【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、着色力、透明性、及び耐候性などの顔料特性に優れた色材(顔料)として有用なピリミドキナゾリン骨格を有する化合物については、これまで知られていなかった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、新規なピリミジン骨格を有する、着色力、透明性、及び耐候性などの顔料特性に優れたピリミドキナゾリン顔料、その合成方法、並びにこのピリミドキナゾリン顔料を用いた顔料着色剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示すピリミドキナゾリン顔料が提供される。
[1]下記一般式(1−1)又は(1−2)で表されるピリミドキナゾリン顔料。
【0008】
(前記一般式(1−1)及び(1−2)中、R
1及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアシル基を示し、R
2及びR
5は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を示す。前記一般式(1−2)中、R
3及びR
6は、ヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、又は置換基を有してもよいアミノ基を示す)
【0009】
[2]前記一般式(1−1)中、R
1及びR
4が水素原子である前記[1]に記載のピリミドキナゾリン顔料。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示すピリミドキナゾリン顔料の合成方法が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載のピリミドキナゾリン顔料の合成方法であって、下記一般式(2−1)で表される化合物及び下記一般式(2−2)で表される化合物と、下記一般式(3)で表される化合物とを、不活性溶媒中で縮合反応させる工程を有するピリミドキナゾリン顔料の合成方法。
【0011】
(前記一般式(2−1)及び(2−2)中、R
2及びR
5は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を示す。前記一般式(3)中、R
7、R
8、R
9、R
10は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルコキシ基、アミノ基、又はハロゲン原子を示す)
【0012】
[4]前記不活性溶媒が疎水性溶媒である前記[3]に記載のピリミドキナゾリン顔料の合成方法。
【0013】
さらに、本発明によれば、以下に示す顔料着色剤が提供される。
[5]前記[1]又は[2]に記載のピリミドキナゾリン顔料を含有する顔料着色剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のピリミドキナゾリン顔料は新規なピリミジン骨格を有しており、着色力、透明性、及び耐候性などの顔料特性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ピリミドキナゾリン顔料>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のピリミドキナゾリン顔料は、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される骨格(構造)を有する化合物である。以下、本発明のピリミドキナゾリン顔料の詳細について説明する。
【0016】
(前記一般式(1−1)及び(1−2)中、R
1及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアシル基を示し、R
2及びR
5は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を示す。前記一般式(1−2)中、R
3及びR
6は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、又は置換基を有してもよいアミノ基を示す)
【0017】
一般式(1−2)中、R
3及びR
6で表される置換基を有してもよいアルコキシ基としては、1以上の酸素原子を含む、炭素数1〜20のアルコキシ基を挙げることができる。また、一般式(1−2)中、R
3及びR
6で表される置換基を有してもよいアミノ基としては、1以上の窒素原子を含む、炭素数1〜20のアミノ基を挙げることができる。
【0018】
本発明のピリミドキナゾリン顔料は、上記の一般式(1−1)又は(1−2)で表される構造を有する化合物であることを重要な特徴の一つとする。一般式(1−1)又は(1−2)で表される構造を有する化合物は、他の縮合多環形顔料と同等以上の着色力、透明性、及び耐候性などの顔料特性に優れており、顔料として好適に使用することができる。なお、本発明のピリミドキナゾリン顔料には、一般式(1−1)又は(1−2)で表される化合物だけでなく、これらの化合物の互変異性体も含まれる。
【0019】
本発明のピリミドキナゾリン顔料の具体例としては、下記式で表される化合物を挙げることができる。
【0021】
本発明のピリミドキナゾリン顔料は、一般式(1−1)で表される化合物のうち、R
1及びR
4が水素原子であるものが好ましい。一般式(1−1)中のR
1及びR
4が水素原子である化合物は、強固な分子間・分子内水素結合を形成しうるため、より優れた顔料特性を示す。なお、一般式(1−1)中のR
1及びR
4が水素原子である化合物には、以下に示すような互変異性体が含まれる。
【0023】
一般式(1−1)中のR
1及びR
4が水素原子であるピリミドキナゾリン顔料の具体例としては、下記式で表される化合物を挙げることができる。
【0025】
<ピリミドキナゾリン顔料の合成方法>
本発明のピリミドキナゾリン顔料は、例えば、下記一般式(2−1)で表される化合物及び下記一般式(2−2)で表される化合物と、下記一般式(3)で表される化合物とを、不活性溶媒中で縮合反応させることによって合成することができる。なお、下記一般式(2−1)中のR
2と、下記一般式(2−2)中のR
5が同一あれば、対称形のピリミドキナゾリン顔料を得ることができる。一方、下記一般式(2−1)中のR
2と、下記一般式(2−2)中のR
5が非同一である(異なる)場合には、下記一般式(2−1)で表される化合物と下記一般式(2−2)で表される化合物を段階的に縮合反応させることで、非対称形のピリミドキナゾリン顔料を得ることができる。
【0027】
一般式(2−1)及び(2−2)で表される化合物の具体例としては、4−フルオロベンズアミジン、3,5−ジフルオロベンズアミジン、3−クロロベンズアミジン、4−クロロベンズアミジン、4−ブロモベンズアミジン、4−メチルベンズアミジン、4−メトキシベンズアミジン、4−ニトロベンズアミジン、2−ナフタレンカルボアミジン、1H−ピロール−3−カルボアミジン、フラン−2−カルボアミジン、フラン−3−カルボアミジン、チオフェン−2−カルボアミジン、チオフェン−3−カルボアミジンなどを挙げることができる。アミジン構造を有する上記の化合物は加水分解しやすいため、不活性溶媒として疎水性溶媒を用いることが好ましい。
【0028】
疎水性溶媒の具体例としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、2−メチルペンタンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができる。なお、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、クロロナフタレンなどの、溶解力が高く、高沸点の溶媒を使用すると、反応が円滑に進むために好ましい。
【0029】
反応温度は20〜200℃とすることが好ましく、100〜140℃とすることがさらに好ましい。100℃未満の温度で反応させると1置換物が多く生成してしまい、期待する骨格を有する化合物の収率が低下する傾向にある。一方、140℃超の温度で反応させると副生成物が多く生成しやすく、収率が低下する傾向にある。
【0030】
なお、塩基を触媒として共存させて反応させると、収率が向上するために好ましい。塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基(無機系触媒);トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどの有機塩基(有機系触媒)を挙げることができる。有機系触媒を用いると、反応系が均一系となるために好ましい。
【0031】
一般式(3)中のR
7及びR
9がアルコキシ基である化合物は、安価なスクシニロコハク酸エステルを原料として合成することできるために好ましい。さらに、一般式(3)中のR
7及びR
9がメトキシ基であり、R
8及びR
10が塩素原子である、下記式(4)で表される化合物(4)は、例えば、参考文献:Synthesis, 2303-2306(2008), by L. Hintermann, and K. Suzukiに記載された方法にしたがって、簡便な方法で高収率に合成することができる。
【0033】
なお、本発明のピリミドキナゾリン顔料のうち、一般式(1−2)で表される化合物については、上記のように合成した一般式(1−1)で表される化合物を所定の反応に付すことによって合成することができる。例えば、一般式(1−2)中のR
3及びR
6がヒドロキシ基で表される化合物は、一般式(1−1)で表される化合物を、塩酸酸性の条件下、スズ(Sn)を用いて還元すること等によって合成することができる。さらに、アルキル化剤やアシル化剤により修飾すれば、R
3及びR
6がアルコキシ基で表される化合物を合成することができる。
【0034】
また、一般式(1−2)中のR
3及びR
6がアミノ基で表される化合物は、一般式(1−1)で表される化合物とアミノ基を有する化合物とを縮合反応させた後、還元することによって合成することができる。
【0035】
<顔料着色剤>
本発明の顔料着色剤は、前述のピリミドキナゾリン顔料を含有する。本発明の顔料着色剤は、画像表示用、画像記録用、印刷インキ用、筆記用インキ用、プラスチック用、顔料捺染用、及び塗料用の着色剤等として、広範な分野で用いることができる。特に、本発明の顔料着色剤は、着色画素の透明性が問題となる画像表示材料として、なかでもカラーフィルター用顔料着色剤として好適である。また、本発明の顔料着色剤は、インクジェット記録用インキ、電着記録液、電子写真方式用の現像剤などの画像記録剤用の材料としても有用である。これらの画像記録剤用の材料は、インクジェット記録方法、電着記録方式、電子写真方式などの画像記録方法にそれぞれ使用される。本発明の顔料着色剤を用いれば、いずれの画像記録方法であっても高品位な画像を提供しうる画像記録剤用の材料を調製することができる。
【0036】
本発明の顔料着色剤は、通常、ピリミドキナゾリン顔料以外の成分として皮膜形成材料をさらに含有する。顔料着色剤中のピリミドキナゾリン顔料の量は、皮膜形成材料100質量部に対して、5〜500質量部であることが好ましく、50〜250質量部であることがさらに好ましい。本発明の顔料着色剤は、例えば、微細化したピリミドキナゾリン顔料と、樹脂((共)重合体)、オリゴマー、又はモノマーなどの皮膜形成材料とを混合することで調製することができる。
【0037】
また、本発明の顔料着色剤は、微細化したピリミドキナゾリン顔料と、上記の皮膜形成材料を含有する液とを混合することでも調製することができる。皮膜形成材料を含有する液としては、感光性の皮膜形成材料を含有する液、又は非感光性の皮膜形成材料を含有する液を用いることができる。感光性の皮膜形成材料を含有する液の具体例としては、紫外線硬化性インキ、電子線硬化インキなどに用いられる感光性の皮膜形成材料を含有する液などを挙げることができる。また、非感光性の皮膜形成材料を含有する液の具体例としては、凸版インキ、平版インキ、グラビアインキ、スクリーンインキなどの印刷インキに使用するワニス;常温乾燥又は焼き付け塗料に使用するワニス;電着塗装に使用するワニス;熱転写リボンに使用するワニスなどを挙げることができる。
【0038】
感光性の皮膜形成材料の具体例としては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂などの感光性樹脂を挙げることができる。これらの感光性樹脂を含有する液には、反応性希釈剤として各種のモノマーを添加してもよい。
【0039】
感光性樹脂を皮膜形成材料として含有する顔料着色剤に、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノンなどの光重合開始剤を添加し、従来公知の方法により練肉すれば、光硬化性の感光性顔料分散液とすることができる。また、上記の光重合開始剤に代えて熱重合開始剤を用いれば、熱硬化性顔料分散液とすることができる。
【0040】
非感光性の皮膜形成材料の具体例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、水溶性アミノポリエステル系樹脂、これらの水溶性塩、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸系共重合体の水溶性塩などを挙げることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0042】
<顔料の調製>
(実施例1)
ニトロベンゼン140部に、ベンズアミジン塩酸塩16部、化合物(4)7部、及びトリエチルアミン10部を加え、100〜110℃で5時間加熱した。冷却後にろ過し、メタノール及び水で洗浄した。80℃で乾燥して、下記式(A)で表される顔料(A)7部を得た。
【0043】
【0044】
(実施例2)
ベンズアミジン塩酸塩16部に代えて、4−メチルベンズアミジン塩酸塩17部を使用したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、下記式(B)で表される顔料(B)8部を得た。
【0045】
【0046】
(実施例3)
ニトロベンゼン140部に、ベンズアミジン塩酸塩16部、化合物(4)7部、及びトリエチルアミン10部を加え、60℃で5時間加熱した。さらに続けて、4−メチルベンズアミジン塩酸塩17部及びトリエチルアミン10部を加え、100〜110℃で5時間加熱した。冷却後にろ過し、メタノール及び水で洗浄した。80℃で乾燥して、下記式(C)で表される顔料(C)7部を得た。
【0047】
【0048】
(実施例4)
35%塩酸200部に、顔料(A)10部及びスズ粉末10部を加えて、80℃で5時間加熱した。冷却後にろ過し、メタノール及び水で洗浄した。80℃で乾燥して、下記式(D)で表される顔料(D)10部を得た。
【0049】
【0050】
(実施例5)
N,N−ジメチルホルムアミド120部に、顔料(A)10部、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン12部、及び無水酢酸5部を加えて、40℃で24時間加熱した。冷却後にろ過し、メタノール及び水で洗浄した。80℃で乾燥して、下記式(E)で表される顔料(E)7部を得た。
【0051】
【0052】
得られた各顔料について質量分析(MALDI)を行ったところ、以下の分子量に相当するピークが検出された。使用した原材料及び質量分析の結果から、目的とする組成の化合物(顔料)が得られたことを確認した。
・顔料(A):分子量396
・顔料(B):分子量424
・顔料(C):分子量410
・顔料(D):分子量398
・顔料(E):分子量480
【0053】
(比較例1、2)
ピグメントオレンジ13を比較例1の顔料とした。また、ピグメントオレンジ34を比較例2の顔料とした。
【0054】
<濃色塗料の調製>
実施例1〜5で得られた顔料、及び比較例1、2の顔料を使用し、それぞれ以下に示す配合でペイントコンディショナーを用いて90分間分散させて濃色塗料を調製した。
・顔料 1.5部
・商品名「スーパーベッカミンJ−820」(*1) 8.5部
・商品名「フタルキッド133〜60」(*2) 17.0部
・キシレン/1−ブタノール(2/1質量比)混合溶剤 5.0部
(*1)ブチル化メラミン樹脂(大日本インキ化学工業社製)
(*2)椰子油の短油性アルキド樹脂(日立化成社製)
【0055】
<塗料試験>
(1)着色力
顔料:チタンホワイト=1:20(質量比)となるようにチタンホワイト(酸化チタン)を含む白色塗料で濃色塗料を希釈し、淡色塗料を調製した。アプリケーター(6ミル)を用いて淡色塗料をアート紙上に展色し、140℃で30分間焼き付けた。形成された塗膜を肉眼で観察し、以下に示す基準にしたがって着色力を評価した。結果を表1に示す。
○:着色力良好
△:着色力あり
×:着色力なし
【0056】
(2)透明性
アプリケーター(6ミル)を用いて濃色塗料をガラス板に展色し、140℃で30分間焼き付けた。形成された塗膜を肉眼で観察し、以下に示す基準にしたがって透明性を評価した。結果を表1に示す。
○:透明性良好
△:透明性あり
×:透明性なし
【0057】
(3)耐候性
濃色塗料及び淡色塗料をスプレー粘度(フォードカップNo.4にて14秒)まで希釈し、下地処理したスチールパネルにエアスプレーガンを用いて吹き付け塗装して着色塗板を得た。得られた着色塗板を140℃で30分間焼き付けた後、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機社製)で500時間曝露して曝露後の塗板を得た。曝露後の塗板と未曝露の塗板との色差を肉眼で観察し、以下に示す基準にしたがって耐候性を評価した。
○:色差ほとんどなし
△:色差あり
×:大きく色差あり
【0058】