【解決手段】炭素材料を含む活物質と前記活物質を保持する集電体とを含む電極を準備する工程と、前記電極を、非水電解質に含浸する工程と、前記電極の電位を、リチウムの酸化還元電位に対して3.8V以上の所定の電位にして、前記非水電解質中で20時間以上保持する工程と、を備える、キャパシタ用正極の製造方法。
炭素材料を含む正極活物質および前記正極活物質を保持する正極集電体を有する正極、負極、ならびに、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ、を具備する電極群と、
非水電解質と、
前記電極群および前記非水電解質を収容するセルケースと、を含み、
前記正極集電体が、アルミニウムおよびアルミニウム合金よりなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記正極活物質の表面が、窒素、硫黄およびアルミニウムを含む被膜を備える、キャパシタ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の第一の局面は、(1)炭素材料を含む活物質と前記活物質を保持する集電体とを含む電極を準備する工程と、前記電極を、非水電解質に含浸する工程と、前記電極の電位を、リチウムの酸化還元電位に対して3.8V以上の所定の電位にして、前記非水電解質中で20時間以上保持する工程と、を備える、キャパシタ用正極の製造方法に関する。この方法により得られる正極を用いたキャパシタは、安定した高いクーロン効率を有する。また、この方法は、正極の前駆体である電極を形成した後、所定の電圧を一定期間かける工程を加えるだけであるので、製造工程および設備を複雑化することがない。
【0016】
(2)前記非水電解質は、ビスフルオロスルホニルアミドイオン(FSA−)を含み、前記集電体は、アルミニウムおよびアルミニウム合金よりなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これにより、正極の容量を増大することができる。この場合、(3)前記非水電解質に含まれる前記ビスフルオロスルホニルアミドイオンの濃度は、0.5〜5mol/Lであることが好ましい。キャパシタの容量がさらに増加し易いためである。さらに、容量増加の点で、(4)前記炭素材料の最頻度孔径は、0.1〜10nmであることが好ましい。
【0017】
(5)前記正極集電体は、三次元網目状の構造を有することが好ましい。容量が増加しやすいためである。
【0018】
本発明の他の一局面は、(6)前記方法により製造された正極、負極、ならびに、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ、を具備する電極群と、非水電解質と、前記電極群および前記非水電解質を収容するセルケースと、を含む、キャパシタに関する。このキャパシタは、安定した高いクーロン効率を有する。
【0019】
また、本発明の他の一局面は、(7)炭素材料を含む正極活物質および前記正極活物質を保持する正極集電体を有する正極、負極、ならびに、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ、を具備する電極群と、非水電解質と、前記電極群および前記非水電解質を収容するセルケースと、を含み、前記正極集電体が、アルミニウムおよびアルミニウム合金よりなる群から選択される少なくとも一種を含み、前記正極活物質の表面が、窒素、硫黄およびアルミニウムを含む被膜を備える、キャパシタに関する。このキャパシタは、安定した高いクーロン効率を有し、さらに高容量である。
【0020】
上記の場合、(8)前記炭素材料の最頻度孔径は、0.2〜20nmであることが好ましい。キャパシタの容量がさらに大きくなり易いためである。
【0021】
本発明のさらに他の一局面は、(9)炭素材料を含む正極活物質および前記正極活物質を保持する正極集電体を有する正極、負極、ならびに、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ、を具備する電極群を準備する工程と、前記電極群を、非水電解質に含浸する工程と、前記正極の電位を、リチウムの酸化還元電位に対して3.8V以上の所定の電位にして、前記非水電解質中で20時間以上保持する工程と、を備える、キャパシタの製造方法に関する。これにより安定した高いクーロン効率を有するキャパシタを得ることができる。また、この方法は、キャパシタを組んだ後、所定の電圧を一定期間かける工程を加えるだけであるので、製造工程および設備が複雑化することがない。
【0022】
(10)前記非水電解質は、ビスフルオロスルホニルアミドイオン(FSA
−)を含み、前記集電体は、アルミニウムおよびアルミニウム合金よりなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。キャパシタの容量を増大することができるためである。
【0023】
[発明の実施形態の詳細]
本発明の一実施形態を具体的に以下に説明する。なお、本発明は、以下の内容に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0024】
本実施形態は、正極の前駆体である電極を形成した後、非水電解質中で、電極を所定の電位で20時間以上保持する処理(以下、高電圧処理と称す)を含む。所定の電位とは、リチウムの酸化還元電位に対して3.8V以上である。高電圧処理を経て製造される正極を用いたキャパシタは、高いクーロン効率を有する。また、充放電サイクルを繰り返しても、クーロン効率は高く維持される。この理由は明確ではないが、正極前駆体内部の水分が除去されることにより、充放電の際の副反応が生じ難いためであると考えられる。なお、キャパシタの種類は特に限定されず、アルカリ金属イオンキャパシタであっても良いし、EDLCであっても良い。
【0025】
さらに、FSA
−を含む非水電解質、および、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金を含む集電体(以下、Al集電体と称する場合がある)を用いて上記処理を行う(以下、FSA処理と称する)ことにより、得られる正極、すなわち、キャパシタの容量は増加する。
【0026】
キャパシタにおいて、正極活物質である炭素材料は、アニオンとの電子の授受を行わず、物理的に電解質のアニオン(電解質アニオン)を吸着し、脱離する(非ファラデー反応)。そのため、正極を高容量化するためには、炭素材料に電解質アニオンの吸着および脱離に適した細孔を形成することが必要であると考えられている。
【0027】
しかし、炭素材料の細孔径を最適化するだけでは、キャパシタとしての容量を十分に大きくすることはできない。キャパシタの充放電により、炭素材料(正極活物質)の表面には、SEI(Solid Electrolyte Interface)と言われる被膜が形成される。電解質アニオンは、この被膜に吸着し、脱離する。そのため、被膜が、電解質アニオンの吸着性に優れていることが、キャパシタの容量を大きくする上でのポイントの一つであると考えられる。
【0028】
FSA
-を含む非水電解質と、Al集電体とを用いてFSA処理を行うことにより、電極の表面には、FSA
-由来の元素とAl集電体由来のアルミニウムとを含む被膜が形成される。この電極を正極として用いることにより、キャパシタが高容量化される。
【0029】
[電極]
電極は、集電体および集電体に保持された活物質を含み、活物質は、炭素材料を含んでいる。電極は、本実施形態の方法により、アルカリ金属イオンキャパシタまたはEDLC(以下、併せて単にキャパシタと称する場合がある)用の正極となる。
【0030】
炭素材料は、黒鉛、カーボンナノチューブなどであっても良いし、無定形炭素であっても良い。黒鉛や無定形炭素は、例えば、以下に示す原料を炭化することにより得られる。無定形炭素とは、結晶状態を示さない炭素材料の総称であり、微視的には微小な黒鉛結晶の乱雑な集合体である。なかでも、後述するFSA処理を行うことにより、キャパシタの高容量化を実現し易い点で、炭素材料は無定形炭素であることが好ましい。無定形炭素としては、具体的に、カーボンブラック、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボンなどが例示できる。
【0031】
炭素材料の原料は、特に限定されない。例えば、木材、木粉、おが屑、ヤシ殻、パルプ廃液などの植物系原料、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油ピッチ、コークス、コールタールなどの化石燃料、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの合成樹脂、ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレンなどの合成ゴム、その他、合成木材、合成パルプ等が挙げられる。なかでも、後述する高電圧処理を行うことにより、キャパシタの高クーロン効率化、クーロン効率の安定化、さらには高容量化を実現し易い点で、木材、木粉、おが屑、ヤシ殻、パルプ廃液などの植物系原料が好ましい。
【0032】
上記原料を炭化する方法は特に限定されず、例えば、上記原料を、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、一酸化炭素、燃焼排ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、400〜700℃で30分〜10時間程度焼成する方法が挙げられる。
【0033】
炭化された炭素材料(炭化物)は、薬品賦活やガス賦活等の賦活処理が施されても良い。薬品賦活法は、上記原料に塩化亜鉛を添加し、不活性ガス雰囲気下で、650〜850℃、2時間〜4時間程度焼成する方法である。この場合、原料の炭化と賦活とが同時に進行する。ガス賦活法は、水蒸気、二酸化炭素、酸素などの賦活ガスを供給しながら、上記炭化物を3〜12時間、800〜1,000℃で焼成する方法である。上記のような賦活処理により細孔が形成された炭素材料が、活性炭である。キャパシタがさらに高容量化され易い点で、炭素材料は、細孔が形成された活性炭であることが好ましい。
【0034】
炭素材料の最頻度孔径は特に限定されない。特に、正極前駆体にFSA処理を行う場合、炭素材料の最頻度孔径は、0.1〜10nmであることが好ましい。電極に電圧が印加されることにより、FSA
-は、炭素材料の細孔に吸着される。このとき、炭素材料の最頻度孔径が0.1〜10nmであると、FSA
-は細孔に吸着し易い。さらに、所定の電位が長時間にわたり保持されることにより、細孔に吸着したFSA
-は、細孔を押し広げながらその内部に侵入することができる。そのため、FSA
-のイオン径を反映した細孔が、その内部深くにまで形成されることになる。また、炭素材料の平均細孔径も特に限定されないが、例えば、0.1〜10nmである。
【0035】
一般的にキャパシタに使用される電解質アニオンのイオン径は0.5〜0.8nm程度であり、リチウムイオン等のカチオンのイオン半径は0.4nm程度以下である。また、FSA
-のイオン半径は、おおよそ0.7nmである。炭素材料にFSA
-のイオン径を反映した細孔が形成されることにより、一般的に電解質アニオンやカチオンの吸着および脱離がスムーズに行われ易くなる。なお、FSA処理された炭素材料の最頻度孔径は、例えば、0.2〜20nmである。FSA処理された炭素材料の最頻度孔径が、大き過ぎると、細孔容積が大きくなり過ぎて、かえって静電容量は減少する。また、FSA処理された炭素材料の平均細孔径は、例えば、0.2〜20nmである。
【0036】
最頻度孔径とは、細孔径分布のうち、最も存在比率の高い細孔径である。細孔径分布の測定は、細孔分布測定装置(例えば、日本ベル株式会社製、BELSORP−mini等)を使用し、窒素吸着によるBET多点法により行うことができる。また、炭素材料の細孔径分布において、全細孔容積の80%以上が、細孔径1〜1000Åの範囲に分布していることが好ましく、細孔径2〜100Åの範囲に分布していることがより好ましい。
【0037】
最頻度孔径を測定する具体的な方法は、以下のとおり例示できる。すなわち、高電圧処理された電極を取り出し、この電極から活性炭を含む合剤を削り取る。削り取られた合剤を細孔分布測定装置にセットして測定する。この場合、合剤の最頻度孔径を、炭素材料の最頻度孔径とみなすことができる。
【0038】
炭素材料の平均粒径(体積粒度分布の累積体積50%における粒径D50、以下同じ。)は、特に限定されないが、20μm以下であることが好ましく、3〜10μmであることがより好ましい。BET法により測定される比表面積も特に限定されないが、800〜3000m
2/g程度が好ましい。比表面積がこのような範囲である場合、キャパシタの容量を大きくする上で有利であるとともに、内部抵抗を小さくすることができる。
【0039】
集電体の材質は特に限定されず、Alやステンレス鋼等を例示することができる。正極前駆体にFSA処理を行う場合、Al集電体を用いることが好ましい。集電体に含まれるAlは、電解質アニオンと反応し、その表面に不動態被膜を形成することが知られている。しかし、FSA処理を行うと、集電体に含まれるAlが電解質中に溶出し、その後、活物質の表面を覆う被膜中に引き込まれる。この場合、容量向上の観点から、集電体に含まれるAl以外の金属成分(例えばFe、Si、Ni、Mnなど)は0.5質量%以下であることが好ましい。
【0040】
集電体の形状としては、エキスパンドメタル、スクリーンパンチ、パンチングメタルおよびラス板などの二次元構造体である有孔の金属箔、金属繊維製の不織布、金属多孔体シートなど、多孔質な材料が用いられる。有孔の金属箔の厚さは、例えば10〜50μmであり、金属繊維の不織布や金属多孔体シートの厚さは、例えば100〜1200μmである。なかでも、活物質の充填性や保持性、集電性の点で、集電体は、三次元網目状で中空の骨格を有する金属多孔体であることが好ましい。なお、市販されているアルミニウム多孔体としては、住友電気工業株式会社製の「アルミセルメット」(登録商標)を用いることができる。
【0041】
アルミニウム多孔体は、例えば、連続空隙を有する樹脂製の多孔体を、アルミニウムで被覆した後、樹脂を除去することにより形成できる。アルミニウムによる被覆は、例えば、メッキ処理、気相法(蒸着、プラズマ化学気相蒸着、スパッタリングなど)、金属ペーストの塗布などにより行うことができる。アルミニウムによる被覆処理により、三次元網目状の骨格が形成される。これらの被覆方法のうち、メッキ処理が好ましい。
【0042】
アルミニウム多孔体は、連通孔を有することが好ましく、気孔率は30%以上98%以下、更には90〜98%であることが好ましい。気孔率がこの範囲であると、非水電解質中のイオンの移動がよりスムーズになる。気孔率とは、{1−(多孔体の質量/多孔体の真比重)/(多孔体の見かけ体積)}を百分率(%)に換算して得られる数値である。また、集電体には、集電用のリード片を形成してもよい。リード片は、集電体と一体に形成してもよく、別途形成したリード片を溶接などで集電体に接続してもよい。
【0043】
正極の前駆体である電極は、例えば、集電体に、活物質を含む合剤スラリーを塗布または充填し、その後、合剤スラリーに含まれる分散媒を除去し、さらに必要に応じて、活物質を保持した集電体を圧縮(または圧延)することにより得られる。合剤スラリーは、活物質の他に、結着剤、導電助剤などを含んでもよい。
【0044】
合剤スラリーに含ませる導電助剤としては、正極活物質に含まれる炭素材料以外の炭素材料(例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維など)が挙げられる。なかでも、正極活物質に含まれる炭素材料として活性炭を使用する場合、少量使用で十分な導電経路を形成しやすいことから、導電助剤としてカーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック等を挙げることができる。導電助剤の量は、活物質100質量部あたり、2〜15質量部が好ましく、3〜8質量部がより好ましい。
【0045】
結着剤は、活物質同士を結合させるとともに、活物質を集電体に固定する役割を果たす。結着剤としては、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を用いることができる。結着剤の量は、活物質100質量部あたり、1〜10質量部が好ましく、3〜5質量部がより好ましい。
【0046】
[非水電解質]
非水電解質は、特に限定されない。例えば、通常、キャパシタに用いられる公知の非水電解質を使用することができる。非水電解質としては、例えば、非水溶媒(または有機溶媒)にイオン性物質(アルカリ金属塩や有機塩)を溶解させた電解質(有機電解質)、イオン液体などが挙げられる。
【0047】
なお、本明細書中、「イオン液体」とは、溶融状態の塩(溶融塩)であり、アニオンとカチオンとで構成されるイオン性物質である。非水電解質にイオン液体を用いる場合、非水電解質中のイオン液体の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。さらに、非水電解質は、イオン液体に加え、非水溶媒や添加剤などを含むことができる。一方、非水電解質に有機電解質を用いる場合、非水電解質中における非水溶媒の量は、非水電解質の60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。さらに、非水電解質は、有機電解質に加え、イオン液体や添加剤などを含むことができる。
【0048】
非水溶媒は、特に限定されないが、イオン伝導度の観点から、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトンなどの環状炭酸エステルなどを好ましく用いることができる。非水溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
イオン性物質のアニオンとしては、フッ素含有ビス(スルホニル)アミドアニオンや、フッ素含有酸のアニオン[ヘキサフルオロリン酸イオン(PF
6-)などのフッ素含有リン酸のアニオン、テトラフルオロホウ酸イオン(BF
4-)などのフッ素含有ホウ酸のアニオン]、塩素含有酸のアニオン[過塩素酸イオン(ClO
4-)など]、オキサレート基を有する酸素酸のアニオン[トリス(オキサラト)ホスフェートイオン(P(C
2O
4)
3-)などのオキサラトホスフェートイオンなど]、フルオロアルカンスルホン酸のアニオン[トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF
3SO
3-)など]などが挙げられる。
【0050】
フッ素含有ビス(スルホニル)アミドアニオンとしては、例えば、FSA
-、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオン(TFSA
-:bis(trifluoromethylsulfonyl)amide anion)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)アミドアニオン、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオンなどのビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン(PFSA
-:bis(perfluoroalkylsulfonyl)amide anion)などが例示できる。なお、フッ素含有ビス(スルホニル)アミドアニオンは、一般式[(R
1SO
2)(R
2SO
2)]N
-(R
1およびR
2は、それぞれ独立に、FまたはC
nF
2n+1であり、1≦n≦5である)で表わされる。アニオンは、これらを単独で、あるいは、2種以上組み合わせて含まれていても良い。
【0051】
イオン性物質のカチオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンなどのアルカリ金属イオンであっても良いし、その他の無機カチオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオンなど)であっても良いし、有機カチオンであっても良い。高電圧処理に用いた非水電解質をそのまま最終製品のアルカリ金属イオンキャパシタに用いる場合、アルカリ金属イオンは、リチウムイオンであることが、充放電特性に優れたキャパシタを得ることができる点で好ましい。
【0052】
有機カチオンとしては、窒素含有カチオン;硫黄含有カチオン;リン含有カチオンなどが例示できる。窒素含有カチオンとしては、脂肪族アミン、脂環族アミンや芳香族アミンに由来するカチオン(例えば、第4級アンモニウムカチオンなど)の他、窒素含有へテロ環を有する有機カチオン(つまり、環状アミンに由来するカチオン)などが例示できる。カチオンは、これらを単独で、あるいは2種以上組み合わせて含まれていても良い。
【0053】
高電圧処理に用いた非水電解質(以下、高電圧処理用非水電解質と称す場合がある)をそのまま、最終製品であるキャパシタに含ませても良いし、非水電解質を入れ替えて、最終製品であるキャパシタには、これとは異なる非水電解質(以下、セル用非水電解質と称す場合がある)を使用しても良い。また、セル用非水電解質および高電圧処理用非水電解質の組成は、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0054】
FSA処理に用いられるFSA処理用非水電解質は、FSA
-を含む。FSA処理用非水電解質としては、非水溶媒(または有機溶媒)に、上記カチオンとFSA
-との塩を溶解させた電解質(有機電解質)、FSA
-を含むイオン液体などが挙げられる。FSA処理用非水電解質の非水溶媒、カチオン、イオン液体としては、上記と同じものが例示できる。
【0055】
FSA
-は、容量向上の観点から、FSA処理用非水電解質に0.5〜5mol/Lの濃度で含まれることが好ましく、0.8〜2mol/Lの濃度で含まれることがより好ましい。FSA処理用非水電解質は、FSA
-以外の上記アニオンを含んでいても良い。
【0056】
[高電圧処理]
高電圧処理は、上記電極および非水電解質を用いて、電極をリチウムの酸化還元電位に対して3.8V以上の所定の電位にして、20時間以上保持することにより行われる。
【0057】
所定の電位は、クーロン効率向上、さらには、容量向上の観点から、リチウムの酸化還元電位に対して3.9V以上であることが好ましく、4.0V以上であることがより好ましく、4.1V以上であることが特に好ましい。内部抵抗の観点から、所定の電位は、4.5V以下であることが好ましく、4.4V以下であることがより好ましい。
【0058】
特に、アルカリ金属イオンキャパシタ用の正極を製造する場合、所定の電位は、アルカリ金属イオンキャパシタを使用するときの正極の電位(vs.Li/Li
+、例えば3.8V)よりも高いことが好ましい。また、所定の電位は、4.3V以下であることが好ましく、4.2V以下であることがより好ましい。
【0059】
EDLC用の正極を製造する場合、所定の電位は、EDLCを使用するときの正極の電位(vs.Li/Li
+、例えば、4.0V)よりも高いことが好ましい。特に、所定の電位は、リチウムの酸化還元電位に対して4.1V以上であることが好ましく、4.2V以上であることがより好ましく、4.3V以上であることが特に好ましい。
【0060】
所定の電位を保持する時間(保持時間)は20時間以上である。これにより、クーロン効率の向上、さらには、容量の増大効果が得られる。保持時間は、40時間以上であることが好ましく、80時間以上であることがより好ましい。また、内部抵抗を抑制する観点から、保持時間は、1000時間以下であることが好ましく、200時間以下であることがより好ましく、150時間以下であることが特に好ましい。
【0061】
FSA
-を含む非水電解質およびAl集電体を用いて高電圧処理(FSA処理)を行うと、炭素材料の表面には、FSA
-およびAl集電体に由来する元素、すなわち、窒素(N)、硫黄(S)およびアルミニウム(Al)を含む被膜が形成される。この被膜が形成された電極を正極としてキャパシタに含ませることにより、キャパシタの容量が増大する。
【0062】
電極に電圧をかけるには、電極に対する対極が必要である。用いられる対極は特に限定されず、例えば、後述するように、キャパシタに組み込まれる負極と同じ構成を有していても良いし、リチウム等の金属板であっても良い。
【0063】
高電圧処理は、キャパシタを組み上げた後に行われても良い。すなわち、炭素材料を含む正極活物質およびこれを保持する正極集電体を有する正極、負極、ならびに、正極と負極との間に介在するセパレータ、を具備する電極群を準備する工程と、電極群を、非水電解質に含浸する工程と、正極の電位を、リチウムの酸化還元電位に対して3.8V以上の所定の電位にして、非水電解質中で20時間以上保持する工程とを行うことにより、正極に対して高電圧処理が行われる。
【0064】
例えば、正極活物質に活性炭、負極活物質に黒鉛を用いたリチウムイオンキャパシタの場合、通常の使用時のセル電圧は、最高でも3.7V程度である。つまり、このようなリチウムイオンキャパシタの場合、セル電圧を3.8V以上にして、20時間以上、連続して保持する。通常、セル電圧を3.7Vを超える電圧(例えば、3.8V以上)にして長時間保持する場合、内部抵抗が増大するといわれている。しかし、本実施形態によれば、高電圧処理後であっても内部抵抗は大きく増加しない。
【0065】
高電圧処理におけるアルカリ金属イオンキャパシタのセル電圧は、内部抵抗の観点から、4.2V以下であることが好ましく、4.0V以下であることがより好ましい。高電圧処理におけるEDLCのセル電圧は、内部抵抗の観点から、2.5V以下であることが好ましく、2.1V以下であることがより好ましい。
【0066】
高電圧処理に供されたキャパシタは、そのまま最終製品であるキャパシタとして出荷等されても良いし、非水電解質を入れ替えて、最終製品であるキャパシタを完成させても良い。後者の場合、非水電解質の組成は、入れ替えの前後で同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0067】
[キャパシタ]
次に、本実施形態のキャパシタについて詳述する。
キャパシタは、上記高電圧処理が施された電極を正極として含んでいる。すなわち、キャパシタは、上記電極(正極)、負極活物質および負極活物質を保持する負極集電体を有する負極、ならびに、正極と負極との間に介在するセパレータと、を具備する電極群と、非水電解質と、電極群および非水電解質を収容するセルケースと、を含む。
【0068】
あるいは、キャパシタは、表面にN、SおよびAlを含む被膜を備える正極、負極活物質および負極活物質を保持する負極集電体を有する負極、ならびに、正極と負極との間に介在するセパレータと、を具備する電極群と、非水電解質と、電極群および非水電解質を収容するセルケースと、を含む。このようなキャパシタは、例えば、上記FSA処理が施された正極を用いて得ることができる。
【0069】
上記のとおり、キャパシタは、高電圧処理に供されたキャパシタそのものであっても良いし、あるいは、高電圧処理に供されたキャパシタを分解し、構成部材のうちの少なくとも正極を使用して、新たな構成部材(負極、セパレータ、非水電解質およびセルケースのうちの少なくとも一つ)とともに、最終製品となるキャパシタを組んでも良い。この場合、高電圧処理に供されたキャパシタまたは最終製品となるキャパシタを構成する負極、セパレータ、非水電解質およびセルケース等の構成あるいは組成は、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0070】
[負極]
負極は、負極活物質および負極集電体を含む。その他、任意成分として導電助剤、結着剤等を含んでもよい。
【0071】
EDLCにおいて、負極活物質は、カチオンとの電子の授受を行わず、物理的にカチオンを吸着し、脱離する(非ファラデー反応)。そのため、負極活物質としては、電気化学的にカチオンを吸着および脱離する材料であれば、特に限定されない。なかでも、炭素材料であることが好ましい。炭素材料としては、上記と同じものが例示できる。炭素材料は、賦活処理されたものであってもよく、賦活処理されていなくてもよい。これらの炭素材料は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0072】
アルカリ金属イオンキャパシタにおいて、負極活物質は、カチオンとの間で電子の授受を行う(ファラデー反応)。そのため、負極活物質は、アルカリ金属イオンを吸蔵および放出(もしくは、挿入および脱離)する材料を含む。このような材料としては、例えば、上記炭素材料、リチウムチタン酸化物(チタン酸リチウムなどのスピネル型リチウムチタン酸化物など)、合金系活物質、ナトリウム含有チタン化合物(チタン酸ナトリウムなどのスピネル型ナトリウムチタン酸化物など)などが挙げられる。合金系活物質とは、アルカリ金属と合金化する元素を含む活物質である。例えば、ケイ素酸化物、ケイ素合金、錫酸化物および錫合金などが挙げられる。負極活物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
負極活物質としては、炭素材料が好ましく、特に、黒鉛および/またはハードカーボンが好ましい。黒鉛としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛、黒鉛化メソカーボン小球体などが例示できる。黒鉛は、炭素の平面形6員環が二次元的に連なった層状であり、六方晶系の結晶構造を有している。カチオンは、黒鉛の層間を容易に移動することができ、黒鉛内に可逆的に挿入および脱離する。
【0074】
ハードカーボンとは、不活性雰囲気中で加熱しても黒鉛構造が発達しない炭素材料であり、微小な黒鉛の結晶がランダムな方向に配置され、結晶層と結晶層との間にナノオーダーの空隙を有する材料をいう。ハードカーボンの平均粒径は、例えば3〜20μmであればよく、5〜15μmであることが、負極における負極活物質の充填性を高め、かつ電解質との副反応を抑制する観点から望ましい。
【0075】
負極集電体としては、エキスパンドメタル、スクリーンパンチ、パンチングメタルおよびラス板などの二次元構造体である有孔の金属箔、金属繊維製の不織布、金属多孔体シートなど、多孔質な材料が用いられる。有孔の金属箔の厚さは、例えば10〜50μmであり、金属繊維の不織布や金属多孔体シートの厚さは、例えば100〜1200μmである。なかでも、負極活物質の充填性や保持性、集電性の点で、負極集電体は、三次元網目状で中空の骨格を有する金属多孔体であることが好ましい。金属多孔体の気孔率は、気孔率は30%以上98%以下、更には90〜98%であることが好ましい。気孔率がこの範囲であると、カチオンの移動がよりスムーズになる。
【0076】
負極集電体の材料である金属は特に限定されない。アルカリ金属イオンキャパシタに用いる場合、負極集電体は、アルカリ金属と合金化しない金属を使用する。具体的には、アルカリ金属がリチウムである場合には、銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金等、ナトリウムである場合には、アルミニウムまたはアルミニウム合金等を挙げることができる。銅合金は50質量%未満の銅以外の元素を含み、ニッケル合金は50質量%未満のニッケル以外の元素を含むことが好ましい。なお、市販されている金属多孔体としては、銅多孔体(銅または銅合金を含む多孔体)やニッケル多孔体(ニッケルまたはニッケル合金を含む多孔体)である住友電気工業株式会社製の銅またはニッケルの「セルメット」(登録商標)を用いることができる。
【0077】
負極は、例えば、負極集電体に、負極活物質を含む負極合剤スラリーを塗布または充填し、その後、負極合剤スラリーに含まれる分散媒を除去し、さらに必要に応じて、負極活物質を保持した集電体を圧縮(または圧延)することにより得られる。負極合剤スラリーは、負極活物質の他に、結着剤、導電助剤などを含んでもよい。結着剤や導電助剤としては、電極の合剤として例示したものから適宜選択できる。また、負極としては、負極集電体の表面に、蒸着、スパッタリングなどの気相法で負極活物質の堆積膜を形成することにより得られるものを用いてもよい。
【0078】
負極をアルカリ金属イオンキャパシタに用いる場合、負極活物質には、負極電位を低下させるために、予めアルカリ金属をドープしておくことが好ましい。これにより、キャパシタの電圧が高くなり、高容量化にさらに有利となる。なお、アルカリ金属の析出を抑制するため、負極容量を正極容量よりも大きくすることが望ましい。
【0079】
アルカリ金属の負極へのドープは、公知の方法により行うことができる。アルカリ金属のドープは、高電圧処理用キャパシタの組み立て時(高電圧処理の前)に行ってもよいし、高電圧処理の後に行っても良い。すなわち、高電圧処理は、プレドープされていない負極を用いて行っても良いし、プレドープされた負極を用いて行っても良い。プレドープは、例えば、アルカリ金属供給源を、正極、負極および非水電解質(高電圧処理用またはセル用)とともにケース内に収容し、キャパシタを60℃前後の恒温室中で保温することにより行われる。これにより、アルカリ金属供給源からアルカリ金属イオンが非水電解質中に溶出し、負極にドープされる。
【0080】
なお、プレドープとは、アルカリ金属イオンキャパシタを動作させる前に、アルカリ金属を負極および/または正極中に予め吸蔵させておくことをいう。アルカリ金属は、正極および負極のどちらにプレドープしてもよいが、負極活物質が予めアルカリ金属を含まない材料である場合には、少なくとも負極にプレドープすることが望ましい。負極にアルカリ金属をプレドープすることで、負極電位が低下する。
【0081】
[セパレータ]
セパレータは、イオン透過性を有し、正極と負極との間に介在して、これらを物理的に離間させて短絡を防止する。セパレータは、多孔質材構造を有し、細孔内に非水電解質を保持することで、イオンを透過させる。
【0082】
セパレータの材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンレテフタレートなどのポリエステル;ポリアミド;ポリイミド;セルロース;ガラス繊維などを用いることができる。セパレータの平均孔径は特に制限されず、例えば、0.01〜5μm程度である。セパレータの気孔率は20〜85%であることが好ましい。気孔率がこの範囲であると、カチオンの移動がよりスムーズに行われる。セパレータの厚さは、10μm〜500μm、更には20〜50μmであることが好ましい。厚さがこの範囲であれば、内部短絡を有効に防止できる。
【0083】
[セル用非水電解質]
セル用非水電解質は、特に限定されない。セル用非水電解質としては、例えば、上記と同様に、非水溶媒(または有機溶媒)にイオン性物質(アルカリ金属塩や有機塩)を溶解させた電解質(有機電解質)、イオン液体などが挙げられる。最終製品であるキャパシタに含まれるセル用非水電解質は、FSA
-を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。セル用非水電解質の非水溶媒、カチオン、アニオン、イオン液体としては、高電圧処理用と同じものが例示できる。
【0084】
アルカリ金属イオンキャパシタのセル用非水電解質は、アルカリ金属イオン伝導性を有する。この場合、セル用非水電解質におけるアルカリ金属塩の濃度は、例えば0.3〜3mol/リットルであればよい。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属イオンおよびアニオンの種類は特に限定されず、上記と同様のものが例示できる。
【0085】
[正極]
キャパシタには、高電圧処理が施された正極が用いられる。これにより、キャパシタのクーロン効率が向上する。さらには、充放電サイクルを繰り返しても、クーロン効率は高く維持される。
あるいは、キャパシタには、表面にS、N、Alを含む被膜が形成された正極活物質を含む正極が用いられる。これにより、クーロン効率の向上および安定化に加えて、キャパシタの容量が増大する。このような正極は、例えば、FSA処理により得られる。この場合、被膜に含まれるSおよびNはFSA
-由来の元素であり、Alは集電体由来の元素である。容量が増大する明確な理由は定かではないが、FSA処理により、炭素材料に電解質アニオンの吸着および脱離に適した細孔が形成されるとともに、正極活物質の表面に形成されるS、N、Alを含む被膜が、電解質アニオンを効率よく吸着するためであると考えられる。
【0086】
被膜1gあたりに含まれるAlは、容量向上の観点から、0.1〜100mgであることが好ましく、1〜50mgであることがより好ましく、20〜50mgであることが特に好ましい。また、被膜1gあたりに含まれるSまたはNは、容量向上の観点から、それぞれ1〜300mgであることが好ましく、それぞれ10〜200mgであることがより好ましく、それぞれ50〜200mgであることが特に好ましい。
【0087】
被膜がS、NおよびAlを含むことは、例えば、X線光電子分光法(XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)またはESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも言われる)を用いて確認することができる。X線光電子分光法は、試料にX線を照射することにより放出される光電子のエネルギー分布を測定し、この数値を照射X線のエネルギーから引いて、電子の束縛エネルギーを算出する。電子の束縛エネルギーは、元素およびその電子状態等に固有な値であるため、この値から、試料中の元素の同定が可能となる。また、光電子のエネルギーの放出効率(感度因子)は元素ごとに計算が可能である。そのため、X線光電子分光法によれば、試料に含まれる元素を定量することも可能である。なお、外部の影響をできるだけ排除するため、X線光電子分光分析は、イオンエッチングを併用して、例えば、正極の表面付近の正極活物質を覆う被膜の厚みの中央部分、あるいは、正極の内部に位置する正極活物質を覆う被膜に対して行うことが好ましい。また、X線光電子分光分析に先立って、高電圧処理に供された正極を精製水等で洗浄することが好ましい。
【0088】
被膜の平均厚みは、内部抵抗の観点から、0.1〜100nmであることが好ましく、0.1〜10nmであることがより好ましい。被膜の平均厚みは、例えば、正極の断面を電子顕微鏡にて観察し、任意の複数箇所(例えば、5箇所)の正極の表面付近にある正極活物質を覆う被膜の厚みと、任意の複数箇所(例えば、5箇所)の正極の中心付近に位置する正極活物質を覆う被膜の厚みを測定して、平均化することにより算出することができる。
【0089】
また、正極に含まれる炭素材料には、最頻度孔径0.2〜20nmの細孔が形成されていることが好ましく、0.2〜10nmの細孔が形成されていることがより好ましく、0.2〜1nmの細孔が形成されていることが特に好ましい。炭素材料の最頻度孔径がこの範囲であれば、電解質アニオンの吸着および脱離がスムーズに行われ易く、キャパシタの容量がさらに増大する。
【0090】
図1に、本発明の一実施形態であるキャパシタのセルの構成を、概略的に示す。
キャパシタ100は、セパレータ1、正極2および負極3を含む積層型の電極群、非水電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型のアルミニウム製のセルケース10を具備する。セルケース10は、上部が開口した有底の容器本体11と、上部開口を塞ぐ蓋部12とで構成されている。電極群は、正極と負極とを、これらの間にセパレータを介在させて捲回することにより形成されていてもよい。
【0091】
キャパシタ100を組み立てる際には、まず、電極群が構成され、セルケース10の容器本体11に挿入される。その後、容器本体11に非水電解質を注液し、電極群を構成するセパレータ1、正極2および負極3の空隙に非水電解質を含浸させる。あるいは、非水電解質に電極群を含浸させ、その後、非水電解質を含んだ状態の電極群を容器本体11に収容してもよい。
【0092】
蓋部12の一方側寄りには、蓋部12を貫通する外部正極端子(図示せず)が設けられ、蓋部12の他方側寄りの位置には、蓋部12を貫通する外部負極端子15が設けられている。各端子は、セルケースと絶縁することが好ましい。蓋部12の中央には、セルケース10の内圧が上昇したときに、内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。
【0093】
積層型の電極群は、いずれも矩形のシート状である複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。
図1では、セパレータ1は、正極2を包囲するように袋状に形成されているが、セパレータの形態は特に限定されない。複数の正極2と複数の負極3は、電極群内で積層方向に交互に配置される。
【0094】
各正極2の一端部には、正極リード片2cを形成してもよい。複数の正極2の正極リード片2cを束ねるとともに、セルケース10の蓋部12に設けられた外部正極端子に接続することにより、複数の正極2が並列に接続される。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3cを形成してもよい。複数の負極3の負極リード片3cを束ねるとともに、セルケース10の蓋部12に設けられた外部負極端子15に接続することにより、複数の負極3が並列に接続される。正極リード片2cの束と負極リード片3cの束は、互いの接触を避けるように、電極群の一端面の左右に、間隔を空けて配置することが望ましい。
【0095】
外部正極端子および外部負極端子15は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット13が嵌められ、ナット13を回転することにより蓋部12に対してナット13が固定される。各端子の電池セルケース内部に収容される部分には、鍔部14が設けられており、ナット13の回転により、鍔部14が、蓋部12の内面に、ワッシャ17を介して固定される。
【0096】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0097】
《実施例1》
下記の手順で高電圧処理用リチウムイオンキャパシタを作製した。
(1)電極(正極前駆体)の作製
(a)集電体の作製
熱硬化性ポリウレタンの発泡体(気孔率:95体積%、表面1インチ(=2.54cm)長さ当たりの空孔(セル)数:約50個、縦100mm×横30mm×厚み1.1mm)を準備した。
【0098】
発泡体を、黒鉛、カーボンブラック(平均粒径D50:0.5μm)、樹脂結着剤、浸透剤、および消泡剤を含む導電性懸濁液の中に浸漬した後、乾燥することにより、発泡体の表面に導電性層を形成した。なお、懸濁液中の黒鉛およびカーボンブラックの含有量は合計で25質量%であった。
【0099】
表面に導電性層を形成した発泡体を、溶融塩アルミニウムメッキ浴中に浸漬して、電流密度3.6A/dm
2の直流電流を90分間印加することにより、アルミニウム層を形成した。なお、発泡体の見掛け面積当たりのアルミニウム層の質量は、150g/m
2であった。溶融塩アルミニウムメッキ浴は、33mol%の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドおよび67mol%の塩化アルミニウムを含み、温度は、40℃であった。
【0100】
表面にアルミニウム層が形成された発泡体を、500℃の塩化リチウム−塩化カリウム共晶溶融塩中に浸漬し、−1Vの負電位を30分間印加することにより、発泡体を分解させた。得られたアルミニウム製の多孔体を、溶融塩から取り出して冷却し、水洗し、乾燥させることにより集電体を得た。得られた集電体は、発泡体の空孔形状を反映した、空孔が互いに連通した三次元網目状の多孔質構造を有し、気孔率は94体積%であり、平均空孔径は550μmであり、BET法による比表面積(BET比表面積)は、350cm
2/gであり、厚みは1100μmであった。また、三次元網目状のアルミニウム製の骨格は、発泡体の除去により形成された空洞を内部に有していた。
【0101】
(b)正極前駆体の作製
活物質として炭化および水蒸気賦活が施された活性炭粉末(原料:フェノール樹脂、比表面積2200m
2/g、平均粒径約3μm、最頻度孔径0.8nm)および導電助剤としてアセチレンブラック、結着剤としてPVDF、および分散媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、混合機にて混合、攪拌することにより、合剤スラリーを調製した。スラリー中の各成分の質量比は、活性炭:アセチレンブラック:PVDF=87:3:10であった。なお、PVDFとして、PVDFを濃度12質量%で含むNMP溶液を用いた。
【0102】
得られた合剤スラリーを、上記工程(a)で得られた集電体に充填し、減圧下、120℃で12時間乾燥した。乾燥物を、一対のロールを用いて圧延し、厚み450μmの正極前駆体を作製した。
【0103】
(2)負極の作製
(a)負極集電体の作製
正極前駆体と同様の手法により、表面に導電性層を形成した発泡体をワークとして、硫酸銅メッキ浴中に浸漬して、陰極電流密度2A/dm
2の直流電流を印加することにより、表面にCu層を形成した。なお、発泡体の見掛け面積当たりの銅層の質量は、300g/m
2であった。硫酸銅メッキ浴は、250g/Lの硫酸銅、50g/Lの硫酸、および30g/Lの塩化銅を含み、温度は、30℃であった。
【0104】
表面にCu層が形成された発泡体を、大気雰囲気下、700℃で熱処理することにより、発泡体を分解させ、次いで、水素雰囲気下で焼成することにより表面に形成された酸化被膜を除去することにより、銅製の多孔体(負極集電体)を得た。得られた負極集電体は、発泡体の空孔形状を反映した、空孔が互いに連通した三次元網目状の多孔構造を有し、気孔率は92体積%であり、平均空孔径は550μmであり、BET比表面積は200cm
2/gであり、厚みは1100μmであった。また、三次元網目状の銅製の骨格は、発泡体の除去により形成された空洞を内部に有していた。
【0105】
(b)負極の作製
負極活物質としての人造黒鉛粉末と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのPVDFと、分散媒としてのNMPとを混合することにより、負極合剤スラリーを調製した。黒鉛粉末と、アセチレンブラックと、PVDFとの質量比は、87:8:5であった。
得られた負極合剤スラリーを、上記工程(a)で得られた負極集電体に充填し、減圧下、80℃で12時間乾燥した。乾燥物を、一対のロールを用いて圧延し、厚み200μm、気孔率30%の負極を作製した。
【0106】
(3)セパレータの準備
厚さ50μmのポリオレフィン製のセパレータ(平均空孔径0.1μm、気孔率70%)を、サイズ25mm×25mmに裁断し、10枚の第一セパレータを準備した。
【0107】
(4)非水電解質の調整
ECとDMCとの体積比1:1の混合溶媒に、LiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解させて、非水電解質を調製した。
【0108】
(5)リチウム極(アルカリ金属供給源)の作製
パンチング銅箔(厚み:20μm、開口径:50μm、開口率:50%、20mm×20mm)の一方の表面に、リチウム箔(厚み:90μm、20mm×20mm)を圧着し、他方の表面に、ニッケル製のリードを溶接した。次いで、上記(3)のセパレータと同じセパレータで、周囲を包囲した。
【0109】
(6)リチウムイオンキャパシタの作製
上記(1)で得られた正極前駆体を、サイズ15×15mmの矩形に裁断し、5枚の正極前駆体を準備した。ただし、正極前駆体の一辺の一方側端部には、集電用のリード片を形成した。また、上記(2)で得られた負極を、サイズ15×15mmの矩形に裁断し、6枚の負極を準備した。ただし、負極の一辺の一方側端部には、集電用のリード片を形成した。
【0110】
次いで、正極前駆体、負極およびセパレータを、0.3Paの減圧下で、90℃以上で加熱して十分に乾燥させた。その後、正極前駆体と負極との間に、セパレータを介在させて、正極前駆体のリード片同士および負極のリード片同士が重なり、かつ正極前駆体のリード片の束と負極のリード片の束とが左右対象な位置に配置されるように積層した。さらに、負極のリード片にリチウム極のリード片を接続した。正極前駆体のリード片の束および負極のリード片の束を、各々一つにまとめてタブリードに溶接し、電極群を作製した。作製されたリチウム極を含む電極群をアルミニウム製のラミネートシートで作製したセルケースに収容した。
【0111】
非水電解質をセルケース内に注入して、正極前駆体、負極およびセパレータに含浸させた後、真空シーラーにて減圧しながらセルケースを封止した。外部端子を除いたセルケースのサイズは、50mm×60mm×5mmであった。作製されたセルを45℃の恒温槽内で所定時間静置して、プレドープを完了した。
【0112】
続いて、以下の条件により、高電圧処理を行った。すなわち、セルを30℃の温度にて、充電レート2Cでセル電圧が3.8V(正極前駆体の電位4.0V(vs.Li/Li
+))になるまで充電し、このセル電圧を80時間保持した。
【0113】
このようにして、高電圧処理された正極を含むリチウムイオンキャパシタaを作製した。リチウムイオンキャパシタaを、そのままリチウムイオンキャパシタAとして、下記の評価を行った。結果を
図2に示す。なお、リチウムイオンキャパシタAの設計容量は約3mWhであった。
【0114】
[評価方法(クーロン効率)]
リチウムイオンキャパシタAを30℃の温度にて、充電レート1Cでセル電圧が3.8Vになるまで充電し、放電レート1Cでセル電圧が2.0Vになるまで放電した。この充放電を1サイクルとして1000サイクルの充放電を行い、各サイクルの放電容量および充電容量に対する放電容量の割合(クーロン効率)を求めた。
【0115】
[実施例2]
高電圧処理の時間を100時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタBを得た。評価結果を
図2に示す。
【0116】
[実施例3]
高電圧処理の時間を120時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタCを得た。評価結果を
図2に示す。
【0117】
高電圧処理を80時間行った実施例1の平均クーロン効率は99.89%、同じく100時間行った実施例2の平均クーロン効率は99.94%、同じく120時間行った実施例3の平均クーロン効率は99.92%であり、いずれも非常に高い値を示した。さらに、いずれのキャパシタにおいても、1000サイクルの間、常に99.5%以上の安定したクーロン効率を示した。
【0118】
[比較例1]
高電圧処理を行わなかったこと以外、実施例1と同様にして、リチウムイオンキャパシタX1を作製し、評価した。結果を
図3に示す。平均クーロン効率は99.5%であった。また、1000サイクルの間、クーロン効率は98.5%から100%の間の数値を示し、安定していなかった。
【0119】
[実施例4]
ECとDECとの体積比1:1の混合溶媒に、Li・FSAを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解質を使用し、FSA処理を500時間行ったこと以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオンキャパシタDを得た。得られたリチウムイオンキャパシタDについて、下記の評価を行った。結果を
図4に示す。
【0120】
得られたリチウムイオンキャパシタDを分解し、正極を取り出した。X線光電子分光法により、正極の表面に形成された被膜の平均厚みが1nmであり、被膜1gあたりAlが1mg、Sが20mg、Nが10mg含まれていることを確認した。また、細孔分布測定装置(BELSORP−mini)により、正極に含まれる活性炭の最頻度孔径が8Åであり、全細孔容積の80%以上が、細孔径6〜100Åの範囲に分布していることを確認した。
【0121】
[評価方法(容量増加率)]
高電圧処理時間0時間、100時間、250時間、500時間における放電容量を測定し、高電圧処理時間0時間における放電容量に対する、各処理時間における放電容量の割合(容量増加率)を求めた。なお、放電容量は、30℃の温度にて、充電レート20Cでセル電圧が3.8Vになるまで充電し、放電レート20Cでセル電圧が2.0Vになるまで放電する充放電サイクルを1サイクル行い、測定した。
【0122】
[実施例5]
FSA処理を3.9Vのセル電圧で行ったこと以外、実施例4と同様にして、リチウムイオンキャパシタEを作製し、評価した。結果を
図4に示す。また、実施例4と同様にX線光電子分光分析を行い、正極の表面に形成された被膜の平均厚みが1.1nmであり、被膜1gあたりAlが1mg、Sが20mg、Nが10mg含まれていることを確認した。さらに、細孔分布測定装置(BELSORP−mini)により、正極に含まれる活性炭の最頻度孔径が8.3Åであり、全細孔容積の80%以上が、細孔径6〜100Åの範囲に分布していることを確認した。
【0123】
[実施例6]
FSA処理を4.0Vのセル電圧で行ったこと以外、実施例4と同様にして、リチウムイオンキャパシタFを作製し、評価した。結果を
図4に示す。また、実施例1と同様にX線光電子分光分析を行い、正極の表面に形成された被膜の平均厚みが1.2nmであり、被膜1gあたりAlが1mg、Sが20mg、Nが10mg含まれていることを確認した。さらに、細孔分布測定装置(BELSORP−mini)により、正極に含まれる活性炭の最頻度孔径が8.5Åであり、全細孔容積の80%以上が、細孔径6〜100Åの範囲に分布していることを確認した。
【0124】
[実施例7]
FSA処理を4.1Vのセル電圧で行ったこと以外、実施例4と同様にして、リチウムイオンキャパシタGを作製し、評価した。結果を
図4に示す。また、実施例4と同様にX線光電子分光分析を行い、正極の表面に形成された被膜の平均厚みが1.3nmであり、被膜1gあたりAlが1mg、Sが20mg、Nが10mg含まれていることを確認したさらに、細孔分布測定装置(BELSORP−mini)により、正極に含まれる活性炭の最頻度孔径が8.7Åであり、全細孔容積の80%以上が、細孔径6〜100Åの範囲に分布していることを確認した。
【0125】
[比較例2]
FSA処理を3.7Vのセル電圧で行ったこと以外、実施例4と同様にして、リチウムイオンキャパシタYを作製し、評価した。結果を
図4に示す。実施例4と同様にX線光電子分光分析を行ったところ、正極の表面に形成された被膜の平均厚みは1nmであり、被膜にはAlの存在が確認されなかった。また、細孔分布測定装置(BELSORP−mini)により、正極に含まれる活性炭の最頻度孔径が8Åであることを確認した。