【解決手段】制御装置50が各操舵用モータ30を作動させて、各車輪を独立して操舵させる。制御装置50は、前側横ずれ量及び後側横ずれ量を算出する前後横ずれ量算出部51と、走行ラインの上に目標位置を設定し、目標距離を設定する目標設定部52と、目標距離と横ずれ量とに基づいて仮想前輪の前側中央操舵角と仮想後輪の後側中央操舵角とを演算する前後中央操舵角演算部53と、これら中央操舵角に基づいて車両の旋回中心を決定する旋回中心決定部54と、旋回中心に基づいて各車輪の各操舵角を決定する操舵角演算部55と、各操舵角に基づいて各走行用モータ30を制御する操舵制御部56とを備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本出願人は、不特定の建設中の場所まで積載物を搬送できるように、或る基地と基地との間に設けられた長距離である走行路に対して、作業車を走行させることを検討している。この走行路は、建設中の或る一定期間だけ作業車が走行できれば良いものであるため、作業車に対して幅が狭く設けられていて、
図23に示すように、場所に応じて横断勾配角γが最大で約10degになっている部分がある。このため、作業車がこの走行路SKを走行しようとすると下り方向に向かって下がって行き、車輪Jが幅の狭い走行路SKの上から落ちるおそれがある。そこで、このような幅が狭くて任意の長距離であり且つ比較的大きな横断勾配角γを有する走行路SK(以下、適宜「横断勾配走行路SK」と呼ぶ)であっても、作業車を的確に走行させることを検討した。
【0007】
先ず、従来の無人搬送車の誘導システムが適用できるか否かを検討した。通常、無人搬送車101は構内で定められた領域を走行するため、幅が狭い走行路を走行する状況ではない。そして、無人搬送車101が走行する走行路は、進行方向の登り勾配や下り勾配があっても、ほとんど横断勾配(カント)がない平坦路である。よって、従来の無人搬送車の誘導システムでは、曲線状の走行路を旋回する場合に、平坦路を走行する条件の下で、曲率半径を小さくして旋回するように各車輪を制御している。このため、このような制御を用いて横断勾配走行路SKを走行すると、車両が下り方向に下がったときに許容範囲を超えた旋回半径で旋回してしまう。この結果、車輪Jが幅の狭い走行路SKの上から落ちて、無人搬送車101が的確に走行できないことが想定される。
【0008】
具体的に、上記特許文献1に記載された誘導システムを適用した場合に、一般的に起こり得る無人搬送車101の挙動について、
図24(A)を参照して説明する。
図24(A)の(I)に示した状態から(II)に示すように、先ず無人搬送車101の前側が下り方向に向かって下がって行く。このため、(II)に示した状態から(III)に示すように、右向きに旋回するように、前側の車輪J1,J2の操舵角と後側の車輪J3,J4の操舵角とを同じ角度で逆位相になるように制御する。この結果、(III)に示した状態から(IV)に示すように、右向きに大きく旋回してしまい、車輪J2が幅の狭い走行路SKの上から落ちることになる。
【0009】
一方、本出願人は、運転操作員がハンドルを手動で回して車輪J1,J2を操舵させることによって、横断勾配走行路SKを走行できるかを検討した。運転操作員が車輪J1,J2を操舵した場合に、一般的に起こり得る作業車201の挙動について、
図24(B)を参照して説明する。
図24(B)の(I)に示した状態から(II)に示すように、先ず作業車201の前側が下り方向に向かって下がって行く。このため、(II)に示した状態から(III)に示すように、運転操作員がハンドルを右向きに回して、前側の車輪J1,J2を右向きに操舵させる。このとき、走行路SKの幅が狭いため、運転操作員は車輪J2が走行路SKから落ちないように、ハンドルを直ぐに中立位置まで戻してしまい、作業車201が右向きにほとんど旋回しない。この結果、(III)に示した状態から(IV)に示すように、作業車201の後側が下り方向に下がったままの状態で更に落ちて行き、車輪J3が幅の狭い走行路SKの上から落ちることになる。
【0010】
こうして、運転操作員が手動でハンドルを回しても、又は従来の無人搬送車の誘導システムを適用しても、各車輪J1,J2,J3,J4をそれぞれ独立して微妙な操舵角で操舵させることができなくて、横断勾配走行路SKを的確に走行させることができなかった。従って、横断勾配走行路SKに対応できる新しい作業車の誘導システムを構成することが求められていた。
【0011】
そこで、本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、幅が狭くて任意の長距離であり且つ比較的大きな横断勾配角を有する走行路を的確に走行できる作業車の誘導システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る作業車の誘導システムは、走行路に予め定められた走行ラインに沿って検知対象物が設けられていて、車体の前後左右に配置された各車輪をそれぞれ独立して操舵可能な各操舵アクチュエータと、前記各操舵アクチュエータを制御する制御装置とを備えた作業車が、前記検知対象物を検知しながら前記走行ラインに沿うように走行させるものである。前記車体の前側に前記検知対象物を検知する前側検出器が設けられ、前記車体の後側に前記検知対象物を検知する後側検出器が設けられている。前記制御装置は、前記前側検出器の検出値に基づいて前記車体の前側横ずれ量を算出すると共に、前記後方検出器の検出値に基づいて前記車体の後側横ずれ量を算出する前後横ずれ量算出部と、前記作業車より前方で前記走行ラインの上に目標位置を設定し、前記作業車の車両中心と前記目標位置との間の前記走行ラインに沿った長さである目標距離を設定する目標設定部と、前記作業車の仮想モデルとして前記車体の前側中央に仮想前輪を設けると共に前記車体の後側中央に仮想後輪を設けて、前記目標位置で前記作業車が正しい姿勢になるように、前記目標距離と前記前側横ずれ量と前記後側横ずれ量とに基づいて、前記仮想前輪の前側中央操舵角を演算すると共に、前記仮想後輪の後側中央操舵角を演算する前後中央操舵角演算部と、前記前側中央操舵角と前記後側中央操舵角とに基づいて車両の旋回中心を決定する旋回中心決定部と、前記車両の旋回中心に基づいて前記各車輪の各操舵角を演算する操舵角演算部と、前記各操舵角に基づいて前記各操舵アクチュエータを制御する操舵制御部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る作業車の誘導システムによれば、作業車の制御装置が、車体の前側横ずれ量及び後側横ずれ量を算出する。次に、走行ラインの上に目標位置を設定し、車両中心と目標位置との間の走行ラインに沿った長さである目標距離を設定する。そして、目標距離と前側横ずれ量と後側横ずれ量とに基づいて、仮想前輪の前側中央操舵角を演算すると共に、仮想後輪の後側中央操舵角を演算する。これにより、車両の旋回中心を決定して、この旋回中心に基づいて各車輪の各操舵角を演算する。こうして、現時点で生じている前側横ずれ量及び後側横ずれ量、目標距離、旋回中心に応じて、各車輪の各操舵角を逐次演算して、各車輪をそれぞれ独立して操舵する。従って、作業車を逐次最適に旋回及び斜行させるため、元の正しい姿勢に戻る際に大きく旋回することがない。この結果、幅が狭くて任意の長距離であり且つ比較的大きな横断勾配角を有する走行路であっても、車輪が走行路から落ちることなく作業車を走行させることができる。
【0014】
また、本発明に係る作業車の誘導システムにおいて、前記目標設定部は、走行速度に比例して前記目標距離を大きく設定することが好ましい。
この場合には、低速走行時に目標距離を比較的小さく設定することで、車体の横ずれの修正を早くすることができる。一方、高速走行時に目標距離を比較的大きく設定することで、制御の発散を抑制し、車体がふらつくことを防止できる。こうして、走行速度に応じて、車体の横ずれを早く修正する制御と、車体の姿勢をより安定させる制御とを行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る作業車の誘導システムにおいて、前記前後中央操舵角演算部は、前記後側中央操舵角の上限値であるリミット値を設定し、前記演算された後側中央操舵角が前記リミット値より大きい場合に、前記後側中央操舵角を前記リミット値に設定することが好ましい。
この場合には、後側中央操舵角をリミット値に制限することで、高速走行時に操舵応答性の遅れを防止して、車体が左右に大きく振られることを防止できる。つまり、車体の後側の傾きの変化量を減らすことで、車体の振幅を抑制しつつ、車体の横ずれを修正することができる。
【0016】
また、本発明に係る作業車の誘導システムにおいて、前記前後中央操舵角演算部は、走行速度に比例して前記リミット値を小さく設定することが好ましい。
この場合には、低速走行時にリミット値が比較的大きい値になるため、仮想前輪と仮想後輪とが八の字になるように操舵する際に車体の傾きを早く修正できるというメリットを活かすことができる。一方、高速走行時には、リミット値が比較的小さい値になるため、上述したように車体の振幅を抑制しつつ、車体の横ずれを修正することができる。
【0017】
また、本発明に係る作業車の誘導システムにおいて、前記走行路の横断勾配角を検出する傾斜センサが設けられていて、前記制御装置には、予め記憶しているデータ情報を用いて前記検出された横断勾配角が大きいほどカントオフセット量を大きく設定するカントオフセット量設定部が設けられていて、前記前後横ずれ量算出部は、前記カントオフセット量を加算することにより前記前側横ずれ量を算出すると共に、前記カントオフセット量を加算することにより前記後側横ずれ量を算出することが好ましい。
この場合には、作業車が横断勾配角を有する走行路を走行するときに、車体に横ずれが生じていない状態でも、カントオフセット量を加算して前側横ずれ量及び後側横ずれ量を算出する。このため、前側横ずれ量及び後側横ずれ量がゼロにならず、作業車を上り方向に上昇させるように各車輪が操舵される。従って、車体に横ずれが生じていない状態で、車両を上り方向に上昇させる力と車両に作用する下り方向の重力とを均衡させることができ、車体に横ずれを残さずに作業車を走行させることができる。
【0018】
また、本発明に係る作業車の誘導システムにおいて、前記制御装置には、操舵ゲインを設定する操舵ゲイン設定部が設けられていて、前記操舵制御部は、前記操舵ゲインが大きいほど前記各車輪の操舵速度が大きくなるように前記各操舵アクチュエータを制御していて、前記操舵ゲイン設定部は、走行速度に比例して前記操舵ゲインを大きく設定することが好ましい。
この場合には、低速走行時に操舵ゲインを比較的小さくすることで、車輪の操舵応答性を低くする。これにより、頻繁な操舵動作や振動を抑えることができ、走行装置やタイヤの寿命を延ばすことができる。一方、高速走行時に操舵ゲインを比較的大きくすることで、車輪の操舵応答性を高くする。これにより、車体の横ずれの修正を早く行うことができる。こうして、作業車の機器を保護することと、制御の精度を向上することの両立を図ることができる。
【0019】
また、本発明に係る作業車の誘導システムにおいて、前記検知対象物は、前記走行路の走行ラインに沿って連続的に配置されていることが好ましい。
この場合には、検知対象物が連続的に配置されているため、長距離である走行路において作業車はどの位置でも走行開始及び走行停止ができる。また、制御装置で行われる制御が途切れることがないため、検知対象物が離散的に配置される場合に比べて、制御の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の作業車の誘導システムによれば、幅が狭くて任意の長距離であり且つ比較的大きな横断勾配角を有する走行路に対して、作業車を的確に走行させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る作業車の誘導システムの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の作業車1を示した図であり、
図1(A)では正面図が示され、
図1(B)では平面図が示されている。なお、
図1(B)では、車体10の一部が透視して示されている。
【0023】
作業車1は、或る基地と基地との間に設けられた長距離である走行路SKを走行して、不特定の建設中の場所まで積載物を搬送する車両である。この作業車1は、
図1(A)(B)に示すように、積載物を載置可能な車体10と、この車体を支持する16個の各車輪W1〜W16と、各車輪W1〜W16の一部(車輪W3,W4,W7,W8,W11,W12,W15,W16)を回転させる走行用モータ20と、各車輪W1〜W16をそれぞれ操舵させる各操舵用モータ30とを備えている。
【0024】
作業車1は、各操舵用モータ30(操舵アクチュエータ)がそれぞれ各車輪W1〜W16を独立して操舵することで、旋回、斜行、横行等の走行ができるようになっている。なお、本実施形態の作業車1は、16個の車輪W1〜W16を備えているが、車輪の数は適宜変更可能である。このため、変形例の作業車として、少なくとも車体10の前後左右に配置される4個の車輪を備えていれば良い。
【0025】
この作業車1には、車体10の進行方向の一方(
図1の左側であり、以下では「前側」と呼ぶ)に前側運転台40Fが設けられていて、車体10の進行方向の他方(
図1の右側であり、以下では「後側」と呼ぶ)に後側運転台40Rが設けられている。これら運転台40F,40Rには、運転操作員が作業車1の走行開始及び走行停止の操作を行うために、アクセルペダル41とブレーキペダル42とが設けられている。
【0026】
このため、運転操作員がアクセルペダル41を踏むと、走行用モータ20が回転駆動して、車輪W3,W4,W7,W8,W11,W12,W15,W16が回転する。一方、運転操作員がアクセルペダル41から足を離してブレーキペダル42を踏むと、走行用モータ20が回転しなくて、各車輪W1〜W16が停止する。こうして、運転操作員の操作によって、作業車1の走行開始及び走行停止ができるようになっている。但し、各車輪W1〜W16の操舵においては、後述する制御装置50(
図5及び
図6参照)が各操舵用モータ30の作動を制御するため、運転操作員の操作に依存しない。
【0027】
本実施形態では、自律誘導システムによって、作業車1を走行路SKの上で走行できるようになっている。この走行路SKは、作業車1が不特定の建設中の場所まで長距離を移動できるように、長手方向の長さは約十数kmになっている。そして、走行路SKはほぼ直線状になっていて、曲線状の部分があってもその部分の曲率半径は、約数千mであり非常に緩やかな曲線になっている。しかし、この走行路SKは幅が狭いものであり、例えば左右両側に配置される車輪W1,W2から走行路SKの左右両端までの距離は、それぞれ約20cmになっている。
【0028】
このような走行路SKに対して作業車を走行させる場合、以下の方法が考えられる。例えば、
図2(A)に示すように、走行路SKの両側に側壁SWを設けると共に、作業車1Aの車体10に案内輪16を設けて、案内輪16を側壁SWに沿ってガイドさせることで、作業車1Aを走行させる方法が考えられる。又は、
図2(B)に示すように、走行路SKの上にレールRWを設けて、車輪WxをレールRWに沿ってガイドさせることで、作業車1Bを走行させる方法が考えられる。しかし、これらの方法の場合、長距離である走行路SKの全てに側壁SW又はレールRWを設ける必要があるため非常にコストがかかる。更に、建設中の一定期間だけ側壁SW又はレールRWを設けることは、無駄な労力が大きい。
【0029】
次に、運転操作員が手動でハンドルを回して各車輪を操舵することで、作業車1を走行させることが考えられる。しかし、発明が解決しようとする課題で説明したように、走行路SKには、場所に応じて横断勾配角γが最大で10degになっている部分がある(
図23参照)。このため、横断勾配角γが比較的大きい部分を走行する際に、作業車1が下り方向に向かって下がってしまう。これに対して、運転操作員はハンドルを回して作業車1の姿勢を上向きに修正しようとするが、走行路SKの幅が狭いため、ハンドルを大きく回すことができない。このため、作業車1の後方側が下り方向に下がったままの状態で更に落ちて行き、車輪J3が狭い走行路SKの上から落ちることになる(
図24(B)参照)。こうして、ハンドル操作が極めて難しく、車輪が走行路SKの上から落ちずに作業車1を走行させることができないという問題点があった。
【0030】
そこで、本実施形態では、上記した問題点に対処すべく、走行路SKに対して作業車1を自動で操舵させるようになっている。以下において、作業車1を自動で操舵させるための構成について説明する。
図3(A)は、本実施形態の作業車1と走行路SKとを示した正面図であり、
図3(B)は、
図3(A)の平面図である。なお、
図3(A)(B)に示す作業車1では、後述する仮想モデルとして仮想前輪Wfと仮想後輪Wrのみが示されている。仮想モデルについては後に説明する。
【0031】
走行路SKには、作業車1が進むべき走行ラインが予め定められていて、
図3(B)に示すように、その走行ラインに沿ってマグネットテープMG(検知対象物)が連続的に配置されている。即ち、マグネットテープMGは、走行路SKの幅方向の中央位置で、走行路SKの長手方向に沿って連続的に配置されている。
【0032】
そして、
図3(A)(B)に示すように、車体10の前側(
図3の左側)に、マグネットテープMGを検知する前側ガイドセンサ11F(前側検出器)が設けられている。前側ガイドセンサ11Fは、マグネットテープMG(走行ライン)に対する車体10の前側横ずれ量Xf(
図7参照)を検知するためのものである。一方、車体10の後側(
図3の右側)にも、マグネットテープMGを検知する後側ガイドセンサ11R(後側検出器)が設けられている。後側ガイドセンサ11Rは、マグネットテープMGに対する車体10の後側横ずれ量Xr(
図7参照)を検知するためのものである。前側ガイドセンサ11F及び後側ガイドセンサ11Rは、車両中心O1に対して車体10の前後方向(
図3(B)の左右方向)に対称的に配置されているが、センサ中心S1と車両中心O1とが車体10の左右方向(
図3(B)の上下方向)にオフセットするように配置されている、なお、センサ中心S1は、前側ガイドセンサ11Fの取付中心位置Sfと後側ガイドセンサ11Rの取付中心位置Srとの間の中間の位置である。
【0033】
ここで、前側ガイドセンサ11F及び後側ガイドセンサ11Rが、それぞれ横ずれ量を検知する方法について説明する。前側ガイドセンサ11F及び後側ガイドセンサ11Rは、
図4に示すように、走行路SKの幅方向(
図4の左右方向)に10mmピッチの間隔で48個の磁気検出用素子11a(1〜48)を有している。前側ガイドセンサ11F及び後側ガイドセンサ11Rは同様の構成であるため、以下では前側ガイドセンサ11Fの検知方法を代表して説明する。
【0034】
作業車1の走行中に、前側ガイドセンサ11FがマグネットテープMGを通過する。このとき、例えば、
図4に示すように、16番目から24番目までの磁気検出用素子11a(16〜24)が一定以上の磁束密度を検出して、ON状態になる。これにより、21番目の磁気検出用素子11a(21)と22番目の磁気検出用素子11a(22)との間の位置が、ON範囲の中心、即ちマグネットテープMG(走行ライン)の中心であることが分かる。
【0035】
こうして、前側ガイドセンサ11Fの中心とON範囲の中心との間の距離が前側横ずれ量Xf(30mm)であり、作業車1は走行中に前側横ずれ量Xfを算出することができる。後側横ずれ量の算出Xrは、前側横ずれ量Xfの算出と同様であるため、その説明を省略する。なお、磁気検出用素子11aの数は48個に限られるものではなく適宜変更可能であり、磁気検出用素子11aのピッチ間隔は10mmに限られるものではなく適宜変更可能である。
【0036】
ここで、本実施形態の誘導システムの構成を
図5を参照して説明する。
図5に示すように、前側運転台40Fには、前側制御装置50Fと前側コントローラ13Fとが設けられている。前側ガイドセンサ11Fが検出した検出信号(検出値)は、前側中継ボックス12Fを介して前側コントローラ13Fに送信される。そして、前側コントローラ13Fから前側制御装置50Fに制御信号が送信される。これにより、前側制御装置50Fが、前後横ずれ量算出部51(
図6参照)で上述したように前側横ずれ量Xfを算出するようになっている。
【0037】
同様に、後側運転台40Fには、後側制御装置50Rと後側コントローラ13Rとが設けられている。後側ガイドセンサ11Rが検出した検出信号(検出値)は、後側中継ボックス12Rを介して後側コントローラ13Rに送信される。そして、後側コントローラ13Rから後側制御装置50Rに制御信号が送信される。これにより、後側制御装置50Rが、前後横ずれ量算出部51で上述したように後側横ずれ量Xrを算出するようになっている。前側制御装置50Fと後側制御装置50Rとは、双方向に通信可能であり、本発明の「制御装置」に相当していて、以下では「制御装置50」と呼ぶことにする。
【0038】
次に、制御装置50が実行する制御の構成について、詳しく説明する。
図6は、制御装置50の構成を示した機能ブロック図である。制御装置50は、
図6に示すように、制御を実行するための各機能部として、前後横ずれ量算出部51と、目標設定部52と、前後中央操舵角演算部53と、旋回中心決定部54と、操舵角演算部55と、操舵制御部56と、走行速度測定部57と、カントオフセット量設定部58と、操舵ゲイン設定部59とを備えている。そして、制御装置50は、所定の短時間(例えば、10msec)毎に、上述した各機能部51〜58を繰り返し実行するようになっている。
【0039】
前後横ずれ量算出部51は、上述したように、前側ガイドセンサ11F及び後側ガイドセンサ11Rが検出した検出信号に基づいて、前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrを算出するものである。ここで、本実施形態の誘導制御の概要について説明する。
図7は、作業車1の或る姿勢を模式的に示した図である。
図7に示すように、誘導制御では、実線で示した現時点での作業車1が、走行中に各車輪W1〜W16を操舵することで、二点鎖線で示した作業車1zの位置で正しい姿勢になることを目標とする。
【0040】
つまり、現時点の作業車1の位置では、車両中心O1がマグネットテープMGからずれていて、前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrが所定量だけ生じている。これに対して、目標とする作業車1zの位置では、車両中心P1がマグネットテープMGの上に位置していて、前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrがゼロである。このように、現時点での作業車1より前方でマグネットテープMG(走行ライン)の上に目標位置を設定して、その目標位置で正しい姿勢になるように制御を行う。この目標位置とは、目標とする作業車1zの車両中心P1のことであり、以下では目標位置P1と呼ぶことにする。
【0041】
目標設定部52は、
図7に示すように、作業車1より前方でマグネットテープMGの上に目標位置P1を設定すると共に、作業車1の車両中心O1と目標位置P1との間のマグネットテープMGに沿った長さである目標距離Lを設定する。これにより、作業車1は、常に目標距離Lだけ前方に向かって走行し続けるように制御される。目標距離Lの大きさは走行距離Vに比例して設定されるが、この理由については後に説明する。
【0042】
この誘導制御では仮想モデルとして、
図3及び
図7に示すように、車体10の前側中央に仮想前輪Wfが設けられ、車体10の後側中央に仮想後輪Wrが設けられている作業車1を想定している。そして、目標位置P1で作業車1zが正しい姿勢になるように、現時点での作業車1の仮想前輪Wfの前側中央操舵角θfを求めると共に、仮想後輪Wrの後側中央操舵角θrを求める。つまり、前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrは、目標位置P1で前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrをゼロにするための操舵角である。
【0043】
図7に示すように、前側中央操舵角θfは、作業車1の車両中心O1と仮想前輪Wfの操舵軸Ofとを結ぶ車両中心線T1と、操舵軸Ofと作業車1zの仮想前輪Wfzの操舵軸Pfとを結ぶ直線T2とが成す角度である。また、後側中央操舵角θrは、作業車1の車両中心O1と仮想後輪Wrの操舵軸Orとを結ぶ車両中心線T1と、操舵軸Orと作業車1zの仮想後輪Wrzの操舵軸Prとを結ぶ直線T3とが成す角度である。こうして、
図7から、目標位置P1が遠いほど、即ち目標距離Lが大きいほど、前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrが小さくなることが分かる。
【0044】
ここで、本実施形態では、作業車1の走行速度Vが測定されるようになっている。走行速度Vは、制御装置50が制御を実行する際の作業車1の速度であり、速度発電機14を用いて測定されるようになっている。速度発電機14は、例えば車輪W1,W2,W15,W16の車軸にそれぞれ取付けられていて、各車軸の回転に伴って発生するパルス状の出力信号を走行速度測定部57に出力する。走行速度測定部57は、入力されたパルス状の各出力信号をカウントして平均値を求め、周知の方法によって走行速度Vを測定するものである。測定された走行速度Vは、目標設定部52と操舵ゲイン設定部59に入力される。
【0045】
目標設定部52は、入力された走行速度Vの大きさに基づいて、
図8に示すように、走行速度Vに比例して目標距離Lを大きく設定している。これは、以下の理由に基づく。低速走行時に、仮に目標距離Lが大きいと、前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrが小さくなり、車体10の横ずれ量(前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xr)が逐次少しずつ修正されることになる。つまり、車体10の横ずれの修正が遅くなる。一方、高速走行時に、仮に目標距離Lが小さいと、前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrが大きくなり、車体10の横ずれ量が逐次大きく修正されることになる。このため、制御が発散して、車体10がふらつくおそれがある。
【0046】
そこで、目標設定部52は、
図8に示すように、走行速度VがVa(例えば5km/h)である低速走行時には、目標距離Lを小さい値であるLa(例えば500mm)に設定する。これにより、車体10の横ずれの修正を早くすることができる。一方、走行速度VがVb(例えば15km/h)である高速走行時には、目標距離Lを大きい値であるLb(例えば3250mm)に設定する。これにより、制御の発散を抑制して、車体10がふらつくことを防止できる。こうして、走行速度Vに応じて、車体10の横ずれを早く修正する制御と、車体10の姿勢をより安定させる制御とを行うようになっている。
【0047】
図6に示す制御装置50の構成の説明に戻る。前後中央操舵角演算部53は、設定された目標距離Lと、算出された前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrに基づいて、前側中央操舵角θfを演算すると共に、後側中央操舵角θrを演算するものである。前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrは、幾何学的に求めることができる。
【0048】
図9は、前側中央操舵角θfを求める数式を説明するための図である。
図9に示すθsは、マグネットテープMGに対する車体10の傾き角度であり、具体的には、車両中心線T1とマグネットテープMGとが成す角度である。傾き角度θsは、以下の式1を用いて演算される。
(式1) θs=arctan{(Xf−Xr)÷G}
ここで、上記したGは、
図3(B)に示すように、前側ガイドセンサ11Fの取付中心位置Sfと後側ガイドセンサ11Rの取付中心位置Srとの間のセンサ間距離である。
【0049】
図9に示すXcは、車両中心O1の横ずれ量であり、以下の式2を用いて演算される。
(式2) Xc=(Xf+Xr)÷2
図9に示すLfは、車両中心O1から仮想前輪Wfの操舵軸OfまでのマグネットテープMGに沿った距離であり、以下の式3を用いて演算される。
(式3) Lf=B÷2×cosθs
ここで、上記したBは、
図3(B)に示すように、仮想前輪Wfと仮想後輪Wfとの間のホイールベースである。
図9に示すMfは、仮想前輪WfのマグネットテープMGに沿った移動距離であり、以下の式4を用いて演算される。
(式4) Mf=(B÷2)−(Lf−L)
【0050】
図9に示すYfは、仮想前輪Wfの操舵軸OfとマグネットテープMGとの間の距離であり、以下の式5を用いて演算される。
(式5) Yf=(Xf−Xc)×(B/2)÷(G/2)+Xc
図9に示すθ1は、現時点での作業車1の仮想前輪Wfの操舵軸Ofと、目標となる作業車1zの仮想前輪Wfzの操舵軸Pfとを結ぶ直線T2と、マグネットテープMGとが成す角度であり、以下の式6を用いて演算される。
(式6) θ1=arctan(Yf÷Mf)
こうして、前側中央操舵角θfは、以下の式7を用いて演算することができる。
(式7) θf=θ1+θs
【0051】
図10は、後側中央操舵角θrを求める数式を説明するための図である。
図10に示すθsは、上記した式1と同様に演算することができ、
図10に示すXcは、上記した式2と同様に演算することができる。
図10に示すLrは、車両中心O1から仮想後輪Wrの操舵軸OrまでのマグネットテープMGに沿った距離であり、以下の式8を用いて演算される。
(式8) Lr=B÷2×cosθs
図10に示すMrは、仮想前輪WfのマグネットテープMGに沿った移動距離であり、以下の式9を用いて演算される。
(式9) Mr=Lr−{(B÷2)−L}
【0052】
図10に示すYrは、仮想後輪Wrの操舵軸OrとマグネットテープMGとの間の距離であり、以下の式10を用いて演算される。
(式10) Yr=(Xr−Xc)×(B/2)÷(G/2)−Xc
図10に示すθ2は、現時点での作業車1の仮想後輪Wrの操舵軸Orと、目標となる作業車1zの仮想後輪Wrzの操舵軸Prとを結ぶ直線T3と、マグネットテープMGとが成す角度であり、以下の式11を用いて演算される。
(式11) θ2=arctan(Yr÷Mr)
こうして、後側中央操舵角θrは、以下の式12を用いて演算することができる。
(式12) θr=θ2+θs
【0053】
なお、
図9及び
図10において、前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrは、前側ガイドセンサ11Fと後側ガイドセンサ11Rとが共にマグネットテープMGより下側(
図9及び
図10の下側)にある場合に、マイナス値としている。また、前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrは、反時計方向をプラス値としている。そして、車体10の傾き角度θsは、時計方向をプラス値としている。
【0054】
図6に示す制御装置50の構成の説明に戻る。旋回中心決定部54は、演算された前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrに基づいて、車両の旋回中心Qを決定するものである。旋回中心Qは、幾何学的に求めることができる。
図11は、旋回中心Qを説明するための図である。
図11に示すBは、上述したように仮想前輪Wfと仮想後輪Wfとの間のホイールベースであり(
図3(B)参照)、車両パラメータとして予め設定されている値である。
【0055】
図11に示すように、旋回中心Qは、前側中央操舵角θfと後側中央操舵角θrと90度とを有する直角三角形によって求めることができる。そして、旋回半径Rは、旋回中心Qから車両中心線T1に向かう垂線であり、以下の式13を用いて演算することができる。
(式13) R=B÷(tanθf+tanθr)
【0056】
操舵角演算部55は、決定された旋回中心Qに基づいて、各車輪W1〜W16の各操舵角φ1〜φ16を演算するものである。各操舵角φ1〜φ16は、幾何学的に求めることができ、以下では各操舵角φN(N=1〜16)と呼ぶことにする。ここで、各操舵角φNを求めるために必要な車両パラメータを
図12を参照して説明する。
図12は、各車輪W1〜W16のX方向軸間距離X1〜X16と、各車輪W1〜W16のY方向軸間距離Y1〜Y16を示した図である。
【0057】
図12に示すように、X方向軸間距離X1〜X16は、車両中心O1から各車輪W1〜W16の操舵軸までのX方向(進行方向)の距離である。X方向軸間距離X1〜X16は、車両パラメータとしてそれぞれ予め設定されている値であり、以下ではX方向軸間距離XN(N=1〜16)と呼ぶことにする。また、Y方向軸間距離Y1〜Y16は、車両中心O1から各車輪W1〜W16の操舵軸までのY方向(左右方向)の距離である。Y方向軸間距離Y1〜Y16は、車両パラメータとしてそれぞれ予め設定されている値であり、以下ではY方向軸間距離YN(N=1〜16)と呼ぶことにする。
【0058】
そして、各操舵角φを演算するためには、前側ホイールベースFBと旋回オフセット量Rofとを求める必要がある。前側ホイールベースFBは、
図11に示すように、仮想前輪Wfの操舵軸Ofと、旋回中心Qから車両中心線T1に向かう垂線と車両中心線T1の交点U1との間の距離である。この前側ホイールベースFBは、以下の式14を用いて演算することができる。
(式14) FB=R×tanθf
続いて、旋回オフセット量Rofは、
図11に示すように、車両中心O1と上記した交点U1との間の距離である。この旋回オフセット量Rofは、以下の式15を用いて演算することができる。
(式15) Rof=B÷2−FB
【0059】
これにより、各車輪W1〜W16の各操舵角φN(N=1〜16)は、以下の式16を用いて演算することができる。
(式16) φN=arctan{(XN−Rof)÷(R+YN+Yof)}
ここで、上記したYofは、
図3(B)に示すように、車両中心O1とセンサ中心S1との間の左右方向(幅方向)の距離であり、車両パラメータとして予め設定されている値である。このため、例えば車輪W1の操舵角φ1は、以下の式17によって演算することができる。
(式17) φ1=arctan{(X1−Rof)÷(R+Y1+Yof)}
なお、操舵角演算部55は、前側中央操舵角θf及び後側中央操舵角θrがゼロの場合には、各操舵角φNをゼロにセットする。
【0060】
こうして、各操舵角φNが演算された後、操舵制御部56は、各操舵角φNに基づいて各操舵用モータ30に対する制御指令値を作成して、各操舵用モータ30を独立して駆動させるようになっている。詳細には、操舵制御部56が、目標値として演算された各操舵角φNと現在の操舵角との差分に対して、後述する操舵ゲインXgを乗算して制御指令値を作成し、この制御指令値を各操舵用モータ30への操作量とする比例制御を行っている。
【0061】
ところで、本実施形態の誘導制御では、制御精度を向上するために、補正処理として後軸リミット処理を行っている。先ず、後軸リミット処理を行わない場合の上述した誘導制御の問題点について説明する。上述した誘導制御では、前側中央操舵角θfと後側中央操舵角θfを、現時点での前側横ずれ量Xfと後側横ずれ量Xrと目標位置Pとに基づいて別個に算出して、仮想前輪Wfと仮想後輪Wrとが独立して操舵するように制御している。このため、前側ガイドセンサ11Fと後側ガイドセンサ11Rの横ずれの方向によっては、
図13(A)に示すように、仮想前輪Wfと仮想後輪Wrとが八の字になるように操舵される。この結果、
図13(A)から
図13(B)に示すように、車体10の傾きが大きく変化する。
【0062】
これは、低速走行時には車体10の傾きを素早く修正できるというメリットがある。しかし、その反面、高速走行時には車体10の傾きの修正時に、操舵応答性の遅れの影響が大きくなる。これにより、高速走行時に、車体10が左右に大きく振られて、制御の発散の要因になる。これに対して、仮想後輪Wrの操舵軸Orを固定して、車体10の振れを大きく減少させる方法が考えられる。しかし、この方法では、弊害として後側横ずれ量Xrが大きくなり、更にこの後側横ずれ量Xrがオフセット分として残る。このことから、走行路SKのうちカントを有する傾斜区間では、横断勾配角γに比例して後側横ずれ量Xrが大きくなることが予想される。
【0063】
そこで、本実施形態の誘導制御は、上記した問題点に対処すべく、後軸リミット処理を行っている。即ち、前後中央操舵角演算部51が、後側中央操舵角θrの上限値であるリミット値θlgを設定し、演算された後側中央操舵角θr(絶対値)がリミット値θlgより大きい場合に、後側中央操舵角θrをリミット値θlgに設定している。これにより、高速走行時に操舵応答性の遅れを防止して、車体10が左右に大きく振られることを防止できる。つまり、
図14(A)に示すように、車体10の後側の傾きの変化量を減らすことで、
図14(A)から
図14(B)に示すように、車体10の振幅を抑制しつつ、車体10の横ずれを修正することができる。
【0064】
更に、本実施形態の後軸リミット処理では、前後中央操舵角演算部51が、走行速度Vに比例してリミット値θlgを小さく設定している。具体的にリミット値θlgは、最大リミットθlmaxとリミット率βとを乗算することによって演算される。最大リミット値θlmaxは、例えば±5degである。リミット率βは、
図15に示すように、走行速度Vに比例して小さくなっていて、走行速度VがVc(例えば3km/h)以下であるときには、リミット率βが100%であり、走行速度VがVe(例えば5km/h)であるときには、リミット率BがBb(例えば73%)であり、走行速度VがVd(例えば10km/h)以上であるときには、リミット率βがβa(例えば6%)である。
【0065】
このため、走行速度Vが3km/h以下である低速走行時に、リミット値θlgが以下の式18に示す値になる。
(式18) θlg=±5deg×1.00=±5.00deg
また、走行速度Vが5km/hである中速走行時に、リミット値θlgが以下の式19に示す値になる。
(式19) θlg=±5deg×0.73=±3.65deg
また、走行速度Vが10km/h以上である高速走行時に、リミット値θlgが以下の式20に示す値になる。
(式20) θlg=±5deg×0.06=±0.30deg
【0066】
こうして、本実施形態の後軸リミット処理では、低速走行時にリミット値θlgが比較的大きい値になるため、上述したように仮想前輪Wfと仮想後輪Wrとが八の字になる際に車体10の傾きを早く修正できるというメリットを活かすことができる。一方、高速走行時には、リミット値θlgが比較的小さい値になるため、上述したように車体10の振幅を抑制しつつ、車体10の横ずれを修正することができる。
【0067】
また、本実施形態の誘導制御では、制御精度を向上するために、補正処理としてカントオフセット処理を行っている。先ず、カントオフセット処理を行わない場合の上述した誘導制御の問題点について説明する。横断勾配角γを有する走行路SKを走行する場合、
図16(A)に示すように、作業車1は下り方向に下がって行く。このため、前側横ずれ量Xfと後側横ずれ量Xrはゼロから大きくなっていく。ここで、上述した誘導制御において、各操舵角φN(前側中央操舵角θfと後側中央操舵角θr)の大きさは車体10の横ずれ量(前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xr)に比例するため、車体10の横ずれ量が小さいと必然的に各操舵角φNが小さい。作業車1が平坦路を走行する場合には、各操舵角φNが小さくても、いずれ目標位置P1に到達することができる。
【0068】
しかし、
図16(A)に示すように、作業車1が下り方向に下がって行くとき、各操舵角φNが小さいと、操舵によって作業車1を上り方向に上昇させる力F1が作業車1に作用する下り方向の重力F2より小さくなる。このため、
図16(A)から
図16(B)に示すように、作業車1が下り方向に更に下がって行き、車体10の横ずれ量が更に大きくなる。そして、
図16(B)に示した状態では、車体10の横ずれ量が大きいことによって各操舵角φNが大きくなり、作業車1を上り方向に上昇させる力F1と作業車1に作用する下り方向の重力F2とが均衡する。この結果、作業車1は車体10の横ずれ量が残ったままの状態で走行し続けるおそれがある。
【0069】
そこで、本実施形態の誘導制御は、上記した問題点に対処すべく、カントオフセット処理を行っている。即ち、カントオフセット処理では、上述したように算出された前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrにカントオフセット量Xofを加算する補正を行う。これにより、実際に車体10の横ずれ量を修正するのに必要な各操舵角に、現時点での横断勾配角γで上記した力F1と重力F2とを均衡させるための操舵角を加味して、作業車1を操舵させるようになっている。
【0070】
具体的に、カントオフセット処理を行うために、
図6に示すように、作業車1に傾斜センサ15が設けられていて、制御装置50にカントオフセット量設定部58が設けられている。傾斜センサ15は、走行路SKの横断勾配角γを検出するものであり、走行中に検出された横断勾配角γがカントオフセット量設定部58に入力される。
【0071】
カントオフセット量設定部58は、予め記憶しているデータ情報を用いて、検出された横断勾配角γが大きいほどカントオフセット量Xofを大きく設定するものである。具体的に、カントオフセット量設定部58は、データ情報として
図17に示すグラフを記憶している。このため、例えば検出された横断勾配角γが+10degである場合には、カントオフセット量Xofが−100mmに設定され、検出された横断勾配角γが−5degである場合には、カントオフセット量Xofが+50mmに設定される。
【0072】
こうして、設定されたカントオフセット量Xofは、前後横ずれ量算出部51に入力される。なお、
最適なカントオフセット量Xofは、作業車1の重量、積載物の重量、車輪の数、路面の状態等の条件により変化することが予想されるため、データ情報は予め行われる詳細なデータ測定に基づいて作成されるようになっている。
【0073】
前後横ずれ量算出部51は、上述したように算出した前側横ずれ量Xfと後側横ずれ量Xrに対して、入力されたカントカントオフセット量Xofをそれぞれ加算して、新たに前側横ずれ量Xfと後側横ずれ量Xrを設定するようになっている。即ち、前後横ずれ量算出部51は、
図18に示すように、前側ガイドセンサ11Fを用いて算出した前側横ずれ量Xfにカントオフセット量Xofを加算することで補正前側横ずれ量Xffを算出し、この補正前側横ずれ量Xffを新たな前側横ずれ量Xfとして、目標設定部52に出力している。同様に、後側ガイドセンサ11Rを用いて算出した後側横ずれ量Xrにカントオフセット量Xofを加算することで補正後側横ずれ量Xrrを算出し、この補正後側横ずれ量Xrrを新たな後側横ずれ量Xrとして、目標設定部52に出力している。
【0074】
こうして、本実施形態のカントオフセット処理では、作業車1が横断勾配角γを有する走行路SKを走行するときに、
図19に示すように、車体1に横ずれが生じていない状態でも、カントオフセット量Xofを加算して前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrを算出する。このため、前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrがゼロにならず、作業車1を上り方向に上昇させるように各車輪W1〜W16が操舵される。従って、作業車1を上り方向に上昇させる力F1と作業車1に作用する下り方向の重力とを均衡させることができ、車体10の横ずれを残さずに作業車1を走行させることができる。
【0075】
また、本実施形態の誘導制御では、制御精度を向上するために、補正処理として操舵速度の可変処理を行っている。先ず、操舵速度の可変処理を行わない場合の上述した誘導制御の問題点について説明する。上述した誘導制御においては、各車輪W1〜W16の操舵速度をできるだけ大きくすることにより各車輪W1〜W16の操舵応答性が良くなり、車体10の横ずれ量の振幅を小さくすることができる。しかし、高速走行時に操舵応答性を求めると、低速走行時に過敏な操舵動作となり、頻繁な操舵動作や振動によって操舵装置やタイヤの寿命を縮めるおそれがある。
【0076】
そこで、本実施形態の誘導制御では、上記した問題点に対処すべく、高速走行時には操舵速度を上げて、低速走行時には操舵速度を下げるように、操舵速度の可変処理を行っている。具体的に、操舵速度の可変処理を行うために、
図6に示すように、制御装置50に操舵ゲイン設定部59が設けられている。ここで、上述したように、操舵制御部56は、目標値として演算された各操舵角φNと現在の操舵角との差分に対して、操舵ゲインXgを乗算して各操舵用モータ30への制御指令値を作成している。この制御ゲインXgは操舵応答性(操舵速度)に影響する値であり、制御ゲインXgが大きいほど操舵応答性が良くなる。
【0077】
このため、操舵ゲイン設定部59は、走行速度Vに比例して操舵ゲインXgを大きく設定するようになっている。即ち、操舵ゲイン設定部59は、走行速度測定部57から走行速度Vを入力して、
図20に示すように、走行速度Vに比例した操舵ゲインXgを設定する。従って、走行速度Vが0km/hである場合には、操舵ゲインXgはXga(例えば3000)に設定され、走行速度VがVf(例えば10km/h)まで操舵ゲインXgが走行速度Vに比例して大きくなり、走行速度VがVf以上である場合には、操舵ゲインXgがXgb(例えば4000)で一定に設定される。
【0078】
こうして、本実施形態の操舵速度の可変処理では、低速走行時に操舵ゲインXgを小さくすることで、各車輪W1〜W16の操舵応答性を低くする。これにより、頻繁な操舵動作や振動を抑えることができ、走行装置やタイヤの寿命を延ばすことができる。一方、高速走行時に操舵ゲインXgを大きくすることで、各車輪W1〜W16の操舵応答性を高くする。これにより、車体10の横ずれの修正を早く行うことができる。こうして、作業車1の機器を保護することと、制御の精度を向上することの両立を図ることができる。
【0079】
本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態の作業車の誘導システムによれば、作業車1の制御装置50が、前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xrを算出する。次に、走行ライン(マグネットテープMG)の上に目標位置P1を設定し、目標距離Lを設定する。そして、目標距離Lと前側横ずれ量Xfと後側横ずれ量Xrとに基づいて、仮想前輪Wfの前側中央操舵角θfを演算すると共に、仮想後輪Wrの後側中央操舵角θrを演算する。これにより、車両の旋回中心Qを決定して、この旋回中心Qに基づいて各車輪W1〜W16の各操舵角φNを演算する。
【0080】
こうして、現時点で生じている前側横ずれ量Xf及び後側横ずれ量Xr、目標距離L、旋回中心Qに応じて、各車輪W1〜W16の各操舵角φNを逐次演算して、各車輪W1〜W16をそれぞれ独立して操舵する。従って、作業車1を逐次最適に旋回及び斜行させるため、元の正しい姿勢に戻る際に大きく旋回することがない。この結果、幅が狭くて任意の長距離であり且つ比較的大きな横断勾配角γを有する走行路SKであっても、各車輪W1〜W16が走行路SKから落ちることなく作業車1を走行させることができる。そして、上述したように、誘導制御の補正処理として、後軸リミット処理、カントオフセット処理、操舵速度の可変処理を行うことにより、最大限の積載物を搭載して走行速度がVが15km/hである状態で、最大の横断勾配角γ(約10deg)を有する走行路SKに対して、車体10の横ずれ量が±50mm以内で作業車1を走行させることができる。
【0081】
また、本実施形態の作業車の誘導システムによれば、前側ガイドセンサ11F及び後側ガイドセンサ11Rが検知するマグネットテープMGは、走行路SKの走行ラインに沿って連続的に配置されている。このため、長距離である走行路SKにおいて作業車1はどの位置でも走行開始及び走行停止ができる。また、制御装置50で行われる制御が途切れることがないため、マグネットテープMGが離散的に配置されている場合に比べて、制御の精度を向上させることができる。
【0082】
ところで、作業車を自動で操舵して走行させる従来技術として、従来の特許文献2に記載された無人搬送車の誘導システム(以下、「従来の誘導システム」と呼ぶ)がある。そこで、従来の誘導システムと本実施形態の作業車の誘導システムとの違いについて説明する。
図21は、従来の誘導システムを説明するための図である。
【0083】
先ず、従来の誘導システムでは、
図21に示すように、前方左側車輪D1と前方右側車輪D2と後方左側車輪D3と後方右側車輪D4とを備えた無人搬送車301を、前側の中央位置に仮想前輪DFを備えると共に後方の中央位置に仮想後輪DBを備えた2輪の無人搬送車301として考えている。そして、前提条件として、前方左側車輪D1の操舵角β1と前方右側車輪D2の操舵角β2の平均値を、仮想前輪DFの操舵角ΔFとし、後方左側車輪D3の操舵角β3と後方右側車輪D4の操舵角β4の平均値を、仮想後輪DBの操舵角ΔBとしている。
【0084】
しかしながら、仮想前輪DFの操舵角ΔFと仮想後輪DBの操舵角ΔBを決定しても、仮想前輪DFの操舵角ΔFから操舵角β1と操舵角β2とにどのように分配されるかが明らかになっていないと共に、仮想後輪DBの操舵角ΔBから操舵角β3と操舵角β4とにどのように分配されるかが明らかになっていない。これに対して、本実施形態の作業車の誘導システムでは、上述したように、各操舵角φNは、それぞれ独立して明確に演算できるようになっている。
【0085】
更に、従来の誘導システムでは、
図21に示すように、旋回中心S2が、車両中心Z1から車体の幅方向に延びる軸線N1上に位置することを前提としている。このため、この制限された旋回中心S2の位置に基づいて、各操舵角β1,β2,β3,β4が決定される。従って、仮に従来の誘導システムを用いて、無人搬送車301を走行路SKの上で走行させると、各車輪D1〜D4が各操舵角β1,β2,β3,β4になるように操舵されるとき、無人搬送車301が大きく旋回する可能性がある。この結果、従来の誘導システムでは、何れかの車輪が走行路SKから落ちて、幅が狭く横断勾配角γを有する走行路SKに対応できないおそれがある。
【0086】
これに対して、本実施形態の作業車の誘導システムでは、旋回中心Qが、車両中心O1から車体10の幅方向に延びる軸線上に位置するとは限らず、前側横ずれ量Xfと後側横ずれ量Xrと目標距離Lとに基づいて任意の位置に設定される。この結果、各操舵角φNは、制限された旋回中心の位置に基づいて決定されたものではなく、現時点での作業車1の姿勢から最適に演算されたものになる。従って、本実施形態の作業車の誘導システムでは、作業車1が大きく旋回することがなく、幅が狭く横断勾配角γを有する走行路SKに適した制御を実行するようになっている。
【0087】
以上、本発明に係る作業車の誘導システムの実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、本実施形態において、速度発電機14を用いて走行速度Vを測定したが、走行速度を測定するための検出器は適宜変更可能である。例えば加速度センサを用いて走行速度を測定しても良い。
また、本実施形態において、各車輪W1〜W16を操舵させる操舵アクチュエータとして、油圧によって作動する操舵用モータ30を用いたが、電動モータであっても良く、適宜変更可能である。
また、本実施形態において、走行路SKには検知対象物としてマグネットテープMGを設け、前側検出器及び後側検出器として前側ガイドセンサ11F及び後側ガイドセンサ11Rを設けたが、検知対象物、前側検出器及び後側検出器の構成は適宜変更可能である。例えば走行路SKには白線を設け、車体10にはこの白線を検知する前側光学センサ及び後側光学センサを設けても良い。
【0088】
また、本実施形態において、前側ガイドセンサ11Fと後側ガイドセンサ11Rは、
図3(B)に示すように、センサ中心S1と車両中心O1とが左右方向(車幅方向)にオフセットするように配置されているが、センサ中心S1と車両中心O1とが左右方向に一致するように配置しても良い。つまり、前側ガイドセンサ11Fと後側ガイドセンサ11Rを車両中心O1に対して左右方向に対称的に配置しても良い。また、前側ガイドセンサ11Fと後側ガイドセンサ11Rは、
図3(B)に示すように、車両中心O1に対して前後方向に対称的に配置されているが、センサ中心S1と車両中心O1とが前後方向にオフセットするように配置しても良い。この場合には、オフセットしている量を考慮して計算することにより、上述した本実施形態のように作業車を誘導することができる。
また、本実施形態の作業車の誘導システムは、有人である作業車1に適用したが、無人搬送車にも適用できるものである。