【実施例】
【0031】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
なお、以降の実施例において行われた動物実験及び使用された動物の飼育等は、日本国における「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号)、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(平成18年環境省告示第88号)、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」(平成18年厚生労働省通知)、及び「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(平成18年日本学術会議策定)等を遵守して行われた。
【0033】
[実施例1]
MIA誘発OAモデルサルを被検動物とし、非ステロイド性抗炎症薬であるジクロフェナク(Diclofenac)の投与の有無による二足歩行時の体動痛の強度を評価した。
【0034】
<MIA誘発OAモデルサル>
MIA誘発OAモデルサルは、25mg ケタミン(第一三共株式会社製)麻酔下、7〜10年齢のカニクイザルの左膝関節腔にMIA(シグマ・アルドリッチ社製;60mg/mL溶液を1.5mL)を注入することにより作製した。
【0035】
<ジクロフェナク投与>
MIA誘発OAモデルサル5頭に対して、ジクロフェナクナトリウム塩(シグマ・アルドリッチ社製)を、サルの体重当たりの投与量が1mg/kgとなるように、1日1回経口投与した(ジクロフェナク群:G2群)。投与は、MIA投与の翌日から35日間行った。
対照として、MIA誘発OAモデルサル5頭に対して、0.5質量/容量% メチルセルロース水溶液(和光純薬工業株式会社製)を、ジクロフェナク投与群と同量となるように、1日1回経口投与した(ビークル群:G1群)。投与は、MIA投与の翌日から35日間行った。
【0036】
<歩行障害テスト>
ジクロフェナク群とビークル群の両方のMIA誘発OAモデルサルに対して、MIA注入から0、7、14、21、28、及び35日目に、歩行障害テストを行った。なお、測定はブラインド下で行い、歩行障害テスト実施者は、どのサルが何を投与されているか分からないようにした。また「0日目」には、MIA注入前に歩行障害テストを行った。
歩行障害テストは、まず、サルを
図1に示す歩行補助具に保定し、歩行をビデオカメラ(パナソニック株式会社製)で約1〜3分間程度撮影した。撮影された画像を解析し、表1に記載の歩行スコア表に従い各項目についてサルの歩行状態を評価し、全項目のスコアの総計値を各サルの歩行障害スコアとした。
【0037】
MIA注入前(0日目)及びMIA注入から1〜35日目における各群の歩行障害スコアの計測結果(平均値±標準誤差)を
図2に示す。この結果、両群とも、MIA注入前(0日目)には、歩行障害スコアは0であり、歩行状態は正常であったが、MIA注入後7日目以降には歩行障害スコアが高くなり、歩行状態に異常が観察された。MIA注入後14日目以降では、ジクロフェナク群では、ビークル群よりも歩行障害スコアが有意に小さく(P<0.05、(t検定))、歩行状態の異常度が小さかった。これは、ジクロフェナクにより、膝関節の炎症に起因する痛みが緩和されていたためである。これらの結果から、
図1に示すような歩行補助具に設置した状態での歩行状態が、非ヒト霊長類が感じている体動痛の強度を反映しており、当該歩行状態から体動痛の強度を評価できることが明らかである。
【0038】
<モルヒネ投与による痛みの強度変化>
MIA誘発OAモデルサルに対して、モルヒネの投与による痛みの強度の変化を調べた。モルヒネは、サルの体重当たりの投与量が6mg/kgとなるように、筋肉注射した。
具体的には、MIA注入から36日目のビークル群(5頭)に対して、モルヒネの投与前及び投与後60分経過時点において、MIAを注入した左後肢に対してWeight Bearingテスト及びKnee pressureテストを行い、さらに前述の通り歩行障害テストを行った。
【0039】
Weight Bearingテストは、具体的には以下のようにして行った。まず、サルを歩行補助具に保定し、後肢を別々の体重計(株式会社タニタ製)の上に置いた。サルが安静状態で体位が安定していることを確認後、測定を開始した。測定は、各測定時点につき3回実施した。測定中に動物が動いた場合はその値を除外して再度測定し、3回の平均を当該測定時点の測定値とした。処置側後肢(左後肢)への荷重比率(%)は、以下の計算式(1)により算出した。
【0040】
【数1】
【0041】
Knee pressureテストは、以下のようにして行った。まず、サルを歩行補助具に保定し、圧痛計(松宮医科精器製作所製)を用いて、膝の関節裂隙及び大腿内側顆を3秒間程ゆっくりと押していった。サルの表情から痛みを感じていることが認められた時又は足を引っ込める等の逃避行動が認められた時の圧力値(kg)を、各測定時点の測定値とした(カットオフ値:3kg)。測定は、各測定時点につき3回実施した。処置側後肢(左後肢)の疼痛閾値(%)は、以下の計算式(2)により算出した。
【0042】
【数2】
【0043】
Weight Bearingテストの結果を
図3(A)に、Knee pressureテストの結果を
図3(B)に、歩行障害テストの結果を
図3(C)に、それぞれ示す(いずれも、平均値±標準誤差)。この結果、モルヒネ投与前と比較して、モルヒネ投与から60分経過後には、有意に(P<0.01(対応t検定))、左後肢にかかる体重負荷が増大し、左膝関節が耐えられる圧力の閾値が増大し、歩行障害スコアが低下した。これは、モルヒネにより膝関節の痛みが緩和されたためである。これらの結果からも、
図1に示すような歩行補助具に設置した状態での歩行状態が、非ヒト霊長類が感じている体動痛の強度を反映しており、当該歩行状態から体動痛の強度を評価できることが明らかである。
【0044】
[実施例2]
MMx誘発OAモデルサルを被検動物とし、二足歩行時の体動痛の強度を評価した。
【0045】
<MMx誘発OAモデルサル>
MMx誘発OAモデルサルは、25mg ケタミン(第一三共株式会社製)及び25mg ソムノペンチル(共立製薬株式会社製)麻酔下、6頭の7〜10年齢のカニクイザルの右膝関節に対し内側半月板切除手術を行うことにより作製した(MMx群)。
対照として、3頭の7〜10年齢のカニクイザルの右膝関節に対し偽手術(MMx群に実施した手術と同じ部位の皮膚を切開)を行うことにより作製した(シャム群)。
【0046】
<歩行障害テスト>
MMx群とシャム群の両方に対して、手術前(0日目)及び手術後7、14、17、21、24、28、35、42、49、及び56日目に、実施例1と同様にして歩行障害テストを行った。なお、「0日目」は、手術前に歩行障害テストを行った。
【0047】
<トレーニング>
MMx群とシャム群の両方に対して、手術から10〜45日目に、週に5日間、2mの間隔で設置された2個のケージの一方のケージから他方のケージにジャンプさせるトレーニングを行った。ジャンプとジャンプの間には、1〜2分間の休憩をはさみ、1日当たり50回ジャンプさせた。なお、トレーニング実施時及びトレーニング終了後に、バナナやリンゴ等の副食を与え、サルにストレスがかからないようにした。
【0048】
手術から0〜56日目における各群の歩行障害スコアの計測結果(平均値±標準誤差)を
図4に示す。この結果、両群とも、手術前(0日目)には、歩行障害スコアは0であり、歩行状態は正常であった。また、シャム群では、手術後7〜56日目も歩行障害スコアはほぼ0であり、歩行状態は正常であった。これに対して、MMx群では、手術後14日目までは歩行障害スコアは0であったが、手術後17日目以降には歩行障害スコアが高くなり、歩行状態に異常が観察された。特に、トレーニングを実施していた手術後10〜45日目には、歩行障害スコアは経時的に高くなっており、トレーニング終了後の手術後49〜56日目には、歩行障害スコアがやや低下していた。歩行障害スコアの推移から、トレーニングにより左膝に負担がかかり、MMx誘発OAモデルサルが痛みを感じていたこと、また、サルが感じる痛みは、トレーニングの継続により酷くなっていったが、トレーニングの終了によりやや痛みが改善されたことが明らかとなった。
【0049】
<モルヒネ投与による痛みの強度変化>
MMx誘発OAモデルサルに対して、モルヒネの投与による痛みの強度の変化を調べた。モルヒネは、サルの体重当たりの投与量が6mg/kgとなるように、筋肉注射した。
具体的には、手術後42日目のMMx群(6頭)に対して、モルヒネの投与前及び投与後60分経過時点において、Weight Bearingテスト及びKnee pressureテストを行い、さらに前述の通り歩行障害テストを行った。各テストは、実施例1と同様にして行った。
【0050】
Weight Bearingテストの結果を
図5(A)に、Knee pressureテストの結果を
図5(B)に、歩行障害テストの結果を
図5(C)に、それぞれ示す(いずれも、平均値±標準誤差)。この結果、モルヒネ投与前と比較して、モルヒネ投与から60分経過後には、有意に(Weight BearingテストはP<0.05、Knee pressureテスト及び歩行障害テストはP<0.01(対応t検定))、右後肢(処置側後肢)にかかる体重負荷が増大し、右膝関節が耐えられる圧力の閾値が増大し、歩行障害スコアが低下した。これらの結果から、モルヒネにより右膝関節の痛みが緩和されたことが確認された。