【解決手段】脳活動計測装置は、被験者の頭蓋骨内の被計測領域に対向する位置に留置され、被計測領域に光を照射する発光部20と、被計測領域を伝搬した光を受光する受光部21と、被計測領域を介して脳波を計測する電極22とを有する複数のセンサユニット4と、複数のセンサユニット4と別体に設けられ、当該各センサユニット4に対して非接触で通信するとともに電力を供給する通信ユニット5と、を備える。各センサユニット4には、発光部20、受光部21及び電極22に加えて、通信ユニット5との間で信号を送受信する送受信部24と、通信ユニット5から送電された電力を受電する受電部とを含む電気回路部15が内蔵されている。
被験者の頭蓋骨内の被計測領域に対向する位置に留置され、前記被計測領域に光を照射する発光部と、前記被計測領域を伝搬した光を受光する受光部と、前記被計測領域を介して脳波を計測する電極とを有する複数のセンサユニットと、
前記複数のセンサユニットと別体に設けられ、当該各センサユニットに対して非接触で通信するとともに電力を供給する通信ユニットと、
を備え、前記各センサユニットは、前記発光部、前記受光部及び前記電極に加えて、前記通信ユニットとの間で信号を送受信する送受信部と、前記通信ユニットから送電された電力を受電する受電部とを含む電気回路部が内蔵されている
ことを特徴とする脳活動計測装置。
請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記通信ユニットは、前記各センサユニットから得られた計測結果に基づいて、てんかん発作の発生の有無を予測し、てんかん発作が発生すると判定した場合に、前記電極から前記頭蓋骨内の被計測領域に対して電気刺激を与えるように制御信号を送信する
ことを特徴とする脳活動計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
〔脳活動計測装置の構成〕
図1は本発明による脳活動計測システムの一実施例の概略構成を模式的に示す図である。
図1に示されるように、脳活動計測システム1は、脳活動計測装置2と、外部ユニット3とを有する。
【0019】
脳活動計測装置2は、被験者の頭蓋内に留置されるマトリックス状に配された複数のセンサユニット4(4
1〜4
n)と、頭皮上に装着自在に配置された通信ユニット5とを有し、各センサユニット4(4
1〜4
n)により検知された脳波信号は無線送信され、頭皮上に装着された通信ユニット5にて受信される。
【0020】
通信ユニット5は、帽子の一部のようなシート形状に形成されたシリコン樹脂等の絶縁材からなるベース部6と、当該ベース部6の内側に配置された複数の受信ユニット7(7
1〜7
n)と、当該各受信ユニット7(7
1〜7
n)に導電接続されたコントロールユニット8とから構成されている。
【0021】
複数の受信ユニット7(7
1〜7
n)は、複数のセンサユニット4(4
1〜4
n)と同一パターンでマトリックス状に配置されており、ベース部6内に形成された所定の回路パターンを有するフレキシブル配線板を介してコントロールユニット8と接続されている。
【0022】
コントロールユニット8は、制御装置9と、メモリ10と、無線通信装置11と、充電式のバッテリ12とを有する。制御装置9は、被験者の脳の活動に伴う脳の各領域における血流及び脳波を計測し、この計測データをメモリ10に格納すると共に、計測データに基づいて各領域の計測ポイントにおける活動レベルを判定する。
【0023】
また、制御装置9は、脳活動計測装置2により計測された各計測ポイントの血流計測データを無線通信装置11より外部ユニット3に送信する。外部ユニット3は、データベース13と、無線通信装置14とを有する。コントロールユニット8から送信された計測データは、外部ユニット3の無線通信装置14に受信され、データベース13に格納される。また、データベース13においては、計測データに添付された各計測ポイントを識別するためのアドレスコード及び計測日時を示すタイムデータに基づいて各血流計測データを時系列の順に格納する。
【0024】
〔センサユニットの構成〕
図2(a)はセンサユニット4(4
1〜4
n)の側面図であり、
図2(b)はセンサユニット4(4
1〜4
n)の長手方向に沿った断面図である。センサユニット4は、フランジ部4a、軸部4b、及び先端部4cを有するボルト形状の本体部4Mに、後述の電気回路部15(
図4)が内蔵された構成からなる。本体部4Mの軸部4bの外周面には雄ネジが刻設されている。軸部4bの長さLは被験者の頭蓋骨の厚みと同程度であり、軸部4bの外径は0.5〜2mm程度が好ましい。先端部4cの径は軸部4bの外径以下であり、丸みのついた湾曲形状をなし、先端に向かって徐々に細くなっている。フランジ部4aの外径は、軸部4bの外径よりもやや大きくなっており、後端側にプラスドライバ等の工具が係合できる係合溝4dが設けられている。
【0025】
軸部4bは、隣接するねじ山の頂点を結ぶ直線が中心軸線と平行になるストレート形状でもよく、先端に向かって徐々に細くなるテーパ形状でもよい。本体部4Mは、生体親和性(生体適合性)、導電性及び非磁性の全てを満たす材料からなり、例えば、チタン、チタン合金、プラチナ等で構成される。
【0026】
図3を用いて各センサユニット4(4
1〜4
n)の取り付け方法を説明する。まず、被験者の頭部Hにおいて、電極取付箇所の頭皮Br1の外側から頭蓋骨Br2を貫通する貫通孔を形成する。貫通孔の内径は、本体部の軸部4bの外径よりもわずかに小さい程度とする。次に、プラスドライバ等の工具を用いて、この貫通孔に本体部4Mをねじ込む。軸部4bの長さLが頭蓋骨Br2の厚みと同程度となっているため、本体部4Mのフランジ部4aが頭蓋骨Br2の外表面に当接するまで本体部4Mをねじ込むと、先端部4cは頭蓋骨Brの内側の脳硬膜Br3に押圧接触する。
【0027】
先端部4cは、脳硬膜Br3に押圧接触するが、そのねじ込み度合いは、単に膜表面に接触する程度から脳硬膜Br3が僅かに凹む程度まで押圧力を被験者の状況に応じて自由に調整しても良い。ただし、先端部4cが脳硬膜Br3を貫通しないように、すなわち、くも膜Br4、脳軟膜Br5及び大脳皮質Br6のいずれにもが到達しないように本体部4Mのねじ込み度合い及び押圧力を調整する。
【0028】
各センサユニット4(4
1〜4
n)における本体部4Mの先端部4cが脳硬膜Br3に接触押圧しているため、頭蓋骨Br2や頭皮Br1を介して計測する場合と比較して、空間分解能が高く、脳波信号を高精度に計測することができる。また、頭蓋骨Br2の一部を剥がして再度取り付けるといった大掛かりな外科的手術は不要であるため、被験者に対する負担を軽くすることができる。さらに、センサユニット4(4
1〜4
n)をねじ込むことで、水密性を高くしてセンサユニット4(4
1〜4
n)を頭蓋骨Br2に取り付けることができる。
【0029】
〔センサユニットと通信ユニットとの接続関係〕
図4は脳波活動測定装置2における複数のセンサユニット4(4
1〜4
n)と通信ユニット5との接続関係を示すブロック図である。
図4に示されるように、コントロールユニット8内の制御装置9は、ベース部6の内部に形成されたフレキシブル配線板の回路パターン及びケーブルを介して、複数の受信ユニット7(7
1〜7
n)と接続されている。
【0030】
各センサユニット4(4
1〜4
n)における電気回路部15は、発光部20と、受光部21と、脳波計測用電極22と、センサ制御部23と、送受信部24と、電力供給部25とを有する。センサ制御部23は、通信ユニット5内の制御装置9からの制御信号を受信することにより各計測ポイントでの血流及び脳波を計測すると共に、計測値を制御装置9に送信する。
【0031】
電気回路部15において電力供給部25は、所定周波数の電磁波をアンテナから放射する一方、当該アンテナを介して電磁波を受けて電力を生成し、これを電気回路部15の各部に供給する。すなわち電気回路部15は自らバッテリなどの電源を有さず、外部からアンテナを介して受ける電磁波に基づいて必要な電力を生成する、いわゆるパッシブ型ICタグと同様の回路を有している。
【0032】
送受信部24は、センサ制御部23による制御信号を所定形式(アンテナを通じた電波伝送に適した周波数帯域など)に変調してアンテナを介して送出する。また送受信部24はアンテナを介して受信した信号を復調して元の制御信号を抽出し、センサ制御部23はこの制御信号に基づいて各種動作を制御する。
【0033】
すなわちセンサ制御部23は、脳波計測用電極22で拾われた電気信号や受光部で光電変換により生成された電気信号を増幅し、必要に応じて周波数多重や時分割多重などの多重化を行った後、所定形式に変調してアンテナを介して送出する。
【0034】
通信ユニット5における各受光ユニット7(7
1〜7
n)は、送受信部26を有し、アンテナを介して対応するセンサユニット4(4
1〜4
n)から送出される電波を受信し、復調した後にコントロールユニット8内の制御装置9に送出する。そして制御装置9は、各脳波計測用電極22で検出された脳波信号を分離して取り出す。
【0035】
コントロールユニット8において、制御装置9は、各センサユニット4(4
1〜4
n)に対応する計測ポイントのアドレス順に計測指示コード(アドレスコード、血流計測コード、脳波計測コードなど)を送信すると共に、各計測ポイントP1〜Pnからの計測データ(血流値、脳波の計測値)を受信すると、計測データに基づいて脳活性度を判定する。
【0036】
〔センサユニットの内部構造〕
図5に各センサユニット4(4
1〜4
n)における本体部4M及び電気回路部15の内部構造を部分的に示す。電気回路部15は、頭部表面にレーザ光(出射光)Aを照射するレーザダイオードからなる発光部20と、受光した透過光量に応じた電気信号を出力する受光素子からなる受光部21と、発光部20から被計測領域に向けて照射されたレーザ光に対する屈折率と、被計測領域を通過して入射され受光部に進む入射光B、Cの屈折率とが異なるように構成されたホログラムからなる光路分離部材30とを有する。
【0037】
また、光路分離部材30の外周には、脳波を計測するための脳波計測用電極22が嵌合しており、脳波計測用電極22は円筒形状に形成され、光路分離部材30の先端面から側面に形成されている。脳波計測用電極22の上端は、発光部20及び受光部21とともにそれぞれセンサ制御部23と電気的に接続されている。
【0038】
脳波計測用電極22は、先端で内側に折り曲げられた接触子22Tが光路分離部材30の端面よりも突出している。そのため、光路分離部材30の端面が被計測領域に当接したとき、接触子22Tも当該被計測領域に接触して脳波計測が可能になる。
【0039】
また、脳波計測用電極22は、光路分離部材30の外周及び先端縁部に蒸着やめっき等の薄膜形成法により導電性膜を被覆する方法で形成することも可能である。さらに、脳波計測用電極22の材質として、例えば、ITO(Indium
Tin Oxide)と呼ばれる酸化インジウム錫による透明な導電性膜を光路分離部材の外周及び先端縁部に形成することも可能である。この透明導電性膜で脳波計測用電極22を形成した場合には、脳波計測用電極22が透光性を有することになるため、光路分離部材30の外周及び先端面全体を脳波計測用電極22で覆うことが可能になる。
【0040】
このセンサユニット4(4
1〜4
n)において、本体部4Mの先端部から光路分離部材30の端面と脳波計測用電極22の接触子22Tが露出または突出するように、電気回路部15が本体部4Mに内蔵されている。この本体部4Mの先端部は、その先端から光路分離部材30及び脳波測定用電極22の接触子22Tが露出しているが、当該先端全体として丸みを帯びた湾曲形状をなしており、当該先端部に当接押圧する人体部位(頭部の計測領域である脳硬膜)に対して損傷を与えないように加工されている。
【0041】
また、通常では、脳の断層写真を撮影する等して血流の状態を計測しながら脳波を計測することはできないが、各センサユニット4(4
1〜4
n)に脳波測定用電極22を設けることにより、血流と脳波を同時に計測することが可能になり、脳内の血流と脳波との相関関係を詳しく分析することが可能になる。
【0042】
血流計測を行なう際、コントロールユニット8の制御装置9は、外部ユニット3からの指令または予め設定されたプログラムに基づいて、多数配列されたセンサユニット4(4
1〜4
n)の中からアドレス順に任意のセンサユニット4(4
1〜4
n)を選択し、当該センサユニット4(4
1〜4
n)の発光部20からレーザ光を発光させる。このとき、発光部20から出射されるレーザ光は、酸素飽和度の影響を受けない波長λ1(λ1≒805nm)と、酸素飽和度の影響を受ける波長λ2(λ2≒680nm)が出力される。
【0043】
また、各センサユニット4(4
1〜4
n)は、本体部4Mの先端部(光路分離部材30の端面)が頭部の被計測領域(脳硬膜)に当接した状態に保持されている。センサユニット4(4
1〜4
n)の発光部20から出射されるレーザ光は、光路分離部材30を透過して頭部の脳硬膜に対して垂直方向から脳内部に向けて入射される。脳内部においては、レーザ光が脳中心部に向けて進行すると共に、レーザ光が入射位置を基点として周辺に向けて伝搬する。このレーザ光の脳内の光伝搬経路は、側方からみると円弧状に形成され、頭部の血管を通過して脳硬膜に戻る。
【0044】
このように光伝搬経路を通過した光は、血管を流れる血液に含まれる赤血球の量または密度に応じた透過光量に変化しながら受光側のセンサユニット4(4
1〜4
n)に到達する。また、レーザ光は、脳内部を伝搬する過程で透過光量が徐々に低下するため、レーザ光が入射位置の基点から離れる程、距離に応じて受光部21の受光レベルが低下する。従って、レーザ光の入射位置からの離間距離よっても受光される透過光量が変化する。
【0045】
複数のセンサユニット4(4
1〜4
n)において、任意の発光側基点となるセンサユニッ4
k(1≦k≦n)自身と、その隣りのセンサユニット4
k+1と、さらに跨いだ隣りのセンサユニット4
k+2とは、受光側基点(計測ポイント)となる。
【0046】
光路分離部材30は、例えば、透明なアクリル樹脂の密度分布を変化させることで、レーザ光を直進させ、入射光を隣接及び隣々する各センサユニット内の受光部21に導くように形成されている。また、光路分離部材30は、発光部20から出射されたレーザ光を基端側(フランジ部4a側)から先端側に透過させる出射側透過領域と、脳内を伝搬した光を先端側から基端側に透過させる入射側透過領域と、出射側透過領域と入射側透過領域との間に形成された屈折領域とを有する。
【0047】
この屈折領域は、レーザ光を透過させるが、血流を通過した入射光を反射させる性質を有する。屈折領域は、例えば、アクリル樹脂の密度を変化させたり、この領域に金属薄膜を設けたり、金属の微粒子を分散させることにより形成される。これにより、光路分離部材30の先端から入射された光は全て受光部21に集光される。
【0048】
〔血流計測方法〕
ここで、血流計測方法の原理について説明する。
図6は血流計測方法の原理を説明するための図である。
【0049】
図6に示されるように、外部から血液に対しレーザ光を照射すると、血液層に入射したレーザ光は、通常の赤血球による反射散乱光成分、及び付着血栓による反射散乱光成分の両成分の光として、血液中を透過して進行する。
【0050】
光が血液層を透過する過程において受ける影響は、血液の状態によって刻々と変化するため、透過光量(反射光量としてもよい)を連続的に計測し、その光量変化を観測することによりさまざまな血液の性質の変化を観察することが可能となる。
【0051】
脳の活動が活発になると、脳内での酸素消費量が増加するため、酸素を運搬する赤血球のヘマトクリット及び血液の酸素飽和度に起因する血流の状態が光量の変化となって現れる。
【0052】
ここで、ヘマトクリット(Hct:単位体積当たりの赤血球の体積比、即ち、単位体積当たりの赤血球の体積濃度を示す。Htとも表記する。)等の変化も同様にヘモグロビン密度の変化に関係する要因であり、光量変化に影響を及ぼす。本実施例における基本的な原理は、このようにレーザ光を用いた、血流による光路・透過光量の変化で血流の状態を計測し、さらには脳内の血流状態から脳活動状態を計測する点である。
【0053】
血液の光学的特性は、血球成分(特に赤血球の細胞内部のヘモグロビン)によって決定される。また、赤血球は、ヘモグロビンが酸素と結合しやすい性質を有しているので、脳細胞に酸素を運搬する役目も果たしている。そして、血液の酸素飽和度は、血液中のヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかを表す数値である。また、酸素飽和度は動脈血液中の酸素分圧(PaO2)と相関があり、呼吸機能(ガス交換)の重要な指標である。
【0054】
酸素分圧が高ければ酸素飽和度も高くなることが分かっており、酸素飽和度が変動すると、血液を透過した光の透過光量も変動する。そのため、血流の計測を行なう際は、酸素飽和度の影響を除くことでより正確な計測が可能になる。
【0055】
また、酸素分圧(PaO2)に影響を与えている因子としては、肺胞換気量があり、さらには大気圧や吸入酸素濃度(FiO2)などの環境、換気/血流比やガス拡散能、短絡率などの肺胞でのガス交換がある。
【0056】
コントロールユニット8の制御装置9は、上記センサユニット4(4
1〜4
n)の受光部21によって生成された透過光量(光強度)に応じた信号の処理を行なう演算手段を有する。この演算手段では、後述するようにセンサユニット4(4
1〜4
n)の受光部21から出力された計測値に基づいて血流状態を検出するための演算処理を行なう。
【0057】
発光部20のレーザ光は、所定時間間隔(例えば、10Hz〜1MHz)で間欠的に照射されるパルス光又は連続光として照射する。この場合、パルス光を用いる場合には、パルス光の点滅する周波数である点滅周波数を、血液流速に応じて決定し、連続的に又は該点滅周波数の2倍以上の計測サンプリング周波数で計測する。また、連続光を用いる場合には、計測サンプリング周波数を、血液流速に応じて決定して計測する。
【0058】
血液中のヘモグロビン(Hb)は、呼吸をすることにより肺で酸素と化学反応を生じてHbO2となり血液中に酸素を取り込むこととなるが、呼吸の状態等により、血液に酸素を取り込んだ度合(酸素飽和度)が微妙に異なる。すなわち、血液に光を照射すると、この酸素飽和度によって光の吸収率が変化するという現象を発見し、この現象は上記レーザ光による血流の計測において外乱要素となるため、酸素飽和度による影響を除去することにした。
【0059】
図7はレーザ光の波長と、血液の酸素飽和度を変えた場合の光の吸収状態の関係を示すグラフである。体内では赤血球に含まれるヘモグロビンは、酸素と結合した酸化ヘモグロビン(HbO2:グラフI)と酸化されていないヘモグロビン(Hb:グラフII)に分けられる。この2つの状態では、光に対する光吸収率が大きく異なる。例えば、酸素をたっぷりと含んだ血液は鮮血として色鮮やかである。一方、静脈血は酸素を手放しているのでどんよりと黒ずんでいる。これらの光吸収率の状態は、
図7のグラフI,IIに示すように広い光の波長領域で変化している。
【0060】
この
図7のグラフI,IIから特定の波長を選択することにより、生体内の酸素代謝などにより赤血球中のヘモグロビンの酸素飽和度が大きく変動しても、光吸収率が影響を受けないで血液に光を照射して血流を計測できることが分かる。
【0061】
赤血球中のヘモグロビンの酸素飽和度によらず、ある波長領域では光吸収率が小さくなっている。これにより、光が波長λによって血液層を通過しやすいか否かが決まることになる。従って、所定の波長領域(例えば、λ=800nm近辺から1300nm近辺)の光を用いれば、酸素飽和度の影響を小さく抑制して血流を計測することが可能となる。
【0062】
よって、レーザ光の波長領域は、ほぼ600nm近辺から1500nmを利用し、これにより、ヘモグロビン(Hb)の光吸収率が実用上十分低くかつ、この領域に等吸収点Xを含むため、2波長以上の計測点を活用し、計算上、等吸収点とみなせる。つまり、酸素飽和度の影響を受けない仕様とすることが可能となる。尚、それ以外の波長領域、例えば、λ=600nm未満では、光吸収率が高くなりS/Nが低下し、λ=1500nmをこえた波長では、受光部の受光感度が十分でなく血液中の他の成分等の外乱が影響し精度のよい計測ができなくなる。
【0063】
このため、本実施例では、発光部20に波長可変半導体レーザからなる発光素子を用い、発光部20から発光されるレーザ光の波長を、グラフI,IIで等吸収点Xとなるλ1=805nm(第1の光)と、グラフIにおいて光吸収率が最も低い波長λ2=680nm(第2の光)の2種類に設定する。
【0064】
ここで、レーザ光が光伝搬経路を介して伝搬した光を受光する場合の透過光量に基づく赤血球濃度R,Rp,Rpwの検出方法について説明する。
【0065】
従来の計測方法で行なわれた1点1波長方式を用いた場合の赤血球濃度Rの演算式(式1)は、次式のように表せる。
R=log10(Iin/Iout)=f(Iin,L,Ht)…(式1)
(式1)の方法では、赤血球濃度が発光部20から出射されたレーザ光の入射透過光量Iinと、発光部20と受光部21との距離(光路長)Lと、前述したヘマトクリット(Ht)との関数になる。そのため、(式1)の方法で赤血球濃度を求める際は、3つの因子によって赤血球濃度が変動するため、赤血球濃度を正確に計測することが難しい。
【0066】
本実施例による2点1波長方式を用いた場合の赤血球濃度Rpの演算式は、次式のように表せる。
Rp=log10{Iout/(Iout−ΔIout)}=Φ(ΔL,Ht)…(式2)
(式2)の方法では、レーザ光から距離の異なる2点(センサユニットの各受光部)で受光するため、赤血球濃度は2つの受光部間距離ΔLと、前述したヘマトクリット(Ht)との関数になる。そのため、(式2)の方法で赤血球濃度を求める際は、2つの因子のうち受光部間距離ΔLが予め分かっているので、赤血球濃度がヘマトクリット(Ht)を係数とした値として計測される。よって、この演算方法では、赤血球濃度をヘマトクリット(Ht)に応じた計測値として正確に計測することが可能になる。
【0067】
さらに、本実施例の変形例による2点2波長方式を用いた場合の赤血球濃度Rpwの演算式は、次式のように表せる。
Rpw
=[log10{Iout/(Iout−ΔIout)}λ1]/[log10{Iout/(Iout−ΔIout)}λ2]
=ξ(Ht)・・・(式3)
(3式)の方法では、発光部20から出射されるレーザ光の波長を異なるλ1,λ2(本実施例では、λ1=805nm、λ2=680nmに設定する)とすることで赤血球濃度をヘマトクリット(Ht)のみの関数として計測される。よって、この演算方法によれば、赤血球濃度をヘマトクリット(Ht)に応じた計測値として正確に計測することが可能になる。
【0068】
〔血流に基づく脳活動計測原理〕
図8は脳の血流から脳活動を計測する場合の原理を説明するための図である。
図8に示されるように、脳及び脊髄は、脳脊髄膜(硬膜、くも膜、柔膜の3層構造)に包まれており、当該脳脊髄膜は頭蓋骨及び頭皮で覆われている。
【0069】
各センサユニット4(4
1〜4
n)は、光路分離部材30の先端面(センサ面)を硬膜に接触させて血流の計測を行なう。センサユニット4
kの発光部20から出射されたレーザ光は、脳脊髄膜(脳硬膜Br3、くも膜Br4、脳軟膜Br5)及び髄液(くも膜下腔、脳室及び脳槽に存在)を透過して脳内部(大脳皮質Br6)に進行する。そして、頭部に照射された光は、
図8中破線で示すような円弧状パターンCPで放射方向(深さ方向及び半径方向)に伝搬する。
【0070】
この光の伝搬は、レーザ光が照射された基点から半径方向に離間するほど光伝搬経路が長くなって光透過率が低下するため、発光側のセンサユニット4
kに所定距離離間して隣接されたセンサユニット4
k+1の受光レベル(透過光量)は強く、その次はその隣りに所定距離離間して設けられたセンサユニット4
k+2の受光レベル(透過光量)がセンサユニット4
k+1の受光レベルより弱く検出される。また、発光側のセンサユニット4
kの受光部でも、脳からの光を受光する。これらの複数のセンサユニット4(4
1〜4
n)で受光された光強度に応じた検出信号をマッピング処理することで血流の変化に応じた光強度分布が縞模様の図形(等高線)として得られる。
【0071】
また、各センサユニット4(4
1〜4
n)から出力された検出信号(受光した透過光量に応じた信号)を前述した(式2)または(式3)のIoutとすることで赤血球濃度をヘマトクリット(Ht)に応じた計測値(酸素飽和度に影響されない値)として正確に計測することが可能になる。
【0072】
〔てんかん予防方法〕
本実施形態における脳活動計測システム1では、脳波活動計測装置2は、複数のセンサユニット4(4
1〜4
n)を用いて、被験者の血流及び脳波を同時に計測することにより、被験者のてんかん発作を事前に予測することが可能である。さらに脳波活動計測装置2は、各センサユニット4(4
1〜4
n)の脳波計測用電極22を脳波信号の検知のみならず、電気刺激するのにも用いることにより、てんかん発作の発生前に刺激を与えることで発作の発生を防止したり、発作の症状を和らげたりすることもできる。
【0073】
コントロールユニット8の制御装置9は、脳波計測用電極22により測定された脳波から、被験者にてんかん発作の発生が近づいているか否かを判定する。制御装置9は、てんかん発作が近いと判定した場合、刺激信号を生成し、脳波計測用電極22を介して被験者の頭部内に電気刺激を与える。
【0074】
脳波計測用電極22から与えられた電気刺激は、頭部内を伝搬し、例えば迷走神経を刺激する。迷走神経が刺激されることにより、てんかん発作の発生が抑制される。
【0075】
〔変形例〕
上記実施形態では、各通信ユニット7(7
1〜7
n)を頭皮Br1の外側に配置する例(
図3)について説明したが、
図9に示すように、頭皮Br1の内側、すなわち頭皮Br1と頭蓋骨Br2との間に通信ユニット50(50
1〜50
n)を配置するようにしてもよい。この場合、通信ユニット50(50
1〜50
n)は、頭皮Br1内に留置されるため、
図3の通信ユニット7の構成に加えて、コントロールユニット8と同様の構成回路をそれぞれ内蔵する必要がある。従って各通信ユニット50(50
1〜50
n)ごとに制御装置9を有し、それぞれ外部ユニット3と通信するようになされている。
【0076】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるのもではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0077】
また本発明の技術は、てんかん以外の運動疾患(振戦、ジストニア)、うつ、神経変性疾患、頭痛・偏頭痛、難治性疼痛、リハビリテーション、機能再建の分野にも適用可能となる。