(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-164147(P2016-164147A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】エキス末
(51)【国際特許分類】
A61K 47/04 20060101AFI20160815BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20160815BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20160815BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20160815BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20160815BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20160815BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20160815BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20160815BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20160815BHJP
A61K 36/536 20060101ALI20160815BHJP
A61K 36/605 20060101ALI20160815BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20160815BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20160815BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20160815BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20160815BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20160815BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20160815BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20160815BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20160815BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20160815BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20160815BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20160815BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20160815BHJP
【FI】
A61K47/04
A61K9/20
A61K9/08
A61K9/16
A61K9/14
A61K9/10
A61K47/36
A61K36/752
A61K36/54
A61K36/536
A61K36/605
A61P11/00
A61P1/14
A61P25/20
A61P25/22
A61P25/28
A61P29/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P9/12
A61P13/00
A61P1/10
A61P11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-27510(P2016-27510)
(22)【出願日】2016年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-36222(P2015-36222)
(32)【優先日】2015年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浜下 智宏
(72)【発明者】
【氏名】富永 英夫
(72)【発明者】
【氏名】伊佐野 克也
【テーマコード(参考)】
4C076
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA16
4C076AA22
4C076AA29
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA37
4C076BB01
4C076CC01
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4C076CC16
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4C088AB33
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4C088AB62
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4C088MA43
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4C088ZA18
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4C088ZA63
4C088ZA69
4C088ZA72
4C088ZA75
4C088ZA83
4C088ZB11
4C088ZC21
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、吸湿性を抑制し、香りを維持できる生薬エキス末を提供することにある。また、生薬エキスを使用して生薬エキス末を製造する際の問題を解消した製造方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、吸着性物質とデキストリンを含有する生薬エキス末は、吸湿性が抑制され、香りを維持できることを見出した。また、生薬エキスに吸着性物質とデキストリンを加え、スプレードライすると、製造時の問題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、吸着性物質、及びデキストリンを含有することを特徴とする生薬エキス末である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着性物質及びデキストリンを含有することを特徴とする生薬エキス末。
【請求項2】
生薬エキスに、吸着性物質とデキストリンを加え、スプレードライをすることによって得られる生薬エキス末。
【請求項3】
吸着性物質が軽質無水ケイ酸及び/又は含水二酸化ケイ素である請求項1又は2に記載の生薬エキス末。
【請求項4】
生薬が吸湿性生薬である請求項1〜3のいずれかに記載の生薬エキス末。
【請求項5】
生薬が香り成分を有する請求項1〜3のいずれかに記載の生薬エキス末。
【請求項6】
生薬がオンジ、ケイヒ、カゴソウ及びソウハクヒからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の生薬エキス末。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の生薬エキス末を含有する、医薬品製剤。
【請求項8】
錠剤、液剤、顆粒剤、散剤、チュアブル錠剤、口腔内崩壊錠又はドライシロップ剤である、請求項7に記載の医薬品製剤。
【請求項9】
生薬エキスに、吸着性物質とデキストリンを加え、スプレードライをして生薬エキス末を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生薬エキス末に関する。
【背景技術】
【0002】
オンジはヒメハギ科(Polygalaceae)のイトヒメハギPolygala tenuifolia Willdenowの根又は根皮を乾燥したものであり、根の木部を抜き取ったものを遠志肉、遠志通とも称し、去痰、強壮、鎮静、精神安定、健忘等を目的に用いられる生薬である。加味帰脾湯、人参養栄湯、加味温胆湯、帰脾湯等の漢方処方に配合され、そのエキス製剤は複数の配合生薬と一括抽出し、製剤化されている。また、ビタミン含有保健薬、かぜ薬、鎮咳去痰薬に有効成分の一つとしてそのエキスが配合されている。
ケイヒはクスノキ科(Lauraceae)のCinnamomum cassia Blumeの樹皮又は周皮の一部を除いたものであり、菌桂、牡桂、官桂、板桂、桂心、桂枝尖、桂枝とも称され、発汗、解熱、鎮痛、健胃等を目的に用いられる生薬である。桂枝湯、葛根湯、安中散、桂枝茯苓丸等の漢方処方に配合され、そのエキス剤は一般用医薬品として汎用されている。また、ビタミン含有保健薬、かぜ薬、胃腸薬等に有効成分の一つとしてそのエキスが配合されている。
カゴソウはシソ科(Labiatae)のPrunella vulgaris Linne var. lilacina Nakaiの花穂であり、夕句、燕面、乃東とも称され、消炎、清肝、散結、降圧利尿を目的に用いられる生薬である。夏枯草湯、夏枯草散、止涙補肝湯等に配合される。
ソウハクヒはクワ科(Moraceae)のマグワMorus alba Linneの根皮であり、桑根白皮、桑根皮、白桑皮、桑皮とも称され、消炎性利尿、緩下、去痰、鎮咳、鎮静を目的に用いられる生薬である。清肺湯、五虎湯等の漢方処方に配合され、その漢方エキス剤に汎用され、また、鎮咳去痰薬、滋養強壮保健薬にそのエキスが配合されている。
【0003】
本発明者らは、オンジエキスを使用してオンジエキス末を製造したところ、製造機器へ付着し、製造効率が低下する課題に直面した。また、得られたオンジエキス末も吸湿性が高いことが分かった。吸湿性が高いと流動性が悪化するので、ハンドリングの悪化等につながる。このため、オンジエキス末を錠剤や顆粒剤などに製剤化する際にも、製造時並びに製剤化時に管理に負荷が掛かる。また、製造した生薬エキス末の香りが失われてしまうといった課題がある。
【0004】
今までに、潮解性物質(生薬エキス:ウラジロガシエキス)を吸湿性物質(軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、含水二酸化ケイ素及びケイ酸マグネシウム)に吸着することにより、空気中の水分に対する安定化を図った手法が報告されている(特許文献1)が、この方法ではオンジに対してはその効果は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-95980
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、吸湿性を抑制した生薬エキス末を提供することにある。また、吸湿性を有する生薬エキスを使用して生薬エキス末を製造する際の問題を解消した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、吸着性物質とデキストリンを含有する生薬エキス末は、吸湿性が抑制されることを見出した。また、生薬エキスに吸着性物質とデキストリンを加え、スプレードライする方法により生薬エキス末を製造すると、製造時の問題を解消でき、さらに得られたエキス末の吸湿性が抑制され、生薬の香りも維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)吸着性物質及びデキストリンを含有することを特徴とする生薬エキス末、
(2)生薬エキスに、吸着性物質とデキストリンを加え、スプレードライをすることによって得られる生薬エキス末、
(3)吸着性物質が軽質無水ケイ酸及び/又は含水二酸化ケイ素である(1)又は(2)に記載の生薬エキス末、
(4)生薬が吸湿性生薬である(1)〜(3)のいずれかに記載の生薬エキス末、
(5)生薬が香り成分を有する(1)〜(3)のいずれかに記載の生薬エキス末、
(6)生薬がオンジ、ケイヒ、カゴソウ及びソウハクヒからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(5)のいずれかに記載の生薬エキス末、
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の生薬エキス末を含有する、医薬品製剤、
(8)錠剤、液剤、顆粒剤、散剤、チュアブル錠剤、口腔内崩壊錠又はドライシロップ剤である、(7)に記載の医薬品製剤、
(4)生薬エキスに、吸着性物質とデキストリンを加え、スプレードライをして生薬エキス末を製造する方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、吸湿性が抑制され、香りも維持できる生薬エキス末の提供が可能となった。また、生薬エキス末の製造時の問題が解消され、製造効率が向上する。さらに、生薬エキス末を錠剤や顆粒剤等に製剤化する際の製造効率も良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の吸着性物質としては、好ましくは軽質無水ケイ酸と含水二酸化ケイ素である。軽質無水ケイ酸としては、粒状のものでも粉末状のものであってもよく、市販品としては、例えばアドソリダー101(ワイ・ケイ・エフ)や、アエロジル(日本アエロジル)等が使用できる。含水二酸化ケイ素としては、粒状のものでも粉末状のものであってもよく、吸着性物質の含有量は、発明の効果の点から、本発明の生薬エキス末全体に対し4質量%〜7質量%が好ましい。
【0011】
本発明のデキストリンとしては、例えば市販品のJPデキストリン(日澱化学)等が使用できる。デキストリンの含有量は、本発明の生薬エキス末中、30質量%〜50質量%が好ましい。
【0012】
本発明の生薬エキス末の製造方法としては、生薬エキスに吸着性物質とデキストリンを添加し、スプレードライを行う方法が挙げられる。生薬エキスとしては、生薬末の水抽出エキス、アルコール抽出エキス、又はこれらの混合溶媒による抽出エキス等を使用することができる。また、吸着性物質の添加量は、生薬エキス中の固形分100質量部に対し、好ましくは4〜7質量部であり、デキストリンは好ましくは30〜50質量部である。吸着性物質が7質量部を超えると、空気中の水分に対する安定化は図ることができるが、嵩高くなり、製剤化する際に製剤が大型化して服用しにくくなるからである。また、デキストリンを50質量部以上配合すると、吸湿性は改善できるが、嵩高くなり、製剤化する際に製剤が大型化して服用しにくくなるからである。スプレードライの条件は、特に限定されるものではないが、好ましくは、アトマイザー回転数は10000rpm〜20000rpm、熱風温度は100℃〜200℃、排気温度は40℃〜95℃、送液速度は10〜1000L/Hである。
【0013】
上記の生薬エキス末は、吸湿性が抑制されるため、錠剤、顆粒剤などに製剤化する際や、容器又はカプセル等に充填する際の作業効率が向上できる。また、製剤化した際にも生薬の香りが十分保持される。
【0014】
本発明の生薬としては、吸湿性及び香り成分を有する生薬が好ましく、例えば、オンジ、ケイヒ、カゴソウ、ソウハクヒ等が挙げられ、最も好ましいのはオンジである。
【0015】
本発明の生薬エキス末は、医薬品製剤に配合することができる。医薬品製剤中における生薬エキス末の含有量は、製剤全体に対し、10〜90質量%が好ましい。医薬品製剤の剤型としては、錠剤、液剤、顆粒剤、散剤、チュアブル錠剤、口腔内崩壊錠又はドライシロップ剤等を挙げることができ、特にこれらに限定されるものではない。また、その製造方法は、医薬品の製剤化における一般的な方法で製造することができ、本発明の効果を損なわない範囲で製剤製造時に一般的に配合される成分を適宜配合することができる。生薬エキス末を配合し、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して常法により製造することができる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本説明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0017】
(実施例1〜3、比較例1)
オンジ生薬末80kgを1200Lの水にて抽出した。抽出温度98℃にて40分間抽出した。得られた液を25%固形分濃度まで濃縮し、オンジエキスを得た。得られた濃縮液中の固形分濃度をオンジエキス量とし、吸着性物質として軽質無水ケイ酸及びデキストリンを種々比率(質量比)で加え、スプレードライを行い、オンジエキス末を得た。
スプレー条件は、アトマイザー回転数12000rpm〜18000rpm、熱風温度は123℃〜145℃、排気温度75℃〜80℃、送液速度82〜90L/Hにて製造を実施した。表1に配合比率(質量比)及び結果を示した。
【0018】
【表1】
【0019】
表1より明らかなように、オンジエキスと軽質無水ケイ酸のみを含むエキス末は製造機へ付着し、オンジエキス末の流動性が悪かった(比較例1)。本発明のデキストリンを含む実施例1〜3のエキス末は、比較例1のエキス末と比べて、製造機への付着は抑制され、エキス末の流動性も良好であった。
【0020】
(実施例4〜5)
ケイヒ生薬末80kgを1200Lの水にて抽出した。抽出温度98℃にて40分間抽出した。得られた液を7%固形分濃度まで濃縮し、ケイヒエキスを得た。得られた濃縮液中の固形分濃度をケイヒエキス量とし、吸着性物質として軽質無水ケイ酸及びデキストリンを種々比率(質量比)で加え、スプレードライを行い、ケイヒエキス末を得た。
スプレー条件は、アトマイザー回転数12000rpm〜15000rpm、熱風温度は147℃〜148℃、排気温度80℃、送液速度90L/Hにて製造を実施した。表2にケイヒエキス末中の各成分の配合比率(質量比)及び結果をそれぞれ示した。
【0021】
【表2】
【0022】
表2より明らかなように、本発明のエキス末は、製造機への付着は抑制され、エキス末の流動性も良好であった。また、得られたケイヒエキス末の香りはじゅうぶん高かった。
以上の結果から、オンジやケイヒに類似する吸湿性等の特性を有し、香り成分を有する生薬(例えば、カゴソウ、ソウハクヒ等)のエキスをエキス末化する際にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明により、製造機等への付着が抑制され、流動性も良好な商品価値の高い生薬エキス末の提供が可能となった。