特開2016-166258(P2016-166258A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-166258(P2016-166258A)
(43)【公開日】2016年9月15日
(54)【発明の名称】粘度調整剤
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/12 20060101AFI20160819BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160819BHJP
【FI】
   C08B11/12
   H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-45406(P2015-45406)
(22)【出願日】2015年3月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
【テーマコード(参考)】
4C090
5H050
【Fターム(参考)】
4C090AA08
4C090BA29
4C090BD08
4C090BD18
4C090DA03
4C090DA40
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050DA14
5H050EA23
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】
本発明は、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤を紛体状態で保管した際の品質の変化、具体的には、保管前後の水溶液の粘度変化が小さいカルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
カルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤であって、カルボキシメチルセルロース又はその塩に対して、アニオン変性セルロースナノファイバーが30〜2000質量%含有していることを特徴とする粘度調整剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤であって、カルボキシメチルセルロース又はその塩に対して、アニオン変性セルロースナノファイバーが30〜2000質量%含有していることを特徴とする粘度調整剤。
【請求項2】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.6mmol/g〜2.0mmol/gであるカルボキシル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の粘度調整剤。
【請求項3】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の粘度調整剤。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された粘度調整剤を含有するリチウムイオン電池電極用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量なリチウムイオン電池(Lib)は携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオ、携帯用音楽プレイヤーを始めとする幅広い電子機器及び電気機器に搭載されている。リチウムイオン電池は、エコカーと呼ばれる自動車などの交通機関の動力源として実用化が進んでおり、電力の平準化、スマートグリッドのための蓄電装置としても精力的に研究がなされている。
リチウムイオン電池の正極電極及び負極電極は、それぞれ、活物質とバインダーとを含む1対の電極層で集電体をはさんだ構造となっている。正極電極は、アルミニウム箔等の集電体の両面に、コバルト酸リチウム等の活物質とバインダーとの混合物(溶液)を塗布・乾燥して製造される。負極電極は、銅箔等の集電体に、炭素材料等の活物質とバインダーとの混合物(溶液)を塗布・乾燥して製造される。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極電極、負極電極、及び、イオンが移動できる多孔質の絶縁フィルムを有しており、正極電極と絶縁フィルムと負極電極が幾層にも重層された構造を有する。リチウムイオン電池の製造は、例えば、正極電極と負極電極の間に絶縁フィルムなどのセパレータを有する多層体を、各電極がバウムクーヘン状(同心円状)となるように巻き、容器に挿入して両電極を溶接し、電解液を注入し、容器を密閉して、リチウムイオン電池を得ることができる。リチウムイオン電池の形状が円筒形の場合、電極多層体は缶の形状に合わせて円筒形に巻かれる。リチウムイオン電池の形状が角型の場合、電極多層体は缶の形状に合わせて扁平形に巻かれる。
【0004】
リチウムイオン電池の電極を構成するバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンラテックス(SBR)、カルボキシメチルセルロース又はその塩などが用いられ、負極の水系バインダーとしては、SBRとカルボキシメチルセルロース又はその塩の複合系で用いられることが一般的である。正極、負極の両方にバインダーとして使用することができるカルボキシメチルセルロース又はその塩は粘度調整剤としての役割も担っている。
【0005】
通常、このカルボキシメチルセルロース又はその塩は粉末状態で保管されることが、長期間保管したセルロース系ポリマーの水溶液の粘度は、保管前のセルロース系ポリマーの溶液の粘度と比較して、大きく低下してしまい、粘度調整剤としての役割を果たせなくなってしまうという問題があった。これに対しては、セルロース系ポリマー水溶液に多価アルコールを添加する方法(特許文献1)やセルロース系ポリマーにエタノール及びエデト酸塩を配合する方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−71478号公報
【特許文献2】特開昭61−186306公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2に開示されている技術は、セルロース系ポリマーの水溶液の粘度低下を防止する方法であり、粉末状態のセルロース系ポリマー(特に、カルボキシメチルセルロース又はその塩)の品質の変化を防止するものではなかった。
【0008】
そこで、本発明は、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤を紛体状態で保管した際の品質の変化、具体的には、保管前後の水溶液の粘度変化が小さいカルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の[1]〜[4]を含む手段により解決される。
[1] カルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤であって、カルボキシメチルセルロース又はその塩に対して、アニオン変性セルロースナノファイバーが30〜2000質量%含有していることを特徴とする粘度調整剤。
[2] 前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.6mmol/g〜2.0mmol/gであるカルボキシル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする[1]に記載の粘度調整剤。
[3] 前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする[1]に記載の粘度調整剤。
[4] [1]〜[3]のいずれか一項に記載された粘度調整剤を含有するリチウムイオン電池電極用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤を紛体状態で保管した際の品質の変化、具体的には、保管前後の水溶液の粘度変化が小さいカルボキシメチルセルロース又はその塩を含有する粘度調整剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の粘度調整剤は、カルボキシメチルセルロース又はその塩(以下、「CMC」ということがある。)に対して、アニオン変性セルロースナノファイバー(以下、「アニオン変性CNF」ということがある。)が30〜2000質量%含有していることを特徴としており、紛体状態で保管した際の品質の変化、具体的には、保管前後の水溶液の粘度変化が大きく抑制される。
【0012】
本発明の粘度調整剤が優れた効果を発現する理由は明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。CMCとアニオン変性CNFを共存させることで、CMCの電荷密度の高い部分をアニオン変性CNF表面の電荷密度の低い部分がカバーすることで、紛体状態で保管した際に受ける外的要因(熱、酸素など)の影響を受けにくくなったと推測される。なお、本発明において、紛体状態とは、水分量が12質量%以下になるように乾燥させた粘度調整剤を意味する。
【0013】
<カルボキシメチルセルロース>
本発明で用いるカルボキシメチルセルロース又はその塩がある)は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つ。カルボキシメチルセルロースは、塩の形態であってもよい。カルボキシメチルセルロースの塩としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩などが例示される。 本発明においてセルロースとは、D−グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」とも言う。)がβ,1−4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。
【0014】
天然セルロースとしては、晒又は未晒パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹等が挙げられる。晒又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいは、機械的方法及び化学的方法を組み合わせた方法が例示される。晒又は未晒パルプとしては、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ、砕木パルプ、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ、製紙用パルプが例示される。また晒又は未晒パルプとしては、化学的に精製され、主として薬品に溶解して使用する、人造繊維、セロハンなどの主原料となる溶解パルプも例示される。
【0015】
再生セルロースとしては、セルロースを、銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体などの溶媒に溶解し、改めて紡糸して得られる再生セルロースが例示される。
【0016】
微細セルロースとしては、天然セルロース、再生セルロースなどのセルロース系素材を、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合処理して得られる微細セルロース、セルロース系素材を機械的に処理して得られる微細セルロースが例示される。
【0017】
本発明で用いるCMCを製造するにあたっては、公知のCMCの製法を適用することができる。例えば、セルロースをマーセル化剤(アルカリ)で処理してマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を調製した後に、マーセル化セルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応させることでCMCを製造することができる。
【0018】
原料のセルロースとしては、上述のセルロースであれば特に制限なく用いることができるが、セルロース純度が高いものが好ましく、溶解パルプ又はリンターがより好ましい。これらを用いることにより、純度の高いCMCを得ることができる。
【0019】
マーセル化剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属塩が例示される。エーテル化剤としてはモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ソーダ等が例示される。
【0020】
水溶性の一般的なカルボキシメチルセルロースの製法において、マーセル化剤とエーテル化剤のモル比(マーセル化剤/エーテル化剤)は、エーテル化剤としてモノクロロ酢酸を使用する場合では2.00〜2.45が一般的である。その理由は、2.00以上であることによりエーテル化反応を十分に行うことができ、未反応のモノクロロ酢酸が残って無駄となることを防止できる。2.45以下であることにより、過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸による副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成することを防止でき、経済的である。
【0021】
本発明においてCMCは市販品であってもよい。市販品としては、例えば、日本製紙ケ
ミカル(株)製の商品名「サンローズ」が挙げられる。
【0022】
本発明において、CMCのエーテル化度とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(−OH)のうちカルボキシメチルエーテル基(−OCH2COOH)に置換されている基の割合を示す。
【0023】
本発明において用いるCMCは、グルコース残基当たりカルボキシメチル基の置換度(以下、CM−DSと略記する)が、0.55〜1.2の範囲にあることが好ましい。CM−DSが0.5以上であることにより、水への溶解性を良好に保つことができ、未溶解物の発生を抑制することができる。また、CM−DSが1.2以下であることにより、液の曳糸性の増加を抑え、取扱いを容易に保つことができる。CM−DSは実施例に示す方法にて算出することができる。また、20℃におけるCMC1%水溶液のB型粘度は、100〜15,000mPa・sであることが好ましい。
【0024】
本発明の粘度調整剤に含まれるCMCは、1種類であってもよいし、エーテル化度、CM−DS、B型粘度、分子量などの異なる2種類以上のCMCの組み合わせであってもよい。
【0025】
<アニオン変性セルロースナノファイバー>
本発明において、アニオン変性セルロースナノファイバー(アニオン変性CNF)は、繊維幅が4〜500nm程度、アスペクト比が100以上の微細繊維であり、カルボキシル化したセルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)、カルボキシメチル化したセルロース、リン酸エステル基を導入したセルロースなどのアニオン変性セルロースを解繊することによって得ることができる。
【0026】
(セルロース原料)
アニオン変性セルロースを製造するためのセルロース原料としては、例えば、植物性材料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物性材料(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものを挙げることができ、それらのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0027】
(カルボキシメチル化)
本発明において、アニオン変性セルロースとして、カルボキシメチル化したセルロースを用いる場合、カルボキシメチル化したセルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01〜0.50となるものが好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。セルロースを発底原料にし、溶媒として3〜20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間、エーテル化反応を行う。
【0028】
なお、本明細書において、アニオン変性CNFの調製に用いるアニオン変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化したセルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、後述する水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化したセルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化したセルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0029】
(カルボキシル化)
本発明において、アニオン変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いる場合、カルボキシル化セルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、カルボキシル化の際には、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.6〜2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0mmol/g〜2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
【0030】
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート基(−COO−)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0031】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば4−ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0032】
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1〜4mmol/L程度がよい。
【0033】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0034】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolが最も好ましい。また、例えば、N−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
【0035】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4〜40℃が好ましく、また15〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0036】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5〜6時間、例えば、0.5〜4時間程度である。
【0037】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0038】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50〜250g/m3であることが好ましく、50〜220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1〜30質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1〜360分程度であり、30〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。 オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0039】
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0040】
(解繊)
アニオン変性セルロースを解繊する際に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いることができる。解繊の際にはアニオン変性セルロースの水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、前記水分散体に予備処理を施してもよい。
【0041】
<粘度調整剤の製造方法>
本発明の粘度調整剤は、CMC及びアニオン変性CNFを含有した水性懸濁液を乾燥させることで得ることができる。この際、pHを9〜11に調整した後に、乾燥させると、紛体状態の粘度調整剤を溶解あるいは再分散性させる際に凝集物の発生を抑制することができる。
【0042】
また、乾燥方法としては、公知のものを用いることができ、例えば、スプレイドライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、及び真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
これらの中でも、薄膜を形成させて乾燥を行う装置を用いることが、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給でき、乾燥処理をより効率的に、短時間で行うことができるためエネルギー効率の点から好ましい。また、薄膜を形成させて乾燥を行う装置は、薄膜を掻き取る等の簡便な手段で直ちに乾燥物を回収できる点からも好ましい。さらに、薄膜を形成させてから乾燥させた場合には、紛体状態の粘度調整剤を溶解あるいは再分散性させる際に凝集物の発生を抑制することができる。薄膜を形成させて乾燥を行う装置としては、例えば、ドラムやベルトにブレードやダイ等により薄膜を形成させて乾燥させるドラム乾燥装置やベルト乾燥装置が挙げられる。
【0044】
乾燥させる薄膜の膜厚としては、50〜1000μmが好ましく、100〜300μmがさらに好ましい。50μm以上であると、乾燥後の掻き取りが容易であり、また、1000μm以下であると再分散性のさらなる向上効果がみられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの製造>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。
【0047】
上記の工程で得られた酸化パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液を得た。得られた繊維は、平均繊維径が40nm、アスペクト比が150であった。
【0048】
<カルボキシル基量の測定方法>
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
【0049】
<カルボキシメチル(CM)化CNFの製造>
パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化したパルプを得た。その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊し、カルボキシメチル化セルロース繊維とした。得られた繊維は、平均繊維径が50nm、アスペクト比が120であった。
【0050】
<グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法>
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出した:
A=[(100×F’−(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのHSOのファクター
F:0.1NのNaOHのファクター。
【0051】
<平均繊維径、アスペクト比の測定方法>
アニオン変性CNFの平均繊維径および平均繊維長は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析した。なおアスペクト比は下記の式により算出した:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0052】
(実施例1)
アニオン変性CNFとして、上記のカルボキシル化CNF(カルボキシル基量:1.6mmol/g、平均繊維径:40nm、アスペクト比:150)を用いた。カルボキシメチルセルロース(商品名:MAC800LC、日本製紙社製、粘度(1%、25℃)約8000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.7)100質量部(固形分)に対してと、アニオン変性CNFの0.7質量%水性懸濁液を333質量%(固形分)となるように混合し、TKホモミキサー(12,000rpm)で60分間攪拌することにより、粘度調整剤の水溶液(水分散液)を調製した。この水溶液のpHは7〜8程度であった。この水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液0.5%を加え、pHを9に調整した後、ドラム乾燥機D0405(カツラギ工業社製)のドラム表面に塗布し、厚さ100〜200μm程度の薄膜を形成させ、蒸気圧力0.5MPa.G、ドラム回転数2rpmで乾燥し、水分量5質量%の粘度調整剤の乾燥固形物を得た。
【0053】
次に、上記で得られた粘度調整剤の乾燥固形物を60℃乾燥機中で保管し、10、25日後の粘度を測定し、60℃乾燥機保管前からの粘度変化率を調査した。
粘度変化率=〔(粘度2−粘度1)/粘度1〕×100 (%)
経過日数0日(包装前)の粘度調整剤の1%水溶液粘度(粘度1)に対する、包装後60℃の条件下で10、25日間保管した後の粘度調整剤の1%水溶液粘度(粘度2)粘度の変化率
【0054】
なお、粘度測定は、上で得られた乾燥固形物に1質量%水性懸濁液になるように水を添加し、TKホモミキサー(12,000rpm)を用いて60分間攪拌し、粘度調整剤の水溶液を得た。得られた水溶液を25℃±0.2℃に調整した後、B型粘度(回転数30rpm、3分間)を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
カルボキシメチルセルロース(商品名:MAC800LC)を60℃乾燥機中で保管し、10、25日後の粘度を測定し、60℃乾燥機保管前からの粘度変化率を調査した。
【0056】
粘度測定は、MAC800LCに1%質量溶液になるように水を添加し、溶解用攪拌機(600rpm)を用いて3時間攪拌し、粘度調整剤(CMC単独)の水溶液を得た。得られた溶液を25℃±0.2℃に調整した後、B型粘度(回転数30rpm、3分間)を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】