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特開2016-169414太陽電池配線用金属線及び太陽電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-169414(P2016-169414A)
(43)【公開日】2016年9月23日
(54)【発明の名称】太陽電池配線用金属線及び太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20160826BHJP
   H01L 31/05 20140101ALI20160826BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20160826BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20160826BHJP
   C22C 9/01 20060101ALI20160826BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20160826BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20160826BHJP
   C22C 9/05 20060101ALI20160826BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20160826BHJP
【FI】
   C22C9/00
   H01L31/04 570
   H01B1/02 A
   H01B5/02 Z
   C22C9/01
   C22C9/02
   C22C9/04
   C22C9/05
   C22C9/06
   H01B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-49869(P2015-49869)
(22)【出願日】2015年3月12日
(71)【出願人】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭一
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】佐脇 直哉
(72)【発明者】
【氏名】澤野 清志
(72)【発明者】
【氏名】中塚 淳
(72)【発明者】
【氏名】石井 守
【テーマコード(参考)】
5F151
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
5F151EA19
5G301AA01
5G301AA03
5G301AA05
5G301AA07
5G301AA08
5G301AA13
5G301AA14
5G301AA16
5G301AA20
5G301AA23
5G301AA24
5G301AB02
5G301AD01
5G307CA04
5G307CB01
(57)【要約】
【課題】銅の低い電気抵抗を維持しながら、純銅線と同等、もしくはそれよりも軟質である太陽電池配線用金属線、及びそれを用いた太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】銅を99.5質量%以上、亜鉛とパラジウムの1種以上を総量で0.005質量%以上0.5質量%以下含有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を99.5質量%以上、亜鉛とパラジウムの1種以上を総量で0.005質量%以上0.5質量%以下含有することを特徴とする太陽電池配線用金属線。
【請求項2】
亜鉛とパラジウムの1種以上、及び、ニッケル、アルミニウム、カルシウム、銀、クロム、ジルコニウム、錫、マンガン、希土類元素の1種以上、を総量で0.005質量%以上0.5質量%以下含有し、残部が銅及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池配線用金属線。
【請求項3】
ニッケルの濃度が0.005質量%以上0.495質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池配線用金属線。
【請求項4】
クロムの濃度が0.02質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池配線用金属線。
【請求項5】
少なくとも一部の表面が、銅とは異種の金属で被覆されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池配線用金属線。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池配線用金属線で太陽電池セルを直列接続したストリングを含むことを特徴とする太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールの配線に使用される太陽電池配線用金属線及び太陽電池モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池に使用される配線用金属線(「以下、太陽電池配線用金属線」という)は太陽電池用インターコネクター、タブ線、あるいはリボン等と呼ばれる電気導体材料である。比較的大きな電流が流れる太陽電池配線用金属線の典型的な断面形状は、1mm以上、6mm以下の幅で、0.1mm以上、0.3mm以下の平角線が多い。また、近年はマルチワイヤと称してφ150μmからφ200μm程度と比較的細い金属線も使用されている。
【0003】
太陽電池配線用金属線の主な構成材料はコストと電気伝導性の点で純銅が使用されている。これら銅線の材料で共通して求められている特性は、電気を良く通すことと軟質であることである。軟質とは、金属を一定の歪で変形させた時、応力が小さいこと、破断伸びが大きいことである。
【0004】
太陽電池モジュールは、使用時の熱サイクルや応力サイクルにさらされると、金属線長手方向に繰り返し引張応力を受け、金属疲労により強度が低下し、場合によっては破断に至る恐れがある。したがって、太陽電池配線用金属線の破断伸びは大きいほうが望ましい。現在主流となっている単結晶、又は多結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン型の太陽電池モジュール内で使用される太陽電池配線用金属線も軟質で破断伸びが大きいことが必要である。以下、詳しく説明する。
【0005】
図1は、複数の太陽電池セル2を太陽電池配線用金属線である太陽電池用インターコネクター3で電気的に接続させた、結晶シリコン型の太陽電池ストリング1の一例を示した図である。現在主流となっている単結晶、又は多結晶シリコン基板を用いた太陽電池モジュールは、5〜6インチ程度の太陽電池セル2と呼ばれる半導体基板を並べて、これらを太陽電池用インターコネクター3で直列接続したストリング1を接続して集電する形態をとっている。図1ではストリング1を構成する太陽電池セルは3枚であるが、一般的な太陽電池モジュールでは1つのストリングが10枚から30枚の太陽電池セルで構成され、2〜8本のストリングを更に直列、又は並列に接続される。ストリングは更に樹脂製のバックシートとガラスで挟まれ透明樹脂でラミネートされて太陽電池モジュールを構成する形態をとる。太陽電池用配線材料は、ストリング同士を直列、あるいは並列に接続するバスバー等と呼ばれる材料があるが、太陽電池セル2同士を直列に接続する太陽電池配線用金属線は一般的に太陽電池用インターコネクターと呼ばれる。太陽電池用インターコネクターやバスバー等の太陽電池用配線材料は平角の純銅線に異種の金属を被覆したテープ状の形態が主流である。
【0006】
図1に示すように、太陽電池セル2、及び太陽電池用インターコネクター3は、銅テープ面で半田、もしくは導電接着剤で機械的、電気的に接合されることにより直列に接続される。ここでテープ面とは、平角線たる太陽電池用インターコネクター(銅線)3の幅広の面を指す。基板と銅線との接続は、半田による溶融液相接合が主流であり、現在主流となっている太陽電池用インターコネクター3は、平角銅線の表面が厚さ10〜40μmの半田で被覆されたテープ状の銅線である。
【0007】
図1に示すような太陽電池セル2の実装では、銅線を主体とする太陽電池用インターコネクター3と、半導体基板たる太陽電池セル2とが、太陽電池用インターコネクター3の銅線長手方向に10cm以上の長さで接合される。なお、LSIやIC等の一般的な半導体の接続とは異なり、銅線の断面サイズより長い距離で銅線長手方向にテープ面で接合するような実装を、ここでは線実装と呼ぶ。
【0008】
このような太陽電池用インターコネクター3として使用される銅線の銅線長手方向の耐力は特に低いことが求められる。図1に示したような線実装形態において、太陽電池セル2と太陽電池用インターコネクター3とを構成する主たる構造体である銅の熱膨張係数は、太陽電池セル2の主たる構造体であるシリコンの熱膨張係数に比較して約5倍である。このことから、昇温して液相接合してから室温に冷却する時に熱応力が生じ、太陽電池セル2を変形、破損させる原因となっている。
【0009】
銅の線膨脹係数は16.6×10−6(K−1)に対し、シリコンが3×10−6(K−1)である。仮に銅とシリコンを200℃で接合した場合、約0.26%の長さの差が生じ、銅とシリコンとの間に熱応力、反りが発生する。近年のシリコン材料の逼迫、低コスト化の要求もあり、太陽電池セル2に使用される基板の厚さの低減が図られている。現在、太陽電池セルでは、厚さ180μmのシリコン基板が使用されるようになってきており、更に厚さ100μmのシリコン基板を使用した量産技術が研究開発されている。すなわち、太陽電池セル2の厚さと、それに線実装する太陽電池用インターコネクター3の厚さとが同等、場合によっては太陽電池用インターコネクター3の厚さが太陽電池セル2の厚さを上回る場合があり、実装時の熱歪み(反り)による太陽電池セル2の破損問題は、大きくなっている。
【0010】
この問題を解決するために、太陽電池用インターコネクター3を軟質化させる試みがなされている。特に金属の弾性変形から塑性変形に変わる降伏点近傍の応力が小さいことが重要であり、指標として、0.2%耐力が用いられる場合が多い。すなわち、0.2%耐力を下げることによって、銅側を降伏させ、熱応力を銅側の変形によって緩和させることが重要になる。銅を軟質化させるためには、銅材として、純度99.96質量%以上の無酸素銅や純度99.9%以上のタフピッチ銅を用い焼鈍により転位密度を低下させる方法がとられる。通常の焼鈍による軟質化では、今後の厳しい使用状況に対応することが困難であると予想されることから、太陽電池用インターコネクター3の構造や、実装構造の改良、集合組織の制御によって、対応することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0011】
特許文献1に記載の発明は、導体中心部の結晶方位(めっき線軸方位)を、(211)方位に30%以上の割合で配向させることによって、0.2%耐力を低減し、そのばらつきを小さくするができるとされている。一方、特許文献2では、面心立方構造を有する金属線長手方向に<100>集合組織を発達させて結合することによって粗大粒を形成し、降伏応力を低減する方法をとっている。また、軟質化の方向と逆の目的であるが、組織を制御して目的とする材料の降伏特性を得ようとする試みとして、特許文献3では、圧延面が0.4以上のシュミット因子を有する結晶粒が面積率で55%以上として、高強度、高耐力、高導電率、及び良好な加工性が得られたと説明している。
【0012】
シュミット因子とは、結晶の本質的な変形のし易さを示す因子であり、0から0.5までの数値で、値が大きいほど変形が容易である。これは、金属が結晶構造に由来するすべり面内のすべり方向に変形し、変形で結晶にかかるすべり面に沿うすべり方向のせん断応力が一定の臨界分解せん断応力で降伏するというモデルに基づく(例えば非特許文献1)。このモデルは、特に面心立方構造の金属単結晶で良く合致すると言われており、多結晶体でもすべり変形の容易さを表す指標となる。多結晶体で同様な指標としてはテイラー因子がある。面心立方構造を有する銅のすべり面は(111)、すべり方向は<110>である。ここで()は面方位を表し、(111)は、{111}、{1−11}、{1−1−1}等の符号と基本軸の順番を入れ替えた等価な面方位の総称であり、<110>は同様に[110]、[011]、[0−11]、[−10−1]等の符号と基本軸の順番を入れ替えた等価な方向の総称を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4780008号公報
【特許文献2】特許第4932974号公報
【特許文献3】特開2010−285664号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】日本金属学会 講座・現代の金属学 材料編3「材料強度の原子論」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
比較的純度の高い銅では、引抜、圧延等の金属線長手方向に伸ばす加工や、熱処理によって銅線長手方向に方位が揃った集合組織を形成する。主な集合組織は、銅方位と呼ばれる集合組織に代表される圧延、引抜による加工集合組織<111>、立方体方位と呼ばれる集合組織に代表される再結晶集合組織である<100>、黄銅集合組織と呼ばれる黄銅や熱間加工で形成するといわれる<211>が代表的である。これらの集合組織は銅線長手方向に強く形成される。
【0016】
比較的純度の高い銅線材の長手方向に形成しやすい集合組織は長手方向と垂直な面と長手方向に(211)<111>と(001)<100>の集合組織であるが、前者はシュミット因子が小さく、長手方向に<111>集合組織が発達した線材は固くふるまう。一方、<100>方向に引っ張りを加えた時のシュミット因子は比較的小さいが、加工硬化が起こり易く、特許文献2に示すようなプロセス上の工夫によって、集合組織を高度に発達させ、結晶粒を大きくしなければ硬くふるまう。
【0017】
銅線の疲労特性を向上するためには、強度と破断伸びを大きくすることが有効であるが、高い強度と低い耐力値を両立することは難しい。電気抵抗が低い無酸素銅やタフピッチ銅で軟質な半導体接続用銅線を得るためには、高度な組織制御が必要であり、特別に工夫された加工プロセスが必要であった。一方、合金化によって強度や破断伸びを大きくする手法は、電気抵抗や耐力を上げてしまうため、特に太陽電池で使用するような軟質で電気抵抗の低い太陽電池配線用銅合金線を提供することは材料技術的に困難であった。
【0018】
本発明は、銅の低い電気抵抗を維持しながら、純銅線と同等、もしくはそれよりも軟質である太陽電池配線用金属線、及びそれを用いた太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る太陽電池配線用金属線は、銅を99.5質量%以上、亜鉛とパラジウムの1種以上を総量で0.005質量%以上0.5質量%以下含有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る太陽電池モジュールは、上記太陽電池配線用金属線で太陽電池セルを直列接続したストリングを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、銅に亜鉛又は、パラジウムを含有させることによって、純銅線に比較して、同等もしくはそれ以上に軟質であり、かつ銅材料として十分に低い電気抵抗を有する太陽電池配線用金属線を得ることができる。また上記太陽電池配線用金属線を用いることにより太陽電池モジュールは、信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】複数の太陽電池セルを太陽電池配線用金属線(太陽電池用インターコネクター)で直列接続させた太陽電池モジュールの構成を示す概略図である。
図2】本発明の太陽電池配線用金属線(太陽電池用インターコネクター)における金属線長手方向と直交するC断面での構成を示す概略図である。
図3】本発明の他の実施の形態による太陽電池配線用金属線(太陽電池用インターコネクター)における金属線長手方向と直交するC断面での構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(全体構成)
本実施形態の太陽電池配線用金属線(以下、金属線という)は、銅を99.5質量%以上、亜鉛とパラジウムの1種以上を総量で0.005質量%以上0.5質量%以下含有することを特徴とする。すなわち金属線は、0.495(訂正)質量%以下であれば、銅、亜鉛、及びパラジウム以外の元素を含んでいてもよい。金属線は、特に複数の太陽電池セルを電気的に接続する太陽電池用インターコネクターに適用し得る。金属線は、亜鉛とパラジウムの1種以上を総量で0.005質量%以上0.5質量%以下含有し、残部が銅及び不可避不純物からなるのが好ましい。
【0024】
太陽電池用インターコネクターとして使用可能な本実施形態の金属線は、銅合金線単層構造であってもよく、また、図2図3で示したように銅合金線4に、接合、耐食、光学特性等の機能を付すために、銅合金線4とは異種の材料でなる被覆層5によって、銅合金線4の表面を修飾、被覆した複層構造を有していてもよい。単層の銅合金線だけでなく、本実施形態の組成範囲の銅合金線の表面が被覆層で被覆された構成でなる金属線でも、当該銅合金線を主体として有していれば、金属線の機械的性質は、本実施形態の成分設計による効果を得ることができる。なお、主体とは、金属線のC断面で本実施形態の規定する銅合金部の面積率が50%以上であることをいう。ここで、C断面とは、金属線長手方向と直交する断面をいう。本実施形態では、単層構造、複層構造を有する線全体の総称を金属線と呼ぶ。金属線が単一の銅合金で構成される場合と被覆されて銅合金線と被覆層で構成されている場合の銅合金部分を総称して銅合金線、又は銅合金部と表現する。本実施形態の成分規定はこの銅合金部の成分値である。
【0025】
金属線の銅合金線のC断面形状としては、円形状や、楕円状、扁平楕円状、平角状等その他種々の形状であってもよく、多芯線でも良い。
【0026】
平角線とは、C断面が図2図3で示すような形状をしているテープ状の形態をいう。本実施形態において、平角線の厚さTとは、C断面のうち平行する少なくとも一組以上の辺のうち短い辺の長さをいう。平角線の幅Wとは、C断面内で厚さを決める辺以外のもう一組の辺の長さをいう。丸線を圧延ローラーで押しつぶして、テープ状にした図2に示したような金属線の場合、つぶされた平行する圧延面の長さを厚さT、テープ材のC断面内で厚さを規定する方向(厚さ方向)と直交する方向(幅方向)において最も長い長さを幅Wとする。すなわち平角線の厚Tさと幅Wは、ノギスやマイクロメーターで計測される長さである。
【0027】
本実施形態の平角線は、厚さTより幅Wのほうが長い扁平したテープ状の金属線であることが多い。本実施形態の金属線の銅合金線で幅広で平行な面を幅広面、又はテープ面と呼ぶ。すなわち、幅広面、又はテープ面は厚さ方向と直交する面である。
【0028】
本実施形態においてL断面とは、丸線の場合、金属線の中心軸を通り、金属線長手方向と平行な断面を指す。ここで、丸線の中心軸とは金属線長手方向と直交するC断面円の中心点を、金属線長手方向に結ぶ線をいう。一方、平角線におけるL断面とは、平角線の幅広面、すなわちテープ面と平行な面で、厚さの1/2の深さの断面をいうものとする。
【0029】
本実施形態の金属線は、例えば無酸素銅のような純銅を使用した金属線並み、もしくはそれよりも低い0.2%耐力値、大きい破断伸び値、低い電気抵抗値を有する金属線である。本実施形態の太陽電池配線用銅合金線の応力値、0.2%耐力値、強度は、銅合金線の特性に強く影響を受けることから、これらの値は銅合金線の断面積で除して算出した値とする。したがって、被覆層を有するめっき線のような金属線の場合、被覆層を含めた金属線全体の断面積で除して算出される強度や0.2%耐力値は銅合金線の断面積で除して算出した本実施形態で定義する値よりも更に小さくなる。0.2%耐力値は、引張試験における応力-伸び線の弾性域直線部を0.2%平行移動した直線と応力-伸び線の交点での応力値とするオフセット法で算出した値とする。
【0030】
(亜鉛とパラジウムの1種以上を含有することについて)
本実施形態では亜鉛とパラジウムの少なくともどちらか一方が必須元素である。本実施形態の金属線の主体をなす銅線において0.005質量%以上0.5質量%以下の亜鉛を必須元素とする理由は、純銅に対する銅合金線の集合組織の変化による軟質化にある。ここで軟質とは、純銅と同等又はそれ以上に、0.2%耐力が小さいこと及び破断伸びが大きいことの、少なくとも一方を満たすことをいう。比較的純度の高い銅の加工再結晶集合組織は圧延、又は伸線方向に<111>や<100>方位が形成されやすい。<111>方位は、冷間引抜加工をした銅線の長手方向に形成されやすい集合組織で強い冷間加工をした場合、焼鈍させて再結晶されても、<111>と<100>の混粒組織として残留しやすい。また圧延加工では(211)<111>集合組織として形成されやすい。この集合組織のシュミット因子は小さく、降伏応力が高い方位である。
【0031】
一方、圧延加工、又は引抜加工のような伸線加工で加工硬化した比較的純度の高い銅線を軟質化するため焼鈍を加えると線材の長手方向に<100>集合組織が形成されやすくなる。<100>方位のシュミット因子は中程度であるが、<100>方位に引張応力を加えた場合、等価な多数のすべり系が同時に働くため、転位が集積しやすく加工硬化しやすい方位である。特殊な圧延加工によって、圧延方向と圧延面法線方向に<100>方位を形成した(100)<100>再結晶集合組織を極めて強く発達させて結晶粒界を大きくするような手法をとって製造した銅線を除いて、一般的な加工と焼鈍を施して線材長手方向に<100>再結晶組織が形成された銅線では、降伏応力の指標である0.2%耐力に至るまでの小さな歪み領域で塑性変形が始まり順次加工硬化するので、0.2%耐力値は高くなる傾向がある。また、加工硬化しやすい方位であるため破断伸びが小さくなる。
【0032】
亜鉛はこの線材長手方向に<100>方位が形成されるのを阻害することができる。<100>方位が形成されるのを阻害する効果が得られる下限値が0.005質量%である。より明瞭な効果を得るには0.02質量%以上添加するのが望ましい。一般的に純金属に不純物が入ると固溶強化や析出強化作用のため降伏応力は増加するが、亜鉛の場合、0.005質量%以上添加することによって、焼鈍時に線材長手方向に<100>方位が形成されるのを阻害する。加工方法が同じ場合に、亜鉛を含有していない以外は同じ構成の純銅と比較して、亜鉛が添加された銅合金は、0.2%耐力値が小さく、破断伸びが大きくなる場合がある。0.2%耐力に対する効果は、亜鉛の濃度が0.05質量%で顕著になり、0.1質量%をやや超える濃度で最も大きくなる。一方、破断伸びを大きくする効果は、亜鉛の濃度が0.005質量%で高く得られる。
【0033】
本実施形態の金属線における銅合金部の亜鉛の上限値は0.5質量%である。これは、<100>方位が形成されるのを阻害する効果よりも、亜鉛の固溶強化作用が大きくなり、降伏応力が大きくなるためである。降伏応力に対して<100>方位が形成されるのを阻害する効果よりも亜鉛の固溶強化作用が大きくなる亜鉛濃度は加工方法によって異なり、より広い加工方法で効果を得るためには0.25 質量%以下が望ましい。また、亜鉛の添加量を更に大きくすると<211>方位も形成されやすくなるため、0.2%耐力値は大きくなる。
【0034】
ここで、金属の材料組織の評価は一般的に広まっている電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscattered Diffraction)法で計測、評価することができる。EBSD法は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)に付設して、試料の表面に局所的に電子線を照射して、その後方散乱回折により発生する回折パターンを解析してその点の方位付けを行う手法である。測定する試料(金属線)の表面、あるいは断面上を2次元的に等間隔に点状の電子線照射位置を走査することによって、試料の結晶方位の2次元的分布を知ることができ、結晶粒の大きさや、集合組織等の解析をすることができる。この測定点の大きさと、測定点間の距離とを結晶粒の大きさより十分細かく、かつ統計的に十分な数の結晶粒が含まれるような領域で測定する。EBSD法の方位情報は3次元であるから、金属線長手方向に対する方位は金属線の任意の断面の研磨面で評価可能である。
【0035】
亜鉛は他の不純物に比較して銅に対して電気抵抗に与える影響は小さい。電気銅、タフピッチ銅、無酸素銅に対して上限値の0.5質量%の亜鉛を添加しても競合する導体材料であるアルミニウムに比較して電気比抵抗値は小さく、IACS(International Annealed Copper Standard)で定められている20℃の電気比抵抗値である17.241×10−9Ωmの95%は確保できる。この比率は、17.241×10−9から材料の電気比抵抗値を除して百分率で表した値で、以降IACS(%)と表記する。IACS(%)の値が大きいと電気抵抗値は小さく、導電率は高いことになる。亜鉛の濃度が0.15質量%以下であれば、IACS(%)で100%以下、すなわち純銅と同等以上であるので望ましい。
【0036】
ここで、金属の電気抵抗を測定する手段は直流4端子法が一般的である。金属線の長手方向に取り付けた4つの電極端子の両端の端子に定電流電源を使用して一定の電流を通電し、内側の2つの端子間の電圧を測定する。電圧端子間の長さと断面積を測定することによって、その材料固有の電気比抵抗値を測定することができる。
【0037】
亜鉛は、更に半田めっき平角線に使用した場合、半田を溶融して接合する際に効果を及ぼす。現在主流の太陽電池モジュールでは、ストリングスを形成する際の太陽電池用のインターコネクターと太陽電池セル上の銀電極の接合は、半田めっき銅線の半田を溶融(リフロー)して接合する。この時銅合金線に亜鉛が含有されているとその亜鉛が半田を拡散して半田の融点を低下させ、活性化することから接合温度を下げることができる。接合温度が低下することで、セルの反りが小さくでき、また接合界面での応力が小さくできることから、太陽電池モジュールの製造時の歩留まり向上や太陽電池モジュールの寿命向上に寄与する。亜鉛の効果は、銅に対して0.005質量%以上の濃度で得られる。
【0038】
本実施形態の金属線の主体をなす銅線において0.005質量%以上0.5質量%以下のパラジウムを必須元素とする理由は破断伸びを大きくすることである。パラジウムは亜鉛のように銅の集合組織に対する影響は大きくないがパラジウムを0.005質量%以上添加することによって、パラジウム以外の不純物成分が同じで、同じ製造プロセスで製造した金属線に比較して大きな破断伸び値が得られる。これは少量のパラジウムの添加によって積層欠陥エネルギーが適度に変化するためと考えられる。
【0039】
本実施形態の金属線における銅合金部のパラジウムの上限値は0.5質量%である。これは、パラジウムの固溶強化作用が大きくなり、降伏応力が大きくなるためである。また、パラジウムは高価であるため、コストに見合った特性向上の効果が得られない。パラジウムも亜鉛と同様、他の不純物に比較して銅に対して電気抵抗に与える影響は小さい。電気銅、タフピッチ銅、無酸素銅に対して上限値の0.5質量%の亜鉛を添加してもアルミニウムに比較して電気比抵抗値は小さく、IACS(%)で95%以上の値が得られる。また、0.15質量%以下では100%以上の値を得ることができるので望ましい。
【0040】
本実施形態の金属線に対して、亜鉛もパラジウムも破断伸びを大きくする効果があるが、それをもたらす作用が異なるために、これらの元素の両方を添加することによって、一層破断伸びを大きくすることができる。いずれの元素も銅に添加すると固溶強化作用はあるから、これらの元素の総添加量は、0.5質量%以下である必要がある。
【0041】
銅に対して亜鉛とパラジウムの双方を総量で0.5質量%添加しても、アルミニウムに比較して電気比抵抗値は小さいから、金属線として十分な優位性を保つことができる。
【0042】
以上、本実施形態の必須元素である亜鉛とパラジウムの総量の上限値は0.5質量%であるが、その上限値以下であれば、0.5質量%に達するまで他の元素を添加しても良い。特に元素の種類は問わないが、0.2%耐力値を抑える作用、破断伸びを大きくする作用、電気抵抗を低く留める作用は、亜鉛やパラジウムに比べて小さいから亜鉛やパラジウムの上限値以上に含有出来ないので、本実施形態の銅合金内の銅以外の元素の総量は、必然的に0.5質量%以下ということができ、亜鉛やパラジウムの下限濃度が0.005質量%であるから、本実施形態の銅合金内の銅、亜鉛、パラジウム以外の元素の総量は、0.495質量%以下ということができる。
【0043】
亜鉛とパラジウム以外の元素は、銅に不可避不純物や、亜鉛、パラジウムに更に付加的な効果を得るために意図的に添加される元素が含まれる。後者として、特に本実施形態ではニッケル、アルミニウム、カルシウム、銀、クロム、ジルコニウム、錫、マンガン、希土類元素を挙げることができるが、この限りではない。これらの元素の付加的な効果については後述する。
【0044】
亜鉛、パラジウム以外で銅合金に含有できる元素の添加量の上限値は、元素によって異なり、0.495質量%、もしくは0.2%耐力値、室温の電気比抵抗値で決まる上限値の低い値で決まる。亜鉛とパラジウムの総量が0.005質量%で、他に不純物を含まない時、0.495質量%まで添加できるのはニッケルであり、それ以外の元素の殆どは0.2%耐力値、室温の電気比抵抗値で決まる上限値の低い方の値になる。
【0045】
室温の電気比抵抗値は材料組織にそれほど大きくは影響を与えないので絶対値で規定できる。本実施形態の金属線、又は銅合金線となる銅線の電気比抵抗値は、純アルミニウムの電気比抵抗値2.6×10−8Ωmを超えない範囲とする。望ましくはIACS(%)で95%以上、更に望ましくはIACS(%)で98%以上、理想的には、IACS(%)で100%以上である。
【0046】
一方、0.2%耐力値は、材料組織、すなわち製造プロセスの影響を大きく受ける。したがって、その金属線を同じ製造プロセスで製造した時、原料銅に合金元素を添加しないで製造した材料に対して0.2%耐力値の増分が10%を超えない範囲とする。0.2%耐力値が多少大きくなっても破断伸びが大きくなれば、金属線として利用した時、太陽電池モジュールの寿命が向上する効果が得られるからである。理想的には原料銅に何も添加しないで製造した材料に対して0.2%耐力値が低いことが望ましい。
【0047】
原料銅は、例えば純度99.9質量%以上の電気銅、タフピッチ銅、無酸素銅等が挙げられるがその限りではない。本実施形態における銅線に対する亜鉛とパラジウム以外の元素、並びに許容できる添加量は、室温の電気比抵抗値、0.2%耐力値の上記の基準を超えない低い方の添加量で規定される。
【0048】
以上、本実施形態の亜鉛とパラジウム以外の元素は、0.2%耐力値と電気抵抗値で規定される上限値と0.495質量%の低い方の値で規定されるということができる。この規定値以下であれば、元素の種類を問わない。
【0049】
(亜鉛とパラジウムの1種以上、及び、ニッケル、アルミニウム、カルシウム、銀、クロム、ジルコニウム、錫、マンガン、希土類元素の1種以上を含有する場合について)
以上説明した通り、亜鉛とパラジウム以外の元素は、本実施形態の金属線としての低い0.2%耐力値、高い伸び値を著しく阻害するものでなければ、銅線部に添加されていてもかまわない。このうち、ニッケル、アルミニウム、カルシウム、銀、クロム、ジルコニウム、錫、マンガン、希土類元素は、亜鉛やパラジウムで得られる効果に更に付加的な効果を得られ、一定の濃度までは無害であることが現時点で分かっている。したがって本実施形態の太陽電池配線用金属線としては、上記以外の元素はなるべく少ない方が望ましい。
【0050】
アルミニウム、カルシウム、銀、クロム、ジルコニウム、錫、マンガン、希土類元素は、酸素や硫黄濃度の多い原料を使用するときに意図的に添加して、全体の不純物濃度を下げることができる。上限値は0.2%耐力値で規定され、0.05質量%である。希土類元素はイットリウム、及び周期律表でランタンからルテチウムまでのランタノイド元素を指す。マンガンはパラジウム同様、本実施形態の規定濃度範囲の添加で破断伸びを大きくする効果がある。
【0051】
上記以外の酸素、硫黄、鉛、ビスマス、シリコン、鉄を始めとする遷移金属元素、金などの貴金属元素、塩素などのハロゲン元素、リチウム等のアルカリ元素、マグネシウム等のアルカリ土類元素等の元素も不可避不純物としてごく微量に含まれる場合があるが、これらの元素は少ない方が望ましいが、本発明の0.2%耐力値、電気抵抗値の基準を満たす限り、何らかの目的で含有されていても良い。このうち酸素は、電気抵抗や0.2%耐力値に対する影響が小さく、タフピッチ銅に含まれる程度の0.05質量%程度の酸素は許容できる。銅以外の元素は単体で固溶、あるいは析出した状態になっている必要はなく、例えば酸素の大部分はCuOの形で酸化物の状態で含有される。
【0052】
(ニッケルの濃度が0.005質量%以上0.495質量%以下である場合について)
銅中のニッケルの0.2%耐力に対する固溶強化作用は、亜鉛やパラジウムと同程度に小さい。したがって、用途によって求められる特性やコストに応じて補助的に利用することができる。例えば、本実施形態の太陽電池用インターコネクターは、錫系半田を被覆した金属線の形態をとることが多い。銅合金線に半田を溶融めっきする際、銅合金線と半田被覆層の界面に反応相であるCuSnの金属間化合物が形成される。この反応相は固いことから厚く成長すると金属線全体の0.2%耐力値を上げる。銅合金線に0.005質量%以上のニッケルが添加されていると反応相の凹凸が減少し、厚さが均一化し、更に反応相の成長を抑制する。したがって、ニッケルを添加することにより、太陽電池用インターコネクターのような半田めっき銅線の形態の金属線の0.2%耐力の増加を抑制することができる。
【0053】
ニッケルは、半田めっき金属線に用いた場合、0.2%耐力値に対する効果が、亜鉛やパラジウムと異なるので、これらの元素に加えて更に大きい効果を得ることができる。特に効果が大きいのは3元素を合算した銅合金線中の濃度が0.1質量%以上、すなわち不可避不純物を含めたその他の元素を含めて0.1質量%超、0.25質量%以下の範囲である。
【0054】
ニッケルは亜鉛やパラジウムに比較して電気抵抗に対する影響が大きい。例えば室温における電気比抵抗値17×10−9Ωmが純度99.96質量%の無酸素銅は、ニッケルを0.8質量%添加することで純アルミニウムの電気比抵抗値26×10−9Ωmを超える。上記ニッケルの添加濃度は、0.2%耐力値から規定されるその他の元素の上限値0.495質量%より大きい。したがって、これよりも低い濃度で補助的に添加することはできる。ニッケル濃度の望ましい上限値はニッケルを単独で添加したときにIACS(%)で95%以上の値が得られる0.15質量%、更に望ましくはIACS(%)で98%以上の値が得られる0.1質量%以下である。この更に望ましい組成内にあれば、半田めっき線として利用する太陽電池用インターコネクターでは、0.2%耐力値の低減効果による利点の方が勝るといえる。
【0055】
(クロムの濃度が0.02質量%以下である場合について)
クロムは電気抵抗に対する影響が小さく、導体として銅に添加する元素として利用できる。しかしクロムは、固溶体として他の元素が入り込める限界の量(固溶限)が小さく析出強化作用によって著しく耐力値を押し上げる。クロムの添加量は、過時効して析出物を粗大化させ耐力に対する寄与を下げたとしても0.02質量%が上限である。
【0056】
銀は、銅に対して精錬による除去が難しい元素で不可避不純物として、少なからず銅に含有する。銀濃度の上限値は0.2%耐力値で規定され、0.05質量%である。
【0057】
(少なくとも一部の表面が、銅とは異種の金属で被覆されている場合について)
本実施形態の金属線は、亜鉛又はパラジウムを含有する銅合金単体である必要はない。例えば、銅線と異なる金属である錫、銀、ニッケル等のめっきによって被覆されてもいいし、絶縁被覆されていても導電性接着材が被覆されてもいい。本実施形態の金属線は、例えば無酸素銅のような純銅を使用した金属線並み、あるいはより低い0.2%耐力値、大きい破断伸び値、低い電気抵抗値を有する金属線であり、上記で規定した成分範囲にある銅合金線を主体としていれば、その効果を享受できる。主体とは、金属線のC断面で本実施形態の規定する銅合金部の面積率が50%以上であることをいう。
【0058】
銅合金線と異種の材料で銅合金線の表面を被覆する理由は、耐食性や、接合相手となる電極との接合性の向上、光学的特性の付与等様々である。金属線では、純銅線に融点の低い錫系の半田が被覆される形態が主流である。また、金属線の中には、金属線と太陽電池セルとの接合面に、導電性ペーストや導電性フィルムを外部から供給して、金属線と太陽電池セルとを接合する実装方式があり、このような金属線では、銅合金線を、銀やニッケルで被覆した構成としてもよい。特に銀は光の反射率が大きいことから、銀により銅合金線の表面を被覆した太陽電池用インターコネクターでは、当該太陽電池用インターコネクターで遮られた光を反射させて、その他の箇所にあるガラスや封止樹脂との界面で再度反射させて、太陽光を太陽電池受光面に入射させることができる。
【0059】
現在主流の結晶シリコン型の太陽電池モジュールでは、金属線の表面に被覆した半田を200℃以上の温度でリフロー(再溶融)させて、太陽電池セル上の銀電極に線実装する。半田の溶融温度まで昇温し、太陽電池セルであるシリコンと金属線の主体をなす銅との間で半田を溶融、凝固させて接合し、室温まで冷却すると、シリコンと銅の熱膨張係数の差によって、熱応力や、熱歪みが生じる。一般的な結晶シリコンを用いた太陽電池セルと、太陽電池用インターコネクターとの接続距離は10cm以上に及ぶことから、応力や、歪みは非常に大きなものになる。そこで、太陽電池用インターコネクターが軟質で、それ自体が低い応力で塑性変形することが可能であると、接合部分の応力や、シリコンにかかる歪みは緩和できる。この作用によって、近年薄肉化しているシリコン自体の破壊や、シリコンと太陽電池用インターコネクターとの接合界面での破壊を防止できる。すなわち、本実施形態は、金属線の銅合金線の表面に被覆した錫をリフローさせて、太陽電池セルに対して線実装する金属線(すなわち、太陽電池用インターコネクター)として特に有効である。太陽電池用インターコネクターにおいて銅合金線の表面を被覆する錫系合金としては、Pb-Sn系、Pb-Sn-Ag系の鉛半田合金や、Sn-Ag系、あるいはSn-Ag-Cu系の鉛フリー半田合金等が挙げられるが、必ずしもこれらの合金系でなくても本実施形態の効果は得られる。
【0060】
本実施形態による金属線は、近年薄肉化する太陽電池セルに対応するため、銅合金線のC断面をφ200μm程度の細い線径のものとしてもよい。ところで、図1では、一つの太陽電池セル2に直列接続される太陽電池用インターコネクター3の数が2本であるが、現在の太陽電池セルの実装では、最大でも4本であることが主流である。したがって、太陽電池用インターコネクター1本に流れる電流量が数Aと一般的な半導体に比較して大きく、電流容量の点からC断面を小さくできない。したがって、一般的な金属線は、銅合金線の幅が1mm以上6mm以下でなり、銅合金線の厚さが0.1mm以上0.3mm以下としたテープ状の平角線である。
【0061】
一方、太陽電池セルと、太陽電池用インターコネクターとを、半田のリフローにより接合、導電性ペーストや導電性フィルムにより接合する場合でも、熱を加えることが必須である。この際、金属線たる太陽電池用インターコネクターの断面積が大きいと、線実装した時の太陽電池用インターコネクターと、太陽電池セルとの接合界面での熱応力や、太陽電池セルにかかる熱歪が大きくなる。例えば銅合金線のC断面形態が上記範囲にある金属線としての太陽電池用インターコネクターでは、軟質な銅を銅合金線とし、重量で計算した重量目付量が5〜35μm程度の錫系半田合金からなる被覆層で銅合金線の表面を被覆した構成となり得る。ここで重量目付量とは、金属線の銅合金線の単位長さ当たりの表面積と重量、並びに被覆された金属線の密度と単位長さの重量から換算された平均的な厚さである。
【0062】
太陽電池用インターコネクターは、平角銅線を銅合金線とし、当該銅合金線の表面が溶融めっきした半田で被覆されているが、被覆層となる半田の厚さは均一である必要はなく図2に示したような形態が典型的である。被覆層は、例えば、最も厚い部分での厚さを10〜40μmとしてもよい。銅合金線の厚さが0.15mm〜0.3mmである太陽電池用インターコネクターやそれよりも銅合金線の断面積が大きい太陽電池用バスバーでは、全体の変形特性に対し、銅合金線の特性が支配的となることから、本実施形態の効果は十分に得られる。特に導電性接着剤で接続される太陽電池用インターコネクターでは、銅合金線の表面を被覆する被覆層を、重量目付量で0〜10μm程度と薄くてもよいことから、本実施形態の効果がより大きく発揮される。
【0063】
本実施形態の金属線は、同じ製造方法の場合、例えば無酸素銅を使用してなる汎用の太陽電池配線用金属線に比較して低い耐力と大きい破断伸びを有する。製造プロセスにもよるが、0.2%耐力値は49MPaを超えない値、破断伸びは25%を超える値を得ることができる。
【0064】
上述したように、本実施形態の金属線は太陽電池用インターコネクターや太陽電池用バスバー等の金属線として有用であるが、特に太陽電池用インターコネクターとして有用である。これは、太陽電池用インターコネクターと、太陽電池セルとの実装形態が長さ10cm以上に及ぶ線実装形態であること、太陽電池セルが低コスト化、高効率化を目的として薄肉化されていること、及び太陽電池用インターコネクターに流れる電流値が通用の半導体デバイスに比較して大きく、太陽電池用インターコネクターの厚さが太陽電池セルの厚さと同等であることによる。すなわち、本実施形態の金属線長手方向に対して軟質な金属線は、太陽電池用インターコネクターとして使用した場合、太陽電池セルと、太陽電池用インターコネクターとを接合する時の熱による太陽電池用インターコネクターと太陽電池セルとの界面にかかる熱応力や、太陽電池セルにかかる熱歪を小さくし得、太陽電池モジュール製造時の歩留まりを向上し得る。
【0065】
更に、太陽電池セルを上述した太陽電池用インターコネクターで直列接続したストリングスで構成される本実施形態の太陽電池モジュールは、昼夜及び季節による熱応力や、風雪による機械的な繰返し応力に強く、種々の使用環境の下でも長寿命化を実現し得る。これは、本実施形態の金属線は、金属線長手方向に軟質な組織構造を有しているため、熱応力や、機械的応力が加えられても、金属線側で塑性変形することによって、太陽電池モジュール内での太陽電池セルと金属線との間の界面にかかる繰返しの応力を緩和し得るとともに、太陽電池セルにかかる繰り返しの歪みをも緩和し得、接合部や、太陽電池セル内での破壊を抑制できるためである。また、太陽電池モジュール内で一つの太陽電池セルと他の太陽電池セルとの間で、太陽電池用インターコネクターの金属線長手方向に引張や圧縮の熱応力、機械的応力が加えられたときでも、本実施形態の金属線は、金属線長手方向に破断伸びが大きいため、その分、破断を抑制し得、製品寿命が長く長期的に信頼性の高い太陽電池モジュールを提供できる。
【実施例】
【0066】
以下、本実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、これは本発明の例を示すものであり、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
亜鉛、パラジウムを中心とした合金元素を添加した平角銅線を作製し、成分に対する機械的特性、電気的特性、材料組織を調べた。
【0068】
銅原料はJIS C1020、純度99.96質量%以上の無酸素銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0003質量%、鉄が0.0006質量%、銀が0.0003質量%、シリコンが0.0002質量%、鉛が0.0002質量%、リンが0.0001質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、パラジウム、ニッケル、クロム、マンガン、ジルコニウム、錫を使用した。本実施例および比較例における合金元素の添加濃度は不可避不純物を含めても0.59質量%以下であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.0006質量%以下である。
【0069】
原料銅に合金元素を所定の比率で加え、Ar中、水冷銅ハース上でアーク溶解をして、直径60mm、厚さ8mmのボタン状の銅合金を溶解した。その後冷間圧延によって厚さ0.8mmまで減厚し、端部を切断して幅を整えた後、張力圧延で厚さを0.15mmの薄板コイルとした。このコイルをスリット加工によって幅3mmのテープ状銅合金線とした。この銅合金線を150mmの長さに切断した後、真空電気炉で500℃1時間の焼鈍を施した試料を引張試験、並びに電気抵抗測定試料とした。比較用の試料として、同じ原料銅を同じ溶解、加工、焼鈍プロセスで作製した試料(試料1)を準備した。
【0070】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積0.15×3mmで除して得た。
【0071】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を200mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗を測定した。更に抵抗値と銅合金線の断面積、電圧間端子距離から電気比抵抗を算出した。
【0072】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表1に示した。それ以外の不純物元素は銅原料より小さくなっていることを確認した。
【0073】
【表1】
【0074】
金属の降伏応力、強度、電気抵抗値は、不純物の量が増えると上昇する。しかし、亜鉛を添加した試料3〜7は、その濃度が0.005質量%から0.47質量%の間で0.2%耐力値が純銅(試料1)に比べ低下することがわかった。またこの組成範囲で、破断伸びも純銅(試料1)に比べ大きくなっている。0.2%耐力値は、亜鉛、又はパラジウムの濃度が0.01質量%以上で、僅かな不可避元素も含めて総量が0.1質量%超の時、小さな値を示し効果が大きかった。この条件を満たすが、ニッケルが0.48質量%、クロムが0.2%添加された試料19、試料21は、本発明の規定の組成の上限値に近く、0.2%耐力値がやや大きくなった。破断伸びは、亜鉛、又はパラジウムの濃度が0.005質量%以上であれば、30.0%以上の値を示し、大きな効果が得られた。低い0.2%耐力値、大きい破断伸びは、金属線として有用である。
【0075】
亜鉛を添加した効果を調べるために、試料の組織を調べた。調べた材料は比較材である試料1と最も結果の良かった試料5である。それぞれの試料のL断面をEBSDで評価した。銅平角線のテープ面を研磨にて厚さを1/2にして鏡面研磨した後、軽くエッチングして表面歪みを除去した面について、測定領域800×1600μm、測定間隔2μmにて測定した。EBSD測定データから結晶粒径と結晶方位の分布を調べた。それぞれの試料で重ならない5視野の測定を行い、平均値を算出した。
【0076】
その結果、平均結晶粒径は試料1が35.1μm、試料5が34.3μmと殆ど差がないことが分かった。平均結晶粒径として、面積で重みづけされた円相当径の平均値、すなわち面積平均径を評価した。結晶粒は、双晶境界を除く回転角で15°以上の方位差を有する結晶粒界で囲まれる領域と定義した。
【0077】
一方、試料の長手方向の<111>配向度と<100>配向度は両者で異なることが分かった。EBSD測定における全体の測定点中、銅合金線の長手方向に対し<111>方位及び<100>方位が、角度10°以内を向いている測定点数の割合は、試料1で<111>方位が15.2%、<100>方位が18.1%であったのに対し、試料5では<111>方位が7.6%、<100>方位が5.8%であった。試料5が試料1に対して0.2%耐力が低く、かつ破断伸びが大きくなった理由は、亜鉛の添加によって降伏応力、強度が高い<111>方位、加工硬化しやすい<100>方位が配向した結晶粒の割合が小さくなったためである。
【0078】
亜鉛は電気抵抗に対する影響が小さく、約0.5質量%までIACS(%)は95%以上、約0.2質量%まで98%以上であり、約0.15質量%以下では100%以上の純銅並みの値を示すことが分かった。
【0079】
パラジウムを添加した試料は、亜鉛を添加した試料と異なり0.2%耐力値を低減する効果は認められなかった。試料13の結果から、約0.5質量%の添加で、合金元素を添加していない試料1に比較して0.2%耐力の増加分は10%以下であると見積もられ、約0.1質量%までは殆ど増加しなかった。一方、破断伸びを増加させる効果は大きく、0.09質量%添加した試料11では単元素の添加試料としては最大の伸び値となった。
【0080】
パラジウムの電気抵抗に対する効果は亜鉛と同様小さく、0.5質量%以下ではIACS(%)は95%以上、約0.1質量%以下では100%以上の純銅並みの値を示すことが分かった。
【0081】
試料11の組織を試料1と同じ方法で評価した。その結果、試料11の面積平均径は34.9μm、銅合金線の長手方向に対し<111>方位及び<100>方位が、角度10°以内を向いている測定点数の全体の測定点に対する割合は、<111>方位が15.0%、<100>方位が18.9%と試料1と殆ど変らなかった。試料11の破断伸びが大きい原因は、材料組織ではなく、電子構造等のより微視的なところにあると考えられる。
【0082】
亜鉛とパラジウムの両方を含有した試料14では実施例1で作製した試料の中で最も大きい破断伸びを示した。複合効果を示すのは破断伸びに対する亜鉛とパラジウムの効果が異なるためと考えられる。
【0083】
ニッケルは、0.2%耐力値に対する影響はパラジウム同様に小さいが、銅合金線単体で使用した場合は、耐力値を低減する効果は亜鉛が主であると考えられる。ニッケルを0.48質量%添加した銅合金線は、純アルミニウムの電気比抵抗値26×10−9Ωmよりも小さい。しかし、ニッケルを添加した銅合金線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線の0.2%耐力値の110%に近くなることが分かった。
【0084】
クロムは、電気抵抗に対する影響が小さい。0.2質量%添加した銅合金線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線の0.2%耐力値の110%に近くなることが分かった。
【0085】
他の元素ではマンガンも破断伸びを大きくし得ることがわかった。クロム、ジルコニウム、錫を合金元素として一定程度含む銅合金線は、亜鉛が添加されていることで、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線と比較して0.2%耐力が小さく、電気抵抗値が同等になることがわかった。
【0086】
以上、説明してきたように亜鉛、又はパラジウムを必須元素として銅中に適度に含有する銅合金線は、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線に比較して、0.2%耐力を低く、破断伸びを大きくすることができる。この銅合金線は、軟質性が求められる太陽電池配線用線材として有用である。表面に銅合金線に対して薄いめっきを被覆しても本性質は変わらないため、特に製造歩留まりの向上、温度変化、風雪による繰り返しの歪みにさらされる太陽電池モジュールの寿命向上が求められる配線材として極めて有用である。
【0087】
(実施例2)
次に、本実施形態の金属線として、半田めっきを施した平角線を作製し、その特性を評価した。
【0088】
銅原料は純度99.99質量%以上の電気銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0002質量%、硫黄が0.0006質量%、銀が0.003質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、ランタンを使用した。本実施例および比較例における合金元素の添加濃度は0.53質量%以下であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.0006質量%以下である。
【0089】
これらの原料と合金元素をアルゴン中で高周波溶解炉を使用し、高純度黒鉛坩堝中で溶解し、同じチャンバー内に設置した内径20mmの高純度黒鉛円筒鋳型に流し込んで銅インゴットを作製した。その後、真空中で600℃、5時間の均質化焼鈍を行い、φ8mmまでスエージ加工し、カセットローラーダイスを使用して2.7mm□まで減面して線材とした。次いで、300℃、1時間のバッチ中間焼鈍を施し、再度カセットローラーダイスを使用してφ1.2mmまで、次いで伸線ダイスを使用してφ1.1まで引抜加工を行って丸線とし、最後にカセットローラーで板厚0.2mmまで圧延加工して、厚さ0.2mm、幅1.5mmの平角線を作製した。平角線はステンレスボビンに巻き、真空中で550℃、2時間の焼鈍を行った。比較のため、合金元素を加えないで原料電気銅のみを溶解して、同じプロセスを経た純銅平角線も作製した。
【0090】
次いで、これらの平角線を連続半田めっき装置を使用して溶融半田めっきを行った。連続半田めっき炉は、管状炉である光輝焼鈍炉と、半田めっき槽を有する半田めっき炉からなる。光輝焼鈍炉の炉長は1mであり、加熱したステンレス管内を3L/minの流量でN−4体積%Hガスを通気させながら、平角銅線を通線し、表面を活性化する。その後、ステンレス管末端部を半田槽の溶融半田液面下に配置することによって、平角銅線を大気に触れさせることなく溶融半田槽内を通過させ、液面から垂直真上に引き上げることによって平角銅線の表面に半田めっきを施す。半田はSn−40質量%Pb半田を使用した。光輝焼鈍炉の温度は680℃、半田めっき槽の温度は220℃とし、通線速さは5m/minとした。
【0091】
このように作製した銅合金を銅合金線として半田が被覆された金属線のC断面形状は図2のようになっており、半田の重量目付量は試料によらず片側20μmであった。重量目付量は、金属線の重量から同じ長さの銅合金線の重量を減じて算出した半田の重量と比重からテープ面に半田が均等に被覆されていると仮定して計算される平均的なめっき厚である。
【0092】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積で除して得た。銅合金線の断面積は、金属線のC断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡で撮影した画像から画像解析によって求めた。
【0093】
金属線は電気比抵抗値の異なる銅合金線と被覆半田で構成されるため、電気比抵抗値では比較できないが、断面形状が同じであるため、長さをそろえることによって、金属線の電流容量を決める電気抵抗を比較できる。
【0094】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を250mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗値を測定した。更に抵抗値と金属線の電圧間端子距離を1000mmから除した値を乗じることで金属線が1mの時の電気抵抗(1m電気抵抗(mΩm)算出した。
【0095】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表2に示した。それ以外の不純物元素は、酸素、硫黄、銀が検出されたが、銅原料の濃度より小さくなっていた。
【0096】
【表2】
【0097】
亜鉛、又はパラジウムを含有し、合金元素の総量が0.5質量%以下の金属線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の0.2%耐力値の110%以下であった。特に、亜鉛、又はパラジウムに加えて、これらの元素以外のニッケル、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、ランタンの総量が0.21質量%以下の金属線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の値を下回った。
【0098】
試料25と試料28、試料29のC断面を鏡面研磨し、銅合金線と半田の界面をSEMで観察したところ、いずれの界面にもCuSnの金属間化合物が形成されていたが、試料28、試料29の化合物層の厚さは薄くかつ均一であった。ニッケルを添加した金属線で0.2%耐力値が特に低かったのは、ニッケルが硬質な金属間化合物の成長を抑制したためである。ニッケルは錫を含有した金属を被覆した金属線の0.2%耐力値を現象する効果を有し、亜鉛、又はパラジウムにニッケルを含有した銅合金線に錫を含む被覆をした金属線は、特に太陽電池配線用線材として有用である。
【0099】
アルミニウム、カルシウム、イットリウム、ランタンを添加した試料の電気抵抗値は低く抑えられた。これらの元素は、原料銅に含まれる電気抵抗を上昇させる単体で存在する硫黄等の元素と反応、硫化物を形成して無害化したことにより電気抵抗値を低く抑えることができる。0.2%耐力値を上げない範囲でこれらの元素を含有した銅合金線は、本実施形態の金属線の主体をなす太陽電池配線用線材として有用である。
【0100】
(実施例3)
次に、本実施形態の金属線として、半田めっきを施した平角線を作製し、その特性を評価すると共に、太陽電池セルに配線してその有用性を評価した。
【0101】
銅原料は純度99.99質量%以上の電気銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0002質量%、硫黄が0.0006質量%、銀が0.003質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、パラジウム、ニッケル、マンガンを使用した。本実施例における合金元素の添加濃度は0.11質量%であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.00011質量%以下である。
【0102】
これらの原料と合金元素をアルゴン中で高周波溶解炉を使用して溶解し、連続鋳造によでφ6mmの条材に製造した。次いでクロス圧延加工によって、幅10mmになるまで圧延し、更に冷間圧延で厚さ0.2mmまで圧延、長さ方向にスリット加工して厚さ0.2mm、幅1.3mmの平角線を作製した。平角線はステンレスボビンに巻き、真空中で550℃、2時間の焼鈍を行った。比較のため、合金元素を加えないで原料電気銅のみを溶解して、同じプロセスを経た純銅平角線も作製した。
【0103】
次いで、これらの平角線を連続半田めっき装置を使用して溶融半田めっきを行った。連続半田めっき炉は、管状炉である光輝焼鈍炉と、半田めっき槽を有する半田めっき炉からなる。光輝焼鈍炉の炉長は1mであり、加熱したステンレス管内を3L/minの流量でN−4体積%Hガスを通気させながら、平角銅線を通線し、表面を活性化する。その後、ステンレス管末端部を半田槽の溶融半田液面下に配置することによって、平角銅線を大気に触れさせることなく溶融半田槽内を通過させ、液面から垂直真上に引き上げることによって平角銅線の表面に半田めっきを施す。半田はSn−3質量%Ag−0.5質量%Cuを使用した。光輝焼鈍炉の温度は680℃、半田めっき槽の温度は250℃とし、通線速さは5m/minとした。
【0104】
このように作製した銅合金を銅合金線として半田が被覆された金属線のC断面形状は図2のようになっており、半田が最も厚いテープ面中央の片面トップ厚は試料によらず20μmであった。このようにして作製した金属線について、0.2%耐力値、破断伸び、1m長さの電気抵抗値を求め比較した。
【0105】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積(1.3×0.2mm)で除して得た。
【0106】
金属線は電気比抵抗値の異なる銅合金線と被覆半田で構成されるため、電気比抵抗値では比較できないが、断面形状が同じであるため、長さをそろえることによって、金属線の電流容量を決める電気抵抗を比較できる。
【0107】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を250mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗値を測定した。更に抵抗値と金属線の電圧間端子距離を1000mmから除することで金属線が1mの時の電気抵抗(1m電気抵抗(mΩm)算出した。
【0108】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表3に示した。それ以外の不純物元素は、酸素、硫黄、銀が検出されたが、銅原料の濃度より小さくなっていた。
【0109】
【表3】
【0110】
亜鉛、又は亜鉛とパラジウムを含有し、不可避不純物元素を除く合金元素との総量が0.1質量%の銅合金線を使用した試料の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の0.2%耐力値よりも小さく、一方、破断伸びは逆に大きかった。電気抵抗値はほぼ同等であった。0.2%耐力が小さくなるのは、実施例1と実施例2で示した亜鉛とニッケルの効果である。破断伸びが大きくなるのは、亜鉛とパラジウムの効果であるが、マンガンを添加することによっても破断伸びが大きくなることがわかった。
【0111】
これら半田めっきした平角銅線を、太陽電池用インターコネクターとして使用した時の特性を評価した。太陽電池セルは6インチ(約156mm角)、厚さ180μmの多結晶セルを準備した。6インチの多結晶セル上にはインターコネクター配線用の電極として、受光面及び裏面にそれぞれ3本の銀電極が形成されている。
【0112】
配線は一般的な太陽電池セルの配線を製造する装置と同じ製造条件でストリングを製造できるエヌ・ピー・シー社製の全自動配線装置(NTS−150−SM)を使用して、太陽電池セル上の表側電極のみに配線した。接合条件はステージ温度190℃、熱風温度420℃、接合時間3秒である。
【0113】
配線後の太陽電池セルは、インターコネクターが接合された表側電極を内側にして反っていた。これは、金属線とシリコンセルの熱膨張係数の差である。金属線の半田が溶融し凝固して接合した後、室温まで冷却することによって金属線の主体をなす銅合金線の熱収縮がシリコンより大きいため、反りが生じたものである。反りが大きいことは金属線と太陽電池セルの界面にかかる応力が大きいことを意味し、シリコンや銀電極にクラックが生じやすくなる。また、ラミネート工程を経て太陽電池セルの反りを平面に矯正する際、セルが割れる確率が大きくなる。これらは、太陽電池モジュールの製造工程の歩留落ちの要因になっている。金属線と接合界面に残留応力が残っていると使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が加わった際、セルや電極にクラックが入る確率が大きくなり、モジュールの寿命を短くする要因になる。すなわち、反りの低減は、太陽電池モジュールの製造工程の歩留まりや太陽電池モジュールの寿命に有効である。
【0114】
本実施形態の銅合金線に亜鉛、又はパラジウム、更にはニッケルを含有した本実施形態の金属線は、0.2%耐力が小さい。これは、半田をリフローして接合したときに生じる熱応力を金属線が塑性変形して緩和したためである。
【0115】
以上、説明してきたように亜鉛、又はパラジウムを必須元素として銅中に適度に含有させ、不可避不純物を含めた銅以外の元素の濃度を0.1質量%をやや超える程度にすることで、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線に比較して、0.2%耐力が低く、破断伸びが大きく、電気抵抗値が同等の金属線が作製できる。
【0116】
金属線は、破断伸びが大きいことによって、半導体デバイスに実装した後の金属線にかかる応力に対して疲労寿命が高まることから、半導体デバイスの信頼性を向上させることができる。特に太陽電池モジュールは、使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が大きいので、太陽電池セル間の太陽電池用インターコネクターが断線して故障する故障モードが多いことから、破断伸びが大きいことは重要な特性である。
【0117】
電気抵抗が小さいということは、同じ電流容量の金属線を設計したときに金属線の断面積を小さくすることができる。太陽電池用インターコネクターのような線実装形態で配線される半導体デバイスの場合、0.2%耐力が同等であれは、同じ熱歪みが加えられたとき、断面積の小さな金属線のほうが低い力で降伏するため、接合界面にかかる応力が小さくなり、太陽電池モジュールの製造歩留まりや寿命の向上に有利である。
【0118】
金属線は、一般的な半導体デバイスと比較して大きな直流電流を通電する必要があるから、電気抵抗が純銅線と同等で0.2%耐力が小さく、破断伸びが大きいことは有効である。
【0119】
(実施例4)
亜鉛を中心とした合金元素を添加した銅合金線と純銅線に半田めっきを施した金属線を作製し、合金成分に対する機械的特性、電気的特性、接合性を調べた。
【0120】
銅原料は純度99.99質量%以上の電気銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0002質量%、硫黄が0.0006質量%、銀が0.003質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、ニッケルを使用した。本実施例における合金元素の添加濃度は0.1質量%以下であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.0001質量%以下である。
【0121】
これらの原料と合金元素をアルゴン中で高周波溶解炉を使用し、高純度黒鉛坩堝中で溶解し、同じチャンバー内に設置した内径20mmの高純度黒鉛円筒鋳型に流し込んで銅インゴットを作製した。その後、真空中で600℃、5時間の均質化焼鈍を行い、φ2mmまでスエージ加工し、次いで伸線ダイスを使用してφ1.2まで引抜加工を行って丸線とし、最後に板厚0.2mmまで圧延加工して、厚さ0.2mm、幅1.5mmの平角線を作製した。平角線はステンレスボビンに巻き、真空中で600℃、2時間の焼鈍を行った。比較のため、合金元素を加えないで原料電気銅のみを溶解して、同じプロセスを経た純銅平角線も作製した。
【0122】
次いで、これらの平角線を連続半田めっき装置を使用して溶融半田めっきを行った。連続半田めっき炉は、管状炉である光輝焼鈍炉と、半田めっき槽を有する半田めっき炉からなる。光輝焼鈍炉の炉長は1mであり、加熱したステンレス管内を3L/minの流量でN−4体積%Hガスを通気させながら、平角銅線を通線し、表面を活性化する。その後、ステンレス管末端部を半田槽の溶融半田液面下に配置することによって、平角銅線を大気に触れさせることなく溶融半田槽内を通過させ、液面から垂直真上に引き上げることによって平角銅線の表面に半田めっきを施す。半田はSn−38質量%Pb−2質量%Ag半田を使用した。光輝焼鈍炉の温度は680℃、半田めっき槽の温度は210℃とし、通線速さは5m/minとした。
【0123】
このように作製した銅合金を銅合金線として半田が被覆された金属線のC断面形状は図2のようになっており、半田の重量目付量は試料によらず片側トップ厚20μmであった。
【0124】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積で除して得た。銅合金線の断面積は、金属線のC断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡で撮影した画像から画像解析によって求めた。
【0125】
金属線は電気比抵抗値の異なる銅合金線と被覆半田で構成されるため、電気比抵抗値では比較できないが、断面形状が同じであるため、長さをそろえることによって、金属線の電流容量を決める電気抵抗を比較できる。
【0126】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を250mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗値を測定した。更に抵抗値と金属線の電圧間端子距離を1000mmから除した値を乗じることで金属線が1mの時の電気抵抗(1m電気抵抗(mΩm)算出した。
【0127】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表4に示した。それ以外の不純物元素は、酸素、硫黄、銀が検出されたが、銅原料の濃度より小さくなっていた。
【0128】
【表4】
【0129】
亜鉛とニッケルを含有した銅合金線を使用した試料の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の0.2%耐力値よりも小さく、一方、破断伸びは逆に大きかった。0.2%耐力が小さくなるのは、実施例1と実施例2で示した亜鉛の材料組織に対する作用効果とニッケルの銅合金線と半田界面における金属間化合物の成長抑制効果である。破断伸びが大きくなるのは、亜鉛の効果であり、0.005質量%の添加で大きな効果が認められた。
【0130】
電気抵抗値は全ての金属線でほぼ同等であった。ニッケルを比較的多く含有するのに対して、電気抵抗が同等であったのは、同時に添加したアルミニウムが酸素や硫黄等の不純物元素と反応して無害化した効果である。
【0131】
これら半田めっきした平角銅線を、太陽電池用インターコネクターとして使用した時の特性を評価した。太陽電池セルは6インチ(約156mm角)、厚さ180μmの多結晶セルを準備した。6インチの多結晶セル上にはインターコネクター配線用の電極として、受光面及び裏面にそれぞれ2本の銀電極が形成されている。
【0132】
配線は一般的な太陽電池セルの配線を製造する装置と同じ製造条件でストリングを製造できるエヌ・ピー・シー社製の全自動配線装置(NTS−150−SM)を使用して、太陽電池セル上の両側電極に配線した。接合条件は熱風温度3000℃、接合時間3秒として、ステージ温度を200℃から5℃ずつ下げていって配線し、接合温度マージンを調べた。
【0133】
その結果、純銅線を使用した試料46が165℃で接合出来なくなったのに対して、亜鉛を0.005質量%以上添加した銅合金を銅合金線とした試料では160℃まで接合できた。これは、銅合金線に含有されている亜鉛が半田を拡散して半田の融点を低下させ、活性化したためと考えられる。
【0134】
配線後のセルは、インターコネクターが接合された裏側電極を内側にして反っていた。表4で示した反りの量は、最低ステージ温度で接合した時の値であるが、反りの量は試料によって異なっていた。亜鉛を添加した銅合金を銅合金線とした試料で反りが小さかった理由は、0.2%耐力値が小さく金属線で塑性変形し、応力を緩和したことに加え、接合温度が低く済んだことにより、熱歪自体が小さかったためである。なお反りは、セルを反りの内側に当たる面を下にした状態で平面上おいて横から観察し、中央部の最も平面と離れた部分の距離を測長して求めた。
【0135】
反りが大きいことは金属線と太陽電池セルの界面にかかる応力が大きいことを意味し、シリコンや銀電極にクラックが生じやすくなる。また、ラミネート工程を経て太陽電池セルの反りを平面に矯正する際、セルが割れる確率が大きくなる。これらは、太陽電池モジュールの製造工程の歩留落ちの要因になっている。金属線と接合界面に残留応力が残っていると使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が加わった際、セルや電極にクラックが入る確率が大きくなり、モジュールの寿命を短くする要因になる。すなわち、反りの低減は、太陽電池モジュールの製造工程の歩留まりや太陽電池モジュールの寿命に有効である。
【0136】
以上、説明してきたように金属線は、亜鉛を微量に添加することによって、半田を溶融して太陽電池セルと接合するリフロー工程において、銅合金から亜鉛が溶融半田に溶け込み、接合温度を下げることができ、ストリング製造、モジュール製造工程におけるセルの破損確率を下げることができる。また、亜鉛を必須元素として銅中に適度に含有させ、不可避不純物を含めた銅以外の元素の濃度を0.1質量%をやや超える程度にすることで、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線に比較して、0.2%耐力が低く、破断伸びが大きく、電気抵抗値が同等の金属線が作製できる。
【0137】
金属線の破断伸びが大きいことは、半導体デバイスに実装した後の金属線にかかる応力に対して疲労寿命が高まることから、半導体デバイスの信頼性を向上させることができる。特に太陽電池モジュールは、使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が大きいので、太陽電池セル間の太陽電池用インターコネクターが断線して故障する故障モードが多いことから、破断伸びが大きいことは重要な特性である。
【0138】
電気抵抗が小さいということは、同じ電流容量の金属線を設計したときに金属線の断面積を小さくすることができる。太陽電池用インターコネクターのような線実装形態で配線される半導体デバイスの場合、0.2%耐力が同等であれは、同じ熱歪みが加えられたとき、断面積の小さな金属線のほうが低い力で降伏するため、接合界面にかかる応力が小さくなり、太陽電池モジュールの製造歩留まりや寿命の向上に有利である。
【符号の説明】
【0139】
1 太陽電池モジュール
2 太陽電池セル
3 太陽電池用インターコネクター(金属線)
4 銅合金線
5 被覆層
図1
図2
図3