【課題を解決するための手段】
【0027】
上記問題点を解決するための第1の形態では、手術室の所定の位置に赤外線を射出し、所定の間隔で配置されたマーカー群からの反射光を受光する撮像部を有するモーションキャプチャー装置を少なくとも3カ所に配置し、手術を受ける患者の患部に所定の第1画像を重畳表示する画像表示装置を有し、前記モーションキャプチャー装置で計測された前記マーカー群の座標位置及び回転量に応じて患者の患部と重畳表示画像を変化させる画像表示装置を有する外科手術システムにおいて、前記画像表示装置は前記患部の画像を撮るカメラ部及び、前記患部の深度を計測するディプスカメラ部、更には前記第1マーカー群を有する事を特徴としている。
【0028】
モーションキャプチャー用センサー部1は最低2個あれば良いが、術中は第1執刀医及び第2執刀医、更にはサポートを行う看護師も患者100の周りにいるので、センサー部1のいずれかの光路を遮蔽する位置に立つ場合も多い。この様な複数箇所に分かれたステレオ画像処理法による位置計測は、少なくともいずれか3つのモーションキャプチャー用センサー部1の光路が遮蔽されなければ正確にその位置座標を測定する事が可能なので、従来の様な計測位置が制限される3次元計測装置107を使う方法と比べて術中の制約が少なくなり、3次元計測装置107の置き場所等のスペース確保も不要となる。
【0029】
更に
図2に示す様に、通常市販されているタブレット4には内蔵のカメラがあり、そのタブレット4の内蔵カメラで患者100の頭部を撮ると、画面に患者100の頭部画像が表示される。一方、MRIは人体を輪切り状にしてその内部映像を画像データとして記憶している。よって、人体の表面情報は外周の画像を点群データとし、それをポリゴンデータ9に変換処理する事ができる。従来技術と同様に、レジストレーション測定を行う事で、タブレット4の画面上で患者100の頭部画像とMRIのポリゴンデータによる重畳表示画像5を観察する事ができる様になる。
【0030】
PCモニター111上に重畳表示画像5を出す事も可能だが、タブレット4を用いる事で、術中の視線で直接確認する事が可能なので、標的の腫瘍や保護が必要な静動脈や神経の位置の把握が容易となる効果がある。更には、このタブレット4を固定する工具や看護師により保持した状態では、患部への術作業を行いつつ静動脈や神経の位置が把握できるので、手術の効率及び、安全性を高める事が可能となる。
【0031】
また、
図4ではこの内蔵カメラの代わりに、タブレット4に取り付けたディプスカメラ6を使う場合の実際の作業風景を示している。ディプスカメラ6は最も簡単で性能が良い方法としてTime of Flightが提案されている。これは
図3に示す様に、LED照明7を所定のsinカーブで点滅させ、対象物からの反射光の位相遅れDを検出する事で、対象物までの距離を計測する方法である。即ち、対物レンズ付の2次元受光素子8を有するディプスカメラ6の場合、素子毎に位相遅れを検出する事が可能であり、対象物の表面までの距離は素子の分割数の細かさで検出できる。元々、ディプスカメラ6自体のレンズ付の2次元受光素子8は上下左右の位置情報は持っているので、更にその奥行情報をTime of Flight計測で撮る事で、3次元の対象物100の表面情報を得る事ができる。
【0032】
ディプスカメラ6についてもう少し詳しく説明すると、光速は30万km/secなので、例えばLED変調周波数を20MHzとすると、光変調波長は15mとなる。ディプスカメラのCCD受光部のノイズ量にも依るが、一般の位相検出では波長の256〜1024分割が精度と考えられるので、ディプスカメラのZ方向の計測精度は、15〜60mmZ程度である。但し、最近では、PCのクロック周波数はCMOS対応で250MHzのものが販売されており、このクロックでLEDの変調ができ、CMOSのサンプリング周波数もこれで対応可能ならば、位相検出に必用な4分割を考えると約60MHzで1回1ドットの位相検出ができる事になる。光変調波長は5mとなり、波長が短い程、位相検出の精度を上げる事ができる。本発明ではレジストレーションに関しては時間をある程度かけても良いので、Z方向の計測も高精度が期待できる。
【0033】
図32(a)〜(c)に示した様に、従来の技術では有限の仮想マーカー102を患者100の頭部の特徴点108と目測で一致させる為、重畳表示の精度が大きく劣化する。しかし、ディプスカメラ6を用いた3次元の人体の表面情報は、その計測方向から見て、
図5の11に示す様な点群データとして計測され、距離が異なる周辺画像とは完全に分別した点群データとなる。一方、MRIで求められた3次元の人体の表面情報は、3次元表示を行う場合、ポリゴンデータ9の様に変換処理されているが、MRI自体のデータとしては、点群データ10の様な画像の積層で構成されている。よって、そのパターンマッチングを行う際にも、特徴点の抽出や外観の縦や横の長さを比較する方法を用いる際、周辺画像とは完全に分別した点群データである上に、多くの点を用いる事から、精度の高い座標位置と高い平均化効果により高精度のレジストレーションが可能となる。
【0034】
第2の形態では、手術室の所定の位置に赤外線を射出し、所定の間隔で配置されたマーカー群からの反射光を受光する撮像部を有するモーションキャプチャー装置を配置し、手術を受ける患者の患部に所定の第1画像を重畳表示する画像表示装置を有し、前記モーションキャプチャー装置で計測された前記マーカー群の座標位置及び回転量に応じて患者の患部と重畳表示画像を変化させる画像表示装置を有する外科手術システムにおいて、先端部が凹レンズで構成されている第1内視鏡に第1マーカー群を有し、前記第1内視鏡で撮られた臓器全体の画像より、患部を特定するステップと、患者の患部の拡大画像を表示する為の第2内視鏡若しくは手術用器具は、第2マーカー群を有し、前記第2内視鏡若しくは手術用器具の挿入方向若しくは先端部の位置と前記特定された患部の位置との相対位置の状態を表示する事を特徴としている。
【0035】
本発明である広角腹腔鏡12は
図8(a)に示す様に、先端の受光部に凹レンズ12bを採用する事で、
図6の様に切開した穴の位置から広い視野を観察する事が可能な装置である。また、
図6に示す様に、挿入する細い部分が、腹腔鏡13の部分と比べてもトロッカー15の先端からぎりぎり先端部が出る程度に短い。よって、差し込んだ状態で安定する構造であり、広い視野を映し出すのに適している事が判る。
図7(b)はその広い視野で患部を見ながら、他の手術器具が挿入されている様子を示している。迷うこと無く、短時間で腹腔鏡13及び、鉗子14の先端を患部まで挿入できている。この状態で全ての手術器具を挿入し、アライメントした時点で、腹腔鏡13の映像にモニター
図7(a)に切り替えるので、どの様に臓器の位置が変わっても、アライメント作業を短縮し、スムーズに術作業を行う事ができる。
【0036】
第3の形態では、手術室の所定の位置に赤外線を射出し、所定の間隔で配置されたマーカー群からの反射光を受光する撮像部を有するモーションキャプチャー装置を少なくとも3カ所に配置し、手術を受ける患者の患部に所定の第1画像を重畳表示する画像表示装置を有し、前記モーションキャプチャー装置で計測された前記マーカー群の座標位置及び回転量に応じて患者の患部と重畳表示画像を変化させる画像表示装置を有する外科手術システムにおいて、患者の患部に術を施す医療装置には脱着可能な第1マーカー群を有し、前記医療装置の作用部及びそれ以外の少なくとも2点で支持できるキャリブレーション装置は、第2マーカー群を有し、前記医療装置の先端部(作用部)と接触する部分と、第2マーカー群の相対座標位置を予め記憶すると共に、前記キャリブレーション装置上に前記医療装置が置かれた時の第1マーカー群と第2マーカー群の位置座標を前記モーションキャプチャー装置で計測し、記憶する事を特徴としている。
【0037】
キャリブレーター106と同様に、尖った触手を行う先端部分aを手術器具の先端(作用部)として、マーカー群部分bを設置し、その間隔をローカル座標として予め計測しておけば、モーションキャプチャー用センサー部1でそのマーカー群の位置座標を調べる事で、手術器具の先端(作用部)のワールド座標位置を特定する事ができる。しかし、これらの手術器具は常に殺菌消毒され、繰り返し使われるものである。一方、マーカー群は構造がいびつで、マーカー部は汚れが取り難い為、手術器具に取り付けた場合は、使い捨てとするか、取り外して別に洗浄殺菌する可能性が高い。
【0038】
本発明においては、洗浄等の為に手術用器具からマーカー群を外しても、手術用器具にマーカー群を貼り付け、キャリブレーション装置に載せただけで瞬時に手術用器具の先端(作用部)とマーカー群のローカル座標を計測できるので、感染症や二次感染を予防できるだけでなく、それぞれ効率の良い洗浄ができ、機材の洗浄効率が良くなる。また、手術室にて難しい作業なく、手術前に計測を行うので、環境の変化やマーカー群の摩耗によるドリフト等の可能性を軽減できるという効果がある。
【0039】
更に、第2及び第3の形態を組み合わせる事で、次の新たな機能も導入する事が可能となる。
図12で示す様に、まず、広角腹腔鏡12を挿入した際に、臓器の全体画像を確認し、何処に患部(図では黒×印)があるかを確認する。
図13(a)はその時の画像の見えであるが、画像の中心には予め○印24が表示される様になっているので、その○印24の中に患部が来るように広角腹腔鏡12の角度と位置を動かし、その場所で広角腹腔鏡12からホール12cに患部測定棒12pを患部に先端が達するまで挿入する。先端が○印24に入ったのを確認して、患部測定棒12pの先端部のワールド座標位置と画像を記憶する。即ち、患部測定棒12pの先端部が患部に接しているので、その座標が患部のワールド座標位置になる。
【0040】
記憶された画像を
図13(b)に示しているが、既に記憶された画像であり、広角腹腔鏡12をトロッカー15から引き抜いてもモニター上には記憶画像が表示され続ける。次に、腹腔鏡13を挿入するが、既に腹腔鏡13の先端部(受光部)はワールド座標位置が求まっているので、その先端座標位置を
図13(b)では十字印で重畳表示する。その患部と腹腔鏡13の先端部(受光部)の位置はA(0,0,+5)の様に、位置の差分情報としても表示される。同様にして、例えば鉗子14や電気メス18を別のトロッカー15から挿入してもそれぞれ先端部は異なる模様の○印25や△印26で表示され、その患部と鉗子14、電気メス18の先端部の位置はそれぞれB(+30,+40,+20)、C(―20,+20,+10)の様に、位置の差分情報としても表示される。これらの印がほぼ円の中に入った時点で、
図13(b)の画像を腹腔鏡13で受光した画像
図7(a)に切り替えれば、瞬時のアライメント時間だけで、全て挿入した手術器具をその狭い視野内で確認する事ができる。広角腹腔鏡12を引き抜いて別の手術用器具を挿入できるので、少ない切開数済み、且つ素早いアライメント作業が可能となる。
【0041】
第4の形態では、手術室の所定の位置に赤外線を射出し、所定の間隔で配置されたマーカー群からの反射光を受光する撮像部を有するモーションキャプチャー装置を配置し、手術を受ける患者の患部に所定の第1画像を重畳表示する画像表示装置を有し、前記モーションキャプチャー装置で計測された前記マーカー群の座標位置及び回転量に応じて患者の患部と重畳表示画像を変化させる画像表示装置を有する外科手術システムにおいて、前記画像表示装置は前記患部の画像を撮るカメラ及び前記第1マーカー群を有しており、前記カメラで撮られた第2画像と前記第1画像を重畳表示する為に、患者の患部を覆う透明シート貼り付け領域に少なくとも一つ以上の第2マーカーを取り付ける事を特徴としている。
【0042】
従来の技術で説明した(4)の段階では、
図34の様に、感染症を防ぐ為、患部以外は無菌カバー31で覆い、更に透明シート32で患部が覆われる為、術中に患者に固定されたマーカー105を見る事ができなくなる。術中は色々な処置が行われるので、患者の位置が変わってしまう事が多いが、本発明によれば、透明シート32部分に第2マーカーが貼り付けられているので、術中でも第2マーカーにより患者の位置を確認する事が可能となり、患者の位置が変わっても、その第2マーカーを確認する事により、重畳画像表示がズレない様に制御する事が可能となる。
【0043】
図14では分かり易い様に、患者100及び3点固定具104に対し、透明シート32と無菌カバー31、術作業の為の開口部31a、患部29(切開部分)及びマーカー30の大きさの関係が判る様に長方形で全て示している。まず、無菌カバー31で患者100を覆う前に、第1から第2の形態を用いてレジストレーションを実施する。この時点では重畳表示は問題無く行われている。次に、患部29の近傍にマーカー30を貼り付ける。第1から第2の形態で用いたカメラを使って、マーカー30の位置を画像認識する。既にマーカー群105とMRI重畳画像9のローカル座標値は求まっているので、第2マーカー30とマーカー群105とのローカル座標値が求まれば、マーカー30とMRI画像9のローカル座標値も求まる事になる。即ち、マーカー30は患者100の頭部に貼り付けられているので、マーカー30のローカル座標値変動を調べ補正する事で、MRI画像9と患者100の頭部画像を正確に重畳表示する事ができる。
【0044】
図17では、患部29とマーカー30が開口部31aから露出する様に無菌カバー31を位置合わせし、それ以外の患者100と3点固定具104、マーカー群105は完全に無菌カバー31で覆い、更に透明シート32で患部とマーカー30が覆われる様子を示している。マーカー群105が隠れてしまうので、モーションキャプチャー用センサー部1による患者100の頭部位置検出はできなくなるが、患者100の頭部の位置がドリフトしても、カメラを用いて透明シート32上で透けて見えるマーカー30のローカル座標値の変動を調べ、補正する事で、感染症のリスクを軽減したままでMRI画像9と患者100の頭部画像を正確にモニター上に重畳表示する事ができる。
【0045】
尚、今回はARマーカーを例にしたが、ARマーカーは本来、画像認識用に使われ、位置精度自体はそれ程高くない。元々、術中に患者100の頭部が動いてしまう量はそれ程大きくないので、ARマーカーの代わりに
図15(b)の様な黒枠の大きな正方形パターンを用いても良い。このパターンを2次元画像データとして取り込み、点線の様に分割して分割領域毎に縦及び横に加算処理する事で、1次元データX1,X2,Y1,Y2を形成する。黒枠部分のスロープ信号を検出し、そのそれぞれのスロープ位置を解析する事で、x,yのシフト量は勿論、回転量、ピッチング、ローリング誤差まで精度良く検出する事が可能となる。パターンが単純なので、画像認識には不向きだが、ある程度パターンの位置が定まっている状況(患者100の頭部ドリフトの量が小さい条件)ならば、加算処理する事で、平均化効果の高いこのパターンの方が高い精度で重畳表示状態を維持する事ができる。
【0046】
更に、第5の形態では、手術室の所定の位置に赤外線を射出し、所定の間隔で配置されたマーカー群からの反射光を受光する撮像部を有するモーションキャプチャー装置を少なくとも3カ所に配置し、手術を受ける患者の患部に所定の第1画像を重畳表示する画像表示装置を有し、前記モーションキャプチャー装置で計測された前記マーカー群の座標位置及び回転量に応じて患者の患部と重畳表示画像を変化させる画像表示装置を有する外科手術システムにおいて、前記画像表示装置は前記患部の画像を撮るカメラ及び前記第1マーカー群を有しており、前記カメラで撮られた第2画像と前記第1画像を重畳表示する為に、患者の患部から関節部を介さない患者の一部に、第2マーカー群を固定可能なコネクタ部を取り付ける事を特徴としている。
【0047】
図16に示す様に、コネクタ部33からマーカー群34を取り外し、無菌カバー31で覆い、透明シート32をコネクタ部33の上から貼るが、コネクタ部33にはマーカー群34を取り付ける凸部33bと、広い貼り付け面積を持つ平面部33aが存在する。透明シート32をコネクタ部33の上から貼ると、点線で示した様な凸部33b空洞部分が平面部33aに発生する。この点線に沿って、透明シート32を切り取ると、凸部33bが露出する。但し、点線32aまでは平面部33aと透明シート32の粘着裏面がしっかり粘着されているので、コネクタ部33とマーカー群34を殺菌消毒しておけば、裏側の菌が術中に表面に露出する様な不具合は発生しない。
【0048】
図18では、患部29とコネクタ部33が開口部31aから露出する様に無菌カバー31を位置合わせし、それ以外の患者100と3点固定具104、マーカー群105は完全に無菌カバー31で覆い、更に透明シート32で患部とマーカー30が覆われた後に、コネクタ部33の凸部33b部分を含む点線32aで切り取り、凸部33bを露出させている様子を示している。マーカー群105が隠れてしまうので、モーションキャプチャー用センサー部1による患者100の頭部位置検出はできなくなるが、患者100の頭部の位置がドリフトしても、凸部33bにマーカー群34を取り付け、複数のモーションキャプチャー用センサー部1を用いてマーカー群34の変動量を調べ、補正する事で、MRI画像9と患者100の頭部画像を正確にモニター上に重畳表示する事ができる。
【0049】
次の
図19では第5の形態を別の方法で実現している。患部29の近傍は手術の際に重要な領域であり、そこにマーカー30やコネクタ部33を取り付ける事は難しい場合がある。そこで
図19では患部29から離れた頭部を切開し、頭蓋骨にネジ穴を掘り、もう少し強度の高いコネクタ部35を埋め込んでいる。しかし、患者100全体は無菌カバー31で覆われているので、そのコネクタ部35に接続できるアーム部36を差し込み、無菌カバーの外側で、且つ手術の邪魔にならない位置までリレーする。その先端にコネクタ部としてマーカー群37を取り付けられる様にしている。設置自体は、ほとんど時間のかからない処理であり、設置の間、アーム部を人が支える事で、ネジ穴を掘った頭蓋骨部分に負荷は発生しない。
【0050】
画像合成装置を用いて、MRIから得た3D画像と前記画像入力部から得られたビデオデータをモーションキャプチャー装置の結果に応じて重畳表示するが、PCモニター111で見る重畳表示画像は、手術の視線からPCモニター111に視線を移す必要があり、手術を行いながら即在に動静脈や神経の場所を把握する事を難しくしている。第6の形態では、手術室の所定の位置に赤外線を射出し、所定の間隔で配置されたマーカー群からの反射光を受光する撮像部を有するモーションキャプチャー装置を配置し、手術を受ける患者の患部に所定の第1画像を重畳表示する画像表示装置を有し、前記モーションキャプチャー装置で計測された前記マーカー群の座標位置及びマーク群の回転量に応じて患者の患部と重畳表示画像を変化させる画像表示装置を有する外科手術システムにおいて、前記画像表示装置は前記患部を左右の目で独立に見る為の第1及び第2拡大光学系を有しており、前記第1、第2拡大光学系と目の間に、前記患部の投影像と前記第1画像を重畳表示する為の第1、第2合成ミラーを有し、更には第1マーカー群を有している事を特徴としている。
【0051】
図22が第6の形態の実施例を装着した時の斜視図であり、
図23が第6の形態の実施例の側面図である。ケプラー式(拡大倍率4〜6)のルーペ部(ガリレオ式双眼ルーペタイプでも可)42と、対物レンズ部44が画像合成部45により接合された構造である。ルーペ部42の合焦点と対物レンズ44の先に取り付けられた2次元画像表示用液晶部43と眼の網膜が共役な位置にあり、右眼と左眼用に一対で構成されている。これらの光学部分を脱着部41で保持しており、取り付け可能なメガネ型固定部112に着脱部41をコネクトする事で、この画像出力装置40全体が安定して両目の位置に位置合わせできる構成になっている。また、脱着部41には一対の内蔵カメラ63も設置されており、そこで得られた情報は、2次元画像表示用液晶部43にて見る事が可能である。
【0052】
また、ルーペ部とメガネ型固定部112の重量だけでも70〜90gあり、対物レンズ部44が画像合成部45、2次元画像表示用液晶部43を全て合わせると装重量は150〜200g程度となる。これをメガネと同様に耳と鼻の横で支えるのは厳しい。そこでこの画像出力装置40では着脱部41に形状記憶合金で作られた弾性棒60が取り付けられており、頭の頭部にある支持面58から出た支点部59を支点として、画像出力装置40の重量とバランサー61が「やじろべえ」の様な形で釣り合わす事で、バランスが保たれている。弾性棒60と支点の位置、バランサー61の位置や重さは微調整ができる構造であり、メガネと同等の数十g程度の重量を残す形でバランスを取れば、顔の動きに異存せず、双眼ルーペを装着した時に感じる鼻の横の支持部が重さで痛くなる様な不具合は無く、安定して装着し続ける事が可能となる。
【0053】
この構造だと、支点部59の下にある支持面58に全ての重量がかかってくるが、頭部全体にかかる重量なので、首への負担は殆ど無い。また、バランサーの重量を合わせても工事用ヘルメット程度の重さであり、支持面58の面積が広いので、頭部全体で重量を支える事になる。双眼ルーペやヘッドマウントディスプレイの様なバランスの偏りや締め付けによる不快感は無く、手術でも長時間装着する事ができる。
【0054】
また、
図23に示す様に、通常の双眼ルーペと同様に、コネクタ部を折り曲げる事で、双眼ルーペと同様に、眼の視線からルーペ部42を退避させる事ができ、広い視界(裸眼若しくはメガネ)で手術を継続する事も可能である。
【0055】
画像出力装置40の脱着部41にはマーカー群34も取り付けてあるので、レジストレーションを行う事ができる。レジストレーションにより内蔵カメラ63からの画像とMRIから得た3D画像を重畳画像として2次元画像表示用液晶部43に表示すれば、第1及び第5の形態を実施するのに必要な条件が全て整っている。更に、内蔵カメラ63をディプスカメラ6に変更すれば、第2の形態を実施する事も可能となる。内蔵カメラ63によりARマーカーを検出できる様にする事で、第4の形態を実施する事もできる。
【0056】
更には、腹腔鏡13のCCDカメラからの映像と手術器具の先端部情報を重畳画像として2次元画像表示用液晶部43に表示すれば、第3の形態を実施する事もできる。但し、この場合は、ルーペ部42の見えは邪魔になる。画像出力装置40は
図25、
図26に示す様に、分割ミラー(ハーフミラー)45とルーペ部44の間に出し入れ可能な遮蔽板46が配置されている。内視鏡手術の様に腹腔鏡13のCCDカメラからの映像のみ見たい場合は、
図26の様に遮蔽板46を挿入する。
【0057】
分割ミラーを偏光ミラーとし、46の部分に透過型液晶素子を入れても良い。偏光ミラーの透過光はP偏光であり、2次元画像表示用液晶部43から来る画像はS偏光なので、透過型液晶素子部で電気的にP偏光を遮蔽すれば同様の事ができる。一方、ルーペ部42の実像のみ見たい時は、2次元画像表示用液晶部43の画像をoffし、
図25の様に遮光板46を退避させてば良い。透過型液晶素子部を使う場合は、電気的にP偏光を透過する様にすれば良い。
【0058】
またこの画像出力装置40は、ルーペ部42から実際の術中の状態を観察できるので、その実像に2次元画像表示用液晶部43の画像を重畳表示する事も可能である。この使用法に関しては、別途レジストレーション作業が必要となる。一対のルーペ42の間隔と、一対で配置された内蔵カメラ63の間隔はほぼ等しいので、これらを重畳表示すると、ハーフミラーで両方の画像が見える。ルーペ部42の視界中心を見た場合、内蔵カメラの視界の中心と並行になる様に設計されており、その見えや倍率が合う様に2次元画像表示用液晶部43の画像の位置及び倍率を調整する。左右の目共に見えが一致すればレジストレーション作業は終了である。
【0059】
図24(a)は画像出力装置40と同じ拡大倍率を持つ双眼ルーペ114で見た時の患部であり、(b)はその視線から見た時のMRIの立体画像である。画像出力装置40を装着する事で、(c)の様に、ルーペ部42と画像とMRIから得た3D画像の重畳表示も精度良く重ねる事が可能となる。ルーペ部42により立体視が可能であり、手術を行いながら、視線を変えずに腫瘍Vの位置、静脈J等の位置を確認できるという利点がある。一般にレンズを介して物体を見る場合、周りを見渡す場合は必ず眼の瞳位置が変化する。これによりレンズを通る主光線の位置が変わり、ディストーションも変化してしまう。このディストーションの変化に対応して重畳画像を変化させる事は容易ではないが、本発明では視野の狭いルーペを用いている上に、モーションキャプチャーを用いる事で、画像のトラッキングができるので、常に物体をルーペのレンズ中心付近で見る事が可能である。中心付近の画像には殆どディストーションが発生していないので、重畳させる画像のディスト−ション等の補正も殆ど必要無い。
【0060】
最後に残るのが、高度な手術で二人観察用の手術用顕微を用いる場合である。第一執刀医と第二執刀医の二人が同時に患部の立体像を見る事ができ、更には重畳表示画像を同時に見る事ができれば、効率良く安全なナビゲーションが可能となる。それを実現する為に、第7の形態では、手術室の所定の位置に赤外線を射出し、所定の間隔で配置されたマーカー群からの反射光を受光する撮像部を有するモーションキャプチャー装置を少なくとも3カ所に配置し、前記モーションキャプチャー装置で計測された前記マーカー群の座標位置及びマーク群の回転量に応じて患者の患部の表示画像を変化させる画像表示装置を有する外科手術システムにおいて、前記画像表示装置は第1マーカー群が配置されたヘッドマウントディスプレイであり、患者の患部を撮像する立体顕微鏡には、その第1結像面に患部の画像を受光する2次元画像センサーが配置されており、ヘッドマウントディスプレイの装着者の顔の動きに応じて、患部を回転中心とした前記立体顕微鏡の回転及びシフト量を制御する制御機構を有し、且つ前記装着者の顔の動きに応じて前記立体顕微鏡の回転及びシフト量を制御する事を特徴としている。
【0061】
図27(a)〜(b)が第7の形態における実施例であり、(a)が正面図であり、(b)が側面図である。LED照明62の光が観察ターゲットTを照射すると、ターゲットTからの拡散反射光は所定の傾きを持った光束として偏向レンズ48を介して平行光束となる。その後、ズーム光学系49、対物・フォーカス調整レンズ50を経てターゲットTの像は2次元CCD51上に投影される。これは偏向レンズ48での光束の間隔は人の両目の間隔である62mm近傍に設定されており、両目を偏向レンズ48の位置に置いてターゲットTを見た時の立体視とほぼ同じ条件である。
【0062】
即ち、2次元CCD51の画像を、例えば第6の形態で説明したヘッドマウントディスプレイ型の画像表示装置40で見ると、両目を偏向レンズ48の位置に置いてターゲットTを見ながら手術を行っているのとほぼ同等の条件となる。2次元CCD51の画像は電気的に分配可能なので、ヘッドマウントディスプレイ型の画像表示装置を装着している人全てが同一条件で立体画像を見る事が可能となる。また、一般に、第2執刀医は第1執刀医の術台109を挟んで反対側で作業を行う場合が多い。第2執刀医から見れば、第1執刀医の視線は通常見る条件に対して180度回転した画像を見ている事になる。これは自分の右手が左側から現れる事を意味し、非常に作業が行い難い。2次元CCD51の画像は画像処理により180度回転する事は容易にできるので、第2執刀医に対しては、180度回転した画像を見せる事で、サポートの効率を高める事が可能となる。
【0063】
画像表示装置40はヘッドマウントディスプレイ型なので、任意の位置で画像を見る事が可能である。但し、執刀医が手術を行う時はターゲットTの位置に患者100の患部があるので、指先はその位置で作業を行う必要がある。よって、立体顕微鏡47と画像表示装置40の位置関係は
図28(a)〜(b)の様になる。(a)が正面からの様子で、(b)が側面からの様子を示している。ここで偏向レンズ48とターゲットTの間隔をLとすると、執刀医は最も楽な視線状態(個人差もあるが、通常は20〜30度下を向いた状態)で仮想ターゲットがその視線でL離れたTTという事になる。この眼とTTの方向が画像表示装置40の中でのZ軸方向となり、それに応じてX軸及びY軸の角度も決定され、これがバーチャル空間での座標軸Bとなる。
【0064】
執刀医はその座標軸上でTTの位置に患者100の患部を見ている事になるので、術中も顔を向けた方向と同様の方向に立体顕微鏡47を制御する事で、執刀医は現実の視線に応じて患部を見る事ができるので、従来技術の手術用立体顕微鏡の様に、大掛かりな立体顕微鏡支持アームをその都度動かして、見る位置や角度を変える様な煩わしさが無くなる。これは作業の効率及び安全性を高めるだけでなく、バーチャル酔いを防止するという効果もある。
【0065】
図29(a)〜(b)は通常の執刀医の顔の動かし方を示している。仮想ターゲットTTに対し、座標軸B基準のZ軸周りと横の移動は、立体顕微鏡47の
図29(a)の紙面に沿った回転と紙面に沿った横シフトとなるので、Z軸周り回転ステージ53cのZ軸周り回転駆動と、X軸移動ステージ54XのX駆動のみで対応できる。また、仮想ターゲットTTに対し、座標軸B基準のX軸周りと縦の移動は、立体顕微鏡47の
図29(b)の紙面に沿った回転と紙面に沿った縦シフトとなるので、立体顕微鏡47のX軸周り回転駆動と、Z方向移動軸56のZ駆動のみで対応できる。それぞれの駆動系は独立に制御できるので、顔の動きに応じてスムーズな立体顕微鏡47の駆動制御が可能となる。
【0066】
顔の動きは画像表示装置40に設置されたマーカー群34の動きを複数のモーションキャプチャー用センサー部1を用いて計測し、座標軸B基準に対する変動位置と変動角度に応じて立体顕微鏡47を駆動制御すれば良い。また、立体顕微鏡47にマーカー群を設置し、それも複数のモーションキャプチャー用センサー部1を用いて計測する事で、立体顕微鏡47が想定通りに駆動したかをフィードバック制御する事も可能である。尚、今回は画像表示装置40を用いたが、無論、通常の手術用ヘッドマウントディスプレイ39を用いても同様の事が可能となる。
【0067】
立体顕微鏡47の画像を画像表示装置40で見る場合の重畳表示についてであるが、立体顕微鏡47にマーカー群を設置すれば、元々2次元CCD51が内蔵カメラの役割を果たすので、シフト及び回転に関するレジストレーションは第3〜第5の形態の発明を用いて計測可能である。但し、立体顕微鏡47にはズーム光学系49が搭載されており、画像の倍率をズーム光学系49により変化させた場合は、マーカー群を用いた重畳表示制御ができない。この場合は、ターゲットT近傍に配置した第4の形態で用いたARマーカーを2次元CCD51にて確認し、倍率や位置変化を補正する事で、安定した重畳表示が可能となる。
【0068】
それ以外にも立体顕微鏡47の駆動部はそれぞれの方向に干渉せず独立に制御できる構成なので、予め、各エンコーダ値の変動に応じて重畳表示画像がどの程度ドリフトするかを自動計測し、変動誤差をマップとして記憶しておいても良い。メカ公差や立体顕微鏡47の自重変形による誤差については、その状態での自動計測による変動誤差マップによる補正で、重畳表示画像のドリフトを最小限に抑える事が可能となる。