値の屈折率を有する透明有機高分子膜を使用することができる。ただし、透明有機高分子膜を熱レンズ形成素子100の表面に形成する真空プロセスは通常、バッチ処理で生産性が低く、また、高温に曝されるため、混合有機溶剤10を充填する前にARコートを行う必要があり、その際、熱レンズ形成素子100の角型断面中空管1の内部が汚染されないよう、例えば、角型断面中空管1の両端を仮に溶融封止し、混合有機溶剤10を注入する前に一端を開放する、などの工程を追加する必要が生ずる。これに対し、透明有機高分子を適当な揮発性溶剤に溶解した溶液を熱レンズ形成素子100の表面にディッピング法などで塗工、乾燥してARコート層を形成する方法は、熱レンズ形成素子100の角型断面中空管1の内部に混合有機溶剤10を注入し、両端を溶融封止してからARコートが可能であり、製造プロセスを合理化可能である。透明有機高分子の屈折率は可視光領域から波長1.5μmの赤外線領域において1.2ないし1.4であることが好ましい。更に好ましくは屈折率1.35程度が好適である。屈折率が前記の範囲よりも小さくても、大きくても、反射ロスの低減効果が小さくなる。透明有機高分子溶液の具体例としては、有機フッ素樹脂「サイトップ(CYTOP)」(登録商標)(旭硝子株式会社製)をフッ素系溶剤に溶解した溶液を好適に使用することができる。この高分子膜の屈折率は1.34である。塗工によるARコート膜の膜厚は10nmないし200μmであることが好ましい。これよりも薄いと塗膜にピンホールができるおそれがある。また、これよりも厚い膜を塗工法で作成すると、膜厚のムラが発生し易くなる。なお、ARコート膜の厚さを100μmないし200μmとすると、非常に薄い石英ガラスからなる、本発明の熱レンズ形成素子100の平面部分を補強し、耐衝撃性を高めることもできる。
【0082】
[リングビーム方式光路切替への応用]
図4は本発明の熱レンズ形成素子100を用いた、リングビーム方式光路切替装置の一例の概略構成図である。本実施形態の本発明の熱レンズ形成素子100として、外寸1mmスクエア(正方形)、内寸500μmスクエア(正方形)の角型断面中空管1の内側平面16に厚さ200μmのシリカゲル焼成層(シリカゲルの見かけの粒子径100nm)として、公知の太陽電池製造方法を適用して製造したリン化インジウムの微粒子を内包したシリカゲル微粒子を焼成して作成した無機多孔質粒子層6を設けたものを用い、無機多孔質粒子層6を成すシリカゲル微粒子の粒子間および孔内に、混合有機溶剤試料を充分含浸させた後、空房4にアルゴンを0.01気圧で封入、密閉封止したものを用いた。信号光光源として波長1550nmのレーザーおよび制御光光源として波長850nmのレーザーを用いた場合の本実施形態の本発明の熱レンズ形成素子100の透過率は、各々、90%以上および5%以下であった。
【0083】
なお、リングビーム方式光路切替装置の詳細は特許文献1に記載されている。概要として、入力側信号光・光ファイバー400から出射した入射信号光をコリメートレンズ40にてほぼ平行なビーム401に変換してダイクロミックミラー42を透過させ、更に集光レンズ43にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子100に入射させる。一方、制御光・光ファイバー410から出射した制御光をコリメートレンズ41にてほぼ平行なビーム411としてダイクロミックミラー42にて反射させ、信号光ビーム401と光軸を一致させ、更に集光レンズ43にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子100に入射させる。リングビーム方式光路切替装置および方法においては、制御光と信号光を同一光軸で熱レンズ形成素子の制御光吸収領域へ収束入射させ、更に、制御光および信号光双方の収束領域が重なり合い、前記制御光吸収領域の信号光入射側近傍に位置するよう、光学系が微調整される。こうすると、熱レンズ形成素子・制御光吸収領域の信号光入射側近傍へ収束入射した制御光は、前記制御光吸収領域において光吸収されながら進行し、吸収された光エネルギーは熱に変わり、混合有機溶剤の熱膨張に伴う密度減少および屈折率の低下を引き起こし、光の進行方向に特定の形状の熱レンズを形成させる。このように前記制御光吸収領域に形成された熱レンズ内部に収束入射された信号光が広がりながら進行すると、入射時にはガウス分布であった信号光のビーム断面のエネルギー分布は、リング状に変換され、制御光が照射されていない場合の角度よりも大きな開き角度で、熱レンズ形成素子100から出射する。この出射信号光を、集光レンズ43よりも大きな開口数の受光レンズ44にて受光し、ほぼ平行なビームに変換してから、制御光が照射されず直進する場合の信号光・光路に45度の角度で設置され、制御光が照射されず直進する場合の信号光ビームが通過するのに充分な大きさの穴が設けられた穴付ミラー45に入射させると、制御光が照射されていない場合、信号光421は直進し、結合レンズ46に入射し、収束され、直進出力側信号光・光ファイバー420に入射していく。一方、制御光が照射された場合は、熱レンズ効果によってリングビームに変換された信号光は、穴付ミラー45の穴の周辺で反射され、結合レンズ47にて収束され、光路切替信号光431として光路切替出力側信号光・光ファイバー430に入射していく。
【0084】
図6a〜
図6dに、信号光光源として波長1550nm、制御光光源として波長850nmのレーザーを用い、本実施形態の熱レンズ形成素子100に照射した場合の出射信号光ビームの断面形状と制御光パワーの対応を示す。なお、
図4における穴付ミラー45に代えて、ビームプロファイラーの受光面を載置した。制御光を照射しない場合、
図6aのように信号光のビーム断面はエネルギーがガウス分布の丸ビームである。制御光パワーを2.0、4.0mw、8.0mWと大きくすると、信号光のビーム断面は、各々
図6b,
図6c,
図6dのように変化する。この場合、制御光パワーが4.0mWのとき、リングの形状および大きさが最適になり、同2.0mwではパワーが足りず「リングの開き具合」が不充分であり、同8.0mWでは制御光が強すぎて熱レンズの形状が乱れ、リングが多重に形成される。
【0085】
本発明の熱レンズ形成素子100を用いた、リングビーム方式光路切替装置は、4ないし5mWという小さい制御光パワーで、制御光を照射しない場合のガウス分布・丸ビームと、制御光を照射した場合のリングビームの変換を行うことができる。本発明の熱レンズ形成素子100の制御光吸収領域すなわち制御光の波長の光を吸収する色素が内包された無機多孔質粒子から成る多孔質層が収束照射された制御光のビームウエスト近傍において吸収して発生した熱が、効率良く混合有機溶剤10に伝達され、混合有機溶剤10が熱膨張して収束照射された制御光のビームウエスト近傍において熱レンズを形成し、高い効率で信号光のリングビームへの変換を実現することができた。
【0086】
本実施形態の熱レンズ形成素子100を用いた、リングビーム方式光路切替装置は、3年以上の繰り返し使用に耐えることが確認された。
【0087】
[比較実施形態1]
本発明の熱レンズ形成素子100に替えて、テトラ−ターシャリーブチル銅フタロシアニンの溶剤#1溶液(色素濃度0.2重量%)を充填した、従来型の熱レンズ形成素子を用い、制御光光源として波長660nmのレーザーを用い、
図4のリングビーム方式光路切替装置にて、熱レンズ効果による光路切り替えを完結的に、繰り返し実施したところ、初期の性能を2年間は発揮できた。ところが、3年以上の経過で熱レンズ形成素子の色素溶液内に青色の固体が析出してきた。固体が析出しても、色素溶液は有効に作用するため、熱レンズ効果による光路切り替えは実施可能であったが、析出した固体が信号光の光路をよぎる際、信号光が一時的に遮られ、ノイズとして検出された。すなわち、光通信における光路切替用としての耐用年数は2年程度であることが確認された。
【0088】
[丸ビーム方式光路切替への応用]
図5は本発明の熱レンズ形成素子100を用いた、丸ビーム方式光路切替装置の一例の概略構成図である。丸ビーム方式光路切替装置の詳細は特許文献3〜5に記載されている。本実施形態の本発明の熱レンズ形成素子100として、外寸1mmスクエア(正方形)、内寸500μmスクエア(正方形)の角型断面中空管1の内側平面16に厚さ200μmのシリカゲル焼成層(シリカゲルの見かけの粒子径100nm)として、公知の太陽電池製造方法を適用して製造したセレン化銅インジウムの微粒子を内包したシリカゲル微粒子を焼成して作成した無機多孔質粒子層6を設けたものを用い、無機多孔質粒子層6を成すシリカゲル微粒子の粒子間および孔内に、混合有機溶剤試料を充分含浸させた後、空房4にアルゴンを0.01気圧で封入、密閉封止したものを用いた。信号光光源として波長1550nmのレーザーおよび制御光光源として波長980nmのレーザーを用いた場合の本実施形態の本発明の熱レンズ形成素子100の透過率は、各々、90%以上および5%以下であった。
【0089】
概要として、入力側信号光・光ファイバー500から出射した入射信号光をコリメートレンズ50にてほぼ平行なビーム501に変換してダイクロミックミラー52を透過させ、更に集光レンズ53にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子100に入射させる。一方、制御光・光ファイバー510から出射した制御光をコリメートレンズ51にてほぼ平行なビーム511としてダイクロミックミラー52にて反射させ、更に集光レンズ53にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子100に入射させる。丸ビーム方式光路切替装置および方法においては、制御光と信号光を熱レンズ形成素子100の制御光吸収領域へ収束入射させ、更に、制御光および信号光双方の収束領域中心点が30μm程度離れて重なり合い、前記制御光吸収領域の信号光入射側近傍に位置するよう、光学系が微調整される。こうすると、熱レンズ形成素子・制御光吸収領域の信号光入射側近傍へ、僅かに離れて収束入射した制御光は、前記制御光吸収領域において光吸収されながら進行し、吸収された光エネルギーは熱に変わり、混合有機溶剤の熱膨張に伴う密度減少および屈折率の低下を引き起こし、光の進行方向に特定の形状の熱レンズを形成させる。このように前記制御光吸収領域に形成された熱レンズ内部に、異なる収束位置で収束入射された信号光が広がりながら進行すると、入射時のガウス分布の丸ビーム断面のエネルギー分布を保ちながら進行方向が偏光され、制御光が照射されていない場合の直進方向から数度、光路が偏光されて、熱レンズ形成素子100から出射する。この出射信号光を、受光レンズ54にて受光し、ほぼ平行なビームに変換し、制御光が照射されていない場合、信号光521は直進し、結合レンズ56に入射し、収束され、直進出力側信号光・光ファイバー520に入射していく。一方、制御光が照射された場合は、熱レンズ効果によって丸ビームのまま光路が偏光された信号光531はミラー58を経由して、信号光532として結合レンズ57に入射し、収束され、光路切替出力側信号光・光ファイバー530に入射していく。
【0090】
制御光パワーを10.0、20.0、30.0、40.0mWとしたとき、熱レンズ効果によって丸ビームのまま偏向された信号光531の偏向角を、制御光が照射されていない場合に信号光が熱レンズ形成素子100を出射する点を原点とし、制御光が照射されていない場合の信号光出射方向を「0度」として測定した結果を
図7に示す。この測定の際、
図5に示す光学装置において、結合レンズ56,ミラー58などに替えて、ビームプロファイラーの受光面を載置し、光路切替信号光の偏向角をビームの受光位置から計算で算出した。制御光パワーを強くするにしたがい、偏向角は10.5度、13.0度、14.1、15.2度と大きくなった。本発明の熱レンズ形成素子100の制御光吸収領域すなわち制御光の波長の光を吸収する色素が内包された無機多孔質粒子から成る多孔質層が収束照射された制御光のビームウエスト近傍において吸収して発生した熱が、効率良く混合有機溶剤10に伝達され、混合有機溶剤10が熱膨張して収束照射された制御光のビームウエスト近傍において熱レンズを形成し、高い効率で信号光の光路偏向を実現することができた。
【0091】
本発明の熱レンズ形成素子は、3年以上の長期間使用に耐えることが確認された。現在、10年を超える実使用条件における耐久性の試験を進めている。