【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度〜平成28年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】本発明の磁性体装置は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体を含む磁性体部と、キラルらせん磁気秩序のソリトンの伝播を制限する複数の制限手段とを備え、前記磁性体部は、2つの前記制限手段によりキラルらせん磁気秩序にソリトンが閉じ込められた複数の第1領域を有し、複数の第1領域は、キラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトンの数が実質的に同じであることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の磁性体装置は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体を含む磁性体部と、キラルらせん磁気秩序のソリトンの伝播を制限する複数の制限手段とを備え、前記磁性体部は、2つの前記制限手段によりキラルらせん磁気秩序にソリトンが閉じ込められた複数の領域を有し、複数の領域は、キラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトンの数が実質的に同じであることを特徴とする。
磁性体装置とは、磁性体の特性を利用した装置であり、高周波デバイスであってもよく、電子デバイスであってもよい。高周波デバイスは、例えば発振装置、受信装置、導波路、電力発生装置などである。電子デバイスは、例えば磁気メモリ、磁気センサ、論理素子などである。
【0010】
本発明の磁性体装置において、磁性体部は、2つの前記制限手段によりキラルらせん磁気秩序にソリトンが閉じ込められた複数の第2領域を有し、複数の第2領域は、キラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトンの数が実質的に同じであり、第1領域と第2領域は、閉じ込められたソリトンの数が異なることが好ましい。
このような構成によれば、第1ソリトン閉じ込め領域と第2ソリトン閉じ込め領域とで異なる周波数で磁気共鳴を生じさせることができる。このため、異なる2つの周波数で電磁波を発振・受信・伝送することが可能となる。また、本発明の磁性体装置において、磁性体部は、閉じ込められたソリトンの数が異なる第1、第2、第3、第4・・・第nソリトン閉じ込め領域を有することもできる。また、これらの領域は、閉じ込められたソリトンの数が分布するように設けることができる。このことにより、第1、第2、第3、第4・・・第nソリトン閉じ込め領域において異なる周波数で磁気共鳴を生じさせることができる。このため、共鳴周波数を広範囲にわたって分布させることができ、広範囲にわたる電磁波を発振・受信することができるため、本発明の磁性体装置は、広帯域の電磁場・電力の受信機や検出器として機能することができる。
本発明の磁性体装置において、制限手段は、磁性体部に局所的な磁場を印加する第1磁場印加部であることが好ましい。
このような構成によれば、第1磁場印加部により生じる磁場によりソリトンの伝播を制限することができ、ソリトン閉じ込め領域を形成することができる。
本発明の磁性体装置において、前記制限手段は、結晶欠陥、結晶粒界、溝又は接続部であるすることが好ましい。
このような構成によれば、ソリトンの伝播を制限することができ、ソリトン閉じ込め領域を形成することができる。
【0011】
本発明の磁性体装置において、複数の制限手段は、50以下のソリトンをソリトン閉じ込め領域に閉じ込めるように設けられたことが好ましい。
このような構成によれば、ソリトンが伝播できる範囲を狭くすることができ、高い周波数を含む幅広い周波数領域で磁気共鳴を生じさせることができる。
本発明の磁性体装置において、磁性体部に全体的な磁場を印加する第2磁場印加部をさらに備えることが好ましい。
このような構成によれば、磁性体部に全体的な磁場を印加することができ、ソリトン閉じ込め領域に閉じ込められたソリトンの数を変化させることができる。
また、本発明は、本発明の磁性体装置を備え、ソリトン閉じ込め領域に閉じ込められたソリトンの共鳴を利用する高周波デバイスも提供する。
本発明の高周波デバイスによれば、サブGHzから数THzまでの電磁波を発振・受信・伝送することが可能である。
【0012】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0013】
磁性体装置
図1〜3は、本実施形態の磁性体装置20の概略断面図である。
本実施形態の磁性体装置20は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体を含む磁性体部1と、キラルらせん磁気秩序のソリトン8の伝播を制限する複数の制限手段3とを備え、磁性体部1は、2つの制限手段3によりキラルらせん磁気秩序にソリトン8が閉じ込められた複数の領域9を有し、複数の領域9は、キラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じであることを特徴とする。
また、磁性体装置20は、磁性体部1に全体的な磁場を印加する第2磁場印加部14、磁性体部1に接続した電極対12、磁性体部1に光又は電磁波を照射する光源16を有してもよい。
以下、本実施形態の磁性体装置20について説明する。
【0014】
磁性体部1は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体を含む部分である。磁性体部1は、単結晶体から切り出したチップであってもよく、CVD法、PVD法などにより成膜された膜であってもよい。また、磁性体部1は、複数の磁性体が組み合わされた部分であってもよい。
磁性体部1の材料は、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体であれば特に限定されないが、例えばCrNb
3S
6である(非特許文献1参照)。キラルらせん磁気秩序とは、磁気モーメントがらせん状に並んだ磁気秩序である。なお、磁気モーメントは、磁性体の結晶軸をらせん軸としてらせん状に並ぶ。また、磁性体のらせん磁気秩序を、磁気モーメントの波であるソリトン8が伝播することができる。磁性体部1では、複数の線状のキラルらせん磁気秩序が束状に形成される。
磁性体部1は、2つの制限手段3によりキラルらせん磁気秩序にソリトン8が閉じ込められたソリトン閉じ込め領域9を複数有する。
【0015】
CrNb
3S
6を用いてキラルらせん磁気秩序を示す磁性体について説明する。
図4(a)は、CrNb
3S
6の結晶構造を示す図であり、(b)は、CrNb
3S
6のキラルらせん磁気秩序を示す図である。
図4(b)のらせん状に並んだ矢印は、磁気モーメントを示すベクトルであり、これらのらせん状に並んだ磁気モーメントは、波のように回転おり、キラルらせん磁気秩序状態となっている。なお、この磁気モーメントがねじれた領域の一つずつをソリトン8といい、ソリトン8が周期的に並んだ状態をソリトン格子という。また、このキラルらせん磁気秩序では、CrNb
3S
6のc軸方向をらせん軸として磁気モーメントがらせん状に並ぶ。
図4(c)〜(g)は、CrNb
3S
6に磁場を印加した場合のキラルらせん磁気秩序を示す図である。
図4(c)から(g)に向かうにつれ印加磁場の強さは大きくなる。CrNb
3S
6に磁場を印加すると、CrNb
3S
6の磁気モーメントが磁場の方向に向かう磁気分極が生じるため、印加磁場の強さを徐々に大きくしていくと磁気分極が進みソリトン8の数は徐々に少なくなる。そして、印加磁場の強さが十分に大きくなると
図4(g)のようにCrNb
3S
6の磁気モーメントが印加磁場の方向に並び強磁性状態となる。なお、印加磁場により磁気分極が進みソリトンの数が変化すると、磁性体部1の電気伝導特性や光学特性は変化する。
このように、磁性体部1に磁場を印加することによりキラルらせん磁気秩序内のソリトン8の数を変化させることやソリトン8の伝播性を変化させることができる。
【0016】
制限手段3は、ソリトン8の伝播を制限する手段である。制限手段3は、磁性体部1に局所的な磁場を印加する第1磁場印加部4であってもよく、磁性体の結晶欠陥であってもよく、磁性体の結晶粒界であってもよく、磁性体部1に設けられた溝6であってもよく、磁性体部1に設けられた接続部7であってもよい。また、制限手段3は複数設けられる。また、制限手段3は線状に設けることができる。
複数の制限手段3は、隣接する2つの制限手段3の間のキラルらせん磁気秩序にソリトン8が閉じ込められたソリトン閉じ込め領域9が形成されるように設けられる。また、複数の制限手段は、磁性体部1に複数のソリトン閉じ込め領域9が形成されるように設けられる。ソリトン閉じ込め領域9では、領域9内のキラルらせん磁気秩序にソリトン8が閉じ込められる。
また、線状の制限手段3は、キラルらせん磁気秩序のらせん軸に対して90度の方向に延びるように設けることができる。このことにより、領域9に含まれるキラルらせん磁気秩序のらせん軸方向の長さを同じにすることができる。
【0017】
複数の制限手段3は、キラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトンの数が複数のソリトン閉じ込め領域9で実質的に同じとなるように設けられる。
閉じ込められたソリトン8の数は、例えば、外部磁場を印加していない状態において、100以下であってもよく、50以下であってもよく、30以下であってもよく、20以下であってもよい。なお、通常、ソリトン8は、らせん1回り(360°回転)を1つとして数え、らせん0.5回り(180°回転)を0.5個と数える。
また、隣接する2つの制限手段3の間隔は、例えば、3μm以上15μm以下とすることができる。また、2つの制限手段3の間隔を変えることによりソリトン閉じ込め領域9の幅を変えることができ、ソリトン8が伝播することができるキラルらせん磁気秩序の長さを変えることができる。
【0018】
制限手段3として第1磁場印加部4を設ける場合について説明する。
図5(a)は、2つの磁石4(第1磁場印加部4)の間に生じる磁場を磁性体部1に印加する磁性体装置20の概略部分断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)に対応する磁性体部1のキラルらせん磁気秩序を示した模式図である。
この磁性体装置20では、磁性体部1を挟んで設けられた線状の磁石4a、4bと、磁性体部1を挟んで設けられた線状の磁石4c、4dとを間隔をおいて設けている。線状の磁石4a〜4dは、キラルらせん磁気秩序のらせん軸に対して90度の方向に延びるように設けられる。また、磁石4a〜4dは、磁化方向が磁性体部1の主要面に対して垂直方向となるように設けられる。
【0019】
このように磁石4a〜4dを設けた場合、磁石4bのN極から磁石4aのS極に向かう磁場を磁性体部1に印加し制限領域11aを形成することができ、磁石4dのN極から磁石4cのS極に向かう磁場を磁性体部1に印加し制限領域11bを形成することができる。また、制限領域11aと制限領域11bとの間にソリトン閉じ込め領域9bを形成することができる。
制限領域11a、11bでは、
図5(b)のように、キラルらせん磁気秩序の磁気モーメントが磁場の方向に向かう磁気分極が生じるため磁気モーメントの方向が固定され磁気秩序をソリトン8が伝播できなくなる。従って、ソリトン閉じ込め領域9b内の磁気秩序のソリトン8は、領域9b内に閉じ込められ、領域9bの磁気秩序の範囲内で伝播することになる。また、領域9b内のキラルらせん磁気秩序のらせん軸方向の長さは同じになり、ソリトン8が伝播できる範囲も同じになる。N極からS極への向きは磁石4bから磁石4aと磁石4dから磁石4cで同じであってもよく、反対であってもよい。閉じ込められるソリトンの個数が変わり、例えば、N極からS極への向きが同じ場合は整数個のソリトンが閉じ込められ、N極からS極への向きが反対の場合は半整数個のソリトンが閉じ込められる。
なお、磁石4a〜4dはリソグラフィー技術を用いて微細磁性体を形成することにより設けることができる。また、磁石4a〜4dは、永久磁石であってもよい。
図1〜3に示した磁性体装置20のようにこのような制限手段4を設けることができる。このことにより、磁性体部1に複数のソリトン閉じ込め領域9を形成することができる。
【0020】
図6(a)は、線状の磁石4(第1磁場印加部4)により生じる磁場を磁性体部1に印加する磁性体装置20の概略部分断面図であり、
図6(b)は
図6(a)の破線A−Aにおける磁性体装置20の概略部分断面図であり、
図6(c)は、
図6(b)に対応する磁性体部1のキラルらせん磁気秩序を示した模式図である。この磁性体装置20では、線状の磁石4a、4bが間隔をおいて設けられ、磁石4a、4bはキラルらせん磁気秩序のらせん軸に対して90度の方向に延びるように設けられている。また、線状の磁石4a、4bは、磁化方向が線状の磁石が延びる方向と同じ方向となるように形成されている。このような場合、磁石4a、4bにより
図6(a)(b)の矢印のような磁性体部1の面内方向と平行で、キラルらせん磁気秩序のらせん軸に対して90度の方向に磁場が生じ、制限領域11a、11bを形成することができる。また、制限領域11aと制限領域11bとの間にソリトン閉じ込め領域9bを形成することができる。磁石4a、4bのN極からS極への向きは平行であってもよく、反平行であってもよい。閉じ込められるソリトンの個数が変わり、例えば、N極からS極への向きが平行の場合は整数個のソリトンが閉じ込められ、N極からS極への向きが反平行の場合は半整数個のソリトンが閉じ込められる。
図6(c)のように、制限領域11a、11bでは、磁気モーメントが磁場の方向に向かう磁気分極が生じるため磁気モーメントの方向が固定され磁気秩序をソリトン8が伝播できなくなる。従って、ソリトン閉じ込め領域9b内の磁気秩序のソリトン8は、領域9b内に閉じ込められ、領域9bの磁気秩序の範囲内で伝播することになる。
このような制限手段4を複数設けることにより、磁性体部1に複数のソリトン閉じ込め領域9を形成することができる。
【0021】
制限手段3は、磁性体部1に形成された結晶欠陥5又は結晶粒界5であってもよい。
図7は、制限手段3として結晶欠陥5又は結晶粒界5を設けた磁性体装置20の概略断面図である。結晶欠陥5又は結晶粒界5は、例えば、磁性体を結晶成長させる際に形成することができる。また、結晶欠陥5又は結晶粒界5は、キラルらせん磁気秩序の右巻き・左巻きを変換するように設けられてもよい。結晶欠陥5又は結晶粒界5を設けると、キラルらせん磁気秩序の連続性が途切れるため、結晶欠陥5又は結晶粒界5をソリトンは伝播できない。
結晶欠陥5又は結晶粒界5は、例えば、
図7に示した磁性体装置20のように間隔をおいて設けることができる。また、結晶欠陥5又は結晶粒界5は、磁性体のキラルらせん磁気秩序のらせん軸に垂直な面となるように設けることができる。このように結晶欠陥5又は結晶粒界5を設けることにより、隣接する2つの結晶欠陥5又は結晶粒界5の間にソリトン8が閉じ込められたソリトン閉じ込め領域9を形成することができる。
【0022】
制限手段3は、磁性体部1に形成された溝6であってもよい。溝6は細長い形状を有することができる。
図8は、制限手段3として溝6を設けた磁性体装置20の概略断面図である。溝6は、例えば、磁性体部1をレーザー加工技術やリソグラフィー技術で加工することにより形成することができる。溝6の内部に充填物を設けてもよく設けなくてもよい。なお、充填物は、導電体であってもよく、半導体であってもよく、絶縁体であってもよい。
溝6は、例えば、
図8に示した磁性体装置20のように間隔をおいて設けることができる。また、溝6はキラルらせん磁気秩序のらせん軸に対して90度の方向に延びるように設けることができる。このように溝6を設けることにより、隣接する2つの溝6の間の磁性体部1に細長い凸部(ソリトン閉じ込め領域9)を複数形成することができる。この凸部では、キラルらせん磁気秩序は溝6で途切れているため、凸部の磁気秩序のソリトン8は、凸部に閉じ込められる。
【0023】
制限手段3は、磁性体部1に設けられた接続部7であってもよい。接続部7は、細長い形状を有することができる。接続部7は、複数の細長い磁性体部1を接続するように設けられてもよく、磁性体部1の細長い孔を充填するように設けられてもよい。
図9は、制限手段3として接続部7を設けた磁性体装置20の概略断面図である。接続部7は、例えば、レーザー加工技術やリソグラフィー技術により磁性体部1に細長い溝又は細長い孔を形成し、溝又は孔に充填物を充填することにより形成することができる。また、磁性体部1をリソグラフィー技術などにより分割し、分割された磁性体部1間に充填物を充填することにより形成することもできる。なお、接続部7は、導電体であってもよく、半導体であってもよく、絶縁体であってもよい。
【0024】
接続部7は、例えば、
図9に示した磁性体装置20のように間隔をおいて設けることができる。また、接続部7はキラルらせん磁気秩序のらせん軸に対して90度の方向に延びるように設けることができる。このように接続部7を設けることにより、隣接する2つの接続部7の間の磁性体部1に細長い部分(ソリトン閉じ込め領域9)を複数形成することができる。この細長い部分では、キラルらせん磁気秩序は接続部7で途切れているため、細長い部分の磁気秩序のソリトン8は、細長い部分に閉じ込められる。
【0025】
ソリトン閉じ込め領域9のソリトン8は、制限手段3により制限された磁気秩序内を伝播するため、
図10のように、特定の周波数の交流電場、交流磁場、レーザー光などで位相コヒーレンスによりソリトン閉じ込め領域9に共鳴を生じさせることができる。このため、磁性体部1から電磁波を発振することが可能である。共鳴周波数は、次の数1のように表すことができる。ここで、Q
0、a
0、ε
0は、磁性体部1の物質パラメータであり、Nは、ソリトン閉じ込め領域9内のソリトン8の数であり、Kは閉じ込めの異方性エネルギーである。
【0027】
例えば、
図1に示した磁性体装置20のように磁性体部1に接続した電極12a、12bを設けることや、
図2に示した磁性体装置20のように磁性体部1に全体的に磁場を印加する第2磁場印加部14を設けることや、磁性体装置20にレーザー光を照射する光源16を設けることなどにより、特定の周波数の交流電場、交流磁場、レーザー光などでソリトン閉じ込め領域9に共鳴を生じさせることができる。また、電極12により電場を印加した状態で、交流磁場を印加してもよく、レーザー光を照射してもよい。また、第2磁場印加部14により磁場を印加した状態で、交流電場を印加してもよく、レーザー光を照射してもよい。
なお、共鳴周波数は数1に示した式のように変化するため、2つの制限手段3の間隔を変えソリトン閉じ込め領域9の幅を変えることによりソリトン閉じ込め領域9内のソリトン8の数を変化させることができ、共鳴周波数を変えることができる。このため、サブGHzから数THzまでの周波数で共鳴させ発振することが可能である。
【0028】
ソリトン閉じ込め領域9のソリトン8は、制限手段3により制限された磁気秩序内で共振するため、特定の周波数の電磁波でソリトン閉じ込め領域9に共鳴を生じさせることができる。
図11のように、この共鳴によりソリトン8にスピン起電力を発生させることができ、この起電力を検出することにより特定の周波数の電力を発生させたり、特定の周波数の電磁波を受信することが可能である。スピン起電力は、例えば、磁性体部1に接続した電極12a、12bを用いて検出することができる。また、2つの制限手段3の間隔を変えることにより、サブGHzから数THzまでの周波数で共鳴させ電力を発生させたり電磁場を受信することが可能である。
【0029】
また、第2磁場印加部14により磁性体部1に全体的に直流の外部磁場を印加することによりソリトン閉じ込め領域9内のソリトン8の数を変化させることができる。例えば、
図4(c)〜(f)のように、外部磁場の強さを変化させることにより、ソリトン8の数を変化させることができる。従って、外部磁場の強さを変化させることによりソリトン8の数を変化させることができ、数1で表される共鳴周波数を変えることができる。このため、サブGHzから数THzまでの電磁波を発振・受信・伝送することが可能である。また、外部磁場を変化させることにより、発振周波数又は受信周波数を変えることが可能である。
【0030】
磁性体部1の複数のソリトン閉じ込め領域9は、キラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じとなるように形成される。制限手段3の間隔を同じにして複数のソリトン閉じ込め領域9を形成することにより、閉じ込められたソリトン8の数を実質的に同じにすることができる。なお、磁性体部1に含まれる少なくとも2つのソリトン閉じ込め領域9が、キラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じとなるように形成されればよく、磁性体部1に含まれるすべてのソリトン閉じ込め領域9がキラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じでなくてもよい。また、磁性体部1に含まれるすべてのソリトン閉じ込め領域9がキラルらせん磁気秩序に閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じであってもよい。
例えば、
図1〜3、7〜9に示した磁性体装置20のように、磁性体部1にソリトン閉じ込め領域9a〜9fを形成した場合、各ソリトン閉じ込め領域9の磁気秩序に閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じになるように同じ間隔で制限手段3が設けられる。
【0031】
閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じであるソリトン閉じ込め領域9を磁性体部1に複数形成すると、複数のソリトン閉じ込め領域9を位相コヒーレンスにより同じ周波数で共鳴させることができる。従って、磁性体部1から電磁波を発振する場合、複数のソリトン閉じ込め領域9から同じ周波数の電磁波を発振させることができ、発振する信号を巨大化することができる。
また、磁性体部1により電磁波を受信する場合、複数のソリトン閉じ込め領域9からスピン起電力を生じさせることができ、信号を高効率に受信することができる。また、共鳴に伴い巨大なスピン起電力やコヒーレントスピン流を誘起できる。
【0032】
また、閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じである複数のソリトン閉じ込め領域9が形成された磁性体部1に、第2磁場印加部14により全体的に磁場を印加し磁場の強さを変化させると、磁性体部1のソリトン8の数を階段状に変化させることができ、磁性体部1の電気抵抗や光学応答を階段状に変化させることができる。この電気抵抗や光学応答の階段状の変化を利用することにより磁気デバイス(メモリ・センサ・論理素子)の多値化が可能である。
例えば、閉じ込められたソリトン8の数が10であるソリトン閉じ込め領域9が磁性体部1に10個形成されている場合、磁性体部1に外部磁場を印加し磁場の強さを徐々に強くしていくと、各領域9に閉じ込められたソリトンの数は、10→9→8→7・・・と変化し磁性体部1全体のソリトンの数は、100→90→80→70・・・と変化する。従って、磁性体部1の電気抵抗や光学応答を階段状に変化させることができる。
【0033】
閉じ込められたソリトン8の数が実質的に同じである複数のソリトン閉じ込め領域9からなる組が磁性体部1に複数設けられ、各組において閉じ込められたソリトン8の数が異なってもよい。例えば、
図12に示した磁性体装置20のように、ソリトン閉じ込め領域9a、9bからなる第1組21と、ソリトン閉じ込め領域9c、9dからなる第2組22と、ソリトン閉じ込め領域9e、9fとからなる第3組23とを設けることができる。各組のソリトン閉じ込め領域9は、制限手段4の間隔が異なるために、閉じ込められたソリトン8の数が異なる。
このことにより、各組のソリトン閉じ込め領域9において異なる周波数で磁気共鳴を生じさせることができる。このため、複数の周波数で電磁波を発振・受信・伝送することが可能となる。
【0034】
また、各組のソリトン閉じ込め領域9は、閉じ込められたソリトンの数が分布するように設けることができる。このことにより、各組のソリトン閉じ込め領域9において異なる周波数で磁気共鳴を生じさせることができる。このため、共鳴周波数を広範囲にわたって分布させることができ、広範囲にわたる電磁波を発振・受信することができるため、本実施形態の磁性体装置20は、広帯域の電磁場・電力の受信機や検出器として機能することができる。
このような閉じ込められたソリトンの数が異なるソリトン閉じ込め領域9は、制限手段3の間隔を変えることや印加する外部磁場の大きさを局所的に変化させることにより形成することができる。
【0035】
電気抵抗測定1
磁気デバイスを作製し、磁性体部1の電気抵抗測定を行った。磁性体部1は、単結晶CrNb
3S
6磁性体を用いて形成した。また、CrNb
3S
6磁性体の磁気秩序のらせん軸方向に電流が流れるように電極対12a、12bを設けた。
図13(a)は作製した磁気デバイスのSIM像である。
外部磁場を印加する磁場発生装置(第2磁場印加部14)中に作製した磁気デバイスを設置し、外部磁場の強さを徐々に増加させ3500Oeまで強くした後、外部磁場の強さを徐々に減少させ、この間の磁性体部1の電気抵抗を測定した。なお、測定電流は1mAとした。
【0036】
図13(b)は、電気抵抗測定の結果を示すグラフである。外部磁場を印加していない状態における磁性体部1の電気抵抗は約711mΩであり、外部磁場の強さを徐々に強くしていくと、電気抵抗は徐々に低下した。これは、外部磁場により磁性体部1のソリトン8の数が徐々に少なくなっていくためと考えられる。そして外部磁場の強さが2900Oe以上になると磁性体部1の電気抵抗は約707.5mΩで安定した。これは、外部磁場により磁性体部1が強磁性状態になったためと考えられる。また、外部磁場の強さを徐々に減少させていくと、外部磁場の大きさが2900Oe以下となっても電気抵抗は約707.5mΩで安定しており、磁性体部1は過飽和状態となった。これは強磁性状態が維持されるためと考えられる。そして、外部磁場の大きさが約2000Oe(臨界磁場H
c)になると、電気抵抗は、約709.5mΩとなりΔR=2mΩだけ急激に増加した。外部磁場が臨界磁場H
cに達すると、磁性体部1が強磁性状態からソリトン格子に速く変化するためと考えられる。そして、外部磁場の大きさをさらに小さくしていくと、電気抵抗は徐々に上昇し、電気抵抗は約711mΩに戻った。このように、キラルらせん磁気秩序を示す磁性体では、外部磁場の変化に対する電気伝導特性の変化が履歴応答を示すことがわかった。
また、外部磁場の強さを増加させると、磁性体部1の電気抵抗は細かな階段状の変化がみられるもののほぼ滑らかに低下した。これは、磁性体部1のキラルらせん磁気秩序のソリトン8の数が多いためと考えられる。
【0037】
図14(a)は、CrNb
3S
6磁性体に制限手段3である結晶粒界5を形成しソリトン閉じ込め領域9に20つソリトン8を閉じ込めた磁性体のSIM像である。なお、結晶粒界5では、キラルらせん磁気秩序が右巻きから左巻きに変化する、又は左巻きから右巻きに変化する。
図14(b)は、外部磁場の強さを徐々に増加させ2300Oeまで強くした後、外部磁場の強さを徐々に減少させた際の領域9に閉じ込められたソリトン8の数を示したグラフである。このようにソリトン閉じ込め領域9に20つのソリトン8を閉じ込めると、ソリトンの数は外部磁場の変化に伴い階段的に変化する。また、領域9の電気抵抗や光学応答も外部磁場の変化に伴い階段的に変化すると考えられる。