【実施例】
【0015】
実施例に係るスポイラ10は、車両のバックドアの上部の左右幅(ルーフ部の後縁の左右幅)と略同サイズの横長に形成され、前後方向の寸法が左右幅と比べて短尺に形成されている。
図1〜
図3に示すように、スポイラ10は、表面が該スポイラ10の意匠面を構成するアッパ部材(第1部材)12と、このアッパ部材12の裏面に組み付けられるロア部材(第2部材)32とを備えている。スポイラ10は、アッパ部材12とロア部材32とが振動溶着により接合されている。また、アッパ部材12とロア部材32とは、振動溶着による接合とクリップ42による連結とが併用されている。そして、スポイラ10は、ロア部材32に設けられた取付座41に取り付けた取付具(図示せず)を車体に嵌め合せることで、車体に装着される。
【0016】
前記アッパ部材12およびロア部材32は、熱可塑性樹脂からなる成形品である。
図1〜
図3に示すように、実施例のアッパ部材12は、左右方向に長尺な平板状に形成されており、スポイラ10において前後左右へ略水平に延在する上部を主に構成している。ロア部材32は、アッパ部材12に合わせて左右方向に長尺な板状に形成されている。ロア部材32は、アッパ部材12の前部に沿って略水平に延出する水平面部32aと、この水平面部32aの後縁から下方へ延出する接続面部32bと、接続面部32bの下縁から後方へ向かって上方傾斜する傾斜面部32cとから段状に形成されている。ロア部材32における水平面部32aの前縁には、アッパ部材12の裏面(下面)に対向する上面から上方に突出する複数条の溶着突起40aを有する接合部40が設けられている。また、ロア部材32における傾斜面部32cの後縁には、アッパ部材12の裏面(下面)に対向する上面から上方に突出する溶着突起40aを有する接合部40が設けられている。なお、実施例の溶着突起40aは、左右方向に延在するリブ状に形成される。
【0017】
前記スポイラ10は、アッパ部材12の裏面にロア部材32における前後の接合部40を下側から重ね合わせて、アッパ部材12と接合部40とが振動溶着により接合される。ここで、振動溶着においては、アッパ部材12の裏面に沿わせて、アッパ部材12とロア部材32とを左右方向へ相対的に往復直線運動させるように設定される。実施例では、アッパ部材12に対しロア部材32を左右方向に振動させることで、アッパ部材12とロア部材32とを溶着させている。すなわち、実施例では、左右方向が振動溶着時の振動方向になる。このように、スポイラ10は、上下に重なるアッパ部材12の裏面およびロア部材32の接合部40を溶着することで、前縁部および後縁部でアッパ部材12とロア部材32とを互いに接合している。そして、スポイラ10では、ロア部材32の傾斜面部32cが該スポイラ下部の意匠面を構成し、ロア部材32の水平面部32aおよび接続面部32bが車体に相対する装着面を構成している。
【0018】
図2および
図3に示すように、アッパ部材12の裏面には、前記クリップ42を装着するためのアッパ連結部(第1連結部)14が、左右方向に離間して複数設けられている。アッパ連結部14は、ロア部材32の接合部40と重なる部位から前後方向に離して設けられる。アッパ連結部14は、アッパ部材12の裏面から突出するよう形成される。また、アッパ連結部14は、前記振動方向に対して板面が平行になるように形成されている。実施例のアッパ連結部14は、アッパ部材12の裏面から下方に突出するように形成された板状部分であり、その板面が上下左右に延在している。そして、アッパ連結部14には、アッパ部材12の裏面とロア部材32の接合部40との重なり方向(以下、単に重なり方向という)と交差する前後方向に貫通する円形のアッパ通孔16が形成されている。アッパ連結部14は、該アッパ連結部14の下縁から斜め後ろ上方へ延出してアッパ部材12の裏面に連なる第1補強部18と、この第1補強部18およびアッパ連結部14の右側縁からアッパ部材12の裏面に連なる第2補強部20とによって支持される。このように、実施例では、アッパ連結部、第1補強部18および第2補強部20によって、左側方に開口する箱状に形成されたアッパ取付座13が構成される。
【0019】
図2および
図3に示すように、ロア部材32には、前記クリップ42を装着するためのロア連結部(第2連結部)34が、左右方向に離間して複数設けられている。ロア連結部34は、アッパ連結部14の夫々に対応するようにロア部材32に設けられている。ロア連結部34は、アッパ部材12とロア部材32とを組み付けた際に、各アッパ連結部14の前側に隙間Sをあけて対向配置される。ロア連結部34は、ロア部材32の接合部40と重なる部位から前後方向に離して設けられる。ロア連結部34は、水平面部32aから屈曲して形成される。また、ロア連結部34は、前記振動方向に対して板面が平行になるように形成されている。実施例のロア連結部34は、水平面部32aから下方に延出すると共に接続面部32bに沿って延在するように形成された板状部分であり、その板面が上下左右に延在している。更に、アッパ部材12とロア部材32とを接合した際に、アッパ連結部14の前面とロア連結部34の後面との間には、前後方向に隙間Sがあくように設定されている。すなわち、ロア連結部34は、アッパ連結部14と前後に離間すると共に、該アッパ連結部14に沿って平行に延在している。実施例では、水平面部32aおよび接続面部32bを凹ませて上方および後方に開口する凹状に形成されたロア取付座33の前壁部分として、前記ロア連結部34が形成されている。そして、ロア連結部34には、前記重なり方向と交差する前後方向に貫通する円形のロア通孔36が形成されている。ロア通孔36は、アッパ通孔16と中心を揃えて前後方向に重なるように配置される。なお、実施例では、ロア通孔36およびアッパ通孔16の大きさおよび形状が同じである。
【0020】
図1および
図3に示すように、スポイラ10は、ロア通孔36およびアッパ通孔16に装着したクリップ42によってアッパ部材12とロア部材32とを連結し、アッパ部材12の裏面とロア部材32の接合部40とが互いに離れる上下方向への移動を規制するよう構成される。クリップ42は、ブラッシュクリップなどと呼ばれる固定具で、通孔16,36への嵌め合いにより装着されるタイプであり、ネジ孔へのねじ込みにより装着されるネジやボルトなどとは相違している。
図5に示すように、クリップ42は、第1通孔16および第2通孔36に挿入される円柱状の軸部46と、軸部46の一端に設けられた頭部44と、軸部46の周面に設けられた複数の板状の羽根部48とを有している。なお、頭部44は、両通孔16,36より大径に形成され、両通孔16,36を通過不能となっている。羽根部48は、軸部46の軸線方向に並べて、該軸部46から半径方向外側(軸線方向に交差する外側)に延出するよう軸部46に複数設けられている。各羽根部48は、軸部46の周面から半径方向外側へ離れるにつれて軸部46の頭部44側に傾くように延出する複数の羽根片48aから構成されている。実施例の羽根部48は、軸部46の周方向に互いに間隔をあけて形成された一対の羽根片48aからなり、該一対の羽根片48aが軸部46の軸線を挟んで対称に配置されている。各羽根片48aは、その外周縁が円弧状に延在するよう形成され、羽根片48aの軸部46からの延出寸法が該軸部46の周方向で一定になっている。また、クリップ42は、軸部46が通孔16,36に挿入可能な直径(外形寸法)で形成され、各羽根部48が通孔16,36よりも外形寸法が大きくなるように形成されている。更に、羽根片48aは、軸部46に近づくように半径方向内側に向けて弾性変形し得る可撓性を有しており、通孔16,36への挿入が羽根片48aの変形により許容される。そして、クリップ42は、アッパ通孔16またはロア通孔36を通過した羽根片48aが元の形状に戻ってアッパ通孔16またはロア通孔36の開口縁に引っ掛かったり、アッパ通孔16またはロア通孔36の内壁に羽根片48aが当接して干渉したりすることなどにより、軸部46の軸線方向の移動が規制された状態で装着される。なお、実施例のクリップ42は、ロア通孔側からアッパ通孔16に挿入した際に、挿入端側の羽根部48が少なくともアッパ通孔16より後側まで延出し得る寸法に設定される。また、実施例のクリップ42は、頭部44がロア連結部34に当接するまで挿入した際に、複数の羽根部48の何れかがロア通孔36の開口縁に引っ掛かると共に、別の羽根部48がアッパ通孔16の開口縁に引っ掛かるよう設定される。更に、実施例のクリップ42は、頭部44がロア連結部34に当接するまで挿入した際に、アッパ通孔16およびロア通孔36の夫々に羽根部48が嵌り込むよう設定される。
【0021】
(実施例の作用)
次に、実施例に係るスポイラ10の作用について説明する。アッパ部材12およびロア部材32を、アッパ部材12の裏面にロア部材32の接合部40を重ね合わせた状態で組み付けて治具にセットする。この際、アッパ連結部14およびロア連結部34は、振動溶着時の振動方向である左右方向に延在し、振動溶着時の振動方向と交差する前後方向に隙間Sをあけて対面した状態で組み付けられる。そして、アッパ部材12およびロア部材32を左右方向に所定の振幅で相対的に振動させる。これにより、溶着突起40aが摩擦熱により溶融し、溶融部を冷却することでアッパ部材12とロア部材32の接合部40とが接合される。
図4(a)に示すように、アッパ部材12およびロア部材32は、両部材12,32を組み付けて振動溶着により接合した後も、アッパ連結部14とロア連結部34とが前後に離間して前記隙間Sを保持している。スポイラ10は、アッパ部材12とロア部材32とを組み付けた際に、アッパ連結部14とロア連結部34との間に隙間Sがあき、アッパ連結部14およびロア連結部34の夫々が、振動溶着時の振動方向に延在している。すなわち、アッパ連結部14とロア連結部34との間に隙間Sをあけるように構成してあるから、アッパ部材12またはロア部材32の寸法のバラツキや組み付け時のバラツキなどが生じたとしても、当該隙間Sで振動溶着時(接合時)の前記バラツキを吸収して、アッパ連結部14とロア連結部34との接触を防止できる。そして、スポイラ10は、振動溶着時に、アッパ連結部14とロア連結部34とが相対的に平行移動するので、アッパ連結部14とロア連結部34とがぶつかったり、摺接したりするなどの干渉を回避でき、スムーズに振動溶着を行うことができる。従って、アッパ連結部14とロア連結部34とが接触したまま振動溶着してアッパ連結部14とロア連結部34とを接合したり、アッパ連結部14とロア連結部34とが干渉した状態で振動溶着することに起因するスポイラ10の意匠面への悪影響を防止することができる。
【0022】
次に
図4(a)に示すように、クリップ42を、振動溶着により接合されたロア部材32およびアッパ部材12の前後に重なるロア通孔36およびアッパ通孔16に対して、ロア通孔側から差し込む。
図4(b)に示すように、クリップは、両通孔16,36に挿入する際、羽根片48aが自身の傾斜に案内されて弾性変形するので、各通孔16,36にスムーズに通すことができる。そして、
図4(b)に示すように、クリップ42は、複数の羽根部48のうちの何れかが、アッパ通孔16およびロア通孔36における少なくとも一方の開口縁に、頭部44と反対側(クリップ42の挿入端側)から引っ掛かる。すなわち、羽根部48が、連結部14,34における頭部44側の面と反対側の面(クリップ42の挿入端側に位置する面)の開口縁に当接する。それにより、通孔16,36からのクリップ42の抜け出しが規制され、クリップ42が安定して装着される。実施例では、挿入側となるロア連結部34に羽根部48が頭部44と反対側から引っ掛かり、挿入側とは反対のアッパ連結部14に羽根部48が頭部44と反対側から引っ掛かっている。また、クリップ42は、ロア通孔36を通過不能な頭部44により挿入方向への移動が規制される。
図4(b)に示すように、実施例のクリップ42は、挿入側となるロア連結部34に頭部44が当接する。また、複数の羽根部48のうち何れかが、アッパ通孔16およびロア通孔36における少なくとも一方の内壁に嵌っている。それにより、アッパ通孔16およびロア通孔36の内壁と羽根部48とが当接して干渉し、クリップ42の振動や軸方向と交差する方向への移動が抑制される。実施例では、羽根部48の1つがアッパ通孔16の内壁に嵌り、別の羽根部48がロア通孔36の内壁に嵌っている。ここで、クリップ42は、挿入方向とは逆方向へ力を加えても、頭部側が開くように傾斜する羽根片48aが連結部14,34に引っ掛かって半径方向内側へ弾性変形し難いので、通孔16,36からの引き抜きは困難である。そして、スポイラ10では、両連結部14,34に装着されたクリップ42が、アッパ部材12の裏面およびロア部材32の接合部40を互いに離間させる上下方向へのアッパ部材12およびロア部材32の移動を規制する閂として機能する。そのため、スポイラ10では、クリップ42により、前記振動溶着による接合と共にアッパ部材12とロア部材32とを強固に連結し得る。
【0023】
前記クリップ42は、羽根片48aが該クリップ42を通孔16,36に挿入する際に自身を半径方向内側に弾性変形させ易いように傾斜している。そのため、アッパ通孔16およびロア通孔36にクリップ42を挿入する際に、ロア連結部34をアッパ連結部14に近付けようとする力が大きく掛からない。また、クリップ42は、羽根部48の何れかが通孔16,36の開口縁に引っ掛かることでアッパ連結部14およびロア連結部34に装着される構成であるから、両連結部14,34に対して互いを近付けるような力が大きく掛からない。このように、クリップ42は、ネジやボルトを用いた締結と異なり、アッパ連結部14およびロア連結部34を互いに近付けるように締め付けない。すなわち、
図4(b)に示すように、スポイラ10は、両連結部14,34にクリップ42を装着した際に、両連結部14,34の間に設定された隙間Sを保つことができる。このように、スポイラ10は、締め付け力を付与しないクリップ42で両連結部14,34を留めているので、アッパ連結部14やロア連結部34がクリップ42に引っ張られることはない。従って、アッパ連結部14およびロア連結部34に対するクリップ42の引っ張りに起因する意匠面の歪みを回避して、意匠面の見栄えを向上することができる。スポイラ10は、前述の如く両連結部14,34を締め付けるように力が作用しないクリップ42を用いているので、両連結部14,34間に隙間Sを設定しても当該隙S間に起因して意匠面の歪みが大きくなる等の見栄えの悪化を招くことがない。換言すると、スポイラ10は、前記クリップ42を用いることで両連結部14,34間に隙間Sを設定することができ、この隙間Sに由来する前述した作用効果が得られる。
【0024】
(変更例)
前述した実施例の構成に限定されず、以下のようにも変更可能である。
(1) 実施例では、第1部材と第2部材の接合部とを振動溶着により接合する例を挙げたが、接着剤、両面テープ、その他の接着手段により接合してもよい。
(2) 実施例では、第2部材としてのロア部材でスポイラの意匠面の一部を構成したが、第1部材のみでスポイラの意匠面を構成してもよい。また、第1部材および第2部材には、ランプや装飾部材等その他の部材が設けられてもよい。
(3) 実施例では、振動溶着時にスポイラの長手方向である左右方向に振動させる例を挙げて説明したが、振動溶着時の振動方向は、第1部材の裏面に沿った直線的な方向であれば特に限定されない。
(4) 実施例では、両通孔が前後方向に貫通する例を挙げたが、両通孔は、第1部材の裏面と第2部材の接合部との重なり方向と交差する方向に貫通していればよい。また、第1連結部および第2連結部は、第1通孔および第2通孔が前記重なり方向と交差する方向に貫通し得るよう、第1部材および第2部材から夫々突出すればよい。
(5) 実施例では、第1連結部および第2連結部が振動溶着の振動方向に平行に延在する例を挙げたが、両連結部を振動溶着の振動幅よりも大きい隙間をあけて対面させ、両連結部を互いに接離するように振動させてもよい。
(6) 実施例では、軸部が円柱状のクリップを採用したが、例えば、角柱状であってもよい。また、実施例では、1つの羽根部を軸部の周方向に並ぶ一対の羽根片から構成する例を挙げたが、1つの羽根部を軸部の周方向に並ぶ1つまたは3つ以上の羽根片から構成してもよい。また、羽根片の外周縁の形状は、直線状であってもよい。
(7) 実施例では、クリップの頭部が連結部に当接する例を挙げて説明したが、頭部と連結部との間に隙間があいていてもよい。
(8) 実施例では、第2連結部側からクリップを差し込む例を挙げて説明したが、第1連結部側からクリップを差し込んでもよい。
(9) 変更例に係る
図7(a)に示すクリップ42は、頭部44が第2連結部34に当接するまで挿入すると、第1連結部14における第1通孔16の開口縁に該頭部44と反対側から羽根部48が引っ掛かり、第2連結部34における第2通孔36の開口縁に羽根部48が引っ掛かっていない。また、別の変更例に係る
図7(b)に示すクリップ42は、頭部44が第2連結部34に当接するまで挿入すると、該第2連結部34における第2通孔36の開口縁に、該頭部44と反対側から羽根部48が引っ掛かり、第1連結部14における第1通孔16の開口縁に羽根部48が引っ掛かっていない。このように、第1連結部14および第2連結部34のうち何れか一方に羽根部48が引っ掛かるよう構成することで、頭部44と羽根部48とによりクリップ42の軸線方向の移動を規制し得る。すなわち、実施例では、クリップの羽根部が両連結部に引っ掛かる例を挙げて説明したが、第1連結部および第2連結部のうち何れか一方に羽根部が引っ掛かる構成も採用できる。
(10)
図7(a)に示すように、クリップ42は、第2通孔36の内壁に羽根部48が嵌ると共に、第1通孔16の内壁に羽根部48が嵌らないようになっている。すなわち、実施例では、羽根部が第1通孔および第2通孔の内壁に嵌る例を挙げて説明したが、第1通孔および第2通孔の何れか一方の内壁に羽根部が嵌る構成を採用し得る。また、
図7(c)に示すように、クリップ42は、羽根部48が第1通孔16および第2通孔36の何れの内壁にも嵌らないようにしてもよい。