【課題】不要となり回収されたアルミノホウケイ酸ガラスを多大なエネルギーを消費せず効率的に資源として有効利用する方法を提供する。イオン交換能に優れ、水質浄化材、触媒材料などに利用可能で、使用時における取り扱いが容易な形態のA型ゼオライト材料の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミノホウケイ酸ガラスを原料として、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部をゼオライト化することによるA型ゼオライト材料の製造方法であって、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物とを混合する調合工程と、前記混合物を加熱しながら断続的に攪拌するパルス攪拌合成工程とを含む、A型ゼオライト材料の製造方法。
前記パルス攪拌合成工程の前に、前記混合物を加熱しながら連続的に攪拌する溶出攪拌合成工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のA型ゼオライト材料の製造方法。
前記溶出攪拌工程の前に、前記調合工程で得られた混合物を加熱しながら静置する静置合成工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のA型ゼオライト材料の製造方法。
前記静置合成工程の開始から前記パルス攪拌合成工程の終了までの間、75℃以上110℃以下の範囲内の温度で12時間以上96時間以下加熱する、請求項3に記載のA型ゼオライト材料の製造方法。
前記パルス攪拌合成工程における断続的な攪拌として、15分間以上60分間以下の周期で、10秒間以上5分間以下の攪拌が行なわれるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のA型ゼオライト材料の製造方法。
前記静置合成工程は、75℃以上110℃以下の範囲内の温度に到達後、2時間以上4.5時間以下行なわれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のA型ゼオライト材料の製造方法。
前記調合工程において、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物との混合物のSi/Alモル比が1以上2.5以下となるようにアルミニウム源を添加することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のA型ゼオライト材料の製造方法。
前記調合工程において、アルカリ金属水酸化物と水との混合比が0Nを超えて3N以下の濃度のアルカリ水溶液となる割合であるアルカリ金属の水酸化物を添加する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のA型ゼオライト材料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを用いた液晶テレビなどの家電製品、パソコン、携帯端末などの製品が急速に普及している。ここで、上述した「液晶パネル」とは、貼り合せた2枚のガラス基板の内側に液晶材料を注入、封入し、各ガラス基板の外側に偏光板(樹脂)を貼り付けたものを指す。液晶パネルを用いた製品の普及に伴い、液晶パネルの廃棄物(廃液晶パネル)の数量も急激に増加しているが、環境との共存が期待される循環型社会の形成の中、廃液晶パネルについてもリサイクルし資源を有効に利用することが要望されている。
【0003】
現在、家電製品、情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置、液晶パネルは、廃棄物の量としては少ないこともあって、廃棄物の処理施設にて製品ごとに破砕された後、プラスチックを多量に含むシュレッダーダストと共に、埋め立て処理あるいは焼却処理されている。
【0004】
シリカ、アルミナを含む廃ガラス、スラグ、焼却灰などの廃棄物を原料として各種ゼオライトを合成する研究が行なわれている。ゼオライトは0.3〜2nmの均一な大きさの細孔を有するアルミノシリケートであり、化学的、熱的に安定な物質である。ゼオライトはその細孔構造に起因する吸着能、分子ふるい作用、イオン交換能を有していることから、触媒、吸着剤、ガス分離膜、洗剤用ビルダーなどに幅広く応用されている。特に、A型ゼオライトは、数多く種類が存在するゼオライトのなかでもAl濃度が最も高く、親水性でイオン交換性能が高いため、分子ふるい、脱水剤、吸着剤、洗剤ビルダーなどの幅広い用途に応用されている。
【0005】
粉末状のものから、用途、実使用方法に合わせて膜状や粒状に加工されたものなど様々な形態で製造されている。板状や粒状に加工された基材の表面にゼオライト層を形成させる際には、ゼオライトの能力を安定的にかつ、優れた性能で発揮させるために、その表面への高い被覆率、密着性、純度、生成量が重要とされている。
【0006】
一般的にゼオライトは、シリカ源、アルミナ源、アルカリ金属の水酸化物、水を原料とし、水熱合成により製造される。基材上へゼオライトを形成させる際の被覆率、生成量の向上などには、上記原料どうしの反応を促進するため合成中に攪拌を行なうことが効果的である。また、粒状のゼオライト製品を製造する場合、合成中における粒どうしの凝集を防ぐためにも攪拌が有効である。
【0007】
たとえば特開平7−232913号公報(特許文献1)には、産業廃棄物の焼却残渣などを主原料としてA型ゼオライトを製造するに当たり、原料粉末中のカルシウム化合物を除去してから、アルカリ水溶液中で加熱攪拌し反応させてA型ゼオライトを製造する方法が開示されている。
【0008】
また特開2001−146417号公報(特許文献2)には、焼却灰からゼオライトを製造する方法において、特定範囲の濃度のKOH水溶液と、焼却灰とを混合してスラリー化し、連続的又は断続的に攪拌しながら、加熱温度:90〜140℃、加熱時間:1〜48時間の条件で、焼却灰とKOHとを反応させることを特徴とするゼオライトの製造方法が開示されている。
【0009】
特開2009−167068号公報(特許文献3)には、石炭灰、アルカリおよび水を原料としゼオライトを製造する装置であって、圧力容器内に投入した多数のセラミックボールを、圧力容器を回動させることにより移動させ、原料混合物の破砕、攪拌を行なうことにより、ゼオライト生成物の固化を防止する装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
液晶パネルは、省電力・省資源に貢献できる表示装置であるので、今後、高度情報化社会の進展に伴って、急激に生産量が増大するとともに、その表示面積も大型化することが予測され、これに伴って、今後、廃液晶パネルも、数・量ともに急激に増大すると予想される。したがって、液晶パネルの重量の大半を占めるガラス(液晶パネルガラス)についても、廃棄物を低減し、資源を大切にする観点から、高品位な材料へと再生利用することが好ましい。しかしながら、一般的な再資源化方法として、セメント材料として再利用する方法では、高品位な資源として有効利用はできていない。
【0012】
資源有効利用の観点からは、回収された液晶パネルガラスを液晶パネルガラス自体として再びマテリアルリサイクルすることが望ましい。しかしながら、液晶パネルガラス表面に付着している不純物、ガラス組成の異なる数多くの品種が存在することなどの理由で、光学的特性、熱特性の厳しい仕様が求められる液晶パネルガラスにリサイクルすることは、技術的に確立されていない。そのため、回収した液晶パネルガラスの、液晶パネルガラス以外の高付加価値製品としての用途開発が課題となっている。
【0013】
なお、液晶パネルガラスにはアルミノホウケイ酸ガラスと呼ばれるガラスが通常用いられている。アルミノホウケイ酸ガラスは、液晶パネルの製造工程に適合するように作られた特殊なガラスであり、その歪点は650℃以上である。これに対し、びんガラス、建築用窓ガラス、ガラス繊維、食器ガラスなど幅広くガラス製品に用いられているソーダライムガラスの歪点は、550℃以下である。このように、100℃以上歪点が異なるため、一般的にガラス製品に使用されるソーダライムガラスの溶融加工設備で、再生利用のためのアルミノホウケイ酸ガラスの溶融加工を行なうことは、加熱設備の性能、設備全般の耐熱性などの点で非常に困難である。また溶融温度の高いアルミノホウケイ酸ガラスを、通常はソーダライムガラスを原料として使用する建築用窓ガラス、ガラス繊維、食器ガラスなどの汎用的な製品へ使用することは、エネルギー消費の観点からも不利となる。このように、通常のソーダライムガラス製品の原料としての用途に用いる方法は技術的に確立されていないのが現状である。このため、不要となった液晶パネルガラスの用途として、現状のガラス製造工程の温度と比較し加工温度が上昇しない用途に用いる再資源化方法が望まれている。
【0014】
廃棄物を有用なシリコン源、アルミニウム源として各種ゼオライトを合成する研究が行なわれている。ゼオライトは通常アルカリ水熱反応によって合成され、ガラスの溶融のような極めて高温での加熱を必要とせず、100℃程度での比較的低温での合成が可能である。そのため、ガラスのリサイクルについては、溶融が必要な用途にリサイクルする場合と比較し、ゼオライトへと再生することは、再生利用に必要なエネルギーを低減することが期待できる。
【0015】
ゼオライトの実使用を考えた場合、要求性能、使用時の取扱いの容易性などの観点から、材料のサイズを、例えば、極めて小さな微粉、比較的大きな粒状、膜状などのように、用途に適合したサイズ、形状とすることが必要である。そのため、これまでに、ガラスを基材として利用し、その基材上にゼオライトを形成させ、取り扱いが容易なゼオライトを製造する検討が行なわれている。これについては、基材からのシリコン溶出、あるいはアルミニウム溶出だけでは、均一に表層をゼオライト化することは困難とされている。基材表面を均一にゼオライト化するためには、長時間あるいは高温での加熱処理や、アルカリ金属水酸化物の濃度を上昇させて反応速度を速くすることが重要となるが、多種多様なゼオライトの種類の中から特定のゼオライトを単相として得ることが難しくなる。これらの観点から、基材上に特定のゼオライトを単相で均一に形成させることは困難であり、その解決方法が望まれている。
【0016】
また、使用用途の観点から、粒状のゼオライトを製造する場合、原料の凝集による固化を防ぐ必要がある。原料が凝集などにより固化した場合、合成後の生成物を破砕、粉砕、分級などの後処理を行なう必要があり、多段の複雑なプロセスとなってしまう。また、硬質な材料であるゼオライトを加工するため、摩耗などに耐えられる特殊な材料を用いた大掛かりな粉砕、破砕設備が必要となり、製造コストが増加する課題がある。
【0017】
さらに、ゼオライトの合成中に凝集などの反応により原料が固化した場合、合成中の攪拌が不可能となり、本来攪拌により実現されるはずである、反応の促進、反応容器内の温度均一化、反応容器内組成の均質化が達成困難となってしまう。そのため、高品質なゼオライトを安定的に製造することが困難となる。また、合成中にゼオライト製品が固化した場合、合成後の反応容器内からの生成物の取り出しが困難となり、作業効率の悪化、専用の設備が必要となってしまうといった課題がある。
【0018】
上述した特許文献1に記載された、産業廃棄物の焼却残渣などを主原料としてA型ゼオライトを製造するに当たり、アルカリ水溶液中で加熱攪拌し反応させてA型ゼオライトを製造する方法では、得られるA型ゼオライトは粉末であり、そのままの形態で使用するには、実使用の際の取扱いが困難である。また、造粒などを行なった場合は、製造工程が多段で、複雑となり、製造コストが高価となる課題がある。
【0019】
上述した特許文献2に記載された、特定範囲の濃度のKOH水溶液と、焼却灰とを混合してスラリー化し、連続的又は断続的に攪拌しながら、加熱することによりゼオライトを合成する方法では、加熱時の攪拌を連続的又は断続的に行なった場合の生成するゼオライトの種類や形態に、攪拌が与える影響について示されていない。
【0020】
上述した特許文献3に記載された、合成中の固化を防止するために、反応容器内に投入した多数のセラミックスボールを移動させ、破砕、攪拌を行なう装置では、生成するゼオライトの種類は、安定相であるNaP1型ゼオライトであり、A型ゼオライトを生成していない。NaP1型ゼオライトはA型ゼオライトと比較し、細孔サイズが小さく、用途が限られてしまう。さらに、水熱合成法と比較し、NaP1型ゼオライトの生成量は減少するといった課題がある。
【0021】
廃棄物を原料とし、加熱合成時に種々の攪拌手段を併用したゼオライトの合成方法が開示されているが、いずれの方法もガラス基材の表層に安定的にA型ゼオライトを得ることは困難である。廃棄物を原料とし、A型ゼオライト単相が生成したとしても、その形態が粉末であり、取扱いが困難となる。あるいは、取扱いを容易とするための、複雑な造粒工程が必要となる。他相が混在してしまう場合は、純度の高いA型ゼオライトと比較した場合に、A型ゼオライトの特徴であるイオン交換性能が低下してしまう課題がある。
【0022】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、不要となり回収されたアルミノホウケイ酸ガラスを多大なエネルギーを消費せず効率的に資源として有効利用する方法を提供する。さらに、イオン交換能に優れ、水質浄化材、触媒材料などに利用可能で、使用時における取り扱いが容易な形態のA型ゼオライト材料の製造方法を提供することである。また、簡易、効率的なA型ゼオライト材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部をゼオライト化することによるA型ゼオライト材料の製造方法であって、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物とを混合する調合工程と、前記混合物を加熱しながら断続的に攪拌するパルス攪拌合成工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において、前記パルス攪拌合成工程の前に、前記混合物を加熱しながら連続的に攪拌する溶出攪拌合成工程を含むことが好ましい。
【0025】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において、前記溶出攪拌合成工程の前に、前記調合工程で得られた混合物を加熱しながら静置する静置合成工程を含むことが好ましい。
【0026】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法は、前記静置合成工程の開始から前記パルス攪拌合成工程の終了までの間、75℃以上110℃以下の範囲内の温度で12時間以上96時間以下加熱することが好ましい。
【0027】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法の前記パルス攪拌合成工程における断続的な攪拌として、15分間以上60分間以下の周期で、10秒間以上5分間以下の攪拌が行なわれるものであることが好ましい。
【0028】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において、前記溶出攪拌合成工程において、15分間以上2時間以下、連続的な攪拌が行なわれることが好ましい。
【0029】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において、前記静置合成工程は、75℃以上110℃以下の範囲内の温度に到達後、2時間以上4.5時間以下行なわれることが好ましい。
【0030】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法は、前記調合工程において、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物との混合物のSi/Alモル比が1以上2.5以下となるようにアルミニウム源を添加することが好ましい。
【0031】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において、アルミノホウケイ酸ガラスが50μm以上700μm以下の大きさに粉砕されたものであることは好ましい。
【0032】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において、前記調合工程は、アルカリ金属水酸化物と水との混合比が0Nを超えて3N以下の濃度のアルカリ水溶液となる割合であるアルカリ金属の水酸化物を添加することが好ましい。
【0033】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において、前記アルミノホウケイ酸ガラスが、SiO
2:50重量%以上、Al
2O
3:10重量%以上20重量%以下、B
2O
3:5重量%以上20重量%以下、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5重量%以上20重量%以下の組成を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、不要となった液晶パネルなどから回収されたアルミノホウケイ酸ガラスを高付加価値なA型ゼオライト材料へと有効に利用することが可能となる。本発明により、高温溶融などを施すことなく、不要となった無アルカリガラスを用いたA型ゼオライト材料を製造できるため、低環境負荷、かつ、低コストな製造方法が提供される。
【0035】
また、粒状のアルミノホウケイ酸ガラスの表層部にA型ゼオライト材料を生成し、生成物を固化させず粉末ではなく粒状形態で得られるため、使用時の取扱いが容易な形態を持った材料が得られる。その際、粉末ゼオライトの場合のように、粒状の材料とするための造粒工程が不要なため、製造工程が簡易で、製造コストが安価となる。さらに、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部にはA型ゼオライト材料が生成するため、高いイオン交換性能を持った材料が得られる。
【0036】
さらに、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法によれば、合成中に生成物が固化しない。したがって、合成後の粉砕処理が不要であり、そのための粉砕設備も不要である。また、合成後に生成物が固化しないため、反応容器からの取り出しが容易となる。さらに、本発明は、攪拌の時間やタイミング、間隔といったシーケンスを制御するのみで、特殊な攪拌手段を必要としないため、簡単な設備での製造が可能である。以上のことから、本発明は、簡単な処理で、大掛かりな設備を必要とせず、アルミノホウケイ酸ガラスの表層にA型ゼオライト材料を形成することが可能となる。
【0037】
以上のように、本発明によれば、イオン交換能に優れ、吸着剤などに利用可能な高性能なゼオライト種であるA型ゼオライト材料を合成することが可能となる。また、簡単な処理で、A型ゼオライト材料を製造することが可能となり、作業効率が高く、製造コストが安価である。さらに、大掛かりな設備を必要としないため、安価なA型ゼオライト材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明のアルミノホウケイ酸ガラスからのA型ゼオライト材料の製造方法は、基本的には、調合工程とパルス攪拌合成工程との2種類の工程を含むことを特徴とする。また、パルス攪拌合成工程の前に溶出攪拌合成工程と、溶出攪拌合成工程のさらに前に静置合成工程を含むことが好ましい。
【0040】
本発明により製造されるA型ゼオライト材料は、粉砕されたアルミノホウケイ酸ガラスを支持体とし、静置合成工程とパルス攪拌合成工程の静置および攪拌時間を制御することにより、ガラス表層部が均一に高純度のA型ゼオライトで覆われていることを特徴とする。
【0041】
このような本発明のA型ゼオライト材料の製造方法によれば、従来のように高温(たとえば1400℃)での溶融処理を施すことなく、アルミノホウケイ酸ガラスを原料として用いてA型ゼオライト材料を製造することができる。これにより、不要となった液晶パネルなどに用いられているアルミノホウケイ酸ガラスを、低環境負荷のプロセスで、資源として有効に利用することが可能となる。また、本来不要となったアルミノホウケイ酸ガラスを原料とし、かつ、原料ガラスを高温溶融しないため、エネルギー消費量が少なく、設備コストおよびエネルギーコストが低く抑えられ安価なA型ゼオライト材料を得ることができる。また、反応を制御することにより、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部に、不純相の少ない、高純度A型ゼオライトを合成できるため、高性能な水浄化剤、乾燥剤、分子ふるい、触媒などに使用できるA型ゼオライト材料を製造することが可能となる。
【0042】
本発明におけるアルミノホウケイ酸ガラスは、SiO
2:50重量%以上、Al
2O
3:10重量%以上20重量%以下の組成を有することが、好ましい。これにより、SiO
2/Al
2O
3がモル比で4.24であり、すなわちSi/Alモル比が1以上の範囲にあり、FAU型ゼオライト(Si/Alモル比:1.5以上3以下)、A型ゼオライト(Si/Alモル比:1)の原料として好適である。なお、アルミノホウケイ酸ガラスがこのような組成を有することは、たとえば蛍光X線分析を用いた組成分析により確認することができる。
【0043】
液晶表示装置に使用されているアルミノホウケイ酸ガラスを再資源化するため、本発明において原料となるアルミノホウケイ酸ガラスは、液晶表示装置に搭載される液晶パネルガラスとして使用されているアルミノホウケイ酸ガラス組成範囲である、SiO
2:50重量%以上、Al
2O
3:10重量%以上20重量%以下、B
2O
3:5重量%以上20重量%以下、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5重量%以上20重量%以下の範囲であることがより好ましい。SiO
2およびAl
2O
3組成、すなわち上述したSi/Alモル比の観点から、このような組成のアルミノホウケイ酸ガラスは、ゼオライトの原料として好適に使用される。
【0044】
本発明においては、原料となるアルミノホウケイ酸ガラスが上述した組成を有することで、不要となった液晶パネルなどから回収したアルミノホウケイ酸ガラスを原料として好適に使用できるため資源有効利用が可能となる。このように液晶パネル用のアルミノホウケイ酸ガラスを用いることで、石炭灰、フライアッシュ、スラグなどを用いた場合と異なり、原料組成のばらつきが少ないため、効率的に、反応制御性が良く、ゼオライトを製造することが可能となる。
【0045】
さらに、アルミノホウケイ酸ガラスは、従来、加工温度が高く、再溶融する場合に多大なエネルギーを消費するため、環境負荷およびエネルギーコストの面から、ほとんどリサイクルがなされていなかった。本発明によれば、従来リサイクルされておらず、今後急激に増加すると予測される不要となったアルミノホウケイ酸ガラスを資源として有効に利用することが可能となるといった効果が奏される。
【0046】
ここで、
図1は、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法の好ましい一例を示すフローチャートである。上述したように、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法は、合成するA型ゼオライト材料の構造を調整するため、所定のAl
2O
3/SiO
2比となるようにアルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム化合物とアルカリ金属の水酸化物を添加する調合工程(
図1中、ステップS3)と、生成物の固化を防止するパルス攪拌合成工程(
図1中、ステップS6)とを必須の工程として含む。また、パルス攪拌合成工程の前に溶出攪拌合成工程(
図1中、ステップS5)と、溶出攪拌合成工程のさらに前に静置合成工程(
図1中、ステップS4)を含むことが好ましい。
図1に示す例のフローチャートは、さらに、アルミノホウケイ酸ガラス回収工程(
図1中、ステップS1)および粉砕工程(
図1中、ステップS2)を有する場合を示している。以下、
図1に示す例のフローチャートに沿って、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法を詳細に説明する。
【0047】
〔1〕アルミノホウケイ酸ガラス回収工程(ステップS1)
図1に示す例では、まず、アルミノホウケイ酸ガラス回収工程(ステップS1)として、たとえば、液晶パネルからアルミノホウケイ酸ガラスを回収する。ここで、
図2は、典型的な一例の液晶パネルを模式的に示す断面図である。
図2には、TFT(Thin Film Transistor)などのアクティブ素子(図示せず)を備えた液晶パネルを示している。
図2に示す例の液晶パネルは、たとえば、対向配置された2枚のパネルガラス(カラーフィルタ側パネルガラス2a、TFT側パネルガラス2b)を備える。これらパネルガラス(ガラス基板)2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(シール材)3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらパネルガラス2a,2bとシール樹脂体3とによって密封された領域には、液晶が封入され、液晶層4が形成されている。
【0048】
また、典型的な液晶パネルでは、
図2に示すように、各パネルガラス2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)には、偏光板5が粘着剤により貼着されている。典型的な液晶パネルでは、
図2に示すように、カラーフィルタ側パネルガラス2aの内面側に、反射防止膜6、カラーフィルタ7、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。また、典型的な液晶パネルでは、
図2に示すように、TFT側パネルガラス2bの内面側に、画素電極10、バス電極11、絶縁膜12、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。前記反射防止膜6、カラーフィルタ7、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12の膜厚は、前記2枚のパネルガラス2a,2bの厚みと比較して、十分に薄い。以下、
図2に示す例の液晶パネルよりアルミノホウケイ酸ガラスを得る手順を説明するが、本発明において原料となるアルミノホウケイ酸ガラスを回収する手順はこれに限定されるものではなく、また、液晶パネルから回収されたものにも限定されない。
【0049】
まず、液晶テレビなど、液晶パネルを備えた表示装置などから取り出された、たとえば
図2に示すような構造の液晶パネル1から偏光板5を除去する。偏光板5の除去は、公知の機械的な方法を利用する。次に、貼り合わされたガラス基板2a,2bを、2枚に分離する。具体的には、ガラス基板におけるシール樹脂体3よりも内側の四辺を、該シール樹脂体3に沿って、ダイヤモンドソーやガラスカッターなどの切断工具を用いて矩形状に切断する。その後、必要に応じて外力を加えることにより、元の大きさよりも一回り小さい大きさのガラス基板を、液晶パネルから切断して取り外す。ガラス基板が取り外されると、封入されていた液晶層4が開封され、液晶は、ガラス基板に付着した状態で露出する。次に、液晶が露出したガラス基板から樹脂性のスキージを用いてかき取ることによって液晶を除去する。
【0050】
液晶パネルなどから回収されたアルミノホウケイ酸ガラスには、通常、カラーフィルタに使用される有機物薄膜、TFT(Thin Film Transistor)に使用される金属薄膜および無機物薄膜などの不純物が付着している。このような不純物は、たとえばサンドブラスト、回転研磨などの従来公知の機械的手法、ならびに、たとえば酸性溶液、有機溶媒によるエッチングなどの従来公知の化学的手法を適宜組み合わせることで、除去することができる。このように使用済み液晶テレビから取り出した液晶パネルからアルミノホウケイ酸ガラスが回収される。
【0051】
〔2〕粉砕工程(ステップS2)
図1に示す例では、続く粉砕工程(ステップS2)において、原料として使用するアルミノホウケイ酸ガラスを粉砕する。ここで、アルミノホウケイ酸ガラスは、50μm以上700μm以下の範囲内の粒径(中心径)となるように粉砕されることが好ましい。アルミノホウケイ酸ガラスを50μm以上700μm以下に粉砕したものを原料とすることで、表層部でのゼオライト化反応が生じるとともに、粒のコア部分にアルミノホウケイ酸ガラスを残すことができる。粒径が50μmより小さくなると、粒のコア部分にアルミノホウケイ酸ガラスが残らずに全体がゼオライト化してしまう。一方、粒径が700μmを超えると、粉砕形状が扁平になるため、用途が限定されてしまう。また、用途に合わせた粒径とすることで、かつ、表層部はA型ゼオライト化した材料とすることで、各用途での粒径による不具合が生じず、イオン交換能などの性能が高い材料が製造できるという利点がある。また、合成の際に容器内で堆積厚をもったアルミノホウケイ酸ガラスの内部まで反応が進行し、濃度のゆらぎが減少し、構造のばらつきが少ない、均一なゼオライト構造をもったA型ゼオライト材料を得ることが可能となる。
【0052】
粉砕の方法としては、従来公知のせん断方式の破砕機、ハンマーミル、ロールミル、カッターミル、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕することができる。また、複数段処理を行ない、粉砕することもできる。ハンマーミルなどを用い、粗破砕した後、ボールミルなどで微粉砕すると効率よく粉砕することができる。たとえば、上述の液晶パネルから回収された液晶パネル画面サイズのアルミノホウケイ酸ガラスを、ハンマーミルなどで処理し、5mm以下のサイズに粗破砕したものを、さらに、ボールミルを用い1mm以下に粉砕し、アルミノホウケイ酸ガラスの原料として用いる。
【0053】
〔3〕調合工程(ステップS3)
図1に示す例では、次に、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において必須の工程である調合工程(ステップS3)で、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物とを混合する。この結果、アルミノホウケイ酸ガラスとアルミニウムを含むアルカリ金属水酸化物の混合物が得られる。
【0054】
混合は、攪拌しながら行なうことが好ましい。攪拌する具体的な方法としては、従来公知の攪拌機を用いる。たとえば、マグネチックスターラー、インペラ式攪拌機、バレル式攪拌機などを用いることができる。これにより、水溶性の原料は水に溶解しやすくなる。攪拌温度は、5℃以上100℃以下が好ましい。調合工程において攪拌温度が100℃を超えると、水溶液が気化し、安全上の問題が生じる虞がある。また、攪拌温度が5℃未満になると、溶解反応が極めて遅くなり、効率が悪くなってしまう場合がある。
【0055】
調合工程における攪拌時間は、1秒間以上100時間以下が好ましい。調合工程において攪拌時間が1秒間未満になると、原料の十分な混合が得られず、偏りが残ってしまいゼオライトの合成割合が低くなってしまう虞がある。また、攪拌時間が100時間を超えると混合の進行が極端に遅くなり効率が悪くなってしまう場合がある。
【0056】
調合工程では、粉体中のSiO
2/Al
2O
3モル比の調整を行なう。たとえば、アルミノホウケイ酸ガラス中に含まれるSiO
2と、アルミノホウケイ酸ガラス中に含まれるAl
2O
3と、添加したアルミニウム化合物に含まれるAl
2O
3とを考慮したSiO
2/Al
2O
3モル比に関し、好ましくはSi/Alモル比が1以上2.5以下(SiO
2/Al
2O
3モル比が2以上5以下)、より好ましくはSi/Alモル比が1.5以上2.1以下(SiO
2/Al
2O
3モル比が3以上4.2以下)となるようにアルミニウム化合物を添加することにより、A型ゼオライト材料の合成が可能となる。
【0057】
添加するアルミニウム化合物としては、たとえば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウムなどを用いることができる。アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウムを用いることにより、反応性が高く、効率的に反応を進行させることができる。
【0058】
また、アルカリ金属の水酸化物としては、特に制限されないが、反応性、廃液処理の観点および取り扱いの容易性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましい。これらの物質を2種以上含んでいてもよい。なお、強アルカリ溶液であり反応性が極めて高く、安価であることから、またNa型のゼオライトが製造されることから、アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0059】
添加するアルカリ金属水酸化物の添加量は、アルカリ金属水酸化物と水との混合比が、水溶液にした場合のアルカリ濃度で0Nを超えて3N以下となる量であることが好ましく、0.2N以上2N以下となる量であることがより好ましく、0.5N以上1.5N以下となる量であることが特に好ましい。アルカリ金属水酸化物と水との混合比が、水溶液にした場合のアルカリ濃度で3Nを超えるアルカリ金属水酸化物の添加量である場合には、A型ゼオライト以外のヒドロキシソーダライトが多量に生成し、ゼオライトの純度が低くなってしまう虞がある。また前記アルカリ濃度が0.2N未満となるアルカリ金属水酸化物の添加量である場合には、アルミノホウケイ酸ガラスとアルカリ金属水酸化物との反応が小さくなり、ガラス相の残存が多く効率的なゼオライト合成がなくなる虞がある。
【0060】
粉砕したアルミノホウケイ酸ガラスと水との混合固液比(g/mL)は、粉砕したアルミノホウケイ酸ガラス/水=1/100以上1/2以下が好ましく、粉砕したアルミノホウケイ酸ガラス/水=1/100以上1/3以下がより好ましい。アルミノホウケイ酸ガラスと水との混合固液比(g/mL)が1/100より小さくなると、必要なアルカリ溶液が多くなり過ぎ、処理効率が悪くなってしまう場合がある。またアルミノホウケイ酸ガラスと水との混合固液比(g/mL)が1/3より大きくなると、粉砕したアルミノホウケイ酸ガラスとアルカリ溶液の接触面積が小さくなり、溶解反応が十分に進まなくなる虞がある。また、反応を進行させるためには、アルカリ溶液濃度やアルミニウム化合物の添加量を増大する必要があり、それに伴うアルカリ物質濃度の上昇により、ヒドロキシソーダライトが生成しやすくなる虞がある。
【0061】
〔4〕静置合成工程(ステップS4)
図1に示す例では、続く静置合成工程(ステップS4)において、アルミノホウケイ酸ガラスとアルカリ溶液との混合物に対して合成温度で静置しながらの加熱処理を行なう。当該静置合成工程は、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法に必須の工程ではないが、
図1に示す例のように、調合工程と溶出攪拌合成工程との間に、当該静置合成工程を行なうことが好ましい。静置合成工程を設けることにより、イオン交換性能を低下させる要因となるLOS型ゼオライトの生成を抑制し、A型ゼオライトの生成量を増加させることが可能である。
【0062】
静置合成工程は、75℃以上110℃以下の範囲内の温度(合成温度)に到達後、2時間以上4.5時間以下が好ましい。アルミノホウケイ酸ガラスの表層部にゼオライトが形成されるメカニズムは、加熱処理により、アルミノホウケイ酸ガラスの近傍におけるシリコンとアルミニウムの濃度が高まることによって、アルミノシリケートゲルが生成し、これが加熱処理されることによって、結晶化が進行し、ゼオライトが生成することによる。合成温度到達後の静置時間が2時間未満で後述の溶出攪拌合成工程またはパルス攪拌合成工程に移行してしまうと、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部で結晶化が十分に進まない状態で、ガラス成分の溶出がさらに促進される。これにより、静置条件では溶出しにくいカルシウム成分が攪拌により溶出し、アルミノシリケートゲル中にカルシウム成分が取り込まれ、LOS型ゼオライトが生成しやすくなる。また、合成初期段階での攪拌により、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部に形成されたアルミノシリケートゲルが、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部に定着しにくくなり、ゲルとガラスの密着性が悪くなるため、最終的に得られたゼオライトにおけるガラスとゼオライトとの密着性が低下する原因となる。合成温度到達後の静置時間が4.5時間を超えると、アルミノシリケートゲルの結晶化が進行し、ガラスと強固に密着するために、ガラス同士が固化した状態でゼオライトが生成し、合成後の取り扱いが困難となる。また、後述の溶出攪拌合成工程およびパルス攪拌合成工程での攪拌の効果が十分に得られなくなる。
【0063】
静置合成工程における加熱処理は、バッチ式または連続式のいずれによっても行なうことができ、たとえば耐圧容器または反応器にアルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物との混合物を導入し、好ましくは75℃以上110℃以下、より好ましくは85℃以上95℃以下の合成温度に加熱する。また、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物を水熱処理により加熱処理するか、または、大気圧下での加熱処理を行なう。
【0064】
これにより、従来のセラミックス材料として焼成する方法と異なり、さらに低温でのゼオライトの合成が可能となり、ボイラーなどの廃熱を利用できる温度範囲であり、省エネルギーに貢献できる方法となる。なお、静置合成工程における温度が75℃未満である場合には、合成反応速度が極めて遅くなり、効率が悪くなり、ゼオライトの生成が遅くなりガラス相が残存しやすいという傾向にある。また、110℃を超える場合には、ヒドロキシソーダライトなどのA型ゼオライト以外の相が生成してしまい、A型ゼオライトの純度が低くなる場合があるためである。
【0065】
〔5〕溶出攪拌合成工程(ステップS5)
図1に示す例では、続く溶出攪拌合成工程において、加熱処理を連続的攪拌条件で行なう(ステップS5)。当該溶出攪拌合成工程は、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法に必須の工程ではないが、
図1に示す例のように、静置合成工程とパルス攪拌合成工程との間に、当該溶出攪拌合成工程を行なうことが好ましい。合成温度にまで昇温が完了している状態で連続的攪拌を行なうことにより、アルミノシリケートゲルの結晶化とガラス成分の溶出を同時に進行させることが可能である。この際、結晶化が進んでいくにつれて、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部が徐々にゼオライトで覆われていくため、ガラス成分の溶出も抑えられ、緩やかにガラス成分の溶出を進行させることが可能である。
【0066】
溶出攪拌合成工程は15分間以上2時間以下行なうことが好ましい。連続的に攪拌する時間が15分間未満であると、シリコン成分の溶出が不十分となり、A型ゼオライトの生成量が十分とはならない虞がある。連続的攪拌時間が2時間を超えると、緩やかではあるがカルシウム成分の溶出が進行し、LOS型ゼオライトが生成しやすくなる虞がある。また、攪拌状態を長時間続けると、シリコン成分とアルミニウム成分は溶液中に拡散され、ガラス近傍でのシリコン成分およびアルミニウム成分の濃度が不十分となり、ゼオライトが生成されにくくなる虞がある。
【0067】
溶出攪拌合成工程における加熱処理は、前記静置合成工程と同様の方法により行なう。バッチ式または連続式のいずれによっても行なうことができ、たとえば耐圧容器または反応器にアルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物との混合物を導入し、好ましくは75℃以上110℃以下、より好ましくは85℃以上95℃以下の合成温度に加熱する。また、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物との混合物を水熱処理により加熱処理するか、または、大気圧下での加熱処理を行なう。
【0068】
〔6〕パルス攪拌合成工程(ステップS6)
図1に示す例では、次に、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法において必須の工程であるパルス攪拌合成工程(ステップS6)で、加熱処理を断続的攪拌(パルス攪拌)条件で行なう(ステップS6)。断続(間欠)的に攪拌を行なうことにより、アルミノシリケートゲルの結晶が進行した際に、ガラスが固化するのを防ぐことが可能である。また、攪拌と攪拌の間に周期的に静置させる断続条件を設けることで、ガラスから溶出したシリコン成分とアルミニウム成分をガラス近傍に留まらせ濃縮状態をつくることにより、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部にゼオライトの形成が進行されることになる。
【0069】
パルス攪拌合成工程の周期は、15分間以上60分間以下で行なうことが好ましい。パルス攪拌合成工程の周期が15分間未満になると、攪拌の頻度が多くなりすぎて、ガラスの移動の頻度が多くなり、また、ガラス同士の衝突回数が増えるためガラス表面に衝突応力が付加され、アルミノホウケイ酸ガラスとゼオライトとの密着性が悪くなる虞がある。また、パルス攪拌の周期が60分間を超え、攪拌していない時間が長くなると、攪拌していない時間中に結晶化したゼオライトの影響により、ガラス同士が密着し生成物が固まってしまい、取り扱いが困難となる。また、生成物を固まらせないことによって、合成後の粉砕工程を省くことが可能となる。
【0070】
パルス攪拌の1周期ごとの1回の攪拌時間は、10秒間以上5分間以下が好ましい。1回の攪拌時間が10秒間未満であると、反応容器内のガラス原料が充分に攪拌されず、移動してせず静置したままのガラス原料が存在してしまう。5分間を超えて攪拌時間とすると、ガラスの移動の頻度が多くなり、また、ガラス同士の衝突回数が増えるためガラス表面に衝突応力が付加され、アルミノホウケイ酸ガラスとゼオライトとの密着性が悪くなる虞がある。
【0071】
パルス攪拌合成工程における加熱処理は、前記静置合成工程(前記溶出攪拌合成工程も行なう場合には、静置合成工程および溶出攪拌合成工程)と同様の方法により行なう。バッチ式または連続式のいずれによっても行なうことができ、たとえば耐圧容器または反応器にアルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物との混合物を導入し、好ましくは75℃以上110℃以下、より好ましくは85℃以上95℃以下の合成温度に加熱する。また、アルミノホウケイ酸ガラスと水とアルミニウム源とアルカリ金属の水酸化物との混合物を水熱処理により加熱処理するか、または、大気圧下での加熱処理を行なう。
【0072】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法では、前記静置合成工程の開始から前記パルス攪拌合成工程の終了までの間、75℃以上110℃以下の範囲内の温度で、合計時間が12時間以上96時間以下加熱するようにすることが好ましい。ここで、合計時間は、静置合成工程とパルス攪拌合成工程との間に溶出攪拌合成工程を含む場合でも含まない場合でも、上述した範囲内であることが好ましく、24時間以上48時間以下であることがより好ましい。静置合成工程の開始から前記パルス攪拌合成工程の終了までの合計時間が12時間未満である場合は、合成時間が短いために、十分にゼオライトが生成せず、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部を均一にゼオライト化できない場合がある。合成時間が96時間を超える場合には、反応が進行しすぎて、安定相であるヒドロキシソーダライトが生成しやすくなり、A型ゼオライトの純度が低下してしまう虞がある。
【0073】
合成の際の圧力は、水熱処理を行なう場合は、その温度での飽和蒸気圧とし、1気圧以上10気圧以下となるように、反応容器内に導入する液体、固体の量を設定し、反応容器内の空間の体積を調整する。圧力は、加熱処理を水熱処理に限定するものではなく、大気圧としてもよい。
【0074】
上述したような本発明のA型ゼオライト材料の製造方法によれば、上述した原料から直接的にA型ゼオライト材料を得ることができる。すなわち、静置合成工程、溶出攪拌合成工程、パルス攪拌合成工程の条件を適当に選択することにより、高価な合成装置などを必要とせず、単純なパラメータの制御で、不純相の少ない高純度のA型ゼオライト材料を直接的に得ることができる。
【0075】
なお、本発明のA型ゼオライト材料の製造方法は、好ましくは110℃以下の温度域で加熱し、作製するものであり、この場合にはボイラーの廃熱などを利用することができる温度域であり、省エネルギーに貢献することもできる。
【0076】
本発明のA型ゼオライト材料の製造方法によって、アルミノホウケイ酸ガラスを基材とし、アルミノホウケイ酸ガラスの表層部に、不純相の少ないA型ゼオライトを均一に、生成させることができる。また、静置合成工程およびパルス攪拌合成工程(溶出攪拌合成工程も行なう場合には、静置合成工程、溶出攪拌合成工程およびパルス攪拌合成工程)における静置時間と攪拌時間を制御することで、LOS型ゼオライトの生成を低減し、かつ、アルミノホウケイ酸ガラスとゼオライトの密着性も向上させる。また、A型ゼオライトは、数あるゼオライトの中でもイオン交換能が最も高い。本発明の方法によって得られたA型ゼオライト材料は、このA型ゼオライトが高純度であるため、イオン交換性能を利用した高性能な水質浄化剤、土壌改良剤などに利用することができる。
【0077】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
<参考例>
市販の液晶パネル用ガラスについて、波長分散型蛍光X線分析によりガラスの組成を求めた結果、SiO
2が62重量%、Al
2O
3が18重量%、B
2O
3が8重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaOが10重量%であった。下記に示す実施例および比較例で使用しているアルミノホウケイ酸ガラスは、この市販の液晶パネル用ガラスを粉砕したものを用いた。
【0079】
<実施例1>
中心径300μmに粉砕したアルミノホウケイ酸ガラス250gと750mLの水とNaOH溶液としての濃度0.5Nとなるように15gのNaOH(キシダ化学製、特級)と70.6gのアルミン酸ナトリウム(NaAlO
2:関東化学工業製、鹿一級)を混合した(調合工程)。このとき、Si/Alモル比は1.851となっていた。混合物を、1.5Lの容積をもつ反応容器(耐圧硝子工業製、TAF−R1500)に投入し、これに加熱を行ない85℃で24時間の条件で合成を行なう。加熱は室温から約1.5時間で85℃に達した。合成温度到達後2.5時間静置した(静置合成工程)後、2時間の連続攪拌を行ない(溶出攪拌合成工程)、その後はパルス攪拌として15分間周期で1分間の攪拌を交互に実施した(パルス攪拌合成工程)。合成の完了後、吸引ろ過により合成物をろ過し、乾燥を経てゼオライト材料の試料を得た。攪拌には攪拌翼(耐圧硝子工業製、SW−BLT)を使用し、回転速度は400rpmとした。得られた試料について、X線回折装置MiniFlexII(リガク社製)を用いてX線回析を行ない、合成物質の同定を行なった結果を
図3に示す。なお、実施例1で得られた試料は、合成後、固化していないため吸引ろ過の際粉砕する必要はなかった。
【0080】
<比較例1>
溶出攪拌合成工程およびパルス攪拌合成工程を行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして試料を得た。得られた試料について実施例1と同様に合成物質の同定を行なった結果を
図4に示す。なお、比較例1で得られた試料は、合成後、固化していた。
【0081】
図3と
図4とを比較すると分かるように、静置合成工程の後、溶出攪拌合成工程およびパルス攪拌合成工程を行なった場合(実施例1、
図3)では、静置合成工程の後に溶出攪拌合成工程およびパルス攪拌合成工程を行なわなかった場合(比較例1、
図4)に比べ高いピークが見られる。静置だけの合成ではA型ゼオライトは生成されるが、固化する。
【0082】
<実施例2>
中心径300μmに粉砕したアルミノホウケイ酸ガラス250gと750mLの水とNaOH溶液としての濃度0.5Nとなるように15gのNaOH(キシダ化学製、特級)と70.6gのアルミン酸ナトリウム(NaAlO
2:関東化学工業製、鹿一級)を混合した(調合工程)。このとき、Si/Alモル比は1.851となっていた。これらを実施例1で使用した容器で同様の加熱を行ない85℃で24時間の条件で合成を行なった。合成温度到達後2.5時間静置した(静置合成工程)後、パルス攪拌として15分間周期で1分間の攪拌を交互に実施した(パルス攪拌合成工程)。合成の完了後、吸引ろ過により合成物をろ過し、乾燥を経てゼオライト材料の試料を得た。得られた試料について実施例1と同様にX線回析を行ない、合成物質の同定を行なった結果を
図5に示す。
図5より分かるように、実施例1と比べて低いピークが見られる。なお、実施例2で得られた試料は、合成後、固化していないため吸引ろ過の際、粉砕する必要はなかった。
【0083】
<比較例2>
中心径300μmに粉砕したアルミノホウケイ酸ガラス250gと750mLの水とNaOH溶液としての濃度0.5Nとなるように15gのNaOH(キシダ化学製、特級)と70.6gのアルミン酸ナトリウム(NaAlO
2:関東化学工業製、鹿一級)を混合した(調合工程)。このとき、Si/Alモル比は1.851となっていた。これらを実施例1で使用した容器で同様の加熱を行ない、85℃で24時間の条件で合成を行なった。合成温度到達後2.5時間静置した(静置合成工程)後、15分間の連続攪拌を行なった(溶出攪拌合成工程)。合成の完了後、パルス攪拌合成工程を行なわずに、吸引ろ過により合成物をろ過し、乾燥を経てゼオライト材料の試料を得た。なお、比較例2で得られた試料は、合成後、固化していた。
【0084】
<実施例3>
中心径300μmに粉砕したアルミノホウケイ酸ガラス250gと750mLの水とNaOH溶液としての濃度0.5Nとなるように15gのNaOH(キシダ化学製、特級)と70.6gのアルミン酸ナトリウム(NaAlO
2:関東化学工業製、鹿一級)を混合した(調合工程)。このとき、Si/Alモル比は1.851となっていた。これらを実施例1で使用した容器で同様の加熱を行ない85℃で24時間の条件で合成を行なった。合成温度到達後2.5時間静置した(静置合成工程)後、パルス攪拌として60分周期で1分間の攪拌を交互に実施した(パルス攪拌合成工程)。合成の完了後、吸引ろ過により合成物をろ過し、乾燥を経てゼオライト材料の試料を得た。得られた試料について実施例1と同様にX線回析を行ない、合成物質の同定を行なった結果を
図6に示す。
図6より分かるように、静置合成工程のみを行なった場合(比較例1、
図4)と比較して、A型に高いピークが見られた。なお、実施例3で得られた試料は、合成後、固化していないため吸引ろ過の際、粉砕する必要はなかった。
【0085】
<実施例4>
中心径300μmに粉砕したアルミノホウケイ酸ガラス250gと750mLの水とNaOH溶液としての濃度0.5Nとなるように15gのNaOH(キシダ化学製、特級)と70.6gのアルミン酸ナトリウム(NaAlO
2:関東化学工業製、鹿一級)を混合した(調合工程)。このとき、Si/Alモル比は1.851となっていた。これらを実施例1で使用した容器で同様の加熱を行ない85℃で24時間の条件で合成を行なった。合成温度到達後2.5時間静置した(静置合成工程)後、15分間の連続攪拌を行ない(溶出攪拌合成工程)、その後はパルス攪拌として15分周期で1分間の攪拌を交互に実施した(パルス攪拌合成工程)。合成の完了後、吸引ろ過により合成物をろ過し、乾燥を経てゼオライト材料の試料を得た。得られた試料について実施例1と同様にX線回析を行ない、合成物質の同定を行なった結果を
図7に示す。
図7より分かるように、静置合成工程のみを行なった場合(比較例1、
図4)と比較して、高いピークが見られた。なお、実施例4で得られた試料は、合成後、固化していないため吸引ろ過の際、粉砕する必要はなかった。
【0086】
実施例1〜4および比較例1、2の結果を表1に示す。
【0088】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。