特開2016-163900(P2016-163900A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-163900(P2016-163900A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】ガスシールドアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20160815BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20160815BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20160815BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20160815BHJP
【FI】
   B23K9/073 545
   B23K9/16 J
   B23K9/173 A
   B23K9/173 C
   B23K9/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-44774(P2015-44774)
(22)【出願日】2015年3月6日
(71)【出願人】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 輝久
(72)【発明者】
【氏名】小原木 一也
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB09
4E001CA01
4E001CC02
4E001DD02
4E001DD04
4E001DE04
4E001EA01
4E001EA08
4E001QA03
4E082AA03
4E082AB01
4E082BA04
4E082EA11
4E082EB11
4E082EC13
4E082EC16
4E082EF23
4E082JA05
(57)【要約】
【課題】シールドガス中の二酸化炭素の比率を低下させることによってスラグの発生を抑制しながら、良好な溶接品質を得ることができるようにする。
【解決手段】溶接ワイヤと被溶接部材との短絡後から第1のピーク電流値となるまで電流値を増加させて短絡を開放するまでの時間を0.005秒以下とする。短絡の解放後、第2のピーク電流値となるまで電流値を増加させてから所定の電流値まで低下させる時間を0.005秒以下に設定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルゴンと二酸化炭素を含むシールドガス中に供給される溶接ワイヤと被溶接部材との間でアークを発生させて被溶接部材を溶接するガスシールドアーク溶接方法において、
上記溶接ワイヤと上記被溶接部材との短絡後から第1のピーク電流値となるまで電流値を増加させて短絡を開放するまでの時間を0.005秒以下とし、短絡の解放後において、第2のピーク電流値となるまで電流値を増加させてから所定の電流値まで低下させる時間を0.005秒以下に設定した波形からなる溶接電流を供給して上記被溶接部材を溶接することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法において、
アルゴンと二酸化炭素を含むシールドガス中の二酸化炭素の体積比率を5%以下とすることを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接方法において、
電流値を第2のピーク電流値となるまで増加させた後、ベース電流値まで低下させることを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接方法において、
第2のピーク電流値を所定時間維持することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼板等を溶接する際に使用されるガスシールドアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスシールドアーク溶接は、溶接トーチの先端からシールドガスを供給し、シールドガス中で溶接ワイヤと被溶接材との間にアークを発生させて溶接ワイヤ及び被溶接材を短時間で溶融させて凝固させる溶接法であり、例えば自動車部品の溶接現場等で広く使用されている。
【0003】
特許文献1では、シールドガスとしてアルゴンに10〜30%の二酸化炭素が混合された混合ガスを使用している。また、特許文献2では、第1パルスと第2パルスとが交互に繰り返されるパルス電流を溶接電流として用いており、第1パルスと第2パルスとでピーク電流を変えるとともに、ピーク期間も変えており、パルス電流の1周期あたり1溶滴を移行させるとともに、溶接ワイヤと被溶接材との間の距離が変化した場合に、1周期あたり1溶滴移行を乱さない範囲でピーク電流やピーク期間を調整することにより、アーク長を一定に制御するようにしている。
【0004】
また、一般に、ガスシールドアーク溶接ではシールドガス中の二酸化炭素がアークの熱によって乖離して酸素が発生し、この酸素が溶融金属に入り込んで凝固後に気孔欠陥になりやすい。この対策として被溶接材中にシリコンやマンガン等の脱酸剤を添加し、溶接中にシリコンやマンガンの酸化物を生成させており、これら酸化物がスラグとして溶接後に溶接部に現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−98459号公報
【特許文献2】特開2007−237270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、溶接部に発生するスラグは溶接部の見栄えを悪化させるので好ましくない。また、例えば自動車部品のようにカチオン電着塗装する部品の場合には表面にスラグが付着していると通電しないため、スラグが付着した部分には塗料が電着しないという問題もある。特に足回り部品であれば走行中に受ける石等のチッピングによってスラグが剥がれ落ち、電着塗装していない部分が露出し、そこから錆が進行する原因となる。
【0007】
スラグの発生に対し、次の3つの対策が考えられる。第1の対策は、溶接後、スラグを削り取ることである。しかしながら、スラグを削り取るには工数がかかり、また、ショットピーニング等を用いた自動化設備の場合、設備投資が高額になるとともに、玉の補充等のランニングコストも高額になるので、コスト面で有効な対策とはいえない。
【0008】
第2の対策は、被溶接材のシリコンやマンガン等の添加物を少なくすることであるが、添加物を少なくすると被溶接材の組成が変わることになるとともに、脱酸剤の減少に起因して気孔欠陥の確率が上昇するので、有効な対策とはいえない。
【0009】
第3の対策は、シールドガス中の二酸化炭素の体積比率を低下させることである。例えば、アルゴン:二酸化炭素が95:5程度となるまで二酸化炭素の比率を低下させると、スラグは殆ど発生しなくなるので、スラグ抑制対策としては有効である。
【0010】
ところが、シールドガス中の二酸化炭素量が少なくなると、アーク発生中における二酸化炭素の乖離に要する熱量が減る、即ち、アークから奪われる熱量が減るので、アークエネルギーが増加し、アークの温度が高くなってアークが広がることになる。
【0011】
アークが広がると、被溶接材の溶け込みが浅くなったり、余盛りが低くなったり、溶接ビードが平坦になったりする。特に、被溶接材間の隙間が比較的大きなT字継ぎ手の溶接では穴開きが発生しやすくなって溶接品質が悪化する。このため、穴開きを埋めるための溶接手直しや、隙間を狭く管理するための型修正や治具修正にコストがかかり、また、ロボットを用いた自動溶接設備ではロボットのティーチング修正を頻繁に行わなければならず、このこともコストの増加を招く。
【0012】
また、アークが広がるとアーク長が長くなりやすい。このため、溶滴が安定的に成長せず、溶接ビードがふらついて溶接品質が悪化するという問題もある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シールドガス中の二酸化炭素の比率を低下させることによってスラグの発生を抑制しながら、良好な溶接品質を得ることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、溶接電流の波形をコントロールすることで、シールドガス中の二酸化炭素の比率が低くてもアークが広がらないようにするとともに、アーク長を短くするようにした。
【0015】
第1の発明は、
アルゴンと二酸化炭素を含むシールドガス中に供給される溶接ワイヤと被溶接部材との間でアークを発生させて被溶接部材を溶接するガスシールドアーク溶接方法において、
上記溶接ワイヤと上記被溶接部材との短絡後から第1のピーク電流値となるまで電流値を増加させて短絡を開放するまでの時間を0.005秒以下とし、短絡の解放後において、第2のピーク電流値となるまで電流値を増加させてから所定の電流値まで低下させる時間を0.005秒以下に設定した波形からなる溶接電流を供給して上記被溶接部材を溶接することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、溶接ワイヤと被溶接部材との短絡後、第1のピーク電流値となるまで電流値を増加させることで溶接ワイヤの溶滴移行が促進される。そして、溶滴が溶融池に移行して短絡が開放される。この間の時間が0.005秒以下であるため、第1のピーク電流値となるまで電流値を上げる速度が速くなる。電流値を上げる速度が速くなることで、短絡した溶接ワイヤの切り離れが促進されるので溶接ワイヤが切り離れる位置を被溶接部材に近付けることが可能になる。その結果、短絡の開放後に発生するアーク長が短くなる。そして、第2のピーク電流となるまで電流を増加させることで溶接ワイヤの先端部の溶融が加速され、その後、溶接電流は低下する。第2のピーク電流値となるまで電流値を増加させてから低下させるまでの時間が0.005秒以下であるため、電流値は第2のピーク電流から急減に低下することになる。これにより、熱エネルギーの供給量が素早く低減されるのでアークエネルギーの増加が抑制されてアークが広がり難くなるとともに、アーク長が短くなる。したがって、シールドガス中の二酸化炭素の比率を低下させてスラグの発生を抑制する場合に、溶接部に穴開きが発生し難くなるとともに、溶接ビードのふらつきも低減される。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、
アルゴンと二酸化炭素を含むシールドガス中の二酸化炭素の体積比率を5%以下とすることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、シールドガス中の二酸化炭素の体積比率が5%以下となることで、スラグの発生量がより一層少なくなる。よって、溶接部の見栄えが向上するとともに、例えば自動車用足回り部品のように溶接後にカチオン電着塗装する場合に耐食性が向上する。
【0019】
そして、シールドガス中の二酸化炭素の体積比率を5%以下とした場合であっても、第1の発明のように溶接電流の波形を設定することでアークの広がりが抑制されてアーク長が短くなるので、溶接品質に悪影響を及ぼさない。
【0020】
第3の発明は、第1または2の発明において、
電流値を第2のピーク電流値となるまで増加させた後、ベース電流値まで低下させることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、電流値をベース電流値まで低下させることで、熱エネルギーの供給量が十分に低下してアークの広がりを抑制する効果が向上する。
【0022】
第4の発明は、第1から3のいずれか1つの発明において、
第2のピーク電流値を所定時間維持することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、第2のピーク電流を所定時間維持することで溶接ワイヤの先端部を十分に溶融させることが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
第1の発明によれば、シールドガス中の二酸化炭素の比率を低下させてスラグの発生を抑制することができるとともに、アークの広がりを抑制してアーク長を短くすることができ、良好な溶接品質を維持することができる。
【0025】
第2の発明によれば、シールドガス中の二酸化炭素の体積比率を5%以下としたので、スラグの発生量をより一層少なくすることができ、見栄えを向上できるとともに、例えば自動車用足回り部品の耐食性を向上できる。
【0026】
第3の発明によれば、第2のピーク電流値となるまで電流値を増加させた後、ベース電流値まで低下させることで、熱エネルギーの供給量を十分に低下してアークの広がりを抑制する効果を向上できる。
【0027】
第4の発明によれば、第2のピーク電流値を所定時間維持することで溶接ワイヤの先端部を十分に溶融させることができ、溶接品質を一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係るガスシールドアーク溶接装置の概略構成図である。
図2】溶接電流波形の形状を示す図である。
図3】溶接ワイヤと被溶接部材の模式図であり、(a)溶接ワイヤと被溶接部材とが短絡した状態を示し、(b)は溶滴移行状態を示し、(c)は短絡が開放されてアークが発生した状態を示し、(d)は溶接ワイヤの溶融が進んだ状態を示し、(e)は電流を低下させて溶滴を維持している状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係るガスシールドアーク溶接装置1の概略構成を示すものであり、このガスシールドアーク溶接装置1を使用することで本発明のガスシールドアーク溶接方法を実行することができる。
【0031】
ガスシールドアーク溶接装置1は、例えば自動車部品としての足回り部品の製造現場に設置され、足回り部品を構成する被溶接部材10(図3に示す)としての複数の鋼板をロボット2によって自動溶接する場合に使用される。被溶接部材10は、例えば亜鉛メッキ鋼板等を挙げることができる。ガスシールドアーク溶接装置1は、ロボット2の他、ロボット2を制御するロボット制御装置3、溶接電源装置4、ガスボンベ5及び溶接ワイヤ供給装置6を備えている。また、ガスシールドアーク溶接装置1は、T字継ぎ手の溶接に使用することができる。
【0032】
ロボット2は、周知の多関節型の産業用ロボットを使用することができる。ロボット2のアーム2aの先端部には、ロボット用溶接トーチ2bが取り付けられている。ロボット用溶接トーチ2bの先端部から溶接ワイヤW(図3に示す)が供給されるとともに、シールドガスが供給される。ロボット用溶接トーチ2bは従来周知のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0033】
ロボット制御装置3は、ロボット2に接続されており、周知の演算処理装置や記憶装置等を備えている。ロボット制御装置3の記憶装置には、所定の動作プログラムを記憶させることができる。ロボット制御装置3は、動作プログラムに従ってロボット2を制御するように構成されている。動作プログラムは、例えばティーチングによって作成される。
【0034】
ガスボンベ5にはシールドガスが充填されている。ガスボンベ5は配管を介してロボット2のロボット用溶接トーチ2bに接続されている。シールドガスは、アルゴンと二酸化炭素との混合ガスである。この実施形態では、シールドガス中の二酸化炭素の体積比率を5%としているが、二酸化炭素の体積比率は5%よりも少なくてもよい。
【0035】
溶接ワイヤ供給装置6は溶接ワイヤWを収容しており、溶接ワイヤWを連続的に供給するように構成されている。溶接ワイヤWの送給スピードは、溶接スピードや被溶接材10の種類に応じて任意に調整することができる。
【0036】
溶接電源装置4は、溶接ワイヤWに供給する溶接電流を出力するものであり、周知の溶接電流波形生成部4aと、溶接電流波形生成部4aで生成した波形の溶接電流を出力する出力部4bとを備えている。溶接電流波形生成部4aは、溶接電流波形をデジタル制御によって生成するように構成されており、その構造は従来から周知のものであるため詳細な説明は省略する。
【0037】
溶接電流波形生成部4aで生成する溶接波形は、具体的には図2に示す波形であり、この溶接波形を連続して生成する。ベース電流値Ibは、170A〜180Aの間で設定されている。A点は、溶接ワイヤWの先端部が被溶接部材10と接触して短絡する瞬間を表す点であり、まず、このA点からB点まで電流値を瞬間的に低下させる。B点における電流値はベース電流値Ibの1/3以下が好ましく、この実施形態では50Aとしている。そして、電流値をB点からC点まで上昇させる。C点における電流値は第1のピーク電流値であり、第1のピーク電流値はベース電流値Ibの2倍以上が好ましく、この実施形態では450Aとしている。
【0038】
電流値を第1のピーク電流値まで上昇させた後、瞬時にD点まで低下させる。D点は短絡を開放する点である。A点からD点までの時間は0.005秒以下が好ましく、0.003秒以下であってもよい。D点における電流値は、ベース電流値Ibよりも低く、ベース電流値Ibの1/3以下が好ましい。この実施形態では、B点における電流値と同じ50Aとしている。その後、電流値をD点からE点まで再び上昇させる。E点における電流値は、第2のピーク電流値であり、第2のピーク電流値はベース電流値Ibの2倍以上が好ましく、この実施形態では第1のピーク電流値と同じ450Aとしている。第2のピーク電流値をF点まで維持する。第2のピーク電流値を維持する所定時間は例えば0.001秒である。
【0039】
その後、電流値をF点からG点まで低下させてからH点まで低下させる。G点における電流値はベース電流値Ibよりも高くしており、この実施形態では200Aである。H点における電流値はベース電流値Ibである。電流値をF点からG点まで低下させるのに要する時間は、電流値をG点からH点まで低下させるのに要する時間と同じか、この時間よりも短く設定されている。これにより、電流値をF点からG点まで瞬時に低下させた後、緩やかに低下させることが可能になる。短絡の解放後において、第2のピーク電流値となるまで電流値を増加させてから所定の電流値まで低下させる時間、即ち、E点からH点までの時間は0.005秒以下が好ましく、0.003秒以下であってもよい。1つの溶接波形における始点(A点)から終点(H点)までの時間は0.001秒以下が好ましく、0.007秒以下であってもよい。
【0040】
次に、上記のように構成された係るガスシールドアーク溶接装置1を使用して被溶接材10を溶接する方法について説明する。被溶接材10は例えばプレス成形された板材等である。ロボット2によってロボット用溶接トーチ2bを所定の溶接位置まで移動させる。また、ガスボンベ5からシールドガスを供給し、溶接ワイヤ供給装置6から溶接ワイヤWを供給する。そして、溶接電源装置4からは、図2に示す波形が連続した波形を持った溶接電流が供給される。この実施形態では、シールドガス中の二酸化炭素の体積比率を5%以下となるまで低下させているので、スラグは殆ど発生しなくなる。
【0041】
図2におけるA点では図3(a)に示すように、溶接ワイヤWの先端部と被溶接部材10とが短絡し、その後、電流値がB点まで瞬間的に低下することで、溶接ワイヤWの先端部と被溶接部材10とが確実に短絡し、溶滴が飛散し難い安定した短絡状態を作り出すことができる。
【0042】
その後、電流値が第1のピーク電流値であるC点まで増加することで、図3(b)に示すように溶接ワイヤWの溶滴移行が促進される。そして、電流値がD点まで低下することで図3(c)に示すように溶滴が溶融池に移行して短絡が開放し、アーク100が発生する。溶接ワイヤWと被溶接部材10との短絡から短絡が開放されるまでの時間が0.005秒以下とされているので、第1のピーク電流値となるまで電流値を上げる速度を十分に速くすることができる。電流値を上げる速度が速くなることで、短絡した溶接ワイヤWの切り離れが促進されるので溶接ワイヤWが切り離れる位置を被溶接部材10に近付けることが可能になる。その結果、短絡の開放後に発生するアーク長が短くなる。
【0043】
次いで、電流値が第2のピーク電流値であるE点まで増加し、F点までその電流値を維持することで図3(d)に示すように溶接ワイヤWの先端部の溶融を加速させることができ、また、被溶接材10の溶け込み量を十分に確保できる。その後、溶接電流はG点、H点まで低下する。電流値を第2のピーク電流値となるまで増加させてからベース電流値Ibとなるまで低下させるまでの時間が0.005秒以下であるため、電流値は第2のピーク電流値から急減に低下することになる。これにより、熱エネルギーの供給量が素早く低減されるのでアークエネルギーの増加が抑制される。従って、二酸化炭素の体積比率が5%以下であってアーク発生中における二酸化炭素の乖離に要する熱量が減る状況下にあっても、アークエネルギーを適切に制御することができる。これにより、図3(e)に示すようにアークが広がり難くなるとともに、アーク長が短くなる。アークが広がり難くなることで溶接部に穴開きが発生し難くなり、また、アーク長が短くなることで溶滴が小粒になり、溶融池に安定して短絡して溶接ビードのふらつきが低減される。
【0044】
以上説明したように、この実施形態によれば、シールドガス中の二酸化炭素の比率を低下させてスラグの発生を抑制することができるとともに、アークの広がりを抑制してアーク長を短くすることができ、良好な溶接品質を維持することができる。
【0045】
スラグを抑制することで、スラグを削り取る作業を行うことなく、溶接部の見栄えが良好になるとともに、溶接部にもカチオン電着塗装することができ、耐食性の高い部品を得ることができる。
【0046】
尚、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法は、自動車部品の溶接現場以外にも、例えば電気製品等の溶接現場で使用することもできる。
【0047】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法は、例えば自動車部品を溶接する場合に使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ガスシールドアーク溶接装置
2 ロボット
2a アーム
2b ロボット用溶接トーチ
3 ロボット制御装置
4 溶接電源装置
5 ガスボンベ
6 溶接ワイヤ供給装置
10 被溶接部材
100 アーク
W 溶接ワイヤ
図1
図2
図3