【課題】鋼構造物を構成する鋼部材の表面に補強材を接着剤で接着する鋼構造物の補強方法において、温度変化により鋼材に発生する熱応力を低減し、十分な補強効果を得ることができる鋼構造物の補強方法、及び、鋼構造物補強用積層材を提供する。
【解決手段】鋼構造物200を構成する鋼材の表面に補強材100を接着剤110にて接着する鋼構造物の補強方法において、補強材100は、鋼構造物200を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料1と、鋼材より線膨張係数が大きな合金材料10とにて構成され、鋼材表面に、強化繊維含有材料1と合金材料10とを交互に並べて接着剤110にて接着し、鋼材の温度変化により鋼材に発生する熱応力を低減する。
前記強化繊維含有材料及び前記合金材料は、前記鋼材の長手方向に延在した板状又は棒状とされることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
前記鋼材の線膨張係数(αs)は、10(μ/℃)≦αs≦18(μ/℃)であり、前記鋼材に接着された前記強化繊維含有材料の線膨張係数(αf)は、−15(μ/℃)≦αf<αsであり、前記合金材料の線膨張係数(αa)は、αs<αa≦30(μ/℃)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
前記強化繊維含有材料は、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃えて作製されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
前記強化繊維含有材料は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維シートに樹脂が含浸され、前記樹脂が硬化された繊維強化樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
前記強化繊維含有材料の強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、又は、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用され、
前記強化繊維含有材料に含浸されるマトリクス樹脂及び前記接着剤は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
前記鋼材の線膨張係数(αs)は、10(μ/℃)≦αs≦18(μ/℃)であり、前記鋼材に接着された前記強化繊維含有材料の線膨張係数(αf)は、−15(μ/℃)≦αf<αsであり、前記合金材料の線膨張係数(αa)は、αs<αa≦30(μ/℃)であることを特徴とする請求項11又は12に記載の鋼構造物補強用積層材。
前記強化繊維含有材料は、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃えて作製されることを特徴とする請求項11〜13のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
前記強化繊維含有材料は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維シートに樹脂が含浸され、前記樹脂が硬化された繊維強化樹脂であることを特徴とする請求項請求項11〜13のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
前記合金材料は、アルミニウム合金、ステンレス合金、又は、マグネシウム合金であることを特徴とする請求項11〜16のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
前記強化繊維含有材料の強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、又は、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用され、
前記強化繊維含有材料に含浸されるマトリクス樹脂及び前記接着剤は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項11〜17のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る鋼構造物の補強方法及び鋼構造物補強用積層材を図面に則して更に詳しく説明する。
【0025】
先ず、
図13(a)、(b)を参照して上述した、特許文献2に記載されるような鋼構造物を構成する鋼部材200の表面に補強材100を構成するCFRP板のような強化繊維含有材料1と、例えばAL板のような合金板とされる合金材料10を重ねて積層し、接着剤で接着する鋼構造物の補強方法において、温度変化により鋼部材200に発生する熱応力が低減されることについて簡単に説明する。
【0026】
図14(a)、(b)に示すように、鋼部材200の片側に補強材100として複数(N)の補強用当て板100aが接着剤110で接着された場合に生じる熱応力は、次式(式(1)〜(6))で与えられる。
【0028】
また、鋼部材200の補強に際して、当て板100aとして、
図13に示すように、CFRP板1とAL板10を使用し、これら当て板100aが接着されて一体となった複合板(即ち、補強材100)を使用した場合について説明すると、該補強材100線膨張係数ανは、各CFRP板1と各AL板10の熱伸縮による内力のつり合いから次式(7)で与えられる。
【0030】
式(7)のανを鋼部材200の線膨張係数αsに置換し、CFRP板1に対するAL板10の伸び剛性比EaAa/(EfAf)に対して解いて次式(8)を得る。
【0032】
この式(8)に、鋼部材200、CFRP板1及びAL板10の線膨張係数を代入して、CFRP板とAL板の補強材10の線膨張係数を、鋼部材200のそれと等しくするCFRP板の伸び剛性に対するAL板の伸び剛性が設計できる。
【0033】
ここで、例えば、鋼部材(鋼板)200に対して当て板としてCFRP板1とAL板10とを使用し、合成断面からのCFRP板1とAL板10の図心の距離の差によって生じる上記式(3)のMνの値を0にするために、
図15に示すように、2枚のAL板10、10の間にCFRP板1を積層して接着剤110で接着した積層板(補強材)100を使用した場合について説明する。
【0034】
この場合、鋼板200、CFRP板1、接着剤110、AL板10として、下記表1に記載される仕様の材料を使用した場合、上記式(7)、(8)で計算されるAL板10とCFRP板1から成る補強材100の線膨張係数は、10.8μ/℃となった。
【0036】
上記構成の試験体(以下、「試験体ACA」という。)に対して暴露試験を行い、その時の1日の気温の変動と、熱応力の変化を
図16(a)、(b)に示す。
図16(b)から、CFRP板1とAL板10を接着した試験体ACAでは、AL板10(及びCFRP板1)に熱応力が生じているが、鋼板200の熱応力がほぼ0となっていることが分かる。それらの値も午前8時からの相対温度差と上記式(1)、(2)の計算値とほぼ一致していることが分かる。
【0037】
上述のように、CFRP板1とAL板10を鋼板200に重ねて積層して熱応力を低減させる工法では、積層板(補強材)100を鋼部材の片面に接着する場合、鋼板のような薄い部材では、積層の順序による影響を受けて、鋼部材の熱応力を受ける場合があるが、合成断面からCFRP板1とAL板10の図心の距離の差によって生じるMνが0となるようにCFRP板1とAL板10を積層することにより、鋼板200の熱応力を大幅に低減することできる。
【0038】
そこで、本発明者らは、上記諸知見に鑑みて、更に実験研究を行った結果、
図1(a)〜(c)に示すように、CFRP板のような強化繊維含有材料1と、合金材料であるAL板のような合金板10を、鋼部材200の表面に沿って横方向に交互に並べて接着することによっても、上記説明した鋼構造物の補強方法と同様の成果を達成し得ることを見出した。
【0039】
つまり、
図1(a)、(b)を参照すると、本発明に係る鋼構造物の補強方法によれば、所定の厚さ(T)、例えば、1〜50mm厚の鋼、ステンレス鋼などの鋼材にて構成される鋼構造物200に対して、鋼材の被補強面201に鋼構造物補強材100が接着剤110により接着されて一体化される。
【0040】
本発明によれば、鋼構造物補強材100は、鋼構造物を構成する鋼材200より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料1と、鋼材200より線膨張係数が大きな合金材料10とにて構成される。また、本発明によれば、補強材100を構成する強化繊維含有材料1と合金材料10は、鋼材200の被補強面201に、交互に並んで接着剤110にて接着される。即ち、
図1(a)、(b)に示す例では、補強材100は、鋼板とされる鋼材200の下面201に、左側から右側へと、合金材料10、強化繊維含有材料1、合金材料10、強化繊維含有材料1、合金材料10、強化繊維含有材料1、合金材料10といったように各部材の端縁が互いに隣接して並設される。必要に応じて、上記鋼材表面に接着された補強材100の上に、更に積層して、上記と同様に、強化繊維含有材料1と合金材料10とを交互に並設して構成される補強材100を更に接着することができる。
【0041】
別法として、補強材100は、
図1(a)に示すように、強化繊維含有材料1と合金材料10とを互いに隣接して並設し、各隣接した強化繊維含有材料1と合金材料10との端縁部を接着剤にて接合してシート状とするか、或いは、
図7(a)、(b)に示すように、メッシュ状の或いはテープ状の固定材3などにて並設された各強化繊維含有材料1と合金材料10とを一体に保持し、シート状とした積層材とすることもできる。
【0042】
更に説明すれば、
図7(a)にて、線材固定材としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シートをシート状に配列した合金材料10と強化繊維含有材料1の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分を合金材料10と強化繊維含有材料1に溶着する。
【0043】
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された炭素繊維に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた炭素繊維に接着することもできる。
【0044】
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
【0045】
更に、各強化繊維含有材料1と合金材料10とを一体に保持し、シート状に固定する他の方法としては、
図7(b)に示すように、線材固定材3として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材3は、シート形態を成す合金材料10と強化繊維含有材料1の長手方向に対して垂直方向に合金材料10と強化繊維含有材料1の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。
【0046】
つまり、可撓性帯材3として、幅(w1)2〜30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープ3を、通常、10〜100mm間隔(P)で合金材料10と強化繊維含有材料1の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
【0047】
更に、可撓性帯材3としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2の長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
【0048】
上記シート状とされる積層材(補強材)100を所定の鋼材200の被補強面に接着剤110にて接着することができる。このシート状とされる積層材100は、必要に応じて、鋼材表面に複数層積層して接着することができる。
【0049】
上記説明では、補強材100の両端部は合金材料10であるとして説明したが、これに限定されるものではなく、補強材100の両端部を強化繊維含有材料1とすることもできる。
【0050】
次に、本発明にて使用する各材料について更に説明する。
【0051】
(鋼構造物補強材)
鋼構造物補強材100は、
図1(a)に示すように、鋼材200より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料1と、鋼材200より線膨張係数が大きな合金材料10とを交互に並べて構成される。通常、鋼材200は、その線膨張係数(αs)が、10(μ/℃)≦αs≦18(μ/℃)とされる。従って、強化繊維含有材料1は、含有した強化繊維自体の線膨張係数(αft)は−15(μ/℃)≦αft<αsとされ、また、マトリクス樹脂自体の線膨張係数(αfm)は、通常、30(μ/℃)≦αfm≦150(μ/℃)とされるが、マトリクス樹脂含浸硬化された状態での強化繊維含有材料自体の線膨張係数(αf)は、−15(μ/℃)≦αf<αsとされる。また、合金材料10は、線膨張係数(αa)は、αs<αa≦30(μ/℃)とされる。
【0052】
補強材100を構成する強化繊維含有材料1及び合金材料10は、任意の形状とし得る。上記
図1(a)〜(c)には、断面が矩形(長方形)状の平らな、所謂、細長の板状(短冊状)部材として説明したが、
図1(d)に示すように、断面が矩形(略正方形)、円形或いは楕円形とされる細長の棒状部材とするか、或いは、その他の形状とし得る。
【0053】
強化繊維含有材料1に関して言えば、特に、炭素繊維等を使用した強化繊維含有材料1に関して言えば、線膨張係数は小さく、鋼材200の軸直角方向の影響など考慮する必要はないが、一方、合金材料10の鋼材200の軸直角方向の線膨張係数は、軸方向と同じであるので、鋼部材200と合金材料10間の相対伸びの差によって軸直角方向にも熱応力が生じる。従って、特に、合金材料10について言えば、鋼材軸直角方向の熱応力の影響を小さくするために、
図1(a)〜(c)に示すように、鋼部材200の長手方向に延在した横断面が矩形(長方形)状の平らな短冊状(板状)とするか、又は、
図1(d)に示すように、矩形(略正方形)状、円形状、或いは楕円形状の棒状とするのが好ましい。例えば、
図1(c)にて、断面形状が幅(W10)1〜50mm程度、厚さ(T10)0.1〜2mmとして、軸方向に長くした、鋼材200の被補強面201と同等の長さするのが好ましい。従って、合金材料10と合金材料10との間に挟持される強化繊維含有材料1も、断面形状が幅(W1)1〜50mm程度、厚さ(T1)0.1〜2mmとして、繊維軸線方向の長さを合金材料10と同じとするのが好ましい。
【0054】
なお、上述したように、強化繊維含有材料1及び合金材料10の形状、寸法は、上記説明の構造に限定されるものではなく、補強される鋼材200の形状、寸法に応じて種々に変更することができる。
【0055】
(1)強化繊維含有材料
本発明においては種々の形態の強化繊維含有材料1を使用することができる。強化繊維含有材料1の実施例を以下に具体例1〜3として説明するが、本発明で使用する強化繊維含有材料1の形態は、これら具体例に示すものに限定されるものではない。また、以下に説明する強化繊維含有材料1の形状は、板状(短冊状)にて補強材を構成するものとされるが、これに限定されないことは上述の通りである。
【0056】
具体例1
図2に、本発明にて使用することのできる強化繊維含有材料1の一実施例を示す。強化繊維含有材料1は、連続した強化繊維fを一方向に引き揃えてシート状に構成される樹脂未含浸の繊維シート1Aとされる。樹脂未含浸の繊維シート1Aは、補強工程において樹脂含浸されるが、繊維シート1Aの厚さは、0.1〜0.3mmとされる。繊維シート1Aは、所望に応じて複数枚積層して使用される。
【0057】
更に説明すると、繊維シート1Aは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維fから成る強化繊維シートをメッシュ状の支持体シートなどとされる線材固定材3にて保持した構成とすることができる。例えば、強化繊維fとして炭素繊維を使用した場合には、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000〜24000本収束した樹脂未含浸の単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用される。炭素繊維シート1Aの繊維目付は、通常、30〜1000g/m
2とされる。
【0058】
線材固定材3としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート3をシート状に配列した炭素繊維の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分を炭素繊維シートに溶着する。
【0059】
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された炭素繊維に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた炭素繊維に接着することもできる。
【0060】
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
【0061】
具体例2
また、強化繊維含有材料1は、
図3に示すように、複数の強化繊維fを一方向に引き揃えた強化繊維シート、例えば、
図2に示すような繊維シート1Aを1枚或いは複数枚積層して、樹脂Reを含浸し、前記樹脂が硬化されたプレート状の繊維強化樹脂板(以下、「FRP板」という。)1Bとすることもできる。通常、繊維強化樹脂板1Bは、厚さが、0.1〜2mmとされるが、これに限定されるものではない。
【0062】
上記具体例1、2で説明した繊維シート1A、繊維強化樹脂板1Bにおいて、強化繊維fは、炭素繊維に限定されるものではなく、その他、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、更には、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0063】
また、具体例2における繊維強化樹脂板1Bの場合の樹脂Reとしては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0064】
具体例3
更には、
図4及び
図5に示すように、強化繊維含有材料1としては、マトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細径の連続した繊維強化プラスチック線材(所謂、ストランド)2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維シート(所謂、ストランドシート)1Cを使用することもできる。
【0065】
繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5〜3mmの略円形断面形状(
図5(a))であるか、又は、幅(w)が1〜10mm、厚み(t)が0.1〜2mmとされる略矩形断面形状(
図5(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
【0066】
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維シート1Cにおいて、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05〜3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。また、このようにして形成された繊維シート1Cの長さ(Lf)及び幅(Wf)は、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(Wf)は、100〜1000mmとされる。又、長さ(Lf)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時において、幅、長さを適宜切断して使用される。
【0067】
また、繊維シート1Cの長さ(Lf)を1〜5m程度として、幅Wfをこれより長く1〜10m程度として製造することも可能である。繊維シート1Cの厚さtfは、0.1〜2mmとされるが、これに限定されるものではない。
【0068】
繊維シート1Cの場合においても、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0069】
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、
図4に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維シート1の取り扱い性を考慮して、通常10〜100mm間隔の範囲で選定される。
【0070】
このとき、横糸3は、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用される。
【0071】
各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、
図6(a)に示すように、線材固定材3としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。
【0072】
つまり、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材2、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製した、上記具体例1で説明したと同様の構成とされるメッシュ状の支持体シート3により支持した構成とすることもできる。
【0073】
更に、各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、
図6(b)に示すように、線材固定材3として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材3は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材2の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。
【0074】
つまり、可撓性帯材3として、幅(w1)2〜30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープ3を、通常、10〜100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
【0075】
更に、可撓性帯材3としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2の長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
【0076】
(2)合金材料
図1に示す補強材100を構成する合金材料10は、アルミニウム合金、ステンレス合金、マグネシウム合金、などとされる。上述したように、合金材料10の形状は、補強される鋼構造物200の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、矩形(長方形)横断面の短冊(板)状、又は、矩形(略正方形)、円形、楕円形横断面を有した棒状とされるのが好ましい。
【0077】
(3)接着剤
補強材100を鋼材表面に接着する接着剤110、及び、必要に応じて、互いに隣接する強化繊維含有材料1と合金材料10とを接着する接着剤110は、上記強化繊維含有材料1に含浸されるマトリクス樹脂と同じとすることができ、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。上述のように、接着剤110の層厚(T110)は、100〜1000μmの範囲とされる。
【0078】
(補強方法)
本発明によれば、上記構成とされる強化繊維含有材料1及び合金材料10を交互に順次、鋼構造物200の表面に並べて接着するか、或いは、強化繊維含有材料1及び合金材料10を予めシート状に形成して一体化した補強用積層材を補強材100として鋼構造物200の表面に接着して、鋼構造物200の補強を行うことができる。
【0079】
図1(a)、(b)を参照すると理解されるように、本発明の鋼構造物の補強方法によれば、例えば、強化繊維含有材料1として、上記強化繊維含有材料具体例1〜3で説明した強化繊維fを一方向に引き揃えて作製された繊維シート1、及び、合金材料としての合金板10を使用することができ、鋼構造物200の表面上にこれら補強材を交互に並べて接着剤110にて接着して一体化する。
【0080】
強化繊維含有材料としての繊維シート1(1A〜1C)は、強化繊維fの軸方向を鋼材200の軸方向に一致して配置されるが、一般に、鋼構造物200の補強に際して、曲げモーメント及び軸力を主として受ける部材(構造物)に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に強化繊維の配向方向を概ね一致させて接着することで、繊維シート1が効果的に応力を負担し、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
【0081】
また、直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、例えば強化繊維fが一方向に配列された繊維シート1を使用する場合、強化繊維fの配向方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維シート1Aを直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
【0082】
次に、
図8を参照して、本発明に係る鋼構造物の補強方法についてより具体的に説明する。
【0083】
(第1工程)
図8(a)、(b)に示すように、鋼構造物200の被補強面(即ち、被接着面)201の脆弱部201aを、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段50により除去し、鋼構造物200の被接着面201を適度な粗度を持つ面202となるように下地処理をする。
【0084】
(第2工程)
下地処理した面202にエポキシ樹脂プライマー203を塗布する(
図8(c))。プライマー203としては、エポキシ樹脂系に限ることなくMMA系樹脂など被補強鋼構造物200の材質に合わせて適宜選定される。
【0085】
なお、プライマー203の塗布工程は、省略することも可能である。
【0086】
(第3工程)
次いで、
図8(d)、(e)に示すように、補強対象鋼構造物200の表面(被補強面)202に接着剤(樹脂)110を塗布し、この面に、本実施例では、左側より右側方向へと、合金板10、CFRP板1、合金板10、CFRP板1、・・・・といったように、合金板10とCFRP板1を交互に鋼材表面上に接着する。接着剤110の量は、接着剤層の厚さが100〜1000μmとなるように塗布される。本例では、強化繊維含有材料としてCFRP板1を使用しているが、樹脂未含浸のストランドシート1Cを使用した場合には、接着剤110は、その一部が隣接する合金材料10とストランドシート1Cの接合領域に含浸されると共に、ストランドシート1Cの空隙(g)にも含浸される。
【0087】
使用される接着剤110としては、上述のストランドシート1Cの線材(ストランド)2に含浸されたマトリクス樹脂Rと同様のものが使用され、特に、常温硬化型エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ビニルエステル樹脂、光硬化型樹脂等が挙げられ、具体的には、常温硬化型エポキシ樹脂及びMMA樹脂が好適とされる。本実施例では、エポキシ樹脂を使用した。
【0088】
勿論、強化繊維含有材料1として、上記CFRP板1、ストランドシート1Cの代わりに具体例1に示した繊維シート1Aを使用することができ、この場合には、繊維シート1Aが樹脂未含浸の繊維シート1Aであるために、鋼材表面に塗布した接着剤(樹脂)は、その一部がマトリクス樹脂として繊維シート1Aに含浸される。勿論、現場で樹脂含浸した繊維シート1Aを鋼構造物表面202上に押え付け接着してもよい。この場合の繊維シート1Aへの樹脂含浸量は、上述のように、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0089】
上記補強作業により、
図8(f)に示すように、鋼材表面202に強化繊維含有材料1と合金材料10を交互に配置して構成される補強材100が一体的に接着され、鋼構造物200が補強される。
【0090】
更に、必要に応じて、上記補強材100上に更に、上述した強化繊維含有材料1及び合金材料10を交互に積層することにより、強化繊維含有材料1と合金材料10をそれぞれ備えた補強材100の複数層による鋼材補強が可能である。
【0091】
上記補強方法の説明では、強化繊維含有材料1と合金材料10とを各々交互に、鋼材表面上へ接着剤を介して接着して補強材100による鋼材補強を行なうものとしたが、予め、強化繊維含有材料1と合金材料10を交互に並べてシート状に一体に接着した積層物から成る補強材(補強用積層材)100を、接着剤110を塗布した鋼材表面202上に押し付けて接着することもできる。これら積層構成の補強材(積層材)100の上に、更に、積層材100を所望層数(N)重ねて積層することができる。積層数(N)は、必要とされる鋼板補強程度によって適宜決定される。
【0092】
本発明に係る構造物の補強方法の作用効果を実証するために以下の試験を行った。以下に、試験例について説明する。
【0093】
なお、本発明の補強方法において、強化繊維含有材料1の強化繊維としては、典型的には炭素繊維が使用されるので、本試験例において強化繊維含有材料(繊維シート)1の強化繊維としては炭素繊維を使用した。また、補強材100における合金材料10としては、典型的には、矩形断面形状のアルミニウム合金板(AL板)が使用されるので、本試験例ではAL板を使用して試験を行なった。繊維シート1及びAL板10は短冊状とした。
【0094】
(試験例)
(1)試験条件
試験体
本試験例では、本発明に従った構成の試験体としては、
図9(a)に示す、強化繊維含有材料1としてのストランドシート1Cに樹脂を含浸して硬化したCFRP板と、合金材料10としてのAL板とを並べて鋼材200の一表面(被補強面)に接着した構成(以下、「試験体CSA」という。)とした。
【0095】
比較例として、
図9(b)に示す、AL板10とCFRP板1とAL板10を積層して鋼材200の一表面(被補強面)に接着した構成の試験体(以下、「試験体ACA」という。)と、更に、
図9(c)に示す、CFRP板1のみを鋼材200の一表面(被補強面)に接着した構成の試験体(以下、「試験体CC」という。)と、
図9(d)に示す、AL板10のみを鋼材200の一表面(被補強面)に接着した構成の試験体(以下、「試験体AA」という。)とを作製した。
【0096】
・試験体CSA
図9(a)に示す試験体CSAにおいては、補強体(母材)となる鋼材200としては、幅25mm、厚さ4.5mm、長さ160mmの鋼板を使用した。CFRP板1は、含浸樹脂としてエポキシ樹脂を使用した炭素繊維プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃えたストランドシート1Cに、更にエポキシ樹脂を空隙(g)に含浸して作製した。炭素繊維は、繊維のヤング係数702N/mm
2、破断強度2.96kN/mm
2の高弾性タイプとした。ストランドシート1Cは、設計厚さ0.429mm(CFRP板における厚さ1mm)、幅4.2mm、長さ100mmとされ、ストランドシート1Cに樹脂(エポキシ樹脂)を含浸したCFRP板1の線膨張係数は、1.2μ/℃であった。
AL板10は、厚さ2mm、幅3.2mm、長さ100mmの横断面が矩形とされる短冊状とした。
【0097】
・試験体ACA
図9(b)に示す試験体ACAにおいては、試験体ACAは、
図15に示す暴露試験を行った試験体ACAと同様の構成とされるが、補強体(母材)となる鋼材200としては、幅25mm、厚さ4.5mm、長さ160mmの鋼板を使用した。CFRP板1は、含浸樹脂としてエポキシ樹脂を使用した炭素繊維プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃えたストランドシート1Cに、更にエポキシ樹脂を空隙(g)に含浸して作製した。炭素繊維は、繊維のヤング係数702N/mm
2、破断強度2.96kN/mm
2の高弾性タイプとした。ストランドシート1Cは、設計厚さ0.429mm(CFRP板における厚さ1mm)、幅25mm、長さ100mmとされ、このストランドシート1Cに樹脂(エポキシ樹脂)を含浸したCFRP板1の線膨張係数は、1.2μ/℃であった。1枚のCFRP板1を2枚のAL板10で挟持する態様で積層して使用した。
AL板10は、厚さ1mm、幅25mm、長さ100mmの横断面が矩形の長方形平板とした。
【0098】
・試験体CC
図9(c)に示す試験体ACAにおいては、補強体(母材)となる鋼材200としては、幅25mm、厚さ4.5mm、長さ160mmの鋼板を使用した。CFRP板1としては、含浸樹脂としてエポキシ樹脂を使用した炭素繊維プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃えたストランドシート1Cに、更にエポキシ樹脂を空隙(g)に含浸して作製した。炭素繊維は、繊維のヤング係数702N/mm
2、破断強度2.96kN/mm
2の高弾性タイプとした。ストランドシート1Cは、設計厚さ0.429mm(CFRP板における厚さ1mm)、幅25mm、長さ100mmとされ、このストランドシート1Cに樹脂(接着剤としてのエポキシ樹脂)を含浸したCFRP板1の線膨張係数は、1.2μ/℃であった。2枚のCFRP板1を積層して使用した。
【0099】
・試験体AA
図9(d)に示す試験体AAにおいては、補強体(母材)となる鋼材200としては、幅25mm、厚さ4.5mm、長さ160mmの鋼板を使用した。AL板は、厚さ2mm、幅25mm、長さ100mmの横断面が矩形の長方形平板を2枚積層して使用した。
【0100】
なお、上記試験体CSA、ACA、CC、AAに使用したCFRP板1、AL板10は、上記表1に示す材料と同じであり、また、厚さ4.5mmの鋼板の材料定数は、上記表1に示す通りである。
【0101】
上記鋼板200、CFRP板1及びAL板10の各接着面を、#100のサンドペーパーで研磨し、油脂を拭き取ってからそれぞれ接着剤110にて接着した。接着剤110は、上記表1に示す材料(エポキシ樹脂)であり、接着剤層の厚さは、約0.13mm(130μm)であった。
【0102】
試験方法
本試験例では、上記試験体CSA、ACA、CC,AAを用い、温度上昇試験及び温度下降試験によって、熱応力の低減効果を明らかにした。
【0103】
温度上昇試験には、電気式高温炉を用い、温度下降試験には、冷凍庫を用いた。20℃にコントロールされた試験室で、温度上昇時は電気高温炉内を50℃に設定し、温度下降時は冷凍庫を−10℃に設定した。即ち、20℃±30℃となるように温度変化試験を実施した。
【0104】
試験体ACAにおけるひずみ計測位置を
図10(a)に示す。ひずみゲージSGは、鋼板200及び補強材100の外側表面において、且つ、試験体の軸方向にて、試験体の幅の中央部、及び、中央部から35mm、45mmの位置に設置された。試験体CC、AAにおいても同様とした。
【0105】
試験体CSAでは、ひずみゲージSGは、上記試験体と同様に、試験体の軸方向にて、試験体の幅の中央部に設置したが、更に、
図10(b)に示すように、CFRP板1が接着されている試験体の幅の中央のひずみゲージSGの両側のAL板10の幅中央にもひずみゲージSGを接着した。
【0106】
温度変化試験では、各試験体に加え、鋼板、CFRP板、AL板、CFRP板単体のひずみも計測した。各部材に生じる熱応力は、各部材で計測したひずみから、その部材単体で計測されたひずみを差し引き、各部材のヤング係数を乗じて算出した。ストランドシート1Cを使用して作製した上記試験体のCFRP板1に対しては、繊維シート1Aに樹脂を含浸させて形成したCFRPのヤング率を複合則を用いてヤング係数を算出した。
【0107】
つまり、計測された鋼板に生じるひずみε
smと無拘束の鋼板に生じるひずみε
sn及び鋼ヤング率E
sを用いて、次式から鋼板に生じる熱応力σ
sを算出した。
【0109】
同様にして、各試験体のCFRP板或いはAL板に生じるひずみ及び無拘束のCFRP板或いはAL板に生じるひずみを用いて、最外のCFRP板或いはAL板の熱応力σ
f、σ
aを算出した。
【0110】
温度上昇時及び下降時の各試験体に生じる熱応力を
図11(a)〜(d)、及び、
図12(a)〜(d)にそれぞれ示す。図の横軸は、CFRP板とAL板の接着長さの中央からの距離xを示している。
【0111】
図11(a)〜(d)、
図12(a)〜(d)から分かるように、温度上昇時と降下時に生じる熱応力は、符号が異なるのみで絶対値はほぼ等しい。
【0112】
試験結果
温度変化試験では、炉内或いは冷凍庫内の温度を熱電対で計測し、温度が50℃或いは−10℃になった後、ひずみの値が一定になるまでその温度を維持した。熱応力の算出には、一定に収束したひずみの値を用いた。また、上記式(1)、(2)の熱応力の計算には、熱電対で計測された温度を用いた。なお、本発明に従って構成される試験体CSAの場合には、上記式(1)〜(7)にて、符号iは、補強材100の一端側から他端側へと並設された補強材(当て板)の1枚目からN枚目までの整数である。
【0113】
(1)温度上昇試験
温度上昇試験では、計測した温度範囲は、△T=30.3℃であった。各試験体で計測された熱応力を
図11(a)〜(d)に示す。この図には、計測した温度範囲を式(1)、(2)に代入して算出した熱応力をも示している。
【0114】
試験体CC、AAでは、鋼板の熱応力の値が正負異なっているが、絶対値で20N/mm
2程度発生していた。
【0115】
試験体ACAでは、鋼板に生じる熱応力がほぼゼロになっていることが分かる。また、試験体ACAでは、試験体の中央の鋼板、CFRP板或いはAL板に生じる熱応力は、式(1)、(2)の値と一致していた。
【0116】
試験体CSAでは、試験体製作後の寸法を用いて式(1)で計算すると、CFRP板1とAL板10の伸び剛性が一致していなかったため、若干熱応力は生じる状態であった。実測値も、計算値と符合は異なるものの鋼板に若干の熱応力が生じていた。但し、CFRP板1とAL板10が接着されている位置において、鋼板に生じる熱応力に違いはなかった。試験体中央のCFRP板1とAL板10の熱応力は、式(2)の計算値と近い値であった。
【0117】
以上より、本発明に従って構成した試験体CSAは、試験体CC、AAに比較すると、鋼板に生じる熱応力は著しく低減されており、試験体ACAと比較しても、鋼板に生じる熱応力が試験体ACAと同等程度にまで低減できることが分かった。
【0118】
(2)温度下降試験
温度下降試験では、計測した温度は△T=−29.8℃であった。各試験体で計測された熱応力は
図12(a)〜(d)に示す。
図12(a)〜(d)から明らかなように、温度下降試験の結果は、
図11の温度上昇試験の結果の正負が異なるが、その絶対値はほぼ等しいことが分かる。一般に接着剤のヤング係数は、ガラス転移温度以下であっても温度によって若干変化するが、本試験で使用した接着剤では、−10〜50℃の範囲位では、熱応力に殆ど影響しないと言える。
【0119】
本試験においても、本発明に従って構成した試験体CSAは、試験体CC、AAに比較すると、鋼板に生じる熱応力は著しく低減されており、試験体ACAと比較しても、鋼板に生じる熱応力が試験体ACAと同等程度にまで低減できると言える。上記試験結果により、鋼板の熱応力を低減させる方法として、CFRP板1とAL板10を交互に並べて接着する本発明に従った工法では、20℃±30℃の温度変化試験を行った結果、鋼板に生じる熱応力を低減できることが明らかとなった。
【0120】
以上の試験例にても明らかとなったように、本発明の鋼構造物の補強方法、及び、鋼構造物補強用積層材によれば、温度変化により鋼材に発生する熱応力を低減し、十分な補強効果を得ることができる。