【実施例】
【0052】
下記実施例1から10において、種々のサンプルを作成して様々な条件の検討を行った。なお、当該サンプル番号と、下記表中の番号は対応している。
【0053】
[実施例1:ナットウキナーゼを含みビタミンK
2を含まない発酵物の検討]
(サンプル1〜8)
【0054】
1.検討方法
発酵容器はPSP容器、基質表面に被膜としてビニールを被せ、発酵温度40℃とした。これは、一般的な市販の大豆を原料とした納豆と同様の条件である。
【0055】
一般的な大豆を原料とした納豆の場合、発酵開始から8時間付近がナットウキナーゼ産生の始まる時間である。そこで、コーン発酵物のナットウキナーゼ産生が始まる発酵時間を検討するために、サンプル1と5は5時間、サンプル2と6は6時間、サンプル3と7は8時間、サンプル4と8は10時間の発酵時間とした。
【0056】
2.結果
下記表1−1、表1−2、表1−3のとおり、5時間発酵したサンプル1と5と、6時間発酵したサンプル2と6の、いずれもフィブリン溶解はなかったため、ナットウキナーゼ活性はない。したがって、5時間から6時間という発酵時間はコーン発酵物でも大豆を原料とする納豆と同様にナットウキナーゼ産生がないことが検証された。
【0057】
下記表1−1、表1−2、表1−3のとおり、8時間発酵したサンプル3と7、及び、10時間発酵した4と8とは、明らかにフィブリン溶解があり、ビタミンK
2はほぼ検出されなかった。また、8時間発酵と10時間発酵を比べると、フィブリン溶解面積にほぼ差がないため、ナットウキナーゼ活性が同等であることが検証された。
【0058】
以上より、ナットウキナーゼ活性が同等なら短時間の発酵の方が効率的であるため、サンプル9から22は、8時間発酵とした。
【0059】
3.まとめ
コーン発酵物をPSP容器で製造する場合、8時間発酵とすることが、最も効率的に機能性を有することが検証された。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0060】
[実施例2:容器、発酵温度、添加混合物の検討]
(サンプル9〜22)
【0061】
1.検討方法
サンプル9から22については、発酵容器、発酵温度、添加混合物と、フィブリン溶解面積の変化すなわちナットウキナーゼ活性について検討した。
【0062】
(1)発酵容器の検討(9〜11)
コーン発酵物の発酵容器として、サンプル9はPSP容器、サンプル10はプラスティック製バット、サンプル11はステンレス製バットを用いて製造した。
【0063】
下記表2−1−1、表2−1−2のとおり、フィブリン溶解面積はサンプル9と10で同程度であったが、サンプル11にはなかった。サンプル9と10の違いは発酵容器の容積であるが、容器内側の形状には、側面と底面に空気を通しやすくするために凹凸が多数あるという共通の特徴がある。
【0064】
サンプル11でフィブリン溶解がなかったのは、発酵容器が発酵物内に空気を通しにくい構造をしていたこと、及び、ビニール、ラップ等のシート状の被膜や蓋を被せなかったため発酵器内で発酵物の水分が蒸発し、納豆菌の発酵に適さない条件になったと考えられる。
【表2-1-1】
【表2-1-2】
【0065】
(2)発酵温度の検討(サンプル9〜22)
【0066】
(ア)検討1(9〜14)
サンプルは発酵温度を45℃とした。発酵容器はPSP容器、プラスティック製バット、ステンレス製バットを用い、基質の表面に直接被せる穴の多数あいたビニール又は蓋である被膜を被せた場合と被せない場合の検討をした。また、サンプル12から14は大豆粉をコーンに添加混合してから高圧蒸気滅菌器にかけ、菌を接種した後に発酵させた。
【0067】
(イ)検討2(15〜18)
サンプル15から18は、発酵温度を47℃とした。サンプル17と18は、高圧蒸気滅菌器にかけた後のコーンに大豆粉を添加混合し、その後納豆菌を接種して発酵させた。
【0068】
下記表2−2−1、表2−2−2、表2−3−1、表2−3−2のとおり、フィブリン溶解面積をみると、サンプル15と16では40℃発酵、45℃発酵と違いがないが、サンプル17と18では増大した。
【0069】
サンプル17と18は、高圧蒸気滅菌器にかけた後のコーンに大豆粉を添加混合したため、発酵時に大豆粉がコーンと均一に混合された状態であった。一方、サンプル12と13では高圧蒸気滅菌前に大豆粉を添加したために、大豆粉が容器下部に落ち、発酵時に大豆粉がコーンと均一に混合された状態ではなかった。したがって、発酵開始時において、サンプル17と18の基質は、サンプル12と13の基質に比べて、より多くの大豆粉が均質に混合していた。
【0070】
ここで、大豆粉を添加していない47℃発酵のサンプル15と16は、45℃発酵したものと比べてもフィブリン溶解面積に違いが見られないことから、発酵温度を47℃に上げたことで発酵が促進したということはないといえる。
【0071】
したがって、フィブリン溶解面積を増大させる、すなわち、ナットウキナーゼ活性を向上させるには、基質に大豆粉が均質に混合されている状態で発酵させることが望ましいことが検証された。
【表2-2-1】
【表2-2-2】
【表2-3-1】
【表2-3-2】
【0072】
(ウ)検討3(サンプル19〜22)
サンプル19から22は、発酵温度を50℃とした。サンプル21と22は高圧蒸気滅菌器にかけた後のコーンに大豆粉を添加混合し、その後納豆菌を接種して発酵させた。
【0073】
下記表2−4−1、表2−4−2のとおり、サンプル22は、0.08μg/gのビタミンK
2を検出した。一般的な大豆を原料とした納豆のビタミンK
2含有量は約6μg/gであるため、サンプル22のビタミンK
2含有量は0.01倍であり、極微量といえる。
【0074】
50℃発酵で大豆粉を添加しないものからはビタミンK
2の検出はなかったが、大豆粉を添加したものからは極少量のビタミンK
2が検出された。また、50℃発酵のもののフィブリン溶解面積は、40℃発酵、45℃発酵、47℃発酵のものに比べて多いとはいえなかった。
【表2-4-1】
【表2-4-2】
【0075】
(3)添加混合物の検討(12〜14)
サンプル12から14は、風味と色を向上させるために、大豆粉を高圧蒸気滅菌器にかける前に添加混合した。発酵温度を45℃とし、発酵容器はPSP容器、プラスティック製バット、ステンレス製バットを用いた。
【0076】
サンプル12のフィブリン溶解面積は0であった。
【0077】
サンプル14は発酵が芳しくなかった。これは、サンプル11と同様、発酵容器が発酵物内に空気を通しにくい構造をしていたこと、及び、ビニール等の被膜や蓋を被せなかったため発酵器内で発酵物の水分が蒸発し、納豆菌の発酵に適さない条件であったためである。
【0078】
これにより、蓋や被膜の必要性が検証された。以降は、発酵容器にステンレス製バットを使用する場合も、基質の表面を被膜で覆うこととする。
【0079】
大豆粉を添加混合したサンプル12と13は風味の点で大豆納豆に近い。45℃発酵においては、サンプル3と7の40℃発酵のものと同程度の広さのフィブリン溶解面積が認められた。また、風味の点においても同程度であった。
【0080】
2.まとめ
【0081】
(1)発酵容器
フィブリン溶解面積では、一般的な大豆を原料とした納豆で使用されるPSP容器が最も優れており、次にプラスティック製のバットがナットウキナーゼ産生には適していた。ステンレス製バットが最も適していなかった。
【0082】
発酵容器の特徴は、PSP容器は容量が小さいが、容器内側側面や底面の凹凸の形状から基質中に空気が流入し、納豆菌が発酵しやすい。バットは、発酵・乾燥後、更に発酵物を取り出し加工する場合、小さなPSP容器よりもより大きいバットを発酵容器としたほうが作業効率が高い。
【0083】
プラスティック製バットはPSP容器より容量が大きいため、基質内に空気が流入しにくく、発酵が進みにくいが、容器内側に凹凸の形状があるため、PSP容器と同様、ステンレス製バットに比べ基質中に空気は流入しやすい。しかし、その形状から洗浄がしにくく、またその材質により繰り返しの使用には耐えられない。
【0084】
一方、ステンレス製バットは、容器内側側面と底面に凹凸がないため、基質中に空気が流入しにくく、そのために発酵が遅れる傾向が見られた。しかし、凹凸がないために高圧蒸気滅菌後に基質の充填がしやすく、コーン発酵物完成後に乾燥させる場合、そのまま容器ごと通風乾燥器にかけることができる。
【0085】
コーン発酵物を乾燥したものは、容器にこびりつき、洗浄時にこすり取らなければならないため、容器には頑丈さが要求される。ステンレス製バットは、形状がシンプルで、材質が頑丈なため、繰り返しの使用にも耐えられる。
【0086】
(2)発酵温度
発酵温度は40℃から50℃までを検討した。しかし、フィブリン溶解面積、ビタミンK
2産生量、及び、発酵温度による風味の差異は認められなかった。
【0087】
これにより、以降の発酵温度は40℃から50℃の中間の45℃とした。
【0088】
(3)添加混合物
コーンに大豆の粉を添加混合してコーン発酵物を製造した。コーンの短時間発酵物は風味にクセがなく、甘みが残っていることは長所であるが、大豆粉を添加混合することにより味にコクがでて、重厚になり、香りの面でも大豆を原料とした納豆の香りを得ることができた。
【0089】
[実施例3:風味の検討]
(サンプル23〜27)
【0090】
実施例1及び2では、発酵時間8時間を基準に検討したが、風味の点であっさりとしすぎ、物足りなさがあったため、発酵時間を15時間と延長して風味の向上を検討した。
【0091】
サンプル23から27は、発酵温度は45℃とした。発酵容器はサンプル23と25はPSP容器、サンプル24、26、27はプラスティック製バットを用いた。更に、サンプル25から27では大豆粉を添加混合した。サンプル25の大豆粉量は基準量の被添加物50gあたり0.5g、サンプル26は被添加物50gあたり1g、サンプル27は被添加物50gあたり1.5gである。
【0092】
サンプル25から27の風味は、45℃発酵で大豆粉添加混合したサンプル12及び13と比べて、コクと一般的な大豆を原料とした納豆の臭いの増加がみられた。
【0093】
更に、下記表3−1、表3−2のとおり、ビタミンK
2産生量は、多くても0.12μg/gであった。これは、一般的な大豆を原料とした納豆の0.01倍の含有量である。
【0094】
以上のとおり、大豆粉を添加混合しないものでも一般的な大豆を原料とした納豆の臭いが増すため、この臭いは人により好みが分かれ、コーン発酵物は8時間発酵が望ましいことが検証された。
【表3-1】
【表3-2】
【0095】
[実施例4:45℃で8時間発酵より短い時間の検討]
(サンプル28〜30)
【0096】
サンプル1と2及びサンプル5と6は、発酵温度40℃とし、発酵時間は5時間又は6時間としたが、発酵温度を45℃では検討していない。
【0097】
そこで、発酵温度45℃、発酵容器をPSP容器として、発酵時間はサンプル28は5時間、サンプル29は6時間、サンプル30は7時間として検討した。
【0098】
下記表4のとおり、フィブリン溶解面積は、発酵温度45℃でも発酵時間5時間、6時間、7時間では、0又は非常に少ないものであった。サンプル30で19.2mm
2であった。
【表4】
【0099】
以上のとおり、フィブリン溶解面積を測定するためには、45℃でも少なくとも8時間の発酵が必要であることが検証された。
【0100】
[実施例5:生タイプのコーン発酵物の収量増加の検討]
(サンプル31〜36)
【0101】
サンプル31から36は、発酵温度を45℃、発酵時間を8時間とし、発酵容器にステンレス製バットを用いた。
【0102】
サンプル31と34では、1.25cmの深さまで基質を敷き詰めて発酵させた。
【0103】
サンプル32と35では、深さ2.5cmに基質を敷き詰めて発酵させた後、コーン発酵物の上層と下層に分けてサンプリングし、フィブリン溶解面積を測定した。
【0104】
上記サンプル32の、上層のサンプルは32−1と、下層のサンプルは32−2と表記し、また下記サンプル33の最上層のサンプルは33−1、上層のサンプルは33−2、下層のサンプルは33−3、最下層のサンプルは33−4と表記し、以降も同様の表記とする。
【0105】
サンプル33と36では、深さ5.0cmに基質を敷き詰めて発酵させた後、コーン発酵物の最上層、上層、下層、最下層の4層に分けてサンプリングし、フィブリン溶解面積を測定した。
【0106】
下記表5のとおり、サンプル31と34のフィブリン溶解面積は平均103.4mm
2であった。
【0107】
下記表5のとおり、サンプル32と35のフィブリン溶解面積は、上層は平均53.0mm
2で、下層は平均19.2mm
2であった。
【0108】
下記表5のとおり、サンプル33と36のフィブリン溶解面積は、最上層(第一層)は平均22.5mm
2であり、上層(第二層)は平均0.2mm
2であり、下層(第三層)は平均12.3mm
2であり、最下層(第四層)は平均0.5mm
2であった。
【表5】
【0109】
したがって、基質の深さが深いほど、下層部の発酵が進まないため、フィブリン溶解面積が少ないことが検証された。また、基質の量を増やすと、最上層のフィブリン溶解面積までも少なくなることが検証された。
【0110】
サンプリング時には、コーン発酵の粘りが充分確認されていたため、発酵は起っているが、空気の流通が何らかの原因で不足して、最上層でもナットウキナーゼが産生されなかったか、あるいは遅れたことが一因と考える。
【0111】
また、下層部の基質が、最上層部にも何らかの影響を与えたことが考えられる。これは、下層部の納豆菌が発酵する時に、上層部の酸素を取り入れ、上層部の酸素を消費したために、上層部の発酵が遅れたか、あるいは発酵しなかったと考える。
【0112】
以上のとおり、作業の効率、大量生産の観点から必須であるコーン発酵物の収量を上げるために、発酵容器であるステンレス製バットに入れる基質の量を増やすことを検討したが、基質の水分を失うことなく酸素の循環の良くなる発酵システムが必要であることが検証された。
【0113】
[実施例6:乾燥粉末の検討]
(サンプル37〜48)
【0114】
コーン発酵物の乾燥粉末の製造方法の検討を下記のとおり行った。
【0115】
サンプル37から39は、発酵容器をステンレス製バットとし、発酵時間40℃、発酵時間20時間のコーン発酵物を、通風乾燥器の乾燥温度50℃で24時間以上乾燥させたものを、粉砕機で粉砕して、コーン発酵物の乾燥粉末を製造した。
【0116】
サンプル40から43は発酵時間をそれぞれ、サンプル40は15時間、サンプル41は7時間、サンプル42は8時間、サンプル43は0時間とし、サンプル40と41は発酵容器にPSP容器を用い発酵温度を45℃とし、サンプル42は発酵容器をステンレス製バットとし、発酵温度を47℃として、発酵させた後、各コーン発酵物を、24時間以上通風乾燥器にかけ、上記サンプル37から39と同様に測定した。したがって、サンプル40はサンプル23を乾燥したものであり、サンプル41はサンプル30を乾燥したものである。
【0117】
サンプル40と41はビニール、サンプル37から39、44、45はラップ、サンプル46から28は蓋で基質上部を覆った。
【0118】
サンプル44から48は、発酵温度45℃で24時間発酵後、50℃の通風乾燥機で24時間乾燥した。ただし、サンプル46から48はこれまでの基質ではなく、大豆を用いた基質を発酵させた大豆発酵物である。大豆発酵物は、コーン発酵物との血栓溶解活性とビタミンK
2含有量の対比例として製造した。
【0119】
下記表6−2のとおり、サンプル37のフィブリン溶解面積は572mm
2であった。また、サンプル39の血栓溶解面積が一番大きく、812mm
2であった。これは、サンプル47の0.62倍である。
【0120】
下記表6−2のとおり、サンプル44のフィブリン溶解面積は812mm
2,ビタミンK
2含有量は5.75μg/gだった。サンプル45のフィブリン溶解面積は860mm
2,ビタミンK
2含有量は6.20μg/gだった。
【0121】
下記表6−2のとおり、サンプル37から39のうち、サンプル37が最もビタミンK
2含量が高く0.29μg/gであった。これは、サンプル47の0.03倍である。
【0122】
サンプル37については、乾燥粉末としての食品機能性の目標である血栓溶解活性とビタミンK
2量の両方を満たしているとはいえず、特にビタミンK
2含量が不充分であることが検証された。
【0123】
これにより、機能性を有するコーン発酵物を製造するためには発酵時間が20時間ではが不充分であり、以降の発酵条件を「発酵温度45℃、発酵時間24時間」と定めた。
【0124】
サンプル40と41はコーン発酵物を乾燥後粉末にしたものであり、いずれもビタミンK
2が検出された。乾燥中に発酵が進んだと推測する。
【表6-1】
【表6-2】
【0125】
[実施例7:コーン発酵物入りアイスクリームの検討]
(サンプル49、50)
【0126】
サンプル49と50は、コーン発酵物を乾燥後粉末にしたものを市販のバニラアイスクリームに練り込み、凍結させたものである。サンプル49はバニラアイスクリーム100g当たりコーン発酵物を乾燥後粉末にしたものを5g、サンプル50はバニラアイスクリーム100g当たりコーン発酵物を乾燥後粉末にしたものを10g練り込んだものである。
【0127】
下記表7−1、表7−2のとおり、サンプル49のフィブリン溶解面積は81.6mm
2であり、ビタミンK
2含有量は0.04μg/gであった。サンプル50のフィブリン溶解面積は423mm
2であり、ビタミンK
2含有量は0.13μg/gであった。
【表7-1】
【表7-2】
【0128】
当該アイスクリームの風味は非常に良好であり、バニラアイスクリームの風味とコーン発酵物の風味がよく合い、コーン発酵物粉末のわずかならサクサクとした歯ごたえも快くおいしいものである。
【0129】
[実施例8:乾燥タイプのコーン発酵物の収量増加の検討]
(サンプル53〜56)
【0130】
1.乾燥時の発酵を考慮した収量増加の検討
(サンプル53〜55)
サンプル53から55は、より深い基質での発酵度合いの検討をした。基質の深さを10cmにしてコーン発酵物の乾燥物あるいは乾燥粉末の大量生産を検討した。サンプル53−1から55−4までは、発酵容器として500ml容量ビーカーを用い、基質表面をラップで覆った。
【0131】
サンプル53から55の発酵温度45℃で8時間発酵とした。サンプル53は添加混合物なし、サンプル54では生のコーンの粉を添加混合し、サンプル55ではコーン発酵物の粉末を添加混合物として添加混合した。添加混合時は、いずれも納豆菌接種時とした。基質の深さ10cmを4分割し、発酵後にサンプリングした。
【0132】
添加物なしのサンプル53は、最上層においてさえもほとんど発酵は起きなかった。サンプル54では充分といえないまでも発酵が起き、サンプル55はさらに発酵が進んだ。
【0133】
上記の実施例において、基質の深さを25cm以上にすると、基質下層部の発酵が進まないことは推測できる。しかし、上層部さえ発酵すれば、たとえ基質下層部が発酵しなくても、発酵終了後に撹枠することで最低限のナットウキナーゼ活性は確保できると推測する。
【0134】
また、コーン発酵物を乾燥、あるいは乾燥粉末にすれば、下層部の基質が発酵していなくとも乾燥段階で発酵が進むことがわかったため、発酵器にかけた段階では充分な発酵ではなくても、乾燥中の発酵を考慮に入れれば、最終的な血栓溶解活性は確保できる可能性はある。
【0135】
2.改良した発酵容器による検討
(サンプル56)
【0136】
サンプル56は、発酵用の容器を改良して発酵基質中に空気の流入を起こし、発酵しやすい条件を作った。容器は金属製の網を購入し、上面と下面から型でプレスして製作した。コーン基質の深さは25cmとした。発酵後のサンプリングでは上層(第一層)と下層(第二層)の12.5cmずつに分けた。
【0137】
下記表8のとおり、期待していたほどの発酵は起きず、フィブリン溶解面積はわずかしかなかった。
【表8】
【0138】
以上のとおり、乾燥時の発酵に頼らずに、より多くのナットウキナーゼ活性を求めるならば、基質中に滅菌された空気を通し、納豆菌が発酵を起こすのに必要充分な水分を供給するなどの工夫が必要であることが検証された。
【0139】
[実施例9:凍結乾燥の検討]
(サンプル69〜71)
【0140】
サンプル69と70は基質にコーンを、サンプル71は基質にジヤイアントコーンを用いた。発酵容器にステンレス製バットを用い、サンプル69は8時間発酵、サンプル70は24時間発酵、サンプル71は24時間発酵とし、発酵後の乾燥は、凍結乾燥機に72時間かけた。
【0141】
下記表9−1、表9−2のとおり、サンプル70のフィブリン溶解面積は1104mm
2,ビタミンK
2含有量は9.03μg/gであり、いずれも非常に高かった。
【表9-1】
【表9-2】
【0142】
食感はサクサクとして、非常に柔らかく食べやすかった。味は甘さがなく、若干苦みがあった。
【0143】
凍結乾燥機により乾燥したものは、通風乾燥器により乾燥したものと比較して風味が格段に良く、通風乾燥機で乾燥したものとは全く違う食感と風味を持っていた。しかし、凍結乾燥機は機器の価格が高く、通風乾燥機より乾燥に時間を要する。
【0144】
[実施例10:コーン発酵物の乾燥時間の検討]
(サンプル57〜66)
【0145】
コーン発酵物を乾燥したものを量産するための検討を行った。
【0146】
発酵容器にステンレス製バットを用い、基質の深さは1.25cmとした。サンプル66は8時間発酵、サンプル62は24時間発酵、サンプル63は48時間発酵、サンプル64は72時間発酵、サンプル65は96時間発酵とした。その後、通風乾燥器で50℃24時間乾燥した。
【0147】
下記表10−1、表10−2のとおり、フィブリン溶解面積が最も広いものはサンプル65の96時間乾燥のものであった。わずかな差ではあるが、サンプル62の24時間乾燥のものが次に高かった。またビタミンK
2含有量は、96時間発酵のものが24時間、48時間、96時間の3つの平均値の16倍と、最も多かった。
【0148】
96時間発酵はビタミンK
2量が最も多かったが、黒色化して風味も悪かった。したがって、ナットウキナーゼ活性、ビタミンK
2含有量、風味、生産性等を総合的に判断すると、サンプル62の24時間発酵のものが最良であった。
【表10-1】
【表10-2】
【0149】
[実施例総括]
【0150】
ナットウキナーゼ活性は、発酵容器がPSP容器の場合、発酵開始から5、6時間で産生され始め、24時間後までは上昇することが分かった。また、発酵容器がステンレス製バットの場合、発酵開始24時間後までに産生量が増え、72時間後まで少しずつ上昇していく。コーン発酵物を乾燥させたものは、発酵開始から96時間後までナットウキナーゼ産生量が上昇することが検証された。
【0151】
ビタミンK
2は8時間発酵では少量しか産生されない場合が多いが、更に発酵時間を伸ばした場合、コーン発酵物及び、コーン発酵物を乾燥させたもの共に、発酵開始後96時間まで産生量が上昇することが検証された。
【0152】
コーン発酵物の特性は、
(1)味は、甘みがあり、さっぱりとしており、サラダに加えてそのまま食するとうい用途にも向く。反面、味に特徴やコクがなく、他の食材と合わせたサラダや、ミルクを用いたポタージュなどにも向く。
(2)血栓溶解活性を有するナッウキナーゼやビタミンK
2を含有し、食品機能性を有する。
【0153】
これに対して、コーン発酵物を乾燥後粉末にしたものは、
(1)味にコクがあり、コーンの本来の風味と納豆菌による発酵により生じた風味がマッチしており、新しくおいしい食品である。
(2)血栓溶解活性有するナットウキナーゼを含有量は、コーン発酵物より強く、ビタミンK
2量は格段に多く、高い食品機能性を有する。
(2)乾燥粉末のため、腐敗しにくく、菓子やアイスクリーム、餅等他の食品に添加混合することで広く利用することができる。
【0154】
以上のとおり、食品としての機能性を有するだけでなく、その好ましい食味からコーン発酵物及び、コーン発酵物を乾燥後粉末にしたものをそのまま食してもよく、他の食品等と取り合わせたり、混合して、新たな食品等を製造することができる。たとえば、コーン発酵物は、他の素材と取り合わせて、サラダや和え物、煮物、揚げ物、炒めものに、コーン発酵物を乾燥後粉末にしたものは、小麦粉や米粉と混ぜてパンやうどん、餅や団子、菓子、調味料と合わせてドレッシングやたれとすることもできる可能性の広い食材である。