【解決手段】Fe、M(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)及びSを含む軟磁性合金粒子11と、軟磁性合金粒子11の一部が酸化してなる酸化膜12と、を備え、隣接する軟磁性合金粒子11どうしの結合の少なくとも一部は酸化膜12を介しており、92.5〜96wt%のFe及び0.003〜0.02wt%のSを含む、磁性体1。
Fe、M(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)及びSを含む軟磁性合金粒子と、前記軟磁性合金粒子の一部が酸化してなる酸化膜と、を備え、隣接する軟磁性合金粒子どうしの結合の少なくとも一部は前記酸化膜を介しており、92.5〜96wt%のFe及び0.003〜0.02wt%のSを含有する、磁性体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
【0012】
図1は本発明の磁性体の微細構造を模式的に表す断面図である。本発明において、磁性体1は、全体としては、もともとは独立していた多数の軟磁性合金粒子11どうしが結合してなる集合体として把握される。磁性体1は、多数の軟磁性合金粒子11からなる圧粉体であるということもできる。少なくとも一部の軟磁性合金粒子11にはその周囲の少なくとも一部、好ましくは概ね全体にわたって酸化膜12が形成されていて、この酸化膜12により磁性体1の絶縁性が確保される。隣接する軟磁性合金粒子11どうしは、主として、それぞれの軟磁性合金粒子11の周囲にある酸化膜12を介して結合し(
図1の符号22参照)、結果として、一定の形状を有する磁性体1が構成される。本発明によれば、部分的には、隣接する軟磁性合金粒子11が、符号21で表されるように、金属部分どうしで結合していてもよい。従来の磁性体においては、硬化した有機樹脂のマトリクス中に磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものや、硬化したガラス成分のマトリクス中に磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものが用いられていた。本発明では、有機樹脂からなるマトリクスもガラス成分からなるマトリクスも、実質的に存在しないことが好ましい。
【0013】
個々の軟磁性合金粒子11は、少なくとも鉄(Fe)と鉄より酸化しやすい金属元素(本発明ではMと総称する。)とを少なくとも含む合金であり、さらにイオウ(S)を必須に含有する。金属元素Mは、典型的には、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)などが挙げられ、好ましくは、CrまたはAlである。軟磁性合金粒子はSiを含んでいてもよい。
【0014】
磁性体1において、Feの含有率は92.5〜96wt%である。前記範囲である場合に高い体積抵抗率が確保される。
【0015】
金属元素Mは鉄よりも酸化され易い金属であれば特に限定は無く、好ましくはCr、Alが挙げられる。好ましくは、金属元素Mとして磁性体にはCr、Alの片方又は両方が含まれる。より好ましくは、磁性体1におけるCr及びAlの合計の含有率が2〜6.5wt%である。ここで、Cr及びAlの合計の含有率は、磁性体1にCr又はAlの両方が含まれる場合にはそれらの合計の含有率であり、Cr又はAlの片方のみが含まれる場合には、当該含まれる元素の含有率である。前記範囲の合計の含有率である場合には、防錆性の向上が期待される。
【0016】
磁性体1には、Sが0.003wt%以上、好ましくは0.005wt%以上含まれる。磁性体1におけるSの含有割合の上限は0.02wt%であり、好ましくは0.014wt%である。Sの含有割合と上述したFeの含有割合とが同時に前記範囲を充足することにより、体積抵抗率、透磁率、更に耐電圧の三者を一挙に向上させることができ、結果的に、電子部品の小型化に寄与する。
【0017】
磁性体1には好ましくはケイ素(Si)が含まれる。なお、Siは上述した金属元素Mの定義には該当しない。Siが含まれる場合における、磁性体1におけるSiの含有率は、好ましくは上述したCrとAlの合計の含有率より低い。別途好ましくは、Siの好ましい含有率は、1〜4wt%である。
【0018】
磁性体1の組成については、プラズマ発光分析で算出することができる。なお、Sの含有率については燃焼赤外吸収法により測定する。
【0019】
Fe、SiおよびM以外に含まれていてもよい元素としてはMn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)P(リン)、C(炭素)などが挙げられる。
【0020】
磁性体1を構成する個々の軟磁性合金粒子11の少なくとも一部には、その周囲の少なくとも一部に酸化膜12が形成されている。酸化膜12は磁性体1を形成する前の原料粒子の段階で形成されていてもよいし、原料粒子の段階では酸化膜が存在しないか極めて少なく成形過程において酸化膜を生成させてもよい。好ましくは、酸化膜12は軟磁性合金粒子11それ自体の酸化物からなる。換言すると、酸化膜12の形成のために上述の軟磁性合金粒子11以外の材料を別途添加しないことが好ましい。成形前の軟磁性合金粒子11に熱処理を施して磁性体1を得るときに、軟磁性合金粒子11の表面部分が酸化して酸化膜12が生成し、その生成した酸化膜12を介して複数の軟磁性合金粒子11が結合することが好ましい。酸化膜12の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)による10000倍程度の撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識することができる。酸化膜12の存在により磁性体全体としての絶縁性が担保される。
【0021】
図2に示されるように、酸化膜12においては、好ましくは、軟磁性合金粒子11の表面にはSiの酸化膜が形成される。Siの酸化膜12aは軟磁性合金粒子11の内部よりSi元素を多く含んでいる。更に、Siの酸化膜12aはS量を0.003wt%とすることで5nm、0.005wt%で10nm、0.014wt%で50nm以下、0.002wt%で100nm以下とすることができる。これらの範囲とすることで、厚みが薄く、しかも金属粒子表面を覆う膜を得ることができる。
【0022】
更に、Siの酸化膜12aの表面には金属元素Mの酸化膜12bが形成される。金属元素12bにおいてはFe元素に対する上記Mで表される金属元素の重量比が、軟磁性合金粒子11に比べて大きい。金属元素の酸化膜12bを得るためには、磁性体を得るための原料粒子にFeの酸化物がなるべく少なく含まれるかFeの酸化物を極力含まれないようにして、磁性体1を得る過程において加熱処理などにより合金の表面部分を酸化させることなどが挙げられる。このような処理により、Feよりも酸化しやすい金属元素Mが選択的に酸化されて、結果として、酸化膜12におけるFeに対する金属元素Mの重量比が、軟磁性合金粒子11におけるFeに対する金属元素Mの重量比よりも相対的に大きくなる。酸化膜12においてFe元素よりもMで表される金属元素のほうが多く含まれることにより、合金粒子の過剰な酸化を抑制するという利点がある。
【0023】
磁性体1における酸化膜12の化学組成を測定する方法は以下のとおりである。まず、磁性体1を破断するなどしてその断面を露出させる。ついで、イオンミリング等により平滑面を出し走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、酸化膜12の部分をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出する。また、Siの酸化膜12aについては軟磁性合金粒子11から金属粒子の結合部22を走査型透過電子顕微鏡(STEM)−EDSにより線分析により認識することができ、Siの酸化膜12aでは軟磁性合金粒子から検出されるSi量の2倍を超える量であることでSiの酸化膜12aであると判断できる。
【0024】
磁性体1において軟磁性合金粒子11どうしは主として金属元素Mの酸化膜12bを介して結合する。金属元素Mの酸化膜12bを介する結合部22の存在は、例えば、約5000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する軟磁性合金粒子11の表面にあるSiの酸化膜12aの外側に視認することができる。酸化膜12を介する結合部22の存在により、機械的強度と絶縁性の向上が図られる。磁性体1全体にわたり、隣接する軟磁性合金粒子11が有する酸化膜12を介して結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。また、部分的には、符号21で表されるように、酸化膜12を介さずに、軟磁性合金粒子11どうしの結合が存在していてもよい。さらに、隣接する軟磁性合金粒子11が、酸化膜12を介する結合部も、軟磁性合金粒子11どうしの結合部21もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態を部分的に有していてもよい。さらに、磁性体1は部分的に空隙30を有していてもよい。
【0025】
更に、Siの酸化膜12aの厚み、および金属元素Mの酸化膜12bの厚みについては、以下の方法により評価できる。
【0026】
Si層の分析方法
(1)コアの中心を通るように走査型電子顕微鏡(SEM)用の断面試料を作製する。
【0027】
(2)SEMで酸化皮膜によって隔てられた粒子間界面を無作為に抽出し、選択する。粒子界面か否かについては以下の手順で判定する。まず、試料の画像を取得し、100μm×100μmのグリッドになるように、試料の画像上に座標を設定する。座標の内、コア部分のみを選んで、各座標に番号を割り振り、コンピューターにより乱数を発生させ、座標の内、1点を選ぶ。選んだ100μm×100μmのグリッド内を1μm毎にグリッドで区切る。コンピューターにより乱数を発生させ、対応する座標の内の1点を選ぶ。グリッド中の粒子界面の有無を確認し、粒子界面が含まれない場合、再度、乱数を発生させ、グリッドを選び直し、選択したグリッド内に粒子界面が含まれるまで繰り返す。選択したグリッドの内部にある粒子界面を選択する。
【0028】
(3)粒子を粒子の中心を通る界面に垂直になるように集束イオンビーム装置(FIB)で加工し、薄片試料を作製する。薄片試料の作製方法は、マイクロサンプリング法を用いることができる。試料厚さは、金属粒子粉部分で100nm以下となるよう加工する。試料厚さについて、走査型透過電子顕微鏡(STEM:日本電子(株)社製JEM−2100F)付属の電子エネルギー損失分光装置を用いた、透過電子の非弾性散乱平均自由行程を利用した方法を用いる。EELS測定時の半収束角を9mrad、取り出し角を10mradとし、この時の非弾性散乱平均自由工程105nmを用いる。
【0029】
(4)試料作製後、直ちに、環状暗視野検出器とエネルギー分散X線分光(EDS)検出器を搭載したSTEMを用い、STEM−EDS法でSi酸化皮膜の有無を確かめ、STEM−高角度環状暗視野(HAADF)法で、酸化皮膜の厚さを計測する。具体的には、次の項目で記す。STEM−EDSの測定条件は、加速電圧200kV、電子ビーム径1.0nm、解像度1nm/pix、Fe粒子部分の各点の6.22keV〜6.58keVの範囲での信号強度の積算値が25カウント以上であるような測定時間とする。FeKα線+CrKα線とOKα線の信号強度比が0.5以上である領域を酸化膜であると評価する。STEM−EDS法は試料内で信号発生領域が広がるため、測長に適さない。よって、測長には、下記のSTEM−HAADF法を用いる。STEM−HAADF法の測定条件は、電子ビーム径0.7nm以下、取り込み角27mrad〜73mrad、倍率300000倍、画素サイズが0.35nm/ピクセルとする。ノイズの影響を除くため、画像中の信号強度が1.7×10
6カウント程度であるようにする。測長時の倍率を揃えるため、撮影の前後に同条件で倍率校正用の試料を撮影し、スケールを校正する。各画像の撮影の前に、倍率を最大値まで上げたのち、元の倍率に下げ、レンズ電流を既定値(校正用試料を撮影した際の値)に合わせ、試料高さを合わせてから撮影する。また、画像撮影は、界面を横切る方向に電子線を走査して撮影する。
【0030】
(5)STEM−HAADF像について、バックグラウンドの影響を減ずるため、画像中の各画素の信号強度を、画像の縦方向と横方向の座標の一次関数の和(f(x)=ax+by)で近似し、画像から差し引く。
【0031】
(6)STEM−HAADF像中の、STEM−EDS像から判断して真空部を含まない、Siの酸化膜12aと金属元素Mの酸化12bを挟む金属粒子間に領域に垂直な長さ1μm程度の線分を作成し、その線分に沿って画像強度のプロファイルを作成する。金属元素Mの酸化膜12bに垂直な線分は、STEM−EDSの酸素元素の信号強度から、金属元素Mの酸化膜12bの位置座標を抜き出し、最小二乗法で近似直線を引き、その直線に垂直な直線として求める。
【0032】
(7)STEM−HAADF像の強度プロファイルは、典型的には3種類の強度から構成され、強度の高い方から軟磁性合金粒子11、金属元素Mの酸化膜12b、Siの酸化膜12aに相当する。これは、EDX信号のプロファイルと対照することで判明する。より具体的には、プロファイル中の強度I(x)について、次の式で規格化強度I
norm(x)に変換し、その強度範囲で判断可能である。
式:I
norm(x)=(I(x)−I
min)/(I
max−I
min)
ただし、I
maxはプロファイル中の強度の最大値、I
minはプロファイル中の強度の最小値である。軟磁性合金粒子11は0.8<I
norm(x)≦1.0、金属元素Mの酸化膜12bは0.2<I
norm(x)≦0.8、Siの酸化膜12aは0.0≦I
norm(x)≦0.2に相当する。
【0033】
(8)STEM−HAADF像の強度プロファイルから、Siの酸化膜12aの厚さと金属元素Mの酸化膜12bの厚さを求める方法は以下のとおりである。軟磁性合金粒子11とSiの酸化膜12aの中間の位置で、強度がその半分となる位置を軟磁性合金粒子11とSiの酸化膜12aの界面とする。金属元素Mの酸化膜12bとSiの酸化膜12aの中間の位置で、強度がその半分となる位置を金属元素Mの酸化膜12bとSiの酸化膜12aの界面とする。軟磁性合金粒子11とSiの酸化膜12aの界面と金属元素Mの酸化膜12bとSiの酸化膜12aの界面の間の距離をもって、Siの酸化膜12aの厚さとする。
【0034】
(9)異なる100μm×100μmのグリッドの中から、計10個の粒子間界面について同様に測定し、全ての粒子で測定した個別の酸化膜の厚さの平均値を試料の酸化膜の厚さとする。
【0035】
このように、酸化膜12はSiの酸化膜12aと金属元素Mの酸化膜12bで構成され、Siの酸化膜12aを薄く形成することで高い充填率、絶縁性、及び耐電圧を合わせ持ち、かつ金属元素Mの酸化膜12bをSiの酸化膜12aより厚く形成することにより金属粒子どうしを結合することで、磁性体の強度を確保できる。
【0036】
酸化膜12を介する結合部22を生じさせるためには、例えば、磁性体1の製造の際に酸素が存在する雰囲気下(例、空気中)で後述する所定の温度にて熱処理を加えることなどが挙げられる。
【0037】
上述の、軟磁性合金粒子11どうしの結合部21の存在は、例えば、約5000倍に拡大したSEM観察像(断面写真)において、視認することができる。軟磁性合金粒子11どうしの結合部21の存在により透磁率の向上が図られる。
【0038】
軟磁性合金粒子11どうしの結合部21を生成させるためには、例えば、原料粒子として酸化膜が少ない粒子を用いたり、磁性体1を製造するための熱処理において温度や酸素分圧を後述するように調節したり、原料粒子から磁性体1を得る際の充填率を調節することなどが挙げられる。
【0039】
原料として用いる軟磁性合金粒子(以下、原料粒子ともいう。)の組成は、最終的に得られる磁性体における組成に反映される。よって、最終的に得ようとする磁性体の組成に応じて、原料粒子の組成を適宜選択することができ、その好ましい組成範囲は上述した磁性体の好ましい組成範囲と同じである。
【0040】
個々の原料粒子のサイズは最終的に得られる磁性体における磁性体1を構成する粒子のサイズと実質的に等しくなる。原料粒子のサイズとしては、透磁率と粒内渦電流損を考慮すると、d50は好ましくは2〜30μmである。原料粒子のd50はレーザー回折・散乱による測定装置により測定することができる。
【0041】
原料として用いる磁性粒子は好ましくはアトマイズ法で製造される。アトマイズ法においては、高周波溶解炉で主原材料となるFe、Cr(フェロクロム)、SiおよびFeS(硫化鉄)を添加して溶解する。ここで、主成分の重量比およびSの重量比を確認する。Sの重量比は後述する燃焼赤外吸収法によって測定される。この結果からフィードバックして、Sの重量比を最終的に得ようとする重量比になるようにFeSをさらに添加することにより、Sの量を調節する。このようにして得た材料からアトマイズ法により磁性粒子を得ることができる。
【0042】
上述の燃焼赤外吸収法においては、高周波誘導加熱炉中で純酸素を流しながら高温に加熱して測定試料を燃焼させる。燃焼によって、Sから得られる二酸化硫黄(SO
2)を酸素気流によって搬出し、赤外線吸収法によりその量を測定する。本発明者らの確認によれば、成形後の磁性体についてもこの方法でSの量を測定することができ、成形前後においてSを含めた各元素の組成比は変化していなかった。成形時に熱処理を施す場合には、軟磁性合金粒子11の一部が酸化するものと考えられるが、重量比率の変化は感知できないほどに極めて微量であった。
【0043】
原料粒子から成形体を得る方法については特に限定なく、粒子成形体製造における公知の手段を適宜取り入れることができる。以下、典型的な製造方法として原料粒子を非加熱条件下で成形した後に加熱処理に供する方法を説明する。本発明ではこの製法に限定されない。
【0044】
原料粒子を非加熱条件下で成形する際には、バインダとして有機樹脂を加えることが好ましい。有機樹脂としては熱分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニル樹脂などからなるものを用いることが、熱処理後にバインダが残りにくくなる点で好ましい。成形の際には、公知の潤滑剤を加えてもよい。潤滑剤としては、有機酸塩などが挙げられ、具体的にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。潤滑剤の量は原料粒子100重量部に対して好ましくは0〜1.5重量部である。潤滑剤の量がゼロとは、潤滑剤を使用しないことを意味する。原料粒子に対して任意的にバインダ及び/又は潤滑剤を加えて攪拌した後に、所望の形状に成形する。成形の際には例えば1〜30t/cm
2の圧力をかけることなどが挙げられる。
【0045】
熱処理の好ましい態様について説明する。
熱処理は酸化雰囲気下で行うことが好ましい。より具体的には、加熱中の酸素濃度は好ましくは1%以上であり、これにより、酸化膜を介する結合部22が生成しやすくなる。酸素濃度の上限は特に定められるものではないが、製造コスト等を考慮して空気中の酸素濃度(約21%)を挙げることができる。加熱温度については、軟磁性合金粒子11自体が酸化して酸化膜12を生成し、その酸化膜12を介して結合を生成させやすくする観点からは好ましくは600〜800℃である。酸化膜12を介する結合部22を生成させやすくする観点からは、加熱時間は好ましくは0.5〜3時間である。また、Sが0.003〜0.02wt%とすることで熱処理温度を700以下に下げることができ、更に0.005〜0.014wt%とすることで熱処理時間を0.5時間以下にすることも可能であり、熱処理を効率良くすることもできる。なお、磁性体1内には空隙30が存在していてもよい。
【0046】
このようにして得られる磁性体1を種々の電子部品の磁心として用いることができる。例えば、本発明の磁性体の周囲に絶縁被覆導線を巻くことによりコイルを形成してもよい。あるいは、上述の原料粒子を含むグリーンシートを公知の方法で形成し、そこに所定パターンの導体ペーストを印刷等により形成した後に、印刷済みのグリーンシートを積層して加圧することにより成形し、次いで、上述の条件で熱処理を施すことで、本発明の磁性体の内部にコイルを形成してなる電子部品(インダクタ)を得ることもできる。その他、本発明の磁性体を磁心として用いて、その内部または表面にコイルを形成することによって種々の電子部品を得ることができる。電子部品は表面実装タイプやスルーホール実装タイプなど各種の実装形態のものであってよく、磁性体から電子部品を得る手段については、後述の実施例の記載を参考にすることもできるし、また、電子部品の分野における公知の製造手法を適宜取り入れることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0048】
(磁性粒子)
アトマイズ法にて軟磁性合金粒子を調製した。アトマイズ法においてはFe、Cr(フェロクロム)、Si、Al、FeSを原料とした。軟磁性合金粒子の組成は表1記載のとおりである(単位はwt%)。ここでの組成はFe、Cr、Si、Alの合計を100wt%とし、これら主成分を100wt%に対し、イオウ(S)を所定の割合で添加している。軟磁性合金粒子の組成については、イオウ(S)については燃焼赤外吸収法で確認し、S以外の元素はプラズマ発光分析で確認した。軟磁性合金粒子の平均粒子径は10μmにした。
【0049】
(磁性体の製造)
この原料粒子100重量部を、PVAバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.5重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、後述の各評価のための形状に、6〜12ton/cm
2の成形圧力で成形した。このとき、成形圧力は磁性体における軟磁性合金粒子の充填率が83vol%になるように調節した。次いで、大気雰囲気下(酸化雰囲気下)において650℃にて1時間熱処理を行い、磁性体を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
(評価)
各磁性体について、イオウ(S)については燃焼赤外吸収法で確認し、S以外の元素はプラズマ発光分析で組成を測定し、磁性粒子の組成がそのまま反映されていることを確認した。
各磁性体についてTEM観察を行い、酸化膜を介して磁性粒子が互いに結合していることを確認した。
【0052】
体積抵抗率は、JIS−K6911準じた測定を行った。具体的には、外形φ9.5mm×厚み4.2〜4.5mmの円板状の磁性体を測定試料として製造した。上述した熱処理時に、円板状の両底面(底面の全面)にスパッタリングによりAu膜を形成した。Au膜の両面に25V(60V/cm)の電圧を印加した。この時の抵抗値から体積抵抗率を算出した。
【0053】
透磁率μの測定のために、外径14mm、内径8mm、厚さ3mmのトロイダル状の磁性体を製造した。この磁性体に、直径0.3mmのウレタン被覆銅線からなるコイルを20ターン巻回して測定用試料を得た。Lクロムメーター(アジレントテクノロジー社製:4285A)を用いて、測定周波数100kHzにて磁性体の透磁率を測定した。
【0054】
耐電圧の測定のために、外形φ9.5mm×厚み4.2〜4.5mmの円板状の磁性体を測定試料として製造した。上述した熱処理時に、円板状の両底面(底面の全面)にスパッタリングによりAu膜を形成した。Au膜の両面に電圧を印加して、I−V測定を行った。印加する電圧を徐々に上げて、電流密度が0.01A/cm
2となった時点での印加電圧を破壊電圧であるとみなした。破壊電圧が25V未満であればC、25V以上100V未満であればB、100V以上であればAとしてランク付けした。
【0055】
防錆性の評価のために、外形φ9.5mm×厚み4.2〜4.5mmの磁性体を製造した。この磁性体を85℃/85%の高温多湿の条件下で100時間放置した。試験前後における磁性体の外形の寸法変化を測定して、寸法変化が0.01mm未満であればA、0.01mm以上0.03mm未満であればB、0.03mm以上であればCとしてランク付けした。
【0056】
各評価結果を表2に記載する。
【表2】