【実施例】
【0066】
以下、本実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、これは本発明の例を示すものであり、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
亜鉛、パラジウムを中心とした合金元素を添加した平角銅線を作製し、成分に対する機械的特性、電気的特性、材料組織を調べた。
【0068】
銅原料はJIS C1020、純度99.96質量%以上の無酸素銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0003質量%、鉄が0.0006質量%、銀が0.0003質量%、シリコンが0.0002質量%、鉛が0.0002質量%、リンが0.0001質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、パラジウム、ニッケル、クロム、マンガン、ジルコニウム、錫を使用した。本実施例および比較例における合金元素の添加濃度は不可避不純物を含めても0.59質量%以下であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.0006質量%以下である。
【0069】
原料銅に合金元素を所定の比率で加え、Ar中、水冷銅ハース上でアーク溶解をして、直径60mm、厚さ8mmのボタン状の銅合金を溶解した。その後冷間圧延によって厚さ0.8mmまで減厚し、端部を切断して幅を整えた後、張力圧延で厚さを0.15mmの薄板コイルとした。このコイルをスリット加工によって幅3mmのテープ状銅合金線とした。この銅合金線を150mmの長さに切断した後、真空電気炉で500℃1時間の焼鈍を施した試料を引張試験、並びに電気抵抗測定試料とした。比較用の試料として、同じ原料銅を同じ溶解、加工、焼鈍プロセスで作製した試料(試料1)を準備した。
【0070】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積0.15×3mm
2で除して得た。
【0071】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を200mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗を測定した。更に抵抗値と銅合金線の断面積、電圧間端子距離から電気比抵抗を算出した。
【0072】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表1に示した。それ以外の不純物元素は銅原料より小さくなっていることを確認した。
【0073】
【表1】
【0074】
金属の降伏応力、強度、電気抵抗値は、不純物の量が増えると上昇する。しかし、亜鉛を添加した試料3〜7は、その濃度が0.005質量%から0.47質量%の間で0.2%耐力値が純銅(試料1)に比べ低下することがわかった。またこの組成範囲で、破断伸びも純銅(試料1)に比べ大きくなっている。0.2%耐力値は、亜鉛、又はパラジウムの濃度が0.01質量%以上で、僅かな不可避元素も含めて総量が0.1質量%超の時、小さな値を示し効果が大きかった。この条件を満たすが、ニッケルが0.48質量%、クロムが0.2%添加された試料19、試料21は、本発明の規定の組成の上限値に近く、0.2%耐力値がやや大きくなった。破断伸びは、亜鉛、又はパラジウムの濃度が0.005質量%以上であれば、30.0%以上の値を示し、大きな効果が得られた。低い0.2%耐力値、大きい破断伸びは、金属線として有用である。
【0075】
亜鉛を添加した効果を調べるために、試料の組織を調べた。調べた材料は比較材である試料1と最も結果の良かった試料5である。それぞれの試料のL断面をEBSDで評価した。銅平角線のテープ面を研磨にて厚さを1/2にして鏡面研磨した後、軽くエッチングして表面歪みを除去した面について、測定領域800×1600μm、測定間隔2μmにて測定した。EBSD測定データから結晶粒径と結晶方位の分布を調べた。それぞれの試料で重ならない5視野の測定を行い、平均値を算出した。
【0076】
その結果、平均結晶粒径は試料1が35.1μm、試料5が34.3μmと殆ど差がないことが分かった。平均結晶粒径として、面積で重みづけされた円相当径の平均値、すなわち面積平均径を評価した。結晶粒は、双晶境界を除く回転角で15°以上の方位差を有する結晶粒界で囲まれる領域と定義した。
【0077】
一方、試料の長手方向の<111>配向度と<100>配向度は両者で異なることが分かった。EBSD測定における全体の測定点中、銅合金線の長手方向に対し<111>方位及び<100>方位が、角度10°以内を向いている測定点数の割合は、試料1で<111>方位が15.2%、<100>方位が18.1%であったのに対し、試料5では<111>方位が7.6%、<100>方位が5.8%であった。試料5が試料1に対して0.2%耐力が低く、かつ破断伸びが大きくなった理由は、亜鉛の添加によって降伏応力、強度が高い<111>方位、加工硬化しやすい<100>方位が配向した結晶粒の割合が小さくなったためである。
【0078】
亜鉛は電気抵抗に対する影響が小さく、約0.5質量%までIACS(%)は95%以上、約0.2質量%まで98%以上であり、約0.15質量%以下では100%以上の純銅並みの値を示すことが分かった。
【0079】
パラジウムを添加した試料は、亜鉛を添加した試料と異なり0.2%耐力値を低減する効果は認められなかった。試料13の結果から、約0.5質量%の添加で、合金元素を添加していない試料1に比較して0.2%耐力の増加分は10%以下であると見積もられ、約0.1質量%までは殆ど増加しなかった。一方、破断伸びを増加させる効果は大きく、0.09質量%添加した試料11では単元素の添加試料としては最大の伸び値となった。
【0080】
パラジウムの電気抵抗に対する効果は亜鉛と同様小さく、0.5質量%以下ではIACS(%)は95%以上、約0.1質量%以下では100%以上の純銅並みの値を示すことが分かった。
【0081】
試料11の組織を試料1と同じ方法で評価した。その結果、試料11の面積平均径は34.9μm、銅合金線の長手方向に対し<111>方位及び<100>方位が、角度10°以内を向いている測定点数の全体の測定点に対する割合は、<111>方位が15.0%、<100>方位が18.9%と試料1と殆ど変らなかった。試料11の破断伸びが大きい原因は、材料組織ではなく、電子構造等のより微視的なところにあると考えられる。
【0082】
亜鉛とパラジウムの両方を含有した試料14では実施例1で作製した試料の中で最も大きい破断伸びを示した。複合効果を示すのは破断伸びに対する亜鉛とパラジウムの効果が異なるためと考えられる。
【0083】
ニッケルは、0.2%耐力値に対する影響はパラジウム同様に小さいが、銅合金線単体で使用した場合は、耐力値を低減する効果は亜鉛が主であると考えられる。ニッケルを0.48質量%添加した銅合金線は、純アルミニウムの電気比抵抗値26×10
−9Ωmよりも小さい。しかし、ニッケルを添加した銅合金線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線の0.2%耐力値の110%に近くなることが分かった。
【0084】
クロムは、電気抵抗に対する影響が小さい。0.2質量%添加した銅合金線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線の0.2%耐力値の110%に近くなることが分かった。
【0085】
他の元素ではマンガンも破断伸びを大きくし得ることがわかった。クロム、ジルコニウム、錫を合金元素として一定程度含む銅合金線は、亜鉛が添加されていることで、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線と比較して0.2%耐力が小さく、電気抵抗値が同等になることがわかった。
【0086】
以上、説明してきたように亜鉛、又はパラジウムを必須元素として銅中に適度に含有する銅合金線は、合金元素を添加しないで同じプロセスで作製した純銅線に比較して、0.2%耐力を低く、破断伸びを大きくすることができる。この銅合金線は、軟質性が求められる太陽電池配線用線材として有用である。表面に銅合金線に対して薄いめっきを被覆しても本性質は変わらないため、特に製造歩留まりの向上、温度変化、風雪による繰り返しの歪みにさらされる太陽電池モジュールの寿命向上が求められる配線材として極めて有用である。
【0087】
(実施例2)
次に、本実施形態の金属線として、半田めっきを施した平角線を作製し、その特性を評価した。
【0088】
銅原料は純度99.99質量%以上の電気銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0002質量%、硫黄が0.0006質量%、銀が0.003質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、ランタンを使用した。本実施例および比較例における合金元素の添加濃度は0.53質量%以下であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.0006質量%以下である。
【0089】
これらの原料と合金元素をアルゴン中で高周波溶解炉を使用し、高純度黒鉛坩堝中で溶解し、同じチャンバー内に設置した内径20mmの高純度黒鉛円筒鋳型に流し込んで銅インゴットを作製した。その後、真空中で600℃、5時間の均質化焼鈍を行い、φ8mmまでスエージ加工し、カセットローラーダイスを使用して2.7mm□まで減面して線材とした。次いで、300℃、1時間のバッチ中間焼鈍を施し、再度カセットローラーダイスを使用してφ1.2mmまで、次いで伸線ダイスを使用してφ1.1まで引抜加工を行って丸線とし、最後にカセットローラーで板厚0.2mmまで圧延加工して、厚さ0.2mm、幅1.5mmの平角線を作製した。平角線はステンレスボビンに巻き、真空中で550℃、2時間の焼鈍を行った。比較のため、合金元素を加えないで原料電気銅のみを溶解して、同じプロセスを経た純銅平角線も作製した。
【0090】
次いで、これらの平角線を連続半田めっき装置を使用して溶融半田めっきを行った。連続半田めっき炉は、管状炉である光輝焼鈍炉と、半田めっき槽を有する半田めっき炉からなる。光輝焼鈍炉の炉長は1mであり、加熱したステンレス管内を3L/minの流量でN
2−4体積%H
2ガスを通気させながら、平角銅線を通線し、表面を活性化する。その後、ステンレス管末端部を半田槽の溶融半田液面下に配置することによって、平角銅線を大気に触れさせることなく溶融半田槽内を通過させ、液面から垂直真上に引き上げることによって平角銅線の表面に半田めっきを施す。半田はSn−40質量%Pb半田を使用した。光輝焼鈍炉の温度は680℃、半田めっき槽の温度は220℃とし、通線速さは5m/minとした。
【0091】
このように作製した銅合金を銅合金線として半田が被覆された金属線のC断面形状は
図2のようになっており、半田の重量目付量は試料によらず片側20μmであった。重量目付量は、金属線の重量から同じ長さの銅合金線の重量を減じて算出した半田の重量と比重からテープ面に半田が均等に被覆されていると仮定して計算される平均的なめっき厚である。
【0092】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積で除して得た。銅合金線の断面積は、金属線のC断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡で撮影した画像から画像解析によって求めた。
【0093】
金属線は電気比抵抗値の異なる銅合金線と被覆半田で構成されるため、電気比抵抗値では比較できないが、断面形状が同じであるため、長さをそろえることによって、金属線の電流容量を決める電気抵抗を比較できる。
【0094】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を250mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗値を測定した。更に抵抗値と金属線の電圧間端子距離を1000mmから除した値を乗じることで金属線が1mの時の電気抵抗(1m電気抵抗(mΩm)算出した。
【0095】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表2に示した。それ以外の不純物元素は、酸素、硫黄、銀が検出されたが、銅原料の濃度より小さくなっていた。
【0096】
【表2】
【0097】
亜鉛、又はパラジウムを含有し、合金元素の総量が0.5質量%以下の金属線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の0.2%耐力値の110%以下であった。特に、亜鉛、又はパラジウムに加えて、これらの元素以外のニッケル、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、ランタンの総量が0.21質量%以下の金属線の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の値を下回った。
【0098】
試料25と試料28、試料29のC断面を鏡面研磨し、銅合金線と半田の界面をSEMで観察したところ、いずれの界面にもCu
6Sn
5の金属間化合物が形成されていたが、試料28、試料29の化合物層の厚さは薄くかつ均一であった。ニッケルを添加した金属線で0.2%耐力値が特に低かったのは、ニッケルが硬質な金属間化合物の成長を抑制したためである。ニッケルは錫を含有した金属を被覆した金属線の0.2%耐力値を現象する効果を有し、亜鉛、又はパラジウムにニッケルを含有した銅合金線に錫を含む被覆をした金属線は、特に太陽電池配線用線材として有用である。
【0099】
アルミニウム、カルシウム、イットリウム、ランタンを添加した試料の電気抵抗値は低く抑えられた。これらの元素は、原料銅に含まれる電気抵抗を上昇させる単体で存在する硫黄等の元素と反応、硫化物を形成して無害化したことにより電気抵抗値を低く抑えることができる。0.2%耐力値を上げない範囲でこれらの元素を含有した銅合金線は、本実施形態の金属線の主体をなす太陽電池配線用線材として有用である。
【0100】
(実施例3)
次に、本実施形態の金属線として、半田めっきを施した平角線を作製し、その特性を評価すると共に、太陽電池セルに配線してその有用性を評価した。
【0101】
銅原料は純度99.99質量%以上の電気銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0002質量%、硫黄が0.0006質量%、銀が0.003質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、パラジウム、ニッケル、マンガンを使用した。本実施例における合金元素の添加濃度は0.11質量%であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.00011質量%以下である。
【0102】
これらの原料と合金元素をアルゴン中で高周波溶解炉を使用して溶解し、連続鋳造によでφ6mmの条材に製造した。次いでクロス圧延加工によって、幅10mmになるまで圧延し、更に冷間圧延で厚さ0.2mmまで圧延、長さ方向にスリット加工して厚さ0.2mm、幅1.3mmの平角線を作製した。平角線はステンレスボビンに巻き、真空中で550℃、2時間の焼鈍を行った。比較のため、合金元素を加えないで原料電気銅のみを溶解して、同じプロセスを経た純銅平角線も作製した。
【0103】
次いで、これらの平角線を連続半田めっき装置を使用して溶融半田めっきを行った。連続半田めっき炉は、管状炉である光輝焼鈍炉と、半田めっき槽を有する半田めっき炉からなる。光輝焼鈍炉の炉長は1mであり、加熱したステンレス管内を3L/minの流量でN
2−4体積%H
2ガスを通気させながら、平角銅線を通線し、表面を活性化する。その後、ステンレス管末端部を半田槽の溶融半田液面下に配置することによって、平角銅線を大気に触れさせることなく溶融半田槽内を通過させ、液面から垂直真上に引き上げることによって平角銅線の表面に半田めっきを施す。半田はSn−3質量%Ag−0.5質量%Cuを使用した。光輝焼鈍炉の温度は680℃、半田めっき槽の温度は250℃とし、通線速さは5m/minとした。
【0104】
このように作製した銅合金を銅合金線として半田が被覆された金属線のC断面形状は
図2のようになっており、半田が最も厚いテープ面中央の片面トップ厚は試料によらず20μmであった。このようにして作製した金属線について、0.2%耐力値、破断伸び、1m長さの電気抵抗値を求め比較した。
【0105】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積(1.3×0.2mm
2)で除して得た。
【0106】
金属線は電気比抵抗値の異なる銅合金線と被覆半田で構成されるため、電気比抵抗値では比較できないが、断面形状が同じであるため、長さをそろえることによって、金属線の電流容量を決める電気抵抗を比較できる。
【0107】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を250mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗値を測定した。更に抵抗値と金属線の電圧間端子距離を1000mmから除することで金属線が1mの時の電気抵抗(1m電気抵抗(mΩm)算出した。
【0108】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表3に示した。それ以外の不純物元素は、酸素、硫黄、銀が検出されたが、銅原料の濃度より小さくなっていた。
【0109】
【表3】
【0110】
亜鉛、又は亜鉛とパラジウムを含有し、不可避不純物元素を除く合金元素との総量が0.1質量%の銅合金線を使用した試料の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の0.2%耐力値よりも小さく、一方、破断伸びは逆に大きかった。電気抵抗値はほぼ同等であった。0.2%耐力が小さくなるのは、実施例1と実施例2で示した亜鉛とニッケルの効果である。破断伸びが大きくなるのは、亜鉛とパラジウムの効果であるが、マンガンを添加することによっても破断伸びが大きくなることがわかった。
【0111】
これら半田めっきした平角銅線を、太陽電池用インターコネクターとして使用した時の特性を評価した。太陽電池セルは6インチ(約156mm角)、厚さ180μmの多結晶セルを準備した。6インチの多結晶セル上にはインターコネクター配線用の電極として、受光面及び裏面にそれぞれ3本の銀電極が形成されている。
【0112】
配線は一般的な太陽電池セルの配線を製造する装置と同じ製造条件でストリングを製造できるエヌ・ピー・シー社製の全自動配線装置(NTS−150−SM)を使用して、太陽電池セル上の表側電極のみに配線した。接合条件はステージ温度190℃、熱風温度420℃、接合時間3秒である。
【0113】
配線後の太陽電池セルは、インターコネクターが接合された表側電極を内側にして反っていた。これは、金属線とシリコンセルの熱膨張係数の差である。金属線の半田が溶融し凝固して接合した後、室温まで冷却することによって金属線の主体をなす銅合金線の熱収縮がシリコンより大きいため、反りが生じたものである。反りが大きいことは金属線と太陽電池セルの界面にかかる応力が大きいことを意味し、シリコンや銀電極にクラックが生じやすくなる。また、ラミネート工程を経て太陽電池セルの反りを平面に矯正する際、セルが割れる確率が大きくなる。これらは、太陽電池モジュールの製造工程の歩留落ちの要因になっている。金属線と接合界面に残留応力が残っていると使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が加わった際、セルや電極にクラックが入る確率が大きくなり、モジュールの寿命を短くする要因になる。すなわち、反りの低減は、太陽電池モジュールの製造工程の歩留まりや太陽電池モジュールの寿命に有効である。
【0114】
本実施形態の銅合金線に亜鉛、又はパラジウム、更にはニッケルを含有した本実施形態の金属線は、0.2%耐力が小さい。これは、半田をリフローして接合したときに生じる熱応力を金属線が塑性変形して緩和したためである。
【0115】
以上、説明してきたように亜鉛、又はパラジウムを必須元素として銅中に適度に含有させ、不可避不純物を含めた銅以外の元素の濃度を0.1質量%をやや超える程度にすることで、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線に比較して、0.2%耐力が低く、破断伸びが大きく、電気抵抗値が同等の金属線が作製できる。
【0116】
金属線は、破断伸びが大きいことによって、半導体デバイスに実装した後の金属線にかかる応力に対して疲労寿命が高まることから、半導体デバイスの信頼性を向上させることができる。特に太陽電池モジュールは、使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が大きいので、太陽電池セル間の太陽電池用インターコネクターが断線して故障する故障モードが多いことから、破断伸びが大きいことは重要な特性である。
【0117】
電気抵抗が小さいということは、同じ電流容量の金属線を設計したときに金属線の断面積を小さくすることができる。太陽電池用インターコネクターのような線実装形態で配線される半導体デバイスの場合、0.2%耐力が同等であれは、同じ熱歪みが加えられたとき、断面積の小さな金属線のほうが低い力で降伏するため、接合界面にかかる応力が小さくなり、太陽電池モジュールの製造歩留まりや寿命の向上に有利である。
【0118】
金属線は、一般的な半導体デバイスと比較して大きな直流電流を通電する必要があるから、電気抵抗が純銅線と同等で0.2%耐力が小さく、破断伸びが大きいことは有効である。
【0119】
(実施例4)
亜鉛を中心とした合金元素を添加した銅合金線と純銅線に半田めっきを施した金属線を作製し、合金成分に対する機械的特性、電気的特性、接合性を調べた。
【0120】
銅原料は純度99.99質量%以上の電気銅を使用した。この規格の原料中の不純物元素を調べた結果、酸素が0.0002質量%、硫黄が0.0006質量%、銀が0.003質量%であり、それ以外の元素は検出限界以下であった。一方、合金金属として、99.9質量%以上の亜鉛、ニッケルを使用した。本実施例における合金元素の添加濃度は0.1質量%以下であるから、合金元素から持ち込まれる合金不純物元素総量は、最大で0.0001質量%以下である。
【0121】
これらの原料と合金元素をアルゴン中で高周波溶解炉を使用し、高純度黒鉛坩堝中で溶解し、同じチャンバー内に設置した内径20mmの高純度黒鉛円筒鋳型に流し込んで銅インゴットを作製した。その後、真空中で600℃、5時間の均質化焼鈍を行い、φ2mmまでスエージ加工し、次いで伸線ダイスを使用してφ1.2まで引抜加工を行って丸線とし、最後に板厚0.2mmまで圧延加工して、厚さ0.2mm、幅1.5mmの平角線を作製した。平角線はステンレスボビンに巻き、真空中で600℃、2時間の焼鈍を行った。比較のため、合金元素を加えないで原料電気銅のみを溶解して、同じプロセスを経た純銅平角線も作製した。
【0122】
次いで、これらの平角線を連続半田めっき装置を使用して溶融半田めっきを行った。連続半田めっき炉は、管状炉である光輝焼鈍炉と、半田めっき槽を有する半田めっき炉からなる。光輝焼鈍炉の炉長は1mであり、加熱したステンレス管内を3L/minの流量でN
2−4体積%H
2ガスを通気させながら、平角銅線を通線し、表面を活性化する。その後、ステンレス管末端部を半田槽の溶融半田液面下に配置することによって、平角銅線を大気に触れさせることなく溶融半田槽内を通過させ、液面から垂直真上に引き上げることによって平角銅線の表面に半田めっきを施す。半田はSn−38質量%Pb−2質量%Ag半田を使用した。光輝焼鈍炉の温度は680℃、半田めっき槽の温度は210℃とし、通線速さは5m/minとした。
【0123】
このように作製した銅合金を銅合金線として半田が被覆された金属線のC断面形状は
図2のようになっており、半田の重量目付量は試料によらず片側トップ厚20μmであった。
【0124】
0.2%耐力値、破断伸びは、150mmに切断した試料に対して引張試験を行って求めた。引張試験は、標点間距離100mm、引張速さ10mm/minの条件で実施した。0.2%耐力は引張試験の結果得られる応力、伸び線図からオフセット法で得られた荷重値を銅合金線の断面積で除して得た。銅合金線の断面積は、金属線のC断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡で撮影した画像から画像解析によって求めた。
【0125】
金属線は電気比抵抗値の異なる銅合金線と被覆半田で構成されるため、電気比抵抗値では比較できないが、断面形状が同じであるため、長さをそろえることによって、金属線の電流容量を決める電気抵抗を比較できる。
【0126】
電気抵抗は300mmに切断した試料を用いて、直流四端子法で評価した。電圧端子間距離を250mmとして、定電流を試料の両端から印加して、電圧端子間の電圧を測定した。電流値は発熱が起こらない範囲で変え、また方向も変えて10点測定し、電流値に対する電圧値の直線の傾きから電気抵抗値を測定した。更に抵抗値と金属線の電圧間端子距離を1000mmから除した値を乗じることで金属線が1mの時の電気抵抗(1m電気抵抗(mΩm)算出した。
【0127】
得られた値を銅合金線のICP発光分析値とともに表4に示した。それ以外の不純物元素は、酸素、硫黄、銀が検出されたが、銅原料の濃度より小さくなっていた。
【0128】
【表4】
【0129】
亜鉛とニッケルを含有した銅合金線を使用した試料の0.2%耐力値は、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線の0.2%耐力値よりも小さく、一方、破断伸びは逆に大きかった。0.2%耐力が小さくなるのは、実施例1と実施例2で示した亜鉛の材料組織に対する作用効果とニッケルの銅合金線と半田界面における金属間化合物の成長抑制効果である。破断伸びが大きくなるのは、亜鉛の効果であり、0.005質量%の添加で大きな効果が認められた。
【0130】
電気抵抗値は全ての金属線でほぼ同等であった。ニッケルを比較的多く含有するのに対して、電気抵抗が同等であったのは、同時に添加したアルミニウムが酸素や硫黄等の不純物元素と反応して無害化した効果である。
【0131】
これら半田めっきした平角銅線を、太陽電池用インターコネクターとして使用した時の特性を評価した。太陽電池セルは6インチ(約156mm角)、厚さ180μmの多結晶セルを準備した。6インチの多結晶セル上にはインターコネクター配線用の電極として、受光面及び裏面にそれぞれ2本の銀電極が形成されている。
【0132】
配線は一般的な太陽電池セルの配線を製造する装置と同じ製造条件でストリングを製造できるエヌ・ピー・シー社製の全自動配線装置(NTS−150−SM)を使用して、太陽電池セル上の両側電極に配線した。接合条件は熱風温度3000℃、接合時間3秒として、ステージ温度を200℃から5℃ずつ下げていって配線し、接合温度マージンを調べた。
【0133】
その結果、純銅線を使用した試料46が165℃で接合出来なくなったのに対して、亜鉛を0.005質量%以上添加した銅合金を銅合金線とした試料では160℃まで接合できた。これは、銅合金線に含有されている亜鉛が半田を拡散して半田の融点を低下させ、活性化したためと考えられる。
【0134】
配線後のセルは、インターコネクターが接合された裏側電極を内側にして反っていた。表4で示した反りの量は、最低ステージ温度で接合した時の値であるが、反りの量は試料によって異なっていた。亜鉛を添加した銅合金を銅合金線とした試料で反りが小さかった理由は、0.2%耐力値が小さく金属線で塑性変形し、応力を緩和したことに加え、接合温度が低く済んだことにより、熱歪自体が小さかったためである。なお反りは、セルを反りの内側に当たる面を下にした状態で平面上おいて横から観察し、中央部の最も平面と離れた部分の距離を測長して求めた。
【0135】
反りが大きいことは金属線と太陽電池セルの界面にかかる応力が大きいことを意味し、シリコンや銀電極にクラックが生じやすくなる。また、ラミネート工程を経て太陽電池セルの反りを平面に矯正する際、セルが割れる確率が大きくなる。これらは、太陽電池モジュールの製造工程の歩留落ちの要因になっている。金属線と接合界面に残留応力が残っていると使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が加わった際、セルや電極にクラックが入る確率が大きくなり、モジュールの寿命を短くする要因になる。すなわち、反りの低減は、太陽電池モジュールの製造工程の歩留まりや太陽電池モジュールの寿命に有効である。
【0136】
以上、説明してきたように金属線は、亜鉛を微量に添加することによって、半田を溶融して太陽電池セルと接合するリフロー工程において、銅合金から亜鉛が溶融半田に溶け込み、接合温度を下げることができ、ストリング製造、モジュール製造工程におけるセルの破損確率を下げることができる。また、亜鉛を必須元素として銅中に適度に含有させ、不可避不純物を含めた銅以外の元素の濃度を0.1質量%をやや超える程度にすることで、合金元素を添加しない純銅を用いて同じプロセスで作製した金属線に比較して、0.2%耐力が低く、破断伸びが大きく、電気抵抗値が同等の金属線が作製できる。
【0137】
金属線の破断伸びが大きいことは、半導体デバイスに実装した後の金属線にかかる応力に対して疲労寿命が高まることから、半導体デバイスの信頼性を向上させることができる。特に太陽電池モジュールは、使用時に気温変化による熱応力や風雪による機械的な応力が大きいので、太陽電池セル間の太陽電池用インターコネクターが断線して故障する故障モードが多いことから、破断伸びが大きいことは重要な特性である。
【0138】
電気抵抗が小さいということは、同じ電流容量の金属線を設計したときに金属線の断面積を小さくすることができる。太陽電池用インターコネクターのような線実装形態で配線される半導体デバイスの場合、0.2%耐力が同等であれは、同じ熱歪みが加えられたとき、断面積の小さな金属線のほうが低い力で降伏するため、接合界面にかかる応力が小さくなり、太陽電池モジュールの製造歩留まりや寿命の向上に有利である。