特開2016-164130(P2016-164130A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2016-164130含フッ素化合物、それを用いる核酸検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-164130(P2016-164130A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】含フッ素化合物、それを用いる核酸検出方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 235/20 20060101AFI20160815BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160815BHJP
   G01R 33/465 20060101ALI20160815BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160815BHJP
【FI】
   C07D235/20CSP
   C12Q1/68 AZNA
   G01N24/08 510Q
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-44611(P2015-44611)
(22)【出願日】2015年3月6日
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】坂本隆
(72)【発明者】
【氏名】藤本健造
【テーマコード(参考)】
4B024
4B063
【Fターム(参考)】
4B024AA01
4B024AA11
4B024AA20
4B024CA01
4B024CA09
4B024CA11
4B024CA20
4B024HA12
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR41
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS28
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX01
4B063QX02
4B063QX10
(57)【要約】
【課題】検出シグナルの生体組織透過性が高い19F核磁気共鳴法に着目し、新規な含フッ素化合物ならびにそれを用いた核酸検出方法を提供する。
【解決手段】生体組織透過性が高く、生体由来のバックグラウンドシグナルが低い、19F核磁気共鳴信号により核酸を検出可能な低分子プローブとして、Hoechst 33258に19Fを含む化合物を結合させた、新たなDNA検出プローブを合成した。このプローブを用いることにより、AT配列を含むDNAを19F NMRのケミカルシフト変化および蛍光強度変化として検出することができ、蛍光透過性の低い生体試料中でのDNA検出が可能となった。また、プローブ結合領域(AATT配列)周辺の塩基配列に依存してケミカルシフトが変化することから、19F NMRによるDNA1次・2次構造解析プローブとしての利用も期待できる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物。
R1-[L1]m-L2-[L3]n-Rf ・・・・(1)
(ここで、RlはDNA結合能を有する低分子リガンドであり、L1およびL3は、−CH2−、−O−、−CONH−、−NHCO−、−NH−もしくはトリアゾールのいずれかであり(m、nは0もしくは1である。)、L2は、単数もしくは複数の−CH2−が独立して、−NH−、−O−、−CO−、−SO2−、アリーレン基で置換されていてもよいアルキレン基であり、Rfは、1以上の水素原子がフッ素原子Fで置換されたアルキル基、または水素原子のうち少なくとも一つがフッ素原子Fもしくはパーフルオロアルキル基で置換されているアルキル基、アリール基あるいはヘテロ環式化合物である。)
【請求項2】
前記R1が下記式(2)であることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素化合物
【化1】
【請求項3】
前記Rfが下記式(3)、式(4)あるいはパーフルオロアルキル基のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の含フッ素化合物
【化2】
(式中、mは1〜5の整数を示す)

【化3】
【請求項4】
核磁気共鳴法を利用した核酸の検出方法であって、該核酸と請求項1乃至3のいずれかに記載の含フッ素化合物とを接触させる工程と、接触の前後での該プローブに由来する19Fを検出核とするNMRシグナルの変化を測定する工程と、を少なくとも有することを特徴とする核酸の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素化合物に関するものである。また、本発明は、含フッ素化合物からなるプローブに関する。さらに本発明は、このプローブを使用した核磁気共鳴法による核酸の検出あるいは定量方法または核磁気共鳴イメージング方法、疾病の診断方法に関する。さらには、本発明はこのプローブを含む試薬キット及びMRI造影剤に関する。本発明は、核酸の検出、定量、あるいはイメージングに用いることができる。
【背景技術】
【0002】
核酸検出のための蛍光性低分子プローブは、生体組織染色や細胞観察、遺伝子検出の分野で多用され、生物科学を支える重要なツールとなっている。例えばDAPI(4',6-Diamidino-2-phenylindole)やHoechst 33258といった核酸検出用の蛍光性低分子プローブは、2重鎖DNAのAT領域に選択的に結合し、その蛍光強度を増加させることから、組織切片や細胞中の核DNAの蛍光染色における標準的な試薬として多用されている。一方で、SYBR Green等の2重鎖DNA選択的蛍光色素は、リアルタイムPCRにおける増幅DNA検出用の汎用的なプローブとして用いられ、遺伝子発現の定量解析等において重要な役割を担っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,436,134号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Soher BJ et al., Magn Reson Imaging Clin N Am., 3, 277-290, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Hoechst 33258やSYBR Green(特許文献1)等の既存の蛍光性核酸検出試薬は、可視光領域の蛍光を検出原理とするため、可視光を透過しない検体(例えば、厚みのある生体組織や血液、細胞溶解液等)に対しては、直接使用できないという欠点がある。そのため、生体組織の場合には数10マイクロメートルの組織切片を準備する必要があり、また血液や細胞溶解液の場合には、精製等のいくつかの前処理を必要とする。そこで、検出シグナルの生体組織透過性が高い19F核磁気共鳴法に着目し、新規な含フッ素化合物ならびにそれを用いた核酸検出方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、蛍光による検出に加えて、生体組織透過性が高く、生体由来のバックグラウンドシグナルが低い、19F核磁気共鳴により核酸を検出可能な低分子プローブとして、Hoechst 33258に19Fを含む化合物を結合させた、新たなDNA検出プローブを合成した。このプローブを用いることにより、AT配列を含むDNAを19F NMRのケミカルシフト変化および蛍光強度変化として検出することができ、蛍光透過性の低い生体試料中でのDNA検出が可能となった。これにより、血液等の夾雑検体中のDNA検出や、19F MRIによる移植細胞の体内動態追跡が可能になる。また、プローブ結合領域(AT配列)周辺の塩基配列に依存してケミカルシフトが変化することから、19F NMRによるDNA1次・2次構造解析プローブとしての利用も期待できる。
【0007】
すなわち本発明は、以下のものである。
第1の発明は、式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物である。
R1-[L1]m-L2-[L3]n-Rf ・・・・(1)
(ここで、RlはDNA結合能を有する低分子リガンドであり、L1およびL3は、−CH2−、−O−、−CONH−、−NHCO−、−NH−もしくはトリアゾールのいずれかであり(m、nは0もしくは1である。)、L2は、単数もしくは複数の−CH2−が独立して、−NH−、−O−、−CO−、−SO2−、アリーレン基で置換されていてもよいアルキレン基であり、Rfは、1以上の水素原子がフッ素原子Fで置換されたアルキル基、または水素原子のうち少なくとも一つがフッ素原子Fもしくはパーフルオロアルキル基で置換されているアルキル基、アリール基あるいはヘテロ環式化合物である。)
第2の発明は、前記R1が下記式(2)であることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素化合物である。
【化1】

第3の発明は、前記Rfが下記式(3)、式(4)あるいはパーフルオロアルキル基のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至2に記載の含フッ素化合物
【化2】
(式中、mは1〜5の整数を示す)

【化3】

第3の発明は、核磁気共鳴法を利用した核酸の検出方法であって、該核酸と請求項1乃至3のいずれかに記載の含フッ素化合物とを接触させる工程と、接触の前後での該プローブに由来する19Fを検出核とするNMRシグナルの変化を測定する工程と、を少なくとも有することを特徴とする核酸の検出方法である。
【0008】
本発明の詳細は、本明細書に記載した実施例及び図面により説明される。
【発明の効果】
【0009】
19F核磁気共鳴スペクトルおよび蛍光スペクトル測定結果から、このプローブにAT配列を含む2重鎖DNAを添加したときのみ、蛍光強度が増大し、また19F NMRのケミカルシフトが変化することが明らかとなった。蛍光シグナルだけでなく、19F 核磁気共鳴シグナルの変化によってもDNAを検出できることから、19F NMRによる血液等の夾雑検体中のDNA検出や、19F MRIによる移植細胞の体内動態追跡が可能になると期待できる。さらに、プローブ結合領域(AT配列)周辺の塩基配列に依存してケミカルシフトが変化することから、19F NMRによるDNA1次・2次構造解析プローブとしての利用も期待できる。また、PCR反応におけるプライマーを上手く設計すれば、増幅遺伝子の19F NMRによる検出にも応用できる可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例において合成した新規なフッ素含有DNA検出プローブ
図2】当該プローブを用いたDNA検出時の19F NMRスペクトルおよび蛍光イメージ
図3】当該プローブに異なる塩基配列の2重鎖DNAを添加したときの19F NMRスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0012】
[Hoechst 33258をDNA認識部位とする含フッ素DNAプローブの合成]
Hoechst 33258(43 mg, 81 μmol)、K2CO3(34 mg, 243 μmol, 3 eq.)をN,N-dimethylformamide に懸濁し、3,5- bis(trifluoromethyl)benzylbromide(22.4 μL, 122 μmol)を 添加し、窒素雰囲気下、60°Cのオイルバス中で40時間撹拌した。反応後、逆相HPLCによる精製(MeCN/H2O (0.1% TFA))を行い、凍結乾燥することで目的物(図1)を得た。(収量:38 mg, 38 μmol、収率:47%)MALDI-TOF-MS解析結果:651.2307 calcd. for [(M+H)]+, found 651.8114.
[合成したプローブを用いた19F NMRによるDNA検出]
プローブ、DNAとも10 μMとなるように、50 mM Tris-HCl (pH 7.6)、100 mM NaCl、10% D2Oの水溶液に溶解し(500 μL)、27℃で19F NMRを測定した。結果、Hoechst 33258との結合親和性の高いAATT配列を含む2重鎖DNAを添加した場合にのみ19F NMRのケミカルシフト変化が観測された。一方GGCC配列を含む2重鎖DNAを添加した場合にはケミカルシフト変化が観測されなかったことから(図2)、合成したプローブがAATT配列選択的にDNAに結合することで、19F NMRケミカルシフトを変化させていることが明らかとなった。このことから、当該プローブの使用により特定の塩基配列のDNA2重鎖を、19F核磁気共鳴信号を指標に検出できることが明らかとなった。
[19F NMR測定サンプルの蛍光イメージング]
NMR測定後のサンプルをNMRチューブに入れたまま、365 nmトランスイルミネータによる照明下に静置し、デジタルカメラにて撮影した(図2)。結果、AATTを含む2重鎖DNAを添加した場合にのみ明るい蛍光が観測された。このことから、当該プローブが19F核磁気共鳴信号のみならず、蛍光強度の変化を指標とすることでも特定の塩基配列のDNA2重鎖を検出できることが明らかとなった。
[DNAの塩基配列の影響]
2重鎖DNAのプローブ結合部位(AATT配列)周辺の塩基配列を変化させることで、当該プローブ由来の19F NMR信号がどのように変化するかを調べることで、DNAの塩基配列の影響を調べた(図3)。結果、調べた4つの配列のすべてにおいて異なる19F NRM信号のパターンを示したことから、当該プローブを用いることで2重鎖DNAの塩基配列を読み取ることが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明による化合物および方法は、生化学研究用試薬、核酸医薬などの開発研究分野、あるいはそれにより開発された研究用試薬・検査用試薬など生命科学研究分野、医療分野など多岐にわたる応用が期待される。

図1
図2
図3