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特開2016-155904尿素オリゴマー薄膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-155904(P2016-155904A)
(43)【公開日】2016年9月1日
(54)【発明の名称】尿素オリゴマー薄膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20160805BHJP
   C08G 71/02 20060101ALI20160805BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160805BHJP
【FI】
   C08J5/18CFF
   C08G71/02
   B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-33440(P2015-33440)
(22)【出願日】2015年2月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 有希
(72)【発明者】
【氏名】石田 謙司
(72)【発明者】
【氏名】森本 勝大
(72)【発明者】
【氏名】福冨 達也
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J034
【Fターム(参考)】
4F071AA52
4F071AF36
4F071AF40
4F071AG19
4F071AG23
4F071AG28
4F071AH12
4F071BB11
4F071BC12
4F071BC16
4F100AK36B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA06
4F100EH66
4F100EJ16
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JB16
4F100JJ03
4F100YY00B
4J034CB03
4J034QC08
4J034RA14
4J034SA06
4J034SD02
4J034SD10
(57)【要約】
【課題】分極量が高く、耐熱性を有する尿素系の材料からなる薄膜であって、熱可塑性を有し、膜厚が非常に薄くかつ膜厚均一性が高い薄膜を提供する。
【解決手段】直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーからなる薄膜であり、薄膜の厚みが10〜1200nmであり、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定された薄膜の平均面粗さ(Ra)が0.01〜50.0nm以下であり、薄膜の平均面粗さ(Ra)が薄膜の厚みより小さいことを特徴とする尿素オリゴマー薄膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーからなる薄膜であり、薄膜の厚みが10〜1200nmであり、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定された薄膜の平均面粗さ(Ra)が0.01〜50.0nmであり、薄膜の平均面粗さ(Ra)が薄膜の厚みより小さいことを特徴とする尿素オリゴマー薄膜。
【請求項2】
直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーの重量平均分子量が、ポリメタクリル酸メチル換算で300〜8000であることを特徴とする請求項1記載の尿素オリゴマー薄膜。
【請求項3】
請求項1記載の尿素オリゴマー薄膜を製造するための方法であって、真空度5Pa以下において、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーを融点以上の温度に加熱して、基板上に蒸着させる工程を含むことを特徴とする尿素オリゴマー薄膜の製造方法。
【請求項4】
蒸着により基板上に形成された尿素オリゴマー薄膜を、40〜210℃の温度でアニール処理する工程を含むことを特徴とする請求項3記載の尿素オリゴマー薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の尿素オリゴマー薄膜の両面または片面に電極が積層されてなることを特徴とする積層体。
【請求項6】
請求項5記載の積層体をポーリング処理することで、強誘電体材料、焦電体材料または圧電体材料を得ることを特徴とする電子材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素オリゴマー薄膜およびその積層体ならびにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機材料を用いた強誘電体、焦電体、圧電体の研究には、大きな電気双極子モーメントをもつポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(フッ化ビニリデン(VDF)/三フッ化エチレン(TrFE))共重合体(P(VDF/TrFE))、ポリ尿素(ポリウレア)、ポリアミド等の材料が使用されてきた。その中でも、PVDF、P(VDF/TrFE)、ポリ尿素を用いると、高い強誘電性、焦電性、圧電性を得ることができる。
特にポリ尿素は、分極量が4.9デバイであり、PVDFの2.1デバイに対して、理論的に高い分極量を有しているため、また、熱可塑性脂肪族ポリ尿素は、融点が211〜270℃であり、P(VDF/TrFE)の約150℃程度に対し高い融点を有し、耐熱性に優れるため、ポリ尿素を有機材料として用いて、数多くの研究がなされてきた。
【0003】
ところで、上記のような有機材料を用いた焦電体を、特に人や動物などの体温に反応する焦電センサとして用いるためには、焦電体の厚みが薄いことが必要である。焦電体は、膜厚が厚いと焦電体内の熱の出入りが遅くなるので、厚みが厚い焦電体を使用したセンサは、動物などの速い動きに追いつかなくなり、反応性が低下する問題があるからである。したがって、速い動きに対する感度を良好なものとするために、センサを構成する有機材料を薄くすることが求められている。
【0004】
特許文献1〜2には、ジアミンとジイソシアネートを原料モノマーとし、これらを真空中で蒸発させ、基材上で蒸着重合させて、基材上にポリ尿素膜を形成し、次いでポリ尿素膜にポーリング処理を施して、基材上に有機焦電体、圧電体の薄膜を形成する方法が開示されている。
しかし、ジアミンとジイソシアネートを原料モノマーとするポリ尿素は、生成した尿素結合に、反応性の高いジイソシアネートがさらに反応して、分岐構造が生成して架橋するため、熱硬化性を有するものであった。したがって、ジアミンとジイソシアネートを原料モノマーとするポリ尿素は、加熱すると架橋反応を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化して熱可塑性を示さなくなるため、デバイス作製プロセスに加熱工程が入ると、ポリ尿素の強誘電性、焦電性、圧電性の性能が変化するという問題が発生するものであった。
したがって、加熱しても熱硬化性を示さず、再溶融が可能な熱可塑性のポリ尿素からなり、安定した電気的性能を有する薄膜が望まれていた。
【0005】
一方、特許文献3には、熱可塑性ポリ尿素の溶液を用いたウェットプロセスにより、基板上に、熱可塑性ポリ尿素の強誘電体を形成する方法が開示されている。
しかし、一般に、ウェットプロセス法では、薄膜の厚みを、蒸着法により形成される薄膜の厚み程度にまで薄くすることが困難であり、また膜厚ムラが発生することがあった。また、熱可塑性ポリ尿素は、高分子であるため、真空中で蒸発させて基板に蒸着させたり、単結晶の薄膜を形成させることが困難なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−284485号公報
【特許文献2】特開平3−048470号公報
【特許文献3】特開2014−152238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決し、分極量が高く、耐熱性を有する尿素系の材料からなる薄膜であって、熱可塑性を有し、膜厚が非常に薄くかつ膜厚均一性が高い薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーを薄膜材料として使用し、真空中で尿素オリゴマーを蒸発させて基板上に蒸着することで、従来のウェットプロセスよりも薄膜化が可能であり、耐熱性があり、膜厚が均一である薄膜が得られ、さらに、ポーリング処理をおこなうことで、強誘電性、焦電性、圧電性の性能を有し、メモリやセンサ等に使用することが可能な尿素オリゴマー薄膜が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーからなる薄膜であり、薄膜の厚みが10〜1200nmであり、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定された薄膜の平均面粗さ(Ra)が0.01〜50.0nmであり、薄膜の平均面粗さ(Ra)が薄膜の厚みより小さいことを特徴とする尿素オリゴマー薄膜。
(2)直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーの重量平均分子量が、ポリメタクリル酸メチル換算で300〜8000であることを特徴とする(1)記載の尿素オリゴマー薄膜。
(3)上記(1)記載の尿素オリゴマー薄膜を製造するための方法であって、真空度5Pa以下において、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーを融点以上の温度に加熱して、基板上に蒸着させる工程を含むことを特徴とする尿素オリゴマー薄膜の製造方法。
(4)蒸着により基板上に形成された尿素オリゴマー薄膜を、40〜210℃の温度でアニール処理する工程を含むことを特徴とする(3)記載の尿素オリゴマー薄膜の製造方法。
(5)上記(1)または(2)記載の尿素オリゴマー薄膜の両面または片面に電極が積層されてなることを特徴とする積層体。
(6)上記(5)記載の積層体をポーリング処理することで、強誘電体材料、焦電体材料または圧電体材料を得ることを特徴とする電子材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーを用いることで、高分子のポリ尿素では困難である真空蒸着によって、膜厚が非常に薄くかつ膜厚均一性が高く、尿素系の結晶性の高い薄膜を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、真空蒸着などの気相プロセスによって薄膜を形成し、アニール処理やポーリング処理をおこなうことで、高結晶かつ耐熱性のある強誘電、焦電、圧電特性を備えた尿素オリゴマー薄膜を製造することができる。また、本発明の尿素オリゴマー薄膜は、記憶素子、圧電素子、焦電素子、圧力センサ、振動センサ、スピーカ、熱センサ、振動発電素子等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1において真空蒸着法により作製した尿素オリゴマー薄膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した画像である。
図2図2は、比較例6においてスピンコート法により作製した尿素オリゴマー薄膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した画像である。
図3図3は、赤外吸収分析法による、蒸着前の尿素オリゴマー、基板に蒸着した尿素オリゴマー薄膜、およびアニール処理後の尿素オリゴマー薄膜の配向変化を示した図である(実施例1)。
図4図4は、尿素結合が基板面に対して平行配向している場合と、垂直配向している場合を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の尿素オリゴマー薄膜は、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーからなるものである。本発明における尿素オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、ポリメタクリル酸メチル換算で、10000未満であることが好ましく、300〜8000であることがより好ましく、1000〜6000がさらに好ましく、1500〜4000が最も好ましい。重量平均分子量が10000以上である場合、気相プロセスにおいて、真空中で加熱しても蒸発せず、加熱温度を上げ続けると、樹脂が分解して最終的に炭化してしまうので、真空蒸着により薄膜を形成することができないことがある。なお、本発明においては、重量平均分子量が10000以上である樹脂を、ポリ尿素と略称する。
本発明において、尿素オリゴマーの重量平均分子量の下限を設けていないが、重量平均分子量は300以上であることが好ましい。尿素オリゴマーの重量平均分子量が300未満であると、尿素オリゴマー中に、重合原料であるジアミンモノマーが混在して、薄膜が形成できないことや、薄膜が形成されても、物性が非常に不安定になるという問題が発生することがある。
また、ポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は、重量平均分子量の値に近いことが好ましく、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で確認できる分子量分布の広がり(Mw/Mn)が1に近いほうが、薄膜へ安定した蒸着ができる。Mw/Mnが1より大きく離れると、尿素オリゴマーの昇華温度の範囲が広くなるので、薄膜に蒸着ムラが生じたり、性能が不安定になることがある。
【0013】
本発明の尿素オリゴマー薄膜は、低分子の尿素オリゴマーを使用していることから、薄膜化、表面の平滑化および薄膜の厚みの均一化が可能である。
本発明の尿素オリゴマー薄膜の厚みは、10〜1200nmであることが必要であり、30〜1000nmであることが好ましく、60〜500nmであることがより好ましい。薄膜の厚みが1200nmを超えると、例えば焦電型熱センサに使用する場合、上述のように、薄膜内の熱容量の応答性が低下し、速い動きにセンサが反応できなくなることがある。一方、薄膜の厚みが10nm未満であると、耐久性が低くなることがある。
【0014】
本発明の尿素オリゴマー薄膜は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定された平均面粗さ(Ra)が、0.01〜50.0nmであることが必要であり、0.2〜15.0nmであることが好ましく、0.2〜10.0nmであることがより好ましい。平均面粗さ(Ra)が50.0nmを超えると、焦電センサ、圧電センサ、振動発電に使用しにくいものとなる。一方、平均面粗さ(Ra)が0nmであると、薄膜を構成する尿素オリゴマーがアモルファス構造になっている可能性が高く、尿素オリゴマーは、結晶構造であることが好ましいことから、結晶構造に由来して、平均面粗さ(Ra)は、0.01nm以上であることが必要である。
低分子の尿素オリゴマーは、結晶性が高いと凝集して微結晶を形成しやすい傾向があり、平均面粗さ(Ra)は数nmになる。しかし平均面粗さ(Ra)が大きくなると、薄膜に電圧をかけたときに電界集中が発生し、電気的短絡や電界破壊が発生する傾向がある。よって、尿素オリゴマー薄膜の表面は、平均面粗さ(Ra)が小さいが、AFM像で、結晶性が高い微結晶から形成された粒状の物質が膜全体にみられるものが好ましい。
なお、平均面粗さ(Ra)は、算術平均粗さとも表現されるものであり、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0015】
本発明の尿素オリゴマー薄膜において、薄膜の平均面粗さ(Ra)は薄膜の厚みより小さいことが必要であり、すなわち、厚みに対する平均面粗さ(Ra)の比(Ra/厚み)は、1以下であることが必要であり、0.40以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましく、0.10以下であることがさらに好ましく、0.05以下であることが特に好ましい。比(Ra/厚み)が0.40を超えると、焦電センサ、圧電センサ、振動発電に使用しにくいものとなる場合がある。
【0016】
本発明において、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定された最大高低差(Rz)も小さい方が好ましく、600nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。最大高低差(Rz)が600nmを超えると、本発明の尿素オリゴマー薄膜をセンサとして用いる場合、電界をかけたときに、電界が凹凸部に集中してかかり、センサが壊れてしまう可能性がある。
なお、最大高低差(Rz)は、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線において、最も高い山頂から、最も低い谷底までの距離である。
【0017】
本発明において、尿素オリゴマーは直鎖状であることが必要である。直鎖状である尿素オリゴマーは、熱可塑性を有しており、融点以上に加熱して溶融させたのち冷却しても、再溶融することが可能である。したがって、尿素オリゴマー薄膜は熱硬化しないため、これを使用したデバイス作製プロセスに加熱工程が入っても、強誘電性、焦電性、圧電性の性能が変化することがない。
【0018】
本発明における直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーは、融点が150〜330℃であることが好ましく、180〜290℃であることがより好ましく、210〜270℃であることがさらに好ましい。尿素オリゴマーの融点が150℃未満であると、耐熱性が低くなり、強誘電体として使用する不揮発メモリなどの製造プロセスにおいて、尿素オリゴマーが変形・変質することがある。一方、融点が330℃を超える尿素オリゴマーや、融点を示さない尿素オリゴマーでは、薄膜作製が困難になることがある。
【0019】
本発明においては、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーとしては、ジアミンと二酸化炭素とを含む重合原料や、ジアミンと尿素とを含む重合原料を重合してなるものが挙げられ、ジアミンと二酸化炭素とを含む原料から重合されたものであることが好ましい。
【0020】
ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、脂環族ジアミン、両末端ジアミン型ポリアルキレンオキシド、両末端ジアミン型ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
脂肪族ジアミンとしては、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン等が挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、キシリレンジアミン、ビフェニレンジアミン、ジクロロベンジジン、ジメチルベンジジン、ジアミノジフェニルメタン、ナフタレンジアミン等が挙げられる。なお、置換基は芳香環のいずれの位置にあってもよい。
脂環族ジアミンとしては、シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビスアミノメチルシクロペンタン、ビスアミノメチルノルボルナン等が挙げられる。なお、置換基は脂肪環のいずれの位置にあってもよい。
【0021】
本発明においては、ジアミンは、脂肪族ジアミンまたは芳香族ジアミンを含むことが好ましく、脂肪族ジアミンを含むことがより好ましい。脂肪族ジアミンを構成する炭素の数は偶数・奇数どちらでもよく、本発明では炭素数が偶数である脂肪族ジアミンを原料とする尿素オリゴマーでも強誘電体にすることが可能である。中でも、脂肪族ジアミンの1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカンが好ましく、薄膜の柔軟性と吸水性、および強誘電体としての性能のバランスの点から、構成する炭素の個数が5〜11であるジアミンがより好ましい。構成する炭素の個数は使用用途に応じて適宜選択でき、炭素の個数が小さくなると柔軟性に乏しくなるが耐熱性が高くなり、大きくなると柔軟性に富むが、耐熱性に乏しくなる。
【0022】
二酸化炭素としては、市販の精製ガスだけでなく、燃焼ガス、空気に含まれる二酸化炭素を分離、精製したものでもよい。二酸化炭素は、ポンプ、コンプレッサー、および/またはブロワ−などを用いて系内に吹き込み、流通および/または循環させて原料として用いることができる。
【0023】
本発明における尿素オリゴマーは、上記の具体的なジアミンと二酸化炭素とを含む原料を用いて重合されたものであることが好ましい。
重合時間は、1〜20時間であることが好ましく、3〜15時間であることがより好ましく、5〜10時間であることがさらに好ましい。また重合温度は、160〜260℃であることが好ましく、170〜240℃であることがより好ましく、180〜220℃であることがさらに好ましい。また、重合圧力は、1〜10MPaであることが好ましく、3〜10MPaであることがより好ましく、5〜10MPaであることがさらに好ましい。
なお、上記方法により重合して得られた尿素オリゴマーの重量平均分子量が目的の値より下回っていれば、重合した尿素オリゴマーを用いて再度、上記方法で重合をおこなうことで、目的とする分子量を有する尿素オリゴマーを得ることができる。
【0024】
本発明の尿素オリゴマー薄膜は、残留分極Prが30mC/m以上であることが好ましく、50mC/m以上であることがより好ましく、80mC/m以上であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明の尿素オリゴマー薄膜は、焦電性能である焦電係数pが6μC/m・K以上であることが好ましく、22μC/m・K以上であることがより好ましく、30μC/m・K以上であることがさらに好ましい。
焦電係数pが高いほど、焦電センサとして高感度になり、広範囲をセンシングすることが可能となる。
【0026】
また、本発明の尿素オリゴマー薄膜は、圧電性能である圧電歪定数d33(分極方向と平行な面)およびd31(分極方向と垂直な面)がそれぞれ3.0pC/N以上であることが好ましく、4.0pC/N以上であることがより好ましく、9.0pC/N以上であることがさらに好ましい。
圧電歪定数d33が高いほど、圧電センサとして高感度で反応することや、音響スピーカとして音質の良いものを作製することが可能となる。また、振動発電に用いる場合も電気の変換効率が高くなる。
【0027】
次に、本発明の尿素オリゴマー薄膜の製造方法について説明する。
本発明の尿素オリゴマー薄膜は、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーを用いて、熱プレス法、ウェットプロセス法、蒸着法により、基板上に形成することができる。しかし、熱プレス法では、尿素オリゴマー薄膜の膜厚を数μmにしたり、厚みを均一にすることが困難なことがあり、また、ウェットプロセス法では、薄膜の膜厚を数10〜数100nmにすることが困難なことがあり、また溶液の調製に、人体に悪影響がある溶媒や、高価な溶媒を使用しなければならないことがあるので、溶媒を使用せず、均一な薄膜形成が可能な蒸着法(気相プロセス)を用いることが好ましい。
【0028】
蒸着法として、薄膜形成装置を用いて、減圧雰囲気下で実施する真空蒸着法を用いることができる。蒸着法では、基板上にマスクを使用することで、薄膜を容易にパターニングすることが可能である。
真空蒸着法における真空度は、5Pa以下であることが必要であり、10−1Pa以下であることが好ましく、10−2Pa以下であることがより好ましく、10−4Pa以下であることがさらに好ましい。
真空蒸着法において、蒸着源である直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマーの温度は、50〜400℃が好ましく、150〜380℃がより好ましく、200〜350℃がさらに好ましい。
なお、蒸着工程において、蒸着開始時に、尿素オリゴマーの低分子体が基板に蒸着しないようにするため、シャッターを閉じた状態で、蒸着速度が0.6nm/min以下になるまで待機し、蒸着速度が一定になってから、シャッターを開けて、基板への尿素オリゴマーの蒸着を開始することが好ましい。蒸着速度は、0.1〜1000nm/minが好ましく、1〜500nm/minがより好ましく、1〜15nm/minがさらに好ましい。
【0029】
尿素オリゴマー薄膜を形成するための基板は、適宜選択することができる。基板としては、例えば、ポリアミド(PA)、芳香族アミド(アラミド)、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアクリレート、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリチオフェン誘導体(PEDOT(poly−ethylenedioxythiophene):PSS)、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)等で構成されるプラスチック基板(樹脂基板)や、酸化インジウムスズ(ITO)などのガラス基板、石英基板、シリコン基板、ガリウム砒素基板等の絶縁性基板、導電性シリコン基板、Pd、Pt、Au、W、Ta、Mo、Al、Cr、Ti、Cu、Ni、Li、Ca、Mgまたはこれらを含む合金等の金属材料からなる基板などが挙げられる。この中でもプラスチック基板(樹脂基板)、石英基板、シリコン基板が好ましい。
【0030】
蒸着法によって作製された尿素オリゴマー薄膜は、結晶性を向上させるために、また熱活性電流の原因となる内部電荷を除去するために、アニール処理をおこなうことが好ましい。
このアニール処理工程は、下記ポーリング処理工程の前または後どちらでおこなってもよいが、ポーリング処理工程の前におこなうほうが好ましい。ポーリング処理工程の後におこなうと、ポーリング処理により向きが揃えられた尿素オリゴマーの分極が、アニール処理の熱により揺らぎ、尿素オリゴマー薄膜は、強誘電性、焦電性、圧電性の特性が低下する可能性がある。
室内などの低温度の環境で使用するセンサやメモリ等に尿素オリゴマー薄膜を用いる場合、尿素オリゴマー薄膜は、熱活性電流の原因となる内部電荷の発生が少ないため、アニール処理をおこなわなくてもよい。しかし、室外や高温の装置の付近などの高温環境で使用するセンサやメモリ等に用いる場合は、アニール処理した尿素オリゴマー薄膜を用いないと、使用初期に内部電荷により熱活性電流が発生し、センサなどのノイズの原因となる可能性があるので、尿素オリゴマー薄膜は、アニール処理をおこなうことが好ましい。
アニール処理の温度は、薄膜をセンサ等で使用する環境の温度によって適宜選択することができ、好ましくは40℃以上である。例えば、センサとして使用する環境の最大温度が100℃であれば、100℃を超える温度でアニール処理をおこなうことが好ましく、最大温度が150℃であれば、150℃を超える温度でアニール処理をおこなうことが好ましい。なお、アニール処理の温度は、尿素オリゴマーの融点未満であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましい。融点以上の温度で処理すると、尿素オリゴマーは軟化、溶融する。
したがって、本発明の製造方法においては、尿素オリゴマー薄膜を40〜210℃の温度でアニール処理する工程を含むことが好ましい。
アニール処理の時間は、熱活性電流の原因となる内部電荷をすべて除去し、時間経過における焦電特性の焦電係数が一定になり安定するところまでおこなうことが好ましい。よって、アニール処理時間は20分以上が好ましく、40分以上がさらに好ましい。
アニール処理は、真空下や窒素下の環境でおこなうことが好ましい。酸素存在下でアニール処理をおこなうと、尿素オリゴマー薄膜は、劣化によって着色したり、分解したりして性能が低下する可能性がある。
アニール後の冷却方法として、自然冷却法、4℃/minなどの降温速度での徐冷法、液体窒素などでの急冷法が挙げられ、結晶性を向上させるために、自然冷却法や徐冷法が好ましい。
【0031】
本発明の尿素オリゴマー薄膜は、その両面または片面に電極が積層され、積層体として、各種用途に使用される。積層体は、数層重ねて使用してもよい。また、電極を薄膜の両面に積層するか、片面に積層するかについては、センサやメモリ、振動発電材料として使用する場合の外装などの形状に合わせて適宜選択できる。
尿素オリゴマー薄膜の下部電極は、たとえば、尿素オリゴマー薄膜が形成される前の絶縁性基板上に、また尿素オリゴマー薄膜の上部電極は、形成された尿素オリゴマー薄膜上に、それぞれ、スパッタ法、ペースト塗布法もしくは蒸着法によって形成することができる。
電極を構成する材料として、前述の基板を構成する金属材料;ITO、FTO、ATO、SnO等の透明導電性酸化物;カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン等の炭素材料;ポリアセチレン、ポリピロール、PEDOT等のポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレン)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリシランまたはこれらの誘導体等の導電性高分子材料等が挙げられ、Pt、Au、W、Ta、Al、Cr、Ti、Cu、ITO、FTO、ATO、カーボンナノチューブ、ポリアセチレン、ポリピロール、PEDOT、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレンが好ましく、Pt、Au、Al、Cr、Ti、Cu、ITO、FTO、カーボンナノチューブ、ポリピロール、PEDOT、ポリチオフェン、ポリアニリンがより好ましく、Pt、Au、Al、Cr、Ti、Cuがさらに好ましい。
【0032】
尿素オリゴマーの分極を配向させるために、アニール処理の前または後に、ポーリング処理工程を含むことが好ましい。
ポーリング処理により、尿素オリゴマー薄膜は、分子鎖の電気双極子が一方向に揃えられ、高い残留分極を有するようになり、強誘電体材料、焦電体材料、圧電体材料などの電子材料とすることができる。
ポーリング処理法としては、公知のコロナポーリング法やダイレクトポーリング法を適用することができる。例えば、薄膜の一方または上下に電極を積層した積層体を必要に応じて所定の温度で加熱し、そのままの状態を保持し、薄膜の表裏から高電場を一定時間印加し、次いで、冷却する方法が挙げられる。
【0033】
電極が形成された尿素オリゴマー薄膜の積層体は、各種デバイスに利用することができる。利用可能なデバイスとして、液晶配向膜、有機物もしくは無機物蒸着時の配向誘起膜、不揮発メモリ(FE−RAM)、有機メモリ、赤外線センサ、マイクロホン、スピーカ、音声付ポスター、ヘッドホン、電子楽器、人工触覚、脈拍計、補聴器、血圧計、心音計、超音波診断装置、超音波顕微鏡、超音波ハイパーサーミア、サーモグラフィー、微小地震計、土砂崩予知計、近接警報(距離計)侵入者検出装置、キーボードスイッチ、水中通信バイモルフ型表示器、ソナー、光シャッター、光ファイバー電圧計、ハイドロホン、超音波光変調偏向装置、超音波遅延線、超音波カメラ、POSFET、加速度計、工具異常センサ、AE検出、ロボット用センサ、衝撃センサ、流量計、振動計、超音波探傷、超音波厚み計、火災報知器、侵入者検出、焦電ビジコン、複写機、タッチパネル、吸発熱反応検出装置、光強度変調素子、光位相変調素子、光回路切換素子、振動発電素子などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尿素オリゴマーやその薄膜の評価方法は、下記の通りである。
【0035】
(1)尿素オリゴマーの重量平均分子量、数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリメタクリル酸メチル(ポリマーラボラトリーズ社製)換算の重量平均分子量および数平均分子量を測定した。
<測定条件>
屈折率計:東ソー社製RI−8010
カラム:東ソー社製TSKgel GMHHR−H 1本
溶媒:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
流速:0.4ml/分
測定温度:40℃
【0036】
(2)尿素オリゴマー薄膜の厚み
触針式段差計XP−200(AMBIOS社製)を用い、薄膜表面と基板表面の段差を測定し、薄膜の厚みを求めた。
【0037】
(3)尿素オリゴマー薄膜の平均面粗さ(Ra)、最大高低差(Rz)の測定、結晶構造の観察
尿素オリゴマー薄膜の平均面粗さ(Ra)、最大高低差(Rz)の測定および結晶構造の観察は、AFM装置(日本電子社製)を用いて、原子間力顕微鏡(AFM)法によりおこなった。なお、測定はタッピングモードでおこなった。
【0038】
(4)尿素オリゴマーの同定
尿素オリゴマー薄膜の同定分析は、赤外吸収分析法(透過)の測定によりおこなった。なお、測定は、抵抗率1〜10Ωcmの低ドープP型のシリコン基板上に尿素オリゴマー薄膜を形成した試料を使用しておこなった。このシリコン基板は、赤外線が透過するので、赤外吸収スペクトルの測定が可能である。装置は、赤外分光計FTIR−660(日本分光社製)を用い、測定は、真空下(真空ポンプ引き)で、透過法を用いて積算1024回、分解能1cm−1及び4cm−1、MCT検出器でおこなった。1630cm−1(CO伸縮)および1585cm−1(NH変角)における吸収の有無を確認した。
【0039】
(5)残留分極Pr(mC/m
強誘電特性評価は、実施例1にその条件を記載するように、ポーリング処理中におこない、最大の残留分極を測定した。
【0040】
(6)焦電係数(μC/m・K)
焦電特性評価は、下部電極/尿素オリゴマー薄膜/上部電極からなる尿素オリゴマー薄膜の積層体に、直流106MV/mの条件で5秒間ポーリング処理をおこない、残留分極Prが30mC/m以上であるサンプルを作製し、これを用いておこなった。
作製したサンプルの焦電特性評価は、黒体炉からの放射赤外線を、チョッパーを通してサンプルへ照射し、チョッピングした赤外線への出力応答電圧をロックイン検出した。その後、温度勾配を三角波で出力し、生じた焦電電流(短形波)から焦電係数を算出した。電流測定装置は、半導体評価装置4200(TFFケースレーインスツルメンツ社製)を用いて、温度勾配は0.84−1.08℃/min、測定温度は表1に記載の温度(温度範囲は、それぞれ40±2.5℃、100±2.5℃、120±2.5℃、130±2.5℃、150±2.5℃)でおこなった。
【0041】
(7)圧電特性(d33及びd31:pC/N)
圧電特性評価は、上述した焦電性評価と同様の方法で作製したポーリング処理後の積層体を用いておこなった。測定装置は、レーザ干渉変位計システム(小野測器社製)を用いた。圧電測定は、電場(分極)方向の圧電歪定数d33(pC/N)と、電場方向と垂直な方向の圧電歪定数d31(pC/N)の測定をおこなった。測定方法は、電極で挟まれた尿素オリゴマー薄膜の積層体に交流電界を印加(AC:25〜100V、AC周波数:2000Hz)した際の振動を、レーザードップラー計で測定し、d33とd31それぞれの圧電歪定数を算出した。
【0042】
実施例1
[尿素オリゴマーの製造]
反応容器に1,11−ジアミノウンデカンを11g投入した後、二酸化炭素をバブリングしてから、8〜12MPa、200℃、7時間の条件で重合反応をおこなって、直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマー(Mw:2400、Mn:1200)を製造した。
【0043】
[尿素オリゴマー薄膜の製造]
シリコン(Si)基板(500μm)上に、下部電極として厚さ100nmのAlを蒸着してSi・Al基板を作製した。
作製したSi・Al基板上に、真空蒸着装置SVC−700TURBO−TM(サンユー電子社製)を用いて、下記条件で尿素オリゴマーの薄膜を作製した。
試料:直鎖状の熱可塑性尿素オリゴマー(Mw:2400、Mn:1200)
前処理:尿素オリゴマーの低分子量体や不純物がSi・Al基板に蒸着しないようにするため、シャッターを閉じた状態で、真空度5×10−4Pa、蒸着源の温度240℃の条件で、蒸着速度が安定している0.6nm/min以下になるまで尿素オリゴマーの加熱を続けた。蒸着速度が安定してからシャッターを開けて、Si・Al基板に蒸着できる状態にした。
蒸着:真空度10−4Pa、蒸着源温度270±5℃、蒸着速度1.8nm/min、Si・Al基板温度20〜100℃の条件で蒸着をおこない、膜厚が200nmの尿素オリゴマー薄膜を形成した。形成された尿素オリゴマー薄膜は、平均面粗さ(Ra)が11.8nmであり、最大高低差(Rz)が246nmであった。
[アニール処理]
Si・Al基板に尿素オリゴマーを蒸着後、尿素オリゴマー薄膜の結晶化を促進し、また熱活性電流の原因である内部電荷を取り除くために、真空雰囲気下で140℃、2時間のアニール処理をおこない、アニール処理後、室温に戻るまで窒素雰囲気下で自然冷却した。
【0044】
[積層体の製造]
アニール処理後の尿素オリゴマー薄膜上に、厚さ60nmのAlを蒸着して上部電極を形成し、下部電極(Al、100nm)/尿素オリゴマー薄膜(200nm)/上部電極(Al、60nm)からなる構造の積層体を形成した。
【0045】
[ポーリング処理、強誘電特性評価]
得られた積層体をポーリング処理しながら、強誘電性を評価するために、積層体の基板を120〜170℃に加熱しながら、積層体の上部電極と下部電極との間に、三角波電圧を印加して、積層体の電束密度−電界(D−E)特性を測定した。なお、振幅電界は直流106MV/mまで昇圧し、周波数は、100Hzを超えると強誘電性が得られないため、0.01Hzから100Hzの間とした。電束密度−電界(D−E)特性を測定し、分極反転電流が確認されたら、D切片から残留分極量Prを求めた。
ポーリング処理で、Prが30mC/m以上かつ最大Prまで、昇圧を繰り返した後、電圧の印加と基板の加熱を終了し、自然冷却をおこなった。
表1に示すように、最大のPrは100mC/mであり、残留分極が確認された。
[焦電特性評価]
上述した方法で作製したサンプルを用いて、焦電性評価をおこなった。焦電電流の測定は、120±2.5℃の温度範囲と40±2.5℃の温度範囲でおこなった。
その結果を表1に示す。焦電係数は、120℃において、38μC/m・Kであり良好な焦電特性が得られ、また、40℃においても問題なく焦電電流が観測された。
[圧電特性評価]
上述した方法で作製した積層体を用いて、圧電性評価をおこなった。圧電電流の測定は、120℃と40℃でおこなった。
表1に示すように、120℃において、圧電歪係数d33は17.0pC/N、d31は20.0pC/Nとなり、良好な圧電特性が得られた。
【0046】
[赤外吸収分析用薄膜の作製]
Si・Al基板に代えて、抵抗率1〜10Ωcmの低ドープP型のシリコン基板を使用した以外は、上記[尿素オリゴマー薄膜の製造]に記載の方法と同様にして、赤外吸収分析用の尿素オリゴマー薄膜を作製し、さらに、上記[アニール処理]に記載の方法と同様にして、アニール処理した尿素オリゴマー薄膜を作製した。
【0047】
実施例2〜11
表1に示したように、原料ジアミンの種類、尿素オリゴマーの重量平均分子量、蒸着源温度、薄膜厚み、アニール処理温度を変更した以外は、実施例1と同様にして、薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
VDFオリゴマー(ダイキン工業社製)を真空蒸着装置によって加熱し、蒸着速度0.2〜0.4nm/minの条件で、膜厚200nmのVDFオリゴマー薄膜を作製し、アニール処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0049】
比較例2
P(VDF/TrFE)(クレハ社製)をメチルエチルケトンに25℃で溶解した溶液を調製し、スピンコート法を用いて、2000rpm30秒の条件で、膜厚1500nmのP(VDF/TrFE)薄膜を作製し、実施例1と同様にして、薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0050】
比較例3
1,5−ジアミノペンタンと1,5−ジイソシアネートペンタンの蒸着重合により、ポリ尿素薄膜を、下部電極として厚さ100nmのAlを蒸着した石英基板上に作製し、アニール処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、薄膜、積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
比較例4
実施例1の尿素オリゴマーの製造工程において、1,11−ジアミノウンデカンと二酸化炭素の重合時間を20時間に変更して、高分子のポリ尿素(Mw:13000、Mn:7000)を製造した以外は実施例1と同様にして、蒸着法によりポリ尿素薄膜の作製を試みたが、分子量が高いポリ尿素は昇華せず、ポリ尿素薄膜を製造することができなかった。
【0052】
比較例5〜6
比較例5では、比較例4で製造したポリ尿素(Mw:13000、Mn:7000)を使用し、比較例6では、実施例1で製造した尿素オリゴマー(Mw:2400、Mn:1200)を使用して、それぞれ、ヘキサフルオロイソプロパノールに25℃で溶解して、濃度4.0質量%の溶液を調製した。
下部電極として厚さ100nmのAlを蒸着した石英基板(500μm)の温度を15〜25℃に調節し、石英基板の下部電極上に、ポリ尿素溶液(比較例5)、尿素オリゴマー溶液(比較例6)を、2000rpm30秒の条件でそれぞれスピンコートし、ポリ尿素薄膜(厚み:1400nm)、尿素オリゴマー薄膜(厚み:1400nm、最大高低差(Rz):1300nm)を作製した。
溶媒を除去し、表面を平滑化するために、メルト−クエンチ処理として、窒素雰囲気下で260℃、30秒間の熱処理をおこない、熱処理後、液体窒素にて急冷し、表面が平滑なポリ尿素薄膜とオリゴマー薄膜を作製した。
次いで、真空雰囲気下、150℃(比較例5)、140℃(比較例6)、24時間のアニール処理をおこない、アニール処理後、室温に戻るまで窒素雰囲気下で4℃/minで徐冷した。アニール処理後の比較例6の尿素オリゴマー薄膜は、平均面粗さ(Ra)が31.8nmであり、最大高低差(Rz)が400nmであった。
アニール処理後の薄膜上に、実施例1と同様にして上部電極を形成して積層体を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、本発明の直鎖状熱可塑性尿素オリゴマーからなる薄膜は、薄膜の厚みが10〜1200nmであり、平均面粗さ(Ra)が0.01〜50.0nmであり、高い強誘電性、焦電性、圧電性を有するものであった。
図1に示すように、蒸着法で作製した実施例1の尿素オリゴマー薄膜は、直径数百nmの粒状物質が密に詰まったものであり、単結晶構造が優れており、平均面粗さ(Ra)も11.8nmと小さいことから、デバイスに適した優れたものであった。一方、スピンコート法で作製した厚みが1400nmである尿素オリゴマー薄膜(比較例6)は、図2に示したように、大きい粒状物質で構成されており、平均面粗さ(Ra)も31.8nmと大きいものであった。
実施例1の、蒸着前の尿素オリゴマー、基板に蒸着した尿素オリゴマー薄膜、およびアニール処理後の尿素オリゴマー薄膜の赤外吸収分析法による配向変化を、図3に示した。図3の赤外吸収分析法において、蒸着後の尿素オリゴマー薄膜には、蒸着前の尿素オリゴマーと同様に、尿素結合に由来するC=O伸縮およびN−H変角のピークが観察され、またC=O伸縮(1630cm−1付近)の吸収強度と、N−H変角(1580cm−1付近)の吸収強度の比より、アニール処理前には、基板面に対する尿素結合の平行配向成分(図4参照)が強く現れ、アニール処理後には、基板面に対する尿素結合の平行配向成分が弱まると同時に、垂直配向成分(図4参照)が強く現れた。
実施例2〜4において、薄膜の厚みを変更したところ、薄膜の厚みの増大とともに、平均面粗さ(Ra)が低減し、圧電性能が向上した。
実施例5〜6において、尿素オリゴマーの重量平均分子量を変更したところ、重量平均分子量が高くなるにつれ、薄膜の平均面粗さ(Ra)が低減したが、焦電・圧電性能も低下した。分子量増大による焦電・圧電性能の低下は、尿素オリゴマーの分子鎖が長くなったことから、薄膜に存在する結晶が同一方向にやや配向しにくくなったためとみられる。
実施例7〜10において、尿素オリゴマーを構成するジアミンの炭素数を変更したところ、ジアミンの炭素数によって、薄膜の平均面粗さ(Ra)が大きく変化することはなかった。しかし、焦電・圧電性能は、高分子のポリ尿素薄膜の場合と同様に、炭素数が少なくかつ奇数であるジアミンを原料とした薄膜の方が、高い値を示すことが確認された。
【0055】
比較例1において、VDFオリゴマーを真空蒸着して作製した薄膜は、残留分極が130mC/mであった。しかし、焦電係数、圧電歪定数の測定において、測定温度が120℃であると、VDFオリゴマーの配向が平行方向から垂直方向に変化して、デバイスが破壊され、測定することが不可能であり、VDFオリゴマーを真空蒸着して得られた薄膜は、高温環境で使用することが困難なものであった。
比較例2において、P(VDF/TrFE)溶液をスピンコートして作製した薄膜は、残留分極が70mC/mであり、焦電係数が45μC/m・Kであり、圧電歪係数d33が23.8pC/N、d31が14.4pC/Nであったが、測定温度が、P(VDF/TrFE)の配向が平行方向から垂直方向に変化する温度の近辺であったので、焦電係数や圧電歪係数の測定値が不安定であった。
比較例3において、ジアミンとジイソシアネートを蒸着重合して作製したポリ尿素薄膜は、原料にイソシアネート系モノマーを使用しているので、熱硬化性となり、加熱すると架橋反応を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化するものであり、デバイス作製プロセスに加熱工程が入ると、ポリ尿素の強誘電性、焦電性、圧電性の性能が変化して、性能ムラが発生した。また、真空中で2種類のモノマーを蒸着重合させるので、薄膜製造に多大な時間を要し、尿素オリゴマーを蒸着させる本発明の方法よりも、製造工程が複雑であった。
比較例4において、ポリ尿素の真空蒸着を試みたが、上述のように、ポリ尿素が昇華せず、ポリ尿素薄膜を製造することができなかった。
比較例5において、ポリ尿素溶液をスピンコートして作製したポリ尿素薄膜は、膜が厚いので、平均面粗さ(Ra)は小さいが、高分子であることから、一部アモルファス(非晶)構造になっていた。また比較例6において、尿素オリゴマー溶液をスピンコートして作製した尿素オリゴマー薄膜は、実施例1の薄膜と比較して、平均面粗さ(Ra)が大きく、また電気性能も低かった。比較例5〜6のスピンコート法では、膜厚を数10nmにすることが困難であった。
図3
図4
図1
図2