特開2016-164313(P2016-164313A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2016-164313炭素繊維織物の製造方法および炭素繊維織物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-164313(P2016-164313A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】炭素繊維織物の製造方法および炭素繊維織物
(51)【国際特許分類】
   D06C 7/04 20060101AFI20160815BHJP
   D03D 15/12 20060101ALI20160815BHJP
   D01F 9/16 20060101ALI20160815BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20160815BHJP
【FI】
   D06C7/04
   D03D15/12 Z
   D01F9/16
   H01M4/96 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-44134(P2015-44134)
(22)【出願日】2015年3月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 唯史
(72)【発明者】
【氏名】村岡 道晃
(72)【発明者】
【氏名】藤野 謙一
【テーマコード(参考)】
3B154
4L037
4L048
5H018
【Fターム(参考)】
3B154AA12
3B154AB20
3B154AB27
3B154BA29
3B154BB13
3B154BB47
3B154BC11
3B154BC13
3B154BE01
3B154BF01
3B154DA03
4L037CS03
4L037FA15
4L037PA52
4L037PC05
4L037PF32
4L037PS02
4L048AA05
4L048CA01
4L048CA04
4L048CA06
4L048DA24
5H018DD05
5H018EE05
5H018HH05
5H018HH08
(57)【要約】
【課題】
本発明は、力学特性(強度、柔軟性)に優れ、炭化収率の高い炭素繊維織物の製造方法、及びその方法によって製造される炭素繊維織物を提供することを目的とする。
【解決手段】
次の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする炭素繊維織物の製造方法。(a)セルロース系繊維から構成される織物を準備する工程、(b)上記織物に有機スルホン酸を含浸させる工程、(c)上記有機系スルホン酸を含浸させた織物を不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理する工程、(d)上記有機系スルホン酸を含浸させて加熱処理を施した織物を不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃での再加熱処理工程
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする炭素繊維織物の製造方法。
(a)セルロース系繊維から構成される織物を準備する工程
(b)上記織物に有機スルホン酸を含浸させる工程
(c)上記有機系スルホン酸を含浸させた織物を不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理する工程
(d)上記有機系スルホン酸を含浸させて加熱処理を施した織物を不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃での再加熱処理工程
【請求項2】
前記セルロース系繊維が、キュプラアンモニウムレーヨン、ビスコース法レーヨン及び精製セルロース繊維から選ばれる少なくとも一種類であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維織物の製造方法。
【請求項3】
前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれか一項に記載の炭素繊維織物の製造方法。
【請求項4】
前記セルロース系繊維から構成される織物に含浸する有機スルホン酸の濃度が0.1mоl/L〜2.0mоl/Lであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の炭素繊維織物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法で製造された、目付が50g/m〜400g/mである炭素繊維織物。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維織物を用いることを特徴とする複合材料。
【請求項7】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維織物を用いることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維から構成される織物を、有機スルホン酸触媒を用いて炭化する炭素繊維織物の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は比強度、比弾性率に優れているため、スポーツやレジャー用品から宇宙航空用途まで幅広く利用されつつある。このような構造材として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維のトウを製織して得られた織物に熱硬化性樹脂を含浸して得られるプリプレグを成型、硬化させた炭素繊維強化プラスチックとして用いる方法が一般的である。
【0003】
現在この分野では、ポリアクリルニトリル(PAN)系炭素繊維やピッチ系炭素繊維のトウを製織した織物が一般的に用いられているが、素材である炭素繊維が非常に高価であることから、製造コストが高くなり、広く普及する上で一つの障害となっている。
【0004】
そこで、地球上最大のバイオマスである安価なセルロース系物質を原料とした炭素材料が注目されてきている。もともと、セルロース系物質を原料とした炭素繊維として、アメリカのUCC社がレーヨン系炭素繊維を用いて生産したのが始まりである。特許文献1、特許文献2にはセルロース系繊維を炭化する方法が開示されているが、セルロースの熱分解による炭素化収率の低下、PAN系炭素繊維と比較して力学特性(強度、柔軟性)が発現しないといった問題があった。
【0005】
これらの問題に対しては、セルロース系繊維織物にシリコーン系高分子溶液および鉱物系添加剤溶液を含浸させ、セルロースの熱分解を抑えた炭化方法(特許文献3)、セルロース系繊維からなるシートに有機スルホン酸を含浸させ、収率を触媒として炭素化収率を向上させる炭化方法(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3053775号
【特許文献2】米国特許第3107152号
【特許文献3】特許第5271887号
【特許文献4】WO2013/183668
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3の方法では、セルロースの熱分解を抑えた安定的な炭化をするためにプロセス制御がかなり複雑であり、また特許文献4に記載の方法では得られる炭素繊維シートでは、力学特性(強度、柔軟性)が不十分であるといった問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、力学特性(強度、柔軟性)に優れ、炭化収率の高い炭素繊維織物の製造方法、及びその方法によって製造される炭素繊維織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(7)発明を提供する。
(1) 下記の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする炭素繊維織物の製造方法。
(a)セルロース系繊維から構成される織物を準備する工程
(b)上記織物に有機スルホン酸を含浸させる工程
(c)上記有機系スルホン酸を含浸させた織物を不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理する工程
(d)上記有機系スルホン酸を含浸させて加熱処理を施した織物を不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃での再加熱処理工程
(2) 前記セルロース系繊維が、キュプラアンモニウムレーヨン、ビスコース法レーヨン及び精製セルロース繊維から選ばれる少なくとも一種類であることを特徴とする(1)に記載の炭素繊維織物の製造方法。
(3) 前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする(1)〜(2)のいずれか一項に記載の炭素繊維織物の製造方法。
(4) 前記セルロース系繊維から構成される織物に含浸する有機スルホン酸の濃度が0.1mоl/L〜2.0mоl/Lであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の炭素繊維織物の製造方法。
(5) (1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法で製造された、目付が50g/m〜400g/m2である炭素繊維織物。
(6) (1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維織物を用いることを特徴とする複合材料。
(7) (1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維織物を用いることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、力学特性(強度、柔軟性)に優れ、炭化収率の高い炭素繊維織物の製造方法、及びその方法によって製造される炭素繊維織物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の炭素繊維織物の製造方法は、セルロース系繊維から構成される織物(以下、「織物」ということがある。)に、有機スルホン酸を含浸させた後、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理し、さらに不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃での再加熱処理することを特徴とすることで、力学特性(強度、柔軟性)に優れた、炭素収率の高い炭素繊維織物を製造することができる。
【0012】
(セルロース系繊維)
本発明において、セルロース系繊維とは、樹木などから得られる植物系セルロース物質及び/又は植物系セルロース物質(綿、パルプなど)に化学処理を施して溶解させて得られる長い繊維状の再生セルロース系物質から構成された繊維であり、この繊維にリグニンやヘミセルロースなどの成分が含まれていても構わない。
【0013】
セルロース系繊維(植物系セルロース物質、再生セルロース物質)の原料としては、綿(例えば、短繊維綿、中繊維綿、長繊維綿、超長綿、超・超長綿)、麻、竹、こうぞ、みつまた、バナナ、被嚢類等の植物性セルロース繊維、銅アンモニア法レーヨン、ビスコース法レーヨン、ポリノジックレーヨン、竹を原料とするセルロースなどの再生セルロース繊維、有機溶剤(NメチルモルフォリンNオキサイド)紡糸される精製セルロース繊維やジアセテートやトリアセテートなどのアセテート繊維などが例示される。これらの中では、入手のし易さから、キュプラアンモニウムレーヨン、ビスコース法レーヨン、精製セルロース繊維から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0014】
本発明において、セルロース系繊維を構成する単繊維の径は5μm〜75μm、密度は1.4m/g〜1.9m/gであることが好ましい。
【0015】
セルロース系繊維の形態は、限定されるものではなく、目的に合わせて、原糸(未加工糸)、仮撚糸、染色糸、単糸、合撚糸、カバリングヤーン等に調整されることができる。また、セルロース系繊維が2種以上の原料を含む場合には、混紡糸、混撚糸等とすることができる。さらに、セルロース系繊維として、上記した各種形態の原料を、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中では、複合材料の成型性や機械強度の両立から無撚糸であることが好ましい。
【0016】
本発明において、セルロース系繊維を製織する方法は特に限定されるものではなく一般的な方法を用いることができ、また、その織地の織組織も、特に制限はなく、平織、綾織、朱子織の三原組織が挙げられる。
【0017】
セルロース系繊維からなる織物は、セルロース系繊維の経糸及び緯糸同士の隙間が0.1mm〜0.8mmであることが好ましく、0.2mm〜0.6mmであることがより好ましく、0.25mm〜0.5mmであることがさらに好ましい。さらに、セルロース系繊維からなる織物の目付は50g/m〜400g/mであることが好ましく、100g/m2〜300g/m2であることがより好ましい。
【0018】
セルロース系繊維及びセルロース系繊維からなる織物を上記範囲とすることにより、この織物を加熱処理して得られる炭素繊維織物は、高い強度を有し、且つ樹脂の含浸性に優れたものとなる。
【0019】
本発明の炭素繊維織物は、炭素繊維織物を構成する炭素繊維の経糸及び緯糸同士の隙間が0.1mm〜0.8mmであることが好ましく、0.15mm〜0.6mmであることがより好ましく、0.2mm〜0.5mmであることがさらに好ましい。糸間の隙間が小さすぎれば、炭素繊維織物への樹脂の含浸性を阻害する可能性がある。一方、糸間の隙間が大きすぎれば、炭素繊維織物と樹脂からなる繊維強化プラスチック(複合材料)を成型した場合に、複合材料の力学特性が低下する問題が生じる。
【0020】
本発明の炭素繊維織物の目付は50g/m〜400g/mであることが好ましく、100g/m〜300g/mであることがより好ましい。炭素繊維の目付が50g/m2未満であると樹脂の含浸性という観点からは好ましいが、必要とされる強度を発現されるためには積層枚数が多くなるため、樹脂の含浸作業の作業性が悪化するとともに、得られる複合材料のドレープ性が低下するため、施工性も悪化する。一方、炭素繊維の目付が400g/m2を越えると、樹脂の含浸性の悪化による作業効率が低下、厚さ及び重量の増加による柔軟性が低下の問題が発生する。
【0021】
(有機スルホン酸)
本発明において、織物に含浸させる有機系スルホン酸としては、炭素骨格にスルホ基(1つであっても複数であってもよい)が結合した有機化合物であればいずれであってもよく、脂肪族系、芳香族系の種々のスルホ基を有する化合物が利用可能であるが、取扱いの観点から低分子であることが好ましい。
【0022】
スルホン酸の具体例として、例えばR−SO3H(式中、Rは炭素原子数1〜20の直鎖/分岐鎖アルキル基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、または、炭素原子数6〜20のアリ−ル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリ−ル基はそれぞれアルキル基、水酸基、ハロゲン基で置換されていても良い。)で表される化合物が挙げられる。例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、ビニルスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファ―スルホン酸などが挙げられる。 このうちメタンスルホン酸を選択することが好ましい。また、有機系スルホン酸は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0023】
本発明において、織物に有機スルホン酸を含浸・加熱処理することにより、織物(セルロース系繊維)を構成する水と炭素からなるセルロース分子((C(HO)5))から、水(HO)のみを除去することが可能となる。このため、通常の熱分解に伴う炭化水素系のガスの発生が殆ど無く、セルロース分子中の炭素成分が殆ど失われないので最終的に残存する炭素物質の量の低下を防止すると考えられる。
【0024】
本発明の炭素繊維織物の製造方法においては、前記有機系スルホン酸を水溶液として用いる場合、その濃度が0.1mоl/L〜2.0mоl/Lであることが好ましく、0.1mоl/L〜1.0mоl/Lがより好ましい。
【0025】
織物に有機系スルホン酸を吸収させる方法は特に限定されない。例えば、(1)有機系スルホン酸の濃度0.1mоl/L〜2.0mоl/Lの水溶液中に織物を5分〜30分浸漬した後に、液から引き上げて乾燥する方法、(2)有機系スルホン酸若しくは何らかの溶剤及び/又は水で濃度0.1mоl/L〜2.0mоl/Lとなるように希釈した有機系スルホン酸を織物に必要量塗布する方法、(3)有機系スルホン酸の蒸気に織物を接触させる方法等が挙げられ、これらの中では(1)が好ましい。
【0026】
織物への吸着量は、もとの織物の重量に対し、通常10〜80%、好ましくは20〜60%である。有機系スルホン酸の吸収量は、適宜調整できる。炭素化収率の低下を抑制し、ハンドリング性の良い炭素繊維織物を調製できるような量であることが好ましい。
【0027】
また本発明において、セルロースの熱分解を抑え炭素化を更に安定的に行うために織物にシリコーン系高分子溶液に含浸させることができる。上記シリコーン系高分子としては、ポリシロキサン(polysiloxane:PS)、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane)、室温硬化型シリコーン(Room Temperature Vulcanizing Silicone:RTV)、ポリメチルフェニルシロキサン(Poly Phenyl Siloxane:PMPS)、ポリシラザン(Polysilazane)等を挙げることが出来る。またシリコーン系高分子溶液において、溶媒は極性溶媒が使用されるが、前期極性溶媒の例としては、アセトン(Acetone)、パークロロエチレン(Perchloroethylene)、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofurane:THF)、メチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone:MEK)、エチルアルコール(Ethyl alcohol)、メチルアルコール(Methyl alcohol)等を挙げることができる。
【0028】
(炭化処理)
本発明においては、有機系スルホン酸を吸収させた織物を加熱処理(炭素化)する。炭素化は不活性ガス雰囲気中で行う。不活性ガスとしてはアルゴン、窒素等が例示される。
【0029】
本発明において、有機系スルホン酸を含浸させた織物を不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理した後、有機系スルホン酸を含浸させて加熱処理した織物を不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃での再加熱処理(グラファイト化工程)することが重要である。
なお、上記加熱処理の際の温度は、500℃〜2600℃、好ましくは500℃〜1000℃である。これにより織物の形態が維持された炭素繊維織物を得ることができる。この加熱処理温度が500℃未満であると炭素繊維織物の炭素含有量が80%以下で炭素化が不十分であり、一方2600℃を超えても炭化状態はもはや殆ど変化しない。また、炭素化処理は連続的に行われても、バッチ状態で行われても良い。
【0030】
また、再加熱処理温度が2200℃未満であるとグラファイト化(結晶化)の進行が殆ど起こらず、一方3200℃を超えても、もはやグラファイト化の程度は殆ど変わらなくなる。
【0031】
以下に具体的な炭化方法を記載する。
【0032】
まず、上記のスルホン酸吸収工程を経た織物をその形態を維持した状態で電気炉を用いて窒素又はアルゴン雰囲気下、上記範囲内で加熱処理する。この際、熱処理時間は熱処理温度にもよるが、好ましくは0.5〜1時間である。また、室温から所定熱処理温度までの昇温時間は3〜8℃/分が好ましい。加熱処理工程において管状炉や電気炉等の不活性ガス雰囲気にした高温炉を使用できるが、この場合、不活性ガスの排気管に活性炭素のような吸着材を充填し、スルホン酸から発生する少量の硫黄系のガスの脱硫処理を行うことが好ましい。
【0033】
次いで、再加熱処理工程(部分グラファイト化工程)として、好ましくは上記工程で熱処理した織物を、一旦室温まで戻した後、不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃の温度で再加熱処理する。これにより、最初の形態が維持された状態で部分的にグラファイト化した炭素繊維織物を得ることができる。
本発明において、再加熱処理の際に、経糸と平行した方向および/または織物の経糸と交差する方向に張力を加えてに延伸させることにより、炭素繊維の繊維軸方向にグラファイト結晶を効率よく配向させることができるため、炭素繊維織物の強度が向上する。
【0034】
本発明の炭素繊維織物の製造方法により、セルロース系繊維から構成される織物の形態を維持したまま、炭素繊維織物を得ることができる。理論上、織物を構成するセルロースに含まれる炭素が全て炭素化物として残存すると、炭素化収率は44.4重量%となるのに対して、本発明の製造方法によれば、30重量%以上、場合によっては40重量%以上という高い炭素化収率となる。
【実施例】
【0035】
次に本発明を実施例及び比較例より更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(製造例1)
経糸として無撚糸のレーヨン繊維(オーミケンシ社製:120d/44f原糸)、緯糸として無撚糸のレーヨン繊維(オーミケンシ社製:120d/44f原糸)を用いて、経密度94本/2.54cm、緯密度135本/2.54cm、目付154g/mの綾織物をエアージェットルームにて製織した。
【0037】
(製造例2)
経糸としてベンベルグ(旭化成せんい社製:キュプラ、100d/45f原糸)、緯糸としてベンベルグ(旭化成せんい社製:キュプラ、75d/45f原糸)を用いて、経密度150本/2.54cm、緯密度86本/2.54cmの平織物、目付88g/mをエアージェットルームにて製織した。
【0038】
(実施例1)
製造例1で得られたレーヨン織物を80×100mm大にカットした後、メタンスルホン酸1.0mоl/L水溶液に室温で5分間浸漬した。その後、レーヨン織物を水溶液中から取り出し、室温で24時間自然乾燥して、メタンスルホン酸の吸収量が50重量%(対レーヨン織物固形分量)である織物を得た。この織物を2枚の炭素板に挟み、電気炉でアルゴンガス雰囲気下、昇温速度5.2℃/分の速度で室温から800℃まで昇温し、同温度で1時間加熱することにより炭素化した。その後、室温まで冷却し試験材料を取り出した。この試験材料を用いて、2900℃まで再加熱し、同温度で1時間処理することによる部分グラファイト化した炭素繊維織物を調製した。
【0039】
(実施例2)
製造例1で得られたレーヨン織物を用いて、p−トルエンスルホン酸を用いた以外は実施例1と同じ方法で炭素繊維織物を調製した。
【0040】
(実施例3)
製造例2で得られたキュプラ織物を用いて、実施例1と同じ手順で部分グラファイト化した炭素繊維織物を調製した。
【0041】
(比較例1)
木材パルプを抄いたシートを用いた以外は、実施例1に従って炭素シートを得た。
【0042】
(比較例2)
製造例1で得られたレーヨン織物を用いて、メタンスルホン酸水溶液への浸漬処理を省略した以外は実施例1と同じ方法で炭素繊維織物を調製した。
【0043】
(比較例3)
製造例1で得られたレーヨン織物を用いて、メタンスルホン酸水溶液の代わりに1mol/Lの硫酸アンモニウム溶液を使用した以外は実施例1と同じ方法で炭素繊維織物を調製した。
【0044】
(評価試験)
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた炭素材料について、性能評価を実施した結果を表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
<評価方法>
1)炭素含量
炭素繊維織物の元素分析行うことにより、炭素含量を求めた。
2)炭素収率
炭素収率は以下の式により算出した。
炭素収率=(炭素化+過熱処理)後の炭素繊維織物重量 / セルロース系繊維織物の重量(水分を含む)
3)目付
炭素繊維織物50mm×50mmの重量を測定することにより目付を求めた。
4)経糸・緯糸の間隔
任意の場所10点の間隔をノギスで測定することによって経糸・緯糸の間隔を求めた。
5)比強度
万能試験機(テンシロンRTG−1210)を用いて曲げ比強度を測定した。
6)柔軟性
炭素繊維織物に外力をかけた時のたわみ性を官能評価により求めた。
【0047】
○: 炭素繊維織物が良くたわみ、きわめて柔軟性がある
△: 炭素繊維織物があまりたわまず、やや柔軟性に劣る
×: 炭化紙が全くたわまず、きわめて柔軟性に乏しい