【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尿素オリゴマーやその薄膜の評価方法は、下記の通りである。
【0035】
(1)尿素オリゴマーの重量平均分子量、数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリメタクリル酸メチル(ポリマーラボラトリーズ社製)換算の重量平均分子量および数平均分子量を測定した。
<測定条件>
屈折率計:東ソー社製RI−8010
カラム:東ソー社製TSKgel GMHHR−H 1本
溶媒:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
流速:0.4ml/分
測定温度:40℃
【0036】
(2)尿素オリゴマー薄膜の厚み
触針式段差計XP−200(AMBIOS社製)を用い、薄膜表面と基板表面の段差を測定し、薄膜の厚みを求めた。
【0037】
(3)尿素オリゴマー薄膜の平均面粗さ(Ra)、最大高低差(Rz)の測定、結晶構造の観察
尿素オリゴマー薄膜の平均面粗さ(Ra)、最大高低差(Rz)の測定および結晶構造の観察は、AFM装置(日本電子社製)を用いて、原子間力顕微鏡(AFM)法によりおこなった。なお、測定はタッピングモードでおこなった。
【0038】
(4)尿素オリゴマーの同定
尿素オリゴマー薄膜の同定分析は、赤外吸収分析法(透過)の測定によりおこなった。なお、測定は、抵抗率1〜10Ωcmの低ドープP型のシリコン基板上に尿素オリゴマー薄膜を形成した試料を使用しておこなった。このシリコン基板は、赤外線が透過するので、赤外吸収スペクトルの測定が可能である。装置は、赤外分光計FTIR−660(日本分光社製)を用い、測定は、真空下(真空ポンプ引き)で、透過法を用いて積算1024回、分解能1cm
−1及び4cm
−1、MCT検出器でおこなった。1630cm
−1(CO伸縮)および1585cm
−1(NH変角)における吸収の有無を確認した。
【0039】
(5)残留分極Pr(mC/m
2)
強誘電特性評価は、実施例1にその条件を記載するように、ポーリング処理中におこない、最大の残留分極を測定した。
【0040】
(6)焦電係数(μC/m
2・K)
焦電特性評価は、下部電極/尿素オリゴマー薄膜/上部電極からなる尿素オリゴマー薄膜の積層体に、直流106MV/mの条件で5秒間ポーリング処理をおこない、残留分極Prが30mC/m
2以上であるサンプルを作製し、これを用いておこなった。
作製したサンプルの焦電特性評価は、黒体炉からの放射赤外線を、チョッパーを通してサンプルへ照射し、チョッピングした赤外線への出力応答電圧をロックイン検出した。その後、温度勾配を三角波で出力し、生じた焦電電流(短形波)から焦電係数を算出した。電流測定装置は、半導体評価装置4200(TFFケースレーインスツルメンツ社製)を用いて、温度勾配は0.84−1.08℃/min、測定温度は表1に記載の温度(温度範囲は、それぞれ40±2.5℃、100±2.5℃、120±2.5℃、130±2.5℃、150±2.5℃)でおこなった。
【0041】
(7)圧電特性(d33及びd31:pC/N)
圧電特性評価は、上述した焦電性評価と同様の方法で作製したポーリング処理後の積層体を用いておこなった。測定装置は、レーザ干渉変位計システム(小野測器社製)を用いた。圧電測定は、電場(分極)方向の圧電歪定数d33(pC/N)と、電場方向と垂直な方向の圧電歪定数d31(pC/N)の測定をおこなった。測定方法は、電極で挟まれた尿素オリゴマー薄膜の積層体に交流電界を印加(AC:25〜100V、AC周波数:2000Hz)した際の振動を、レーザードップラー計で測定し、d33とd31それぞれの圧電歪定数を算出した。
【0042】
実施例1
[尿素オリゴマーの製造]
反応容器に1,11−ジアミノウンデカンを11g投入した後、二酸化炭素をバブリングしてから、8〜12MPa、200℃、7時間の条件で重合反応をおこなって、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマー(Mw:2400、Mn:1200)を製造した。
【0043】
[尿素オリゴマー薄膜の製造]
シリコン(Si)基板(500μm)上に、下部電極として厚さ100nmのAlを蒸着してSi・Al基板を作製した。
作製したSi・Al基板上に、真空蒸着装置SVC−700TURBO−TM(サンユー電子社製)を用いて、下記条件で尿素オリゴマーの薄膜を作製した。
試料:直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマー(Mw:2400、Mn:1200)
前処理:尿素オリゴマーの低分子量体や不純物がSi・Al基板に蒸着しないようにするため、シャッターを閉じた状態で、真空度5×10
−4Pa、蒸着源の温度240℃の条件で、蒸着速度が安定している0.6nm/min以下になるまで尿素オリゴマーの加熱を続けた。蒸着速度が安定してからシャッターを開けて、Si・Al基板に蒸着できる状態にした。
蒸着:真空度10
−4Pa、蒸着源温度270±5℃、蒸着速度1.8nm/min、Si・Al基板温度20〜100℃の条件で蒸着をおこない、膜厚が200nmの尿素オリゴマー薄膜を形成した。形成された尿素オリゴマー薄膜は、平均面粗さ(Ra)が11.8nmであり、最大高低差(Rz)が246nmであった。
[アニール処理]
Si・Al基板に尿素オリゴマーを蒸着後、尿素オリゴマー薄膜の結晶化を促進し、また熱活性電流の原因である内部電荷を取り除くために、真空雰囲気下で140℃、2時間のアニール処理をおこない、アニール処理後、室温に戻るまで窒素雰囲気下で自然冷却した。
【0044】
[積層体の製造]
アニール処理後の尿素オリゴマー薄膜上に、厚さ60nmのAlを蒸着して上部電極を形成し、下部電極(Al、100nm)/尿素オリゴマー薄膜(200nm)/上部電極(Al、60nm)からなる構造の積層体を形成した。
【0045】
[ポーリング処理、強誘電特性評価]
得られた積層体をポーリング処理しながら、強誘電性を評価するために、積層体の基板を120〜170℃に加熱しながら、積層体の上部電極と下部電極との間に、三角波電圧を印加して、積層体の電束密度−電界(D−E)特性を測定した。なお、振幅電界は直流106MV/mまで昇圧し、周波数は、100Hzを超えると強誘電性が得られないため、0.01Hzから100Hzの間とした。電束密度−電界(D−E)特性を測定し、分極反転電流が確認されたら、D切片から残留分極量Prを求めた。
ポーリング処理で、Prが30mC/m
2以上かつ最大Prまで、昇圧を繰り返した後、電圧の印加と基板の加熱を終了し、自然冷却をおこなった。
表1に示すように、最大のPrは100mC/m
2であり、残留分極が確認された。
[焦電特性評価]
上述した方法で作製したサンプルを用いて、焦電性評価をおこなった。焦電電流の測定は、120±2.5℃の温度範囲と40±2.5℃の温度範囲でおこなった。
その結果を表1に示す。焦電係数は、120℃において、38μC/m
2・Kであり良好な焦電特性が得られ、また、40℃においても問題なく焦電電流が観測された。
[圧電特性評価]
上述した方法で作製した積層体を用いて、圧電性評価をおこなった。圧電電流の測定は、120℃と40℃でおこなった。
表1に示すように、120℃において、圧電歪係数d33は17.0pC/N、d31は20.0pC/Nとなり、良好な圧電特性が得られた。
【0046】
[赤外吸収分析用薄膜の作製]
Si・Al基板に代えて、抵抗率1〜10Ωcmの低ドープP型のシリコン基板を使用した以外は、上記[尿素オリゴマー薄膜の製造]に記載の方法と同様にして、赤外吸収分析用の尿素オリゴマー薄膜を作製し、さらに、上記[アニール処理]に記載の方法と同様にして、アニール処理した尿素オリゴマー薄膜を作製した。
【0047】
実施例2〜11
表1に示したように、原料ジアミンの種類、尿素オリゴマーの重量平均分子量、蒸着源温度、薄膜厚み、アニール処理温度を変更した以外は、実施例1と同様にして、薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
VDFオリゴマー(ダイキン工業社製)を真空蒸着装置によって加熱し、蒸着速度0.2〜0.4nm/minの条件で、膜厚200nmのVDFオリゴマー薄膜を作製し、アニール処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0049】
比較例2
P(VDF/TrFE)(クレハ社製)をメチルエチルケトンに25℃で溶解した溶液を調製し、スピンコート法を用いて、2000rpm30秒の条件で、膜厚1500nmのP(VDF/TrFE)薄膜を作製し、実施例1と同様にして、薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0050】
比較例3
1,5−ジアミノペンタンと1,5−ジイソシアネートペンタンの蒸着重合により、ポリ尿素薄膜を、下部電極として厚さ100nmのAlを蒸着した石英基板上に作製し、アニール処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
比較例4
実施例1の尿素オリゴマーの製造工程において、1,11−ジアミノウンデカンと二酸化炭素の重合時間を20時間に変更して、高分子のポリ尿素(Mw:13000、Mn:7000)を製造した以外は実施例1と同様にして、蒸着法によりポリ尿素薄膜の作製を試みたが、分子量が高いポリ尿素は昇華せず、ポリ尿素薄膜を製造することができなかった。
【0052】
比較例5〜6
比較例5では、比較例4で製造したポリ尿素(Mw:13000、Mn:7000)を使用し、比較例6では、実施例1で製造した尿素オリゴマー(Mw:2400、Mn:1200)を使用して、それぞれ、ヘキサフルオロイソプロパノールに25℃で溶解して、濃度4.0質量%の溶液を調製した。
下部電極として厚さ100nmのAlを蒸着した石英基板(500μm)の温度を15〜25℃に調節し、石英基板の下部電極上に、ポリ尿素溶液(比較例5)、尿素オリゴマー溶液(比較例6)を、2000rpm30秒の条件でそれぞれスピンコートし、ポリ尿素薄膜(厚み:1400nm)、尿素オリゴマー薄膜(厚み:1400nm、最大高低差(Rz):1300nm)を作製した。
溶媒を除去し、表面を平滑化するために、メルト−クエンチ処理として、窒素雰囲気下で260℃、30秒間の熱処理をおこない、熱処理後、液体窒素にて急冷し、表面が平滑なポリ尿素薄膜とオリゴマー薄膜を作製した。
次いで、真空雰囲気下、150℃(比較例5)、140℃(比較例6)、24時間のアニール処理をおこない、アニール処理後、室温に戻るまで窒素雰囲気下で4℃/minで徐冷した。アニール処理後の比較例6の尿素オリゴマー薄膜は、平均面粗さ(Ra)が31.8nmであり、最大高低差(Rz)が400nmであった。
アニール処理後の薄膜上に、実施例1と同様にして上部電極を形成して積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、本発明の直鎖状熱可塑性尿素オリゴマーからなる薄膜は、薄膜の厚みが10〜1200nmであり、平均面粗さ(Ra)が0.01〜50.0nmであり、高い強誘電性、焦電性、圧電性を有するものであった。
図1に示すように、蒸着法で作製した実施例1の尿素オリゴマー薄膜は、直径数百nmの粒状物質が密に詰まったものであり、単結晶構造が優れており、平均面粗さ(Ra)も11.8nmと小さいことから、デバイスに適した優れたものであった。一方、スピンコート法で作製した厚みが1400nmである尿素オリゴマー薄膜(比較例6)は、
図2に示したように、大きい粒状物質で構成されており、平均面粗さ(Ra)も31.8nmと大きいものであった。
実施例1の、蒸着前の尿素オリゴマー、基板に蒸着した尿素オリゴマー薄膜、およびアニール処理後の尿素オリゴマー薄膜の赤外吸収分析法による配向変化を、
図3に示した。
図3の赤外吸収分析法において、蒸着後の尿素オリゴマー薄膜には、蒸着前の尿素オリゴマーと同様に、尿素結合に由来するC=O伸縮およびN−H変角のピークが観察され、またC=O伸縮(1630cm
−1付近)の吸収強度と、N−H変角(1580cm
−1付近)の吸収強度の比より、アニール処理前には、基板面に対する尿素結合の平行配向成分(
図4参照)が強く現れ、アニール処理後には、基板面に対する尿素結合の平行配向成分が弱まると同時に、垂直配向成分(
図4参照)が強く現れた。
実施例2〜4において、薄膜の厚みを変更したところ、薄膜の厚みの増大とともに、平均面粗さ(Ra)が低減し、圧電性能が向上した。
実施例5〜6において、尿素オリゴマーの重量平均分子量を変更したところ、重量平均分子量が高くなるにつれ、薄膜の平均面粗さ(Ra)が低減したが、焦電・圧電性能も低下した。分子量増大による焦電・圧電性能の低下は、尿素オリゴマーの分子鎖が長くなったことから、薄膜に存在する結晶が同一方向にやや配向しにくくなったためとみられる。
実施例7〜10において、尿素オリゴマーを構成するジアミンの炭素数を変更したところ、ジアミンの炭素数によって、薄膜の平均面粗さ(Ra)が大きく変化することはなかった。しかし、焦電・圧電性能は、高分子のポリ尿素薄膜の場合と同様に、炭素数が少なくかつ奇数であるジアミンを原料とした薄膜の方が、高い値を示すことが確認された。
【0055】
比較例1において、VDFオリゴマーを真空蒸着して作製した薄膜は、残留分極が130mC/m
2であった。しかし、焦電係数、圧電歪定数の測定において、測定温度が120℃であると、VDFオリゴマーの配向が平行方向から垂直方向に変化して、デバイスが破壊され、測定することが不可能であり、VDFオリゴマーを真空蒸着して得られた薄膜は、高温環境で使用することが困難なものであった。
比較例2において、P(VDF/TrFE)溶液をスピンコートして作製した薄膜は、残留分極が70mC/m
2であり、焦電係数が45μC/m
2・Kであり、圧電歪係数d33が23.8pC/N、d31が14.4pC/Nであったが、測定温度が、P(VDF/TrFE)の配向が平行方向から垂直方向に変化する温度の近辺であったので、焦電係数や圧電歪係数の測定値が不安定であった。
比較例3において、ジアミンとジイソシアネートを蒸着重合して作製したポリ尿素薄膜は、原料にイソシアネート系モノマーを使用しているので、熱硬化性となり、加熱すると架橋反応を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化するものであり、デバイス作製プロセスに加熱工程が入ると、ポリ尿素の強誘電性、焦電性、圧電性の性能が変化して、性能ムラが発生した。また、真空中で2種類のモノマーを蒸着重合させるので、薄膜製造に多大な時間を要し、尿素オリゴマーを蒸着させる本発明の方法よりも、製造工程が複雑であった。
比較例4において、ポリ尿素の真空蒸着を試みたが、上述のように、ポリ尿素が昇華せず、ポリ尿素薄膜を製造することができなかった。
比較例5において、ポリ尿素溶液をスピンコートして作製したポリ尿素薄膜は、膜が厚いので、平均面粗さ(Ra)は小さいが、高分子であることから、一部アモルファス(非晶)構造になっていた。また比較例6において、尿素オリゴマー溶液をスピンコートして作製した尿素オリゴマー薄膜は、実施例1の薄膜と比較して、平均面粗さ(Ra)が大きく、また電気性能も低かった。比較例5〜6のスピンコート法では、膜厚を数10nmにすることが困難であった。