【実施例】
【0035】
図1を参照し、符号2は、本発明の試験ガス生成装置を示している。
この試験ガス生成装置2は、水素ガス源20と、希釈ガス源21とを有していて、水素ガス源20は、柔軟性を有する樹脂から成る袋状の容器28を有しており、容器28は、水素ガス配管22の一端である水素ガス流入部25に接続されている。
【0036】
希釈ガス源21として、ここでは容器は用いられておらず、大気雰囲気が希釈ガス源21にされ、希釈ガス配管23の一端である希釈ガス流入部26は、希釈ガス源21である大気雰囲気中に開放されている。
【0037】
水素ガス配管22の他端と、希釈ガス配管23の他端とは、互いに接続されており、その接続された部分を合流部10とすると、水素ガス配管22の水素ガス流入部25と合流部10との間には、水素ガス用抵抗体32が設けられており、水素ガス源20から供給された水素ガスは、水素ガス配管22の内部空間と水素ガス用抵抗体32の内部空間とで構成される水素ガス流路12を流れ、合流部10に流入する。
【0038】
また、希釈ガス配管23の希釈ガス流入部26と合流部10との間には、希釈ガス用抵抗体33が設けられており、希釈ガス源21から供給された希釈ガスは、希釈ガス配管23の内部と希釈ガス用抵抗体33の内部とで構成される希釈ガス流路13を流れ、合流部10に流入する。
【0039】
合流部10には、混合ガス配管24の一端が接続されており、混合ガス配管24の他端には、大気に開放された放出口から成る放出部27が設けられている。
合流部10では、流入した水素ガスと希釈ガスとが混合され、混合ガスが生成されている。
【0040】
混合ガス配管24の、合流部10に接続された部分と放出部27との間には、吸引ポンプ15が設けられており、吸引ポンプ15で合流部10が吸引されると、合流部10内に位置する混合ガスは、混合ガス配管24の内部空間と、吸引ポンプ15の内部空間とで構成された混合ガス流路14を流れて放出部27から放出される。
【0041】
放出部27の近傍には、検査対象の車載水素センサ37が配置されており、放出部27から放出された混合ガスは、車載水素センサ37に吹き付けられ、車載水素センサ37の混合ガスに対する検出性能を試験することができる。
【0042】
ここで、水素ガス用抵抗体32は、水素ガス流路12を流れる水素ガスに対して、予め設定された流量制限特性を有しており、希釈ガス用抵抗体33は、希釈ガス流路13を流れる希釈ガスに対して、予め設定された流量制限特性を有している。
【0043】
水素ガス流路12と希釈ガス流路13と吸引ポンプ15よりも合流部10側の混合ガス流路14のうち、水素ガス用抵抗体32と希釈ガス用抵抗体33以外の部分の流量制限効果は、無視できるほど小さいものとすると、水素ガス流路12を流れる水素ガスの流量は水素ガス用抵抗体32の両端の圧力の差と、水素ガス用抵抗体32の流量制限特性とで決まり、また、希釈ガス流路13を流れる希釈ガスの流量は希釈ガス用抵抗体33の両端の圧力の差と、希釈ガス用抵抗体33の流量制限特性とで決まる。
【0044】
水素ガス源20には、高濃度(ここでは100%)の水素ガスが充填されており、水素ガス源20の水素ガス量が減少し、柔軟性を有する容器内の圧力が低下しようとすると、大気圧が容器を押圧して容器の容積を減少させ、容器の内部は大気圧に維持される。
【0045】
また、水素ガスボンベ等から水素ガス源20に水素ガスが注入され、柔軟性を有する容器内の圧力が上昇しようとすると、容器は大気圧に抗して膨張し、容積が増大して容器の内部は大気圧に維持される。
【0046】
本発明では、吸引ポンプ15の吸引力が変化した場合でも、水素ガス用抵抗体32の両端の圧力の差と希釈ガス用抵抗体33の両端の圧力の差とが等しくなるようにされている。
この例では、水素ガス用抵抗体32と希釈ガス用抵抗体33の両端のうち、一端は合流部10に接続されており、水素ガス用抵抗体32の一端と希釈ガス用抵抗体33の一端とは、両方が、吸引ポンプ15が動作して合流部10を吸引したときの圧力にされている。
【0047】
水素ガス用抵抗体32と希釈ガス用抵抗体33との他端は大気圧にされており、従って、水素ガス用抵抗体32の両端の圧力の差と希釈ガス用抵抗体33の両端の圧力の差とは等しくなる。
【0048】
吸引ポンプ15が動作を開始して、合流部10を大気圧よりも低い圧力にすると、水素ガス源20と希釈ガス源21とから、水素ガスと希釈ガス(ここでは大気中の空気)とがそれぞれ合流部10に供給され、合流部10で供給された水素ガスと希釈ガスとから成る混合ガスが生成され、混合ガス流路14を流れて、放出部27から大気に放出される。
【0049】
混合ガスが流れる混合ガス流路14には、水素センサ16が設けられ、水素センサ16によって、混合ガス流路14を流れる混合ガスの水素ガス濃度を検出するようになっている。
ここでは、混合ガス流路14を流れる混合ガスは、水素センサ16の内部を通過するようにされているが、混合ガスが水素センサ16を通過しないように配置してもよい。
【0050】
水素センサ16は、混合ガス流路14のうち、吸引ポンプ15と放出部27との間の位置で、混合ガス流路14を流れる混合ガスの水素ガス濃度を検出しているが、吸引ポンプ15と合流部10との間を流れる混合ガスの水素ガス濃度を検出してもよい。
【0051】
水素センサ16は、制御装置17に接続されており、検出した水素ガス濃度を示す検出結果は、水素センサ16から制御装置17に出力される。
制御装置17には、予め、水素ガス濃度の基準値が記憶されている。
【0052】
混合ガスの水素ガス濃度は、差圧によって変化するようになっており、制御装置17は入力された検出結果を基準値と比較し、水素センサ16が検出する水素ガス濃度が基準値と等しくなるように、吸引ポンプ15の吸引力を制御し、混合ガスの水素ガス濃度を基準値に近づけると、放出部27から放出される混合ガスの水素ガス濃度は基準値で安定し、混合ガスを試験ガスとして車載水素センサ37に吹き付けながら、車載水素センサ37を動作させると、車載水素センサ37が基準値の水素ガス濃度の試験ガスに対して、正常に動作しているかどうかの確認を行うことができる。
【0053】
水素ガス源20に充填された水素ガスは減少するが、柔軟性を有する容器28の容積が減少し、容器28内の圧力は大気圧に維持される。
水素ガス濃度が3.9%の試験ガスの生成を求められることから、水素ガス用抵抗体32の水素ガス流に対する流量制限特性と、希釈ガス用抵抗体33の希釈ガス流に対する流量制限特性は、水素ガスの流量に対する希釈ガス(空気)の流量の比率が1:24.6くらいになるように選定されている。
【0054】
<差圧と流量の測定>
水素ガス用抵抗体32と希釈ガス用抵抗体33の差圧に対する流量測定は
図7と
図8に示す装置により行った。
【0055】
水素ガス用抵抗体32の両端の圧力の差は、差圧計31により測定し、水素ガス用抵抗体32を流れる水素ガスの流量は、流量計41(石けん膜式)を用いて測定した。希釈ガス用抵抗体33の両端の圧力の差と、希釈ガス用抵抗体33を流れる希釈ガスの流量の測定についても同様に行った。
【0056】
水素ガス用抵抗体32の両端の圧力の差と希釈ガス用抵抗体33の両端の圧力の差とを、差圧、とすると、測定結果と、測定結果から算出した差圧と混合ガス中の水素ガス濃度との関係を下記表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
図2は、表1の水素ガス用抵抗体32の差圧に対する水素ガスの流量の測定値を結んだグラフであり、
図3は、希釈ガス用抵抗体33の差圧に対する希釈ガスの流量の測定値を結んだグラフである。
図4は、表1の、差圧に対する混合ガスの水素ガス濃度の計算値を結んだグラフである。
【0059】
次に、上記試験ガス生成装置2の合流部10に、差圧計31を接続し、表1に記載した差圧と同じ差圧になるように、制御装置17によって吸引ポンプ15を制御して混合ガスを作成し、水素センサ16によって、水素ガス濃度を検出した。
検出した水素ガス濃度を、計算した水素ガス濃度と共に、下記表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の、差圧計31の圧力測定結果に対する水素ガス濃度との関係と、差圧に対する計算で求めた水素ガス濃度との関係を、同じ
図5にそれぞれグラフとして記載した。
計算値と実測値の差異は、計算値が水素ガス用抵抗体32と希釈ガス用抵抗体33の両端の圧力の差に対する個別の流量測定値に基づくのに対し、実測値では、流量計41(石けん膜式)を挿入せずに、水素ガス濃度を水素センサ16により実測した結果であることに基づくと考えられる。石けん膜式流量計は、小さな圧力損失で微小流量を測定するのに適しているが、微小流量では、石けん膜の表面張力と重力の影響があり、流量比から求めた水素ガス濃度と流量計の挿入無しで水素ガス濃度を実測した値との差異となって現れる。
計算値と実測値のいずれの特性も、差圧を制御すること、または合流点の圧力を制御することによって、水素ガス濃度を調節することが可能であることを示している。
【0062】
<測定装置>
表1,2の数値を求めた測定装置を説明する。
水素ガス用抵抗体32についての、差圧と水素ガス流量の関係を得るために、
図7に示すように、柔軟性を有する容器28を水素ガス流入部25に接続し、水素ガス流入部25を、流量計41を介して水素ガス用抵抗体32の一端に接続し、他端を吸引ポンプ15に接続する。
【0063】
吸引ポンプ15を動作させ、容器28内に貯留された100%の水素ガスを吸引し、流量計41で流量を測定しながら水素ガス用抵抗体32を通過させ、放出部27から大気に放出させる。
【0064】
水素ガス用抵抗体32と並列に、差圧計31を接続させておき、水素ガス用抵抗体32に水素ガスが流れるときに、水素ガス用抵抗体32の両端に生じる差圧を計測する。吸引ポンプ15の吸引力を変えて、水素ガス用抵抗体32の差圧と水素ガス流量とを測定することで、水素ガス用抵抗体32についての、差圧と水素ガス流量の関係を得ることができる。
【0065】
また、希釈ガスと希釈ガス用抵抗体33についての、差圧と希釈ガス流量の関係を得るために、
図8に示すように、大気に開放された希釈ガス流入部26を、流量計41を介して、希釈ガス用抵抗体33の一端に接続し、他端を吸引ポンプ15に接続する。
吸引ポンプ15を動作させ、空気を希釈ガスとして、希釈ガス流入部26から吸引し、流量計41で流量を測定しながら希釈ガス用抵抗体33を通過させ、放出部27から大気に放出させる。
【0066】
上記水素ガス用抵抗体32の測定と同様に、希釈ガス用抵抗体33と並列に、差圧計31を接続させておき、希釈ガス用抵抗体33に希釈ガスが流れるときに、希釈ガス用抵抗体33の両端に生じる差圧を計測する。吸引ポンプ15の吸引力を変えて、希釈ガス用抵抗体33の差圧と希釈ガス流量とを測定することで、希釈ガス用抵抗体33についての、差圧と希釈ガス流量の関係を得ることができる。
【0067】
<水素ガス濃度の検出結果>
次に、上記試験ガス生成装置2の制御装置17に、3.9%の水素ガス濃度を基準値として設定し、混合ガスを生成し、試験ガスとして放出部27から放出させた。生成した混合ガスの水素ガス濃度を水素センサ16で検出した。検出結果としての水素濃度の推移を、
図6のグラフに示す。
【0068】
吸引ポンプ15が動作を開始してから約8秒経過後に検出結果は基準値と同じ水素ガス濃度になった。約15秒経過後に水素濃度がゼロに戻ったのは、検出結果の立ち下がりを確認するために容器28を水素ガス流入部25から切り離し、水素ガスの供給を停止させたときの応答を示している。
【0069】
<抵抗体、ガス源>
上記水素ガス用抵抗体32には、内径0.35mm、長さ37mmの注射針様のステンレス管を用いた。希釈ガス用抵抗体33には内径1.0mm、長さ30mmの樹脂管を用いた。
このようなキャピラリチューブの他、水素ガス用抵抗体32や希釈ガス用抵抗体33には、ピンホールや、多孔質体を用いることができる。
【0070】
以上は、水素ガス用抵抗体32の一端と希釈ガス用抵抗体33の一端が大気圧にされ、他端が合流部10で同じ圧力にされていたが、合流部10と反対側の一端は、同じ圧力にされる場合に限定されるものではなく、一定圧力が維持されれば、水素ガス用抵抗体32の一端と希釈ガス用抵抗体33の一端とは、異なる圧力にされていてもよい。
【0071】
水素ガス源については、例えば、
図9(a)に示す水素ガス源20aのように、水素吸蔵合金が内部に配置された金属容器42を用い、水素吸蔵合金に水素ガスを吸蔵させておき、金属容器42の水素ガス出口を水素ガス流入部25に接続し、金属容器42と水素ガス流入部25との間の水素ガス流路に柔軟性を有する容器43を接続する。このとき、金属容器42内部の水素吸蔵合金から放出される水素ガスの流量は、水素ガス用抵抗体32に流れるべき水素ガス流量よりも少しだけ大きくなるように、水素吸蔵合金の量(仕様)が適正に選定されている必要がある。このときの過剰な水素が柔軟性を有する容器43に移行することで、水素ガス流入部25における圧力を大気圧に保持できる。
【0072】
また、
図9(b)に示す水素ガス源20bのように、水素吸蔵合金入りの金属容器42の水素ガス出口と水素ガス流入部25との間の水素ガス流路の圧力を、大気に開放させるための開放部45を設け、過剰な水素ガスを大気に開放して、水素ガス用抵抗体32の一端が大気圧に維持されるようにして水素ガスを供給するようにしてもよい。
【0073】
なお、水素ガス源20には、100%の水素ガスを用いる他、希釈ガスで希釈された水素ガスも用いることができるが、水素ガス源20の水素濃度が変わると、差圧と流量の関係も変わることになるので、水素ガス用抵抗体32と希釈ガス用抵抗体33の流量制限特性を選定し直す必要がある。