(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-156727(P2016-156727A)
(43)【公開日】2016年9月1日
(54)【発明の名称】測定用チップ、測定装置、および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/47 20060101AFI20160805BHJP
【FI】
G01N21/47 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-35426(P2015-35426)
(22)【出願日】2015年2月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 達郎
(72)【発明者】
【氏名】多田 啓二
(72)【発明者】
【氏名】山林 潤
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB06
2G059CC17
2G059DD12
2G059DD13
2G059EE02
2G059FF08
2G059GG01
2G059GG04
2G059HH02
2G059JJ13
2G059JJ19
2G059KK01
2G059MM04
2G059MM05
2G059MM10
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】従来よりも高感度な測定用チップ、当該測定用チップが配置される測定装置、および当該測定用チップを用いた測定方法を提供する。
【解決手段】誘電体11の中心位置には、孔13が省かれた(孔13が形成されていない)箇所である特異パターン12が設けられている。特異パターン12は、周期配列とは異なる配列態様となっている箇所である。孔13による周期構造は、特定の波長域(例えば620nm〜680nm)の光を反射する鏡として機能する。ここで、特異パターン12は、このような鏡に囲まれた空間として機能する。これにより、特異パターン12は、特定の波長の光を共振させる共振器として機能する。したがって、チップ1に光を照射すると、特異パターン12から特定の波長域の光のみを非常に高いSN比で出射させることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体からなる測定用チップであって、
前記誘電体は、所定のパターンが周期配列された周期構造を有するフォトニック結晶であり、
前記フォトニック結晶は、一部に、前記周期配列とは異なる配列態様となっている特異パターンが形成されている測定用チップ。
【請求項2】
請求項1に記載の測定用チップであって、
前記特異パターンは、前記周期構造のうち、一部のパターンが省かれた構造となっている測定用チップ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の測定用チップであって、
前記特異パターンは、前記周期構造のうち、複数周期分のパターンが省かれた構造となっている測定用チップ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の測定用チップであって、
前記特異パターンは、平面視して1次元状に複数周期分のパターンが省かれた構造となっている測定用チップ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の測定用チップであって、
前記特異パターンは、平面視して2次元状に複数周期分のパターンが省かれた構造となっている測定用チップ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の測定用チップであって、
前記特異パターンを含むフォトニック結晶が複数個アレイ配列されてなるアレイ型チップとなっている測定用チップ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の測定用チップであって、
前記誘電体は、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂、ポリスチレン、またはTiO2からなる測定用チップ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の測定用チップであって、
前記所定のパターンは、孔または柱状構造からなる測定用チップ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の測定用チップであって、
前記特異パターンは、所定波長の可視光を共振させる特性を有する測定用チップ。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の測定用チップが配置される測定装置であって、
前記特異パターンに所定波長の光を照射する光源と、
前記特異パターンから出射される光の強度を測定する測定部と、
を備えた測定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の測定装置であって、
前記測定部で測定される光の強度を、被検出物質が含まれた試料を前記測定用チップに接触させる前と、前記被検出物質が含まれた試料を前記測定用チップに接触させた後と、で比較する比較部を備えた測定装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の測定用チップを用いた測定方法であって、
測定用チップに光を照射し、前記特異パターンから出射される光の強度を測定する第1測定ステップと、
被検出物質が含まれた試料を、前記測定用チップに接触させる接触ステップと、
前記被検出物質が含まれた試料を接触させた後、前記特異パターンから出射される光の強度を測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップで測定した強度と、前記第2測定ステップで測定した強度と、を比較する比較ステップと、
を備えた測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フォトニック結晶からなる測定用チップ、当該測定用チップが配置される測定装置、および当該測定用チップを用いた測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、遺伝子解析、臨床診断、あるいは有害物質検出等を行うバイオセンサーとして、フォトニック結晶を用いたバイオセンサーが提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
フォトニック結晶は、所定のパターン(例えば円柱形状の構造体)が周期的に配列された周期構造を有する誘電体からなる。特許文献1では、以下のようにしてフォトニック結晶を用いた測定が行われる。
【0004】
(1)被検物質等が含まれていない試料を、フォトニック結晶に接触させる。
(2)フォトニック結晶に光を照射し、反射光の光学特性(反射光のピーク波長や強度)に関する情報を取得する。
(3)被検物質が含まれた試料を、フォトニック結晶に接触させる。
(4)被検物質が含まれた試料を接触させた後、上記(2)と同様に反射光の光学特性に関する情報を取得する。
(5)上記(4)の反射光の光学特性を、上記(2)の光学特性と比較することにより、試料中に含まれる被検物質の有無や量を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−202574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示した様なフォトニック結晶を用いた測定方法では、被検出物質の感度を向上させる必要がある。
【0007】
この発明は、従来よりも高感度な測定用チップ、当該測定用チップが配置される測定装置、および当該測定用チップを用いた測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、誘電体からなる測定用チップであって、前記誘電体は、所定のパターンが周期配列された周期構造を有するフォトニック結晶であり、前記フォトニック結晶は、一部に、前記周期配列とは異なる配列態様となっている特異パターンが形成されていることを特徴とする。
【0009】
フォトニック結晶は、孔または柱状構造等のパターンが周期配列された周期構造を有する誘電体である(ただし、誘電体の材料そのものが原子または分子レベルで結晶構造を有するものではない)。この周期構造により、フォトニック結晶は、特定の波長域の光を反射する特性を有する(特定の波長域の光を反射する鏡として機能する)。ここで、本発明は、フォトニック結晶の一部に、周期配列とは異なる配列態様となっている特異パターンを設けることで、当該特異パターンが設けられた箇所を鏡に挟まれた空間として機能させる。これにより、特異パターンは、特定の波長の光を共振させる共振器として機能し、特定の波長の光のみを非常に高いSN比で出射させることができる。
【0010】
そして、測定用チップの周囲(例えば、特異パターンの周囲)に他の物質(被検出物質)を吸着させると、表面屈折率が変化することにより共振器としての共振波長が変化する。したがって、測定用チップに特定の波長スペクトルの光を照射し、共振器から出射される光の特性の変化を測定することで、被検出物質を非常に高い感度で検出することができる。なお、光の特性は、特異パターンから出射される光の波長の変化を直接測定してもよいが、単一波長の光を入射させた場合、被検出物質の有無により、光のピーク強度が大きく変化する。よって、強度変化を測定することで被検出物質の有無を判断する、または定量化することができる。強度変化を測定する場合、高度な分光器等が不要となり、非常に安価な測定装置を実現することができる。
【0011】
なお、特異パターンは、周期構造のうち、一部のパターンが省かれた構造となっていることが好ましい。また、特異パターンは、周期構造のうち、複数周期分のパターンが省かれた構造となっていることが好ましい。
【0012】
複数周期分のパターンが省かれた構造は、例えば平面視して1次元状(直線状)に複数周期分のパターンが省かれた構造となっている例や、平面視して2次元状に複数周期分のパターンが省かれた構造となっている例が考えられる。
【0013】
なお、上記のような特異パターンを含む一群のフォトニック結晶は、さらに複数配列されてアレイ配列されてなる測定用チップとすることも可能である。
【0014】
また、誘電体は、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂、ポリスチレン、またはTiO2とすることで、安価でかつ製造が容易である材料を用いることが好ましい。
【0015】
なお、共振させる光は、可視光の領域(例えば650nmの赤色光)とすることで、光源や測定部のコストを抑えることが可能である。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、従来よりも高感度な測定用チップ、当該測定用チップが配置される測定装置、および当該測定用チップを用いた測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】測定装置15の構成を示すブロック図である。
【
図4】チップ1にレーザー光を照射した場合の反射の様子を示す図である。
【
図5】特異パターン12から出射される光の強度変化を示す図である。
【
図8】特異パターンの周期の数の違いによる比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の測定用チップを含む測定装置15の概略構成を示す図である。
図2は、測定装置15の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1に示すように、測定装置15は、チップ(測定用チップ)1、発光部10、偏光板20、受光部30、測定部31、および制御部(比較部)32を備えている。測定部31および制御部32は、専用のハードウェアであってもよいが、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置に搭載されたソフトウェアにより実現される態様であってもよい。
【0020】
発光部10は、特定の波長の光を照射する光源であり、例えば650nmの可視光のレーザー光を放射する光源である。当該レーザー光は、偏光板20を介してチップ1に照射される。
【0021】
図3は、チップ1の構造を示す図である。
図3(A)は、斜視図であり、
図3(B)は、平面図であり、
図3(C)は一部拡大断面図である。
【0022】
チップ1は、誘電体11からなる平板状の部材である。誘電体11は、例えばアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂、ポリスチレン、またはTiO2等からなる。この例では、誘電体11は、誘電率ε=2.4程度のポリスチレンからなる。また、この例では、誘電体11は、平面視して正六角形の薄い平板形状となっている。ただし、誘電体11の形状は、
図3に示す例に限らない。例えば、平面視して正方形状であってもよいし、円形状であってもよい。また、立方体または直方体形状等のある程度の厚みがある形状であってもよい。
【0023】
誘電体11には、平面視した形状が円形である複数の孔13がパターニングされている。孔13は、一例として、内径φが150nm〜200nm、高さdが100〜200nmとなっている。また、孔13は、ピッチp=300nmで周期配列されている。誘電体11は、このような周囲構造を有するフォトニック結晶となっている。ただし、フォトニック結晶とは、孔または柱状構造等のパターンが周期配列された周期構造を有する誘電体のことを言い、誘電体の材料そのものが原子または分子レベルで周期構造を有するものではない。
【0024】
このようなフォトニック結晶は、例えばナノインプリント方式により作成される。ナノインプリント方式とは、柱状構造がパターニングされた金属等の鋳型を用意し、当該パターンを誘電体11に転写することで、孔13を形成する方式である。これにより、誘電体11としてポリマー樹脂を用いることが可能となり、Si基板を用いた半導体プロセスを用いるよりも安価にチップ1を製造することが可能となる。
【0025】
このように作成されたフォトニック結晶は、さらに、例えば、リガンド希釈溶液に含浸される等の方式により、試料に含まれるアナライトと吸着するリガンドがフォトニック結晶の全体(あるいは特異パターンのみ)に固定化される。なお、これに限定されるものではなく、シランカップリング剤等を用いた他の方式により、フォトニック結晶にリガンドが固定化されてもよい。
【0026】
なお、周期構造としては、
図3に示す孔13のパターンが周期配列されている例に限るものではない。例えば、誘電体11の主面に円柱または角柱の構造体が周期配列された態様とすることも可能である。また、柱状の構造体を井桁状に立体配置することで、3次元状の周期配列とすることも可能である。
【0027】
フォトニック結晶は、以上のような所定のパターンが周期配列されていることにより、特定の波長域の光を反射する特性を有する。例えば、
図3に示した孔13を周期配列した構造においては、約650nm付近の特定の波長域(例えば620〜680nm)の赤色光を反射する特性を有する。
【0028】
ここで、誘電体11の中心位置には、孔13が省かれた(孔13が形成されていない)箇所である特異パターン12が設けられている。すなわち、特異パターン12は、周期配列とは異なる配列態様となっている箇所である。
【0029】
孔13による周期構造は、上述のように特定の波長域(例えば620nm〜680nm)の光を反射する鏡として機能する。そして、特異パターン12は、このような鏡に囲まれた空間として機能する。鏡に囲まれた空間に光が導入されると、当該光が鏡に反射を繰り返すことで、上記特定の波長域にある特定の波長が共振し、当該特定の波長において高強度のピークを示すことになる。
【0030】
これにより、特異パターン12は、特定の波長の光を共振させる共振器(ファブリペロー共振器)として機能する。したがって、チップ1に光を照射すると、特異パターン12から特定の波長(例えば650nmの)の光のみを非常に高いSN比で出射させることができる。
【0031】
図4は、チップ1に650nmのレーザー光を照射した場合の様子を示す図である。
図4(A)は、チップ1の平面図であり、
図4(B)は出射される光の強度分布を示した図であり、
図4(C)は、チップ1を蛍光顕微鏡で撮影した画像である。なお、
図4では、説明のために、
図3に示したチップ1よりも多数の孔が形成された構造を示しているが、機能的には
図3に示したチップ1と同様のものである。
【0032】
これらの図に示すように、チップ1に光を照射すると、特異パターン12の箇所において、高強度の光が出射される(高強度の出射光が観測される)ことがわかる。
【0033】
本実施形態の測定装置15は、特異パターン12により共振する波長(例えば650nm)の光を発光部10から照射させ、受光部30で特異パターン12から出射される光を受光し、測定部31で当該光の強度を測定する。測定部31で測定した強度は、制御部32に入力され、メモリ(不図示)に記録される。
【0034】
そして、誘電体11に他の物質(被検出物質)が吸着すると、表面屈折率が変化することにより共振器としての共振波長が変化する。また、共振器としての効率も低下する。この実施形態では、発光部10から単一波長(650nm)の光を照射しているため、共振波長が変化し、共振器としての効率が低下すると特異パターン12から出射される光の強度が大きく低下する。
【0035】
測定装置15は、試料(チップのリガンドに吸着される被検出物質(アナライト)が含まれたもの)に浸漬させた後のチップ1において、再度受光部30で特異パターン12から出射される光を受光し、測定部31で当該光の強度を測定する。制御部32は、最初に測定した光の強度と、試料に浸漬させた後の光の強度と、を比較する。制御部32は、光の強度が閾値以上の変化を示している場合には、被検出物質が含まれていると判断する。このようにして、測定装置15は、被検出物質(例えばインフルエンザウイルス等の抗原)の有無を検査する検査装置として機能する。
【0036】
なお、チップ1は、上述のように特異パターン12により特定の波長(例えば650nm)の光を共振させるため、例えば光源としては白色光等の帯域が広いものを用いることも可能である。この場合、光の強度ではなく、ピーク波長の変化、またはスペクトル形状の変化等を観察することでも被検出物質の有無を検査することが可能である。ただし、光源として単一波長の光を用いて強度の変化を観察する場合、波長変化を観察するための高価な分光器を用いる必要が無いため、測定装置としてのコストを抑えることが可能である。また、光源および共振させる光は、可視光に限るものではないが、特に可視光を利用する場合、赤外光や紫外光等の相対的に高価な光源や測定部を用いることがないため、測定装置としてのコストを抑えることが可能である。
【0037】
次に、
図5は、特異パターン12から出射される光の強度変化を示す図である。同図に示すグラフの横軸において、「bare」と記載されている項目は、チップ1に何も吸着していないリファレンスの状態を示す。縦軸の数値は、当該リファレンスの状態における光の強度を基準として標準化したものである。
【0038】
「c1」の記載は、チップ1にポリカチオンを吸着させた後の光の強度を示す項目である。「a1」の記載は、さらにチップ1にポリアニオンを吸着させた後の光の強度を示す項目である。「c2」の記載は、その後さらにチップ1にポリカチオンを吸着させた後の光の強度を示す項目である。以下、数値の横軸の数値の増加に伴って、各物質を繰り返し吸着させた後の光の強度を示す。
【0039】
図5に示すように、ある程度の量の物質が誘電体11の表面に吸着すると、特異パターン12から出射される光の強度が大きく低下することがわかる。例えば、
図5においては、a1からc2(またはc2からa2)において光の強度が大きく低下している。したがって、リファレンスの強度を測定し、試料に浸漬させた後の強度を測定して、これら光の強度を比較することで、被検出物質の有無を検出することが可能となる。
【0040】
図6は、測定方法のフローチャートである。測定装置15は、まずリファレンスの強度を測定する(s11)。リファレンスは、例えば、チップ1を純水等で洗浄し、乾燥させた後の状態のものとする。
【0041】
測定装置15は、
図1に示したように、所定の場所にチップ1が設置されるようになっていて、チップ1の主面に平行な方向に対して所定の角度(例えば6°)の方向から発光部10のレーザー光を照射するようになっている。なお、この例では、チップ1の主面にレーザー光が照射されるようになっているが、チップ1の端面からレーザー光を導光するようにしてもよい。ただし、レーザー光がチップ1の特異パターン12に直接照射される場合、レーザー光を導光させるためのカップリング機器が不要であるため、より安価な測定装置とすることができる。
【0042】
以上のようにして測定したリファレンスの強度は、制御部32の内蔵メモリ(不図示)に記録される。
【0043】
その後、チップ1は、検査対象となる物質が含まれた試料に浸漬され(s12)、純水等で洗浄された後(s13)、乾燥される(s14)。
【0044】
そして、測定装置15は、試料が接触した後の状態におけるチップ1に対してレーザー光を照射し、特異パターン12から出射される光の強度を測定する(s15)。
【0045】
その後、制御部32は、メモリに記録したリファレンスの強度と、試料が接触した後の状態の光の強度と、を比較する。制御部32は、強度の変化が所定の閾値以上変化していた場合(例えば20%以上変化していた場合)、被検出物質が検出されたものと判断する。あるいは、制御部32は、強度の変化度合いに応じて、被検出物質を定量化する。
【0046】
このようにして、測定装置15は、被検出物質の有無を高感度で検出することが可能である。
【0047】
なお、上述の実施形態では、特異パターン12の例として、1箇所だけ孔13が省かれた構造となっている例を示したが、特異パターンの態様は、種々の変形例が考えられる。
【0048】
例えば、
図7(A)のチップ1Aは、一部の孔13Aおよび孔13Bが、所定の位置からずれている(この例では、孔13が左側にずれて、孔13が右側にずれている)ことにより、周期配列とは異なる配列態様となった特異パターン12Aが形成されている。
【0049】
また、
図7(B)に示すように、チップ1Bは、孔13が形成されていない箇所が2箇所となっている。この例では、中心付近に形成されている孔13を挟んで2箇所の特異パターン12Lおよび特異パターン12Rが形成されている。
【0050】
また、
図7(C)および
図7(D)は、複数周期分のパターンが省かれた構造の特異パターンである。
図7(C)のチップ1Cにおける特異パターン12Cは、平面視して中心位置から3周期分、1次元状に(横一直線状に)孔13が省かれた構造となっている。
図7(D)のチップ1Dにおける特異パターン12Dは、平面視して2次元状に中心位置から3周期分の孔13が省かれた構造となっている。
【0051】
図8は、特異パターンの周期の数の違いによる比較図である。
図8(A)の例は、1箇所だけ孔13が省かれたチップ1を蛍光顕微鏡で撮影した画像である。
図8(B)の例は、平面視して2周期分の孔13が省かれたチップを蛍光顕微鏡で撮影した画像である。
図8(C)の例は、平面視して3周期分の孔13が省かれたチップを蛍光顕微鏡で撮影した画像である。
図8(D)は、平面視して4周期分の孔13が省かれたチップを蛍光顕微鏡で撮影した画像であり、
図8(E)は、平面視して5周期分の孔13が省かれたチップを蛍光顕微鏡で撮影した画像である。
【0052】
これらの画像から、
図8(B)に示す2周期分の孔13が省かれたチップまたは
図8(C)に示す3周期分の孔13が省かれたチップ1Dは、相対的に高い強度を有することがわかる。
【0053】
よって、複数周期分のパターンを省く特異パターン、とくに2次元状に2周期分または3周期分のパターンを省いた特異パターンとすることで、より高感度なチップとすることができる。また、
図8(D)、(E)のように、周期数を増やし過ぎると、逆に強度が低下し、波長に応じた最適周期数が存在する可能性のあることが、上記撮像した画像の比較により、明らかになった。
【0054】
次に、
図9は、アレイ型チップの構造を示す平面図である。
図9に示すように、チップ100は、
図3に示したチップ1が複数個アレイ配列されてなるアレイ型チップとなっている。チップ100は、アレイ型となっていることにより、各チップ1における特異パターン12から放射される光の位相がそろう箇所においてさらに高い強度の光を実現することができ、より高感度なチップを実現することができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、可視光の650nmの光を共振させる例を示したが、フォトニック結晶は、誘電率、パターンの形状および配置態様等を変更することで、どのような電磁波であっても共振させることが可能である。
【0056】
また、本実施形態のチップにおいては、孔13(所定のパターン)が2次元状に周期配列された例を示したが、3次元状の周期配列とすることも可能である。この場合、特異パターンについても、3次元状に複数周期分のパターンが省かれた構造の特異パターンとすることが望ましい。
【符号の説明】
【0057】
1,100…チップ
10…発光部
11…誘電体
12,12A,12C,12D,12L,12R…特異パターン
13,13A,13B…孔
15…測定装置
20…偏光板
30…受光部
31…測定部
32…制御部