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特開2016-160160酸化物焼結体、その製造方法、それを用いた固体電解質、および、それを用いたリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-160160(P2016-160160A)
(43)【公開日】2016年9月5日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体、その製造方法、それを用いた固体電解質、および、それを用いたリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20160808BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20160808BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20160808BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20160808BHJP
【FI】
   C04B35/50
   H01B1/08
   H01B1/06 A
   H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-42599(P2015-42599)
(22)【出願日】2015年3月4日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】姿 祥一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 明男
(72)【発明者】
【氏名】羽田 肇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋介
(72)【発明者】
【氏名】加美 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】平松 秀彦
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA28
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029HJ00
5H029HJ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リチウムイオン電池向け固体電解質に適用可能なガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12を含有する酸化物焼結体、その製造方法、それを用いた固体電解質、及び、それを用いたリチウムイオン電池の提供。
【解決手段】立方晶系ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaから少なくとも1つ選択される元素)が固溶した酸化物を主成分とし、気孔体積比率は0.5%以下であり、好ましくは0.3%以下である酸化物焼結体100。Laに対するMの原子比が0≦M/La≦0.15であり、好ましくは0.04≦M/La≦0.8であり、Laに対するLiの原子比は2≦Li/La≦2.5であり、Laに対するZrの原子比は0.6≦Zr/La≦0.7である。リチウムイオン電池向け固体電解質材料である、酸化物焼結体100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物を主成分とし、
気孔体積比率は0.5%以下である、酸化物焼結体。
【請求項2】
前記気孔体積比率は、0.3%以下である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
試料厚さ1mm、波長600nmにおける光透過率が20%以上である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
試料厚さ1mm、波長600nmにおける光透過率が25%以上である、請求項3に記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
Laに対するMの原子比M/Laは、0より大きく0.3以下である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
Laに対するMの原子比M/Laは、0より大きく0.15以下である、請求項5に記載の酸化物焼結体。
【請求項7】
Laに対するMの原子比M/Laは、0.04以上0.08以下である、請求項6に記載の酸化物焼結体。
【請求項8】
Laに対するLiの原子比Li/Laは、2以上2.5以下であり、
Laに対するZrの原子比Zr/Laは、0.6以上0.7以下である、請求項5に記載の酸化物焼結体。
【請求項9】
リチウムイオン電池向け固体電解質材料である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項10】
ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した酸化物を主成分とする酸化物焼結体を製造する方法であって、
錯体重合法を用いて、前記酸化物からなる粒子を得るステップと、
前記酸化物からなる粒子を成形し、第1の焼結をするステップと、
熱間等方圧加圧(HIP)を用いて、前記第1の焼結をするステップで得られた焼結体を、酸素を含有する雰囲気中で、第2の焼結をするステップと
を包含する、方法。
【請求項11】
前記粒子を得るステップは、
Liを含有する原料、Laを含有する原料、Zrを含有する原料およびMを含有する原料(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)を用い、
前記Liを含有する原料中のLiは、LiLaZr12の定比組成におけるLiに対して0%よりも多く10%未満の範囲多く含有される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記Liを含有する原料中のLiは、LiLaZr12の定比組成におけるLiに対して2%以上5%以下の範囲多く含有される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0より多く0.04以下を満たす、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0より多く0.021以下を満たす、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0.009以上0.011以下を満たす、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記粒子を得るステップは、
前記Liを含有する原料、前記Laを含有する原料、前記Zrを含有する原料および前記Mを含有する原料をオキシカルボン酸と反応させ、金属錯体を得るステップと、
前記金属錯体をポリオールと重合反応させ、金属錯体重合体を得るステップと、
前記金属錯体重合体を焼成するステップと
を包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記焼成するステップは、前記金属錯体重合体を700℃より高く800℃以下の温度範囲で焼成する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記Liを含有する原料は、Liの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料であり、
前記Laを含有する原料は、Laの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料であり、
前記Zrを含有する原料は、Zrのオキシ硝酸塩、オキシ塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料であり、
前記Mを含有する原料は、Mの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の焼結をするステップは、前記酸化物からなる粒子の成形体の気孔体積比率5%以下になるまで行う、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の焼結をするステップは、前記酸化物からなる粒子の成形体の気孔体積比率が0.5%以下になるまで行う、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の焼結をするステップは、1100℃以上1200℃以下の温度範囲で、0.5時間以上50時間以下の間、焼結する、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の焼結をするステップは、1000℃以上1200℃以下の温度範囲で、9.8×10-5Pa/cm以上の酸素分圧を有する酸素を含有する雰囲気において、9.8MPa/cm以上196MPa/cm以下の圧力範囲に維持し、0.5時間以上10時間以下の間、焼結する、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
酸化物焼結体からなる固体電解質であって、
前記酸化物焼結体は、請求項1〜9のいずれかに記載の酸化物焼結体である、固体電解質。
【請求項24】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟まれた固体電解質とを備えるリチウムイオン電池であって、
前記固体電解質は、請求項23に記載の固体電解質である、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物焼結体、その製造方法、それを用いた固体電解質、および、それを用いたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン2次電池では高分子電解液が用いられているが、高分子電解液は可燃性の危険があるため、安全でリチウムイオン導電性を有する固体電解質が求められている。このような固体電解質の1つとして、ガーネット型結晶構造を有するリチウム含有酸化物である、LiLaZr12が、リチウムイオン導電性に優れ、大気暴露であっても、金属Liに対して化学的・電気化学的に安定な材料として注目されている。
【0003】
最近、全固体電池応用に向け、固相反応によって製造されたLiLaZr12焼結体が開発されている(例えば、非特許文献1を参照。)。非特許文献1によれば、第1焼成工程にて、LiとLaとZrと酸素とを含むセラミックス合成用の一次焼成粉末を、1000℃で12時間焼成して、LiとLaとZrと酸素とを含むガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有するLiLaZr12を得、これを成形後、1100℃で6時間〜12時間焼成し、焼結体を合成することが開示されている。しかしながら、このような固相反応を用いた焼結体には反応ムラが生じることが知られている。
【0004】
錯体重合法によって製造されたLiLaZr12粒子を用いた固体電解質の可能性が示唆されている(例えば、非特許文献2を参照。)。非特許文献2によれば、錯体重合法により得られたLiLaZr12粒子を一軸加圧成形したペレット状のLiLaZr12焼結体において、Alの添加量の制御により焼結後の密度の向上が見られ、固体電解質の可能性が報告されている。しかしながら、非特許文献2に記載のペレット状のLiLaZr12焼結体は、短絡する恐れがあり、実用化するには十分ではなかった。
【0005】
一方、HIPを用いて高密度の酸化物焼結体が得られることが知られている(例えば、非特許文献3を参照。)。しかしながら、このような技術をLiLaZr12焼結体の製造に適用した例はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献2】Y.Jinら,Journal of Power Sources 196,2011,8683−8687
【非特許文献3】A.Ikesueら,J.Am.Ceram.Soc.,79[2],1996,359−364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の課題は、リチウムイオン電池向け固体電解質に適用可能なガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12を含有する酸化物焼結体、その製造方法、それを用いた固体電解質、および、それを用いたリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、LiLaZr12焼結体における短絡は、焼結体内の気孔(空孔)を起点にして起こると考え、リチウムイオン電池に適用可能な、空孔が制御された焼結体およびその製造方法を開発するに至った。
【0009】
本発明による酸化物焼結体は、LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物を主成分とし、気孔体積比率は0.5%以下であり、これにより上記課題を解決する。
前記気孔体積比率は、0.3%以下であってもよい。
試料厚さ1mm、波長600nmにおける光透過率が20%以上であってもよい。
試料厚さ1mm、波長600nmにおける光透過率が25%以上であってもよい。
Laに対するMの原子比M/Laは、0より大きく0.3以下であってもよい。
Laに対するMの原子比M/Laは、0より大きく0.15以下であってもよい。
Laに対するMの原子比M/Laは、0.04以上0.08以下であってもよい。
Laに対するLiの原子比Li/Laは、2以上2.5以下であり、Laに対するZrの原子比Zr/Laは、0.6以上0.7以下であってもよい。
リチウムイオン電池向け固体電解質材料であってもよい。
本発明によるガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した酸化物を主成分とする酸化物焼結体を製造する方法は、錯体重合法を用いて、前記酸化物からなる粒子を得るステップと、前記酸化物からなる粒子を成形し、第1の焼結をするステップと、熱間等方圧加圧(HIP)を用いて、前記第1の焼結をするステップで得られた焼結体を、酸素を含有する雰囲気中で、第2の焼結をするステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記粒子を得るステップは、Liを含有する原料、Laを含有する原料、Zrを含有する原料およびMを含有する原料(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)を用い、前記Liを含有する原料中のLiは、LiLaZr12の定比組成におけるLiに対して0%よりも多く10%未満の範囲多く含有されてもよい。
前記Liを含有する原料中のLiは、LiLaZr12の定比組成におけるLiに対して2%以上5%以下の範囲多く含有されてもよい。
前記Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0より多く0.04以下を満たしてもよい。
前記Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0より多く0.021以下を満たしてもよい。
前記Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0.009以上0.011以下を満たしてもよい。
前記粒子を得るステップは、前記Liを含有する原料、前記Laを含有する原料、前記Zrを含有する原料および前記Mを含有する原料をオキシカルボン酸と反応させ、金属錯体を得るステップと、前記金属錯体をポリオールと重合反応させ、金属錯体重合体を得るステップと、前記金属錯体重合体を焼成するステップとを包含してもよい。
前記焼成するステップは、前記金属錯体重合体を700℃より高く800℃以下の温度範囲で焼成してもよい。
前記Liを含有する原料は、Liの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料であり、前記Laを含有する原料は、Laの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料であり、前記Zrを含有する原料は、Zrのオキシ硝酸塩、オキシ塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料であり、前記Mを含有する原料は、Mの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料であってもよい。
前記第1の焼結をするステップは、前記酸化物からなる粒子の成形体の気孔体積比率5%以下になるまで行ってもよい。
前記第2の焼結をするステップは、前記酸化物からなる粒子の成形体の気孔体積比率が0.5%以下になるまで行ってもよい。
前記第1の焼結をするステップは、1100℃以上1200℃以下の温度範囲で、0.5時間以上50時間以下の間、焼結してもよい。
前記第2の焼結をするステップは、1000℃以上1200℃以下の温度範囲で、9.8×10-5Pa/cm以上の酸素分圧を有する酸素を含有する雰囲気において、9.8MPa/cm以上196MPa/cm以下の圧力範囲に維持し、0.5時間以上10時間以下の間、焼結してもよい。
本発明による酸化物焼結体からなる固体電解質は、前記酸化物焼結体は、上述の酸化物焼結体であり、これにより課題を解決する。
本発明による正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟まれた固体電解質とを備えるリチウムイオン電池は、前記固体電解質は、上述の固体電解質であり、これにより課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明による酸化物焼結体は、LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物を主成分とするので、高いリチウムイオン導電性を有し、固体電解質に適用できる。さらに、本発明による酸化物焼結体の気孔体積比率は0.5%以下であるので、このような酸化物焼結体を固体電解質に適用すれば、短絡が抑制され、安全なリチウムイオン電池を提供できる。
【0011】
本発明による製造方法は、錯体重合法によって得られた上述の酸化物からなる粒子を成形し、第1の焼結をし、次いで、酸素を含有する雰囲気中において熱間等方圧加圧(HIP)で第2の焼結をする。錯体重合法によって得られた粒子は、均一な粒径を有し、酸素を含有する雰囲気中におけるHIPによる焼結により、気孔が除去され、酸素の還元による電子欠陥の生成が抑制された緻密な酸化物焼結体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の酸化物焼結体の模式図
図2】本発明の酸化物焼結体の製造過程を示すフローチャート
図3】粒子を得る製造過程を示すフローチャート
図4】本発明の酸化物焼結体を用いたリチウムイオン電池の模式図
図5】実施例1における金属錯体重合体のTG/DTA曲線を示す図
図6】実施例1で得た粒子(A)と、比較例5で得た粒子(B)とのSEM写真
図7】実施例1で得た粒子と、比較例7で得た粒子との粉末X線回折パターンを示す図
図8】実施例1、実施例3および比較例5で得られた焼結体の外観を示す図
図9】実施例1で得られた焼結体の断面のSEM写真
図10】実施例1および実施例3で得られた焼結体の透過スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0014】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の酸化物焼結体およびその製造方法について説明する。
【0015】
図1は、本発明の酸化物焼結体の模式図を示す。
【0016】
本発明の酸化物焼結体100は、LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物を主成分とする。LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶することにより、室温においても立方晶が安定となるので、本発明の酸化物焼結体100は、高いリチウムイオン導電性を発揮することができる。なお、簡単のため、以降では、Mが固溶したLiLaZr12を単にLLZと称する場合がある。
【0017】
さらに、本発明の酸化物焼結体100の気孔体積比率は0.5%以下に制御されており、きわめて緻密な酸化物焼結体といえる。これにより、本発明の酸化物焼結体100を固体電解質に適用した際に、酸化物焼結体100中の気孔間パスが低減され、その結果、短絡が抑制され、安全なリチウムイオン電池を提供できる。気孔体積比率が0.5%を超えると、短絡が容易に発生し、リチウムイオン電池の安全性が低下し得る。下限に特に制限はなく、気孔体積比率は低ければ低い方がよいものの、気孔体積比率が0.0005%以上であれば、リチウムイオン電池の安全性を確保できる。より好ましくは、本発明の酸化物焼結体100の気孔体積比率は0.3%以下に制御されている。これにより、短絡が確実に抑制され、より安全性の高いリチウムイオン電池を提供できる。
【0018】
焼結体の気孔体積比率(%)は、例えば、次のようにして求めることができる。焼結体の断面写真(例えば、走査型電子顕微鏡等による電子顕微鏡写真)の任意の場所に引いた直線上の気孔の割合(すなわち、気孔直線比率)を求め、それを3乗すればよい。
【0019】
本発明の酸化物焼結体100は、グレイン110を含み得る。グレイン110は、上述のLiLaZr12で表される母体にMが固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物単結晶(LLZ単結晶)である。
【0020】
グレイン110は、好ましくは、10μm以上300μm以下の範囲の直径Rを有する。グレイン110の直径Rが上述の範囲であれば、十分な結晶成長によりリチウムイオン導電性が得られる。グレイン110は、より好ましくは、150μ以上250μm以下の範囲の直径Rを有する。この範囲であれば、各グレイン110の直径Rが均一であり、高いリチウムイオン導電性が期待できる。このようなグレイン110の直径Rは、例えば、酸化物焼結体の断面を観察することによって求められる。
【0021】
なお、本発明の酸化物焼結体100は、グレイン110からなることが好ましいが、グレイン110以外の部分を含んでもよい。例えば、グレイン110以外の部分として、グレイン110間に存在する粒界120にガラス相、第二相などが含まれてもよい。あるいは、LLZであるグレイン110に加えて、意図的に加えた別の材料からなるグレインが混ざっていてもよい。このような観点から、本発明の酸化物焼結体100において、LLZを主成分とする量は、90重量%以上であればよい。この範囲であれば、リチウムイオン導電性を発揮する。好ましくは、LLZを主成分とする量は、99重量%以上であり、より好ましくは100重量%である。本発明の酸化物焼結体100が実質的にグレイン110からなれば、高いリチウムイオン導電性を確実に発揮し、固体電解質に適用できる。
【0022】
なお、図1では、本発明の酸化物焼結体100は、グレイン110とグレイン110以外の粒界120とを含むように示すが、分かりやすさのための単なる例示であって、実際には、含有される粒界は極めて少ないことに留意されたい。
【0023】
本発明の酸化物焼結体100において、好ましくは、Laに対するMの原子比M/Laは、0より大きく0.3以下である。原子比M/Laが0である場合、母体であるLiLaZr12の結晶構造が正方晶になり、高いリチウムイオン導電率が得られない。原子比M/Laが0.3を超える場合、上述のMが固溶したLiLaZr12の主成分とする量が得られず、不純物第二相が多くなり得る。
【0024】
より好ましくは、Laに対するMの原子比M/Laは、0より大きく0.15以下である。この範囲であれば、母体であるLiLaZr12の結晶構造が確実に正方晶になり、高いリチウムイオン導電率が得られる。さらに好ましくは、さらに好ましくは、Laに対するMの原子比M/Laは、0.04以上0.08以下である。この範囲であれば、母体であるLiLaZr12の結晶構造が確実に正方晶になり、高いリチウムイオン導電率が得られるだけでなく、気孔体積比率の低い酸化物焼結体となる。なお、Mは、例えば、Liサイトに置換されていてもよいが、置換固溶であってもよいし、侵入固溶であってもよい。
【0025】
本発明の酸化物焼結体100において、上述の原子比M/Laを満たすとともに、好ましくは、Laに対するLiの原子比Li/Laは、2以上2.5以下であり、Laに対するZrの原子比Zr/Laは、0.6以上0.7以下である。これにより、母体であるLiLaZr12の結晶構造が確実に正方晶になり、高いリチウムイオン導電率が得られるだけでなく、気孔体積比率が0.5%以下の酸化物焼結体となる。
【0026】
本発明の酸化物焼結体100は、好ましくは、試料厚さ1mm、波長600nmにおける光透過率が20%以上である。この光透過率を満たすことにより、酸化物焼結体100中の気孔が低減しているので、短絡を抑制できる。本発明の酸化物焼結体100は、より好ましくは、試料厚さ1mm、波長600nmにおける光透過率が25%以上である。この光透過率を満たすことにより、酸化物焼結体100中の気孔が顕著に低減しているので、短絡を確実に抑制でき、安全なリチウムイオン電池を提供できる。なお、上限に特に制限はなく、光透過率は高ければ高い方がよい。
【0027】
上述してきたように、本発明の酸化物焼結体100は、気孔体積比率を0.5%以下に制御することにより、短絡が抑制されるので、本発明の酸化物焼結体100は、リチウムイオン電池向けの固体電解質に好適である。
【0028】
次に、このような本発明の酸化物焼結体100の製造方法を図2および図3を参照して説明する。
【0029】
図2は、本発明の酸化物焼結体の製造過程を示すフローチャートである。
各ステップについて詳述する。
【0030】
ステップS210:錯体重合法を用いて、LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物からなる粒子を得る。本発明の製造方法によれば、錯体重合法により上述のLLZ酸化物からなる粒子を製造するので、均一かつ小さな粒径を有する粒子を用いることができる。均一かつ小さな粒径を有する粒子は、後述する焼結、とりわけ熱間等方圧加圧(HIP)において、効果的に気孔を除去した緻密な酸化物焼結体を得ることができる。
【0031】
ステップS210の粒子を得るステップは、好ましくは、Liを含有する原料、Laを含有する原料、Zrを含有する原料およびMを含有する原料(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)を用い、ここで、Liを含有する原料中のLiは、LiLaZr12の定比組成におけるLiに対して0%よりも多く10%未満の範囲多く含有される。Liを含有する原料中のLiが定比組成におけるLiに対して0%である場合には、Li欠損となり、LiLaZr12が得られない場合がある。Liを含有する原料中のLiが定比組成におけるLiに対して10%以上である場合には、最終的に得られる酸化物焼結体の気孔体積比率が0.5%を超え得る。このように粒子を得る際に、Liを上述の範囲で過剰に含有させることにより、最終的に得られる酸化物焼結体の気孔体積比率が0.5%以下となり得る。
【0032】
より好ましくは、Liを含有する原料中のLiは、LiLaZr12の定比組成におけるLiに対して2%以上5%以下の範囲多く含有される。Liを上述の範囲で過剰に含有させることにより、最終的に得られる酸化物焼結体の気孔体積比率が確実に0.5%以下となる。
【0033】
より好ましくは、Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0より多く0.04以下を満たす。LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0である場合、最終的に得られる酸化物焼結体において、母体であるLiLaZr12の結晶構造が正方晶になり、高いリチウムイオン導電率が得られない。LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0.04を超える場合、上述のMが固溶したLiLaZr12の主成分とする量が得られず、不純物第二相が多くなり得る。
【0034】
より好ましくは、Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0より多く0.021以下を満たす。この範囲であれば、最終的に得られる酸化物焼結体において、母体であるLiLaZr12の結晶構造が確実に正方晶になり、高いリチウムイオン導電率が得られる。
【0035】
さらに好ましくは、Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0.009以上0.011以下を満たす。この範囲であれば、最終的に得られる酸化物焼結体において、母体であるLiLaZr12の結晶構造が確実に正方晶になり、高いリチウムイオン導電率が得られるだけでなく、気孔体積比率が0.3%以下となる。
【0036】
次に、図3を参照し、粒子を得るステップの好ましい製造過程を説明する。
【0037】
図3は、粒子を得る製造過程を示すフローチャートである。
各ステップについて詳述する。
【0038】
図3は、錯体重合法によるMが固溶したLiLaZr12で表される酸化物からなる粒子の製造過程を示すフローチャートである。
【0039】
ステップS310:Liを含有する原料、Laを含有する原料、Zrを含有する原料およびMを含有する原料をオキシカルボン酸と反応させ、金属錯体を得る。ここで、上述したように、Liを含有する原料は、LiLaZr12の定比組成におけるLiに対して0%よりも多く10%未満の範囲多く、好ましくは、2%以上5%以下の範囲多く含有される。
【0040】
ステップS310は、水またはアルコール等の溶媒中で行われるでの、Liを含有する原料、Laを含有する原料、Zrを含有する原料およびMを含有する原料は、水またはアルコールに可溶な塩であり、オキシカルボン酸は、金属錯体の配位子となり得る。
【0041】
Liを含有する原料は、好ましくは、Liの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料である。これらの原料であれば、水またはアルコールに可溶であるので、錯体形成を促進できる。
【0042】
Laを含有する原料は、Laの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料である。これらの原料であれば、水またはアルコールに可溶であるので、錯体形成を促進できる。
【0043】
Zrを含有する原料は、Zrのオキシ硝酸塩、オキシ塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料である。これらの原料であれば、水またはアルコールに可溶であるので、錯体形成を促進できる。
【0044】
Mを含有する原料は、Mの硝酸塩、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物およびアルコキシドからなる群から少なくとも1つ選択される原料である。これらの原料であれば、水またはアルコールに可溶であるので、錯体形成を促進できる。
【0045】
オキシカルボン酸は、上述したように配位子として機能するが、具体的には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、グリセリン酸、オキシ酪酸、ヒドロアクリル酸、乳酸およびグリコール酸からなる群から選択されるが、なかでも、クエン酸が好ましい。クエン酸を用いれば、上述の原料との錯体形成を確実に促進できる。
【0046】
ステップS320:金属錯体をポリオールと重合反応させ、金属錯体重合体を得る。
【0047】
ポリオールは、代表的にはグリコールであるが、より具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールからなる群から選択される。中でも、エチレングリコールは、重合反応を促進するだけでなく、取り扱いも簡便であり、安価であるため好ましい。
【0048】
ステップS320は、好ましくは、加熱下で行われる。これにより、重合反応を促進させることができる。より好ましくは、加熱は40℃以上300℃以下の温度範囲で行われる。加熱温度が40℃未満である場合、溶媒が蒸発せず、エステル化の重合反応が進まない場合がある。加熱温度が300℃を超える場合、溶媒よりも先にポリオールが蒸発し、エステル化の重合反応が進まない場合がある。さらに好ましくは、加熱は120℃以上140℃以下の温度範囲で行われる。この温度範囲であれば、溶媒の蒸発が適切に進み、エステル化の重合反応が進行するので、金属錯体重合体を確実に得ることができる。
【0049】
なお、ステップS320において、加熱を、溶媒を蒸発するステップと、エステル化を行うステップとの2段階に分けて行ってもよい。この場合、上述した理由から、蒸発するステップは、40℃以上190℃以下の温度範囲で行い、エステル化を行うステップは、100℃以上300℃以下の温度範囲で行ってもよい。しかしながら、上述の120℃以上140℃以下の温度範囲で加熱すれば、蒸発およびエステル化を逐次進めることができるので、好ましい。
【0050】
ステップS330:金属錯体重合体を焼成する。これにより、金属錯体重合体から、上述のLiLaZr12で表される母体に、Mが固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物(LLZ)からなる粒子が得られる。
【0051】
焼成によって、金属錯体重合体を炭化し、次いで、不要な有機物を除去した後、加熱分解を行う。好ましくは、ステップS330は、金属錯体重合体を700℃より高く800℃以下の温度範囲で焼成する。この温度範囲であれば、炭化、有機物の除去、次いで、加熱分解を行うことができる。好ましくは、酸素を含有する雰囲気中で焼成することにより、上述の酸化物が形成される。
【0052】
さらに好ましくは、ステップS330は、金属錯体重合体を炭化するために、300℃以上500℃以下の温度範囲で第1の焼成を行い、炭化した金属錯体重合体中の有機物を除去するために、500℃以上700℃以下の温度範囲で第2の焼成を行い、次いで、加熱分解をするために、700℃より高く800℃以下の温度範囲で酸素を含有する雰囲気中第3の焼成を行ってもよい。このように段階的に行うことで、炭化、有機物の除去、および、加熱分解が順番に行われ、良質なLLZ粒子が得られる。
【0053】
ステップS310〜S330による錯体重合法により得たLLZ粒子は、例えば、非特許文献1などに代表される固相反応により得たLLZ粒子(1μm以上20μm以下の範囲の粒径)と比較して、0.3μm以上3μm以下の範囲の粒径を有し、均一かつ細かい。このような均一かつ細かい粒子を用いることにより、気孔体積比率0.5%以下の酸化物焼結体を得ることができる。
【0054】
再度、図2を参照する。
【0055】
ステップS220:ステップS210で得た酸化物からなる粒子(LLZ粒子)を成形し、第1の焼結をする。
【0056】
第1の焼結により、接触するLLZ粒子が互いに界面拡散反応を起こし、粒成長するとともに、気孔が減少し、成形体全体が収縮する。ここで、ステップS220は、好ましくは、成形体の気孔体積比率が5%以下となるまで行う。これにより、最終的に、気孔体積比率0.5%以下の酸化物焼結体を得ることができる。
【0057】
ステップS220は、具体的には、1100℃以上1200℃以下の温度範囲で、0.5時間以上50時間以下の間、焼結する。1100℃未満の温度では、焼結が進まず、粒成長が起こらない場合がある。1200℃を超える温度では、Liが揮発する可能性がある。焼結時間が、0.5時間未満の場合には、焼結が進まず、粒成長が起こらない場合がある。焼結時間が50時間を超えても、それ以上の粒成長は起こらないため、非効率である。より好ましくは、上記温度範囲で、10時間以上20時間以下の間、焼結すればよい。これにより、成形体の気孔体積比率が5%以下となり、最終的に、気孔体積比率0.5%以下の酸化物焼結体を得ることができる。なお、酸化物焼結体であるため、好ましくは、酸素フローしながら等の酸素を含有する雰囲気中で行われる。
【0058】
例えば、ステップS220において、冷間静水圧加圧(CIP)成形、一軸加圧成形などを用いることができる。
【0059】
ステップS230:熱間等方圧加圧(HIP)を用いて、第1の焼結をするステップで得られた焼結体を、酸素を含有する雰囲気中で、第2の焼結をする。
【0060】
酸素を含有する雰囲気中で第2の焼結をすることにより、酸素欠損が抑制されるとともに、酸素の還元が抑制され、電子欠陥の生成が抑制される。この結果、酸素の還元で生成する電子欠陥による短絡が抑制される。
【0061】
酸素を含有する雰囲気は、例えば、酸素をフローしながら、あるいは、酸素とAr等の不活性ガスとの混合ガス雰囲気であり得るが、酸素を含有していればよい。酸素を含有する雰囲気における酸素分圧は、好ましくは、9.8×10−5Pa/cm以上を満たす。これにより、酸素欠損および酸素の還元が抑制され得る。より好ましくは、酸素を含有する雰囲気における酸素分圧は、90Pa/cm以上であり得る。これにより、酸素欠損および酸素の還元が確実に抑制され得る。
【0062】
第2の焼結により、ステップS220で得られた焼結体からさらに気孔を減少させることができる。ここで、ステップS230は、好ましくは、焼結体の気孔体積比率が0.5%以下となるまで行う。
【0063】
ステップS230は、具体的には、1000℃以上1200℃以下の温度範囲で、9.8×10-5Pa/cm以上の酸素分圧を有する酸素を含有する雰囲気において、9.8MPa/cm以上196MPa/cm以下の圧力範囲に維持し、0.5時間以上10時間以下の間、焼結する。1000℃未満の温度では、気孔の除去が進まない場合がある。1200℃を超える温度では、Liが揮発する可能性がある。9.8MPa/cm未満の圧力範囲では、気孔の除去が進まない場合がある。196MPa/cmを超えても、それ以上の気孔の除去は起こらないため、非効率である。焼結時間が0.5時間未満の場合には、気孔の除去が進まない場合がある。焼結時間が10時間を超えても、それ以上の気孔の除去は起こらないため、非効率である。
【0064】
より好ましくは、上記温度範囲および酸素分圧の範囲で、120MPa/cm以上140MPa/cm以下の圧力範囲に維持し、1時間以上5時間以下の間、焼結すればよい。これにより、気孔体積比率0.5%以下の酸化物焼結体を得ることができる。
【0065】
上述したように、本発明による製造方法は、錯体重合法によって得られた上述の酸化物からなる粒子を成形し、第1の焼結をし、次いで、熱間等方圧加圧(HIP)により酸素を含有する雰囲気中で第2の焼結をする。錯体重合法によって得られた粒子は、均一かつ小さな粒径を有し、酸素を含有する雰囲気中におけるHIPによる焼結により、気孔が顕著に除去され、酸素の還元による電子欠陥の生成が抑制された緻密な酸化物焼結体を得ることができる。
【0066】
なお、本発明による製造方法は、例えば、上述した非特許文献2に記載の錯体重合法によるLLZ粒子の製造と、非特許文献3に記載のHIPを用いた酸化物焼結体の製造との技術を単に組み合わせたものではなく、固体電解質応用のために好適な気孔体積比率を達成すべく、Li量およびM量、各過程における種々の焼成条件を精査したことに留意されたい。
【0067】
上述した本発明による製造方法は、LiLaZr12で表される母体に、Mが固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物を主成分とする酸化物焼結体の製造に限定して示したが、本発明による製造方法を、LiLaZr12以外の立方晶系ガーネット型結晶構造を有するLi含有酸化物を主成分とする酸化物焼結体に用いてもよい。例えば、LiLaZr12以外のLi含有酸化物として、LiLaNb2−xTa12(0≦x≦2)で表される酸化物がある。これも、LiLaZr12と同様に、高いリチウムイオン導電性を示すので、固体電解質としての利用が期待される。本発明の製造方法において、出発原料においてZrを含有する原料およびMを含有する原料に代えて、Nbおよび/またはTaを含有する原料を用いれば、上述のLiLaNb2−xTa12(0≦x≦2)で表される酸化物を主成分とする酸化物焼結体を得られることは言うまでもない。また、本発明の製造方法を採用すれば、LiLaZr12を主成分とする酸化物焼結体と同様に、気孔が顕著に除去された、緻密なLiLaNb2−xTa12(0≦x≦2)で表される酸化物を主成分とする酸化物焼結体が得られるので、短絡が抑制された、安全なリチウムイオン電池が提供でき得る。
【0068】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の酸化物焼結体を用いたリチウムイオン電池について説明する。
【0069】
図4は、本発明の酸化物焼結体を用いたリチウムイオン電池の模式図を示す。
【0070】
リチウムイオン電池400は、正極410と、負極420と、正極410と負極420とに挟まれた固体電解質430とを備え、固体電解質430は、実施の形態1で説明した酸化物焼結体100である。
【0071】
正極410は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する任意の材料を包含する。このような活物質は、例示的には、LiM’O(M’は、Ni、Co、Mn、Fe、Ti、Zr、Al、Mg、CrおよびVからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)なとが知られているがこれに限らない。正極410は、上述の活物質に加えて、カーボンブラック、金、銀、銅、ニッケル等の金属等の電極内において化学的に安定かつ導電性を有する任意の導電性材料を含んでもよい。
【0072】
負極420は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する任意の材料を包含する。このような活物質は、例示的には、炭素材料、TiSn合金、TiSi合金、LiCoN、LiTi12、LiTiOなとが知られているがこれに限らない。負極420は、上述の活物質に加えて、カーボンブラック、金、銀、銅、ニッケル等の金属等の電極内において化学的に安定かつ導電性を有する任意の導電性材料を含んでもよい。
【0073】
固体電解質430は、実施の形態1で説明した酸化物焼結体100と同一であるため、説明を省略する。
【0074】
このようなリチウムイオン電池400の製造方法は、例えば、実施の形態1で説明した製造方法によって得た酸化物焼結体からなる固体電解質430の両面に正極410および負極420を形成し、それぞれの電極の上に集電体を設けてもよい。正極410および負極420の形成は、例えば、ペースト状であれば、塗布してもよいし、粉末状であれば、プレス成形してもよい。
【0075】
リチウムイオン電池400の動作原理を簡単に説明する。リチウムイオン電池400が放電する場合、リチウム分子が負極420に電子を渡すことによりリチウムイオンとなり、そのリチウムイオンは固体電解質430を介して、正極410へ移動し、正極410においてリチウム化合物となり、貯蔵される。一方、リチウムイオン電池400が充電する場合、正極410におけるリチウム化合物がイオン化し、リチウムイオンは固体電解質430を介して、負極420に電子をもらいリチウム分子となり、負極に貯蔵される。
【0076】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
実施例1では、錯体重合法により合成したLiLaZr12で表される母体に、MとしてAlが固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物からなる粒子を用い、酸化物焼結体を得た。ここで、酸化物からなる粒子の合成において、定比組成に対するLiの過剰量(%)およびLaに対するAlの原子比Al/Laは、それぞれ、2%および0.055であった。
【0078】
まず、錯体重合法によりLiLaZr12で表される母体に、MとしてAlが固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物からなる粒子を得た(図2のステップS210)。
【0079】
詳細には、Liを含有する原料、Laを含有する原料、Zrを含有する原料およびAlを含有する原料として、それぞれ、硝酸リチウム(35.7mmol)、硝酸ランタン(15mmol)、オキシ硝酸ジルコニウム(10mmol)、および、硝酸アルミニウム(0.825mmol)を用いた。これらの原料を溶媒として水(30ml)に溶解させ、オキシカルボン酸としてクエン酸(0.18mmol)を添加・反応させ、金属錯体を得た(図3のステップS310)。Liを含有する原料におけるLi量は、定比組成におけるLiに対して2%過剰の量であった。ここで、硝酸アルミニウムは、AlO3/2換算で、LiLaZr12に対するAlO3/2の重量比が0.01を満たした。
【0080】
次いで、金属錯体にポリオールとしてエチレングリコール(0.72mmol)を添加・撹拌し、130℃で2時間加熱し、金属錯体重合体を得た(図3のステップS320)。ここで、金属錯体重合体の焼成過程を最適化するために、示差熱・熱重量(TG/DTA)測定を行った。図5に結果を示す。
【0081】
図5は、実施例1における金属錯体重合体のTG/DTA曲線を示す図である。
【0082】
図5のTG曲線によれば、400℃から700℃まで減量が続いた。このことから、400℃で金属錯体重合体の炭化を行い、700℃で炭素およびその他の有機物の除去を行うことに決めた。図5のDTA曲線によれば、730℃近傍で加熱分解が生じていることを示す大きな発熱ピークを示した。このことから、有機物が除去された金属錯体重合体は、700℃よりも高く800℃以下の温度範囲で加熱する(図3のステップS330)ことによって、酸化物となることが確認された。この結果から、実施例1では、加熱温度を750℃とした。
【0083】
図5の結果を参照し、金属錯体重合体を焼成した(図3のステップS330)。詳細には、金属錯体重合体を、400℃で4時間加熱して炭化させ、それを粉砕した後、700℃で加熱し、有機成分の除去を行い、次いで、酸素雰囲気中で、750℃で2時間加熱した。
【0084】
このようにして得た粉体を乳鉢により粉砕した。粉砕した粉末の外観を、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、組成分析を行った。観察結果を図6(A)に示す。さらに、この粉末がLiLaZr12で表される母体に、Alが固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物からなる粒子(以降では簡単のため、物質に対してLLZ、粒子に対してLLZ粒子と称する)であることを、粉末X線回折測定を行い確認した。結果を図7(A)に示す。
【0085】
次いで、粉末を成形し、第1の焼結をした(図2のステップS220)。成形には冷間静水圧加圧(CIP)を用いた。第1の焼結は、酸素フローしながら、1180℃で12時間、焼結した。得られた焼結体の断面を研磨し、SEM写真を撮影し、焼結体の気孔体積比率を求めたところ、5%以下であることを確認した。なお、気孔体積比率は、SEM写真に任意に直線を引き、気孔部分の直線比率を求め、それを3乗することにより、気孔体積比率(%)とした。
【0086】
続いて、第1の焼結によって得た焼結体を、熱間等方加圧(HIP)を用いて、第2の焼結をした(図2のステップS230)。第2の焼結は、酸素を含有する雰囲気として、酸素分圧98Pa/cmの酸素を含有するAr雰囲気中で、1180℃で、130MPa/cmの圧力に維持し、2時間、焼結した。
【0087】
このようにして得られた焼結体の化学分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を用いて行った。結果を表2に示す。焼結体の外観を観察した。観察結果を図8に示す。焼結体の断面を研磨し、SEM観察を行った。断面の様子を図9に示す。また、断面のSEM写真から焼結体の気孔体積比率を求めた。結果を表3に示す。さらに、焼結体を厚さ1mmまで研磨し、これの光透過スペクトルを測定した。結果を図10に示す。研磨した焼結体の両面に電極を付与し、短絡試験を行った。
【0088】
[実施例2]
実施例2では、原子比Al/Laが0.11(硝酸アルミニウムは、AlO3/2換算で、LiLaZr12に対するAlO3/2の重量比が0.02を満たす)である以外は、実施例1と同様であった。得られた焼結体の気孔体積比率を求め、光透過率測定、および、短絡試験を行った。これらの結果を表2に示す。
【0089】
[実施例3]
実施例3では、定比組成に対するLiの過剰量(%)が5%である以外は、実施例1と同様であった。得られた焼結体の化学分析を行い、SEM観察し、気孔体積比率の算出、光透過率測定、および、短絡試験を行った。これらの結果を図8図10、表2および表3に示す。
【0090】
[実施例4]
実施例4では、定比組成に対するLiの過剰量(%)が5%であり、かつ、原子比Al/Laが0.11(硝酸アルミニウムは、AlO3/2換算で、LiLaZr12に対するAlO3/2の重量比が0.02を満たす)である以外は、実施例1と同様であった。得られた焼結体の気孔体積比率を求め、光透過率測定、および、短絡試験を行った。これらの結果を表3に示す。
【0091】
[比較例5]
比較例5では、定比組成に対するLiの過剰量(%)が10%である以外は、実施例1と同様であった。焼結体にする前の粒子をSEM観察した。得られた焼結体の化学分析を行い、SEM観察し、気孔体積比率の算出、光透過率測定、および、短絡試験を行った。これらの結果を図8、表2および表3に示す。
【0092】
[比較例6]
比較例6では、定比組成に対するLiの過剰量(%)が10%であり、かつ、原子比Al/Laが0.11(硝酸アルミニウムは、AlO3/2換算で、LiLaZr12に対するAlO3/2の重量比が0.02を満たす)である以外は、実施例1と同様であった。得られた焼結体の気孔体積比率を求め、光透過率測定、および、短絡試験を行った。これらの結果を表3に示す。
【0093】
[比較例7]
比較例7では、Alを含有する原料を用いない以外は、実施例1と同様であった。得られた粒子について粉末X線回折測定を行った。結果を図7(B)に示す。なお、後述するように、比較例7では、正方晶のLiLaZr12からなる酸化物粒子が得られたため、焼結体の製造は行わなかった。
【0094】
[比較例8]
比較例8では、固相反応法により合成したLiLaZr12で表される母体に、MとしてAlが固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物からなる粒子を用い、酸化物焼結体を得た。ここで、酸化物からなる粒子の合成において、定比組成に対するLiの過剰量(%)およびLaに対するAl原子比Al/Laは、それぞれ、10%および0.055であった。
【0095】
LiCO粉末、La粉末およびZrO粉末を、Li7.7LaZr12の組成となるように粉砕混合し、ペレット状に成形した。成形体を900℃、5時間、加熱した。その後、粉砕混合し、再度ペレット状に成形し、950℃、12時間、焼成した。この試料を粉砕後、γ−Al粉末を添加し、ペレット状に成形した。ここで、γ−Al粉末は、AlO3/2換算で、LiLaZr12に対するAlO3/2の重量比が0.01であった。成形体を1180℃、36時間、酸素フロー中で焼結した。得られた焼結体を、HIPを用いて、酸素を含有する雰囲気として、酸素分圧98Pa/cmの酸素を含有するAr雰囲気中で、1180℃で、130MPa/cmの圧力に維持し、2時間、焼結した。得られた焼結体の気孔体積比率を求め、光透過率測定、および、短絡試験を行った。これらの結果を表3に示す。
【0096】
簡単のため、実施例/比較例1〜8の実験条件の一覧を表1に示し、結果を詳述する。
【0097】
【表1】
【0098】
図6は、実施例1で得た粒子(A)と、比較例5で得た粒子(B)とのSEM写真を示す。
【0099】
図6(A)によれば、実施例1で得た粒子は、0.3μm以上3μm以下の範囲の粒径を有することが分かった。図示しないが、実施例2〜4で得た粒子も同様の傾向を示した。図6(B)によれば、比較例5で得た粒子は、0.5μm以上5μm以下の範囲の粒径を有することが分かった。
【0100】
以上の結果から、錯体重合法により粒子を得る場合、Liを含有する原料における、定比組成に対するLiの過剰量(%)を10%未満にすることにより、より粒径が小さく、均一な粒子が得られることが示唆される。
【0101】
図7は、実施例1で得た粒子と、比較例7で得た粒子との粉末X線回折パターンを示す図である。
【0102】
図7(A)によれば、実施例1で得た粉末のXRDパターンは、LiLaZr12の立方晶系ガーネット型結晶構造(JCPDSカード#01−078−6709)に一致し、第二相、不純物相に相当するピークは見られなかった。このことから、実施例1で得た粉末は、Alが固溶したLiLaZr12で表される、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物からなる粒子(LLZ粒子)であることが分かった。図示しないが、実施例2〜4で得た粉末のXRDパターンも図7(A)のXRDパターンと同一であった。
【0103】
一方、図7(B)によれば、比較例7で得た粉末のXRDパターンは、LiLaZr12の正方晶系ガーネット型結晶構造(JCPDSカード#01−078−6−708)に一致した。
【0104】
以上の結果から、錯体重合法により粒子を得る場合、Mを含有する元素(実施例ではMはAlである)を用いることにより、安定して立方晶系ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12で表される酸化物からなる粒子が得られることが示された。なお、MとしてAlがLiLaZr12に固溶したことから、類似のイオン半径を有するNbおよびTaについても、同様に固溶することが示唆される。
【0105】
表2に焼結体の化学分析の結果を示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2に示すように、いずれの実施例/比較例で得られた焼結体も、Li、La、ZrおよびAlを検出し、その原子比からAlが固溶したLiLaZr12で表される酸化物であることが分かった。詳細には、実施例1で得られた焼結体の原子比Al/Laは、ほぼ、仕込みの原子比どおりだったが、実施例3および比較例5で得られた焼結体の原子比Al/Laは、仕込みの原子比よりも大きかった。これは、焼結に用いたアルミナボートからのAlの拡散によるものだった。
【0108】
また、原子比Li/Laは、実施例1、実施例3および比較例5の焼結体の順に減少した。上述したように、原子比Al/Laは、実施例1、実施例3および比較例5の焼結体の順に増加した。これらのことから、MがAlである場合、Alは、主として、Liサイトに置換固溶したことが示唆される。
【0109】
Laに対するLiの原子比Li/Laは、2以上2.5以下であり、Laに対するZrの原子比Zr/Laは、0.6以上0.7以下であった。
【0110】
図8は、実施例1、実施例3および比較例5で得られた焼結体の外観を示す図である。
【0111】
図8によれば、実施例1の焼結体、実施例3の焼結体、比較例5の焼結体の順に透明度が低下することが分かる。実施例1および実施例3の焼結体は、目視にても透明であり、焼結体の下の文字を明瞭に視認できた。一方、比較例5の焼結体は不透明であった。図示しないが、実施例2および実施例4で得た焼結体も同様に目視にて透明であった。
【0112】
図9は、実施例1で得られた焼結体の断面のSEM写真である。
【0113】
図9によれば、実施例1で得られた焼結体は、グレイン910と、気孔920とを有することが分かった。グレイン910は、図9中で、同じグレースケールで示される領域である。分かりやすさのために、一部のグレインをトレースした。グレイン910は、いずれも、150μm以上250μm以下の範囲の直径を有することが分かった。グレイン910は、LLZ単結晶であり、グレイン910間には気孔920に加えて、粒界が存在し得る。焼結体全体においては、グレイン910が90重量%以上を占める主成分であることが分かった。
【0114】
気孔920は、図9中黒く示される領域であり、気孔体積比率は0.3%と算出された。図示しないが、実施例2〜4で得られた焼結体も同様の様態であり、気孔体積比率は0.5%以下であった。比較例5、6および8で得られた焼結体は、いずれも、一見して気孔が多く存在しており、その気孔体積比率も1%を超えていた。
【0115】
図10は、実施例1および実施例3で得られた焼結体の透過スペクトルを示す図である。
【0116】
図10によれば、いずれの透過スペクトルも、可視光に対して高い透過率を示した。この結果は、図8の外観の結果に一致する。特に、実施例1および実施例3の試料厚さ1mm、波長600nmにおける光透過率は、それぞれ、25%および28%であった。図示しないが、実施例2および4で得られた焼結体も同様の光透過率であった。
【0117】
以上の結果を簡単のため、表3にまとめる。
【0118】
【表3】
【0119】
表3において、気孔体積比率(%)に着目すると、本発明の焼結体の気孔体積比率はいずれも0.5%以下であった。特に、実施例1および3で得られた焼結体の気孔体積比率は、0.3%以下であった。比較例5、6および8で得られた焼結体の気孔体積比率は、1%を超えており、不透明であった。
【0120】
表3において、光透過率(%)(試料厚さ1mm、波長600nm)に着目すると、本発明の焼結体の光透過率は、30%前後であるが、比較例5、6および8の焼結体の光透過率は、10%前後であった。なお、比較例8の焼結体の光透過率は、試料厚さ0.8mmで測定したものであるが、試料厚さが1mmになれば、当然ながら光透過率は低減することに留意されたい。
【0121】
図示しないが、短絡試験を行ったところ、実施例1〜4で得られた焼結体では、比較例5、6および7で得られた焼結体に比べて、長時間にわたって、大電流(短絡電流)が流れることはなかった。特に、実施例1および3で得られた焼結体の短絡特性は、実施例2および4の焼結体にそれに比べて優れていた。これは、気孔体積比率が0.3%以下に制御し、0.04以上0.08以下の原子比Al/Laを満たすことにより、気孔および電子欠陥による短絡がさらに抑制されたためと示唆される。このことから、本発明の製造方法において、Liの過剰量は2%以上5%以下であり、Mを含有する原料は、MO3/2換算で、LiLaZr12に対するMO3/2の重量比が0.009以上0.011以下を満たすことが好ましいことが示された。
【0122】
以上の結果から、本発明の酸化物焼結体は、LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物を主成分とするので、高いリチウムイオン導電性を有し、固体電解質に適用できることが示された。さらに、本発明による酸化物焼結体の気孔体積比率が0.5%以下に制御されているので、気孔および電子欠陥による短絡が抑制され、安全なリチウムイオン電池を提供できることが確認された。
【0123】
さらに、本発明の製造方法によれば、錯体重合法によって、LiLaZr12で表される母体にMが固溶した立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物からなる粒子を製造し、熱間等方圧加圧(HIP)を用いて焼結するので、気孔がきわめて除去され、さらに酸素の還元による電子欠陥の生成が抑制された上述の緻密な酸化物焼結体を得ることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の酸化物焼結体は、LiLaZr12で表される母体に、M(ただし、Mは、Al、NbおよびTaからなる群から少なくとも1つ選択される元素)が固溶した、立方晶系ガーネット型結晶構造を有する酸化物を主成分とし、気孔体積比率は0.5%以下に制御されているので、焼結体中の気孔が低減されており、短絡が抑制される。このような酸化物焼結体を固体電解質に用いれば、安全なリチウムイオン電池を提供できる。
【符号の説明】
【0125】
100 酸化物焼結体
110、910 グレイン
120 粒界
400 リチウムイン電池
410 正極
420 負極
430 固体電解質
920 気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10