【課題】充填品の凸部の形状を欠損することなく、抜きしろが小さい外観の良好な樹脂成形品を製造することができる樹脂成形品の製造方法、及びその製造方法を用いた樹脂成形品を提供する。
【解決手段】凸部5を有する成形型を用いて、フィルムを、前記成形型の凸部5が反転した形状の凹部を有するフィルム成形体に成形する成形工程と、前記フィルム成形体の凹部に硬化性樹脂を充填することで、フィルム成形体の凹部に対応する形状の凸部5を有する充填品1Cを得る充填工程と、充填品1Cの凸部5を鉛直方向に向け、刃先を鉛直方向とは反対の方向に向けて配置された、周囲が閉じた抜き刃7の内側に挿入することで、充填品1Cを刃先に配置し、打ち抜き位置を決める位置決め工程と、抜き刃7が充填品1Cの凸部5を打ち抜く打ち抜き工程と、を有する樹脂成形品の製造方法。
前記成形工程は、前記フィルムを、前記成形型の凸部が反転した形状の凹部を複数有するフィルム成形体に成形する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製造方法で製造され、前記充填品の凸部が打ち抜かれた後に前記凸部の周囲に残る前記充填品の凸部が形成されていない部分である抜きしろの幅が0.3mm以下である樹脂成形品。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車などの車体表面を装飾する装飾品として、樹脂などを所望の文字や形状に成形した立体エンブレムが用いられることがある。この立体エンブレムとしては、例えば、樹脂を射出成形することで目的の形状とした射出成形品と、フィルムに成形型の凸部の形状を転写した凹部を付与し、付与された凹部の内部に樹脂を充填することで凹部に対応する形状の凸部を有する充填品とし、その後充填品の凸部を打ち抜くことで目的の形状とした樹脂成形品と、が挙げられる。
【0003】
立体エンブレムが、後者である場合、生産性の観点から、一枚のフィルムに複数個の凹部を付与し、付与された複数の凹部の内部に樹脂を充填した充填品の凸部を同時に打ち抜くことが行われる。
充填品の凸部の打ち抜きは、凸部のみを正確に打ち抜くため、充填品を固定し打ち抜き位置を決定する必要がある。位置を決定する方法として、例えば、あらかじめフィルムに位置決めのためのピン穴を設け、そのピン穴に基づき打ち抜き位置を決定する方法や、充填品の端部(充填品の凸部が形成されていない部分の端部)を基準位置として打ち抜き位置を決定する方法が用いられる。
【0004】
充填品は、フィルムに成形型の凸部の形状を転写した凹部を付与するとき、並びに付与された凹部の内部に樹脂を充填するときに、ピン穴、充填品の平坦部(充填品の凸部が形成されていない部分)、及び充填品の端部に歪みを生じることがある。特に充填する樹脂が硬化性樹脂である場合、硬化性樹脂が硬化する際、体積収縮を起こし易く、歪みが顕著に現れる傾向にある。そのため、ピン穴や充填品の端部を基準位置として打ち抜き位置を決定しても、充填品の凸部の位置と実際に打ち抜かれる位置にずれが生じ、充填品の凸部の一部が切断されるなどの不具合を生じることがあった。
この不具合を減少させるため、充填品の凸部を打ち抜く場合に、充填品の凸部の大きさよりも大きい抜き刃を用いることで、多少の位置ずれが発生しても充填品の凸部を傷つけることなく打ち抜くことができる方法が採用されていた。
【0005】
他方、成形シートを精度良く打ち抜く抜き型として、弾性部材と、該弾性部材の上に抜き刃よりも上方に突出するように設けられて成形品の周縁リブを支持する支持部材とを備え、支持部材の先端面を上方に向けて凸をなす湾曲面にしている抜き型が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、被裁断物がトムソン刃に接触して欠損することを防止できるトリミング装置として、ベース部材の表面から上方へ突設されるトムソン刃と、そのトムソン刃により囲繞される内周部に開口形成される刃型凹所と、刃型凹所を囲繞しているトムソン刃と衝合可能に形成される刃受けとを備え、その刃受けとトムソン刃との間で被裁断物を押圧して所定形状に裁断するトリミング装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の樹脂成形品の製造方法及び樹脂成形品について詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0017】
<樹脂成形品の製造方法>
本発明の樹脂成形品の製造方法は、凸部を有する成形型を用いて、フィルムを、前記成形型の凸部が反転した形状の凹部を有するフィルム成形体に成形する成形工程と、前記フィルム成形体の凹部に、硬化性樹脂を充填することで、フィルム成形体の凹部に対応する形状の凸部を有する充填品を得る充填工程と、前記充填品の凸部を鉛直方向に向け、刃先を鉛直方向とは反対の方向に向けて配置された、周囲が閉じた抜き刃の内側に前記充填品の凸部を挿入することで、前記充填品を刃先に配置し、打ち抜き位置を決める位置決め工程と、前記抜き刃が前記充填品の凸部を打ち抜く打ち抜き工程と、を有する。
【0018】
なお、本明細書における「鉛直方向」とは、重力方向(水平方向を0°としたときの90°の方向)のみならず、充填品が凸部の自重により抜き刃に固定される範囲で重力方向に対して傾斜した略鉛直な方向(例えば、90°±15°)も包含される。
【0019】
本発明の樹脂成形品の製造方法は、成形工程において、フィルムを、成形型の凸部が反転した形状の凹部を1つ有するフィルム成形体に成形する場合であっても、成形型の凸部が反転した形状の凹部を複数有するフィルム成形体に成形する場合であっても、適用することができる。特に、成形型の凸部が反転した形状の凹部を複数有するフィルム成形体に成形する場合、成形時にフィルム成形体に発生する歪みが大きくなるため、本発明の効果がより顕著に現れる。
【0020】
本発明者らは、本発明の効果が得られる理由を以下のように推定している。
本発明の樹脂成形品の製造方法は、充填品の凸部を鉛直方向に向け、刃先を鉛直方向とは反対の方向に向けて配置された周囲が閉じた抜き刃の内側に、充填品の凸部を挿入し、充填品の凸部が抜き刃の内側に収まるように打ち抜き位置を決定する。これにより、打ち抜き工程の前工程である成形工程や充填工程において発生するフィルム成形体の平坦部又は充填品の平坦部の歪みの影響を受けにくく、その後の打ち抜き工程において充填品の凸部を欠損せずに打ち抜くことができると考えられる。つまり、従来の中空樹脂容器を打ち抜く方法においては、成形工程で歪みが生じても被打ち抜き物が柔軟なため打ち抜き時に歪みが緩和され、打ち抜き時に凸部を欠損するといった問題は発生しなかったが、硬化性樹脂を充填した充填品では歪みが緩和されないため、打ち抜きによる充填品の凸部の欠損が発生し易いところ、本発明によれば、硬化性樹脂の充填品であっても打ち抜きによる充填品の凸部の欠損の発生が抑えられる。
また、充填品の凸部を鉛直方向に向けたときには、充填品の凸部の自重により凸部が抜き刃の内側に入り込み、自然に打ち抜き位置が固定されるので、打ち抜き時に位置ずれが抑制されると考えられる。
従って、本発明は、充填品の凸部に対する打ち抜きの精度が高く、充填品の凸部の断面形状の大きさと抜き刃の大きさとの寸法差(すなわち、打ち抜き後の樹脂成形品の抜きしろ)を小さくすることができ、結果として、打ち抜き後の樹脂成形品の形を、抜きしろの小さい目的の形状に近づけることができると考えられる。
【0021】
[成形工程]
本発明の樹脂成形品の製造方法は、凸部を有する成形型を用いて、フィルムを、前記成形型の凸部が反転した形状の凹部を有するフィルム成形体に成形する成形工程を有する。
本発明における成形工程は、複数の樹脂成形品を同時に製造し生産性を向上させる観点から、フィルムを、成形型の凸部が反転した形状の凹部を複数有するフィルム成形体に成形することが好ましい。
成形工程においてフィルム成形体を成形する方法は特に限定されないが、例えば、予め所定の形状に模られた凸部を有する成形型(凸型)と、前記凸部を有する成形型の凸部に対応する凹部を有する成形型(凹型)と、を用いてフィルムをプレスし加熱により賦形を行う方法や、予め所定の形状に模られた凸部を有する成形型に、フィルムを密着させ加熱により賦形を行う方法が挙げられる。
成形型にフィルムを密着させる方法としては、例えば、真空成形、圧空成形などの方法が挙げられる。また、真空吸引下において凸型と凹型によるプレスを行うなど、上記の方法を組み合わせて用いてもよい。
加熱の方法は、フィルムに賦形を行うことができる温度に制御できる方法から選択され、用いるフィルムの材質に合わせて適宜選択することができる。
成形型は、加熱と圧力に耐え得る材質から選択され、例えば、金型、樹脂型、木型、石膏型などが挙げられる。中でも、温度を制御しやすい観点から、金型が好ましい。
【0022】
本発明におけるフィルムの材質は、成形工程においてフィルム成形体の形状を維持できる樹脂から選択される。フィルムの樹脂として、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
本発明におけるフィルムは、単層のフィルムであっても、2層以上が積層されたフィルムであってもよい。2層以上が積層されたフィルムである場合、同じ材質の層を積層しても、異なる材質の層を積層してもよい。
【0023】
本発明におけるフィルムは、金属光沢を有する層や着色層などの意匠性を向上させる層、及びフィルムの表面を保護する表面保護層などを含んでもいてもよい。
【0024】
金属光沢を有する層は、錫、インジウム、アルミニウム、銀、クロム、ニッケル、マグネシウム、金等の金属を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法等の方法により、フィルム上に形成することができる。
金属光沢を有する層は、均一な層を形成する観点から、蒸着法を用いて形成することが好ましい。
【0025】
着色層は、無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤を樹脂に混合した着色層形成用組成物をフィルム上に付与することで形成してもよい。また、着色層形成用組成物をスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェットプリンター印刷、フレキソ印刷などの方法によりフィルム上に印刷することで形成してもよい。
また、フィルム自体に着色剤を練り込んだ着色フィルムを、粘着剤によりフィルムと貼り合わせ、前記着色フィルムを着色層としてもよい。
【0026】
本発明における成形工程は、例えば、
図1に示すように、フィルム1Aのピン穴2を、凸部を有する成形型3のピン4に填め込み、前記凸部に対応する形状の凹部を有する成形型(不図示)でプレスし、フィルム1Aを、凸部を有する成形型3に密着させ、加熱することで、フィルム1Aを成形型3の凸部が反転した形状の凹部を有するフィルム成形体1Bに成形する工程とすることができる。
【0027】
フィルム成形体は、加熱による収縮等によりフィルム成形体の端部やピン穴付近において歪みが生じることがある。フィルム成形体の端部やピン穴付近に歪みが発生した場合、成形工程と後述する充填工程の間に、歪んだ部分を除去する除去工程を設けてもよい。
【0028】
[除去工程]
本発明の樹脂成形品の製造方法は、フィルム成形体の歪み部分を除去する除去工程を有していてもよい。除去工程において、フィルム成形体の端部やピン穴の付近に生じた歪み部分を除去する方法は特に限定されない。
歪み部分を除去する方法として、例えば、
図2に示すように、凸部5を有するフィルム成形体1Bのピン穴2に、抜き刃7及びピン4が配置された抜き型6のピン4を填め込み、抜き刃7によりフィルム成形体1Bの平坦部を裁断し、歪み部分を除去する方法が挙げられる。
【0029】
[充填工程]
本発明の樹脂成形品の製造方法は、成形工程により成形された、成形型の凸部が反転した形状の凹部を有するフィルム成形体の凹部に、硬化性樹脂を充填することで、フィルム成形体の凹部に対応する形状の凸部を有する充填品を得る充填工程を有する。
充填工程におけるフィルム成形体の凹部に硬化性樹脂を充填する方法は、特に限定されず、注入法やコート法などにより行うことができる。
【0030】
硬化性樹脂は、フィルム成形体の凹部に充填後、硬化させることができる樹脂から選択される。硬化性樹脂の硬化は、加熱により行ってもよく、光の照射により行ってもよく、2種以上の樹脂を反応させて行ってもよい。すなわち、硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であっても、反応性樹脂であってもよい。
【0031】
硬化性樹脂としては、例えば、熱硬化性のウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂、並びに、光硬化性のアクリル樹脂、及びエポキシ樹脂等の光硬化性樹脂などが挙げられる。
【0032】
本発明の充填工程において、硬化性樹脂が硬化することで、硬化性樹脂が体積収縮を起こし、充填品の端部や平坦部に歪みが生じることがある。
【0033】
[粘着剤層付与工程]
本発明の樹脂成形品の製造方法は、粘着剤層付与工程を有してもよい。
粘着剤層は、前記充填工程を経た後のフィルムにおける硬化性樹脂が充填されることで平坦化した面(充填品の凸部とは反対側の面)に形成されることが好ましい。また、粘着剤層の形成は、前記平坦化した面に粘着剤を塗布する方法で行ってもよく、剥離フィルム等に粘着剤を塗布し粘着剤層を形成した後、前記平坦化した面に粘着剤層を転写する方法で行ってもよい。
【0034】
前記平坦化した面や剥離フィルムに粘着剤を塗布する方法としては、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等を用いた公知の方法が挙げられる。
【0035】
本発明における粘着剤層付与工程で用いる粘着剤は、例えば、(メタ)アクリル系、ウレタン系などの粘着剤が挙げられる。
【0036】
粘着剤層の厚さは、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。粘着剤層の厚さとして、例えば10μm〜100μmの範囲が挙げられる。
【0037】
粘着剤層は、剥離フィルムによって粘着剤層の表面が保護されていてもよい。
剥離フィルムとしては、粘着剤層からの剥離が容易に行なえるものであれば特に限定されず、例えば、剥離処理剤を用いて少なくとも片面に易剥離処理が施された樹脂フィルム(例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム)が挙げられる。剥離処理剤として、例えば、フッ素系樹脂、パラフィンワックス、シリコーン、長鎖アルキル基化合物などが挙げられる。
【0038】
粘着剤層は、市販の両面テープ等を用いることもできる。
【0039】
[位置決め工程]
本発明の樹脂成形品の製造方法は、前記充填品の凸部を鉛直方向に向け、刃先を鉛直方向とは反対の方向に向けて配置された、周囲が閉じた抜き刃の内側に前記充填品の凸部を挿入することで、前記充填品を刃先に配置し、打ち抜き位置を決める位置決め工程を有する。
【0040】
本発明における位置決め工程は、充填品の凸部を鉛直方向に向けて周囲が閉じた抜き刃の内側に挿入し、抜き刃の内側に充填品の凸部が収まるように刃先に載せる。これにより、硬化性樹脂が充填されたフィルム成形体である充填品の凸部が、その自重により抜き刃に填り充填品が刃先に固定され、後述の打ち抜き工程における打ち抜き時の位置ずれが抑制される。さらに、充填品の凸部自体が充填品の位置決めに寄与するため、前記成形工程及び前記充填工程において、フィルム成形体や充填品に歪みが発生したとしても、所定の位置に充填品を配置することができる。
【0041】
従来、樹脂成形品の位置決めは、
図3に示すように、打ち抜き機の下テーブル9に、位置合わせ治具8を設置し、該位置合わせ治具8に充填品1Cの端部を合わせ、凸部5が鉛直方向とは反対の方向を向くように充填品1Cを下テーブル9に載置することで行われていた。なお、打ち抜き機には、抜き刃7の刃先が鉛直方向を向くように上テーブル10に抜き型6が設置される。このように充填品の位置を決める方法では、充填工程において生じる充填品の端部や平坦部の歪みの影響を強く受け、打ち抜きの精度に劣る。
これに対し、本発明における位置決め工程は、例えば、
図4に示すように、打ち抜き機の下テーブル9に、抜き刃7の刃先が鉛直方向とは反対の方向に開口するように抜き型6を配置し、充填工程により得られた充填品1Cを移動させて、抜き刃7に、充填品1Cの凸部5を填め込むことで打ち抜き位置を決める。このように従来とは逆に刃先を鉛直方向とは反対の方向に向けて配置された抜き刃7に充填品1Cの凸部5を填め込むことで、充填工程において充填品に生じる歪みの影響を受けにくく、寸法精度の高い打ち抜きを行うことができる。その結果として、打ち抜き後の樹脂成形品の形を目的の形状に近づけることができる。
【0042】
本発明における抜き刃の内側には、充填品の凸部が挿入される前記充填品の凸部が反転した形状の凹部を有する弾性体が配置されていることが好ましい。
具体的には、
図5に示すように、抜き型6に配置された抜き刃7の内側に充填品1Cの凸部5が挿入される前記充填品1Cの凸部5が反転した形状の凹部を有する弾性体11が配置される。
【0043】
抜き刃の内側に配置される弾性体として、例えば、発泡ウレタン樹脂、発泡シリコーン樹脂、ブタジエン系樹脂、ニトリル系樹脂、及びクロロプレン系樹脂等の合成ゴム、並びに天然ゴム等が挙げられる。
【0044】
抜き刃の内側に弾性体を配置することで、充填品の凸部を打ち抜く時に、充填品の位置が固定化されるため、より精度の高い打ち抜きが可能となる。また、弾性体が抜き刃より先にフィルムの凸部に接触することで、より確実にフィルムを固定化することができ、さらには、打ち抜き後に樹脂成形体を取り出す際、取り出しやすくなり作業性が向上するため好ましい。
【0045】
[打ち抜き工程]
本発明の樹脂成形品の製造方法は、抜き刃が充填品を打ち抜く打ち抜き工程を有する。
本発明における打ち抜き工程は、前記位置決め工程により打ち抜き位置が決定した後、抜き刃が充填品の凸部を打ち抜くため、打ち抜き精度に優れる。
その結果、充填品の凸部の断面形状の大きさとの寸法差の小さい抜き刃を用いても、充填品の凸部を欠損するなどの不具合を生じる可能性が低く、一度の打ち抜き工程で打ち抜くことができる樹脂成形品の個数を増やすことができ生産性を維持しながら、抜きしろの小さい樹脂成形品を得ることができる。
【0046】
打ち抜き工程における抜き刃は、所定の形状を打ち抜くことができるものであれば特に限定されない。抜き刃として、例えば、トムソン刃、腐食刃、彫刻刃等が挙げられる。
これらの中でも、打ち抜き後の樹脂成形品の仕上がりの観点から、トムソン刃が好ましい。
【0047】
従来、樹脂成形品の打ち抜きは、
図3に示すように、位置合わせ治具8を用いて充填品1Cの打ち抜き位置を決めた後、下テーブル9に載置された充填品1Cに対して、上方からプレスすることで、充填品1Cから樹脂成形品を打ち抜くことで行われていた。このように充填品の位置を固定して抜き刃を移動させて打ち抜く方法では、充填工程において生じる充填品の端部や平坦部の歪みの影響を強く受け、打ち抜きの精度に劣る。
これに対して本発明における打ち抜き工程は、例えば、
図4に示すように、従来とは逆に刃先を鉛直方向とは反対の方向に向けて配置された抜き刃7に充填品1Cの凸部5を填め込むことで位置決めし、充填品1Cを上方から上テーブル10によりプレスすることで、充填品1Cの凸部5を打ち抜き樹脂成形品を製造する。そのため、充填工程において充填品に生じる歪みの影響を受けにくく、寸法精度の高い打ち抜きを行うことができる。その結果として、打ち抜き後の樹脂成形品の形を目的の形状に近づけることができる。
【0048】
本発明における抜き刃の内側に、充填品の凸部が挿入される前記充填品の凸部が反転した形状の凹部を有する弾性体が配置されている場合、打ち抜き時に、該弾性体が抜き刃より先に充填品の凸部に接触することがより好ましい。
【0049】
本発明における抜き刃の外側には、抜き刃を支持する剛性体が配置されていることが好ましい。また、抜き刃の外側に剛性体と弾性体とを積層して配置されていることがより好ましい。抜き刃の外側に剛性体と弾性体とが積層して配置されることで、打ち抜き工程では、剛性体又は弾性体が充填品に接触すると弾性体が変形した状態で充填品の凸部を打ち抜きが行われる。
具体的には、
図6に示すように、抜き刃7の外側に剛性体12を配置し、上方から充填品1Cをプレスすることで、充填品1Cの凸部5を打ち抜き樹脂成形品を製造することができる。
また、
図7に示すように、抜き刃7の外側に剛性体12及び弾性体11を積層して配置し、上方から充填品1Cをプレスすることで、充填品1Cの凸部5を打ち抜き樹脂成形品を製造することができる。
【0050】
抜き刃の外側に配置される剛性体として、例えば、鉄、銅、アルミニウムなどの金属が挙げられる。
抜き刃の外側に配置される弾性体は、前述した抜き刃の内側に配置される弾性体と同じものを用いることができる。
【0051】
抜き刃は、繰り返し使用されることで抜き刃の形状が変形することがある。例えば、鋭角を有する形状の抜き刃の場合には、打ち抜き時に前記鋭角の先端に圧力が集中し、前記鋭角の角度が広がる傾向にある。そのため、抜き刃を繰り返し使用すると変形した抜き刃により打ち抜きが行われることとなり、寸法精度が低下する傾向がある。
抜き刃の外側に抜き刃を支持する剛性体を配置することで、抜き刃の繰り返し使用による変形を抑制し、繰り返し使用による寸法精度を向上させることができる。
また、抜き刃の外側に剛性体及び弾性体を積層して配置し、抜き刃より先に剛性体又は弾性体がフィルムに接触することで、位置決めの精度が更に向上するとともに、打ち抜き後のカス(打ち抜かれる充填品の凸部の周辺の平坦部)を効率的に除去できる。
【0052】
<樹脂成形品>
本発明の樹脂成形品は、既述の本発明の樹脂成形品の製造方法によって製造される。そのため、抜きしろが小さく外観が良好である。樹脂成形品の抜きしろの幅は、従来、1.0mm以上であったが、本発明の樹脂成形品の抜きしろの幅は、0.3mm以下とすることができる。
なお、「抜きしろの幅」として表される数値は、樹脂成形品の凸部と平坦状に残存する部分との境目から、この平坦状に残存する部分の端部までの距離をデジタルノギスで10箇所測定し、それらの算術平均で算出された数値を示す。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその趣旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
[成形工程]
45cm×35cmにカットされたフィルム(スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン(ABS)フィルム)の四隅に2mmのピン穴を開けた。真空成形機(浅野研究所製)に3個×2列の凸部が配置された金型を取り付けた後、金型に設けられている位置決め用ピンに、フィルムのピン穴を合わせ、ピン穴にピンを填め込んだ。
フィルムを100℃に加熱し、次いで真空成形機内を減圧し、フィルムを金型に密着させた。このように真空加熱成形を行い、フィルムを前記金型の凸部が反転した形状の凹部を有するフィルム成形体に成形した。真空加熱成形後のフィルム成形体の端部及びピン穴の周囲には歪みが発生した。
【0055】
[除去工程]
以下に
図2に基づき除去工程を説明する。
前記成形工程で成形されたフィルム成形体1Bを、凸部5が上を向くように打ち抜き機の下テーブル9に載置した。抜き刃7とピン4が設けられた抜き型6を、抜き刃7が鉛直方向を向くように上テーブル10に配置した。抜き型6に設けられたピン4とフィルム成形体1Bのピン穴2の位置を合わせ、ピン4をフィルム成形体1Bのピン穴2に填め込んだ。その後、抜き型6をプレスし、フィルム成形体1Bの平坦部を裁断し、フィルム端部及びピン穴周辺の歪み部分を除去した。
なお、除去工程において使用する抜き型は、打ち抜き工程において使用する抜き型とは異なり、凸部と同等の形状を有するものではない。
【0056】
[充填工程]
前記除去工程により端部が除去されたフィルム成形体の凹部(すなわち凸部の内側)に、硬化性ウレタン樹脂を充填した。その後、ウレタン樹脂を硬化させた。
フィルム成形体の凹部にウレタン樹脂が充填され、硬化されることで、フィルム成形体の凸部の反対側の面は平坦化され、フィルム成形体の凹部に対応する形状の凸部を有する充填品を得た。
充填工程において、ウレタン樹脂の硬化に伴い、ウレタン樹脂の体積収縮が発生し、充填品の平坦部に歪みが発生した。
【0057】
[粘着剤層付与工程]
両面テープの一方の剥離紙を剥離して、前記充填工程で得られた充填品の凸部を有する面とは反対の面(前記充填工程において平坦化した面)に貼り合せ、充填品に粘着剤層を形成した。
【0058】
[位置決め工程]
以下に
図4に基づき実施例1の位置決め工程を説明する。
打ち抜き機の下テーブル9に、抜き刃7の刃先が鉛直方向とは反対の方向を向くように抜き型6を設置した。抜き型6は、充填品1Cの凸部の断面形状の大きさと抜き刃7の大きさの差が0.28mm(すなわち打ち抜き後の抜きしろの幅が0.28mm)の抜き型を使用した。
充填品1Cは、前記抜き刃7の内側に充填品1Cの凸部5が鉛直方向を向くように充填品1Cの凸部5を填め込んで設置し位置決めした。
【0059】
[打ち抜き工程]
位置決め後、充填品を上方からプレスすることで、充填品の凸部を打ち抜き樹脂成形品を得た。
実施例1により得られた樹脂成形品は、抜きしろの幅が0.30mmであり、6個全てに凸部の欠損はみられなかった。
なお、抜きしろの幅は、デジタルノギスによって、既述の方法で測定した。
【0060】
(実施例2)
実施例1の位置決め工程及び打ち抜き工程において、
図5のように、抜き刃7の内側に、充填品1Cの凸部5が挿入される凸部5の形状が反転した形状の凹部を有する弾性体11(株式会社ソマール製、発泡ウレタン)を配置した以外は、実施例1と同様にして樹脂成形品を作製した。なお、実施例2において抜き刃7と弾性体11は、打ち抜き時に同時に充填品1Cに接触する。
実施例2により得られた樹脂成形品は、抜きしろの幅が0.28mmであり、6個全てに凸部の欠損はみられなかった。
【0061】
(実施例3)
実施例2における弾性体の厚みを厚くし、打ち抜き時に、弾性体が抜き刃より先に充填品に接触させるように調整した以外は、実施例2と同様にして樹脂成形品を作製した。
実施例3により得られた樹脂成形品は、抜きしろの幅が0.27mmであり、6個全てに凸部の欠損はみられなかった。また、弾性体が打ち抜き後の樹脂成形品を押出すため、樹脂成形品の回収が容易であった。
【0062】
(実施例4)
実施例3の位置決め工程及び打ち抜き工程において、
図6のように、抜き刃7の外側に、抜き刃7を支持する金属押さえ(剛性体12)を配置した以外は、実施例3と同様にして樹脂成形品を作製した。
実施例4により得られた樹脂成形品は、抜きしろの幅が0.27mmであり、6個全てに凸部の欠損はみられなかった。また、同条件で、繰り返し1000回の樹脂成形品の作製を行い、抜き刃の形状を観察したところ、1000回後であっても、抜き刃に変形はみられなかった。
【0063】
(実施例5)
実施例4の位置決め工程及び打ち抜き工程において、
図7のように、抜き刃7の外側に設置した金属押さえ(剛性体12)の下に更に弾性体11を配置した以外は、実施例4と同様にして樹脂成形品を作製した。なお、金属押さえの下に弾性体を配置することで、金属押さえが、抜き刃の刃先より高い位置に調整される。すなわち、打ち抜き時に金属押さえが抜き刃より先に充填品に接触する。
実施例5により得られた樹脂成形品は、抜きしろの幅が0.27mmであり、6個全てに凸部の欠損はみられなかった。また、実施例4と同様、同条件で、繰り返し1000回の樹脂成形品の作製を行い、抜き刃の形状を観察したところ、1000回後であっても、抜き刃に変形はみられなかった。さらに、打ち抜き後のカス(打ち抜かれる充填品の凸部の周辺の平坦部)を金属押さえが押出すことにより、カスの除去が容易であった。
【0064】
(比較例1)
実施例1における位置決め工程及び打ち抜き工程を、以下に手順に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂成形品を作製した。
【0065】
[位置決め工程]
比較例1における位置決め工程を
図3に基づき説明する。
打ち抜き機の下テーブル9に、位置合わせ治具8を設置し、該位置合わせ治具8に粘着剤層付与工程を経て得られた充填品1Cの端部を合わせ、凸部5が鉛直方向とは反対の方向を向くように充填品1Cを載置し位置決めした。
抜き刃7の刃先が鉛直方向を向くように抜き型6を打ち抜き機の上テーブル10に設置した。
【0066】
[打ち抜き工程]
位置決め後、充填品を上方からプレスすることで、充填品から樹脂成形品を打ち抜いた。なお、抜き型6は、実施例1と同様に抜き型を使用した。
比較例1により得られた樹脂成形品は、6個中3個に凸部の欠損がみられた。特に、位置合わせ治具から離れた場所にあるものの凸部の欠損が顕著であった。
【0067】
上記のように、いずれの実施例においても、欠損がなく、かつ、抜きしろが小さく外観が良好な樹脂成形品が得られることがわかる。