本発明の分離回収方法は、密閉式の縦型反応容器R内にフッ化カルシウム系の原料(回収フッ化カルシウム)を充填し、これに硫酸等を添加しながら撹拌手段2の撹拌羽根2aで上下に撹拌して、フッ素成分をフッ化水素系ガスとして分離するガス分離工程と、回収貯槽Tに貯留された水系の吸収液をポンプPを用いてエゼクタEに循環させ、エゼクタEに負圧を発生させる工程と、上記負圧を利用して、縦型反応容器R内で発生したフッ化水素系ガスを吸い出し、このガスを回収貯槽Tに回収するガス回収工程と、上記水系吸収液の循環と発生するフッ化水素系ガスの回収とをバッチ単位で繰り返し行うフッ化水素濃縮工程と、を備える。
筒状の反応容器と、上記反応容器内の粉体を上下に撹拌する撹拌手段と、ガスを吸収するための吸収液を貯留する回収貯槽と、エゼクタとこれに負圧発生用の流体を供給するポンプとからなるガス吸引手段と、を備え、上記反応容器が、発生するガスを封じ込めることのできる密閉式の縦型反応容器であり、この縦型反応容器内にフッ化カルシウム系の原料を充填し、硫酸を添加しながらこれらを撹拌手段の撹拌羽根で上下に撹拌して、上記フッ化カルシウム系の原料からフッ素成分をフッ化水素系ガスとして分離するガス分離工程と、上記回収貯槽にフッ化水素系ガスを吸収する水系の吸収液を貯留するとともに、この水系吸収液を、ポンプを用いて上記エゼクタを経由して回収貯槽に戻るように循環させ、このエゼクタにガス吸引用の負圧を発生させる工程と、上記エゼクタの負圧を利用して、上記縦型反応容器内で発生したフッ化水素系ガスを吸い出し、このガスを上記エゼクタ内で水系吸収液に混合して、この混合液を上記回収貯槽に回収するガス回収工程と、上記ポンプを用いたエゼクタ経由の水系吸収液の循環と縦型反応容器で発生するフッ化水素系ガスの回収とを、上記回収貯槽内の水系吸収液に吸収されたフッ化水素系成分の濃度が所定の濃度に達するまで継続して行うフッ化水素濃縮工程と、を備えることを特徴とするフッ化水素の分離回収方法。
上記縦型反応容器の内面が、上部から下部に向かって漸次縮径する逆円錐形状になっているとともに、上記撹拌手段の撹拌羽根が、上記逆円錐形状の内周面に沿って歳差運動するようになっている請求項1記載のフッ化水素の分離回収方法。
少なくとも上記フッ化水素と接触する、縦型反応容器の内面,回収貯槽の内面,ガス吸引手段における水系吸収液との接触面、および、フッ化水素系ガスが通過する配管の内面が、耐腐食性を有する樹脂ライニングまたは樹脂皮膜で覆われている請求項1または2記載のフッ化水素の分離回収方法。
上記回収貯槽とガス吸引手段とからなるガス回収ユニットを2組以上備え、上記縦型反応容器で発生するフッ化水素系ガスの種類と濃度の変化に対応して、この縦型反応容器に接続するガス回収ユニットを切り替えて回収するようになっている請求項1〜3のいずれか一項に記載のフッ化水素の分離回収方法。
上部にフッ化水素系ガスの吸出口を有するとともに底部に反応済みの粉体の排出口を有する密閉式の縦型反応容器と、上記縦型反応容器内のフッ化カルシウム系の原料を上下に撹拌する撹拌手段と、上記フッ化水素系ガスを吸収するための水系の吸収液を貯留する回収貯槽と、上記縦型反応容器と回収貯槽との間に配設されたエゼクタと、上記回収貯槽内の水系吸収液を上記エゼクタを経由させて貯槽内に戻す吸収液循環流路と、上記回収貯槽内の水系吸収液を負圧発生用の流体としてエゼクタに圧送するポンプと、上記縦型反応容器の吸出口と上記エゼクタとの間に設けられ、縦型反応容器内で発生するフッ化水素系ガスを吸い出すガス回収流路と、を備えることを特徴とするフッ化水素の分離回収装置。
上記縦型反応容器の内面が、上部から下部に向かって漸次縮径する逆円錐形状になっており、上記撹拌手段の撹拌羽根が、上記逆円錐形状の内周面に沿って歳差運動するようになっている請求項5記載のフッ化水素の分離回収装置。
少なくとも上記フッ化水素と接触する、縦型反応容器の内面,回収貯槽の内面,エゼクタ内部における流体との接触面、および、吸収液循環流路とガス回収流路の配管内面が、耐腐食性を有する樹脂ライニングまたは樹脂皮膜で覆われている請求項5または6記載のフッ化水素の分離回収装置。
上記回収貯槽およびエゼクタ,吸収液循環流路,ポンプからなるガス回収ユニットを2組以上備え、上記ガス回収流路のユニット側終端に、上記縦型反応容器で発生するフッ化水素系ガスの種類と濃度の変化に対応してこのガス回収流路に接続されるガス回収ユニットを切り替える回収ユニット切り替え手段が配設されている請求項5〜7のいずれか一項に記載のフッ化水素の分離回収装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、回収フッ化カルシウムを、前記従来の蛍石を用いたフッ化水素の製造工程に混合する方法は、上記回収フッ化カルシウムが嵩比重の軽いポーラスな粒子であるため主原料である蛍石との混ざりが悪く、炉内の流動性を悪化させるとともに、長時間の強熱(約500〜600℃)による硫酸等の揮発や不純物の増加といった問題が発生する。
【0008】
また、前記特許文献2に記載のフッ化水素の製造方法も、上記回収フッ化カルシウムが軽い粒子状で、かつ、この製造方法が連続式であるため、回収フッ化カルシウムと濃硫酸等との混合比率を一定に保つ(互いの接触機会を均等に保つ)のが難しく、フッ化水素の分離効率(回収率)がなかなか上がらない、という問題があった。そのため、回収フッ化カルシウムからフッ化水素を回収・再生する方法の改善が望まれている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、種々の工程から排出されるフッ化カルシウムから、フッ化水素を効率よく回収することのできるフッ化水素の分離回収方法およびフッ化水素の分離回収装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、筒状の反応容器と、上記反応容器内の粉体を上下に撹拌する撹拌手段と、ガスを吸収するための吸収液を貯留する回収貯槽と、エゼクタとこれに負圧発生用の流体を供給するポンプとからなるガス吸引手段と、を備え、上記反応容器が、発生するガスを封じ込めることのできる密閉式の縦型反応容器であり、この縦型反応容器内にフッ化カルシウム系の原料を充填し、硫酸を添加しながらこれらを撹拌手段の撹拌羽根で上下に撹拌して、上記フッ化カルシウム系の原料からフッ素成分をフッ化水素系ガスとして分離するガス分離工程と、上記回収貯槽にフッ化水素系ガスを吸収する水系の吸収液を貯留するとともに、この水系吸収液を、ポンプを用いて上記エゼクタを経由して回収貯槽に戻るように循環させ、このエゼクタにガス吸引用の負圧を発生させる工程と、上記エゼクタの負圧を利用して、上記縦型反応容器内で発生したフッ化水素系ガスを吸い出し、このガスを上記エゼクタ内で水系吸収液に混合して、この混合液を上記回収貯槽に回収するガス回収工程と、上記ポンプを用いたエゼクタ経由の水系吸収液の循環と縦型反応容器で発生するフッ化水素系ガスの回収とを、上記回収貯槽内の水系吸収液に吸収されたフッ化水素系成分の濃度が所定の濃度に達するまで継続して行うフッ化水素濃縮工程と、を備えるフッ化水素の分離回収方法を第1の要旨とする。
【0011】
また、本発明は、上部にフッ化水素系ガスの吸出口を有するとともに底部に反応済みの粉体の排出口を有する密閉式の縦型反応容器と、上記縦型反応容器内のフッ化カルシウム系の原料を上下に撹拌する撹拌手段と、上記フッ化水素系ガスを吸収するための水系の吸収液を貯留する回収貯槽と、上記縦型反応容器と回収貯槽との間に配設されたエゼクタと、上記回収貯槽内の水系吸収液を上記エゼクタを経由させて貯槽内に戻す吸収液循環流路と、上記回収貯槽内の水系吸収液を負圧発生用の流体としてエゼクタに圧送するポンプと、上記縦型反応容器の吸出口と上記エゼクタとの間に設けられ、縦型反応容器内で発生するフッ化水素系ガスを吸い出すガス回収流路と、を備えるフッ化水素の分離回収装置を第2の要旨とする。
【0012】
すなわち、本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、粉体の撹拌混合性に優れる縦型(縦形)の反応容器を用いて、連続式ではなくバッチ式でフッ化カルシウムからフッ素系成分(フッ化水素)の分離操作を行うことにより、従来の連続式の分離操作に比べ、短い反応時間でも高い収率でフッ素を分離できることを見出した。また、フッ素系成分(ガス)を回収する工程にも工夫を凝らし、腐食性の高いフッ化水素やフッ化水素酸(水溶液)が接触する装置部分に、可動部分がなく液封(軸封)の必要のないエゼクタやポンプ等を用いるとともに、流路全体を樹脂ライニングが施されたもの(または樹脂製のもの)で構成することにより、フッ化水素の系外への漏出の防止と回収工程自体の長寿命化を図った。そして、上記のようにフッ化水素を高効率(省エネルギー)で分離できることと相俟って、フッ化水素の分離回収工程(装置)トータルでの、初期設備投資やランニングコストを実用的なレベルにまで低減できることを確信し、本発明を提案するに至った。
【0013】
なお、本発明で用いるフッ化カルシウム系の原料は、フッ素系成分を使用する種々の工程から排出される排液を処理して得られる「回収フッ化カルシウム」と呼ばれるもので、その形態は含水状固形物やそれを乾燥させたスポンジ状もの、あるいは、これを粉砕した粉末状のもの(粉体または粒体が二次凝集した状態を含む)がある。また、上記フッ化水素の分離回収の「回収」には、上記「回収フッ化カルシウム」中のフッ素系成分を回収して「再生」または「再利用」に供する意味が含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフッ化水素の分離回収方法は、発生するガスを封じ込めることのできる密閉式の縦型反応容器内に、フッ化カルシウム系の原料を充填し、これに硫酸を添加しながら撹拌手段の撹拌羽根で上下に撹拌して、上記フッ化カルシウム系の原料からフッ素成分をフッ化水素系ガスとして分離するガス分離工程を備える。これにより、上記縦型反応容器内に充填されたフッ化カルシウム系の原料は、その混合(反応)方式がバッチ式で上下に撹拌するものであるが故に、素早くかつ充分に、添加された硫酸(濃硫酸,発煙硫酸等)と混ざり合って接触し、短時間でフッ素系成分の分離(フッ化水素の脱離)を完了することができる。しかも、上記の反応(フッ素系成分の分離)は、従来のロータリーキルン等を用いた製造方法のような高温(硫酸の分解温度を超える250℃以上)をかける必要がなく、150℃以下の低温域で完了するため、反応に費やされるエネルギー(工程のランニングコスト)の観点からも有利である。
【0015】
また、本発明のフッ化水素の分離回収方法は、回収貯槽に貯留された水系の吸収液を、ポンプを用いてエゼクタを経由して回収貯槽に戻るように循環させ、このエゼクタにガス吸引用の負圧を発生させる工程と、エゼクタの負圧を利用して、上記縦型反応容器内で発生したフッ化水素系ガスを吸い出し、このガスを上記エゼクタ内で水系吸収液に混合して、この混合液を上記回収貯槽に回収するガス回収工程と、上記ポンプを用いたエゼクタ経由の水系吸収液の循環と縦型反応容器で発生するフッ化水素系ガスの回収とを、バッチ単位で、上記回収貯槽内の水系吸収液に吸収されたフッ化水素系成分の濃度が所定の濃度に達するまで継続して行うフッ化水素濃縮工程と、を備える。
【0016】
これらの工程の協業により、上記ガス分離工程の縦型反応容器で発生したフッ化水素系ガスを、素早く水系吸収液に吸収させて濃縮することができる。しかも、上記負圧の発生に用いているエゼクタは、負圧の発生機構に可動部分や軸封部分がないため、腐食性の高いフッ化水素酸(水溶液)を通しても、有害な液体が漏れるおそれが低い。さらに、上記縦型反応容器から吸引されたフッ化水素系ガスが、エゼクタ内で噴射される水系吸収液と即時に混ざり合って吸収されるという利点もある。
【0017】
そして、本発明のフッ化水素の分離回収方法は、前記フッ化水素系ガスの分離工程から得られる作用効果と上記フッ化水素系ガスの回収(濃縮)工程から得られる作用効果の相乗効果により、従来の連続式のフッ化水素の製造装置に比べ、大幅に短い反応時間と高い効率および低コストで、フッ化カルシウム系原料中のフッ素系成分(フッ化水素)を分離・回収することができる。
【0018】
なお、本発明のフッ化水素の分離回収方法は、上記縦型反応容器の内面が、上部から下部に向かって漸次縮径する逆円錐形状になっているとともに、上記撹拌手段の撹拌羽根が、上記逆円錐形状の内周面に沿って歳差運動するようになっているものを、好適に用いることができる。また、少なくとも上記フッ化水素と接触する、縦型反応容器の内面,回収貯槽の内面,ガス吸引手段における水系吸収液との接触面、および、フッ化水素系ガスが通過する配管の内面が、耐腐食性を有する樹脂ライニングまたは樹脂皮膜で覆われていることが望ましい。
【0019】
また、本発明のフッ化水素の分離回収方法のなかでも、特に、上記回収貯槽とガス吸引手段とからなるガス回収ユニットを2組以上備え、上記縦型反応容器で発生するフッ化水素系ガスの種類と濃度の変化に対応して、この縦型反応容器に接続するガス回収ユニットを切り替えて回収するようになっている場合は、種々の工程から排出されるフッ化カルシウム系の原料が、フッ素の含有率が異なるものの混合系、もしくは、2種以上のフッ化カルシウムの混合系のもの等であっても、これらを、種類別あるいは濃度(純度)別に分別して回収(再生)することができる。
【0020】
つぎに、上記分離回収方法に用いる、本発明のフッ化水素の分離回収装置は、上部にフッ化水素系ガスの吸出口を有するとともに底部に反応済みの粉体の排出口を有する密閉式の縦型反応容器と、上記縦型反応容器内のフッ化カルシウム系の原料を上下に撹拌する撹拌手段とを備え、上記縦型反応容器内で、フッ化カルシウム系の原料と硫酸とを混合して、フッ化水素系ガスを発生させるようになっている。この構成により、本発明の分離回収装置は、先にも述べたように、縦型反応容器内に充填されたフッ化カルシウム系の原料が、素早くかつ充分に、添加された硫酸(濃硫酸,発煙硫酸等)と混ざり合って接触し、短時間でフッ素系成分の分離(フッ化水素の脱離)を完了することができる。しかも、上記の反応(フッ素系成分の分離)は、従来のロータリーキルン等を用いた製造方法のような高温(硫酸の分解温度を超える250℃以上)をかける必要がなく、150℃以下の低温域で完了するため、省エネルギーである。
【0021】
また、上記分離回収装置は、上記フッ化水素系ガスを吸収するための水系の吸収液を貯留する回収貯槽と、上記縦型反応容器と回収貯槽との間に配設されたエゼクタと、上記回収貯槽内の水系吸収液を上記エゼクタを経由させて貯槽内に戻す吸収液循環流路と、上記回収貯槽内の水系吸収液を負圧発生用の流体としてエゼクタに圧送するポンプと、上記縦型反応容器の吸出口と上記エゼクタとの間に設けられ、縦型反応容器内で発生するフッ化水素系ガスを吸い出すガス回収流路と、を備えており、上記縦型反応容器で発生したフッ化水素系ガスを、エゼクタで発生する負圧を利用して吸引し、上記回収貯槽とエゼクタの間で循環する水系吸収液(エゼクタ内においては、負圧発生用の流体)に吸収させて回収・固定化(濃縮)するようになっている。
【0022】
この構成により、上記縦型反応容器で発生したフッ化水素系ガスを、素早く確実に吸収することができる。しかも、上記負圧の発生に用いているエゼクタは、先にも述べたように、一般的な吸引(真空)ポンプ等とは異なり、負圧の発生機構に可動部分がなく、軸封(液封)部分もないため、腐食性の高いフッ化水素酸(水溶液)を通しても、有害な液体が漏出しないようになっている。さらに、上記縦型反応容器から吸引されたフッ化水素系ガスが、エゼクタ内を通過(流通)する水系吸収液と即時に混ざり合って吸収されるため、その吸収(溶解)による体積減少とも相俟って、このエゼクタ内で発生する負圧が自然に上昇する(陰圧が高まる)という有効な効果もある。
【0023】
なお、本発明のフッ化水素の分離回収装置のなかでも、上記縦型反応容器の内面が、上部から下部に向かって漸次縮径する逆円錐形状になっており、上記撹拌手段の撹拌羽根が、上記逆円錐形状の内周面に沿って歳差運動するようになっているものは、上記撹拌羽根によって撹拌されたフッ化カルシウム系の原料(粉体)と濃硫酸等(液体)とが、この縦型反応容器の内周面(逆円錐形)に沿って、容器底部の中央部へ向かって、集約されるように流動する。したがって、上記形状の縦型反応容器を用いたフッ化カルシウム系の原料と硫酸等の混合操作(フッ化水素系ガスの分離操作)は、他の形状の反応容器を用いた場合に比べて、これらフッ化カルシウム系の原料と濃硫酸等の接触機会が増えるため、より短時間で反応を完結させることができる。
【0024】
また、本発明のフッ化水素の分離回収装置のなかでも、特に、少なくとも上記フッ化水素と接触する、縦型反応容器の内面,回収貯槽の内面,エゼクタ内部における流体との接触面、および、吸収液循環流路とガス回収流路の配管内面が、耐腐食性を有する樹脂ライニングまたは樹脂皮膜で覆われているものは、上記フッ化水素の腐食に起因する流体の系外への漏れが発生しにくく、装置のメンテナンス費用を低減することができる。さらに、装置全体を長寿命とすることができるという利点もある。
【0025】
そして、本発明のフッ化水素の分離回収装置のなかでも、上記回収貯槽およびエゼクタ,吸収液循環流路,ポンプからなるガス回収ユニットを2組以上備え、上記ガス回収流路のユニット側終端に、上記縦型反応容器で発生するフッ化水素系ガスの種類と濃度の変化に対応してこのガス回収流路に接続されるガス回収ユニットを切り替える回収ユニット切り替え手段が配設されているものは、種々の工程から排出されるフッ化カルシウム系の原料が、フッ素の含有率が低いもの,不純物が多いもの、もしくは、2種以上のフッ化カルシウムの混合系等であっても、これらを、種類別あるいは濃度(純度)別に分別して回収(再生)することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0028】
図1は、本発明の第1実施形態のフッ化水素の分離回収方法の概略を説明する構成図であり、
図2は、この分離回収方法に用いる縦型反応容器の概略構成図である。なお、工程で用いる原料(フッ化カルシウム,硫酸等)の貯蔵タンクと輸送配管や、上記縦型反応容器を支える支持部材(架台)や土台等は図示を省略している。
【0029】
この第1実施形態のフッ化水素の分離回収方法は、
図1に示すように、縦型の反応容器R内でフッ化水素(HF)ガスを発生させて分離するガス分離工程と、回収貯槽T内の吸収液(水:H
2O)が循環することによりエゼクタEで発生する負圧を利用して、上記発生したフッ化水素ガスを縦型反応容器Rから吸い出し、このガスを吸収液(水)に混合した(吸収させた)状態で回収貯槽T内に貯蔵するガス回収工程と、を備える。このフッ化水素ガスの分離・回収の際、従来の横型のキルン炉等とは異なる、撹拌性に優れる縦型の反応容器Rを用いて、この中でバッチ式により短時間でフッ化水素ガスを効率的に発生させることが、本発明のフッ化水素の分離回収方法および分離回収装置の最大の特徴である。
【0030】
なお、上記回収貯槽T内の吸収液は、主成分を水とするもので、凍結防止剤等の成分を多少含む場合がある。
【0031】
上記フッ化水素の分離・回収の過程を装置構成順に説明すると、まず、フッ化水素ガスを発生させるガス分離工程は、
図1の左側およびその拡大図である
図2に示すような、縦型の反応容器Rを用いて行われる。この縦型反応容器Rは、腐食性を有するフッ化水素(HF)ガスを閉じこめることができるように、密閉式になっており、その容器Rの内面1aは、容器上部から下部(底部1b)に向かって漸次縮径する逆円錐形状になっている。
【0032】
また、上記縦型反応容器Rの容器本体の上部(上面)には、ガス生成の原料となるフッ化カルシウム系原料(主成分CaF
2)を投入するための粉体投入口1wと、液体原料である硫酸(H
2SO
4:濃硫酸や発煙硫酸等)を投入するための液体投入口1xと、上記内部で発生したフッ化水素(HF)ガスを吸い出ためのガス吸出口1yとが設けられており、その容器本体の下部(底部1b)には、上記フッ化カルシウム系原料と濃硫酸等との反応(HFガスの発生)により生成する、残余の無水硫酸カルシウム(CaSO
4)の粉体〔いわゆる「無水石膏」〕を排出するための粉体排出口1zが設けられている。
【0033】
なお、縦型反応容器Rの容器本体の材質は特に限定されないが、内部で発生するフッ化水素ガスによる腐食を受ける材質の場合、その容器Rの内面1a全体を、耐腐食性を有する樹脂ライニングまたは樹脂皮膜(被膜)で被覆しておくことが好ましい。さらに、上記縦型反応容器Rの容器本体の外面には、この容器R全体を保温・加温するためのヒートジャケット3が取り付けられている(
図1,
図2を参照)。
【0034】
そして、上記縦型反応容器Rの中(内部)には、原料となるフッ化カルシウム系原料(粉体または粒体)と硫酸等(液体)とを効率よく撹拌するための、二つの異なる回転軸(自転軸−公転軸)を有する撹拌手段2が配設されている。これも、本発明のフッ化水素の分離回収装置の特徴の一つである。
【0035】
この撹拌手段2は、
図2に示すように、モータM
1の駆動により、縦型反応容器Rの内面1aに沿った斜め状に自律回転(自転)する撹拌羽根2a(スパイラル状のスクリュー羽根またはヘリカルリボン翼等)と、この撹拌羽根2aが回転(自転)した状態で、これをモータM
1(回転軸)ごと容器Rの内面1aに沿って公転運動〔歳差運動(いわゆる「みそすり運動」)〕するように回転させるアーム2bおよび回転軸2cとを備える。
【0036】
上記構成の撹拌手段2を作動させた場合、この縦型反応容器R内に投入されたフッ化カルシウム系原料(
図2では図示せず)は、上記撹拌羽根2a(スクリュー羽根)自体の自転によって、容器底部1bから上部に向けて内壁(内面1a)に沿って上昇するように撹拌される。しかも、上記撹拌羽根2aが自転した状態で、その全体が容器内面1aに沿って公転(歳差運動)することから、上記フッ化カルシウム系原料と、上部の液体投入口1xから投入される濃硫酸等とは、短時間で充分に撹拌・混合される。
【0037】
そして、縦型反応容器Rの外面に配置されたヒートジャケット3は、その中を熱した流体(オイル等の熱媒:約100〜150℃)を、媒体入口3bから媒体出口3aに向けて流通させることにより、上記フッ化カルシウム系原料と濃硫酸等との撹拌・混合の間、容器R全体を保温・加温する。なお、上記ヒートジャケット3の設定温度は、通常100〜150℃、より好ましくは110〜130℃である。
【0038】
以上のような構成の本実施形態におけるフッ化水素の分離回収方法(ガス分離工程)および装置は、この撹拌手段2の構成と上記縦型反応容器Rの内面1aが逆円錐形状になっていることが相俟って、フッ化カルシウム系原料と濃硫酸等との混合、およびそれに伴うフッ素系成分の分離(フッ化水素ガスの脱離)を、従来法より短時間で完了することができる。また、フッ化カルシウムと当量の濃硫酸とが、容器内部で均等に素早く混ざり合うことから、それらの反応によるフッ化水素(HF)ガスの発生効率(収率)を高めることができる。
【0039】
なお、上記縦型反応容器Rおよび撹拌手段2の構成には、容器Rの内面1a形状(逆円錐形状)と相俟って、上記撹拌羽根2a(スクリュー羽根)を逆転(上記自転方向と逆方向に回転)させることにより、フッ化カルシウム系原料と濃硫酸等が反応した後に生成する無水硫酸カルシウム(CaSO
4)の粉体〔無水石膏〕を、底部1b側の粉体排出口1zから簡単に排出できるという利点もある。
【0040】
つぎに、上記縦型反応容器Rで発生したフッ化水素ガスを吸引,回収,濃縮(貯留)する各工程は、
図1の右側に示す、フッ化水素ガスの回収貯槽T,エゼクタE,循環ポンプPおよびこれらを繋ぐ吸収液循環流路11と、上記縦型反応容器R内で発生するフッ化水素(HF)ガスを吸い出す(エゼクタEに導く)ためのガス回収流路10と、を用いて構成されている。
【0041】
まず、上記フッ化水素ガスを吸引する工程は、循環ポンプPを用いて、
図1のように、回収貯槽T内に貯留されたフッ化水素吸収液(この場合、水:H
2O)を、上記吸収液循環流路11を通じて、エゼクタEの通過用流体入口4側(図示上側)に圧送し、このエゼクタE内部のオリフィス(狭窄部または小孔等:図示省略)を通して通過用流体出口5側(図示下側)に向けて通過させ、側方のガス回収流路10に繋がる吸引流体流入口6に、ガス吸引用の負圧を発生させるとともに、上記通過用流体出口5から流出した吸収液を、吸収液循環流路11を介して循環回収貯槽Tに回収する。この吸収液(水)の循環により、上記エゼクタEの吸引口(吸引流体流入口6)に、フッ化水素ガス吸引用の負圧を、連続して発生させることができる。
【0042】
つぎに、上記フッ化水素(HF)ガスを吸い出す回収工程は、
図1のように、縦型反応容器R内で発生したフッ化水素(HF)ガスを、上部のガス吸出口1yから、これに繋がるガス回収流路10を介して、上記エゼクタEで発生する負圧を利用して吸い出し、そのガスを、上記負圧の発生元であるエゼクタEの吸引流体流入口6からエゼクタE内に吸い込んで、上記オリフィス(図示省略)経てエゼクタE内を通過する吸収液(水)に混合した状態で、この混合液(水+HF)を上記回収貯槽Tに回収する。
【0043】
なお、前記ガス吸引用の負圧を発生させる工程と、上記フッ化水素ガスを吸い出して吸収液に吸収させる(混合する)工程とは、上記回収貯槽T内の吸収液(水)に吸収されたフッ化水素(HF)成分の濃度が所定の濃度に達するまで、継続して連続で運転(稼働)され、上記縦型反応容器Rから取り出されたフッ化水素が、回収貯槽T内で濃縮される(フッ化水素濃縮工程)。
【0044】
上記各工程で用いられるエゼクタEは、構造(形状)自体は汎用のものと変わらないが、フッ化水素に対して耐腐食性を有する樹脂を用いて形成されているか、もしくは、フッ化水素系の流体が接触するエゼクタEの表面(主に内面)に、上記と同様のフッ化水素に対して耐腐食性を有する樹脂ライニング(樹脂皮膜)が施されている。これもまた、本発明の特徴の一つである。
【0045】
上記エゼクタEの形成またはライニングに用いられる樹脂としては、テフロン(登録商標),ポリエチレン等の合成樹脂をあげられる。また、上記テフロン(登録商標),ポリエチレンで形成されたエゼクタEの他に、炭素繊維や有機繊維を用いたFRP製とすることもできる(ガラス繊維を用いてもよい)。
【0046】
上記構成のエゼクタEによれば、従来の吸引(真空)ポンプ等に比べ、可動部(軸封部)がないため、フッ化水素の漏出のおそれが少なく、安全に吸い出し操作を継続することができる。また、軸封部やフッ化水素の漏出のおそれがないことから、エゼクタEおよび装置全体のメンテナンス頻度が少なく、装置を長寿命とすることができる。
【0047】
また、上記各工程で用いられるフッ化水素の回収貯槽Tは、
図1に示すように、充填物(気液接触用の充填材)が配設された回収槽7と、脱気槽8とから構成されており、上記回収したフッ化水素(HF)を、主成分を水とする吸収液に溶かし込んだ状態で貯留するようになっている。
【0048】
なお、この回収貯槽Tもフッ化水素の漏出を防止するため、密閉構造となっており、その排気(少量のフッ化水素を含む)は、専用の排ガス設備(図示省略)に送られる。また、上記エゼクタEと同様、フッ化水素系の流体が接触する回収貯槽Tの表面(主に内面)に、フッ化水素に対して耐腐食性を有する樹脂ライニング(樹脂皮膜)を施しておくことが望ましい。さらに、上記回収貯槽T(脱気槽8)内の吸収液のフッ化水素濃度を測定(モニタリング)できる濃度検出手段(図示省略)を備えていてもよい。
【0049】
一方、上記フッ化水素を含む吸収液(水)を循環させるのに用いられる循環ポンプPは、この吸収水の漏れを起こさないことが必須であり、本実施形態においては、液封(軸封)部のない、電磁ポンプ(誘導型電磁ポンプ)やダイアフラム式ポンプ,ピストン式ポンプ等が好適に用いられる。なお、上記ポンプの形式(タイプ)に特に制限はないが、エゼクタEや回収貯槽Tと同様、フッ化水素と接触するポンプの内容積部分や配管部分、および、回転子やダイアフラム,ピストン等は、フッ化水素に対して耐腐食性を有する樹脂ライニング(樹脂皮膜)が施されているものが好ましい。また、上記電磁ポンプの代わりに、ハステロイ(登録商標)(HASTELLOY(登録商標))等の耐食性金属(合金)を用いて構成された、通常の圧送ポンプを用いても、差し支えない。
【0050】
さらに、上記循環ポンプPに繋がる上記吸収液循環流路11やフッ化水素(HF)ガスを吸い出すためのガス回収流路10等の配管内面,接続部分も、同様にフッ化水素に対して耐腐食性を有する樹脂ライニングを施しておくことが望ましい。このように、装置全体を耐腐食構造とすることにより、装置の寿命と装置を操作する人(従事者)に対する安全性を高めることができる。
【0051】
以上の構成のフッ化水素の分離回収方法(ガス回収・濃縮工程)および装置によれば、フッ化水素の漏れなく安全に、吸収液(水)に素早く吸収させることができる。しかも、上記吸収液を循環させ続けることにより、前記ガス分離工程(縦型反応容器R)におけるフッ化水素(HF)ガスの発生効率の高さと相俟って、上記吸収液のフッ化水素濃度を、容易に、製品(再生品としてのフッ化水素酸)として取り出せる濃度(約50〜60重量%)にまで高めることができる。したがって、本実施形態のフッ化水素の分離回収方法および装置によれば、フッ化水素の再生(再利用)にかかるコスト(ランニングコスト)を、実用化に則した水準にまで押し下げることができる。
【0052】
最後に、上記フッ化水素の分離回収方法(フッ化水素の再生)および装置に用いる、フッ化カルシウム系の原料(回収フッ化カルシウム)について説明する。
【0053】
通常、本実施形態で使用する回収フッ化カルシウムとしては、先にも述べたように、フッ化水素,ケイフッ化水素等を高濃度に含有する排液(処理液)を排液処理して得られた、フッ化カルシウム(CaF
2)やケイフッ化カルシウム〔Ca[SiF
6]:ヘキサフルオロケイ酸(珪酸)カルシウム〕等を、脱水,乾燥させたものが用いられる。この回収フッ化カルシウムは、圧縮または円心分離等を用いた脱水操作により、一旦ケーキ状等の軟らかい含水固形物とされ、さらに乾燥や粉砕工程等を経て、通常、含水率が20重量%以下(好ましくは10重量%以下)のスポンジ状の粉体または粒体の塊とされて、産業廃棄物として工程(工場)外に搬出されたものである。
【0054】
なかでも、本実施形態で用いる回収フッ化カルシウムとしては、その純度(他の灰分に対するフッ化カルシウムの含有率)が、通常70重量%以上、できれば80重量%以上のものが使用される。その理由は、フッ化カルシウムの純度(含有率)が低すぎると、バッチあたりのフッ化水素酸(再生品)の生成量が少なくなって、生産効率が下がる傾向がみられるからである。また、反応残渣物である無水石膏の純度が下がるため、その利用用途や価値が下がるという弊害が生じてしまう。
【0055】
また、上記回収フッ化カルシウムの含水率が多すぎると、硫酸等を投入(混合)した際に、この回収フッ化カルシウムに含まれる水分が沸騰して、発生したフッ化水素(HF)ガスとともに前記エゼクタEの負圧に引かれて回収ライン(ガス回収流路10)から循環ライン(吸収液循環流路11)に入り込み、回収貯槽T(脱気槽8)内の吸収液のフッ化水素濃度を低下させてしまうおそれがある。
【0056】
ただし、この場合や前記フッ化カルシウムの純度が低い等の場合、回収フッ化カルシウムに加える濃硫酸に発煙硫酸を添加して併用すると、これらの「回収貯槽T(脱気槽8)内の吸収液中のフッ化水素濃度が上がりにくい」(バッチあたりの効率・収率が悪い)という問題を解消することができる。また、上記回収貯槽T内に貯留される、製品(再生品)としてのフッ化水素酸の濃度(目標:約50〜60重量%)は、上記フッ化水素の分離−回収−濃縮の一連の工程(バッチ数)を繰り返すようにして調製しても、差し支えない。
【0057】
つぎに、複数種のフッ化水素系ガス〔この場合は、フッ化水素(HF)とケイフッ化水素(H
2[SiF
6])〕を分別して回収することのできる、本発明の第2実施形態について説明する。
【0058】
図3は、本発明の第2実施形態のフッ化水素の分離回収方法の概略を説明する構成図である。なお、縦型反応容器を支える支持部材(架台)や土台、原料貯蔵タンクや輸送配管、および、各回収貯槽T
1,T
2に設けられる排気,排水システム等は図示を省略している。また、前記第1実施形態と同様の機能を有する構成部材には同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0059】
この第2実施形態のフッ化水素の分離回収方法(装置)は、フッ化カルシウム系原料としてケイフッ化カルシウム〔Ca[SiF
6]:ヘキサフルオロケイ酸(珪酸)カルシウム〕を用いて、硫酸等との混合により発生するケイフッ化水素(H
2[SiF
6])とフッ化水素(HF)とを、二段階に分別して回収しようとするものである。
【0060】
上記フッ化水素の分離(分別)回収方法で用いられる装置が、前記第1実施形態と異なる点は、
図3のように、ガス回収工程を2組(エゼクタE
1と回収貯槽T
1および循環ポンプP
1からなる第1ガス回収工程、および、エゼクタE
2と回収貯槽T
2および循環ポンプP
2からなる第2ガス回収工程の2ユニット)備える点である。これら2組のガス回収工程は、縦型反応容器R内で発生するフッ化水素系ガスを吸い出す(エゼクタに導く)ためのガス回収流路10の終端から二分岐するように、並列に接続されており、この分岐点には、流量調整弁V
1と、ガス回収流路10管内を流れるフッ化水素ガスの流下先を切り替える切替弁V
2(三方コック:回収ユニット切り替え手段)とが配設されている。
【0061】
なお、第1ガス回収工程(図示上側)におけるガス回収流路10’には、下側の第2ガス回収工程にはない、エゼクタE
1(オリフィス)の目詰まり防止手段9が、エゼクタE
1の上流側に介在配置されている〔第2ガス回収工程(図示下側)は、前記第1実施形態のガス回収工程と同じ構成である。〕。また、上記縦型反応容器R(ガス吸出口1y)直後のガス回収流路10には、フッ化水素系ガスの濃度を測定(モニタリング)する濃度検出手段(図示省略)が配置されており、このガス回収流路10内を流れるガスの成分(主成分)を、リアルタイム(オンタイム)で測定できるようになっている。
【0062】
上記構成の分離(分別)回収装置を用いたフッ化水素の分離回収方法も、まず最初は、内面1aが逆円錐形状になった反応容器R内に、粉体投入口1wから上記ケイフッ化カルシウム(Ca[SiF
6])の粉体を投入し、これを撹拌羽根2aを有する撹拌手段2で撹拌しながら、液体投入口1xから濃硫酸(または、濃硫酸と発煙硫酸の混合物)を添加することにより、フッ化水素系のガスを発生させる。
【0063】
この反応(ケイフッ化カルシウムと濃硫酸の混合)の際、本発明者の知見によれば、撹拌・混合直後の前半は、優先的にケイフッ化水素(H
2[SiF
6])が高濃度で発生し、それがほぼ完全に終了した後、続いてフッ化水素(HF)が、ガスの主成分として高濃度で発生することが分かっている。また、上記ケイフッ化水素ガスは、前記フッ化水素ガスに比べて析出(結晶化)し易く、エゼクタのオリフィスが目詰まりし易いことを、本発明者は経験的に知っている。
【0064】
そのため、この第2実施形態のフッ化水素の分離回収方法では、まず最初に、ガス回収流路10の終端(切替弁V
2)には、目詰まり防止手段9を有する第1ガス回収工程(図示上側)が接続され、析出して目詰まりを起こし易いケイフッ化水素(H
2[SiF
6])ガスが、エゼクタE
1を介して、回収貯槽T
1の回収槽7’および脱気槽8’に回収・濃縮される。
【0065】
続いて、上記フッ化水素系ガスの濃度検出手段(図示省略)により、上記ガス回収流路10内を流れるガスの成分の切り替わりが確認されれば、このガス回収流路10終端の切替弁(三方コック)V
2の接続先が切り替えられ、上記縦型反応容器Rで発生したガス〔この時点では、第1実施形態と同様のフッ化水素(HF)ガス〕が、図示下側の第2ガス回収工程に向けて流される。これにより、発生したフッ化水素は、回収貯槽T
2の回収槽7および脱気槽8に回収・濃縮される。
【0066】
そして、上記縦型反応容器Rによるフッ化水素系ガスの発生−ガス成分のモニタリングによるガス回収工程(第1←→第2)の切り替え−フッ化水素系ガスの回収・濃縮を、バッチ単位で繰り返すことにより、上記ケイフッ化カルシウムから発生するケイフッ化水素とフッ化水素とを、分別しながら効率よく回収することができる。
【0067】
なお、上記ガス濃度を測定(モニタリング)する濃度検出手段と、目詰まり防止手段9とは、それぞれ、第1実施形態と同様の構成の第2ガス回収工程に付設してもよく、これらが分岐する前のガス回収流路10の途中に配設してもよい。
【実施例】
【0068】
つぎに、上記本発明のフッ化水素の分離回収装置(
図1)を用いて行った実施例(実証試験)について説明する。
【0069】
[実施例1]
<原料:回収フッ化カルシウム>
半導体製造工場等において、排出されたフッ化水素を含む排液に、水酸化カルシウムを添加して、遠心脱水・圧縮により、含水率33重量%の軟らかい固形物を得た。そして、それを加熱乾燥して粉砕することにより、含水率10重量%の回収フッ化カルシウム(フッ化カルシウムが二次凝集した粒状:平均粒径5.4μm,粒度分布1〜50μm)を得た。なお、上記回収フッ化カルシウム(水分を除く固形分)の構成成分は、フッ化カルシウム82.5重量%,硫酸カルシウム10重量%,酸化アルミニウム2重量%,酸化ケイ素1重量%,その他灰分4.5重量%であった。また、上記回収フッ化カルシウムの粒径(分布)は、JIS M 8100「粉塊混合物−サンプリング方法通則」に規定された粒度測定方法により測定したものであり、回収フッ化カルシウムの含水率(水分率)は、JIS K 1468−1「ふっ化水素酸用ほたる石分析方法(第1部 ロットの水分含有量の定量)」に規定された水分含有量(105℃×5時間絶乾後)により測定したものである。
【0070】
<フッ化水素分離工程>
上記の回収フッ化カルシウム(含水率10重量%)100kgを、縦型反応容器R(
図1参照)に投入し、容器Rを取り巻くヒートジャケット3に110℃に加温したオイルを循環させて、準備した。ついで、撹拌手段2を作動させて回収フッ化カルシウム(粉体)を撹拌しながら、投入されたフッ化カルシウム(ネット74.25kg)に対して規定量(モル当量)の濃硫酸を、30分かけて一定流量でゆっくりと縦型反応容器R内に投入(添加)した。なお、撹拌は濃硫酸の投入終了後も継続され、最終的な撹拌時間は、フッ化水素ガスの発生が終了するまで、濃硫酸の投入開始から2時間にわたって行われた(1バッチ=2時間)。
【0071】
<フッ化水素回収工程>
上記濃硫酸の投入開始と同時に循環ポンプPを作動させ、エゼクタEで発生した負圧を利用して、上記1バッチの稼働時間(2時間)全体にわたって、縦型反応容器R内で発生したガス(主にフッ化水素)を吸収液(水:30kg)に吸収させ、回収貯槽Tに回収した。なお、1バッチ2時間の終了後、縦型反応容器R内に残余の石膏を、容器R下部の粉体排出口1zから抜き出して反応容器R内を空にし、次回(次バッチ)の準備を行った。
【0072】
<フッ化水素濃縮工程>
上記フッ化カルシウムの投入−硫酸の投入−フッ化水素の回収の1サイクル(1バッチ)を3回繰り返し、フッ化水素の濃度が56重量%の再生フッ化水素酸(水溶液)を得た。
【0073】
なお、フッ化水素の濃度は、1バッチ目終了時が35.5重量%、、2バッチ目終了時点で48.8重量%であった。上記3バッチ目で得られた、濃度が56重量%(製品出荷基準:55重量%以上)のフッ化水素酸は、工業的に充分、再使用に供することのできるものである。また、縦型反応容器R下部から抜き出した石膏を分析(蛍光エックス線分析)したところ、フッ素は残留しておらず、その97重量%が工業的に利用可能な無水石膏であることがわかった。ちなみに、上記再生された濃度56重量%のフッ化水素酸を、ガラスのエッチングに利用してみたが、問題なく使用することができた。
【0074】
[実施例2]
<原料:回収フッ化カルシウム>
フッ素を含む化合物の焼却(処分)工程等において、排出されたフッ化水素を含む排液に、水酸化カルシウムを添加して、遠心脱水・圧縮により、含水率33重量%の軟らかい固形物を得た。そして、それを加熱乾燥して粉砕することにより、含水率5重量%の回収フッ化カルシウム(フッ化カルシウムが二次凝集した粒状:平均粒径10.7μm,粒度分布1〜100μm)を得た。なお、上記回収フッ化カルシウム(水分を除く固形分)の構成成分は、フッ化カルシウム94重量%,硫酸カルシウム1重量%,酸化ケイ素1重量%,その他灰分4重量%であった。また、上記回収フッ化カルシウムの粒径(分布)および含水率(水分率)は、先に述べたとおり、JIS M 8100「粉塊混合物−サンプリング方法通則」およびJIS K 1468−1「ふっ化水素酸用ほたる石分析方法」により測定したものである。
【0075】
<フッ化水素分離工程>
上記の回収フッ化カルシウム(含水率5重量%)100kgを、縦型反応容器R(
図1参照)に投入し、容器Rを取り巻くヒートジャケット3に110℃に加温したオイルを循環させて、準備した。ついで、撹拌手段2を作動させて回収フッ化カルシウム(粉体)を撹拌しながら、投入されたフッ化カルシウム(ネット89.3kg)に対して規定量(モル当量)の濃硫酸を、30分かけて一定流量でゆっくりと縦型反応容器R内に投入(添加)した。なお、撹拌は濃硫酸の投入終了後も継続され、最終的な撹拌時間は、フッ化水素ガスの発生が終了するまで、濃硫酸の投入開始から2時間にわたって行われた(1バッチ=2時間)。
【0076】
<フッ化水素回収工程>
上記濃硫酸の投入開始と同時に循環ポンプPを作動させ、エゼクタEで発生した負圧を利用して、上記1バッチの稼働時間(2時間)全体にわたって、縦型反応容器R内で発生したガス(主にフッ化水素)を吸収液(水:30kg)に吸収させ、回収貯槽Tに回収した。なお、1バッチ2時間の終了後、縦型反応容器R内に残余の石膏を、容器R下部の粉体排出口1zから抜き出して反応容器R内を空にし、次回(次バッチ)の準備を行った。
【0077】
<フッ化水素濃縮工程>
上記フッ化カルシウムの投入−硫酸の投入−フッ化水素の回収の1サイクル(1バッチ)を3回繰り返し、フッ化水素の濃度が64.8重量%の再生フッ化水素酸(水溶液)を得た。
【0078】
なお、フッ化水素の濃度は、1バッチ目終了時が41.4重量%、、2バッチ目終了時点で56.8重量%であった。上記3バッチ目で得られた、濃度が64.8重量%(製品出荷基準:55重量%以上)のフッ化水素酸は、工業的に充分、再使用に供することのできるものである。また、縦型反応容器R下部から抜き出した石膏を分析(蛍光エックス線分析)したところ、フッ素は残留しておらず、その97重量%が工業的に利用可能な無水石膏であることがわかった。ちなみに、上記再生された濃度64.8重量%のフッ化水素酸も、ガラスのエッチング加工に問題なく使用することができた。