(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-155715(P2016-155715A)
(43)【公開日】2016年9月1日
(54)【発明の名称】注入用グラウト組成物及び鋼材の腐食抑制方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20160805BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20160805BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20160805BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20160805BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20160805BHJP
E01D 1/00 20060101ALN20160805BHJP
C04B 111/26 20060101ALN20160805BHJP
C04B 111/70 20060101ALN20160805BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B24/18 B
C04B24/12 Z
E04G23/02 B
E01D22/00 A
E01D1/00 D
C04B111:26
C04B111:70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-35302(P2015-35302)
(22)【出願日】2015年2月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成26年9月1日 第5回既設ポストテンション橋のPCグラウト問題対応委員会 において口頭にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】睦好 宏史
(72)【発明者】
【氏名】角田 敦
(72)【発明者】
【氏名】山中 弘次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美和
(72)【発明者】
【氏名】荻野 修大
(72)【発明者】
【氏名】真田 修
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
4G112
【Fターム(参考)】
2D059BB39
2D059GG21
2D059GG39
2E176AA01
2E176BB13
4G112PB23
(57)【要約】
【課題】PC鋼材に対する腐食性を有し、かつPC構造物の未充填部に注入可能な流動性を有するグラウト組成物を提供する。
【解決手段】陰イオン交換樹脂、セメント及び水を含有する混合物からなるグラウトであって、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材と前記コンクリートとの間隙への注入用グラウト組成物。前記グラウトは混和剤をさらに含有することができる。前記陰イオン交換樹脂は、平均粒子径が例えば、0.1〜1mmの範囲である。
塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材の腐食抑制方法。前記コンクリートと鋼材の間隙に、上記組成物を充填し、次いで充填物を少なくとも所定期間、前記間隙に維持することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン交換樹脂、セメント及び水を含有する混合物からなるグラウトであって、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材と前記コンクリートとの間隙への注入用グラウト組成物。
【請求項2】
前記鋼材は少なくとも部分的に腐食している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記グラウトは混和剤をさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記混和剤は、グラウト用混和剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記陰イオン交換樹脂は、平均粒子径が0.1μm〜1.0mmの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記セメントは、ポルトランドセメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記グラウトは、JP漏斗試験(JSCE−F531)において、3.5〜25秒の範囲の流下時間を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
施工後、材齢7日〜28日において30N/mm2以上の圧縮強度(JSCE−G531)を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材の腐食抑制方法であって、
前記コンクリートと鋼材の間隙に、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物を充填し、次いで充填物を少なくとも所定期間、前記間隙に維持することを含む前記方法。
【請求項10】
塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材に付着及び/又は含浸した塩またはイオンの除去方法であって、
前記コンクリートの鋼材の間隙に、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物を充填し、次いで充填物を少なくとも所定期間、前記間隙に維持することを含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材とコンクリートとの間隙への注入用グラウト組成物、及びこの組成物を用いる鋼材の腐食抑制方法に関する。さらに本発明は、この組成物を用いる既設のプレストレコンクリート中に敷設された鋼材に付着及び/又は含浸した塩またはイオンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存鉄筋コンクリート(RC)あるいはプレストレストコンクリート(PC)構造物(総称してコンクリート構造物)の経年劣化による耐久性が社会的な問題となっている。特に、海中、海岸近傍や融雪剤を散布するような場所にあるコンクリート構造物の場合、塩化物イオンがコンクリート内部に浸入し、鉄筋が腐食して劣化が進む。そのため、種々の方法で補修や補強が行われている。
【0003】
PC橋などのPC構造物では、プレストレストコンクリートの内部空間にPC鋼材が敷設されており、プレストレストコンクリートとその内部空間に敷設された鋼材と間に隙間がある。この隙間にPCグラウトが未充填である場合があり、この未充填部においては、PC鋼材がグラウトで覆われていないため、腐食しやすく補修する必要がある。しかし、未充填部の鋼材表面に塩化物イオンが存在していると補修後の再劣化の可能性が懸念される。
【0004】
PC構造物の未充填部にグラウトを注入するに当たり、グラウトに腐食防止剤を含有させることが知られており、腐食防止剤として、亜硝酸塩を用いることが知られている(特許文献1及び2)。しかし、亜硝酸塩は発癌性物質であり、これらの利用は好ましくない。
【0005】
ところで、既設の鉄筋コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食抑制方法として、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある前記既設の鉄筋コンクリートの表面のコンクリートの少なくとも一部をはつり取り、はつり取った部分の少なくとも一部に、強塩基性陰イオン交換樹脂を含むモルタルを充填して断面補修する方法が知られている(例えば、特許文献3)。この方法は、強塩基性陰イオン交換樹脂を含むモルタルを鉄筋コンクリートの表面コンクリートをはつり取った部分に塗布して、鉄筋コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食を抑制する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-2055号公報
【特許文献2】特開2013-2056号公報
【特許文献3】特開2013-117057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PC構造物の未充填部に注入するためのグラウトであって、PC鋼材の腐食を防止することが可能なグラウトの提供が望まれている。本発明者らは、PC構造物の未充填部の鋼材表面から塩化物イオンの除去できる補修用グラウトを開発することを目的として、安全性が高く、塩化物イオンを吸着する能力を持つ陰イオン交換樹脂に着目した。陰イオン交換樹脂を添加したグラウトを用いることで、PC鋼材の腐食を防止することを検討した。陰イオン交換樹脂を添加したグラウトをPC鋼材に埋設することでPC鋼材の表面に付着した塩化物イオンを除去できることを確認した。
【0008】
しかし、グラウトに陰イオン交換樹脂を添加すると、グラウトの流動性が極端に悪化し、PC構造物の未充填部である、プレストレストコンクリートとその内部空間に敷設された鋼材との間の隙間への注入が困難であることが判明した。
【0009】
そこで本発明の目的は、PC鋼材に対する腐食性を有し、かつPC構造物のPCグラウト未充填部に注入可能な流動性を有するグラウト組成物を提供することにある。さらに本発明は、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材の腐食抑制方法を提供すること、並びに前記鋼材に付着及び/又は含浸した塩またはイオンの除去方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]
陰イオン交換樹脂、セメント及び水を含有する混合物からなるグラウトであって、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材と前記コンクリートとの間隙への注入用グラウト組成物。
[2]
前記鋼材は少なくとも部分的に腐食している、[1]に記載の組成物。
[3]
前記グラウトは混和剤をさらに含有する、[1]に記載の組成物。
[4]
前記混和剤は、グラウト用混和剤である、[3]に記載の組成物。
[5]
前記陰イオン交換樹脂は、平均粒子径が0.1μm〜1.0mmの範囲である、[1]に記載の組成物。
[6]
前記セメントは、ポルトランドセメントである、[1]に記載の組成物。
[7]
前記グラウトは、JP漏斗試験(JSCE−F531)において、3.5〜25秒の範囲の流下時間を有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
施工後、材齢7日〜28日において30N/mm
2以上の圧縮強度(JSCE−G531)を有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]
塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材の腐食抑制方法であって、
前記コンクリートと鋼材の間隙に、[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物を充填し、次いで充填物を少なくとも所定期間、前記間隙に維持することを含む前記方法。
[10]
塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材に付着及び/又は含浸した塩またはイオンの除去方法であって、
前記コンクリートの鋼材の間隙に、[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物を充填し、次いで充填物を少なくとも所定期間、前記間隙に維持することを含む前記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PC鋼材に対する腐食性を有し、かつPC構造物の未充填部に注入可能な流動性を有するグラウト組成物を提供することができる。さらに本発明によれば、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材の腐食抑制方法、並びに前記鋼材に付着及び/又は含浸した塩またはイオンの除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の実験結果(NaCl溶液(薄い))を示す。
【
図2】実施例1の実験結果(NaCl溶液(濃い))を示す。
【
図3】実施例1の実験結果(NaCl固体(薄い))を示す。
【
図4】実施例1の実験結果(NaCl固体(濃い))を示す。
【
図5】実施例1の実験結果(NaCl固体(薄い+さび))を示す。
【
図6】実施例2の実験結果(レオロジー試験)を示す。
【
図7】実施例2の実験結果(圧縮強度、材齢7日)を示す。
【
図8】実施例2の実験結果(圧縮強度、材齢28日)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[注入用グラウト組成物]
本発明は、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材と前記コンクリートとの間隙への注入用グラウト組成物であって、前記グラウトは、陰イオン交換樹脂、セメント及び水を含有する混合物からなる。
【0014】
陰イオン交換樹脂は、鋼材に対して塩害を起こす塩化物イオンに対するイオン交換能に優れるという観点から、強塩基性陰イオン交換樹脂であることが好ましい。強塩基性陰イオン交換樹脂は、陰イオン交換基として強塩基性を示す強塩基性陰イオン交換基を有する陰イオン交換樹脂であれば制限はない。重合度、形状等は特に限定されない。強塩基性陰イオン交換樹脂は、例えば、スチレンとジビニルベンゼン共重合体をクロロメチル化し、続いてアミノ化することによって得ることができる。強塩基性陰イオン交換基としては、例えば、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。強塩基性陰イオン交換樹脂は、OH型でもCl型でもよく、Cl型の場合は、水酸化ナトリウム等で再生および洗浄することによりOH型にしてから使用すればよい。なお、Cl型からOH型に変化した場合、約20%膨潤し、その分、粒径も大きくなる。
【0015】
強塩基性陰イオン交換樹脂の代表例としては、例えばアンバージェット4002、アンバージェット4010、アンバージェット4400、アンバーライトIRA402BL、アンバーライトIRA900、アンバーライトIRA910(いずれもローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社(ダウ・ケミカルグループ)製)等の第4級アンモニウム基含有陰イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0016】
陰イオン交換樹脂が有するイオン交換容量には特に限定がないが、より多くの塩化物イオンを捕捉できるという観点からは、高いほど好ましい。但し、コストとのバランスも考慮すると、イオン交換容量は、例えば、2〜5ミリ当量/gの範囲であることが適当である。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0017】
陰イオン交換樹脂の直径には特に限定がなく、グラウト調製時点において、例えば、平均粒子径が0.1μm〜1.0mmの範囲が適当であり、グラウトの流動性を考慮すると0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm(300μm)以下であることがより好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であれば、グラウトに混合する場合に粉末として浮遊することなく容易に混合ができる。1.0mm以下であれば、グラウト中でイオン交換樹脂が異物となることなく、力学特性を実用化に支障が出るほどに低下させることもない。流動性を考慮すると、陰イオン交換樹脂粒子は、直径の上限が0.5mm以下、好ましくは0.3mm以下であることがより好ましい。陰イオン交換樹脂は、異なる直径または平均直径を有するイオン交換樹脂の混合物を用いても良い。陰イオン交換樹脂粒子は、粒状であっても、適当な手段で粉砕した粉末状であってもよい。尚、陰イオン交換樹脂の直径は、グラウトへの混合前後、及び充填直後においては、ほとんど変化はない。
【0018】
グラウトに混合される陰イオン交換樹脂の混合量(容積比率)は、用いる陰イオン交換樹脂の種類や処理対象の鋼材の塩害の程度等を考慮して適宜決定することができる。例えば、グラウトに対する容積比で、0.1〜10.0%の範囲とすることができる。0.1%以上であれば、所定の防食効果が得られる。10.0%以下であれば、陰イオン交換樹脂のグラウトへの混合のための分散も容易に行うことができ、またグラウトの注入のための施工も容易に行うことができる。イオン交換能と注入の容易さを考慮すれば、1.0〜7.0%の範囲とすることが好ましい。
【0019】
本発明においてグラウトに使用されるセメントは、水との反応により硬化体を形成できる水硬性セメントである限り、特に限定されない。水硬性セメントとしては、例えば、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント等が挙げられる。ポルトランドセメントおよびアルミナセメントに高炉スラグ、フライアッシュなどの混和材と混合してもよい。
【0020】
陰イオン交換樹脂は塩化物イオンを吸着する能力を有するが、イオン交換樹脂に対する吸着能の序列はSO
42->NO
3->Cl
-である。普通セメントにはSO
42-が石膏(CaSO
4・2H
2O)として約5重量%含まれている。石膏は水に対する溶解度がCl
-(NaCl、CaCl
2)より低い。そのため、短期的には石膏に由来する硫酸イオンは少なく、陰イオン交換樹脂は硫酸イオンに妨げられずに、塩化物イオンに対して吸着能を発揮する。但し、長期的には陰イオン交換樹脂はSO
42-を吸着し、塩化物イオンが遊離して、鋼材が腐食する恐れがある。このことから、グラウトに用いるセメントとしては、ポルトランドセメントが好ましい。
【0021】
しかし、長期寿命の観点から、好ましくは注水直後のセメントからSO
42-を遊離する可能性が実質的にない硫酸塩を実質的に含まないセメントが選ばれる。硫酸塩を実質的に含まないセメントとは、セメントの原料として硫酸塩を含む材料を用いないことを意味し、セメントの製造上不可避的にセメントに混入する不純物として硫酸塩を含有するセメントは、本発明における硫酸塩を実質的に含まないセメントに包含される。硫酸塩を実質的に含まないセメントとしては、具体的にはアルミナセメント、マグネシアセメント等が挙げられる。但し、アルミナセメントの場合、硬化体の圧縮強度が低下する可能性があるので、そのような場合には、高炉スラグを併用することが好ましい。尚、ポルトランドセメントには、普通セメント、早強セメント、中庸熱セメント、低熱セメント、耐硫酸塩セメント等が含まれる。
【0022】
グラウトは、陰イオン交換樹脂及びセメントに適度の水を加えたグラウトである。陰イオン交換樹脂のグラウト中の含有量は上述のとおりであるが、セメントの含有量及び水の含有量は、グラウトの流動性、注入施工性、さらに硬化後の強度などを考慮すると、水/セメントの質量比は0.15〜0.5が好ましい。
【0023】
本発明における注入用グラウト組成物は、グラウトの流動性を改善する目的で、混和剤をさらに含むことが好ましい。但し、混和剤は、グラウトの流動性を改善するとともに、グラウトが硬化した後の機械的特性を棄損しないものであることが好ましい。そのような観点から、混和剤としては、例えば、ポゾリスNo.70(BASFジャパン、成分:リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体)を用いることができる。さらに、混和剤としては、グラウト用混和剤が好ましく、グラウト用混和剤としては、BASFジャパンGF-1700N(メラミンスルホン酸系化合物+水溶性高分子 エーテル系化合物含有)を使用することもできる。
【0024】
上記成分以外に、凝結遅延剤、凝結促進剤、膨張材等を添加することもできる。
【0025】
グラウトの調製方法としては、セメント及びイオン交換樹脂を乾燥状態で混合したのち、適量の水を加えて混合してもよく、市販のグラウトと適量の水と混練するときに別に陰イオン交換樹脂を添加して混合してもよい。ミキサーは、例えば、強制二軸練りミキサー、傾動ミキサー、パン型ミキサー、ハンドミキサーなどがあるがとくに限定されない。水との混合の前に、セメント及びイオン交換樹脂を乾燥状態で混合することが、イオン交換樹脂をグラウト中により均一に分散することができるためより好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、塩害を起こした既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材とコンクリートとの間隙、又は塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材とコンクリートとの間隙に注入して用いられるためのものである。プレストレストコンクリート中に敷設された鋼材は、塩害を起こして、少なくとも部分的にまたは全面的に腐食している場合がある。本発明のグラウト組成物を前記隙間に注入して、グラウト組成物と鋼材とが接触状態を維持すれば、陰イオン交換樹脂に鋼材の表面に付着した塩化物イオンが拡散移動して、経時的に鋼材の表面から塩化物イオンが除去される。
【0027】
鋼材とコンクリートとの間隙は、場所により広いところ及び狭いところがあり、この隙間に満遍なく注入するためには、ある程度の流動性を有することが適当であり、流動性としては、JP漏斗試験(JSCE−F531)において、例えば、3.5〜25秒の範囲の流下時間を有することが好ましい。特に、高粘性の場合、14秒以上であり、低粘性の場合6〜14秒の範囲、超低粘性の場合3.5〜6秒の範囲である。
【0028】
グラウト施工後は、材齢7日〜28日において30N/mm
2以上の圧縮強度(JSCE−G531)を有することが、構造物の強度維持または向上のための適当である。
【0029】
[鋼材の腐食抑制方法]
本発明は、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材の腐食抑制方法を包含する。この方法は、コンクリートと鋼材の間隙に、前記本発明の組成物を注入し、間隙の少なくとも一部又は全部に充填し、次いで充填物を少なくとも所定期間、前記間隙に維持することを含む。
【0030】
前述のように、本発明のグラウト組成物を前記隙間に充填することで、グラウト組成物と鋼材とが接触する。この状態を維持すれば、陰イオン交換樹脂に鋼材の表面に付着した塩化物イオンがグラウトを介して拡散移動して、経時的に鋼材の表面から塩化物イオンが除去される。これにより、鋼材の腐食が抑制される。上記所定期間は、陰イオン交換樹脂に鋼材の表面に付着した塩化物イオンがグラウトを介して拡散移動して、経時的に鋼材の表面から塩化物イオンが除去される期間に応じて適宜決定できる。
【0031】
[塩またはイオンの除去方法]
本発明は、塩害を起こした、または塩害を起こす可能性がある既設のプレストレストコンクリート中に敷設された鋼材に付着及び/又は含浸した塩またはイオンの除去方法も包含する。この方法は、コンクリートの鋼材の間隙に、本発明の組成物を注入し、間隙の少なくとも一部又は全部に充填し、次いで充填物を少なくとも所定期間、前記間隙に維持することを含む。
【0032】
前述のように、本発明のグラウト組成物を前記隙間に充填することで、グラウト組成物と鋼材とが接触する。この状態を維持すれば、陰イオン交換樹脂に鋼材の表面に付着した塩化物イオンを含む陰イオンがグラウトを介して拡散移動して、経時的に鋼材の表面から陰イオンが除去され、結果として塩も除去される。これにより、鋼材の腐食が抑制される。上記所定期間は、陰イオン交換樹脂に鋼材の表面に付着した塩化物イオンがグラウトを介して拡散移動して、経時的に鋼材の表面から塩化物イオンが除去される期間に応じて適宜決定できる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0034】
実施例1
塩化物イオンの除去効果
グラウトは、普通ポルトランドセメントを使用した。水セメント比を45%とし、陰イオン交換樹脂混入量は体積率0%、3%、5%とした。結果を
図1〜5に示す。樹脂混入率の増加に伴いグラウトに拡散する塩化物イオンが増加することが確認された。また,鋼材表面に付着させたNaClが溶液の場合は早い段階で拡散が収束し、材齢が経過しても全塩化物量に変化はなかった。固体の場合は,材齢の経過に伴い拡散した全塩化物量も増加した。
【0035】
実施例2
PCグラウトの設計施工指針(発行:プレストレストコンクリート工学会)により性能照査を行った。
グラウトの調製
(1)PCグラウトの設計施工指針に基づき、水セメント(ポルトランドセメント)比45%を採用した。
(2)イオン交換樹脂は、セメント量の割合に応じて添加した。イオン交換樹脂は、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社(ダウ・ケミカルグループ)製のアンバージェット4002を水酸化ナトリウムで再生処理し、粉砕、分級を行い0.1μm〜300μmの粒子径に調整したものを用いた。
(3)混和剤は、ポゾリスNO.70(BASFジャパン)を使用した。
【0036】
【表1】
【0037】
・流動性(粘性):レオロジー試験(JSCE-F531)
試料のグラウトを漏斗の上部まで注ぎ、流出口からグラウト流が急激に細くなるまでの時間を測定。
判定基準
高粘性:流下時間23〜14秒
低粘性:流下時間14〜6秒
【0038】
試験結果を以下の表1及び
図6に示す。上記条件のグラウトでは適量の混和剤を使用することで、注入可能な流動性を有するグラウトを得ることができる。
【0039】
【表2】
【0040】
・圧縮強度:圧縮強度試験(JSCE-G531)
直径50mm、高さ100mmの供試体を、同じ条件のものを3個ずつ用意し、最大荷重を測定する。
判定基準
材齢7日以降28日までに30N/mm
2以上を確認する。
【0041】
試験結果を
図7及び8に示す。
図7及び8に示す結果から、混和剤を使用したグラウトでも材齢7日以降28日までに30N/mm
2以上の圧縮強度を有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、塩害を受けた既設の鉄筋コンクリート構造物の内部の鋼材を腐食から守ることができる。結果として、海水等の塩水や融雪剤に暴露される鉄筋コンクリート構造物内部に埋設された鋼材を長期間腐食抑制し、コンクリート構造物の寿命を延長することが可能となる。