【課題】走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置であって、湾曲した側板や液圧緩衝部材を設けてクーラント液の整流や液圧緩衝を行うことで流れを制御し、ワイヤを高速で走行させてもワイヤの液切れを防止することができるワイヤソー装置を提供することを目的とする。
【解決手段】走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置であって、クーラント液が注入された液槽を備え、前記ワイヤが前記被削材に切り込む切断部が、前記クーラント液に浸漬され、前記液槽の側壁面が、前記液槽の内部に向かって凹状に湾曲して形成されている
【背景技術】
【0002】
従来から、砥粒を用いて走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置が提案されている(特許文献1〜4参照。)。「ワイヤソー」は、1本のワイヤを複数のローラ間に巻回して1枚のみ切断する場合は「シングルワイヤソー」、1本のワイヤを複数のローラ間に螺旋状に巻回して複数枚を同時切断する場合は「マルチワイヤソー」とも称されている。
【0003】
特許文献1には、固定砥粒方式のマルチワイヤソー(固定砥粒方式のワイヤソー装置)において、ワイヤが被削材に切り込む切断部が液槽内部でクーラント液に浸漬されることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、固定砥粒ワイヤソー(固定砥粒方式のワイヤソー装置)において、ワイヤが被削材に切り込む切断部が液槽の上端部近傍で常にクーラント液に浸漬されることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、走行するワイヤに連れて移動するクーラント液の液流による液圧の影響を排除するために、クーラント液を受ける液槽内に仕切り壁を設けることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、ワイヤソー(ワイヤソー装置)において、ワーク切断時に、ワイヤを往復走行させると共に、所定の角度で揺動させることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発電場所から電力を消費する場所に至るまで、高電圧・大電流を制御するためのパワー半導体デバイスの基板材料として、従来は単結晶シリコンウェハが多用されてきた。パワー半導体においては、例えば直流と交流を変換する際の損失を低減することが強く求められてきている。一層の省エネ化を進めるためには、この損失をさらに低減させなければならないが、単結晶シリコンでは、その物性のために材料として限界に達しつつある。
パワーデバイスのさらなる損失低減の要求に応えられる基板材料として、最近では、電気的に優れた特性を備える単結晶炭化ケイ素ウェハに高い期待が寄せられている。炭化ケイ素は、シリコンでは動作できないような高温下でも動作することが可能で、次世代の素材として高い期待が寄せられている。
しかしながら、炭化ケイ素ウェハは高価であり、省エネの推進すなわちシリコンから炭化ケイ素への置き換えには、炭化ケイ素ウェハの価格低下が必要とされている。炭化ケイ素ウェハの製造コストの中では、インゴットからウェハをスライスし平坦化・鏡面化する加工のコスト低減が重要な課題となっている。この理由の一つとして、炭化ケイ素はシリコンよりも硬度が高く24GPaに達することが挙げられる。このため、炭化ケイ素は代表的な難加工材料とされている。
【0009】
近年、ワイヤにダイヤモンドを固着させた固定砥粒式のワイヤスライシング法により、炭化ケイ素のような非常に硬い材料でも、高効率切断が可能となり、従来の遊離砥粒式のスライシングの半分以下あるいは1/10以下の極めて短時間での切断が可能になったが、そのためには、例えば、ワイヤを500m/分以上の高速あるいは2000m/分といった超高速で往復走行させなければならない。その際に、ワイヤが高速(超高速)走行することで発生する熱の冷却のために、加工点にクーラント液を確実に供給することが不可欠となる。
【0010】
しかしながら、これまでのワイヤスライシング方法では、以下のような問題が発生する。
まず、ワイヤを高速で往復走行させると、ワイヤの進行方向に沿ってクーラント液の激流が発生し、特許文献1のようにワイヤが被削材に切り込む切断部がクーラント液中に浸漬されていても、前記液流が液槽の壁面に沿って上昇して、クーラント液が液槽の壁を飛び越えて液槽外に過剰に流出してしまい、結果としてワイヤの液切れが発生する。また、出願人の経験では、特許文献2に記載されているように、クーラント液が液槽の解放上面から常時オーバーフローするようにしても、ワイヤと被削材の切断面が液槽の上端部近傍にあるような構成では、高速で走行するワイヤによって液切れが発生することが推量される。ここで、ワイヤの「液切れ」とは、ワイヤにクーラント液が十分に付着してない状態、あるいは、ワイヤがクーラント液に十分に浸漬されていない状態のことをいう。
【0011】
また、液槽内に大流量のクーラント液を注入すると、液槽内部でもクーラント液の激流が発生し、この激流の液圧により、切断途中の被削材、あるいは、切断されて液槽内に保持された被削材がばたつく等して破損してしまう虞がある。
【0012】
なお、特許文献3には、クーラント液槽内に仕切り壁を設けることで、クーラント液圧を排除し、加工品(切断された被削材)の割れを防止することが記載されているが、ワイヤが被削材に切り込む切断部がクーラント液を受ける液槽の上端部近傍にあるので、上記のワイヤの走行速度の高速化によるクーラント液の液槽外への過剰な流出ひいてはワイヤの露呈の発生を防止する、つまりワイヤの液切れを防止するという課題が解決されていないものと推量される。
【0013】
そこで、本発明においては、走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置であって、湾曲した側板や液圧緩衝部材を設けてクーラント液の整流や液圧緩衝を行うことで流れを制御し、また、内部液槽や整流板等を設けてクーラント液の整流を行うことで、ワイヤを高速で走行させてもワイヤの液切れを防止することができ、また、大流量のクーラント液を注入しても被削材の破損等低減することができるワイヤソー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明のワイヤソー装置は、走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置であって、クーラント液が注入された液槽を備え、前記ワイヤが前記被削材に切り込む切断部が、前記クーラント液に浸漬され、前記液槽の側壁面が、前記液槽の内部に向かって凹状に湾曲して形成されていることを第1の特徴とする。
【0015】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記液槽の側壁面に液圧緩衝部材が設けられていることを第2の特徴とする。
【0016】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記液圧緩衝部材が、スポンジで形成されていることを第3の特徴とする。
【0017】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記液圧緩衝部材の固定用部材が、前記液圧緩衝部材に被装されて、前記液槽に取付けられていることを第4の特徴とする。
【0018】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記液槽の内部に内部液槽が設けられていることを第5の特徴とする。
【0019】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記ワイヤの走行ラインの直上に、整流部材が設けられていることを第6の特徴とする。
【0020】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記ワイヤに固定砥粒が固着されていることを第7の特徴とする。
【0021】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記ワイヤを揺動させながら前記被削材が切断されることを第8の特徴とする。
【0022】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記液槽の側壁に、前記ワイヤが走行可能な複数の切込みが設けられていることを第9の特徴とする。
【0023】
また、本発明のワイヤソー装置は、前記ワイヤの揺動に連動して、前記液槽が揺動することを第10の特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置において、湾曲した側板や液圧緩衝部材等を設けてクーラント液の整流や液圧緩衝を行うことで、前記ワイヤを高速で走行させても、前記ワイヤの液切れを防止することが可能となる。
【0025】
また、本発明によれば、走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置において、内部液槽や整流板等を設けて、大流量で注入されるクーラント液の整流を行うことで、切断中の被削材や、切断後に液槽内に保持された被削材(ウェハ状に加工された被削材)のばたつきを低減し、前記被削材の破損を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、好適な実施の形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施の形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
[第一の実施の形態におけるワイヤソー装置]
まず、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置について、
図1を参照しながら説明する。
ここで、走行するワイヤに被削材を押し当てることにより前記被削材を切断するワイヤソー装置において、ワイヤが被削材に切り込む切断部が液槽内部でクーラント液に浸漬される技術思想は、上記の特許文献1に記載され、ワイヤが被削材に切り込む切断部が液槽の上端部近傍で常にクーラント液に浸漬される技術思想は上記の特許文献2及び特許文献3に記載され、被削材を液槽下方から上方に上昇させながら切断する技術思想は上記の特許文献1,4に記載され、被削材を液槽上方から下方に下降させながら切断する技術思想は上記の特許文献2,3に記載され、被削材切断時に、ワイヤを往復走行させると共に、該ワイヤを所定の角度で揺動させる技術思想は上記の特許文献4に記載されており、これらの技術思想は、当業者にとって周知のことである。
【0029】
図1は、本発明の第1の実施形態のワイヤソー装置の液中切断用液槽1の構成を説明する図である。
図1に示すように、液中切断用液槽1は、液槽本体2と、注液用アダプタ2a,2bと、内部液槽3と、ワイヤライン切込側板4a,4bと、側板5a,5bと、背板5cと、液圧緩衝部材6a,6b,6cと、液圧緩衝部材固定金網7a,7b,7cと、ワイヤライン直上整流板8a,8bとを備えている。
【0030】
注液用アダプタ2aと注液用アダプタ2bとは、同一形状でもよい。同様に、ワイヤライン切込側板4aとワイヤライン切込測板4b、側板5aと側板5b、液圧緩衝部材6aと液圧緩衝部材6b、液圧緩衝部材固定金網7aと液圧緩衝部材固定金網7b、ワイヤライン直上整流板8aとワイヤライン直上整流板8bは、それぞれ、同一形状でもよい。また、クーラント液には界面活性剤が含有されていてもよい。
【0031】
液槽本体2は、上部が開口された略直方体形状をなすクーラント液槽用の容器であり、連設された液槽本体前壁20a,液槽本体左側壁20b,液槽本体右側壁20c、液槽本体背壁20d,液槽本体底壁20eを備えている。液槽本体前壁20aの下部には、注液用アダプタ挿着孔2c,2dが開孔され、この注液用アダプタ挿着孔2c、2dを介して注液用アダプタ2a,2bが液槽本体2に取り付け可能なように構成されている。液槽本体2には、注液用アダプタ2a,2bを介して外部から注入されたクーラント液が貯留される。
【0032】
注液用アダプタ2a,2bには、それぞれ、略L字型の屈曲部材が設けられている。注液用アダプタ2a,2bに大流量で注入されたクーラント液が、この屈曲部材によって左右に整流されるように構成されている。
【0033】
内部液槽3は、上部が開口された略直方体形状をなすクーラント液槽用の容器であり、連設された内部液槽前壁30a,内部液槽左側壁30b,内部液槽右側壁30c、内部液槽背壁30d,内部液槽底壁30eを備えている。内部液槽3は、液槽本体2に収納可能な大きさである。内部液槽3の深さ(高さ)は、液槽本体2の深さ(高さ)と同じになるように形成されているが、内部液槽3の深さ(高さ)が、液槽本体2の深さ(高さ)よりも浅く(低く)なるように形成されてもよい。また、内部液槽3には、必要に応じて整流効果を高めるように穴加工や表面に凹凸などの下加工を施してもよい。
【0034】
ワイヤライン切込側板4a,4bは、それぞれ、液槽本体2の液槽本体左側壁20b,液槽本体右側壁20cの上方に対向して配設される。ワイヤライン切込側板4a,4bのそれぞれには、ワイヤと同一ピッチで複数の切込が設けられているが、この切込は、ワイヤライン切込側板4a,4bそれぞれを横切る方向に走行するワイヤが、ワイヤライン切込側板4a,4bと接触しないように設けられた逃げ溝として用いられる。この切込は、液中切断用液槽1内のクーラント液の流出を最小限に抑え、かつ、固定砥粒式ワイヤの被削材以外での接触による磨耗が最小限になるように形成されている。この切込を予め設けておくことにより、ワイヤで被削材を切断すると同時に液槽の側壁を切削してガイド溝を形成する特許文献3記載の発明に比べて、ワイヤへの負担が軽減される。本実施例のワイヤソー装置は、上述(段落「0002」参照。)の「マルチワイヤソー装置」を想定しているが、「シングルワイヤソー装置」にも適用することができる。
【0035】
側板5a,5bは、それぞれ、ワイヤライン切込側板4a,4bの上方に、対向して配設される。対向する側板内壁面50a,50bは、それぞれ、液槽本体2の内部(液中切断用液槽1の内部)に向かって凹状に湾曲して形成されている。これにより、高速で往復走行するワイヤに連れて発生するクーラント液の激流が、液槽本体2の内部(液中切断用液槽1の内部)に向かって整流され、ワイヤの液切れを防止することができる。
ここで、クーラント液の激流を、液槽本体2の内部に向かって整流することができれば、側板内壁面50a,50bの壁面全体を湾曲させなくても、一部分が湾曲するように形成してもよい。例えば、側板内壁面50a,50bの上部のみ湾曲させて形成してもよい。
【0036】
背板5cは、液槽本体2の液槽本体背壁20dの上方に、側板5a,5bに連設して取り付けられる。
【0037】
液圧緩衝部材6a,6bは、スポンジを素材とし、それぞれ、側板内壁面50a,50bに着設される。液圧緩衝部材6cは、スポンジを素材とし、背板内壁面50cに着設される。液圧緩衝部材6a,6b,6cは、高速走行するワイヤによって発生するクーラント液の激流の波を軽減して(つまり、液圧緩衝して)該激流を整流して安定させ、ワイヤの液切れを防止するという効果を奏するものであり、同様の液圧緩衝、整流効果を奏する素材であれば、スポンジ以外のものでもよい。
【0038】
液圧緩衝部材固定金網7a,7b,7cは、それぞれ、液圧緩衝部材6a,6b,6cを、側板5a,5b,背板5cに固定するための金網形状の部材であり、液圧緩衝部材6a,6b,6cを被うようにして、側板5a,5b,背板5cに固定される。
【0039】
ワイヤライン直上整流板8a,8bは、液槽本体2の略中央部で上方から下降しながら切断される被削材W(
図5参照。)の両側にあって、切断に関与しないワイヤの走行ラインの直上位置に配設され、被削材の切断加工中に注液用アダプタ2a,2bから大流量で注入されるクーラント液の液流を安定させ、被削材のばたつきを少なくし、該被削材の破損等を低減することができる。
【0040】
前板9は、液槽本体2の前面の液槽本体前壁20a上に、側板5a,5bに連設して取り付けられる。前板9には、クーラント液受け部9aと衝突回避凹部9bが設けられている。衝突回避凹部9bは、被削材が取り付けられた昇降ベース10(例えば、
図2参照。)が下降してきたときに、前板9の上端部と衝突するのを回避するために、前板9の上端部が凹状に形成されたものである。この衝突回避凹部9bを形成することにより、注入されたクーラント液が溢れ出て、液面が下がるのを防ぐために、クーラント液受け部9aが設けられている。
【0041】
本実施形態において、前板9、側板5a,5b、背板5c,それぞれの上端辺の高さが略一致するように形成されているが、上端辺の高さは必要に応じて適宜調整されてもよい。
【0042】
本実施形態において、液槽本体前壁20aと前板9とで液中切断用液槽1の前側の側壁が形成され、液槽本体左側壁20bとワイヤライン切込側板4aと側板5aとで液中切断用液槽1の左側の側壁が形成され、液槽本体右側壁20cとワイヤライン切込側板4bと側板5bとで液中切断用液槽1の右側の側壁が形成され、液槽本体背壁20dと背板5cとで液中切断用液槽1の後側の側壁が形成されている。
【0043】
以上、液中切断用液槽1の構成について説明したが、上記の整流、液圧緩衝の効果を奏する部品(部材)は、必要に応じて全てあるいは一部の部品(部材)を選択して用いられてよい。
【0044】
次に、個々の構成部品の構成と作用について
図2〜
図5を参照しながら説明する。
図2は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の側板の構成と作用を説明する図である。液中切断用液槽1の構成部品は、主に説明に必要な部品を記載し、その他の構成部品は、なるべく記載を省略している。以下に説明する
図3〜
図9においても同様である。
【0045】
図2は、昇降ベース10に被削材Wが被削材固定板10aを介して取り付けられており、昇降ベース10を下降させながら、ローラ11aに巻回されて斜線を施した矢印のように高速で往復走行するワイヤ12が、
図2の左側に向かってワイヤを走行させている場合に、ワイヤを被削材Wに切り込ませて、液中切断用液槽1内で被削材Wを切断する際の液の流れの様子を示したものである。図中の白抜き矢印は、ワイヤ12の走行に伴って生じるクーラント液の液流の方向を示している。以下の
図3〜
図9でも同様である。
【0046】
液中切断用液槽1には、クーラント液Cが注入されて貯留されている。当初(被削材Wの切断加工前)の液面の高さは、液中切断用液槽1の上端部近傍、つまり、側板5aの上端辺近傍の位置である。被削材Wの切断加工中は、クーラント液Cは注入され続けている。
図2に示すように、被削材Wは、液中切断用液槽1内部でクーラント液Cに浸漬されて切断される。当然に、ワイヤが被削材に切り込む切断部は、液中切断用液槽1内部でクーラント液Cに浸漬されている。このとき、ローラ11aに巻回され、ワイヤライン切込側板4aの切込によって作られる空間を通り、高速に走行するワイヤ12によって、ワイヤ12の進行方向(
図2では、ローラ11a側)から液中切断用液槽1の上方に向かって激しいクーラント液Cの液流T1が発生するが、この液流T1は、液中切断用液槽1の内部に向かって凹状に湾曲して形成された側板5aの側板内壁面50aの壁面に沿って、図中、T2で示すように、液中切断用液槽1の内部方向に整流される。この結果、クーラント液Cが過剰に液中切断用液槽1から流出し、ひいてはワイヤ12が液面から露呈してしまうことを防止することができる。つまりワイヤ12の液切れを防止することができる。なお、前述したように、ワイヤ12の液切れとは、ワイヤ12がクーラント液Cに十分に付着しない状態、あるいは、ワイヤ12がクーラント液に十分に浸漬されていない状態のことをいう。特にワイヤ表面に砥粒を固着させた固定砥粒ワイヤの場合はワイヤ表面の凹凸が大きいことから、ワイヤ12の走行に伴って引きずられるクーラント液Cの量が大きくなり、ワイヤ12の移動速度も高速になることから激流になり易くなる。
【0047】
図3は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の液圧緩衝部材の構成と作用を説明する図である。
図3に示すように、側板5aの側板内壁面50aと側板5aの上端部を被うようにして液圧緩衝部材6aが着設されている。液圧緩衝部材6aは液圧緩衝部材固定金網7aに被装され、液圧緩衝部材固定金網7aの端部が側板5aに接着剤Pやボルトなどの機械的な方法で固定されている。
図2での説明と同様に、発生したクーラント液Cの液流T1は、液圧緩衝部材6aによって緩衝されるとともに、T2で示すように、液中切断用液槽1の内部方向に整流される。
【0048】
図4は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の内部液槽の構成と作用を説明する図である。
図4に示すように、内部液槽3は、液槽本体2内部に収納される。液槽本体2の液槽本体前壁20aの下部には、屈曲部材を有する注液用アダプタ2a,2bが挿着されている。注液用アダプタ2a,2bから大流量で注入されるクーラント液Cは、液槽本体2内部では、T3で示すように、前記屈曲部材の吐出口から吐出され、内部液槽3の内部液槽前壁30aから、内部液槽左側壁30b,内部液槽右側壁30cに沿って、内部液槽背壁30dの方向へと整流される。また、内部液槽3には、必要に応じて整流効果を高めるように穴加工や表面に凹凸などの下加工を施してもよい。
【0049】
図5は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の整流板の構成と作用を説明する図である。
図5に示すように、クーラント液Cの液面が液中切断用液槽1の上端部近傍になるように、クーラント液Cが液中切断用液槽1内に注入されて貯留されている。ワイヤライン直上整流板8a,8bは、液槽本体2の略中央部で上方から下降しながら切断される被削材Wの両側にあって、複数のワイヤ12のうち、切断に関与しないワイヤ12a,12bの走行ラインの直上位置に、ワイヤ12a,12bの走行方向に沿って配設されている。ワイヤ12は、液槽本体2及び内部液槽3の上端と、液中切断用液槽1の上端(前板9,側板5a,5b、背板5cの上端)との間に位置し、ワイヤライン直上整流板8a,8bは、ワイヤ12の上方であって、ワイヤ12と液中切断用液槽1の上端(前板9,側板5a,5b、背板5cの上端)との間に位置している。
被削材Wの切断加工中に注液用アダプタ2a,2bから大流量で注入されるクーラント液Cは、T4で示すように、激流となって液槽本体2の内壁(20a,20b,20c,20d)に沿って上昇するが、この激流T4は、T5で示すように、ワイヤライン直上整流板8a,8bによって遮られ整流される。
【0050】
ここで、ワイヤライン直上整流板8a、8bには、整流効果を高めるために考慮された穴加工を施しても良い。
なお、被削材Wは、液槽本体2の端部で上方から下降しながら切断されてもよい。この場合、ワイヤライン直上整流板8a,8bは、切断に関与しないワイヤの走行ラインの直上位置に配設されるように、適宜、配設位置が調整される。
【0051】
なお、本実施形態において、
図5に示すように、前板9の下端部が液槽本体前壁20aの上端部に密着されて取付けられているが、取付け方法は、例えば、接着剤を用いて貼着する、あるいは、ボルト・ナットを用いて螺設する等、必要に応じて適宜選択することができる。
【0052】
図6は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の液中切断用液槽1の上部外観を示す図である。
図6には、側板5a,5b、背板5c、液圧緩衝部材6a,6b,6c、液圧緩衝部材固定金網7a,7b,7c、前板9、ワイヤライン直上整流板8a,8bが配設された様子を示している。クーラント液Cは、側板5a,5bの下端部近傍まで注入されている。
液中切断用液槽1の内部に向かって凹状に湾曲して形成された側板内壁面50a,50bに沿って、液圧緩衝部材6a,6bも湾曲して着設されている。なお、背板5c、前板9の内壁面も、必要に応じて、液中切断用液槽1の内部に向かって凹状に湾曲して形成されてもよい。
【0053】
図7は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の左揺動時の位置関係を示す図である。
図7のワイヤソー装置100は、
図1〜
図6で説明した液中切断用液槽1と、ローラ11a,11bと、ワイヤ12と、昇降ベース10と、被削材固定板10aと、昇降ベース駆動部13と、揺動パネル14を備えている。以下、
図8、
図9に示すワイヤソー装置100も同様である。
【0054】
被削材Wは被削材固定板10aを介して昇降ベース10に取り付けられており、昇降ベース駆動部13を駆動させて昇降ベース10を下降させることで被削材Wも下降する。被削材の切断加工が終了し、ウェハ状に切断された被削材Wが全て内部液槽3に保持されると、昇降ベース10は上昇される。液中切断用液槽1、ローラ11a,11bは、揺動パネル14に取り付けられている。ワイヤ12には、ダイヤモンド等の砥粒が固着されている。
【0055】
ワイヤソー装置100は、不図示のワイヤ供給部から供給された一本のワイヤ12を、ローラ11a,11bに複数回巻回させて同一ピッチのワイヤ列を形成した後、不図示のワイヤ回収部に移動させて回収する。ワイヤ回収部に回収するときもワイヤ12は1本である。このワイヤ列の複数本のワイヤ12を高速で往復走行させながら、ワイヤ12に被削材Wを押し当てることにより被削材Wを切断することで、同時に複数枚の基板(ウェハ)を生成することができる。ワイヤ12の供給長さと回収長さを調整することにより、供給された一本のワイヤ12は、所定長さ単位で順次ワイヤ回収部に回収される。そして、本発明のワイヤソー装置100においては、液中切断用液槽1、ローラ11a,11bを、正面視円形の揺動パネル14に取り付けて、揺動パネル14を揺動させることで、ワイヤが高速で往復走行すると同時に、ローラ11a,11b、ワイヤ12、液中切断用液槽1が全て連動して揺動することができる。
図7は、ワイヤソー装置100の左揺動時の位置関係を示しており、ローラ11aがローラ11bよりも低い位置にあり、液中切断用液槽1はローラ11a側に傾いている。なお、「揺動させる」とは、所定の角度で右回転、左回転のいずれも行わせることを意味する。
【0056】
図8は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の水平時の位置関係を示す図である。
図8では、ローラ11a,11bは、同じ高さの位置にあり、液中切断用液槽1も傾かず、水平状態にある。
【0057】
図9は、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置の右揺動時の位置関係を示す図である。
図9では、ローラ11aがローラ11bよりも高い位置にあり、液中切断用液槽1はローラ11b側に傾いている。
このように揺動パネル14を揺動させることで、高速走行するワイヤ12も連動して揺動するので、ワイヤ12と被削材Wとの接触部分が点接触に近くなり、炭化ケイ素のように非常に高い硬度を有する脆性材料でも切断が容易になる。さらに、本発明においては、液中切断用液槽1もワイヤ12に連動して揺動することで、液中切断用液槽1の傾きとワイヤ12の傾きとが同じ角度になるので、ワイヤライン切込側板4a,4bの切込の溝深さを浅くできる。ここで、構成部品の高さ、あるいは、深さは、液中切断用液槽1の傾きによるクーラント液Cの溢れ分を予め見込んで調整される。
【0058】
[第二の実施の形態におけるワイヤソー装置]
本発明の第二の実施の形態におけるワイヤソー装置について、説明する。本発明の第二の実施の形態におけるワイヤソー装置は、特に図示しないが、本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置100において、液中切断用液槽1を揺動させずに、常時水平に維持されるようにしたものである。本発明の第一の実施の形態におけるワイヤソー装置100に比べて、ワイヤライン切込側板4a,4bの切込の溝深さを深くする必要があるが、液中切断用液槽1が傾かないので、本発明の第一の実施の形態にようにクーラント液Cの溢れ分を見込んだ構成部品の高さ(深さ)調整は不要である。
【0059】
なお、本発明の第一の実施の形態及び第二の実施の形態において、ワイヤを往復走行させることを想定して、対向する液槽本体左側壁20bと液槽本体右側壁20cの内壁面50aと50bを湾曲させたが、ワイヤが往復走行せず、一方向に走行するような装置では、走行するワイヤの進行方向側の側壁のみを湾曲させる構成にしてもよい。