【解決手段】シートバックフレーム1が、サイドフレーム15同士を連結する連結ワイヤ21を備え、連結ワイヤ21の中央部分が車両用シートSの前方に向かって延出するように折れ曲っており、当該前方に向かって延出した部分が、車両後突時に着座者が車両用シートSの後方に向かって移動する際に着座者の背中において胸椎が位置する部分を押さえて当該部分の後方移動量を軽減させる。
車両衝突によって前記着座者が前記車両用シートの後方に向かって移動する際に前記着座者の腰部を押さえて該腰部の後方移動を抑制する腰部移動抑制部材を更に備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシートバックフレーム。
【背景技術】
【0002】
車両用シートについては、車両後突時に着座者が後方に移動してシート内に沈み込む現象(以下、沈み込み現象)に対する対策が講じられてきており、その中で、例えば特許文献1や2に示す技術が沈み込み現象において着座者に掛かる荷重を軽減させる措置として開発されている。特許文献1及び特許文献2の技術は、いずれも、沈み込み現象時における着座者の胸部の沈み込み量(つまり、後方への移動量)を考慮して開発されたものである。
【0003】
分かり易く説明すると、
図9に示すように、沈み込み現象時において着座者胸部の沈み込み量(
図9中、白抜きの太線矢印にて示す)は、頸部や腰部等の他の部位と比較して大きくなる。このような沈み込み量の差異により、着座者の姿勢は、所謂猫背姿勢となり、着座者にはシートからの反力としての前方荷重(
図9中、黒塗りの太線矢印にて示す)が掛かるようになる。この前方荷重は、車両衝突時の負荷荷重であり、以下、単に荷重とも言う。
図9は、一般的な沈み込み現象の様子を示す図であり、着座者胸部の沈み込み量が大きくなっている様子を示している。
【0004】
以上のような問題に対して、特許文献1に開示の車両用シートでは、シートバックにおいて着座者胸部と対応する部位にエネルギー吸収カセットを配置し、ヘッドレストの所定位置にもエネルギー吸収体を配置している。そして、特許文献1では、上記のエネルギー吸収カセット及びエネルギー吸収体のリバウンド特性(リバウンド速度、リバウンド開始時期)をシートバックパッド、ヘッドレストの特性を加味しつつ相対的な調整を行うことにより、リバウンド時における着座者頭部のリバウンド速度と着座者胸部のリバウンド速度との速度差、並びに着座者頭部のリバウンド開始時期と着座者胸部のリバウンド開始時期との時間差を縮めている。このような構成によれば、車両衝突時に着座者に作用する荷重を効果的に低減させることが可能となる。
【0005】
また、特許文献2に開示の車両用シートでは、シートバックフレームに可動フレームを設け、車両後突時に可動フレームの下部が前方から上後方側に弧回動し、可動フレームの上部が前方に向かって移動するように構成されている。一方、可動フレームの上部が前方に向かって移動すると、これに連動してヘッドレストが前方に移動するようになる。そして、特許文献2では、車両後突時に着座者の胸部が衝突慣性力によりシートバックに沈み込むと、その動きを利用して可動フレームの下部が弧回動し、これに連動する形で、ヘッドレストが車両後突時の着座者頭部の挙動に対応した動きをする。このような構成によれば、沈み込み現象時に着座者胸部の沈み込み量と着座者頭部の沈み込み量との差を小さくすることができ、結果として、車両衝突時に着座者に作用する荷重を効果的に低減させることが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2では、沈み込み現象時における着座者への荷重の低減を図るために、エネルギー吸収カセット及びエネルギー吸収体、若しくは、可動フレーム及びその付属部材を要するためにシート構造が複雑化し、また、部品点数の増加にも繋がってしまう。このため、車両衝突時の荷重を低減する措置として簡略化された構成が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両用シートのシートバックの骨格を成すシートバックフレームとして、車両衝突時に着座者に掛かる荷重を簡略化された構成にて低減することが可能なフレームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明のシートバックフレームによれば、車両用シートの着座者の背中を支持するシートバックの骨格を成すシートバックフレームであって、車両衝突によって前記着座者が前記車両用シートの後方に向かって移動する際に前記着座者の背中において胸椎が位置する部分を押さえて当該部分の後方移動量を軽減させる移動量軽減部材を備えることにより解決される。
上記の構成は、車両衝突時に着座者胸部を押さえて当該部分の沈み込み量(後方移動量)を軽減することにより、着座者に掛かる荷重を低減させるものである。すなわち、上記のように構成されたシートバックフレームであれば、車両衝突時に着座者胸部を押さえる部材を備えることで比較的簡易な構成により着座者に掛かる荷重を低減させることが可能となる。
【0010】
また、上記のシートバックフレームにおいて、前記移動量軽減部材は、前記車両用シートの前方に向かって延出した前方延出部を有する線状部材であることとしてもよい。
上記の構成であれば、ワイヤ等の線状部材により移動量軽減部材を構成するので、より簡易的な構成にて着座者に掛かる荷重を低減させることが可能となる。
【0011】
また、上記のシートバックフレームにおいて、前記線状部材は、前記シートバックの幅方向両端部の間を連結する連結ワイヤであり、前記前方延出部は、前記連結ワイヤの所定部分を前記車両用シートの前方に向かって折り曲げることで形成されていることとしてもよい。
上記の構成であれば、シートバックフレームの幅方向両端部を連結する連結ワイヤを移動量軽減部材として用いるので、移動量軽減部材としての線状部材を別途用意する必要が無く、部品点数の増加やシートバックフレームの大型化を抑制することが可能となる。
【0012】
また、上記のシートバックフレームにおいて、前記前方延出部は、前記幅方向において前記連結ワイヤの中央部分に複数形成されており、複数の前記前方延出部の各々は、前記車両用シートの前方に向かう第1延出部と、該第1延出部の前端部と連なっており前記幅方向に沿って延出した第2延出部と、を備えていることとしてもよい。
上記の構成であれば、移動量軽減部材を構成する連結ワイヤの前方延出部の剛性が確保されるため、車両衝突時には着座者胸部を適切に押さえることが可能となる。また、連結ワイヤの幅方向中央部分に前方延出部が複数形成されているので、より効果的に着座者胸部の沈み込み量を抑えることが可能となる。
【0013】
また、上記のシートバックフレームにおいて、前記連結ワイヤは、前記車両用シートにおいて、前記シートバックにヘッドレストを取り付けるために設けられたヘッドレストピラーよりも下方に位置し、前記第2延出部は、前記幅方向において前記ヘッドレストピラーの配置位置に差し掛かる位置に設けられていることとしてもよい。
上記の構成では、シートバックフレームにおいて、ヘッドレストピラーの下方位置にはスペースが有り、かかるスペースを利用して連結ワイヤの前方延出部を設けることでシートバックフレームのコンパクト化を図ることが可能となる。
【0014】
また、上記のシートバックフレームにおいて、前記シートバックの前記幅方向両端部には一対の側部フレームが配置されており、前記第2延出部は、前記側部フレームの前端よりも後方に位置し、かつ、前記側部フレームの後端よりも前端に位置していることとしてもよい。
上記の構成であれば、移動量軽減部材としての連結ワイヤが通常時には着座者を押圧することはなく、車両衝突時には着座者を押圧するようになる。つまり、上記の構成において、移動量軽減部材は、車両衝突時にのみ着座者を押圧し、それ以外のときは着座者と干渉しないので車両用シートの着座感を確保することが可能となる。
【0015】
また、上記のシートバックフレームにおいて、車両衝突によって前記着座者が前記車両用シートの後方に向かって移動する際に前記着座者の腰部を押さえて該腰部の後方移動を抑制する腰部移動抑制部材を更に備えることとしてもよい。
上記の構成では、車両衝突時に着座者に掛かる荷重をより一層効果的に低減することが可能となる。分かり易く説明すると、車両衝突時には、腰部移動抑制部材により着座者腰部の後方移動が抑制される一方で、腰部を支点として着座者の胴部及び頭部が後方に回動するようになる。この際、着座者胸部は移動軽減部材により押されて後方への移動を規制されるので、着座者の頭部が後方に移動するようになる。この結果、着座者の頭部をヘッドレストに効率よく支持させることが可能となり、着座者に掛かる荷重を低減する効果が顕著に発揮されるようになる。
【0016】
また、上記のシートバックフレームにおいて、上下方向に対して傾いた状態で配置され、前記着座者の上体を後退移動可能に支持する受圧部材を備え、前記移動量軽減部材は、前記シートバックの幅方向の端側から見たときに、前後方向において前記受圧部材が位置している領域よりも後方に設けられていることとしてもよい。
上記の構成では、受圧部材が着座者の上体を支持し、当該受圧部材よりも後方に移動量軽減部材が配置されている。かかる構成であれば、着座者は、シートに着座した際には先ず受圧部材によって支持され、その後、移動量軽減部材により押圧されることになる。このような構成により、移動量軽減部材をより安定した状態で支持することが可能となる。
【0017】
また、上記のシートバックフレームにおいて、前記シートバックフレームの上端部を成し、前記シートバックの高さ方向に延びた部分を有する上部フレームを備え、前記第2延出部は、前記シートバックの幅方向の端側から見たときに、前記上部フレームのうちの前記高さ方向に延びた部分の前後方向中央を通過する仮想平面よりも後方に設けられていることとしてもよい。
上記の構成では、シートバックフレームの上部フレームよりも後方位置に、移動量軽減部材をなす線状部材のうちの第2延出部が配置されている。かかる構成であれば、着座者は、シートに着座した際、シートバックフレームの上部フレームに支持されてから第2延出部により押圧されることになる。このような構成により、移動量軽減部材をより安定した状態で支持することが可能となる。
【0018】
また、上記のシートバックフレームにおいて、前記シートバックフレームの上端部を成し、前記シートバックの高さ方向に延びた部分を有する上部フレームを備え、該上部フレームにおいて、前記高さ方向に延びた部分は、前記シートバックの幅方向の両端部に位置し、前記移動量軽減部材は、前記幅方向において前記上部フレームのうちの前記高さ方向に延びた部分の内側に配置され、当該部分に取り付けられていることとしてもよい。
上記の構成では、移動量軽減部材がシートの幅方向においてシートバックフレームの上部フレームよりも内側に配置された上で当該上部フレームに取り付けられている。すなわち、移動量軽減部材は、シートバックフレームの幅方向内側に配置されているので、移動量軽減部材をよりコンパクトに配置することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシートバックフレームによれば、車両衝突時に着座者胸部を押さえる部材(移動量軽減部材)を設けるという比較的簡易な構成にて着座者に掛かる荷重を低減させることが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、ワイヤ等の線状部材により移動量軽減部材を構成するので、より簡易的な構成により着座者に掛かる荷重を低減させることが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、一対の側部フレーム間を連結する連結ワイヤを移動量軽減部材として用いるので、移動量軽減部材の導入に伴う部品点数の増加やシートバックフレームの大型化を抑制することが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、移動量軽減部材を構成する連結ワイヤの前方延出部の剛性を確保するとともに、連結ワイヤの幅方向中央部分に前方延出部を複数形成することで車両衝突時に着座者胸部の沈み込み量を効果的に抑えることが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、ヘッドレストピラーの下方位置に設けられたスペースを有効利用して連結ワイヤの前方延出部を設けることで、シートバックフレームのコンパクト化を実現することが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、移動量軽減部材が車両衝突時にのみ着座者を押圧し、それ以外のときは着座者と干渉しないので、車両用シートの着座感を確保することが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、車両衝突時に着座者の頭部をヘッドレストに効率よく支持させることが可能となり、着座者に掛かる荷重を大幅に低減することが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、着座者がシートに着座した際には先ず受圧部材によって支持され、その後、移動量軽減部材により押圧されることになるので、移動量軽減部材をより安定した状態で支持することが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、着座者がシートに着座した際、シートバックフレームの上部フレームに支持されてから第2延出部により押圧されることになるので、移動量軽減部材をより安定した状態で支持することが可能となる。
また、本発明のシートバックフレームによれば、移動量軽減部材がシートバックフレームの幅方向内側に配置されているので、移動量軽減部材をよりコンパクトに配置することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)について図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明中、前後方向とは、車両用シートに着座した着座者から見たときの前後方向を意味し、幅方向とは、車両用シートのシートバックの幅方向(横幅方向)を意味し、高さ方向とは、シートバックの高さ方向、厳密にはシートバックを正面から見たときのシートバックの上下方向を意味する。また、以下に説明する各部材の形状や配置位置については、特に断る場合を除き、車両用シートが着座可能状態となったときの形状や配置位置となっている。
【0022】
さらに、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0023】
先ず、
図1及び2を参照しながら、本発明のシートバックフレームを含む車両用シートSの全体構成について概説する。
図1及び2は、車両用シートS及びシートフレームSFの構造例を示す図であり、
図1は、車両用シートSの外観図であり、
図2は、シートフレームSFの側方図である。
【0024】
車両用シートSは、
図1で示すように、着座者の背中を支持するシートバックS1、着座者の臀部を支持するシートクッションS2、及び、着座者の頭部を支持するヘッドレストS3からなり、各部は、その骨格としてのフレームにパッド材1a、2a、3aを載置し表皮材1b、2b、3bで被覆することで構成されている。
【0025】
ここで、
図2に示すように、シートフレームSFのうち、シートバックS1の骨格を成すシートバックフレーム1は、その下端部にてシートクッションS2の骨格を成すシートクッションフレーム2の後端部に連結されている。また、シートバックフレーム1とシートクッションフレーム2との間には不図示のリクライニング機構が介在している。これにより、シートバックフレーム1がシートクッションフレーム2に対してリクライニングシャフト11周りに回動可能となり、シートクッションS2に対するシートバックS1の後傾角度(背凭れ角度)を調整自在となっている。なお、リクライニングシャフト11は、シートバックフレーム1の側方下端部、及び、シートクッションフレーム2の側方後端部を貫通して幅方向外側に向けて幾分突出している。
【0026】
また、シートバックフレーム1の上端中央部には、筒型状のピラー支持部19aが取り付けられている。そして、このピラー支持部19aに、ヘッドレストS3の下端から延出したヘッドレストピラー19が挿入されることでヘッドレストS3がシートバックS1に取り付けられている。
【0027】
次に、シートバックフレーム1の構成例について
図2及び3を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係るシートバックフレーム1を示す斜視図であり、同図には矢印にて幅方向及び高さ方向を示している。
【0028】
シートバックフレーム1は、
図3に示すように、概ね金属部材により構成された略矩形状の枠体であり、幅方向両端部に備える一対のサイドフレーム15、高さ方向上端部に備える上部フレーム16と、下端部に備える下部フレーム架設部18と、を主たる構成部分として備えている。なお、本実施形態において、サイドフレーム15、上部フレーム16、及び下部フレーム架設部18は、互いに分離した状態から組み合わせられて一体化することでシートバックフレーム1を構成しているが、当初より一体化して成形されたもの、すなわち樹脂材料により一体成形されたものであってもよい。
【0029】
一対のサイドフレーム15は、一対の側部フレームに相当し、シートバックS1の幅を規定するために左右方向に離間し、双方ともに上下方向に延在するように配設されている。各サイドフレーム15は、
図3に示すように、側板15aと、側板15aの前端部を円弧状に曲げて形成された前縁部15bと、後端部からL字型に曲げて形成した後縁部15cとを有している。なお、
図2に示すように、車両用シートSの姿勢が着座可能な姿勢にある状態では、各サイドフレーム15の上端部が下端部よりも幾分後方に位置している。また、各サイドフレームの下端部は、前後方向において上端部よりも幅広に形成されている。
【0030】
上部フレーム16は、一対のサイドフレーム15の上端部同士を連結するものであり、正面視で逆さU字状に形成されている。本実施形態に係る上部フレーム16は、鋼製のパイプを折り曲げて構成され、その両端部が各サイドフレーム15の上端部に取り付けられている。また、上部フレーム16の中央部には、前述したピラー支持部19aが互いに間隔を空けて2個取り付けられている。
【0031】
以上のように上部フレーム16は、サイドフレーム15から延出するように左右方向に離隔して配設される立上部16Aと、左右一対の立上部16Aの上端部分同士を架橋するように屈曲して延設されるピラー取付部16Bと、により構成されている。ここで、立上部16Aは、上部フレーム16がその幅方向両端部に備え、高さ方向に延出した部分に相当する。
そして、上部フレーム16は、立上部16Aがサイドフレーム15の上端部分と重なるように配設され、この重なり部分においてサイドフレーム15に溶接接合される。
【0032】
さらに、
図3に示すように、上部フレーム16の立上部16A同士の間には線状部材としての連結ワイヤ21が架設されている。この連結ワイヤ21は、法規対応で取り付けられるものであり、具体的には、ピラー支持部19aに挿入されたヘッドレストピラー19の角(下端)が着座者に当たらないようにするために設けられ、ヘッドレストピラー19の下端よりも幾分下方位置に配置されている。
【0033】
また、連結ワイヤ21は、比較的線径が大きく、かつ、剛性を確保するために中途位置で複数回折れ曲がっている。具体的に説明すると、連結ワイヤ21は、シートバックS1の幅方向に沿って延出している部分(以下、水平部)21aと、水平部21aに対して直交するように屈曲し略U字状に折り返された部分(以下、U字状部)21bとを有している。
【0034】
さらに、連結ワイヤ21については、その端部にて上部フレーム16の立上部16Aに溶接されているが、溶接される部分の剛性と当該部分の面積を確保する観点から、連結ワイヤ21の端部が直角に折り曲げられ、折り曲げ箇所からワイヤ末端までの部分を立上部16Aに溶接接合している。また、
図3に示すように、上部フレーム16における連結ワイヤ21の溶接箇所は、上部フレーム16の立上部16Aとサイドフレーム15とが重なった部分に差し掛かっている。このように立上部16Aとサイドフレーム15とが重なった部分に連結ワイヤ21が溶接される結果、連結ワイヤ21の取り付け剛性が比較的高くなっている。
【0035】
下部フレーム架設部18は、一対のサイドフレーム15を連結するためにサイドフレーム15の下端部の間に架橋されている部分である。
さらにまた、本実施形態に係るシートバックフレーム1は、上述した構成に加え、
図3に図示した受圧部材20を備えている。この受圧部材20は、着座者の上体を後退移動可能に支持するものであり、具体的には、シートバックS1のパッド材1aを後方から支える略矩形状の樹脂製プレートである。なお、本実施形態では、樹脂製プレートからなる受圧部材20を例に挙げて説明するが、
図10や
図11に示すように波形に湾曲したバネ状部材(いわゆるSバネ)からなる受圧部材40を用いることとしてもよい。
図10及び
図11は、他の種類の受圧部材40を備えるシートバックフレーム1を示す図であり、
図10は、当該シートバックフレーム1の側面図であり、
図11は、同シートバックフレーム1の背面図である。
【0036】
また、受圧部材20は、一対のサイドフレーム15、上部フレーム16及び下部フレーム架設部18によって囲まれるスペース内に配置されている。具体的に説明すると、受圧部材20は、一対のサイドフレーム15の各々に吊り下げられるように支持されている。より詳細に説明すると、受圧部材20のうち、パッド材1aと接する側とは反対側に位置する面(裏面)の上部側と下部側には固定用ワイヤ20aの中央部分が係止されており、同ワイヤ20aの端部が各サイドフレーム15の所定部位に掛着されている。これにより、受圧部材20は、一対のサイドフレーム15の間に張架された固定用ワイヤ20aによって吊り下げられた状態でシートバックフレーム1内に配置されている。
【0037】
なお、本実施形態において、受圧部材20は、その上端部が下端部よりも幾分後端側に位置するように上下方向に対して傾いた状態でシートバックフレーム1内に配置されている。
【0038】
ところで、車両の後面衝突により車両用シートSの着座者が後方に移動してシート内に沈み込む現象、すなわち、沈み込み現象が発生したとき、一般的な車両用シートSでは着座者胸部の沈み込み量が頸部や腰部等の他の部位と比較して大きくなる。この結果、着座者に掛かる荷重が比較的に大きくなり、同荷重による着座頭部の前傾度合いについても大きくなってしまう。
【0039】
これに対して、本実施形態に係る車両用シートSでは、シートバックフレーム1の構造が、車両後突時に着座者に掛かる荷重を低減することが可能なものとなっている。
以下では、シートバックフレーム1において車両後突時に着座者に掛かる荷重を低減する目的で採用された構成について、
図4乃至6を参照しながら詳細に説明する。
図4及び5は、車両後突時に着座者に掛かる荷重を低減するための構成についての説明図であり、
図4は、連結ワイヤ21及びその周辺の拡大図を、
図5は、
図4のA−A断面をそれぞれ示している。また、
図6は、本発明による効果を示すための図であり、本実施形態に係る車両用シートSの着座者の、車両後突時の様子を示した図であり、
図9に対応する図である。
【0040】
本実施形態に係るシートバックフレーム1は、車両衝突によって着座者が車両用シートSの後方に向かって移動する際に着座者の背中において胸椎が位置する部分(以下、胸椎相当部)を押さえて当該部分の沈み込み量を軽減させる移動量軽減部材を備えている。このように車両後突時に着座者胸部を押さえて当該部分の沈み込み量を軽減すれば、着座者に掛かる荷重を低減させることが可能となる。
【0041】
分かり易く説明すると、一般的な車両用シートSでは、前述したように、沈み込み現象時に胸部の沈み込み量が他の部位の沈み込み量よりも大きくなる。この結果、
図9に示すように、着座者の姿勢が所謂猫背姿勢となり、着座者の頭部が顕著に前傾するようになる。
【0042】
これに対して、本実施形態では、車両後突時に着座者の背の胸椎相当部を押さえる部材を備えることで胸部の沈み込み量が低減されるため、着座者は、
図6に示すように、その上半身が伸身した姿勢を保持することが可能となる。すなわち、車両後突時には着座者の背の胸椎相当部を押圧する部材(移動量軽減部材)が着在者への入力(衝撃エネルギー)を吸収する。この結果、着座者の頭部の前傾が抑制されることになり、着座者に掛かる荷重を低減させることが可能となる。
【0043】
そして、本実施形態では、車両後突時に着座者の背の胸椎相当部を押す部材として前述の連結ワイヤ21が利用されている。換言すると、本実施形態において、連結ワイヤ21は、上述した移動量軽減部材として機能している。これにより、本実施形態では比較的簡易な構成にて着座者に掛かる荷重を低減させることが可能となると同時に、着座者に掛かる荷重の低減を図るために別途の部材を用意する必要がないので部品点数の増加やシートバックフレーム1の大型化が抑えられることになる。
【0044】
以下、連結ワイヤ21の構成について改めて説明する。
本実施形態に係る連結ワイヤ21は、前述したように、その中途位置にて複数回折れ曲がっており、シートバックS1の幅方向に沿って延出した水平部21aと、水平部21aに対して直交するように屈曲し略U字状に折り返されたU字状部21bとを有している。特に、本実施形態では、上記のU字状部21bが複数箇所、具体的には2箇所、シートバックS1の幅方向中心に対して左右対称な位置に形成されている。なお、各U字状部21bの位置は、
図4に示すように、シートバックS1の幅方向においてピラー支持部19aと略同じ位置となっている。
【0045】
一方、U字状部21bは、
図4及び5に示すように、その下端部が前方に向かって延出するように屈曲している。つまり、連結ワイヤ21のU字状部21bのうちの下端部は、車両用シートSの前方に向かって延出した前方延出部に相当する。このように本実施形態では、連結ワイヤ21において前方延出部に相当する部分が、U字状部21bの下端部を車両用シートSの前方に向かって折り曲げることで形成されている。
【0046】
ここで、U字状部21bの形状について詳しく説明すると、U字状部21bにおいて左右両端には、水平部21aと連なり下方向(厳密には、鉛直方向に対してやや前側に傾いた方向)に垂下した垂下部21cが形成されている。また、各垂下部21cの下側部分は、前方に向かって屈曲することで第1延出部としての屈曲部21dを形成している。なお、本実施形態では
図5に示すように、屈曲部21dが前方に向かうほど下がるように若干傾斜した状態で屈曲している。
さらに、屈曲部21dの前端部同士の間には、屈曲部21dの前端部と連なっておりシートバックS1の幅方向に沿って延出した第2延出部としての前方部21eが形成されている。つまり、U字状部21bの屈曲部21dと前方部21eとが上述の前方延出部を構成している。
【0047】
そして、U字状部21bを含む連結ワイヤ21の前方位置には、シートバックS1のパッド材1aが配置されている。これにより、車両後突時には、連結ワイヤ21のうち、U字状部21bの前方部21eがパッド材1aを介して着座者の背の胸椎相当部を押圧するようになる。換言すると、シートバックS1の高さ方向において、U字状部21bの前方部21eは、着座者の背の胸椎相当部と同じ位置に位置するように配置されている。このように本実施形態では、連結ワイヤ21のうち、U字状に折れ曲がった部分が車両後突時に着座者の背を押圧するので、当該押圧部分の剛性が確保される結果、着座者の背の胸椎相当部を適切に押さえることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、
図5に示すように、U字状部21bの前方部21eがサイドフレーム15の前端よりも後方に位置し、かつ、サイドフレーム15の後端よりも前端に位置するように連結ワイヤ21が配置されている。これにより、通常時にU字状部21bの前方部21eが着座者の背を押圧することはなく、車両後突時に着座者の背の胸椎相当部を押圧するようになる。つまり、U字状部21bの前方部21eは、車両後突時にのみ着座者の背を押圧し、それ以外のときには着座者との干渉が抑えられる。この結果、連結ワイヤ21の一部を前方に向かうように折り曲げたとしても、車両用シートSの着座感を確保し保持することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、
図4に示すように、シートバックS1の幅方向において連結ワイヤ21の中央部分に、上述した構造のU字状部21bが2箇所形成されている。換言すると、車両後突時に着座者の背の胸椎相当部を押圧する箇所が、シートバックS1の幅方向において複数存在するので、車両後突時に胸椎相当部を複数箇所で押圧し、着座者胸部の沈み込み量をより効果的に抑えることが可能となる。なお、車両後突時に着座者の背の胸椎相当部を押圧する箇所については、2箇所に限定されるものではなく、3箇所以上あることとしてもよく、あるいは1箇所のみであることとしてもよい。
【0050】
さらに、連結ワイヤ21は、車両用シートSにおいてヘッドレストS3のヘッドレストピラー19よりも下方に位置している。また、連結ワイヤ21のうち、U字状部21bは、シートバックS1の幅方向においてヘッドレストピラー19の配置位置に差し掛かった状態で設けられている。ここで、シートバックフレーム1においてヘッドレストピラー19の下方位置にはスペースが有り、本実施形態では、かかるスペースを利用して連結ワイヤ21のU字状部21bを設けている。この結果、本実施形態に係るシートバックフレーム1が十分にコンパクト化された形状となっている。
【0051】
また、本実施形態において、連結ワイヤ21は、幅方向の端側から見たときに、前後方向において受圧部材20が位置している領域よりも後方に設けられている。このような位置関係であれば、着座者は、シートに着座した際には先ず受圧部材20によって支持され、その後、連結ワイヤ21のU字状部21bにより押圧されることになる。この結果、連結ワイヤ21は、より安定した状態で支持されることになる。
【0052】
なお、連結ワイヤ21のU字状部21bについては、幅方向の端側から見たときに、シートバックフレーム1の上部フレーム16が有する立上部16Aの前後方向中央、を通過する仮想平面よりも後方に設けられていることとしてもよい(
図10参照)。このような位置関係であれば、着座者は、シートに着座した際に上部フレーム16に支持されてからU字状部21bにより押圧されることになる。これにより、連結ワイヤ21は、より一層安定した状態で支持されることになる。
【0053】
さらに、本実施形態において、連結ワイヤ21は、幅方向において上部フレーム16の立上部16Aの内側に配置され、当該部分16Aに取り付けられている。すなわち、本実施形態において、連結ワイヤ21は、シートバックフレーム1の幅方向内側に配置されており、よりコンパクトに配置されていることになる。
【0054】
また、本実施形態では前述したように、連結ワイヤ21の端部が上部フレーム16のうちの立上部16A、より具体的には立上部16Aとサイドフレーム15とが重なった部分に溶接されている。これにより、連結ワイヤ21の取り付け剛性が比較的高くなるため、車両後突時に着座者の背の胸椎相当部を押圧する状態を好適に保持し続けることが可能となる。
【0055】
以上までに説明してきたように本実施形態では、車両後突時に連結ワイヤ21のU字状部21bがシート着座者の背の胸椎相当部を押圧することで、沈み込み現象時の着座者胸部の後方移動量(沈み込み量)を軽減させている。一方、車両後突時に着座者の背の胸椎相当部を押圧する部材及び形状については、特に限定されるものではなく、また、既存の部品を移動量軽減部材として転用する他、移動量軽減部材としての専用品を別途に導入することとしてもよい。ただし、本実施形態のように連結ワイヤ21の形状変更によって対応することができれば、追加部品を導入する必要がない分、コストや重量の増加を最小限に抑えることが可能となる。
【0056】
なお、着座者に掛かる荷重を低減させる効果については、シートバックフレーム61に
図7に図示の腰部移動抑制部材50が設けられていることで、より効果的に発揮されることになる。
図7は、変形例に係るシートバックフレーム61の側方図である。以下、変形例に係るシートバックフレーム61の構成について説明する。
【0057】
変形例に係るシートバックフレーム61は、腰部移動抑制部材50が備えられている点を除き、既に説明した
図2及び3に図示のシートバックフレーム1と同様の構成となっている。腰部移動抑制部材50は、車両の後面衝突によって着座者が車両用シートSの後方に向かって移動する際に着座者の腰部を押さえて当該腰部の後方移動を抑制するものである。
【0058】
変形例に係るシートバックフレーム61では、上記の腰部移動抑制部材50が下部フレーム架設部18に配設されている。より具体的に説明すると、腰部移動抑制部材50は、所定厚さを有する金属板体を屈曲させることにより形成されており、その強度・硬度については、後面衝突時の荷重に耐えうるよう設計されている。そして、腰部移動抑制部材50は、
図8に示すように、下部フレーム架設部18の前側面に取付けられている。
図8は、変形例に係るシートバックフレーム61の斜視図である。
【0059】
また、腰部移動抑制部材50は、略角筒状に形成されており、その側面の一部が切り欠かれている。腰部移動抑制部材50の細部について説明すると、腰部移動抑制部材50は、
図7に示すように、上方壁51、下方壁52、前方壁53及び後方壁54を有している。上方壁51は、車両フロアに対して略水平に配設された略矩形状の平板状部分であり、その後端からは後方壁54が下方向に垂下するように延設されている。また、上方壁51の前端からは前方壁53が下方向に垂下するように延設されている。さらに、前方壁53の下端からは上方壁51と略平行となるように配置された下方壁52が後方側に屈曲するように延設されている。また、下方壁52の自由端は、前方へ向けて湾曲しており鉤状に形成されている。
【0060】
以上のように構成された腰部移動抑制部材50の後方壁54が下部フレーム架橋部18の前側面に溶接されており、腰部移動抑制部材50がシートバックフレーム1の前方、すなわち乗員の着座側に向かって突出した状態で配設されている。一方で、リクライニングシャフト11は、
図7に示すように、腰部移動抑制部材50の内部を貫通するように配設されるとともに、腰部移動抑制部材50とは当接しない位置に配設される。このため、リクライニング機構が作動してリクライニングシャフト11が回動する際には、腰部移動抑制部材50及びリクライニング機構が互いに干渉するのを抑制することが可能となる。
【0061】
そして、腰部移動抑制部材50が設けられていることで、着座者に掛かる荷重を低減させる効果をより効果的に発揮させることが可能となる。分かり易く説明すると、車両後突時には、腰部移動抑制部材50により着座者腰部の後方移動が抑制される一方で、腰部を支点として着座者の胴部及び頭部が後方に回動するようになる。この際、着座者の背の胸椎相当部が押されて胸部の後方移動が規制されるので、着座者の頭部が後方に移動するようになる。この結果、着座者の頭部をヘッドレストS3に効率よく支持させることが可能となり、以て、着座者に掛かる荷重を低減する効果が顕著に発揮されるようになる。