特開2016-162525(P2016-162525A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-162525(P2016-162525A)
(43)【公開日】2016年9月5日
(54)【発明の名称】X線管装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/14 20060101AFI20160808BHJP
   H01J 35/16 20060101ALI20160808BHJP
   H01J 35/10 20060101ALI20160808BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20160808BHJP
【FI】
   H01J35/14
   H01J35/16
   H01J35/10 C
   H01J35/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-37842(P2015-37842)
(22)【出願日】2015年2月27日
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 智成
(72)【発明者】
【氏名】阿武 秀郎
(57)【要約】
【課題】使用目的に応じて電子ビーム形状を最適な形状に磁気的に変化させることができる回転陽極型X線管装置を提供することである。
【解決手段】本発明の実施形態に係るX線管装置は、電子軌道の方向に電子を射出する陰極と、陰極に対向して設けられ、陰極から射出される電子が衝撃することによってX線を発生するターゲット面を備える陽極ターゲットと、陰極と陽極ターゲットとを収容し、内部が真空気密に密閉される真空外囲器と、電源より直流電流を供給されことによって磁場を形成し、電子軌道に従う直線から偏芯して、真空外囲器の外側に設置され、電子軌道の一部の周囲を包囲する4極子で構成される4極子磁場発生部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子軌道の方向に電子を射出する陰極と、
前記陰極に対向して設けられ、前記陰極から射出される電子が衝撃することによってX線を発生するターゲット面を備える陽極ターゲットと、
前記陰極と前記陽極ターゲットとを収容し、内部が真空気密に密閉される真空外囲器と、
電源より直流電流を供給されことによって磁場を形成し、前記電子軌道に従う直線から偏芯して、前記真空外囲器の外側に設置され、前記電子軌道の一部の周囲を包囲する4極子で構成される4極子磁場発生部と、を備えるX線管装置。
【請求項2】
前記真空外囲器は、当該陽極ターゲットに対向する位置で外側へ延出し、前記陰極を収納し、前記陽極ターゲットと当該陰極との間に周囲より径の小さい小径部を形成される収納部をさらに備え、
前記4極子磁場発生部は、前記小径部の周囲を包囲して配置される請求項1に記載のX線管装置。
【請求項3】
前記真空外囲器は、外側から窪まされた窪み部を備え、前記4極子は該窪み部に収納されている請求項1に記載のX線管装置。
【請求項4】
交流電源より交流電流を供給され、前記4極子磁場発生部の一部に設けられ、当該4極子磁場発生部に4極子に交流磁場を生成する少なくとも一対の双極子を構成する少なくとも1つの偏向コイル部を、さらに備える請求項1乃至請求項3のいずれか1に記載のX線管装置。
【請求項5】
前記陰極および前記ターゲット面は、少なくとも表面部分を高い電気伝導度且つ非磁性体の金属部材で形成されている請求項4に記載のX線管装置。
【請求項6】
前記金属部材は、銅、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル、非磁性ステンレス鋼のいずれか、またはこれらのいずれかを主成分とする金属材料であることを特徴とする請求項5に記載のX線管装置。
【請求項7】
前記4極子磁場発生部の4極子の端面は、それぞれ、前記電子軌道に対する角度が所定の傾斜角度γで設けられ、
前記傾斜角度γは、0°<γ<90°である、請求項3に記載のX線管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、X線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転陽極型X線管装置は、陰極の電子発生源から発生する電子を回転する陽極ターゲットに衝突させ、この陽極ターゲットの電子が衝突して形成されるX線焦点からX線を発生させる装置である。この回転陽極型X線管装置は、一般的に、X線CT装置等で利用される。
【0003】
一般的に、回転陽極型X線管装置は、目的に応じた複数の異なるサイズの電子ビームの焦点を陽極ターゲットに形成するため、形成する焦点の形状に対応するフィラメントと、このフィラメントを収納するための陰極カップに設けられた集束溝とを設置している。また、焦点サイズをより広範囲に連続的に変化させる技術として、4極子磁場を使用して円形の電子ビームを線焦点の形状に変形させる構成等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−106462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、4極子磁場の電子ビームに対する作用は、1方向に収縮させる作用と、その方向に垂直となる方向に膨張させる作用であるため、それぞれの作用を独立に制御することはできない。通常、4極子磁場は、円形の電子ビームを線状もしくは矩形状に変形させる目的で使用されるが、矩形の長さを保ったまま幅だけ狭くすることはできない。また、もともと矩形のビームの長さや幅を独立に変形させることもできない。そのため、X線画像の解像特性と焦点の熱負荷特性の両者を考慮しながら、目的に応じた最適な焦点形状を形成することは困難である。
【0006】
したがって、本発明の実施形態が解決しようとする課題は、使用目的に応じて電子ビーム形状を最適な形状に磁気的に変化させることができる回転陽極型X線管装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るX線管装置は、電子軌道の方向に電子を射出する陰極と、陰極に対向して設けられ、陰極から射出される電子が衝撃することによってX線を発生するターゲット面を備える陽極ターゲットと、陰極と陽極ターゲットとを収容し、内部が真空気密に密閉される真空外囲器と、電源より直流電流を供給されことによって磁場を形成し、電子軌道に従う直線から偏芯して、真空外囲器の外側に設置され、電子軌道の一部の周囲を包囲する4極子で構成される4極子磁場発生部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態のX線管装置の一例を示す断面図である。
図2A図2Aは、第1の実施形態のX線管の概要を示す断面図である。
図2B図2Bは、図2AのIIA−IIA線に沿った断面図である。
図2C図2Cは、図2BのIIB1−IIB1線に沿った断面図である。
図3図3は、第1の実施形態の4極子磁場発生部の原理を示す断面図である。
図4図4は、第2の実施形態のX線管の概要を示す断面図である。
図5図5(a)は、第2の実施形態の双極子磁場の原理を示す図であり、図5(b)は、第2の実施形態の4極子磁場発生部の原理を示す図である。
図6A図6Aは、第2の実施形態の変形例1のX線管の概要を示す図である。
図6B図6Bは、図6AのVIA−VIA線に沿った断面図である。
図7図7(a)は、第2の実施形態の変形例1の4極子磁場の原理を示す断面図であり、図7(b)は、第2の実施形態の変形例1の双極子磁場の原理を示す断面図であり、図7(c)は、第2の実施形態の変形例1の4極子磁場発生部の原理を示す断面図である。
図8図8は、第2の実施形態の変形例2のX線管の概要を示す断面図である。
図9図9は、図8のVIII−VIII線に沿った断面図である。
図10図10は、第3の実施形態のX線管装置の一例を示す断面図である。
図11A図11Aは、第3の実施形態のX線管の概要を示す断面図である。
図11B図11Bは、図11AのXIA−XIA線に沿った断面図である。
図11C図11Cは、図11BのXIB1−XIB1線に沿った断面図である。
図11D図11Dは、図11BのXIB2−XIB2線に沿った断面図である。
図11E図11Eは、図11EのXID−XID線に沿った断面図である。
図12図12(a)は、第3の実施形態の4極子磁場の原理の原理を示す断面図であり、図12(b)は、第3の実施形態の双極子の原理を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら実施形態に係るX線管装置について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態のX線管装置10の一例を示す断面図である。
図1に示すように、第1の実施形態のX線管装置10は、大別すると、ステータコイル8と、ハウジング20と、X線管30と、高電圧絶縁部材39と、4極子磁場発生部60と、リセプタクル301、302と、X線遮蔽部510、520、530、540とを備えている。例えば、X線管装置10は、回転陽極側X線管装置である。X線管30は、例えば、回転陽極型のX線管である。例えば、X線管30は、中性点接地型の回転陽極型X線管である。X線遮蔽部510、520、530、及び540は、それぞれ、鉛で形成されている。
【0010】
X線管装置10において、ハウジング20の内側とX線管30の外側との間に形成される空間には、冷却液である絶縁油9が充填されている。例えば、X線管装置10は、この絶縁油9をハウジング20とホース(図示せず)で接続された循環冷却システム(冷却器)(図示せず)によって循環させて冷却するように構成されている。この場合、ハウジング20は、絶縁油9の導入口及び排出口を備えている。循環冷却システムは、例えば、ハウジング20内の絶縁油9を放熱及び循環させる冷却器と、冷却器をハウジング20の導入口及び排出口に液密及び気密に連結する導管(ホースなど)とを備えている。冷却器は、循環ポンプ及び熱交換器を有している。循環ポンプは、ハウジング20側から取り入れた絶縁油9を熱交換器に吐出し、絶縁油9の流れをハウジング20内に作り出す。熱交換器は、ハウジング20及び循環ポンプ間に連結され、絶縁油9の熱を外部へ放出する。
【0011】
以下で、図面を参照してX線管装置10の詳細な構成について説明する。
ハウジング20は、筒状に形成されたハウジング本体20eと、蓋部(側板)20f、20g、20hとを備えている。ハウジング本体20e、及び蓋部20f、20g、20hは、アルミニウムを用いた鋳物で形成される。樹脂材料を使用する場合は、ネジ部など強度を必要をとする箇所や、樹脂の射出成形で成形し難い箇所、またハウジング20の外部への電磁気ノイズの漏えいを防止する遮蔽層(図示せず)など、部分的に金属を併用してもよい。ここで、ハウジング本体20eの円筒の円の中心を通る中心軸を管軸TAとする。
【0012】
ハウジング本体20eの開口部には、環状の段差部がハウジング本体20eの肉厚よりも薄肉厚の内周面として形成されている。この段差部の内周に沿って環状の溝部が形成されている。ハウジング本体20eの溝部は、段差部の段差から管軸TAに沿って外側方向へ所定の長さの位置に切削されて形成されている。ここで、所定の長さは、例えば、蓋部20fの厚さとほぼ同等の長さである。ハウジング本体20eの溝部には、C形止め輪20iが嵌合されている。すなわち、ハウジング本体20eの開口部は、蓋部20f及びC形止め輪20iなどにより液密に閉塞されている。
【0013】
蓋部20fは、円盤形状で形成されている。蓋部20fは、外周部に沿ってゴム部材j2aが設けられ、ハウジング本体20eの開口部に形成された段差部に嵌合されている。
ゴム部材2aは、例えば、Oリング状に形成されている。前述のように、ゴム部材2aは、ハウジング本体20eと蓋部20fとの間に設けられ、これらの間を液密にシールしている。X線管装置10の管軸TAに沿った方向において、蓋部20fの周縁部は、ハウジング本体20eの段差部に接触している。
【0014】
C形止め輪20iは、固定部材である。C形止め輪20iは、蓋部20fの管軸TAに沿った方向へ動きを制止するために、前述のようにハウジング本体20eの溝部に嵌合され、蓋部20fを固定する。
【0015】
蓋部20fの設置されたハウジング本体20eの開口部と反対側の開口部には、蓋部20g及び蓋部20hが嵌合されている。すなわち、蓋部20g及び蓋部20hは、それぞれ、蓋部20fの設置されたハウジング本体20eの端部の反対側の端部で、蓋部20fと平行に、且つ互いに対向して設置されている。蓋部20gは、ハウジング本体20eの内側の所定の位置に嵌合して、液密に設けられている。ハウジング本体20eの蓋部20hが設置されている端部において、蓋部20hの設置位置に隣接する外側の内周部には、環状の溝部が形成されている。蓋部20g及び蓋部20hの間には、ゴム部材2bが伸縮可能に液密を保持するように設置されている。この蓋部20hは、ハウジング本体20eにおいて、蓋部20gよりも外側に設けられている。この溝部には、C形止め輪20jが嵌合されている。すなわち、ハウジング本体20eの開口部は、蓋部20g、蓋部20h、C形止め輪20j及びゴム部材2bなどにより液密に閉塞されている。
【0016】
蓋部20gは、ハウジング本体20eの内周とほぼ同径の円形形状で形成されている。蓋部20gは、絶縁油9を注入及び排出するための開口部20kを備えている。
蓋部20hは、ハウジング本体20eの内周とほぼ同径の円形形状に形成されている。蓋部20hは、雰囲気としての空気が出入りする通気孔20mが形成されている。
【0017】
C形止め輪20jは、蓋部20hがゴム部材2bの周縁部(シール部)へ圧着されている状態を保持する固定部材である。
ゴム部材2bは、ゴムベローズ(ゴム膜)である。ゴム部材2bは、円形形状に形成されている。また、ゴム部材2bの周縁部(シール部)は、Oリング状に形成されている。ゴム部材2bは、ハウジング本体20eと蓋部20gと蓋部20hとの間に設けられ、これらの間を液密にシールしている。ゴム部材2bは、ハウジング本体20eの端部の内周に沿って設置されている。すなわち、ゴム部材2bは、ハウジング内の一部分の空間を分離するように設けられる。本実施形態において、ゴム部材2bは、蓋部20gと蓋部20hとで包囲される空間に設置され、この空間を2つに液密に分離する。ここで、蓋部20g側の空間を第1の空間と称し、蓋部20h側の空間を第2の空間と書する。第1の空間は、絶縁油9が充填されているハウジング本体20eの内側の空間と開口部20kを介して繋がっている。そのため、第1の空間は、絶縁油9で満たされている。第2の空間は、外部空間と通気孔20mを介して繋がっている。そのため、第2の空間は、空気雰囲気である。
【0018】
ハウジング本体20eは、一部に貫通する開口部20oが形成されている。開口部20oには、X線放射窓20w及びX線遮蔽部540が設置されている。開口部20oは、これらX線放射窓20w及びX線遮蔽部540によって液密に閉塞されている。詳細には後述するが、X線遮蔽部520及び540は、開口部20oにおけるハウジング20の外部へのX線放射を遮蔽するために設置されている。
【0019】
X線放射窓20wは、X線を透過する部材で形成されている。例えば、X線放射窓20wは、X線を透過する金属で形成されている。
X線遮蔽部510、520、530、及び540は、少なくとも鉛を含むX線不透過材で形成されていればよく、鉛合金等で形成されていてもよい。
【0020】
X線遮蔽部510は、蓋部20gの内側の面に設けられている。X線遮蔽部510は、X線管30から放射されるX線を遮蔽するものである。X線遮蔽部510は、第1の遮蔽部511及び第2の遮蔽部512を備えている。第1の遮蔽部511は、蓋部20gの内側の面に接合されている。第1の遮蔽部511は、蓋部20gの内側の表面全体を覆うように設置される。また、第2の遮蔽部512は、一端部が第1の遮蔽部511の内側の面に積層され、他端部が開口部20kに対して管軸TAに沿う方向のハウジング本体20eの内側に間隔をあけて配置されるように設置される。すなわち、第2の遮蔽部512は、開口部20kを介して絶縁油9が出入り可能なように設置されている。
【0021】
X線遮蔽部520は、略円筒状に形成されている。X線遮蔽部520は、ハウジング本体20eの内周部の一部に設置されている。X線遮蔽部520の一端部は、第1の遮蔽部511に近接している。このため、X線遮蔽部510及びX線遮蔽部520の間の隙間から出射する虞れのあるX線を遮蔽することができる。X線遮蔽部520は、筒状に形成され、管軸に沿って第1の遮蔽部511からステータコイル8の付近まで延出している。この実施形態において、X線遮蔽部520は、第1の遮蔽部511からステータコイル8の手前まで延出している。X線遮蔽部520は、必要に応じてハウジング20に固定されている。
【0022】
X線遮蔽部530は、筒形状に形成され、ハウジング20内部の後述のリセプタクル302の外周に沿って嵌め込まれている。X線遮蔽部530は、円筒の一端部がハウジング本体20eの壁面に接するように設けられる。このとき、X線遮蔽部520には、X線遮蔽部530の一端部を通すための孔が形成されている。X線遮蔽部530は、後述のリセプタクル302の外周に必要に応じて固定されている。
【0023】
X線遮蔽部540は、枠状に形成され、ハウジング20の開口部20oの側縁に設けられている。X線遮蔽部540は、開口部20oの内壁に沿って設置されている。ハウジング本体20eの内側のX線遮蔽部540の端部は、X線遮蔽部520に接している。X線遮蔽部540は、必要に応じて開口部20oの側縁に固定されている。
【0024】
陽極用のリセプタクル301及び陰極用のリセプタクル302は、それぞれ、ハウジング本体20eに接続されている。リセプタクル301、302は、それぞれ、開口部を備える有底の筒状に形成されている。リセプタクル301、302は、それぞれ、底部がハウジング20の内部に設置され、且つ開口部が外側に向かって開口している。例えば、リセプタクル301、302は、相互に、ハウジング本体20eにおいて所定の間隔を空けて設置され、且つ開口部が同じ方向を向いて設置されている。
【0025】
リセプタクル301及びリセプタクル301に挿入されるプラグ(図示せず)は、非面圧式であり、着脱可能に形成されている。プラグをリセプタクル301に連結した状態で、プラグから端子201に高電圧(例えば、+70〜+80kV)が供給される。
【0026】
リセプタクル301は、ハウジング20において蓋部20f側で、且つ蓋部20fよりも内側に設置されている。リセプタクル301は、電気絶縁部材としてのハウジング321と、高電圧供給端子としての端子201とを有している。
【0027】
ハウジング321は、絶縁性の材料として、例えば、樹脂で形成されている。ハウジング321は、プラグ差込口が外側に開口する有底の円筒形状に形成されている。ハウジング321は、底部に端子201を備えている。ハウジング321は、開口側の端部において、外面に環状の突出部が形成されている。このハウジング321の突出部は、ハウジング本体20eの突出部の端部に形成された段差である段差部20eaに嵌合するように形成される。端子201は、ハウジング321の底部に液密に取り付けられ、上記底部を貫通している。端子201は、絶縁被覆配線を介して後述する高電圧供給端子44と接続されている。
【0028】
また、ハウジング321の突出部とハウジング本体20eとの間には、ゴム部材2fが設けられている。ゴム部材2fは、ハウジング321の突出部と段差部20eaの段差部分との間に設置され、ハウジング321の突出部とハウジング本体20eとの間を液密にシールしている。この実施形態において、ゴム部材2fは、Oリングで形成されている。ゴム部材2fは、ハウジング20外部への絶縁油9の漏れを防止する。ゴム部材2fは、例えば、硫黄加硫ゴムで形成されている。
【0029】
ハウジング321は、リングナット311によって固定されている。リングナット311は、外周部にネジ溝が形成されている。例えば、リングナット311の外周部が雄ネジに加工され、段差部20eaの内周部が雌ネジに加工されている。したがって、リングナット311が螺合されることによって、ハウジング321の突出部は、ゴム部材2fを介して段差部20eaに押し付けられる。その結果、ハウジング321は、ハウジング本体20eに固定される。
【0030】
リセプタクル302は、ハウジング20において蓋部20g側で、且つ蓋部20gよりも内側に設置されている。リセプタクル302は、リセプタクル301とほぼ同等に形成されている。リセプタクル302は、電気絶縁部材としてのハウジング322と、高電圧供給端子としての端子202とを有している。
【0031】
ハウジング322は、絶縁性の材料として、例えば、樹脂で形成されている。ハウジング322は、プラグ差込口が外側に開口する有底の円筒形状に形成されている。ハウジング322は、底部に端子201を備えている。ハウジング322は、開口側の端部において、外面に環状の突出部が形成されている。このハウジング322の突出部は、ハウジング本体20eの突出部の端部に形成された段差である段差部20ebに嵌合するように形成される。端子202は、ハウジング321の底部に液密に取り付けられ、上記底部を貫通している。端子202は、絶縁被覆配線を介して後述する高電圧供給端子54と接続されている。
【0032】
また、ハウジング322の突出部とハウジング本体20eとの間には、ゴム部材2gが設けられている。ゴム部材2gは、ハウジング322の突出部と段差部20ebの段差部分との間に設置され、ハウジング321の突出部とハウジング本体20eとの間を液密にシールしている。この実施形態において、ゴム部材2gは、Oリングで形成されている。ゴム部材2gは、ハウジング20外部への絶縁油9の漏れを防止する。ゴム部材2gは、例えば、硫黄加硫ゴムで形成されている。
【0033】
ハウジング322は、リングナット312によって固定されている。リングナット312は、外周部にネジ溝が形成されている。例えば、リングナット312の外周部が雄ネジに加工され、段差部20ebの内周部が雌ネジに加工されている。したがって、リングナット312が螺合されることによって、ハウジング322の突出部は、ゴム部材2gを介して段差部20ebに押し付けられる。その結果、ハウジング322は、ハウジング本体20eに固定される。
【0034】
図2Aは、第1の実施形態のX線管30の概要を示す断面図であり、図2Bは、図2AのIIA−IIA線に沿った断面図であり、図2Cは、図2BのIIB−IIB線に沿った断面図である。図2Cにおいて、管軸TAに直交する直線を直線L1とし、管軸TA及び直線L1に直交する直線を直線L2とする。
【0035】
X線管30は、固定軸11、回転体12、軸受け13と、ロータ14と、真空外囲器31と、真空容器32と、陽極ターゲット35と、陰極36と、高電圧供給端子44と、高電圧供給端子54と、を備えている。
図2Cにおいて、陰極36の中心、または電子ビームの射出方向に沿った直線に直交し、且つ直線L2に平行な直線を直線L3とする。
【0036】
固定軸11は、円柱状に形成されている。固定軸11は、軸受け13を介して回転体12を回転可能に支持する。固定軸11は、一方の端部に真空外囲器31に気密に取り付けられている突出部を備える。固定軸11は、突出部が高電圧絶縁部材39に固定されている。このとき、固定軸11の突出部の先端部は、高電圧絶縁部材39を貫通している。固定軸11の突出部は、この先端部に高電圧供給端子44が電気的に接続されている。
【0037】
回転体12は、有底の筒状に形成されている。回転体12は、内部に固定軸11が挿入され、この固定軸11と同軸で設置されている。回転体12は、底部側の先端部で後述する陽極ターゲット35と接続され、陽極ターゲット35とともに回転可能に設けられている。
軸受け13は、回転体の内周部と固定軸11の外周部の間に設置されている。
ロータ14は、円筒状に形成されたステータコイル8の内側に配置されるように設けられている。
高電圧供給端子44は、固定軸11、軸受け13及び回転体12を介して陽極ターゲット35に相対的に正の電圧を印加する。高電圧供給端子44は、リセプタクル301に接続され、図示しないプラグ等の高電圧供給源がリセプタクル301に接続された場合に電流を供給される。高電圧供給端子44は、金属端子である。
【0038】
陽極ターゲット35は、円盤状に形成されている。陽極ターゲット35は、回転体12の底部側の先端部に回転体12と同軸に接続されている。例えば、回転体12及び陽極ターゲット35は、中心軸が管軸TAに沿って設置される。すなわち、回転体12及び陽極ターゲット35の軸線は、管軸TAと平行である。この場合、回転体12及び陽極ターゲット35は、管軸TAを中心に回転自在に設けられている。
【0039】
陽極ターゲット35は、この陽極ターゲットの外面の一部に設けられた傘状のターゲット層35aを有している。ターゲット層35aは、陰極36から射出される電子が衝撃することによってX線を放出する。陽極ターゲット35の外側面や、陽極ターゲット35のターゲット層35aと反対側の表面には、黒色化処理が施されている。陽極ターゲット35は、非磁性体、且つ電気伝導度(電気伝導性)が高い部材で形成されている。例えば、陽極ターゲット35は、銅、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル、非磁性ステンレス鋼等で形成されている。なお、陽極ターゲット35は、少なくとも表面部分に非磁性体、且つ電気伝導度が高い金属部材で形成されている構成でもよい。または、陽極ターゲット35は、表面部分を非磁性体、且つ電気伝導度が高い金属部材で形成された被覆部材で被覆されている構成でもよい。
【0040】
非磁性体は、交流磁界内に配置された場合に、電気伝導度が低い場合よりも高い場合の方がより強力に渦電流に基づく反対向きの交流磁界の作用による磁力線に歪みを生じさせることができる。このように磁力線が歪められるため、陽極ターゲット35に後述する4極子磁場発生部60が近接し、かつ4極子磁場発生部60が交流磁場を発生させる場合であっても、陽極ターゲット35の表面に沿って磁力線が流れるようになり、陽極ターゲット35表面近くの磁界(交流磁界)が強められる。
【0041】
陰極36は、電子(電子ビーム)を射出するフィラメント(電子発生源)を含む。陰極36は、ターゲット層35aに対向する位置に設けられている。陰極36は、陽極ターゲット35の表面から所定の距離を置いて設置されている。陰極36は、陽極ターゲット35に電子を射出する。例えば、陰極36は、円柱状に形成され、その円の中心に設けられるフィラメントから陽極ターゲット35の表面に電子を射出する。このとき、陰極36の中心を通る直線は、管軸TAと平行である。以下で、陰極36から射出される電子の方向とその軌道を電子軌道と記載する場合もある。陰極36には相対的に負の電圧が印加される。陰極36は、後述する陰極支持部(陰極支持体、陰極支持部材)37に取り付けられ、陰極支持部37の内部を通る高電圧供給端子54と接続されている。なお、陰極36を電子発生源と称する場合もある。なお、陰極36において、電子ビームの射出位置は、中心と一致する。この陰極36の中心は、以下で中心を通る直線を含む場合もある。
【0042】
陰極支持部37は、一端部に陰極36を備え、他端部に真空外囲器31(真空容器32)の内壁に接続されている。また、陰極支持部37は、内部に高電圧供給端子54を備えている。図2Aに示すように、陰極支持部37は、真空外囲器31(真空容器32)の内壁面から陰極36の表面まで陽極ターゲット35に向かって延びている。例えば、陰極支持部37は、円柱状に形成され、陰極36と同軸状に設けられる。このとき、陰極支持部37は、一端面が真空外囲器31(真空容器32)の表面に接続され、他端面が陰極36の表面に接続されている。
【0043】
陰極36は、外周全体を覆う非磁性体カバーを備えている。この非磁性体カバーは、陰極36の周囲を囲むように円筒状に設けられている。非磁性体カバーは、例えば、銅、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル、非磁性ステンレス鋼のいずれか、またはこれらのいずれかを主成分とする金属材料などの非磁性金属部材で形成されている。好適には、非磁性体カバーは、電気伝導度が高い部材で形成される。非磁性体カバーは、交流磁界内に配置された場合に、電気伝導度が低い場合よりも高い場合の方がより強力に渦電流に基づく反対向きの交流磁界の作用による磁力線に歪みを生じさせることができる。このように磁力線が歪められるため、陰極36に後述する4極子磁場発生部60が近接し、かつ4極子磁場発生部60が交流磁場を発生させる場合であっても、陰極36の周囲に沿って磁力線が流れるようになり、陰極36の表面近くの磁界(交流磁界)が強められる。なお、陰極36は、少なくとも表面部分を高い電気伝導度且つ非磁性体の金属部材で形成されていてもよい。
【0044】
高電圧供給端子54は、一端部が陰極支持部37の内部を通って陰極36に接続され、他端部がリセプタクル302に接続され、図示しないプラグ等の高電圧供給源がリセプタクル302に接続された場合に陰極36へ電流を供給する。高電圧供給端子54は、金属端子である。高電圧供給端子54は、陰極36に相対的に負の電圧を印加するとともに陰極36の図示しないフィラメント(電子放出源)にフィラメント電流を供給する。
【0045】
真空外囲器31は、真空雰囲気(真空気密)に密閉され、内部に固定軸11、回転体12、軸受け13と、ロータ14と、真空容器32と、陽極ターゲット35と、陰極36と、高電圧供給端子54と、を収納する。
【0046】
真空容器32は、真空気密にX線透過窓38を備えている。X線透過窓38は、陰極36と陽極ターゲット35との間に位置する陽極ターゲット35のターゲット面に対向する真空外囲器31(真空容器32)の壁部に設けられている。X線透過窓38は、例えば、ベリリウム、又はチタン、ステンレス及びアルミニウム等の金属で形成され、X線放射窓20wに対向する部分に設けられている。例えば、真空容器32は、X線を透過する部材としてのベリリウムで形成されたX線透過窓38で気密に閉塞されている。
【0047】
真空外囲器31は、高電圧供給端子44側から陽極ターゲット35周囲まで高電圧絶縁部材39が配置されている。高電圧絶縁部材39は、電気絶縁性の樹脂で形成されている。
真空外囲器31(真空容器32)は、陰極36を設置するための収納部31aを備えている。収納部31aは、陽極ターゲット35と陰極36との間の一部に径が小さくなっている小径部31bを備えている。例えば、収納部31aは、円筒状に形成されている。収納部31aは、真空外囲器31の一部であり、X線透過窓38の近傍から管軸TAに平行な直線の方向に沿ってX線管30の外側へ向かって延出している。また、収納部31aは、陽極ターゲット35の表面に対向するように設けられる。例えば、図2Aに示すように、収納部31aは、陽極ターゲット35の径方向の端部の表面に対向し、且つX線透過窓38の近傍から管軸TAに平行な直線の方向に沿って延出して設けられている。
【0048】
小径部31bは、後述する4極子磁場発生部60を設置する際に陰極36から射出される電子ビームに対する磁場(磁界)の作用を強めるために設けられている。小径部31bは、周囲の収納部31aよりも径が小さくなるように形成されている。図2A及び図2Bに示すように、小径部31bは、陽極ターゲット35と陰極36の間で周囲の収納部31aの径よりも小さい径で形成されている。
【0049】
また、真空外囲器31は、陽極ターゲット35から反射される反跳電子を捕獲する。そのため、真空外囲器31は、反跳電子の衝撃を受けて温度が上昇し易く、通常、銅などの熱伝導度が高い部材で形成される。真空外囲器31は、交流磁界の影響を受ける場合には、反磁界を発生しない部材で構成されることが望ましい。例えば、真空外囲器31は、非磁性体の金属部材で形成される。好適には、真空外囲器31は、交流電流によって過電流を発生させないために非磁性体の高電気抵抗部材で形成される。非磁性体の電気抵抗部材は、例えば、非磁性ステンレス鋼、インコネル、インコネルX、チタン、導電性セラミクス、表面を金属薄膜でコーティングした非導電性セラミクスなどである。
【0050】
高電圧絶縁部材39は、一端が円錐形をし、他端が閉塞した環状に形成されている。高電圧絶縁部材39は、ハウジング20に、直接又は後述のステータコイル8などを介して間接的に固定されている。高電圧絶縁部材39は、固定軸11と、ハウジング20及びステータコイル8との間を電気的に絶縁する。そのため、高電圧絶縁部材39は、ステータコイル8と固定軸11との間に設置されている。すなわち、高電圧絶縁部材39は、X線管30の固定軸11の突出部側のX線管30(真空容器32)を内側に収納するように設置される。
【0051】
図1に戻って、ステータコイル8は、複数個所でハウジング20に固定されている。ステータコイル8は、ロータ14及び高電圧絶縁部材39の外周部を包囲するように設置されている。ステータコイル8は、ロータ14、回転体12及び陽極ターゲット35を回転させる。ステータコイル8に所定の電流が供給されることでロータ14に与える磁界を発生するため、陽極ターゲット35などを所定の速度で回転させる。すなわち、回転駆動装置であるステータコイル8に電流を供給することによって、ロータ14が回転し、ロータ14の回転に従って陽極ターゲット35が回転する。
【0052】
絶縁油9は、ハウジング20の内部で、ゴムベローズ2b、ハウジング本体20e、蓋部20f、リセプタクル301及びリセプタクル302で包囲される空間に充填されている。絶縁油9は、X線管30が発生する熱の少なくとも一部を吸収するものである。
【0053】
図2A乃至図2Cに戻って、4極子磁場発生部60について説明する。
図2B及び図2Cに示すように、4極子磁場発生部60は、コイル64(64a、64b、64c、および64d)と、ヨーク66と、磁極68(68a、68b、68c、および68d)とを備えている。
【0054】
4極子磁場発生部60は、電源から電流を供給されることによって磁場(磁界)を発生させる。4極子磁場発生部60は、供給される電流の強弱や方向等によって発生させる磁場の強度(磁束密度)および磁界の向き等を変更することができる。4極子磁場発生部60は、4つの磁極が、隣り合う磁極が異極性となるように、接近して並べられている4極子(または4重極)で形成されている。隣り合う2つの磁極を1つの双極子、残りの2つの磁極をもう1つの双極子と見た場合、これら2つの双極子が発生する磁場は互いに逆向きとなる。したがって、4極子磁場発生部60は、発生させる磁界によって電子ビームの幅及び高さ等の形状に作用する。電子ビームの「幅」および「高さ」は、それぞれ、X線管30の空間的配置に関係せず、電子ビームの射出方向に従う直線に対して垂直な方向の長さであり、且つ互いに直交する方向の長さである。本実施形態において、4極子磁場発生部60は、4つの磁極68が正方形状に配置されている。詳細は後述するが、4極子磁場発生部60では、ヨーク66の内側には磁極68a、68b、68c、および68dの各々が互いに対向して設けられている。例えば、図2Cに示すように、4極子磁場発生部60では、磁極68aと磁極68dとが対向して設置され、磁極68bと磁極68cとが対向して設置されている。
【0055】
4極子磁場発生部60は、後述するヨーク66の内周部で小径部31bを包囲するように設置されている。4極子磁場発生部60は、陰極36の中心軸と中心が重ならないように偏芯して設置されている。すなわち、4極子磁場発生部60は、陰極36の中心軸から中心位置をずらして(偏芯して)設置されている。このとき、4極子磁場発生部60の中心とは、中空の円形又は多角形で形成される後述のヨーク66の中心と略同一である。例えば、図2Cに示すように、4極子磁場発生部60は、陰極36の中心位置から陽極ターゲット35の中心位置に向かって径方向(または直線L1に沿って)に移動した位置に設置されている。なお、4極子磁場発生部60は、前述とは異なる電子ビームの軌道(電子軌道)に対して垂直な方向にずらして(偏芯して)設置されていてもよい。
【0056】
コイル64は、4極子磁場発生部60のための電源(図示せず)から電流を供給され、磁場を発生する。例えば、コイル64は、電磁コイルである。本実施形態において、コイル64は、電源(図示せず)から直流電流が供給されている。コイル64は、複数のコイル64a、64b、64c、および64dを備えている。コイル64a乃至64dは、それぞれ、後述する磁極68a、68b、68c、及び68dの一部の周囲に巻かれている。
【0057】
ヨーク66は、中空の多角形状または中空円筒状に形成されている。ヨーク66は、軟磁性体、且つ交流磁界によって渦電流が発生し難い高電気抵抗体で形成される。例えば、Fe−Si合金(珪素鋼)、Fe−Al合金、電磁ステンレス鋼、パーマロイなどのFe−Ni高透磁率合金、Ni−Cr合金、Fe−Ni−Cr合金、Fe−Ni−Co合金、Fe−Cr合金などからなる薄板を電気絶縁膜で挟んで積層させた積層体や、これら材料からなる線材を電気絶縁膜で覆ってから束にして固めた集合体等で形成されている。または、ヨーク66は、前述のこれら材料を1μm程度の微細な粉末にしてその表面を電気絶縁膜で覆ってから圧縮成形により形成した成形体等で形成されてもよい。さらに、ヨーク66は、ソフトフェライト等で形成されていてもよい。
【0058】
磁極68は、複数の磁極68a、68b、68c、および68dを備える。磁極68a、68b、68c、および68dは、それぞれ、ヨーク66の内周壁に設けられている。磁極68a乃至68dは、小径部31bの周囲で電子ビームの電子軌道を包囲するように配置されている。すなわち、4極子磁場発生部60において、磁極68a乃至68dは、それぞれ、陰極36に含まれるフィラメントから射出される電子の射出方向に対して垂直な方向の位置で陽極ターゲット35の回転方向に均等に配置されている。例えば、、図2Cに示すように、すなわち、磁極68a乃至68dは、それぞれ、正方形の頂点の位置に配置されているように設置される。好適には、磁束密度を高めるために、磁極68a乃至68dは、それぞれ、陰極36に含まれるフィラメントから射出される電子の射出方向(電子軌道)に近づけて設置される。
【0059】
磁極68a乃至68dは、互いに略同形状で形成されている。磁極68a乃至68dは、それぞれ、互いに対となる2つ双磁極子を含んでいる。例えば、磁極68aおよび磁極68bが、双極子(磁極対68a、68b)であり、磁極68cおよび磁極68dが、双極子(磁極対68c、68d)である。このとき、各々のコイル64(64a、64b、64c、及び64d)を介して磁極68に直流電流が供給された場合、磁極対68a、68bと磁極対68c、68dとは、互いに逆向きの直流磁場を形成する。磁極68a乃至68dは、それぞれ、磁束密度を高めるために陰極36から射出される電子ビームの形状を変形させるために、陰極36から射出された電子ビームの電子軌道に対して表面(端面)を向けて設置されている。
【0060】
図面を参照して本実施形態の4極子磁場発生部60の原理について以下で説明する。
図3は、本実施形態の4極子磁場発生部の原理を示す図である。図3において、X方向およびY方向は、電子ビームの射出する方向に垂直な方向であり、且つ互いに直交する。また、X方向は、磁極68b(磁極68a)側から磁極68d(磁極68c)側へ向かう方向であり、Y方向は、磁極68d(磁極68b)側から磁極68c(磁極68a)側へ向かう方向である。
【0061】
図3において、電子ビームBM1が図面の手前側から奥側に向かって進行しているものとする。電子ビームBM1は、円形状に射出されるものとする。また、図3において、磁極68aは、N極磁場を発生し、磁極68bは、S極磁場を発生し、磁極68cは、S極磁場を発生し、磁極68dは、N極磁場を発生している。このような場合、磁極68cから磁極68aおよび磁極68dに向かう磁場と、磁極68bから磁極68aおよび磁極68dに向かう磁場とが形成される。電子ビームBM1は、磁極68a乃至68dで包囲される空間の略中心を通るとすると、生成された磁場のローレンツ力によってX方向で互いに向かい合う方向に変形させられ、Y方向で互いに離れる方向に変形させられる。本実施形態において、4極子磁場発生部60は、陰極36の中心位置から中心を陽極ターゲット35の径方向(またはY方向)へ偏芯して設置されている。このため、電子ビームBM1は、X方向で互いに向かい合う方向のローレンツ力と、Y方向のいずれかの一方向に向かうローレンツ力との作用を強く受けることになる。例えば、図3に示すように、電子ビームBM1は、X方向で互いに向かい合う方向のローレンツ力と、Y方向(陽極ターゲット35の径方向)において陽極ターゲット35の中心に向かう方向と反対方向に向かうローレンツ力との作用を強く受ける。すなわち、4極子磁場発生部60は、陰極36から射出される電子ビームに対する位置を変更することで電子ビームに作用する磁界(磁場)の作用の強度が変化する。その結果、図3に示すように、電子ビームBM1は、X方向の幅が小さくなるが、Y方向の長さがほぼ変形せず、且つY方向(または、陽極ターゲット35の径方向)において陽極ターゲット35の中心へ向かう方向と反対方向へ偏向する。
【0062】
本実施形態では、X線管装置1が駆動された場合に、陰極36に含まれるフィラメントから陽極ターゲット35上の電子が衝撃する焦点へ向けて電子が射出される。ここで、電子が射出される方向(電子軌道)は、陰極36の中心を通る直線に沿っているものとする。4極子磁場発生部60は、コイル64(コイル64a乃至コイル64d)の各々に図示しない電源から直流電流が供給される。電源から直流電流が供給されると、4極子磁場発生部60は、4極子である磁極68a乃至68dの間に磁界(磁場)を発生させる。陰極36から射出される電子ビームは、陰極36と陽極ターゲット35との間に生成される磁界を横切るように陽極ターゲット35へ衝撃する。このとき、電子ビームは、4極子磁場発生部60によって生成された磁場によってビーム形状が形成(集束)される。本実施形態において、4極子磁場発生部60は、陽極ターゲット35の径方向に中心位置をずらして(偏芯して)設置されている。このため、4極子磁場発生部60は、陰極36の中心軸と同軸で配置される場合と異なり、ビーム幅を細くし、かつ電子ビームを陽極ターゲット35の径方向へ偏向することができる。例えば、図3に示すように、4極子磁場発生部60は、円形状に射出される電子ビームをX方向に縮めることによって楕円形状に変形(集束)させ、且つY方向(陽極ターゲット35の径方向)において陽極ターゲット35の中心へ向かう方向と反対方向へ電子ビームを偏向することができる。この場合、4極子磁場発生部60は、電子ビームを見かけ上の焦点は小さく、実際に陽極ターゲット35面上に衝撃する焦点は広くすることができる。その結果、陽極ターゲット35に対する熱的負荷が軽減される。
【0063】
本実施形態によれば、X線管装置1は、X線管30と、電子ビームを形成する磁界を生成する4極子磁場発生部60とを備えている。4極子磁場発生部60は、電源からコイル64に直流電流が供給されることによって磁極68a乃至68dの間に磁界を生じさせる。4極子磁場発生部60は、磁極68a乃至68dによって生成する磁場によって陰極36から射出される電子ビームを変形及び偏向することができる。このとき、4極子磁場発生部60は、所望のビーム形状と偏向方向とに応じて電子ビームの軌道の位置から中心位置を移動させて設置されている。したがって、本実施形態のX線管装置1は、使用目的に応じて電子ビーム形状を最適な形状に磁気的に変化させることができる。
【0064】
次に他の実施形態に係るX線管装置について説明する。他の実施形態において、前述した第1の実施形態と同一の部分には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
(第2の実施形態)
第2の実施形態のX線管装置1は、第1の実施形態の構成に加えて、さらに電子ビームを偏向するためのコイルを備えている。
図4は、第2の実施形態のX線管装置の概要を示す図である。
図4に示すように、第2の実施形態の4極子磁場発生部60は、さらに偏向コイル部69a、69bを備えている。
【0065】
4極子磁場発生部60は、2つの対となる磁極から発生する磁場が互いに同じ向きとなるような双極子直流磁場を重畳して発生させる。4極子磁場発生部60は、対となる磁極68a及び磁極68cと対となる磁極68b及び磁極68dとを備えている。磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとは、それぞれ、双極子として磁場を形成する。4極子磁場発生部60は、後述する偏向コイル69a、69bの各々に電流が供給されることによって磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとの間に生成されている直流磁場にさらに直流磁場を重畳して磁界(磁場)を形成する。
【0066】
4極子磁場発生部60は、電源(図示せず)から後述する偏向コイル部69a、69bの各々に供給される直流電流が偏向電源制御部(図示せず)によって制御されている。4極子磁場発生部60は、電子軌道に対して垂直は方向に中心を偏芯して設置することによって、所望の方向の電子ビームの形状を変形させ、且つ偏向することができる。例えば、図4に示すように、4極子磁場発生部60は、陰極36から射出される電子ビームの幅を細く変形させ、且つ幅の変形に伴う径方向への移動を偏向によって補正することができる。すなわち、4極子磁場発生部60は、陽極ターゲット35の面上で電子ビームが衝撃する焦点の位置の調整と焦点での熱的な負荷の軽減とをすることができる。
【0067】
偏向コイル部69a、69b(第1の偏向コイル部、第2の偏向コイル部)は、電源(図示せず)から電流が供給され、磁場を発生する電磁コイルである。本実施形態において、偏向コイル部69a、69bは、それぞれ、電源(図示せず)から直流電流が供給され、直流磁場を生成する。偏向コイル部69a、69bは、供給される電流の電流比を変えることにより、電子ビームの軌道を所定の方向に偏向することできる。偏向コイル部69a、69bは、それぞれ、ヨーク66に接続された磁極68a乃至68dのいずれかの間に巻回される。図4に示すように、偏向コイル部69aは、磁極68a及び68cの間のヨーク66の本体部に巻回される。偏向コイル部69bは、磁極68b及び68dの間のヨーク66の本体部に巻回される。この場合、磁極対68a、68cは、互いの間に直流磁場を生成し、磁極対68b、68dは、互いの間に直流磁場を生成する。
【0068】
図面を参照して本実施形態の4極子磁場発生部60の原理について以下で説明する。
図5(a)は、第2の実施形態の双極子磁場の原理を示す図であり、図5(b)は、第2の実施形態の4極子磁場発生部60の原理を示す図である。図5(a)、および図5(b)において、X方向およびY方向は、それぞれ電子ビームの射出する方向に垂直な方向であり、且つ互いに直交する。また、X方向は、磁極68d(磁極68c)側から磁極68b(磁極68a)側へ向かう方向であり、Y方向は、磁極68d(磁極68b)側から磁極68c(磁極68a)側へ向かう方向である。
【0069】
図5(a)及び図5(b)において、電子ビームBM1が図面の手前側から奥側に向かって進行しているものとする。また、図5(a)及び図5(b)において、磁極68a及び磁極68cは、対となる双極子(磁極対)であり、磁極68b及び磁極68dは、対となる双極子(磁極対)である。磁極対68a、68cは、X方向に従う方向に向かう直流磁界を生成し、磁極対68b、68dは、X方向に従う直流磁界を生成する。ここで、偏向コイル部69a、69bの作用を受けない場合、4極子磁場発生部60は、第1の実施形態の図3に示すような磁場を生成するものする。
【0070】
図5(a)に示すように、偏向コイル部69aは、磁極68aにN極磁場を生成し、磁極68cにS極磁場を生成するものとする。同様に、偏向コイル部69bは、磁極68bにN極磁場を生成し、磁極68dにS極磁場を生成する。したがって、磁極68aから磁極68cへ向かう磁界と磁極68bから磁極68dへ向かう磁界とが、それぞれ、偏向コイル部69a及び偏向コイル部69bによって形成される。
【0071】
4極子磁場発生部60は、図5(a)に示すような偏向コイル部69a、69bの磁界の作用を受けて、磁極68aから磁極68cに向かう磁場にさらに偏向コイル部69aで生成される磁場が重畳され、磁極68dから磁極68bに向かう磁場にさらに偏向コイル部69bで生成される磁場が重畳される。したがって、図5(b)に示すように、4極子磁場発生部60は、4極子の磁場に加えて、磁極68cから磁極68aへ向かう重畳された磁場を生成する。ここで、磁極68b及び磁極68dの間の磁場は、打ち消し合う。
【0072】
本実施形態では、X線管装置1が駆動された場合に、陰極36に含まれるフィラメントから陽極ターゲット35の電子の焦点に向けて電子が射出される。ここで、電子が射出される方向は、陰極36の中心と通る直線に沿っているものとする。4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69a、69bに図示されない電源から直流電流が供給される。例えば、電源から直流電流が供給されると、4極子磁場発生部60は、双極子である磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとの間で4極子の磁界(磁場)に偏向コイル部69a、69bで生成される磁界(磁場)を重畳させて磁界を形成する。したがって、例えば、図5(b)に示すように、電子軌道から垂直方向にずらして(偏芯して)配置された際に、4極子磁場発生部60は、4極子の磁界によって電子ビームを幅(X方向)に変形した場合に生じる長さ方向(Y方向)への移動(ずれ、または偏心)を逆方向に偏向することによって補正することができる。
【0073】
本実施形態によれば、X線管装置1は、偏向コイル部69a、69bを備える4極子磁場発生部60を備えている。4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69a及び69bに電源から直流電流を供給されることによって重畳した偏向磁界を生成することができる。第1の実施形態の4極子磁場発生部60は電子ビームの軌道に対して垂直方向にずらして(偏芯して)設置することによって一方向に偏向していたが、本実施形態の4極子磁場発生部60は、電子ビームを幅(X方向)に変形した場合に生じる長さ方向(Y方向)への移動(ずれ、偏心)を逆方向に偏向することによって補正することができる。したがって、本実施形態のX線管装置1は、使用目的に応じて電子ビーム形状を最適な形状に磁気的に変化させることができる。
【0074】
なお、本実施形態において、4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69a、60bには電源から直流電流が供給されていたが、交流電流が供給されていてもよい。
【0075】
このような場合、4極子磁場発生部60は、2つの対となる磁極から発生する磁場が互いに同じ向きとなるような双極子交磁場を発生する。例えば、4極子磁場発生部60は、対となる磁極68a及び磁極68cと対となる磁極68b及び磁極68dとを備えている。磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとは、それぞれ、双極子として磁場を形成する。磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとは、それぞれ、互いの間に交流磁場を形成する。
【0076】
4極子磁場発生部60は、交流電流が供給されることによって双極子の間に生成される交流磁場により電子の軌道を間欠的または連続的に偏向することができる。陰極36から射出される電子ビームが衝撃する焦点が間欠的または連続的に移動するように、4極子磁場発生部60は、電源(図示せず)から後述する偏向コイル部69a、69bの各々に供給される交流電流が偏向電源制御部(図示せず)によって制御されている。4極子磁場発生部60は、陰極36から射出される電子ビームを陽極ターゲット35の径方向に沿った方向に偏向させることができる。すなわち、4極子磁場発生部60は、陽極ターゲット35の面上で電子ビームが衝撃する焦点の位置を移動させることができる。
【0077】
以下で図面を参照して、本実施形態の変形例について説明する。変形例のX線管装置1は、第2の実施形態のX線管装置1とほぼ同等の構成であるので、第2の実施形態のX線管装置2と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0078】
(変形例1)
第2の実施形態の変形例1のX線管装置1は、偏向コイルが第2の実施形態の偏向コイル69a、69bに対して陰極36周りに90°回転した位置に配置されている。
【0079】
図6Aは、第2の実施形態の変形例1のX線管30の概要を示す断面図であり、図6Bは、図6AのVIA−VIA線に沿った断面図である。
図6A及び図6Bに示すように、本実施形態の変形例1の4極子磁場発生部60は、さらに偏向コイル部69c、69dを備えている。また、図6Bに示すように、例えば、変形例1の4極子磁場発生部60は、陰極36の中心軸から直線L3の方向に従って偏芯して設置されている。
【0080】
偏向コイル部69c、69d(第3の偏向コイル部、第4の偏向コイル部)は、電源(図示せず)から電流が供給され、磁場を発生する。本実施形態において、偏向コイル部69c、69dは、それぞれ、電源(図示せず)から直流電源が供給され、直流磁場を生成する。偏向コイル部69c、69dは、供給される電流により、電子ビームの軌道を所定の方向に偏向することできる。偏向コイル部69c、69dは、それぞれ、ヨーク66に接続された磁極68a乃至磁極68dのいずれかの間に巻回される。図6Bに示すように、偏向コイル部69cは、磁極68a及び68bの間のヨーク66の本体部に巻回される。偏向コイル部69dは、磁極部68c及び68dの間のヨーク66の本体部に巻回される。この場合、例えば、磁極対68a、68bは、互いの間に直流磁場を生成し、磁極対68c、68dは、互いの間に直流磁場を生成する。
【0081】
図面を参照して本実施形態の4極子磁場発生部60の原理について以下で説明する。
図7(a)は、第2の実施形態の変形例1の4極子磁場の原理を示す断面図であり、図7(b)は、第2の実施形態の変形例1の双極子磁場の原理を示す断面図であり、図7(c)は、第2の実施形態の変形例1の4極子磁場発生部の原理を示す断面図である。図7(a)乃至図7(c)において、X方向およびY方向は、それぞれ電子ビームの射出する方向に垂直な方向であり、且つ互いに直交する。また、X方向は、磁極68b(磁極68a)側から磁極68d(磁極68c)側へ向かう方向であり、Y方向は、磁極68b(磁極68d)側から磁極68a(磁極68c)側へ向かう方向である。
【0082】
図7(a)乃至図7(c)において、電子ビームBM1が図面の手前側から奥側に向かって進行しているものとする。また、図7(a)乃至図7(c)において、磁極68a及び磁極68bは、対となる双極子(磁極対)であり、磁極68c及び磁極68dは、対となる双極子(磁極対)である。磁極対68a、68bは、Y方向に従う方向に向かう直流磁界を生成し、磁極対68c、68dは、Y方向に従う直流磁界を生成する。
【0083】
図7(a)に示すように、変形例1において、偏向コイル部69c、69dの作用を受けない場合、4極子磁場発生部60は、第1の実施形態の図3に示すような磁場を生成するものする。
【0084】
図7(b)に示すように、偏向コイル部69cは、磁極68aにS極磁場を生成し、磁極68bにN極磁場を生成するものとする。同様に、偏向コイル部69dは、磁極68cにS極磁場を生成し、磁極68dにN極磁場を生成する。したがって、磁極68bから磁極68aへ向かう磁界と磁極68dから磁極68cへ向かう磁界とが、それぞれ、偏向コイル部69a及び偏向コイル部69bによって形成される。
【0085】
4極子磁場発生部60は、図7(b)に示すような偏向コイル部69c、69dの磁界の作用を受けて、磁極68bから磁極68aに向かう磁場にさらに偏向コイル部69cで生成される磁場が重畳され、磁極68cから磁極68dに向かう磁場にさらに偏向コイル部69dで生成される磁場が重畳される。したがって、図5(b)に示すように、4極子磁場発生部60は、図7(a)に示すような4極子の磁場に加えて、磁極68aから磁極68bへ向かう重畳された磁場を生成する。ここで、磁極68c及び磁極68dの間の磁場は、打ち消し合う。
【0086】
本実施形態では、X線管装置1が駆動された場合に、陰極36に含まれるフィラメントから陽極ターゲット35の電子の焦点に向けて電子が射出される。ここで、電子が射出される方向は、陰極36の中心と通る直線に沿っているものとする。4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69c、69dに図示されない電源から直流電流が供給される。例えば、電源から直流電流が供給されると、4極子磁場発生部60は、双極子である磁極対68a、68bと磁極対68c、68dとの間で4極子の磁界(磁場)に偏向コイル部69c、69dで生成される磁界(磁場)を重畳させて磁界を形成する。したがって、例えば、図7(c)に示すように、電子軌道から垂直方向にずらして(偏芯して)配置された際に、4極子磁場発生部60は、4極子の磁界によって電子ビームを長さ(Y方向)に変形した場合に生じる幅方向(Y方向)への移動(ずれ、偏芯)を逆方向に偏向することによって補正することができる。
【0087】
本実施形態によれば、X線管装置1は、偏向コイル部69c、69dを備える4極子磁場発生部60を備えている。4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69c及び69dに電源から直流電流を供給されることによって重畳した磁界を生成することができる。第1の実施形態の4極子磁場発生部60は電子ビームの軌道に対して垂直方向にずらして(偏芯して)設置することによって一方向に偏向していたが、本実施形態の4極子磁場発生部60は、電子ビームを長さ(Y方向)に変形した場合に生じる幅方向(Y方向)への移動(ずれ、偏芯)を逆方向に偏向することによって補正することができる。したがって、本実施形態のX線管装置1は、使用目的に応じて電子ビーム形状を最適な形状に磁気的に変化させることができる。
【0088】
なお、本実施形態の変形例1において、4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69c、60dには電源から直流電流が供給されていたが、交流電流が供給されていてもよい。
【0089】
このような場合、4極子磁場発生部60は、2つの対となる磁極から発生する磁場が互いに同じ向きとなるような双極子交磁場を発生する。例えば、4極子磁場発生部60は、対となる磁極68a及び磁極68bと対となる磁極68c及び磁極68dとを備えている。磁極対68a、68bと磁極対68c、68dとは、それぞれ、双極子として磁場を形成する。磁極対68a、68bと磁極対68c、68dとは、それぞれ、互いの間に交流磁場を形成する。
【0090】
4極子磁場発生部60は、交流電流が供給されることによって双極子の間に生成される交流磁場により電子の軌道を間欠的または連続的に偏向することができる。陰極36から射出される電子ビームが衝撃する焦点が間欠的または連続的に移動するように、4極子磁場発生部60は、電源(図示せず)から後述する偏向コイル部69c、69dの各々に供給される交流電流が偏向電源制御部(図示せず)によって制御されている。4極子磁場発生部60は、陰極36から射出される電子ビームを陽極ターゲット35の径方向に沿った方向に偏向させることができる。すなわち、4極子磁場発生部60は、陽極ターゲット35の面上で電子ビームが衝撃する焦点の位置を移動させることができる。
【0091】
(変形例2)
第2の実施形態の変形例2のX線管装置1は、前述の偏向コイル部69a及び69bを備える4極子磁場発生部60と、偏向コイル部69c及び69dを備える4極子磁場発生部と、を備えている。
【0092】
図8は、第2の実施形態の変形例2のX線管30の概要を示す断面図である。図9は、図8のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【0093】
図6に示すように、本実施形態の変形例2のX線管30は、2つの4極子磁場発生部601及び602を備えている。4極子磁場発生部601及び602は、それぞれ、小径部31bに設けられている。すなわち、4極子磁場発生部601及び602は、小径部31bで配列されている。4極子磁場発生部601は、小径部31bにおいて陽極ターゲット35側に設置され、4極子磁場発生部602は、小径部31bにおいて4極子磁場発生部601に対して陰極36側に設置されている。
【0094】
また、4極子磁場発生部601及び602は、それぞれ、陰極36から射出される電子ビームの電子軌道に対して垂直な方向にずらして(偏芯して)設置されている。例えば、図9に示すように、4極子磁場発生部601は、第2の実施形態の変形例1と同様に直線L3に沿った方向にずらして(偏芯して)設置され、4極子磁場発生部602は、第2の実施形態と同様に直線L1に沿った方向(陽極ターゲット35の径方向)に偏芯して設置されている。
【0095】
4極子磁場発生部601は、第2の実施形態の変形例1と4極子磁場発生部60とほぼ同等の構成である。したがって、同等の構成要素の詳細な説明を省略する。4極子磁場発生部601は、コイル64(64a1、64b1、64c1、および64d1)と、ヨーク66yaと、磁極68(68a1、68b1、68c1、および68d1)とを備えている。
【0096】
コイル64(64a1、64b1、64c1、および64d1)は、それぞれ、第2の実施形態の変形例1のコイル64(64a、64b、64c、および64d)とほぼ同等である。
【0097】
ヨーク66yaは、第2の実施形態の変形例1のヨーク66とほぼ同等である。
磁極68(68a1、68b1、68c1、および68d1)は、ぞれぞれ、第2の実施形態の変形例1の磁極68(68a、68b、68c、および68d)とほぼ同等である。
【0098】
4極子磁場発生部602は、第2の実施形態の4極子磁場発生部60とほぼ同等の構成である。4極子磁場発生部602は、コイル64(64a2、64b2、64c2、および64d2)と、ヨーク66ybと、磁極68(68a2、68b2、68c2、および68d2)とを備えている。
【0099】
コイル64(64a2、64b2、64c2、および64d2)は、それぞれ、第2の実施形態のコイル64(64a、64b、64c、および64d)とほぼ同等である。
【0100】
ヨーク66ybは、第2の実施形態のヨーク66とほぼ同等である。
磁極68(68a2、68b2、68c2、および68d2)は、ぞれぞれ、第2の実施形態の磁極68(68a、68b、68c、および68d)とほぼ同等である。
【0101】
本実施形態によれば、X線管装置1は、偏向コイル部69a、69dを備える4極子磁場発生部601と偏向コイル部69c、69dを備える4極子磁場発生部602とを備えている。4極子磁場発生部601及び602は、それぞれ、偏向コイル部69a及び69dと偏向コイル部69c及び69dとに電源から直流電流を供給されることによって重畳した磁界を生成することができる。したがって、本実施形態のX線管装置1は、使用目的に応じて電子ビーム形状を最適な形状に磁気的に変化させることができる。
【0102】
次に第3の実施形態に係るX線管装置について説明する。第3の実施形態において、前述した前述の実施形態と同一の部分には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0103】
(第3の実施形態)
第3の実施形態のX線管装置10は、収納部31aがないために陽極ターゲット35と陰極36とが近づけて設置されている点が前述の実施形態と異なる。このため、第3の実施形態のX線管装置10は、真空外囲器31(真空容器32)及び4極子磁場発生部の構成等が前述の実施形態と異なる。
図10は、第3の実施形態のX線管装置の一例を示す断面図である。
図11Aは、第3の実施形態のX線管30の概要を示す断面図であり、図11Bは、図11AのXIA−XIA線に沿った断面図であり、図11Cは、図11BのXIB1−XIB1線に沿った断面図であり、図11Dは、図11BのXIB2−XIB2線に沿った断面図であり、図11Eは、図11EのXID−XID線に沿った断面図である。
【0104】
図11B及び図11Eにおいて、管軸TAに直交する直線を直線L1とし、管軸TA及び直線L1に直交する直線を直線L2とする。図11B及び図11Eにおいて、陰極36の中心、または電子ビームの射出方向に沿った直線に直交し、且つ直線L2に平行な直線を直線L3とする。
【0105】
X線管30は、前述の実施形態の構成に加えて、さらにKOV部材55を備えている。
陽極ターゲット35は、非磁性体、且つ電気伝導度(電気伝導性)が高い部材で形成されている。例えば、陽極ターゲット35は、銅、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル、非磁性ステンレス鋼等で形成されている。なお、陽極ターゲット35は、少なくとも表面部分に非磁性体、且つ電気伝導度が高い金属部材で形成されている構成でもよい。または、陽極ターゲット35は、表面部分を非磁性体、且つ電気伝導度が高い金属部材で形成された被覆部材で被覆されている構成でもよい。
【0106】
陰極36は、後述する陰極支持部(陰極支持体、陰極支持部材)37に取り付けられ、陰極支持部37の内部を通る高電圧供給端子54と接続されている。なお、陰極36を電子発生源と称する場合もある。なお、陰極36において、電子ビームの射出位置は、中心と一致する。この陰極36の中心は、以下で中心を通る直線を含む場合もある。
【0107】
陰極支持部37は、一端部に陰極36を備え、他端部にはKOV部材55を備えている。また、陰極支持部37は、内部に高電圧供給端子54を備えている。図11Aに示すように、陰極支持部37は、管軸TA周辺に設けられたKOV部材55から陽極ターゲット35の外周近傍まで延長するように設置されている。また、陰極支持部37は、陽極ターゲット35に略平行に所定の間隔を空けて設置されている。このとき、陰極支持部37は、陽極ターゲット35の外周側の端部に陰極36を備えている。
【0108】
KOV部材55は、低膨張合金で形成されている。KOV部材55は、一端部が陰極支持部37にろう付けによって接合され、他端部が高電圧絶縁部材50にろう付けによって接合されている。KOV部材55は、後述する真空外囲器31内で高電圧供給端子54を覆っている。
【0109】
高電圧供給端子54は、高電圧絶縁部材50にろう付けによって接合されている。高電圧供給端子54及びKOV部材55は、後述する真空容器32を貫通して、真空外囲器31の内部に挿入されている。このとき、高電圧供給端子54は、挿入部が真空気密に密閉されて真空外囲器31の内部に挿入されている。
【0110】
高電圧供給端子54は、陰極支持部37の内部を通って陰極36に接続されている。高電圧供給端子54は、陰極36に相対的に負の電圧を印加するとともに陰極36の図示しないフィラメント(電子放出源)にフィラメント電流を供給する。高電圧供給端子54は、リセプタクル302に接続され、図示しないプラグ等の高電圧供給源がリセプタクル302に接続された場合に電流を供給される。高電圧供給端子54は、金属端子である。
【0111】
真空外囲器31は、真空雰囲気(真空気密)に密閉され、内部に固定軸11、回転体12、軸受け13と、ロータ14と、真空容器32と、陽極ターゲット35と、陰極36と、高電圧供給端子54と、KOV部材55と、を収納する。
【0112】
真空容器32は、真空気密にX線透過窓38を備えている。X線透過窓38は、陰極36と陽極ターゲット35との間の領域に対向する真空外囲器31(真空容器32)の壁部に設けられている。X線透過窓38は、例えば、ベリリウム、又はチタン、ステンレス及びアルミニウム等の金属で形成され真空容器32のX線放射窓20wに対向する部分に設けられている。例えば、真空容器32は、X線を透過する部材としてのベリリウムで形成されたX線透過窓38で気密に閉塞されている。真空外囲器31は、高電圧供給端子44側から陽極ターゲット35周囲まで高電圧絶縁部材39が配置されている。高電圧絶縁部材39は、電気絶縁性の樹脂で形成されている。
【0113】
真空外囲器31(真空容器32)は、後述する4極子磁場発生部60の先端部を収納するための窪み部を備えている。図11Bに示すように、本実施形態において、真空外囲器31(真空容器32)は、複数の窪み部32a、32b、32c、および32dを備える。窪み部32a、32b、32c、および32dは、それぞれ、真空外囲器31(真空容器32)の一部に形成されている。すなわち、窪み部32a、32b、32c、および32dは、その窪みを包囲する真空外囲器31(真空容器32)の一部である。例えば、窪み部32a乃至32dは、陰極36を電子ビームの射出の方向に対して垂直な方向で包囲するように外部から真空外囲器31(真空容器32)が窪まされて形成される。すなわち、真空外囲器31(真空容器32)の内部から観測した場合には、窪み部32a乃至32dは、それぞれ、陰極36の電子ビームの射出方向に平行に突出するように形成されている。
【0114】
窪み部32a乃至32は、所定の中心位置(窪み部中心)から中心軸回りに均等に配置されている。窪み部32a乃至32dは、それぞれ、例えば、陰極36の周囲で電子軌道から垂直方向に偏芯した位置を中心(窪み部中心)として同一の角度間隔で配置されている。この場合、窪み部32bは、窪み部中心周りで窪み部32aに対して90°回転方向(反時計回り)に形成されている。同様に、窪み部32dは、陰極36の中心周りで窪み部32bに対して90°回転方向に形成され、窪み部32cは、陰極36の中心周りで窪み部32dに対して90°回転方向に形成される。
【0115】
例えば、図11Bに示すように、窪み部32aは、直線L1から窪み部中心周りで回転方向に45°の位置に設置され、窪み部32bは、窪み部32aから陰極36の中心周りで回転方向に90°回転した位置に設定され、窪み部32dは、窪み部32bから陰極36の中心周りで回転方向に90°回転した位置に設置され、窪み部32cは、窪み部32dから陰極36の中心周りで回転方向に90°回転した位置に設置されている。すなわち、窪み部32a乃至32dは、それぞれ、正方形の頂点の位置に配置されているように設置される。
【0116】
また、窪み部32a乃至32dは、それぞれ、放電等を防止するために陽極ターゲット35の表面および陰極36の表面に近接し過ぎないように形成される。例えば、窪み部32aは、管軸TAに沿った方向で、陽極ターゲット35の表面に対向する陰極36の表面よりも陽極ターゲット35の表面から離れた位置まで窪まされて形成される。または、窪み部32aは、管軸TAに沿った方向で、陰極36の表面と同じ位置または陰極36の表面よりも僅かに陽極ターゲット35の表面に近い位置までに窪まされて形成される。窪み部32a乃至32dにおいて、放電等を防止するために陽極ターゲット35のターゲット表面および陰極36の表面から離すために、陽極ターゲット35側に突出する角部は、それぞれ、曲面、又は傾斜するように形成されている。例えば、図11Cに示すように、窪み部32a乃至32dの角部は、それぞれ、曲面状に形成されている。なお、窪み部32a乃至32dの角部は、それぞれ、後述する磁極68(68a、68b、68c、および68d)の傾斜角度に沿った傾斜角度で形成されていてもよい。なお、窪み部32a乃至32dは、陽極ターゲット35側に突出する角部は、傾斜及び径を有するように形成されていなくともよい。
【0117】
なお、窪み部は、陰極36の電子ビームの射出方向に沿った軸(電子軌道)の一部を周囲で包囲するように設置されていれば、さらに4つでなくともよい。たとえば、窪み部32a乃至32dは、一体に形成されていてもよい。また、窪み部32a及び32bと窪み部32c及び32dとが、それぞれ、一体となって形成されていてもよい。
【0118】
また、真空外囲器31は、陽極ターゲット35から反射される反跳電子を捕獲する。そのため、真空外囲器31は、反跳電子の衝撃を受けて温度が上昇し易く、通常、銅などの熱伝導度が高い部材で形成される。真空外囲器31は、交流磁界の影響を受ける場合には、反磁界を発生しない部材で構成されることが望ましい。例えば、真空外囲器31は、非磁性体の金属部材で形成される。好適には、真空外囲器31は、交流電流によって過電流を発生させないために非磁性体の高電気抵抗部材で形成される。非磁性体の高電気抵抗部材は、例えば、非磁性ステンレス鋼、インコネル、インコネルX、チタン、導電性セラミクス、表面を金属薄膜でコーティングした非導電性セラミクスなどである。さらに好適には、真空外囲器31において、窪み部32a乃至32dは、非磁性体の高電気抵抗部材で形成され、窪み部32a乃至32d以外の部分は、銅などの熱伝導度が高い非磁性部材で形成される。
【0119】
図11B乃至図11Eを参照して以下で4極子磁場発生部60について詳細に説明する。
図11B及び図11Eに示すように、4極子磁場発生部60は、コイル64(64a、64b、64c、および64d)と、ヨーク66(66a、66b、66c、および66d)と、磁極68(68a、68b、68c、および68d)と、偏向コイル部69a、69bとを備えている。
【0120】
本実施形態において、4極子磁場発生部60は、中心が陰極36の射出する電子軌道に対して垂直方向に偏芯して設置されている。例えば、図11Eに示すように、4極子磁場発生部60は、4つの磁極68が正方形状に配置されている。詳細は後述するが、4極子磁場発生部60は、ヨーク66の本体部から突出する突出部66a、66b、66c、および66dの各々の先端に磁極68a、68b、68c、および68dが設けられている。
【0121】
図11C及び図11Dに模式的に示すように、磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとは、それぞれ、互い間に磁場を形成する。4極子磁場発生部60は、電源(図示せず)から後述する偏向コイル部69a、69bの各々に供給される直流電流が偏向電源制御部(図示せず)によって制御されている。4極子磁場発生部60は、電子軌道に対して垂直は方向に中心を偏芯して設置することによって、所望の方向の電子ビームの形状を変形させ、且つ偏向することができる。例えば、図4に示すように、4極子磁場発生部60は、陰極36から射出される電子ビームの幅を細く変形させ、且つ幅の変形に伴う径方向への陽極ターゲット35上の焦点の移動を偏向によって補正することができる。すなわち、4極子磁場発生部60は、陽極ターゲット35の面上で電子ビームが衝撃する焦点の位置の調整と焦点での熱的な負荷の軽減とをすることができる。
【0122】
コイル64は、4極子磁場発生部60のための電源(図示せず)から電流を供給され、磁場を発生する。本実施形態において、コイル64は、電源(図示せず)から直流電流が供給されている。コイル64は、複数のコイル64a、64b、64c、および64dを備えている。コイル64a乃至64dは、それぞれ、後述するヨーク66の突出部66a、66b、66c、および66dの一部の周囲に巻かれている。
【0123】
ヨーク66は、本体部から突出する突出部66a、66b、66c、および66dを備えている。突出部66a乃至66dは、それぞれ、電子ビームの射出方向(電子軌道)に平行な方向に突出して設けられる。突出部66a乃至66dは、それぞれ同一の方向に向かって突出し、互いに平行である。また、突出部66a乃至66dは、同一の長さ及び形状で形成される。また、ヨーク66は、本体部が中空の多角形状または中空円筒状に形成されている。本実施形態において、ヨーク66は、4つの突出部66a乃至66dの各々が窪み部32a乃至32dに収納されるように設置される。このとき、ヨーク66は、4つの突出部66a乃至66dで陰極36を包囲するように配置されている。また、4つの突出部は、一部の周囲にコイル64が巻かれている。
【0124】
詳細には、ヨーク66の突出部66aは、一部の周囲にコイル64aが巻かれ、このコイル64aが巻かれていない部分が窪み部32aに収納されている。同様に、突出部66b、66c、および66dは、それぞれ、一部の周囲にコイル64b、64c、および64dが巻かれ、このコイル64b、64c、および64dが巻かれていない部分が窪み部32b、32c、および32dに収納されている。
【0125】
磁極68は、複数の磁極68a、68b、68c、および68dを備える。磁極68a、68b、68c、および68dは、それぞれ、ヨーク66の突出部66a、66b、66c、および66dの先端部に設けられている。磁極68a乃至68dは、陰極36を周囲で包囲する配置されている。すなわち、4極子磁場発生部60において、磁極68a乃至68dは、それぞれ、陰極36に含まれるフィラメントから射出される電子の射出方向に対して垂直な方向の位置で中心(磁極中心)の周りに均等に配置されている。このとき、、磁極68a乃至68dの配置の中心(磁極中心)位置は、磁極68a乃至68dの各々の中心を通る直線の交点である。
【0126】
例えば、前述の窪み部32a乃至32dと同様に、図11Bに示すように、磁極68aは、直線L1から磁極中心C1周りで回転方向(反時計回り)に45°の位置に設置され、磁極68bは、磁極68aから磁極中心C1周りで回転方向に90°回転した位置に設定され、磁極68dは、磁極68bから磁極中心C1周りで回転方向に90°回転した位置に設置され、磁極68cは、磁極68dから磁極中心C1周りで回転方向に90°回転した位置に設置されている。すなわち、磁極68a乃至68dは、それぞれ、正方形の頂点の位置に配置されているように設置される。
【0127】
好適には、磁束密度を高めるために、磁極68a乃至68dは、それぞれ、陰極36に含まれるフィラメントから射出される電子の射出方向(電子軌道)に適度に近づけて設置される。すなわち、磁極68aは、窪み部32aの陰極36側の湾曲壁面近傍に配置される。同様に、磁極68b乃至68dは、それぞれ、窪み部32b乃至32dの陰極36側の湾曲壁面近傍に配置されている。なお、窪み部32a乃至32dは、放電等を防ぐために陰極36に近接し過ぎないように配置される。
【0128】
磁極68a乃至68dは、互いに略同形状で形成されている。磁極68a乃至68dは、それぞれ、互いに対となる2つ双磁極子を含んでいる。例えば、磁極68aおよび磁極68bが、双極子(磁極対68a、68b)であり、磁極68cおよび磁極68dが、双極子(磁極対68c、68d)である。このときコイル64を介して磁極68に直流電流が供給された場合、磁極対68a、68bと磁極対68c、68dとは、互いに逆向きの直流磁場を形成する。磁極68a乃至68dは、それぞれ、陽極ターゲット35に近づき過ぎずに可能な限り磁束密度を高めた状態で陰極36から射出される電子ビームの形状を変形させるために、磁極中心に表面(端面)を向けて設置されている。すなわち、磁極68a乃至68dは、それぞれ、表面が互いに対向するように形成されている。
【0129】
例えば、磁極68a乃至68dは、それぞれ、磁極中心C1を通り且つ管軸TAに平行な直線に対して同じ角度の傾斜面で形成されている。磁極中心C1を通り且つ管軸TAに平行な直線から磁極68aの表面までの傾斜角度をγ1とし、磁極中心C1を通り且つ管軸TAに平行な直線から磁極68dの表面までの傾斜角度をγ4とする。磁極中心C1を通り且つ管軸TAに平行な直線から磁極68bの表面までの傾斜角度をγ2とし、同様に磁極中心C1を通り且つ管軸TAに平行な直線から磁極68cの表面までの傾斜角度をγ3とする。したがって、例えば、磁極68a乃至68dが同じ傾斜で設置されている場合、γ1=γ2=γ3=γ4となる。このとき、磁極68a乃至68dの傾斜角度γ(γ1、γ2、γ3、およびγ4)は、0°<γ<90°の範囲で設定される。このとき、磁極68a乃至68dは、それぞれ、傾斜角度γが0°<γ<90°の範囲で形成される。例えば、磁極68a乃至68dの傾斜角度が同一(γ1=γ2=γ3=γ4)である場合、磁極対68a乃至68dの傾斜γ1、γ2、γ3、およびγ4は、それぞれ、30°≦γ≦60°の範囲で形成される。さらに、磁極68a乃至68dの傾斜γ1、γ2、γ3、およびγ4は、それぞれ、磁極中心C1を通り且つ管軸TAに平行な直線に対して45°になるように形成されてもよい。
【0130】
偏向コイル部69a、69b(第1の偏向コイル部、第2の偏向コイル部)は、電源(図示せず)から電流が供給され、磁場を発生する電磁コイルである。本実施形態において、偏向コイル部69a、69bは、それぞれ、電源(図示せず)から直流電源が供給され、直流磁場を生成する。偏向コイル部69a、69bは、それぞれ、ヨーク66の本体部の突出部66a乃至66dのいずれかの間に巻回される。図11C及び図11Dに示すように、偏向コイル部69aは、突出部66a及び66cの間のヨーク66の本体部に巻回される。偏向コイル部69bは、突出部66b及び66dの間のヨーク66の本体部に巻回される。この場合、磁極対68a、68cは、互いの間に直流磁場を生成し、磁極対68b、68dは、互いの間に直流磁場を生成する。
【0131】
偏向コイル部69a、69bは、陽極ターゲット35の径方向に対して垂直な方向であって陰極36に含まれるフィラメントの幅方向に沿った方向に沿って形成される双極子磁場を発生させる。偏向コイル部69a、69bは、流れる電流により、電子ビームの軌道を所定の方向に偏向移動させることできる。
【0132】
図面を参照して本実施形態の4極子磁場発生部60の原理について以下で説明する。
図12(a)は、第3の実施形態の4極子磁場の原理を示す図であり、図12(b)は、第2の実施形態の双極子の原理を示す図である。図12(a)、および図12(b)において、X方向およびY方向は、それぞれ電子ビームの射出する方向に垂直な方向であり、且つ互いに直交する。また、X方向は、磁極68b(磁極68a)側から磁極68d(磁極68c)側へ向かう方向であり、Y方向は、磁極68a(磁極68c)側から磁極68b(磁極68d)側へ向かう方向である。
【0133】
図12(a)及び図12(b)において、図3図5、および図7とは異なり、電子ビームBM1は図面の奥側から手前側に向かって進行しているものとする。また、図12(a)及び図12(b)において、磁極68a及び磁極68cは、対となる双極子(磁極対)であり、磁極68b及び磁極68dは、対となる双極子(磁極対)である。磁極対68a、68cは、X方向に従う方向に向かう直流磁界を生成し、磁極対68b、68dは、X方向に従う直流磁界を生成する。
【0134】
図12(a)に示すように、偏向コイル部69a、69bの作用を受けない場合、4極子磁場発生部60は、磁極68aにN極磁場を生成し、磁極68bにS極磁場を生成し、磁極68cにS極磁場を生成し、磁極68dにN極磁場を生成するものとする。
【0135】
図12(b)に示すように、偏向コイル部69aは、磁極68aにN極磁場を生成し、磁極68cにS極磁場を生成するものとする。同様に、偏向コイル部69bは、磁極68bにN極磁場を生成し、磁極68dにS極磁場を生成する。したがって、磁極68aから磁極68cへ向かう磁界と磁極68bから磁極68dへ向かう磁界とが、それぞれ、偏向コイル部69a及び偏向コイル部69bによって形成される。
【0136】
4極子磁場発生部60は、図12(b)に示すような偏向コイル部69a、69bの磁界の作用を受けて、磁極68aから磁極68cに向かう磁場にさらに偏向コイル部69aで生成される磁場が重畳され、磁極68dから磁極68bに向かう磁場にさらに偏向コイル部69bで生成される磁場が重畳される。したがって、4極子磁場発生部60は、4極子の磁場に加えて、磁極68aから磁極68cへ向かう重畳された磁場を生成する。ここで、磁極68b及び磁極68dの間の磁場は、打ち消し合う。
【0137】
本実施形態では、X線管装置1が駆動された場合に、陰極36に含まれるフィラメントから陽極ターゲット35の電子の焦点に向けて電子が射出される。ここで、電子が射出される方向は、陰極36の中心を通る直線に沿っているものとする。また、図11Bに示される4極子磁場発生部60の磁極68a乃至68dの傾斜γ1乃至γ4は、互いに同一である。4極子磁場発生部60は、コイル64に図示しない電源から直流電流が供給される。電源から直流電流が供給されると、4極子磁場発生部60は、4極子である磁極68a乃至68dの間に磁界(磁場)を発生させる。陰極36から射出される電子ビームは、管軸TAに沿って陰極36及び陰極支持部37と陽極ターゲット35との間に生成される磁界を横切るように陽極ターゲット35へ衝撃する。このとき、電子ビームは、4極子磁場発生部60によって生成された磁場によってビーム形状が形成(集束)される。本実施形態において、例えば、図3に示すように、4極子磁場発生部60は、円形状に射出される電子ビームをY方向に細長い楕円形状に変形(集束)させる。この場合、4極子磁場発生部60は、電子ビームを見かけ上の焦点は小さく、実際に陽極ターゲット35面上に衝撃する焦点は広くすることができる。その結果、陽極ターゲット35に対する熱的負荷が軽減される。
【0138】
本実施形態によれば、X線管装置1は、窪み部32a乃至32dを備えるX線管30と、偏向コイル部69a及び6bとを備える4極子磁場発生部60とを備えている。4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69a及び69bに電源から直流電流を供給されることによって重畳した磁界を生成することができる。第1の実施形態の4極子磁場発生部60は電子ビームの軌道に対して垂直方向に偏芯して設置することによって一方向に偏向していたが、本実施形態の4極子磁場発生部60は、電子ビームを幅(X方向)に変形した場合に生じる長さ方向(Y方向)への移動(ずれ、偏芯)を偏向することによって補正することができる。したがって、本実施形態のX線管装置1は、使用目的に応じて電子ビーム形状を最適な形状に磁気的に変化させることができる。
【0139】
また、本実施形態のX線管装置1は、陽極ターゲット35と陰極36とが前述の実施形態よりも近接して設置されている。したがって、本実施形態のX線管装置1は、X線焦点の拡大、ぼけ、歪みや、陰極36の電子放出量の低下などの発生を低減することができる。
【0140】
なお、本実施形態のX線管装置1は、さらに偏向コイル部69c、69dを備えていてもよい。偏向コイル部69c、69d(第3の偏向コイル部、第4の偏向コイル部)は、電源(図示せず)から電流が供給され、磁場を発生する。本実施形態において、偏向コイル部69c、69dは、それぞれ、電源(図示せず)から直流電源が供給され、直流磁場を生成する。偏向コイル部69c、69dは、それぞれ、ヨーク66の本体部の突出部66a乃至66dのいずれかの間に巻回される。例えば、偏向コイル部69cは、突出部66a及び66bの間のヨーク66の本体部に巻回される。偏向コイル部69dは、突出部66c及び66dの間のヨーク66の本体部に巻回される。この場合、磁極対68a、68bは、互いの間に直流磁場を生成し、磁極対68c、68dは、互いの間に直流磁場を生成する。
【0141】
偏向コイル部69c、69dは、陽極ターゲット35の径方向であって陰極36に含まれるフィラメントの幅方向に対して垂直な長さ方向に沿った方向に沿って形成される双極子磁場を発生させる。偏向コイル部69c、69dは、流れる電流により、電子ビームの軌道を所定の方向に偏向移動させることできる。
【0142】
なお、本実施形態において、4極子磁場発生部60は、偏向コイル部69a、69b、69c、および69dを備えていてもよい。このとき、偏向コイル部69a乃至69dは、電源から交流電流が供給されていてもよい。このような場合、4極子磁場発生部60は、2つの対となる磁極から発生する磁場が互いに同じ向きとなるような双極子交流磁場を発生する。
【0143】
偏向コイル部69a及び69bに交流電流が供給される場合、例えば、4極子磁場発生部60は、対となる磁極68a及び磁極68cと対となる磁極68b及び磁極68dとを備えている。磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとは、それぞれ、双極子として磁場を形成する。磁極対68a、68cと磁極対68b、68dとは、それぞれ、互いの間に交流磁場を形成する。
【0144】
偏向コイル部69c及び69dに交流電流が供給される場合、例えば、4極子磁場発生部60は、対となる磁極68a及び磁極68bと対となる磁極68c及び磁極68dとを備えている。磁極対68a、68bと磁極対68c、68dとは、それぞれ、双極子として磁場を形成する。磁極対68a、68bと磁極対68c、68dとは、それぞれ、互いの間に交流磁場を形成する。
【0145】
4極子磁場発生部60は、交流電流が供給されることによって双極子の間に生成される交流磁場により電子の軌道を間欠的または連続的に偏向することができる。陰極36から射出される電子ビームが衝撃する焦点が間欠的または連続的に移動するように、4極子磁場発生部60は、電源(図示せず)から後述する偏向コイル部69a乃至69bの各々に供給される交流電流が偏向電源制御部(図示せず)によって制御されている。4極子磁場発生部60は、陰極36から射出される電子ビームを陽極ターゲット35の径方向に沿った方向に偏向させることができる。すなわち、4極子磁場発生部60は、陽極ターゲット35の面上で電子ビームが衝撃する焦点の位置を移動させることができる。
【0146】
さらに、本実施形態のX線管装置1は、偏向コイル部69a及び69bを備える第1の4極磁場発生部と、偏向コイル部69c及び69dを備える第2の4極磁場発生部とを備えていてもよい。この場合、4極子磁場発生部60は、陰極36から射出される電子ビームを陽極ターゲット35の任意方向に偏向させることができる。
【0147】
前述の実施形態によれば、X線管装置1は、複数の窪み部を備えるX線管と、X線管で射出される電子ビームを形成する4極子磁場発生部とを備えている。4極子磁場発生部は、電源からコイルに直流電流が供給されることによって複数の磁極の間に磁界を生じさせる。4極子磁場発生部は、複数の磁極によって生成する磁場によって陰極から射出される電子ビームを変形できる。その結果、本実施形態のX線管装置1は、X線焦点の拡大、ぼけ、歪みや、陰極の電子放出量の低下などの発生を低減することができる。
【0148】
なお、前述の実施形態において、X線管装置1は、回転陽極型X線管であるとしたが、固定陽極型X線管であってもよい。
前述の実施形態において、X線管装置1は、中性点接地型のX線管装置であるとしたが、陽極接地型又は陰極接地型のX線管装置であってもよい。
【0149】
さらに、前述の実施形態では、陰極36は、外周部を取り囲む非磁性体カバーを備えるとしたが、一体構造で全て非磁性体又は電気伝導度の高い非磁性体の金属から構成されていてもよい。
【0150】
なお、この発明は、上記実施形態そのものに限定されるものでなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具現化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0151】
8…ステータコイル、9…絶縁油、10…X線管装置、11…固定軸、12…回転体、13…軸受け、14…ロータ、20…ハウジング、30…X線管、31…真空外囲器、32…真空容器、32a、32b、32c、32d…窪み部、35…陽極ターゲット、36…陰極、39…高電圧絶縁部材、44…高電圧供給端子、54…高電圧供給端子、55…KOV部材、60…4極子磁場発生部、64a、64b、64c、64d…コイル、66…ヨーク、66a、66b、66c、66d…突出部、68a、68b、68c、68d…磁極、69a、69b…偏向コイル部、70…第2の磁気偏向部、301、302…リセプタクル、510、520、530、540…X線遮蔽部。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12