【課題】放射性セシウムの吸着後のスラリーを酸化処理した後、セシウム化合物を溶出分離し、分離したセシウム化合物をガラス固化することにより、固化物量を著しく少なくすることができるセシウム吸着スラリーの処理方法を提供する。
【解決手段】セシウムイオンを吸着したフェロシアン化物のスラリーを乾燥及び加熱酸化分解処理して分解生成物を生成させる加熱酸化分解工程と、この分解生成物からセシウム化合物を溶出させる工程と、溶出したセシウム化合物の溶液からセシウム化合物を析出させる工程と、析出物をガラス固化するガラス固化工程とを有するセシウム吸着スラリーの処理方法。
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記加熱酸化分解工程又はガラス固化工程から発生するセシウム化合物の飛散物又は蒸発物をフェロシアン化物に吸着させて回収する回収工程をさらに有することを特徴とするセシウム吸着スラリーの処理方法。
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記分解生成物からセシウム化合物を溶出させる工程において、前記分解生成物を100μm以下に粉砕し、温度50〜90℃の水にて溶出させた後、硝酸水溶液にて更に溶出させることを特徴とするセシウム吸着スラリーの処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
[被処理液]
本発明方法で対象とする被処理液は、セシウム特に放射性セシウムを含有するものである。この被処理液としては、放射性物質で汚染された原子力発電所設備水、汚染地域の湖沼水、河川水、地下水、プール等の槽状体の貯留水のほか、除染排水、放射性物質汚染土壌の酸抽出水、廃棄物焼却灰の洗浄排水などが例示される。これらの被処理液は、セシウムのほかに各種の金属イオンや固形分を含んでいる。被処理液のセシウム濃度については特に制限はなく、100Bq/L程度の低濃度汚染水から10万Bq/L程度の高濃度汚染水まで処理可能である。
【0020】
フェロシアン化物の添加によるセシウム吸着処理に先立って、被処理液から濾過処理、遠心分離処理等によって固形物を除去しておくことが望ましい。放射性セシウムはイオン化して溶解しており、除去された固形物の付着放射性セシウム量は極く微量である。
【0021】
[フェロシアン化物によるセシウム吸着処理]
このように必要に応じ固形物除去処理した被処理液に対しフェロシアン化物を添加し、セシウムを吸着させる(
図1の吸着工程)。
【0022】
フェロシアン化物としてはプルシアンブルーなどを用いることができる。プルシアンブルーの化学式は、Fe(III)
4[Fe(II)(CN)
6]
3で表わされるが、本発明で用いるプルシアンブルーは、結晶水を含んでいてもよいし、鉄イオンの少なくとも一部が他の金属、例えばバナジウム、クロム、マンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属で置換された、次式で表わされるプルシアンブルー型金属錯体であってもよい。
A
xM
A[M
B(CN)
6]
y・zH
2O
Aは陽イオンに由来する原子である。xは0〜2、yは1〜0.3、zは0〜20である。M
A,M
Bは金属原子である。
【0023】
フェロシアン化物としては一次粒子径(平均粒径)が50nm以下であって、二次粒子径(凝集径)(平均粒径)が5nm〜1mm程度のナノ粒子がセシウム吸着性能、付着堆積物層形成能から好ましいが、一次粒径が大きく二次粒径が10〜100μm程度の、顔料、所謂「紺青」等も使用可能である。(測定法(一次粒径):X線回折装置で測定、回折ピークから結晶格子径を算出して求めた値。測定法(二次粒径):レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した値。)
【0024】
N
2ガスを用いたBET法で測定したナノ粒子の比表面積は150〜2500m
2/g程度が吸着能力、取り扱い上望ましい。
【0025】
フェロシアン化物をナノ粒子とすることにより、セシウムの吸着速度が大きくなる。また、フェロシアン化物ナノ粒子の格子間隙に入り込んだセシウムイオンが粒子の芯部にまで拡散移動する距離が短いので、フェロシアン化物ナノ粒子のほぼ全体がセシウムの吸着に利用され、速やかにほぼ飽和吸着状態となるまでセシウムを吸着させることができる。
【0026】
被処理液へのフェロシアン化物の添加量は、0.2〜10kg/m
3特に1〜5kg/m
3程度が好ましい。被処理液中のセシウム濃度が高いほど、上記の範囲内でフェロシアン化物の添加量を多くすることが好ましい。
【0027】
フェロシアン化物特にそのナノ粒子のセシウム吸着速度は極めて大きいので、被処理液にフェロシアン化物を添加してから約0.1〜1hr以内に吸着が終了する。そこで、このフェロシアン化物添加水を好ましくはデカンタ等によって遠心分離し、沈降分と上澄分とに分離する。沈降分中のフェロシアン化物に十分な吸着容量が残っている場合には、吸着工程に戻して再利用(被処理液に添加)するのが好ましい。フェロシアン化物が飽和吸着に近い状態になっている場合には、沈降分を後述の遠心脱水工程に送ってもよい。
【0028】
図1のように、この遠心分離による上澄分を濾過工程に供するようにしてもよい。この濾過工程では、上澄分を濾材に通液して透過させる。好ましくは、上澄分を循環させて濾過する。なお、上記の遠心分離は必須ではなく、フェロシアン化物の添加液をそのまま濾過工程に供してもよい。
【0029】
濾材としては、多孔質の布、シート又はフィルムよりなるものが好適であり、中でも、0.5〜1.2mm特に0.9〜1mm程度の厚さの合成樹脂の繊維の織布が好適である。合成樹脂としては、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンなどを用いることができるが、これに限定されない。織布の織りとしては、平織、朱子織、綾織などが例示されるが、これに限定されない。織布の通気度は0.1〜5cm
3/cm
2・sec特に0.3〜1.3cm
3/cm
2・sec程度が好適である。
【0030】
濾過運転の開始当初は、濾材に付着堆積物層は形成されておらず、液中のフェロシアン化物ナノ粒子の大部分は濾材を素通り状に通過するが、一部の比較的粒径の大きい二次粒子が濾材に捕捉され、次第にその捕捉量が増大し、これに伴って比較的小粒径の粒子も捕捉されるようになり、遂には付着堆積物層が形成される。付着堆積物層が形成されると、粒径の小さいフェロシアン化物ナノ粒子も付着堆積物層に捕捉され、付着堆積物層の厚さが大きくなる。なお、濾過工程からの液を遠心分離してから濾過する場合には、遠心分離なしに直に濾過する場合に比べて、濾材として目開きの小さいものを用いることが好ましい。
【0031】
濾材に付着した付着堆積物層の厚さが所定以上になった場合には、濾材への液の供給を停止し、水又は空気等の気体で濾材を逆洗する。水又は空気等を濾材に濾過時と逆方向に供給すると、濾材に付着していた付着堆積物層が剥離し、濾過装置内を落下する。濾過装置底部の排出弁を開とすると、スラリーが流出する。このスラリー中のフェロシアン化物の残存吸着容量が多いときには、このスラリーをセシウム吸着工程に返送する。フェロシアン化物のセシウム吸着量が飽和吸着に近い場合や、セシウム吸着量の少ないフェロシアン化物であっても減容処理して保管する場合などには、スラリーを遠心分離脱水機により脱水して脱水ケーキとし、ベッセルに収容する。
【0032】
濾材の逆洗が終了した後、濾材に液を循環通液する。この場合も、通液を開始するとまず粒径の大きい二次粒子が濾材に捕捉されて付着堆積物層が形成され、その後、粒径の小さいフェロシアン化物ナノ粒子も捕捉され、付着堆積物層の層厚が大きくなる。なお、本発明では濾過助剤を用いてもよい。この濾過助剤は、燃焼酸化工程において難燃物とならないものが好ましい。
【0033】
[セシウム吸着スラリーの乾燥及び酸化分解]
本発明では、上記のようにセシウムを吸着したフェロシアン化物のスラリー(脱水ケーキを包含する。)を乾燥した後、酸化処理する。この乾燥及び酸化処理を行うためのプロセスは特に限定されるものではなく、種々のプロセスにより行うことができる。例えば、スラリーをベッセル内に収容した後、ベッセルを誘導加熱し、スラリーを乾燥させ、その後、酸化雰囲気下でさらに昇温させ、乾燥物を酸化する。
【0034】
なお、フェロシアン化物への付着水の略全量が蒸発したかどうかは、ベッセルの重量を経時的に測定し、この重量が略恒量に達したならば付着水の略全量が蒸発したものと判断することができる。また、ベッセルからの蒸発量を観察し、水の蒸発がほぼなくなったならば、付着水の略全量が蒸発したものと判断することができる。
【0035】
また、フェロシアン化物への付着水の略全量が蒸発すると、ベッセルからの排気の温度が100℃よりも高くなるので、ベッセルからの排気温度が100℃よりも高くなった場合に、例えば100〜105℃に上昇した場合に、フェロシアン化物付着水の略全量が蒸発したものと判断することができる。
【0036】
本発明では、フェロシアン化物付着水の蒸発開始時から空気をベッセルに導入するのが好ましいが、ベッセルの誘導加熱を開始してから所定時間が経過した乾燥途中において、ベッセル内に空気を導入するようにしてもよい。なお、本発明では、空気は酸素富化空気であってもよい。
【0037】
このフェロシアン化物付着水を蒸発させる工程では、ベッセル内に空気を導入すると共に、エゼクタでベッセル内を吸引し、発生した水蒸気を排出することが好ましい。このエゼクタには、作動流体として水を供給することが好ましい。ベッセルから吸引排出させた水蒸気や、水蒸気に随伴する飛散物は、この水に吸収又は捕集される。
【0038】
空気流入下でのフェロシアン化物の乾燥が終了した後、具体的にはベッセルからの排気温度が110℃以上、好ましくは110〜150℃例えば120℃に達したならば、さらに加熱してフェロシアン化物を酸化分解する。この酸化分解処理に際しては、ベッセル内に空気を流通させ、セシウム吸着フェロシアン化物を酸化分解処理する。加熱温度は、150℃以上、好ましくは200℃以上、400℃以下、好ましくは370℃以下、例えば150℃〜400℃、特に200℃〜370℃程度が望ましい。このように低温で酸化分解処理することにより、セシウム化合物の溶融温度以下でフェロシアン化物は分解され、酸化鉄、セシウム化合物等が生成する。セシウム化合物の蒸発留出はかなり抑制される。
【0039】
空気の導入量は、ベッセル内部の温度が400℃以下で、随伴飛散物の発生の抑制となる量が好ましい。この酸化分解処理工程においても、水を作動流体とするエゼクタでベッセル内を吸引し、発生したガス成分やそれに随伴する飛散物を水に吸収又は捕集させるのが好ましい。
【0040】
図2は、ベッセル1及び誘導加熱ユニット2を用いたスラリー処理システムの構成図である。誘導加熱ユニット2は、ベース15上に設置されている。ベース15には重量センサ16が設けられている。
【0041】
ベッセル1の流入口4aには、配管17が接続されている。この配管17には、流量計18及び流量調節バルブ19が設けられている。この配管17を介して、ベッセル1に空気を供給することができるようになっている。ベッセル1の流出口4bは、流量調節バルブ20及び温度センサ21を備えた配管22を介してエゼクタ23の吸引部に接続されている。エゼクタ23は、タンク24に設置されている。タンク24内の水は、タンク24の底部から配管25、ポンプ26及び循環水冷却用クーラ(熱交換器)27を介してエゼクタ23の作動流体導入口に供給される。
【0042】
タンク24には液面レベルセンサ28が設けられている。また、タンク24の上部にはガス排出用の配管29が接続されており、この配管29にガスセンサ30が設けられている。
【0043】
このスラリー処理システムを用いるスラリー処理方法について次に説明する。
【0044】
スラリーを含水率50〜95重量%程度に脱水したケーキをベッセル1に収容する。この場合、ベッセルの容積の85〜95体積%程度にケーキをベッセル1に収容するのが好ましい。このベッセル1を
図2の通り誘導加熱ユニット2に装着し、配管17,22を接続する。
【0045】
バルブ19を開とし、ポンプ26を作動させてエゼクタ23に通水し、ベッセル1内から気体を吸引すると共に、コイル8に通電し、ベッセル1に二次電流を誘起させ、抵抗損による発熱でベッセル1を加熱する。誘導加熱ユニット2に設けた温度センサ13の検出温度T
2が100〜150℃好ましくは100〜120℃となるようにコイル8への通電を制御する。この温度T
2を150℃以下とするのは、フェロシアン化物イオン溶出抑制のためである。ベッセル1内のケーキは加熱され、水分が蒸発する。この水の蒸発時における、放射性セシウムを吸着したナノ粒子の飛散を抑制するために、配管22における蒸気線速を100mm/sec以下特に50mm/sec以下とするのが望ましい。この蒸発時における温度センサ21の検出温度T
2は96〜100℃程度となる。水の蒸発時はバルブ19を開とし、ベッセル1にキャリヤーガスとして空気を供給し、ベッセル1、配管22内の結露を防ぐ。
【0046】
脱水ケーキから蒸発した蒸気は、凝縮機能と飛沫ナノ粒子の捕集機能を兼ね備えたエゼクタ23で凝縮し、タンク24に溜る。配管25を循環する水はクーラ27にて冷却し、40℃以下とする。脱水量は、誘導加熱装置の重量センサ16の検出重量W
1及びタンク24の液面上昇量(レベルセンサ28の検出液面レベルL
1)にて概略的に検知する。ベッセル1内のケーキの含有水が少なくなると脱水量が減る。そのため、フェロシアン化物への付着水の略全量が蒸発すると、重量センサ16の検出重量W
1又はレベルセンサ28の検出液面レベルL
1に変化が見られなくなる。
【0047】
重量センサ16の検出重量W
1又はレベルセンサ28の検出液面レベルL
1に変化が見られなくなり、脱水ケーキからの付着水分の蒸発が終了し、温度センサ14の検出温度T
3が150℃を超えたり、温度センサ13の検出温度T
2が150℃を超えたりした後においても、ベッセル1内には水(H
2O)が存在する。この水は、フェロシアン化物に含まれる水和物などである。ベッセル1内の温度を150℃よりも上昇させた際にベッセル1内に凝縮水が存在すると、フェロシアン化物が部分酸化し、シアン化物の生成が起こりうるため、ベッセル1内に空気を供給してベッセル内の雰囲気を露点以上とすることで、乾燥工程におけるフェロシアン化物の部分酸化によるシアン化物の生成を抑制することができる。
【0048】
センサ21の検出温度T
1が110℃以上、好ましくは110〜150℃例えば120℃になったならば、乾燥工程を終了し、フェロシアン化物の酸化分解処理工程に移る。この時も、ベッセル1内に空気が継続して供給される。この工程では、センサ14の検出温度T
3が昇温速度0.3〜2℃/min好ましくは0.5〜1℃/minで150〜400℃、好ましくは200〜370℃となるようにコイル8に通電する。また、温度センサ13,21の検出温度差T
2−T
1が50℃以下特に20℃以下となるようにバルブ19を調整してベッセル1への空気導入量を調節する。プルシアンブルーFe(III)
4[Fe(II)(CN)
6]
3の場合、この酸化分解処理により酸化鉄、CO
2、N
2、シアン化物、及び少量の未燃物に酸化分解する。残留シアン化物は1/1000以下となる。
【0049】
セシウム吸着スラリー中のプルシアンブルーは、プルシアンブルー製造時の副生物である塩を少量ながら含有している。この塩はプルシアンブルーの製法により異なり、塩化物、硝酸塩、硫酸塩である。加熱酸化分解工程においてフェロシアン化物のCN基の分解により、硝酸イオンとセシウムイオンが結合反応を起こす。本発明者の研究の結果、この結合反応は、CN基の加熱酸化分解により起こることが見出された。模擬セシウムに塩化セシウム、炭酸セシウムを用い、セシウム吸着したプルシアンブルーを加熱酸化分解処理すると硝酸セシウムが結合生成する。また、プルシアンブルーの生成原料に硝酸鉄でなく、塩化鉄を用いた場合でも、プルシアンブルー副生物は硝酸ナトリウムでなく、塩化ナトリウムであるが、このセシウム吸着したプルシアンブルーを加熱酸化分解処理すると硝酸セシウムが結合生成する。硝酸セシウムの融点は約409℃であるところから、加熱酸化分解処理温度を400℃以下となるように上記酸化分解処理を制御することが重要である。
【0050】
酸化分解処理完了の目安は、重量センサ16の検出重量W
1の変化量、又はガスセンサ30により検出されるCO
2変化量にて判断する。酸化分解処理で有機物が未燃分として残存するとガラス固化処理に影響を及ぼすので、十分に燃焼させる必要がある。酸化分解処理は8時間以内に終了させるのが好ましい。酸化分解処理完了後、ベッセル1内の雰囲気を空気に置換した後、配管17,22を取り外し、流入口4a及び流出口4bを密閉する。次いで好ましくはベッセル1を放冷等により冷却する。
【0051】
酸化生成物は、セシウム塩を40重量%以上例えば40〜80重量%含むことが好ましい。また、ナトリウム塩を15重量%以上例えば15〜50重量%含むことが好ましい。
【0052】
ベッセル1から酸化生成物を取り出す場合、ベッセル1内に水を供給し、撹拌し、スラリーとして溶出分離容器に吸引回収するのが好ましい。
【0053】
乾燥工程、酸化分解処理工程では、タンク24内の水にシアン化物が溶け込むので、酸化分解処理工程終了後、タンク24内の水を水酸化ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウム等を用いて無害化処理を行った後に、吸着工程へ送ることが好ましい。また、更にタンク24内の水に予め水酸化ナトリウム溶解させておき、酸化分解処理工程で発生するシアン化物をアルカリ固定化させるのがより好ましい。
【0054】
[溶出及び塩類の分離]
酸化分解処理後のベッセル1内の分解生成物は、酸化鉄と、主に硝酸セシウム、塩化セシウムを主体とするセシウム化合物と、少量のその他の塩類とから構成される。そのため、この分解処理物に水を加えることで、セシウム化合物及びその他の可溶性塩類を溶出させ、これらを含む水溶液を酸化鉄等の分解生成物固形分から分離することができる。
【0055】
酸化分解生成物からのセシウム化合物等の溶出分離において、酸化分解生成物を100μm以下に粉砕し、水温度50〜90℃好ましくは60〜80℃にて生成物中の含有セシウムの80%以上を溶出させるのが好ましい。その後、生成物中の未抽出残留セシウムを0.2〜1N程度の硝酸水溶液にて更に溶出させ、合計溶出率90%以上の高溶出率を得ることが出来る。セシウム化合物等の水溶液と酸化分解生成固形分との分離は濾過、遠心分離などにより行うことができる。分離したセシウム化合物及び塩類の溶液を濃縮し、乾燥してセシウム塩を主成分とする固形分(析出物)を得る。
【0056】
[ガラス固化処理]
上記のようにして生成させたセシウム塩を主体とする析出物(塩類)をガラス固化処理する。
【0057】
固化処理に用いるガラスはホウ珪酸系ガラス又はリン酸系ガラス(例えばリン酸マグネシウムガラス)が好適である。ホウ珪酸系ガラスの場合、SiO
255〜65重量%、Al
2O
33〜15重量%、B
2O
310〜30重量%、その他15重量%以下の組成を有するものが好適である。
【0058】
上記の通り、生成した析出物はセシウム塩を主体とするものであるが、フェロシアン化物製造工程に副生成物として混入したナトリウム塩も含んでいる。そのため、生成した塩類を固化したガラス組成は、原料ガラス組成よりもナトリウムリッチなものとなり、融点が低下する。そのため、固化処理に用いるホウ珪酸ガラスは、低アルカリ、例えばNa
2O含有量が5wt%以下、特に4wt%以下のホウ珪酸ガラスであってもよい。
【0059】
固化処理される析出物とガラスとの割合は、析出物とガラスとの合量100重量%中に占める析出物の割合が5重量%以上、特に10重量%以上、とりわけ20重量%以上であり、また70重量%以下、特に60重量%以下、とりわけ50重量%以下であることが好ましい。析出物の割合が少なければ、固化体の耐熱性(融点)、耐水性等は高くなるが、固化処理体の容積が大きくなる。析出物の割合が多すぎると、固化体の耐熱性、耐水性等が低くなる。
【0060】
析出物類を固化処理するには、析出物とガラスとを混合した後、加熱溶融すればよい。ガラスは塊状であっても、粒状であっても粉状であってもよい。塊状又は粒状の場合は、析出物と混合する際に粉砕混合するのが好ましい。
【0061】
加熱温度は、ガラスの軟化点をspとした場合、(sp+400〜500℃)以上であり、また(sp+700〜1000℃)以下程度の範囲であればよい。加熱処理時間は0.5〜48hr特に0.5〜2hr程度であればよい。なお、加熱温度が高いと、セシウムの蒸発量が多くなるので、加熱温度を高くするときは加熱処理時間を短くするよう調整するのが望ましい。
【0062】
ガラス固化処理時には、炉内を吸引し、炉内で発生したセシウム蒸気又は飛散物含有ガスをセシウム吸収処理することが好ましい。このセシウム吸収処理システムの好適な一例を
図3に示す。
【0063】
このシステムは、配管39からの炉ガスをエゼクタ41で吸引するセシウムトラップ槽40を有する。このトラップ槽40内の水は、バルブ42、配管43、ポンプ44、配管45、バルブ46、粗粒子除去用フィルタ47、冷却器48、及び配管49を介してエゼクタ41に循環される。トラップ槽40内の水蒸気等のガスは、配管51を介して吸着塔52内のフェロシアン化物含有水中に吹き込まれてセシウムが吸収される。吸着塔52の排ガスは配管53を介してガス処理系に送られる。
【0064】
トラップ槽40には、配管54及びバルブ55を介して水が補給される。
【0065】
トラップ槽40内のセシウム吸収水の少なくとも一部は、ポンプ44の吐出側配管45から分岐した配管56、バルブ57、配管58及びバルブ59を介してセシウム吸着槽60に導入される。このセシウム吸着槽60には投入部60aからフェロシアン化物が供給され、攪拌機61で撹拌される。これにより、槽60内の水中に溶解ないし分散したフェロシアン化物にセシウムが吸着される。セシウム吸着槽60内の水蒸気その他のガスは、配管62を介してセシウム吸着塔52に送られる。
【0066】
セシウム吸着槽60内及びセシウム吸着塔52内のフェロシアン化物含有水は、必要に応じ、システムの炉ガス処理動作停止中に、セシウム含有被処理水のセシウム吸着工程に送水される。
【0067】
この送水を行うために、セシウム吸着槽60及びセシウム吸着塔52の底部は、バルブ64,66を介して配管65の一端に接続されている。配管65の他端は、バルブ67を介してポンプ44の吸込側配管43に接続されている。吸着槽60及び吸着塔52内のセシウム吸着フェロシアン化物含有水を吸着工程に送水する際は、セシウムトラップ槽40の流出側のバルブ42を閉、配管65のバルブ67を開とし、さらにバルブ46、59を閉、バルブ57、69を開とし、ポンプ44を作動させる。これにより、吸着槽60及び吸着塔52内のセシウム吸着フェロシアン化物含有水が配管65,45,56,70を介して吸着工程に送水される。
【実施例】
【0068】
[実施例1]
<プルシアンブルーナノ粒子分散液の調製>
関東化学(株)製プルシアンブルーL-purified(Fe
4[Fe(CN)
6]
3・15H
2O、粒子径16nm)1.44kgを純水に分散させて450Lの分散液を調製した。このプルシアンブルーはNaNO
3を0.096kg含有する。
【0069】
<模擬被処理液の調製及吸着>
和光純薬製塩化セシウムを純水1Lに溶解させた水溶液を、4回に分けて上記450Lプルシアンブルー分散液に投入分散攪拌し、吸着させた。塩化セシウムを合計89.3g投入した。
【0070】
上記の吸着処理後の液を少量分取しプルシアンブルーを濾別して濾液中の鉄、セシウムの定量分析を行った結果からプルシアンブルーへのセシウム吸着量を測定したところ、プルシアンブルー1kg当たりではセシウム47.72g(塩化セシウム換算で60.47g)が吸着されたことになる。
【0071】
<遠心分離処理>
上記吸着処理により生じたセシウム吸着プルシアンブルー分散液を遠心分離機にて、上澄液と、含水率約73.8重量%の脱水ケーキとに分離した。
【0072】
<乾燥及び加熱酸化分解処理>
図4に示す乾燥及び酸化分解処理装置によって上記脱水ケーキの乾燥及び酸化分解処理を行った。
【0073】
上記脱水ケーキ3.09kgをベッセル1に投入し、誘導加熱ユニット2に組み込み、流出口4bを蒸気排気管32及び冷却器33を介して受器34に接続した。
【0074】
流入口4aから空気を5L/minにて供給しながら、ベッセル1の温度が120℃となるように誘導加熱ユニット2に通電した。受器34内の凝縮水量が2.0Lとなった段階で流入口4aからの空気量を10L/minに増量した。420min経過後、排気温度が200〜210℃で安定した。その後昇温し、150min経過した時点で排気温度が220℃となり、受器34内の凝縮水量は2.2Lであった。凝縮水は透明であった。そこで、コイル8への通電量を増加させ、温度センサ13の検出温度T
2が350℃となるまで2℃/minにて昇温させた。ベッセル内部の温度が380℃以下で、ベッセル出口燃焼ガス温度が300℃になるように空気を供給した。受器34にpH13.5となるようにNaOHを投入した。排気ガスは受器34にて捕集後、放出した。捕集排気ガスからシアン化水素は検出されず、排気ガス成分はCO
2、NH
3、N
2、O
2であったが、受器34内の水からシアン化物が検出された。
【0075】
300min後、加熱を停止し、放冷後、ベッセル1の蓋4を開け、酸化処理生成物を分析したところ、Fe
2O
3等の酸化鉄が主であり、セシウムは酸化物(Cs
2O)換算で8.33wt%であった。ベッセル1内の残留物重量は420gであり、ベッセルへの投入スラリー重量の1/7以下となった。残留物の溶出試験ではセシウムは主として硝酸セシウムとして溶出した。この溶出液を濃縮し、乾燥して粉末化し、X線回析にて形態分析したところ、主に硝酸セシウムであった。このセシウム化合物の析出物は、模擬被処理液の調製に用いた塩化セシウムのセシウムイオンがプルシアンブルーに吸着され、加熱酸化分解工程で硝酸セシウムに結合変化したものである。プルシアンブルーには生成副産物である硝酸ナトリウムのナトリウムイオンが生産段階で取り込まれている。燃焼物残渣にはNaが酸化物(Na
2O)換算で2.77wt%含まれており、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウムである。
【0076】
<溶出処理>
上記の酸化処理生成物50gに、蒸留水500mLを加えて室温で60時間撹拌し、可溶性塩類を蒸留水に溶出させた。溶出液は遠心分離(3000rpm、20分間,KOKUSAN H−103N)後に吸引濾過した(ミリポア製メンブレンフィルター0.2μm)。この溶出液に含まれるCsの濃度をICP−MSで定量したところ、CsNO
3換算で約80%であることが認められた。溶出液を、ロータリーエバポレーターで濃縮し、75℃〜80℃で20時間乾燥後、室温真空で10時間乾燥し、白色固体よりなる析出物約5gを得た。これは、酸化処理生成物が重量比で10分の1に減量されたことになる。析出物のXRD測定結果より、析出物の主成分はCsNO
3であることが認められた。
【0077】
<ホウ珪酸ガラスを用いたCs塩のガラス固化処理>
得られたCsNO
3を主成分とする析出物サンプルを乳鉢を用いて粉砕後、サンプル1重量部と、ホウ珪酸ガラス(SiO
2 60重量%、Na
2O 4重量%、B
2O
3 19重量%、Al
2O
3 7重量%、その他 10重量%)の粉体9重量部とを混合した。
【0078】
この混合物を白金パン(φ5mm)に入れ、島津製熱天秤TGA−50を使用して加熱後、自然冷却を行うことでガラス固化体を作製した。この時の昇温速度は、室温〜100℃までは20℃/min、100℃で15分間保持した後に5℃/minで1000℃まで昇温し、1000℃で60分間保持後、自然冷却で室温に戻した。
【0079】
<ガラス固化体の水に対する浸出試験>
ガラス固化体を白金パンから取り出さない状態で高密度ポリエチレン製広口瓶の底に置き、蒸留水10mLを加え、25℃で24時間静置することにより、Csのガラス固化体から蒸留水への浸出試験を行った。ICP−MSによって浸出液中のCs濃度を定量した結果、水へ浸出したCs量は、TGによる昇温前のCs量(初期Cs量)に対して、0.01%であり、Csの水への浸出はほとんど見られなかった。
【0080】
また、浸出試験後のガラス固化体に残るCs量について、白金パンから削り出して粉砕したガラス固化体を、フッ酸0.5mL/硝酸10mL溶液およびマイクロウエーブを用いて溶解した後に純水で希釈し、ICP−MSで定量した。その結果、ガラス固化体には、TGによる昇温前のCs量(初期Cs量)の88.9%が残存していることが認められた。
【0081】
[実施例2,3,4]
実施例1において、酸化処理後の析出物サンプルとホウ珪酸ガラスとの混合比(重量比)を2:8(実施例2)、3:7(実施例3)又は4:6(実施例4)としたこと以外は同様にしてガラス固化処理し、浸出試験を行った。その結果を表1に示す。
【0082】
[実施例5,6,7,8]
実施例2において、酸化処理時の1000℃保持時間を0min(実施例5)、10min(実施例6)、20min(実施例7)又は30min(実施例8)としたこと以外は実施例2と同様にしてガラス固化処理し、浸出試験を行った。その結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
[考察]
表1の通り、ガラス固化体からのCs浸出は殆どない。また1000℃保持時間は30min以下で十分であることが認められた。なお、ガラス固化体は、いずれも若干淡黄色を帯びてはいるが透明であり、Feイオンは殆ど存在しないことが推察された。