【解決手段】ケーシング10と、主軸J1を中心として前記ケーシング10により回転可能に支持される太陽ローラ11と、前記太陽ローラ11の外周面に接触する2以上の遊星ローラ12と、前記2以上の遊星ローラ12を回転可能に支持するとともに、前記主軸J1を中心として前記ケーシング10により回転可能に支持されるキャリア13と、前記ケーシング10に対し直接的又は間接的に接続され、前記2以上の遊星ローラ12の外周面にそれぞれ接触する内周面を有するインターナルリング15とを備え、前記太陽ローラ11は、前記遊星ローラ12の法線力により撓む撓み変形部114を有する。
前記撓み変形部は、前記太陽ローラの軸方向の一端に開口を有するとともに、中空部を挟んで当該開口に対向する底部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトラクション動力伝達装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本明細書では、便宜上、主軸の方向を水平方向として説明するが、本発明によるトラクション動力伝達装置の使用時における姿勢を限定するものではない。また、本明細書では、主軸の方向を単に「軸方向」と呼び、主軸を中心とする径方向及び周方向を単に「径方向」及び「周方向」と呼ぶ。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるトラクション動力伝達装置1の一構成例を示した断面図であり、主軸J1を含む面によりトラクション動力伝達装置1を切断した場合の切断面が示されている。
図2は、
図1のトラクション動力伝達装置1をA−A切断線により切断した場合の断面図(A−A断面図)である。
図3は、
図1のトラクション動力伝達装置1を矢印Bの方向から見た様子を示した矢示図(B矢視図)である。
【0013】
主軸J1は、太陽ローラ11及びキャリア13に共通の回転軸である。トラクション動力伝達装置1は、ケーシング10、太陽ローラ11、遊星ローラ12、キャリア13、キャリアピン14、インターナルリング15及び軸受16〜19により構成される。トラクション動力伝達装置1は、太陽ローラ11、遊星ローラ12及びインターナルリング15の間の摩擦力を利用して動力を伝達する装置であり、例えば、電動モータ(図示せず)から入力される回転運動を減速又は増速して出力する減速機又は増速機として用いられる。以下では、これらの各部品について詳細に説明する。
【0014】
本実施の形態では、インターナルリング15を固定し、太陽ローラ11を入力側、キャリア13を出力側として用いる場合の例について説明するが、本発明によるトラクション動力伝達装置1の用途はこのような場合のみに限定されない。例えば、キャリア13を固定し、インターナルリング15を出力側として用いることもできる。また、キャリア13又はインターナルリング15を入力側とし、太陽ローラ11を出力側として用いることもできる。
【0015】
<ケーシング10>
ケーシング10は、トラクション動力伝達装置1を構成する各転動部材を収容する筐体であり、例えば、電動モータのハウジングに固定される。ケーシング10は、軸方向において互いに連結される第1ケーシング101及び第2ケーシング102により構成される。
【0016】
第1ケーシング101は、出力側に底部を有する有底円筒形状を有し、軸受16を介して出力側の第1キャリア131を回転可能に支持する。第2ケーシング102は、入力側に底部を有する有底円筒形状を有し、軸受17を介して太陽ローラ11を回転可能に支持するとともに、軸受18を介して入力側の第2キャリア132を回転可能に支持する。ケーシング10は、第1ケーシング101及び第2ケーシング102の開口を互いに対向させて連結することにより構成される。
【0017】
<太陽ローラ11>
太陽ローラ11は、ケーシング10により、主軸J1を中心として回転可能に支持される部材であり、電動モータから所定の回転力が入力される。太陽ローラ11は、軸方向に配列されたトラクション部110、キャリア支持部111及び入力軸112により構成される。また、太陽ローラ11は、貫通孔113を有する中空軸である。さらに、太陽ローラ11は、遊星ローラ12の法線力により撓む撓み変形部114を有する。
【0018】
トラクション部110は、遊星ローラ12が接触する外周面を有する。また、トラクション部110は、軸方向の長さが遊星ローラ12よりも長い。キャリア支持部111は、トラクション部110の入力側に連結され、軸受19を介して第2キャリア132を回転可能に支持する。キャリア支持部111の軸方向の長さは軸受19と同一である。入力軸112は、軸方向に延びるシャフトであり、ケーシング10から突出する一端が電動モータに連結され、他端がキャリア支持部111に連結される。また、入力軸112は、軸受17を介してケーシング10に回転可能に支持される。太陽ローラ11は、ステンレス等の金属やプラスチックなどの非弾性材料からなり、トラクション部110、キャリア支持部111及び入力軸112が一体的に形成される。
【0019】
図1に示された太陽ローラ11の場合、トラクション部110に隣接して軸受19が配置される。つまり、軸受19よりも出力側がトラクション部110となる。また、キャリア支持部111及び入力軸112の外径は同一であるが、トラクション部110の外径は、キャリア支持部111及び入力軸112よりも大きい。なお、トラクション部110の外径をキャリア支持部111及び入力軸112の外径と同一にすることもできる。
【0020】
貫通孔113は、太陽ローラ11内に形成された軸方向に延びる中空部である。貫通孔113は、トラクション部110、キャリア支持部111及び入力軸112にわたって太陽ローラ11を貫通し、太陽ローラ11の両端には開口が形成されている。
図1に示された貫通孔113は、軸方向において均一の内径を有する。また、貫通孔113は、太陽ローラ11の側壁の肉厚より大きな半径を有する。
【0021】
撓み変形部114は、太陽ローラ11の軸方向の少なくとも一部であり、遊星ローラ12の法線力により、周方向の一部において外周面が径方向内方へ撓むように構成される。太陽ローラ11を円筒形状とし、その側壁の肉厚、つまり、径方向の厚さを薄くすれば、遊星ローラ12の法線力により、その側壁を径方向に撓ませることができる。この場合、いわゆる非弾性材料で構成されていたとしても、太陽ローラ11を弾性変形させることができる。
【0022】
ここで、キャリア支持部111は、その外周面が軸受19で取り囲まれていることから、遊星ローラ12の法線力により変形することはない。このため、キャリア支持部111よりも出力側、つまり、トラクション部110が撓み変形部114となる。この撓み変形部114は、出力側が自由端となり、入力側がキャリア支持部111に連結された円筒形からなり、当該円筒形の側壁は、遊星ローラ12の法線力により撓む肉厚を有する。
【0023】
このような撓み変形部114を備えることにより、太陽ローラ11は、遊星ローラ12の法線力に応じて撓み、遊星ローラ12の法線力が増大すれば、太陽ローラ11及び遊星ローラ12間の接触面積も増大する。その結果、トラクション動力伝達装置1の伝達効率を向上させることができる。また、太陽ローラ11の外周面に作用するヘルツ面圧の増大を抑制し、太陽ローラ11の耐久性を向上させることができる。
【0024】
<遊星ローラ12>
遊星ローラ12は、太陽ローラ11の外周面とインターナルリング15の内周面とに接触する転動部材であり、例えば、中央部の外径が端部よりも大きい樽形状からなる。また、遊星ローラ12は、キャリアピン14により遊星回転軸J2を中心として回転可能に支持される。遊星ローラ12は、遊星回転軸J2に沿って延びる貫通孔121を有し、キャリアピン14は、この貫通孔121内に配置される。
【0025】
トラクション動力伝達装置1は、太陽ローラ11の径方向外側に2以上の遊星ローラ12を備える。
図2に示すように、本実施の形態によるトラクション動力伝達装置1は、太陽ローラ11の径方向外側に3つの遊星ローラ12が配置される。また、これらの遊星ローラ12は周方向において等間隔に配置される。
【0026】
遊星ローラ12は、太陽ローラ11のトラクション部110の外周面に接触する。つまり、遊星ローラ12は、撓み変形部114の径方向外側に配置され、遊星ローラ12の外周面が撓み変形部114の外周面に接触する。そして、撓み変形部114の外周面が遊星ローラ12の法線力により撓む。
【0027】
<キャリア13>
キャリア13は、ケーシング10により主軸J1を中心として回転可能に支持される転動部材である。また、キャリア13は、キャリアピン14を介して、2以上の遊星ローラ12を回転可能に支持する。本実施の形態によるトラクション動力伝達装置1は、遊星ローラ12を挟んで軸方向に配列された一対のキャリア13を備える。つまり、キャリア13は、出力側の第1キャリア131と、入力側の第2キャリア132とにより構成される。
【0028】
第1キャリア131は、軸方向に連結された出力軸133及びキャリア本体134により構成される。出力軸133は、軸方向に延びるシャフトであり、軸受16を介して第1ケーシング101に支持される。出力軸133の一端は、ケーシング10から突出し、図示しない駆動対象物に接続される。出力軸133の他端は、キャリア本体134の貫通孔に固定され、キャリア本体134は、出力軸133とともに回転する。キャリア本体134は、主軸J1に沿って貫通孔が形成された環状部材であり、2以上のキャリアピン14の一端は、キャリア本体134にそれぞれ固定される。
【0029】
第2キャリア132は、遊星ローラ12を支持するキャリアピン14の他端を支持する。第2キャリア132は、軸受18を介して、第2ケーシング102に支持されるとともに、軸受19を介して、太陽ローラ11に支持される。第2キャリア132は、主軸J1を含む貫通孔を有し、当該貫通孔内に太陽ローラ11の入力軸112が配置される。2以上のキャリアピン14の他端は、第2キャリア132にそれぞれ固定される。
【0030】
<キャリアピン14>
キャリアピン14は、遊星回転軸J2に沿って延びる軸部材であり、ニードル軸受141を介して、遊星ローラ12を回転可能に支持する。トラクション動力伝達装置1は、2以上の遊星ローラ12にそれぞれ対応する2以上のキャリアピン14を備え、各キャリアピン14は、主軸J1を中心とする同一の円周上に等間隔に配置される。このため、トラクション動力伝達装置1は、インターナルリング15を固定して、太陽ローラ11を回転させれば、遊星ローラ12が、遊星回転軸J2を中心として自転するとともに、主軸J1を中心として公転する。
【0031】
また、各キャリアピン14は、一端が第1キャリア131に固定され、他端が第2キャリア132に固定される。遊星ローラ12を挟む一対のキャリア13を備え、キャリアピン14の両端を一対のキャリア13にそれぞれ固定することにより、キャリア13の剛性を向上させることができる。このため、遊星ローラ12の法線力に応じて、キャリアピン14の両端に生じる応力を支えることができる。
【0032】
<インターナルリング15>
インターナルリング15は、遊星ローラ12を内接させる筒形状の転動体部材である。インターナルリング15は、2以上の遊星ローラ12よりも径方向外側に配置され、その内周面には、2以上の遊星ローラ12の外周面がそれぞれ接触する。
【0033】
また、インターナルリング15は、弾性部材からなり、遊星ローラ12の法線力により撓む。インターナルリング15は、軸方向の一端がケーシング10に直接的又は間接的に接続される。また、インターナルリング15の外周面は、隙間を介してケーシング10の内周面と対向する。このため、インターナルリング15は、遊星ローラ12の法線力により径方向外方へ弾性変形することができる。
【0034】
図1に示した本実施の形態によるトラクション動力伝達装置1では、インターナルリング15が間接的にケーシング10に接続される。具体的には、第1ケーシング101及びインターナルリング15は、ともに軸受16の外輪に固定されるが、軸受16の外周面上において、両者は軸方向の異なる位置に固定されている。このため、インターナルリング15は、軸受16を介して、間接的に第1ケーシング101に固定されている。なお、この様な構成に代えて、インターナルリング15が、軸受16を介在させることなく、直接的にケーシング10に固定される構成を採用することもできる。
【0035】
本実施の形態によるトラクション動力伝達装置1を構成する各部品は、上述したとおりである。以下では、これらの部品相互の関係や、それによって生じる作用効果について詳しく説明する。
【0036】
(1)伝達効率の向上
本実施の形態によるトラクション動力伝達装置1では、太陽ローラ11が貫通孔113を有する中空軸として構成され、トラクション部110が遊星ローラ12の法線力により撓む撓み変形部114として構成される。つまり、遊星ローラ12が接触するトラクション部110は、円筒形からなり、その側壁の肉厚が、遊星ローラ12の法線力により撓む大きさからなる。
【0037】
太陽ローラ11が撓み変形部114を有することにより、遊星ローラ12の法線力に応じて、太陽ローラ11及び遊星ローラ12間の接触面積を増大させることができる。従って、本実施の形態によるトラクション動力伝達装置1は、中空部を有しない中実軸を太陽ローラとして用いる従来のトラクション動力伝達装置に比べて、伝達効率を向上させることができる。
【0038】
また、インターナルリング15が弾性部材からなり、遊星ローラ12の法線力により径方向外方へ撓む。このため、遊星ローラ12の法線力に応じて、遊星ローラ12及びインターナルリング15間の接触面積を増大させることができるので、さらに伝達効率を向上させることができる。
【0039】
なお、特許文献1には、第1サンローラ、第2サンローラ及びキャリアに対し、共通の心出し穴が形成された遊星ローラ減速機が開示されている。これらの心出し穴は、組立時に第1サンローラ、第2サンローラ及びキャリアの同軸度を確保するためのものであって、遊星ローラの法線力により撓ませるためのものではない。
【0040】
(2)耐久性の確保
上述したとおり、本実施の形態によるトラクション動力伝達装置1では、遊星ローラ12の法線力に応じて、太陽ローラ11及び遊星ローラ12間の接触面積を増大させることができる。このため、太陽ローラ11のヘルツ面圧が過大になるのを防止し、トラクション動力伝達装置1の耐久性を確保することができる。つまり、伝達効率を向上させるために遊星ローラ12の法線力を増大しても、太陽ローラ11のヘルツ面圧が顕著に増大することはなく、耐久性が低下するのを防止することができる。
【0041】
(3)振動及び騒音の低減
撓み変形部114は、入力側端部がキャリア支持部111に接続され、出力側端部が太陽ローラ11の出力側端部と一致する。太陽ローラ11の出力側端部は、開口が形成された自由端である。このため、
図1に示された撓み変形部114の側壁の断面は、入力側端部を固定端、出力側端部を自由端とする片持ち梁になり、遊星ローラ12の法線力により、出力側端部を主軸J1に近づけるように傾く。その結果、撓み変形部114の外周面に接触する遊星ローラ12が傾き、遊星ローラ12の回転軸である遊星回転軸J2がキャリアピン14に対して傾く。従って、バックラッシュと呼ばれるキャリアピン14に対する遊星ローラ12のガタツキや角速度変化を低減することができ、振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0042】
(4)電動モータとの連結の容易化
太陽ローラ11が軸方向に貫通する貫通孔113を有することにより、トラクション動力伝達装置1と電動モータなどの電動用機械要素との連結を容易化することができる。一般に、電動モータの駆動軸(不図示)は、トラクション動力伝達装置1の入力軸112に対し、カップリング部材等を用いて連結される。しかしながら、入力軸112を円筒形にし、その中空部に電動モータの駆動軸を挿入して固定すれば、カップリング部材を用いることなく、両者を連結することができる。
【0043】
(5)遊星ローラ12の配置自由度の向上
撓み変形部114の軸方向の長さは、遊星ローラ12の軸方向の幅よりも長い。このため、撓み変形部114に対する遊星ローラ12の位置を柔軟に決定することができる。したがって、トラクション動力伝達装置1の製作にあたり、太陽ローラ11に対する遊星ローラ12の配置の自由度を向上させることができる。
【0044】
実施の形態2.
実施の形態1では、貫通孔113を有する太陽ローラ11を備え、太陽ローラ11の軸方向の一部が撓み変形部114として機能するトラクション動力伝達装置の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、貫通孔を有しない太陽ローラ11を備え、太陽ローラ11の一部が撓み変形部114として機能するトラクション動力伝達装置について説明する。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態2によるトラクション動力伝達装置2の一構成例を示した断面図であり、主軸J1を含む面によりトラクション動力伝達装置2を切断した場合の切断面が示されている。
図4のトラクション動力伝達装置2を
図1のトラクション動力伝達装置1(実施の形態1)と比較すれば、太陽ローラ11の内部構成のみが異なり、その他の構成は、
図1のトラクション動力伝達装置1の場合と同一である。このため、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0046】
本実施の形態によるトラクション動力伝達装置2では、太陽ローラ11が貫通孔を有しない一方、太陽ローラ11のトラクション部110内に、出力側端部に開口を有し、軸方向に延びる中空部が形成される。つまり、トラクション部110は、当該中空部を内包する有底円筒形状として形成される。このようなトラクション部110の側壁の肉厚、つまり、径方向の厚さを薄くすれば、遊星ローラ12の法線力により、その側壁を径方向に撓ませることができる。つまり、トラクション部110を撓み変形部114として機能させることができる。
【0047】
本実施の形態による撓み変形部114は、太陽ローラ11の軸方向の一端に開口を有するとともに、中空部を介在させて前記開口に対向する底部115を有する有底円筒形からなり、その側壁の肉厚が、遊星ローラ12の法線力により撓む大きさからなる。
図4に示された撓み変形部114の側壁は、軸方向において均一の内径及び外径を有する。また、撓み変形部114の中空部は、撓み変形部114の側壁の肉厚より大きな半径を有する。
【0048】
このような撓み変形部114を備えることにより、遊星ローラ12の法線力に応じて、太陽ローラ11及び遊星ローラ12間の接触面積を増大させることができる。従って、本実施の形態によるトラクション動力伝達装置2は、中実軸を太陽ローラとして用いる従来のトラクション動力伝達装置に比べて、伝達効率を向上させることができる。
【0049】
撓み変形部114は、入力側端部が底部115であり、出力側端部が太陽ローラ11の出力側端部の開口と一致する。このため、
図4に示された撓み変形部114の側壁の断面は、入力側端部を固定端、出力側端部を自由端とする片持ち梁になり、遊星ローラ12の法線力により、出力側端部を主軸J1に近づけるように傾く。その結果、撓み変形部114の外周面に接触する遊星ローラ12もキャリアピン14に対して傾く。従って、バックラッシュと呼ばれるキャリアピン14に対する遊星ローラ12のガタツキや角速度変化を低減することができ、振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0050】
実施の形態3.
実施の形態1では、太陽ローラ11が貫通孔113を有するトラクション動力伝達装置の例について説明した。また、実施の形態2では、太陽ローラ11の出力側端部を有底円筒形に形成したトラクション動力伝達装置2の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、太陽ローラ11が貫通孔113を有し、かつ、太陽ローラ11の出力側端部を有底円筒形に形成したトラクション動力伝達装置について説明する。
【0051】
図5は、本発明の実施の形態3によるトラクション動力伝達装置3の一構成例を示した断面図であり、主軸J1を含む面によりトラクション動力伝達装置3を切断した場合の切断面が示されている。
図5のトラクション動力伝達装置3を
図4のトラクション動力伝達装置2(実施の形態2)と比較すれば、太陽ローラ11が貫通孔113を有する点が異なり、その他の構成は、
図5のトラクション動力伝達装置2の場合と同一である。このため、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
太陽ローラ11は、実施の形態2の場合と同様、トラクション部110が有底円筒形からなり、当該トラクション部110が撓み変形部114として機能する。また、太陽ローラ11は、主軸J1に沿って延びる貫通孔113を有する。貫通孔113は、太陽ローラ11を軸方向に貫通する穴であり、貫通孔113の内径は、撓み変形部114の内径よりも小さい。このため、撓み変形部114の底部115には、貫通孔113に相当する開口が形成される。つまり、底部115は太陽ローラ11の内面の段差として形成される。このような構成であっても、撓み変形部114は、実施の形態2の場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0053】
なお、前記各実施の形態では、インターナルリング15を固定し、太陽ローラ11を入力側、第1キャリア131を出力側として動作する場合の例について説明した。しかしながら、本発明によるトラクション動力伝達装置は、このような用途に利用されるものに限定されない。例えば、キャリア13を固定し、太陽ローラ11を入力側、インターナルリング15を出力側として利用する装置であってもよい。また、入力側と出力側を入れ替えて利用する装置であってもよい。つまり、入力軸112を出力軸とし、出力軸133を入力軸にすることにより、増速機として利用することができる。
【0054】
また、前記各実施の形態では、キャリアピン14が主軸J1と平行に配置される構成について説明した。しかしながら、本発明によるトラクション動力伝達装置は、このような構成のみに限定されない。つまり、キャリアピン14は、主軸J1に対し傾斜して配置されていてもよい。このような構成を採用することにより、遊星ローラ12によるバックラッシュの発生を抑制することができる。すなわち、主軸J1に対しキャリアピン14を傾斜させた場合、遊星ローラ12に作用する太陽ローラ11及びインターナルリング15の法線力は、遊星回転軸J2をキャリアピン14に対し傾けるように作用する。このため、バックラッシュによるガタツキや角速度変化を抑制することができ、トラクション動力伝達装置の振動及び騒音を抑制することができる。
【0055】
また、前記各実施の形態では、トラクション部110の軸方向全体が撓み変形部114となる場合の例について説明したが、本発明によるトラクション動力伝達装置は、このような構成のみに限定されない。例えば、トラクション部110の軸方向の一部に撓み変形部114を形成することもできる。
【0056】
また、前記各実施の形態では、太陽ローラ11の出力側端部に開口が形成される場合の例について説明したが、本発明によるトラクション動力伝達装置は、このような構成のみに限定されない。例えば、太陽ローラ11内に、軸方向に延びる開口を有しない中空部を形成し、当該中空部を内包する円筒部を撓み変形部114として機能させることもできる。
【0057】
また、前記各実施の形態では、撓み変形部114の側壁の厚さが軸方向に均一である場合の例について説明した。しかしながら、本発明によるトラクション動力伝達装置は、このような構成のみに限定されない。例えば、太陽ローラ11の出力側端部に近づくにつれて、撓み変形部114の側壁の厚さが薄くなるように構成してもよい。具体的には、トラクション部110の外径を軸方向において均一とする一方、撓み変形部114の内径を太陽ローラ11の出力側端部に近づくほど拡径することが考えられる。内径の拡径は、例えば、撓み変形部の内周面を主軸J1に対して傾斜させてもよいし、1又は2以上の段差を設けることにより実現することもできる。
【0058】
また、前記各実施の形態では、トラクション部110の外径が軸方向について均一であり、トラクション部110の外周面が円筒面となる場合の例について説明した。しかしながら、本発明によるトラクション動力伝達装置は、このような構成のみに限定されない。例えば、トラクション部110の外径を軸方向において変化させ、トラクション部110の外周面を円錐面にすることもできる。トラクション部110の外周面を主軸J1に対し傾斜させることにより、キャリアピン14を主軸J1に対し傾斜させた場合と同様にして、遊星ローラ12によるバックラッシュの発生を抑制することができる。
【0059】
また、前記各実施の形態では、インターナルリング15が弾性部材からなる場合の例について説明したが、本発明によるトラクション動力伝達装置は、このような構成のみに限定されない。つまり、インターナルリング15は、非弾性部材で構成することもできる。
【0060】
また、前記各実施の形態では、撓み変形部114が円筒形状である場合の例について説明したが、本発明は、このような場合のみに限定されない。例えば、撓み変形部114内の中空部は多角形であってもよい。また、撓み変形部114内には、2以上の中空部が形成されていてもよい。例えば、軸方向に延びる2以上の中空部を径方向又は周方向の異なる位置に配置することにより、撓み変形部114を構成することもできる。