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特開2016-164309耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-164309(P2016-164309A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20160815BHJP
   C22C 38/22 20060101ALI20160815BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/22
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-34650(P2016-34650)
(22)【出願日】2016年2月25日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0027990
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】KR
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(71)【出願人】
【識別番号】510072847
【氏名又は名称】ポステック アカデミー−インダストリー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 奎 泳
(72)【発明者】
【氏名】朴 振 鎬
(72)【発明者】
【氏名】徐 亨 錫
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粒界腐食の防止に用いられたクロム(Cr)より炭素親和力が強いチタン(Ti)又はニオブ(Nb)を用いず、クロム炭化物の生成を抑制してフェライト系ステンレス鋼の耐粒界腐食性を向上する方法の提供。
【解決手段】フェライト系ステンレス鋼の組成において、クロム(Cr)よりも炭素親和力が弱いモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)の複合添加し、粒界及びその周辺にモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物が生成されて鋼材の内部の炭素を固定し、粒界で発生するクロム(Cr)の濃縮及びそれによる欠乏現象を抑制する。質量%で10≦Cr≦14%、C≦0.02%、N≦0.02%、P≦0.04%、S≦0.01%、0.05≦Mo≦2.0%、0.2≦Si≦1.5%、0.1≦Mn≦1.0%及び残りをFeと不可避性不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム(Cr):10乃至14質量%、炭素(C):0.02質量%以下、窒素(N):0.02質量%以下、リン(P):0.04質量%以下、硫黄(S):0.01質量%以下、モリブデン(Mo):0.05乃至2.0質量%、ケイ素(Si):0.2乃至1.5質量%、マンガン(Mn):0.1乃至1.0質量%、及び残り鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、6{(Mo−0.05)×(Si−0.2)×(Mn−0.18)}/(C+N)の関係式の値が1以上であることを満たすことを特徴とする耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
(但し、前記関係式のMo、Si、Mn、C及びNは各成分の質量%を意味する。)
【請求項2】
前記フェライト系ステンレス鋼の粒界及びその周辺にモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)複合金属間化合物が生成されることを特徴とする請求項1に記載の耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記金属間化合物はCMnMoSiであることを特徴とする請求項2に記載の耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記フェライトステンレス鋼の粒界において、クロム(Cr)濃縮の最大含量とクロム(Cr)欠乏層の最小含量の偏差は10原子%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
前記クロム(Cr)濃縮の最大含量は20原子%以下であることを特徴とする請求項4に記載の耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
前記クロム(Cr)欠乏層の最小含量は9.5原子%以上であることを特徴とする請求項4に記載の耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼に係り、より詳しくは、自動車排気系部品、火力発電設備部品、原子力発電設備部品、燃料電池部品など高温に長時間露出されるフェライト系ステンレス鋼の、粒界腐食防止に用いることができる、耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼の粒界腐食は、構造物の寿命を短縮させる主な原因であり、これを防止するための研究が長期間に亘り続けられてきた。 近年、ステンレス鋼の粒界腐食の主な原因として、ステンレス鋼中に含まれる炭素(C)とステンレス鋼の主要合金元素であるクロム(Cr)との反応によって、クロム(Cr)炭化物が結晶粒界に生成することにより、クロム(Cr)炭化物の周囲に形成されるクロム(Cr)欠乏部によって粒界腐食が発生することが明らかになってきた。
【0003】
よって、ステンレス鋼の粒界腐食を防止するために、クロム(Cr)炭化物の生成を抑制させる技術が多様に研究されてきた。クロム(Cr)炭化物の生成を防ぐ代表的な常用技術は、炭素との親和力がクロム(Cr)より大きいことから、クロム(Cr)より先に炭化物を生成することができるチタン(Ti)やニオブ(Nb)のような、いわゆる「炭化物安定化元素」をステンレス鋼に添加する方法である。
【0004】
この方法は、ステンレス鋼に含有される炭素(C)と窒素(N)の含有量より約8〜20倍多い量のチタン(Ti)やニオブ(Nb)のような安定化元素(M)を添加し、約1000℃付近の温度で熱間圧延及び焼鈍(annealing)工程を経て、約800℃以上の温度で先に生成される安定化元素(M)−炭化物又は安定化元素(M)−炭窒化物を優先的に生成させることにより、約800℃以下の温度で主に生成するクロム(Cr)炭化物の生成を抑制するものであり、粒界腐食を防止する技術として広く用いられている。
【0005】
フェライト系ステンレス鋼材の溶接時、溶接部の周囲の熱影響部の温度は1300℃以上に上昇する。このとき、ステンレス鋼の製造時に生成された安定化元素(M)−炭化物又は、安定化元素(M)−炭窒化物が分解され、溶接後の冷却過程でステンレス鋼内に固溶した状態で存在するようになる。そして、溶接されたステンレス鋼部品や構造物が自動車用鋼板、火力発電設備部品、原子力発電設備部品、燃料電池部品などのように約400〜700℃の温度で用いられると、ステンレス鋼内に固溶していた炭素(C)とチタン(Ti)及び/又はニオブ(Nb)、クロム(Cr)が結晶粒界に拡散し、結晶粒界でチタン(Ti)とニオブ(Nb)が炭素と優先的に結合して再び安定化元素(M)−炭化物(例:TiC)又は安定化元素(M)−炭窒化物(例:Ti(C、N))を生成することによりクロム(Cr)炭化物の生成を抑制し、これにより、クロム(Cr)欠乏層が形成されないため粒界腐食が防止されるという原理である。
【0006】
しかしながら、安定化元素が添加されたフェライト系ステンレス鋼の粒界腐食に関する最近の研究結果(非特許文献1及び2)によれば、従来の粒界腐食反応機構説とは異なり、粒界に形成されるクロム(Cr)欠乏層は、クロム(Cr)が粒界に拡散しながら、炭素(C)と反応せずにクロム(Cr)自体の粒界拡散によってクロム(Cr)欠乏層が形成されて、粒界腐食を誘発させることが明らかになった。また、安定化元素が添加されたフェライト系ステンレス鋼材の粒界に生成された安定化元素(M)−炭化物又は、安定化元素(M)−炭窒化物の周囲でも、クロム(Cr)偏析が発生することが報告されている(非特許文献3)。
【0007】
従って、チタン(Ti)やニオブ(Nb)のように炭素(C)との親和力が強い炭化物安定化元素を添加する従来の方法のみでは、溶接熱影響部や高温環境で用いられるステンレス鋼、より具体的には、低クロム(Cr)系ステンレス鋼の粒界腐食を防止するのには、限界がある。
これについて、従来の特許(特許文献1)には、安定化元素であるチタン(Ti)が添加されたステンレス鋼の溶接後の粒界腐食を防止するために、溶接をした後に600〜700℃で1〜5時間熱処理することにより、粒内から粒界のクロム(Cr)欠乏層にクロム(Cr)を拡散させて、クロム(Cr)欠乏層をなくす方法が開示されている。しかしながらこの方法は、溶接後に別途の熱処理を行わなければならないため、溶接工程が複雑であり、溶接構造物の製造コストが増加するだけでなく、大型構造物の場合においては、溶接後に600〜700℃で熱処理するのが困難な部分には適用することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第2003−50212号公報
【特許文献2】特開2013−76153号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.K.Kim、Y.H.Kim、S.H.Uhm、J.S.Lee、K.Y.Kim、Corros.Sci.51(2009)2716.
【非特許文献2】J.K.Kim、Y.H.Kim、B.H.Lee、K.Y.Kim、Electrochimica Acta.56(2011)1701.
【非特許文献3】J.H.Park、J.K.Kim、B.H.Lee、K.Y.Kim、Scripta Mater.68(2013)237.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、クロム(Cr)より炭素との親和力が高い炭化物安定化元素を添加しなくても、フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食を抑制する効果に優れたフェライト系ステンレス鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施態様によれば、クロム(Cr):10〜14質量%、炭素(C):0.02質量%以下、窒素(N):0.02質量%以下、リン(P):0.04質量%以下、硫黄(S):0.01質量%以下、モリブデン(Mo):0.05〜2.0質量%、ケイ素(Si):0.2〜1.5質量%、マンガン(Mn):0.1〜1.0質量%、及び残部の鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、6{(Mo−0.05)×(Si−0.2)×(Mn−0.18)}/(C+N)の関係式の値が1以上であることを満たす、耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼が提供される(ここで、上記関係式のMo、Si、Mn、C及びNは、各成分の質量%を意味する)。
【発明の効果】
【0012】
本発明による耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼は、チタン(Ti)及びニオブ(Nb)のような炭素との親和力が強い炭化物安定化元素を添加しなくても、クロム(Cr)よりも炭素との親和力が弱い元素であるモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)を少量添加して粒界及びその周辺に金属間化合物を生成させ、鋼材の内部に固溶した炭素を安定化させることによってクロム(Cr)が粒界に向かって拡散するのを防止し、クロム(Cr)炭化物の生成を防ぎ、クロム(Cr)欠乏層が発生の発生を防止することによって、粒界腐食を防止することができるという効果を有する。特に、本発明は、溶接熱影響部の粒界腐食を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】主要金属元素の炭化物生成エネルギーを示すグラフであって、各金属元素の各温度におけるギブス自由エネルギーを示すグラフである。
図2】本発明の実施例の表1の比較例及び実施例の成分組成で添加したステンレス鋼を500℃で熱処理した後、粒界腐食試験を行った結果を示す写真である。
図3】比較例5及び6と実施例1及び2をmodified−Strauss評価した後の粒界腐食の程度を光学顕微鏡で観察した結果を示すものである。
図4】チタン(Ti)などの安定化元素を炭素(C)+窒素(N)含量より20倍以上添加した比較例1のステンレス鋼の結晶粒界を3DAPで分析した結果を示すものである。
図5】安定化元素を添加した比較例1の粒界における元素別分布を3DAPで分析して位置別濃度を示すグラフである。
図6】本発明に係る実施例2の粒界に沿って生成された金属間化合物を走査電子顕微鏡で観察した結果を示すものである。
図7】実施例2を1300℃で10分間溶体化処理した後、500℃で2時間鋭敏化熱処理し、炭素レプリカ分析技法で析出物を抽出して透過電子顕微鏡で観察した結果を示した写真である。
図8】比較例6の粒界における元素別分布を3DAPで分析したグラフである。
図9】実施例2の粒界における元素別分布を3DAPで分析したグラフである。
図10】本発明の実施例の比較例及び実施例の粒界腐食実験後の鋼材の面積減少率と関係式の結果値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、溶接熱影響部や高温に長時間露出するフェライト系ステンレス鋼の粒界腐食を防止することができる耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼に関する。
【0015】
図1は、主要金属元素の炭化物生成エネルギーを示すグラフであって、各金属元素の各温度におけるギブズ自由エネルギーを示すグラフである。
図1に示すように、炭化物を生成する元素の炭素親和度(carbon affinity)は、各種炭化物の生成エネルギーの程度によって決定され、炭化物生成エネルギーが低いほど炭素との親和度が高くなる。
従来は、粒界腐食の防止のために、チタン(Ti)又はニオブ(Nb)のような炭素親和度がクロム(Cr)より高い強い炭化物生成元素(strong carbide former)を添加することによって、クロム(Cr)が炭化物を生成することを防止しようとしたが、フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食は、チタン(Ti)又はニオブ(Nb)のような強い炭化物生成元素の添加によって防止することができなかった。本発明は、従来技術のメカニズムとは全く異なるものであり、炭素親和度がクロム(Cr)より低い弱炭化物生成元素(weak carbide former)であるモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)を複合添加し、粒界及びその周辺に金属間化合物を生成することにより、ステンレス鋼の粒界腐食を防止するものである。
【0016】
本発明において、「炭化物安定化元素」とは、チタン(Ti)とニオブ(Nb)のように、炭素との親和力がクロム(Cr)より高い元素であって、ステンレス鋼に添加されたときに、この元素が炭素と反応して炭化物を優先的に生成することからクロム(Cr)炭化物の生成を防止することができる元素を意味する。
【0017】
また、本発明において、「炭化物安定化元素を含まない」とは、ステンレス鋼中に、従来、安定化元素として用いられていたクロム(Cr)より炭素との親和力が強いチタン(Ti)、ニオブ(Nb)のような元素を含まないという意味であり、また、クロム(Cr)より炭素との親和力が弱いモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)は、実質的には炭化物安定化元素として作用しないという意味である。
【0018】
本発明の発明者らは、ステンレス鋼にチタン(Ti)、ニオブ(Nb)のようにクロム(Cr)より先に炭化物を生成する元素を添加する場合よりも、モリブデン(Mo)、ケイ素(Si)及びマンガン(Mn)を複合添加した場合に、溶接熱影響部の粒界腐食を、より効果的に防止することができることを見出した。
【0019】
以下、本発明の耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼について詳細に説明する。
【0020】
本発明の、耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼は、クロム(Cr):10〜14質量%、炭素(C):0.02質量%以下、窒素(N):0.02質量%以下、リン(P):0.04質量%以下、硫黄(S):0.01質量%以下、モリブデン(Mo):0.05〜2.0質量%、ケイ素(Si):0.2〜1.5質量%、マンガン(Mn):0.1〜1.0質量%、及び残部の鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、6{(Mo−0.05)×(Si−0.2)×(Mn−0.18)}/(C+N)の関係式の値が1以上であることを満たす(ここで、上記関係式のMo、Si、Mn、C及びNは各成分の質量%を意味する)。
【0021】
以下、本発明の成分及び組成範囲の限定理由を詳細に説明する。
【0022】
クロム(Cr):10〜14質量%
クロム(Cr)は、ステンレス鋼に耐食性を付与する基本成分であり、耐食性の向上のためには多く添加する必要がある。ここで、10質量%未満の場合は、耐食性が非常に悪化するため、10質量%以上に限定し、また、14質量%を超える場合は、金属状態のクロム(Cr)濃縮による粒界腐食現象が、鋼材の耐食性に及ぼす影響が低く、従来の安定化元素の添加だけで粒界腐食の防止が可能であるため、本特許で提案しようとする耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼におけるクロム(Cr)含量の範囲は、14質量%以下であることが好ましい。
【0023】
炭素(C):0.02質量%以下
炭素(C)は、溶接性及び加工性を悪化させる成分であり、0.02質量%を超えて添加すると、溶接性及び加工性が非常に悪くなるため、0.02質量%以下に限定する。
【0024】
窒素(N):0.02質量%以下
窒素(N)は、溶接性及び加工性を悪化させる成分であり、0.02質量%を超えて添加すると、溶接性及び加工性が非常に悪くなるため、0.02質量%以下に限定する。
【0025】
リン(P):0.04質量%以下
リン(P)は、不可避不純物として鋼中に含有される成分であり、その量が少ないほど鋼の靭性及び加工性がよくなる。一方、0.04質量%を超えて添加されると、靭性及び加工性が非常に悪化するため、0.04質量%以下に限定する。
【0026】
硫黄(S):0.01質量%以下
硫黄(S)は不可避不純物として鋼中に含有される成分であり、その量が少ないほど鋼の熱間加工性がよくなる。一方、0.01質量%を超えて添加されると、熱間圧延工程で熱間加工性を大きく落とすため、0.01質量%以下に限定する。
【0027】
モリブデン(Mo):0.05〜2.0質量%
モリブデン(Mo)は、フェライト系ステンレス鋼の腐食を抑制するのに有効な元素である。特に、モリブデン(Mo)は、フェライトステンレス鋼材の粒界に濃縮されて二次相を生成しやすいため、本発明で提案する粒界腐食防止元素として適している。しかしながら、モリブデン(Mo)を、2.0質量%を超えて添加すると、650℃以上の温度でs相を析出して耐衝撃値及び耐食性を低下させるため、2.0質量%以下で添加することが好ましい。また、0.05質量%未満の場合は、粒界及びその周辺に粒界腐食の防止のためのモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物を生成しにくいため、好ましくは0.05〜2.0質量%の範囲で添加する。
【0028】
ケイ素(Si):0.2〜1.5質量%
ケイ素(Si)は、有効な脱酸剤であり、強力なフェライト生成元素である。また、鋼材の粒界に濃縮されやすいため、粒界腐食の防止のために0.2質量%以上添加することが好ましく、また、ケイ素(Si)を多量添加する場合には製鋼及び酸洗工程で問題を起こす可能性があるため、1.5質量%以下で添加することが好ましい。
【0029】
マンガン(Mn):0.1〜1.0質量%
マンガン(Mn)は、脱酸及び脱硫剤として作用すると共にオーステナイト安定化に有効に用いられ、ステンレス鋼に固溶(solid solution)する硫黄(S)を低減して硫黄(S)の粒界偏析(segregation)を抑制するため、熱間圧延時の硫黄(S)による亀裂発生を防止する役割をので、このような効果のために0.1質量%以上添加することが好ましい。また、マンガン(Mn)は、フェライト鋼に多量添加されたときに靭性と耐食性及び耐酸化性を劣化させる可能性があり、1.0質量%以下に限定することが好ましい。従って、マンガン(Mn)は、0.1〜1.0質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0030】
チタン(Ti)及びニオブ(Nb)
本発明では、チタン(Ti)及びニオブ(Nb)などを含有させることができ、これらのチタン(Ti)及びニオブ(Nb)などは耐粒界腐食性の改善には影響を及ぼさない。
【0031】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避的に混入される可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は通常の製造過程を用いる技術者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容を本明細書では特に説明しない。
【0032】
本発明は、上記の成分範囲を満たすと共に下記の関係式1を満たすことにより、鋼材の粒界及びその周辺にモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物を生成して粒界腐食を防止することができる。
【0033】
[関係式1]
6{(Mo−0.05)×(Si−0.2)×(Mn−0.18)}/(C+N)≧1
【0034】
鋼材の粒界及びその周辺にモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物を生成するためには、モリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)が鋼材にそれぞれ一定量以上添加されなければならず、他の二つの元素の含量が十分に高くても、一つの元素の含量が欠乏する場合には、モリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物を十分に生成することができない。関係式1は、鋼材の内部の炭素(C)、窒素(N)含量による粒界腐食の防止のためのモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物の生成に必要なモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)含量の必要条件を導き出したものである。下記の実施例を参照しても、上記関係式1を満たす実施例の場合には、表2及び図10に示すように、粒界腐食を示さないことが確認でき、上記関係式1を満たさない比較例の場合には、モリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物の生成とそれによる耐粒界腐食性の向上の効果が現われないため、耐粒界腐食性を向上させるためには、鋼材に添加する合金元素の含量が関係式1を満たす必要があることが分かる。
【0035】
本発明では、上記の弱炭化物生成元素(weak carbide former)であるモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)を複合添加することにより、鋼材の微細組織の粒界及びその周辺にモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物を生成して粒界腐食を防止しようとする。上記金属間化合物の生成は、炭素を金属間化合物内に拘束することにより鋼材内に固溶した炭素を安定化させる役割をする。
【0036】
ここで、上記モリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物はCMnMoSiであることが好ましい。鋼材の内部においてモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)及び炭素(C)は熱力学的に粒界に濃縮されやすいため、各元素の含量が一定量以上の場合は粒界及びその周辺に沿ってモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物が生成されることができ、下記実施例でも、鋼材の内部の粒界及びその周辺に生成されるモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)−炭素(C)系金属間化合物は主にCMnMoSiの形で析出されることが示された。
【0037】
また、本発明のフェライトステンレス鋼の粒界において、クロム(Cr)濃縮の最大含量とクロム(Cr)欠乏層の最小含量の偏差は10原子%以下であることが好ましい。フェライト系ステンレス鋼材に粒界腐食が起こる原因は、粒界におけるクロム(Cr)濃縮と欠乏層のクロム(Cr)濃度差によって電気化学的分極が起こることにある。従って、フェライト系ステンレス鋼の粒界におけるクロム(Cr)の濃縮の最大含量と欠乏層の最小含量の偏差を10原子%以下に抑制することにより、耐粒界腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼を提供することができる。
【0038】
ここで、上記クロム(Cr)濃縮の最大含量は20原子%以下であり、上記クロム(Cr)欠乏層の最小含量は9.5原子%以上であることがより好ましく、このような最大含量及び最小含量を維持すると、フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食をより効果的に抑制することができる。
【0039】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施例を基に本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例と図面に示した構成は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全て示すものではないため、本出願時点にこれらを代替できる多様な均等物と変形例があり得、本発明の範囲が後述の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
下記表1は、本発明の比較例と実施例の組成を示している。
【0041】
下記表1の成分含量を有し、不純物であるリン(P)及び硫黄(S)を0.001質量%以下含有するフェライト系ステンレス鋼材を、1300℃で10分間溶体化処理した後、500℃で2時間鋭敏化熱処理した。このような熱処理は、市販鋼材の溶接後の処理環境を再現するためのものである。
【0042】
フェライト系ステンレス鋼を溶接するとき、ステンレス鋼の溶融温度付近(約1300℃以上)まで加熱し、このような溶接部を含むステンレス鋼構造物を400〜700℃の温度区間で用いると、炭化物安定化元素であるチタン(Ti)とニオブ(Nb)を添加したステンレス鋼材の場合は鋭敏化が進行し、粒界腐食を誘発する原因となる。
【0043】
【表1】
【0044】
上記それぞれの比較例と実施例の成分含量を有するフェライト系ステンレス鋼材を、上記溶体化処理及び鋭敏化熱処理した後、「modified−Strauss試験方法で鋭敏化の程度を評価した。
上記「modified−Strauss試験方法」は、蒸留水に6質量%の硫酸銅(CuSO4)及び0.5質量%の硫酸(HSO4)を含む体積300mlの溶液を、105℃の温度に維持し、銅球(copper ball)を試験片と電気化学的に連結し、20時間浸漬した後に鋼材の面積減少率及び粒界腐食性を測定する方法で評価する方法である。
【0045】
また、上記それぞれの比較例と実施例の成分含量を有するフェライト系ステンレス鋼材を上記溶体化処理及び鋭敏化熱処理した後、鋼材の微細構造に対して走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)及び三次元原子顕微鏡(3DAP)で粒界付近における金属元素の濃縮、欠乏現象と、炭化物、窒化物、及び金属間化合物の析出挙動を観察した。
【0046】
下記の表2に上記測定の結果をまとめて示した。表2における関係式の値は、「6{(Mo−0.05)×(Si−0.2)×(Mn−0.18)}/(C+N)」の関係式にそれぞれの成分の質量%値を代入した結果を意味する。
【0047】
【表2】
【0048】
図2は、上記のような方法でmodified−Strauss評価した後、それぞれの比較例と実施例の鋼材の表面を示している。
図2に示すように、炭化物安定化元素であるTiを添加した比較例1と比較例2の場合は粒界腐食が進行したことが確認できる。また、弱炭化物生成元素(weak carbide former)の含量が、粒界腐食の程度に及ぼす影響を観察した結果、モリブデン(Mo)が添加されていない比較例3及び4の試験片に粒界腐食が大きく発生し、ケイ素(Si)含量が不足する比較例5とマンガン(Mn)が不足する比較例6及びマンガン(Mn)とモリブデン(Mo)が不足する比較例7にも粒界腐食が大きく発生した。
しかしながら、弱炭化物生成元素(weak carbide former)が適正量添加された試験片である実施例1及び2には粒界腐食が全く発生しなかった。また、弱炭化物生成元素であるモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)を適正量添加しチタン(Ti)を同時添加した試験片である実施例3及び4にも粒界腐食が発生しなかった。上記結果から、本発明の成分組成にチタン(Ti)を添加した場合は、粒界腐食の向上に何の影響も与えず、チタン(Ti)の添加にかかわらず同一の効果を有することが確認できた。
【0049】
図3は、比較例5及び6と実施例1及び2をmodified−Strauss評価した後の粒界腐食の程度を光学顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図3に示すように、比較例5及び6は、粒界腐食による粒子脱落(grain drop−out)現象を明確に示す。しかしながら、実施例1及び2の写真では粒界腐食が全く発生しなかった。このような実験から、チタン(Ti)を添加しなくても、弱炭化物生成元素であるモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)を適正量添加した場合は、フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食を完全に防止することができることが確認できた。
【0050】
ASTM規格の A 240/A 240M−08によれば、一般的な環境における低クロムフェライト系ステンレス鋼はチタン(Ti)の含量が炭素(C)+窒素(N)含量より8倍以上多い場合に粒界腐食が防止されると記載している。しかしながら、最近の研究結果によれば、400℃〜700℃で用いられる鋼材の溶接熱影響部では、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)などの安定化元素を炭素(C)+窒素(N)含量より20倍以上添加したにもかかわらずクロム(C)rが該当温度範囲で粒界に拡散し、クロム(C)rの偏析によってクロム(Cr)欠乏層が生じ、これによる粒界腐食が進行した。
【0051】
上記比較例1及び2の粒界腐食実験結果は、安定化元素の添加が低クロムステンレス鋼の粒界腐食を完全に防止することができないということを示す。
【0052】
図4は、チタン(Ti)などの安定化元素を炭素(C)+窒素(N)含量より20倍以上添加した比較例1のステンレス鋼の結晶粒界を3DAPで分析した結果を示すものである。
図4に示すように、上記の条件で安定化元素とCの反応によって、クロム(Cr)が粒界に析出物を生成することができなくても粒界析出物の周辺と粒界に濃縮される現象が起こることが確認できた。
【0053】
図5は、安定化元素を添加した比較例1の粒界における元素別分布を3DAPで分析して位置別濃度を示すグラフであるり、比較例1の粒界におけるクロム(Cr)の分布を示すものである。
図5に示すように、図4から確認できるクロム(Cr)の濃縮現象によって粒界におけるクロム(Cr)濃度が35原子%以上増加し、濃縮されたクロム(Cr)の周辺部ではクロム(Cr)欠乏が起こり、クロム(Cr)濃度が5.3原子%以下に減少したことが確認できる。これは、低クロムステンレス鋼材においては安定化元素を添加してクロム(Cr)析出物の生成を抑制しても、粒界におけるクロム(Cr)濃縮と粒界の周辺におけるクロム(Cr)欠乏及びそれによる粒界腐食を防ぐことができないということを意味する。
【0054】
図2を参照すると、それぞれ0.6質量%及び0.7質量%のケイ素(Si)が添加された比較例3及び4、及び0.1質量%のモリブデン(Mo)が添加された比較例5の場合には、粒界腐食が起こったが、比較例1及び2に比べて粒界腐食速度が顕著に減少したことが確認できる。比較例3〜5に比べてモリブデン(Mo)及びケイ素(Si)の含量は高いが、マンガン(Mn)含量が低い比較例6及び7の場合には、むしろ耐粒界腐食性が比較例3〜5より低いことが確認できた。
【0055】
これに対し、モリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)が複合添加された実施例1〜4の場合には、粒界腐食が全く起こらなかったことが確認できる。上記の結果から、炭素親和度がクロム(Cr)より高い炭化物安定化元素であるチタン(Ti)の添加では防止することができないステンレス鋼の粒界腐食を、本発明で提案するクロム(Cr)より炭素親和度が低い元素を複合添加した方法により防止することができるということが確認できた。
【0056】
上記の結果は、モリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、及びマンガン(Mn)を複合添加するときにそれぞれの濃度が一定質量以上の場合にフェライト系ステンレス鋼材の鋭敏化及び粒界腐食を完全に防止することができることを意味する。
【0057】
図6は、粒界腐食が起こらなかった代表的な鋼種である実施例2を1300℃で10分間溶体化処理した後、500℃で2時間鋭敏化熱処理し、粒界をSEM分析により観察した結果を示すものである。観察結果、金属間化合物が均一に生成されて粒界に沿って位置していることが確認できた。
【0058】
図7は、実施例2を1300℃で10分間溶体化処理した後、500℃で2時間鋭敏化熱処理し、炭素レプリカ分析技法で析出物を抽出して透過電子顕微鏡で観察した結果を示した写真である。実施例2の場合、粒界に沿ってモリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)系金属間化合物が生成され、解析パターン(Diffraction pattern)分析により、金属間化合物であるCMnMoSiが生成されることが観察された。特に注目すべき現象は、CMnMoSi金属間化合物にCが固溶することにより炭化物の生成の可能性を低めるということである。
【0059】
図8は、比較例6の粒界における元素別分布を3DAPで分析したグラフを示している。比較例6は、マンガン(Mn)が適正量より低い0.22質量%に調節された試験片であって、粒界腐食が大きく起こったものであり、この試験片の粒界を3DAPで観察した結果、粒界に沿ってクロム(Cr)濃度が23原子%に増加し、濃縮されたクロム(Cr)の周辺部ではクロム(Cr)欠乏が起こり、クロム(Cr)濃度が7.8原子%に減少したことが確認できる。これは、比較例6の場合には、添加されたモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)の含量が十分ではないことからクロム(Cr)の濃縮及び欠乏現象が起こったため、粒界腐食を防ぐことができないということを意味する。
【0060】
図9は、実施例2の粒界における元素別分布を3DAPで分析したグラフである。
図9を観察した結果、粒界に沿ってクロム(Cr)濃度が18.2原子%に増加したが、この数値は図5の比較例1、図8の比較例6より顕著に低く、濃縮部付近のCrの最低含量は9.9原子%で粒内のクロム(Cr)含量と類似する。従って、実施例2の場合、粒界に沿ってクロム(Cr)欠乏が起こらず、粒界腐食が効果的に防止された。
【0061】
【表3】
【0062】
上記表3は、比較例1、比較例6及び実施例2の3DAP分析結果のうち粒界腐食に最も重要な影響を及ぼすクロム(Cr)と炭素(C)の濃度を粒界腐食試験結果と共に表した実施例を示している。上述したように、安定化フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食は、溶体化処理後、固溶していた炭素原子が粒界に濃縮され、それにより、クロム(Cr)の粒界濃縮及び欠乏現象が起こることにより発生する。表3の炭素濃縮量を比較すると、比較例1の炭素濃縮量に比べて比較例6の炭素濃縮量が半分以下に減り、それにより、クロム(Cr)の粒界濃縮及び欠乏現象が減ったが、依然として粒界腐食による損傷は発生する。実施例2の場合、比較例1及び6に比べて炭素濃縮量が顕著に減少し、それにより、粒界のクロム(Cr)濃縮現象も顕著に減り、クロム(Cr)欠乏現象は起こらなかった。従って、実施例2の炭素濃縮量が減少した結果、粒界腐食が防止された。
【0063】
より詳細には、モリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)が十分な含量で複合添加されたフェライト系ステンレス鋼に粒界腐食が起こらない理由は、次の二つの現象によるものである。
【0064】
1)弱炭化物生成元素(weak carbide former)であるモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)が添加された合金にCMnMoSi金属間化合物が生成しながら、鋼材の内部に固溶した炭素を金属間化合物の内部に固着化させて炭素の安定性を高めることにより、炭素の粒界濃縮によるクロム(Cr)の拡散を防止する。
【0065】
2)粒界の周辺部に粗大な金属間化合物が形成されてクロム(Cr)が粒界に拡散することを防ぐ。また、粒界の周辺にクロム(Cr)を含まない金属間化合物が形成されることにより、金属間化合物が形成された位置に分布していたクロム(Cr)が粒界付近のクロム(Cr)欠乏層に拡散してクロム(Cr)の欠乏を緩和させる。
【0066】
即ち、本発明によるステンレス鋼は、その製造及び溶接後の高温環境で、固溶した炭素がモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)金属間化合物に捕捉された状態で安定化されるため、固溶した炭素とクロム(Cr)の反応によって生成されるクロム炭化物の生成を遮断し、これによるクロム(Cr)欠乏層の誘発を防ぐことができるため、高温環境に用いられるステンレス鋼、特に、溶接熱影響部の粒界腐食を効果的に防止することができる。
【0067】
これに対し、クロム(Cr)より炭素親和力に優れ、クロム(Cr)より優先的に炭化物を生成する安定化元素を添加する従来の粒界腐食防止技術は、生成したチタン(Ti)炭化物又はニオブ(Nb)炭化物のような金属炭化物が、溶接過程で高温に加熱される溶接熱影響部で分解され、炭素が溶接熱影響部内に再固溶し、再固溶した炭素は高温環境で用いられるときにクロム(Cr)欠乏層を形成するため、高温環境用ステンレス鋼部品の溶接熱影響部における粒界腐食を防ぐのが困難である。
【0068】
図10は、本発明の比較例及び実施例の粒界腐食実験後の鋼材の面積減少率を関係式の結果値によって示すグラフである。粗大なモリブデン(Mo)−ケイ素(Si)−マンガン(Mn)系金属間化合物が析出される関係式の値が1以上の鋼材は粒界腐食損失率が0であり、粒界腐食が起こらない。
【0069】
上記の実施例に示したように、クロム(Cr):10〜14質量%、炭素(C):0.02質量%以下、窒素(N):0.02質量%以下、リン(P):0.04質量%以下、硫黄(S):0.01質量%以下、モリブデン(Mo):0.05〜2.0質量%、ケイ素(Si):0.2〜1.5質量%、マンガン(Mn):0.1〜1.0質量%、及び残部の鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、関係式「6{(Mo−0.05)×(Si−0.2)×(Mn−0.18)}/(C+N)」の結果値が1以上を満たすフェライト系ステンレス鋼は粒界腐食を効果的に抑制することが確認できた。
【0070】
以上のように本発明の例示的な実施例を、図面を参照して説明したが、多様な変形と他の実施例は本分野における熟練した技術者らによって実施することができる。このような変形と他の実施例は、添付の特許請求の範囲に全て含まれ、本発明の真の趣旨及び範囲を外れない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10