(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-164006(P2016-164006A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】直液式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20160815BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20160815BHJP
【FI】
B43K1/08 Z
B43K7/00
B43K1/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-120227(P2016-120227)
(22)【出願日】2016年6月16日
(62)【分割の表示】特願2011-182142(P2011-182142)の分割
【原出願日】2011年8月24日
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関根 伸雄
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA09
2C350HA10
2C350HA13
2C350KC05
2C350NA01
2C350NC02
2C350NC10
2C350NC14
2C350NE07
(57)【要約】
【課題】ペン先としてパイプ式ボールペンチップを採用したにもかかわらず、長期にわたり安定した筆記性能を維持できる直液式筆記具を提供する。
【解決手段】ペン先2と、インキを直に貯溜するインキタンク4と、ペン先2とインキタンク4との間に配置され、インキタンク4内の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持するインキ保溜部材3とからなる。インキ保溜部材3の後方に前記インキタンク4を着脱自在に取り付ける。ペン先2が、金属製のパイプ2の先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成した内向きの先端縁部22と、パイプ2の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部23とによってボール24が回転可能に抱持されるボールペンチップからなる。各々の内方突出部23の内面及び/またはボール24の表面に耐摩耗被膜層25を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先と、インキを直に貯溜するインキタンクと、前記ペン先と前記インキタンクとの間に配置され、前記インキタンク内の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持するインキ保溜部材とからなり、前記インキ保溜部材の後方に前記インキタンクを着脱自在に取り付けた直液式筆記具であって、前記ペン先が、金属製のパイプの先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成した内向きの先端縁部と、前記パイプの先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部とによってボールが回転可能に抱持されるボールペンチップからなり、前記各々の内方突出部の内面及び/または前記ボールの表面に耐摩耗被膜層を設けたことを特徴とする直液式筆記具。
【請求項2】
前記先端縁部の内面に耐摩耗被膜層を設けた請求項1記載の直液式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直液式筆記具に関する。詳細には、ペン先と、インキを直に貯溜するインキタンクと、前記ペン先と前記インキタンクとの間に配置され、前記インキタンク内の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持するインキ保溜部材とからなり、前記インキ保溜部材の後方に前記インキタンクを着脱自在に取り付けた直液式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1には、ペン先とインキタンクとの間に、インキ保溜部材を配置し、前記インキ保溜部材の後方にインキタンクを着脱自在に取り付けたインキタンク交換式筆記具が開示されている。また、特許文献1には、ペン先(ニードル状のボールペンチップ)をインキ保溜部材に着脱自在且つ交換可能に取り付け、それにより、ペン先が摩耗した場合、新しいペン先に交換することにより、長期にわたり適正な筆記性能を維持できることが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−324336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記文献1のインキタンク交換式筆記具は、ペン先とインキタンクとを交換でき、長期にわたり筆記使用できるとしても、新たにペン先を交換することは、ユーザーにとって手間であったり、ペン先交換時のユーザーによる不完全なペン先取り付け(取付ミス)により筆記性能が低下したり、あるいはユーザーにとって不経済であるなど、問題点が多い。また、ペン先がパイプ式ボールペンチップの場合、ボールの回転に伴うボール抱持部内面(具体的には、先端縁部内面、各々の内方突出部内面)の摩耗により筆記性能が低下しやすい。
【0005】
本発明は、ペン先としてパイプ式ボールペンチップを採用したにもかかわらず、ペン先交換を不要にしてペン先交換による問題点を解消し、長期にわたり安定した筆記性能を維持できる直液式筆記具を提供しようとするものである。
尚、本発明で、「前」とはペン先側を指し、「後」とはその反対側を指す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本願の第1の発明は、ペン先2と、インキを直に貯溜するインキタンク4と、前記ペン先2と前記インキタンク4との間に配置され、前記インキタンク4内の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持するインキ保溜部材3とからなり、前記インキ保溜部材3の後方に前記インキタンク4を着脱自在に取り付けた直液式筆記具であって、前記ペン先2が、金属製のパイプ2の先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成した内向きの先端縁部22と、前記パイプ2の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部23とによってボール24が回転可能に抱持されるボールペンチップからなり、前記各々の内方突出部23の内面及び/または前記ボール24の表面に耐摩耗被膜層25を設けたことを要件とする。
【0007】
前記第1の発明の直液式筆記具1は、前記各々の内方突出部23の内面及び/または前記ボール24の表面に耐摩耗被膜層25を設けたことにより、ペン先2としてパイプ式ボールペンチップを採用したにもかかわらず、ボール24の回転に伴う各々の内方突出部23内面(即ちボール受け座)の摩耗を抑止でき、その結果、ペン先交換を不要にしてペン先交換による問題点を解消し、長期にわたり安定した筆記性能を維持できる。
【0008】
尚、本発明に用いる耐摩耗被膜層25としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)、窒化チタン層(TiN)等、従来から知られている耐摩耗被膜層25を適宜用いることができる。また、耐摩耗被膜層25を被覆する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオン蒸着、物理的蒸着、化学的蒸着、真空アーク蒸着などが挙げられ、直接又は前記した耐摩耗被膜層25を含有した被覆層であってもよい。特に前記した耐摩耗被膜層25の中でも、潤滑性を考慮してダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いることが最も好ましい。
【0009】
[2]本願の第2の発明は、前記第1の発明の直液式筆記具1において、前記先端縁部22の内面に耐摩耗被膜層25を設けたことを要件とする。
【0010】
前記第2の発明の直液式筆記具1は、前記先端縁部22の内面に耐摩耗被膜層25を設けたことにより、ボール24の回転に伴う先端縁部22内面の摩耗を抑止し、より一層、長期にわたり安定した筆記性能を維持できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の直液式筆記具は、ペン先としてパイプ式ボールペンチップを採用したにもかかわらず、ペン先交換を不要にしてペン先交換による問題点を解消し、長期にわたり安定した筆記性能を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の直液式筆記具1の実施の形態を図面に従って説明する(
図1乃至
図3参照)。
【0014】
本実施の形態の直液式筆記具1は、ペン先2とインキタンク4との間に、インキタンク4の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持する櫛歯状のインキ保溜部材3を配置し、前記インキ保溜部材3の後方にインキタンク4を着脱自在に取り付けたインキタンク交換式の直液式筆記具である。
【0015】
前記直液式筆記具1は、先軸5と、前記先軸5の後端部に着脱自在に構成される後軸6とを備え、前記先軸5内にインキ保溜部材3が収容され、前記後軸6内にインキタンクが収容される。前記先軸5の後端部には筒状の結合部52が突出され、前記結合部52にインキタンク4が着脱自在に接続される。前記インキ保溜部材3の先端にホルダー7を介してペン先2が取り付けられる。前記インキタンク4からペン先2へは、インキ誘導部材8によりインキが誘導される。
【0016】
・先軸
前記先軸5は、両端が開口された円筒体よりなり、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート等)の射出成形により得られる。前記先軸5の後端部には、縮径された筒状の螺合部51と、該螺合部51の内側に同心円状に配置される筒状の結合部52とを備える。前記螺合部51の外面には、雄ネジ部51aが形成される。前記結合部52は、インキタンク4の開栓時、インキタンク4の開口部内に圧入される。さらに、前記結合部52の後端の一部には、インキタンク4の開栓時にインキタンク4の開口部の栓体41を後方へ押し外す突片52aが形成される。
【0017】
・後軸
前記後軸6は、前端が開口された有底筒状体よりなり、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート等)の射出成形により得られる。前記後軸6の先端開口部内周面には、前記先軸5の螺合部51の雄ネジ部51aに着脱自在に螺合可能な雌ネジ部61が形成される。また、前記後軸6は、インキタンク4内のインキ残量を外部より視認可能なよう、透明性を有することが好ましい。
【0018】
・インキ保溜部材
前記インキ保溜部材3は、合成樹脂(例えば、ABS樹脂等)の射出成形により得られる。前記インキ保溜部材3は、複数の円板状の櫛歯31を備える。前記櫛歯31の相互間には、インキを一時的に保溜する保溜溝32が形成される。前記櫛歯31には、前記各々の保溜溝32と接続する、軸方向に延びるスリット状の誘導溝33が形成される。前記インキ保溜部材3の櫛歯31群の最後端に位置する鍔部34には、前記誘導溝33と接続し且つインキタンク4側に開口する連通溝35が前後に貫設される。また、前記櫛歯31には、空気流通用の凹溝36が形成される。また、前記インキ保溜部材3の中心には、中心孔37が貫設される。前記中心孔37には、合成樹脂の押出成形体からなる第1のインキ誘導部材81が挿着される。
【0019】
・インキタンク
前記インキタンク4は、合成樹脂(例えは、ポリエチレン等)の射出成形により得られる。前記インキタンク4は、先端が開口され且つ後端が閉鎖された有底筒状体であり、開口部の内周面には、インキタンク4内を封鎖する栓体41が、嵌着、溶着または接着等により設けられる。前記インキタンク4内には、インキ(例えば、染料または顔料を着色剤として含有する水性インキ)が直接収容される。尚、前記インキタンク4は、内部のインキ残量が視認可能なよう、透明性を有することが好ましい。
【0020】
・ペン先
前記ペン先2は、先端に回転可能にボール24を抱持したボールペンチップからなる。詳細には、前記ペン先2は、金属製のパイプ2(例えばステンレス鋼製パイプ)の先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成した内向きの先端縁部22と、前記パイプ2の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数(例えば、3個または4個)の内方突出部23とによってボール24が回転可能に抱持されるボールペンチップからなる。前記複数の内方突出部23は、パイプ2内面に周状に等間隔に配置される。前記ボール24の材料としては、例えば、タングステンカーバイドの焼結体、ジルコニア、アルミナ、シリカ、炭化珪素等のセラミックス、またはステンレス鋼等が挙げられる。
【0021】
前記各々の内方突出部23の内面(前側内面)には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる耐摩耗被膜層25を被覆して設けてある。また、前記先端縁部22の内面には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる耐摩耗被膜層25を被覆して設けてある。本実施の形態では、パイプ2先端のボール抱持部内面(即ち、先端縁部22内面、各々の内方突出部23内面、及び先端縁部22と内方突出部23との間のパイプ2側壁内面)に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる耐摩耗被膜層25を被覆して設けてある。
【0022】
前記耐摩耗被膜層25は、チップ本体の先端でボール24を抱持する前に設けることが好ましい。先端縁部22の内面及び内方突出部23の内面に耐摩耗被膜層25を設けたことにより、先端縁部22の内面及び各々の内方突出部23の内面とボール24の表面との接触抵抗を軽減して、ボール24の回転をより円滑にできるとともに、先端縁部22の内面及び内方突出部23の内面の耐摩耗性(即ちペン先の耐久性)が著しく向上し、ペン先の交換を不要にでき、ペン先交換による問題点を解決し、長期にわたり安定した筆記性能を満足することができる。
【0023】
また、本実施の形態では、前記耐摩耗被膜層25は、便宜上、パイプ2の内面のみ(先端縁部22の内面及び各々の内方突出部23の内面)に設けているが、これ以外にも、パイプ2の内面とボール24の表面の両方に設ける構成、またはボール24の表面のみに設ける構成を採用することができる。
【0024】
前記ペン先2は、ホルダー7の前部に取り付けられる。そして、前記ホルダー7の後部は、インキ保溜部材3の中心孔37の先端開口部に圧入される。即ち、ペン先2がインキ保溜部材3にホルダー7を介して取り付けられる。前記ホルダー7は、ペン先2が取り付けられる鍔状の前部と、インキ保溜部材3の中心孔37の先端開口部に圧入される後部とからなる。前記ホルダー7は合成樹脂の射出成形により得られる。
【0025】
前記インキ誘導部材8は、第1のインキ誘導部材81と、第2のインキ誘導部材82と、第3のインキ誘導部材83とからなる。前記ホルダー7の後部内には、繊維加工体よりなる第2のインキ誘導部材82が収容される。前記ペン先2の内部には、ボール24後面にインキを誘導する合成樹脂の押出成形体よりなる第3のインキ誘導部材83が収容される。前記第2のインキ誘導部材82の先端には、第3のインキ誘導部材83の後端が突き刺し接続され、前記第2のインキ誘導部材82の後端には、第1のインキ誘導部材81の先端が突き刺し接続される。前記第3のインキ誘導部材83は、各々の内方突出部23の内面(後側内面)に当接される。
【符号の説明】
【0026】
1 直液式筆記具
2 ペン先
21 パイプ
22 先端縁部
23 内方突出部(ボール受け座)
24 ボール
25 耐摩耗被膜層
3 インキ保溜部材
31 櫛歯
32 保溜溝
33 誘導溝
34 鍔部
35 連通溝
36 凹溝
37 中心孔
4 インキタンク
41 栓体
5 先軸
51 螺合部
51a 雄ネジ部
52 結合部
52a 突片
6 後軸
61 雌ネジ部
7 ホルダー
8 インキ誘導部材
81 第1のインキ誘導部材
82 第2のインキ誘導部材
83 第3のインキ誘導部材
【手続補正書】
【提出日】2016年7月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先と、インキを直に貯溜するインキタンクと、前記ペン先と前記インキタンクとの間に配置され、前記インキタンク内の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持するインキ保溜部材とからなり、前記インキ保溜部材の後方に前記インキタンクを着脱自在に取り付けた直液式筆記具であって、前記ペン先が、金属製のパイプの先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成した内向きの先端縁部と、前記パイプの先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部とによってボールが回転可能に抱持されるボールペンチップからなり、前記ボールの表面のみに耐摩耗被膜層を設け、前記ペン先は、ホルダーの前部に取り付けられ、前記ホルダーの後部は、前記インキ保溜部材の中心孔の先端開口部に圧入され、前記ペン先を、交換不要に前記インキ保溜部材に取り付けたことを特徴とする直液式筆記具。