特開2016-169627(P2016-169627A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三浦工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2016169627-スクロール流体機械 図000003
  • 特開2016169627-スクロール流体機械 図000004
  • 特開2016169627-スクロール流体機械 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-169627(P2016-169627A)
(43)【公開日】2016年9月23日
(54)【発明の名称】スクロール流体機械
(51)【国際特許分類】
   F01C 1/02 20060101AFI20160826BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20160826BHJP
   F01C 21/06 20060101ALI20160826BHJP
【FI】
   F01C1/02 A
   F04C18/02 311Y
   F04C18/02 311B
   F01C21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-48477(P2015-48477)
(22)【出願日】2015年3月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110685
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 方宜
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 智浩
(72)【発明者】
【氏名】平野 正晃
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA03
3H039AA09
3H039AA12
3H039AA14
3H039BB08
3H039BB13
3H039BB28
3H039CC03
3H039CC13
3H039CC20
3H039CC21
3H039CC26
3H039CC31
3H039CC33
3H039CC34
3H039CC50
(57)【要約】
【課題】固定スクロールを効果的に冷却でき、所望により熱回収も可能で、さらに軸受部での分解を要することなく固定スクロールを容易に着脱できるスクロール流体機械を提供する。
【解決手段】旋回スクロール4は、基板部15の板面に渦巻き状の旋回ラップ7が設けられている。ハウジング3は、旋回スクロール4を周方向複数箇所でクランク軸2により旋回可能に保持する。固定スクロール5は、端板22の片面に渦巻き状の固定ラップ9が設けられ、この固定ラップ9を旋回ラップ7と噛み合わせて、ハウジング3に着脱可能に設けられる。固定スクロール5の端板22の前記片面とは逆側に、冷却水の通水部としての水冷ジャケット6が設けられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板部の板面に渦巻き状の旋回ラップが設けられた旋回スクロールと、
前記基板部の外周部において前記旋回スクロールを周方向複数箇所でクランク軸により旋回可能に保持するハウジングと、
端板の片面に渦巻き状の固定ラップが設けられ、この固定ラップを前記旋回ラップと噛み合わせて、前記ハウジングに着脱可能に設けられる固定スクロールとを備え、
前記固定スクロールの端板の前記片面とは逆側に、冷却水の通水部としての水冷ジャケットが設けられる
ことを特徴とするスクロール流体機械。
【請求項2】
前記固定スクロールの端板の前記片面とは逆側の面またはこれに重ね合わされる部材との間で、前記通水部を形成するジャケット材が、前記固定スクロールに対し着脱可能に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械。
【請求項3】
前記旋回スクロールは、前記基板部の両面に前記旋回ラップが設けられており、
前記ハウジングは、前記旋回ラップが旋回可能に収容される収容穴を貫通形成されると共に、この収容穴を取り囲む周方向複数箇所に前記クランク軸が収容穴の軸線と平行に設けられ、且つ、そのクランク軸の偏心軸部の収容空間が前記収容穴へ開口部を介して連通されており、
前記ハウジングには、前記旋回スクロールの基板部が前記収容穴の軸線と垂直に配置されると共に、前記旋回スクロールの外周部が前記開口部を介して前記クランク軸の偏心軸部に保持され、且つ、前記旋回スクロールを挟むよう一対の前記固定スクロールが着脱可能に設けられ、
前記各固定スクロールに、前記水冷ジャケットが設けられる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスクロール流体機械。
【請求項4】
前記ハウジングには、前記収容穴の軸方向中途部に、一対のフランジが、前記収容穴の軸方向に離隔すると共に前記収容穴の内側へ延出して形成され、
前記旋回スクロールの外周部は、前記一対のフランジ間の開口部を介して、前記ハウジングの前記収容穴よりも外側において、前記クランク軸により前記固定スクロールに対し旋回可能に保持され、
前記ハウジングのフランジに前記固定スクロールの端板が重ね合わされて着脱可能に固定される
ことを特徴とする請求項3に記載のスクロール流体機械。
【請求項5】
前記水冷ジャケット内に、冷却水の通水路を規定する仕切りが設けられた
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクロール流体機械。
【請求項6】
前記水冷ジャケットには、前記固定スクロールの外周部から内周部へ冷却水が通される
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスクロール流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機、膨張機またはブロワなどとして用いられるスクロール流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されるスクロール流体機械が知られている。このスクロール流体機械は、ケーシング(1)をスペーサ(4)と共に構成する第1,第2の固定スクロール(2,3)間に、旋回スクロール(21)が旋回可能に設けられる。固定スクロール(2,3)の支持部(9,10)には、旋回スクロール(21)の自転を防止する補助クランク(11)と駆動軸(13)とが、それぞれ軸受(14,14、15,16)を介して回転可能に設けられる。そして、駆動軸(13)により、旋回スクロール(21)を固定スクロール(2,3)に対し所定寸法(e)なる旋回半径をもって旋回運動させる。この旋回運動によって、ラップ部(7,23)間の各圧縮室(30)と、ラップ部(8,24)間の各圧縮室(31)とを、それぞれ連続的に縮小させ、吸込ポート(32,33)からそれぞれ吸込んだ空気を各圧縮室(30,31)内で順次圧縮しつつ、この圧縮空気を吐出ポート(34,35)から外部へ吐出する。
【0003】
また、固定スクロール(2,3)の鏡板(5,6)には、ラップ部(7,8)とは反対側の表面に、多数の冷却フィン(17,17,…、18,18,…)が一体形成され、各冷却フィン(17,18)の突出側端面はそれぞれの冷却フィン(17,18)間に冷却風通路を形成する平板状のカバー(19,20)によって覆われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−120552号公報(要約、段落0013−0022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、固定スクロールを空冷するが、さらに効果的に冷却したり、熱回収を図ったりできれば好適である。また、スクロール流体機械を圧縮機の他、膨張機にも使用したい場合があるが、用途に応じて冷却の必要性が異なるので、冷却機構の有無を簡易に変更できれば好適である。
【0006】
さらに、従来技術では、固定スクロールは、鏡板の外周部に一体形成された支持部に、クランク軸の主軸部(偏心軸部を挟んだ両側の軸部)の軸受部が設けられている。そのため、スクロール流体機械の内部のメンテナンスを行う場合には、クランク軸から固定スクロール全体を取り外す必要があり、軸受部での着脱作業が必要となる。従って、表面処理や素材に起因した部品の交換や再処理、異物の噛み込みの解消、内部の清掃などを容易に行うことができない。たとえば、固定ラップや旋回ラップの先端部に設けられるチップシールは、摺動により摩耗する消耗部品であり定期的な交換が必要であるが、このチップシールを容易に交換することができない。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、固定スクロールを効果的に冷却でき、所望により熱回収も可能で、好ましくは冷却機構の有無を簡易に変更できるスクロール流体機械を提供することにある。また、大掛かりな分解を要することなく、容易に旋回スクロールから固定スクロールを取り外すことができ、それにより内部のメンテナンスが容易なスクロール流体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、基板部の板面に渦巻き状の旋回ラップが設けられた旋回スクロールと、前記基板部の外周部において前記旋回スクロールを周方向複数箇所でクランク軸により旋回可能に保持するハウジングと、端板の片面に渦巻き状の固定ラップが設けられ、この固定ラップを前記旋回ラップと噛み合わせて、前記ハウジングに着脱可能に設けられる固定スクロールとを備え、前記固定スクロールの端板の前記片面とは逆側に、冷却水の通水部としての水冷ジャケットが設けられることを特徴とするスクロール流体機械である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、固定スクロールに設けられた水冷ジャケットに冷却水を通して、固定スクロールを効果的に冷却することができる。また、スクロール流体機械を圧縮機として用いる場合、水冷ジャケットに通される水は圧縮熱で加温されるので、温水として各種用途(たとえばボイラ給水)に用いることで、圧縮熱の回収を図ることができる。さらに、旋回スクロールを旋回させるためのクランク軸をハウジングに保持し、このハウジングに対し固定スクロールを着脱可能に設けるので、ハウジングに対する旋回スクロールの軸受部を分解することなく、ハウジングから固定スクロールを容易に取り外すことができ、内部のメンテナンスも容易に行える。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記固定スクロールの端板の前記片面とは逆側の面またはこれに重ね合わされる部材との間で、前記通水部を形成するジャケット材が、前記固定スクロールに対し着脱可能に設けられることを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械である。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、固定スクロールへの水冷ジャケットの取付けの有無を容易に変更することができる。そのため、他の構成を共通化しつつ、水冷ジャケットの有無を、圧縮機と膨張機とで切り替えることができる。つまり、冷却が必要な圧縮機として使用する場合には、水冷ジャケットを設けるが、冷却が不要な膨張機として使用する場合には、水冷ジャケットを設けず、その他は圧縮機と膨張機とで部品の共通化を図ることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記旋回スクロールは、前記基板部の両面に前記旋回ラップが設けられており、前記ハウジングは、前記旋回ラップが旋回可能に収容される収容穴を貫通形成されると共に、この収容穴を取り囲む周方向複数箇所に前記クランク軸が収容穴の軸線と平行に設けられ、且つ、そのクランク軸の偏心軸部の収容空間が前記収容穴へ開口部を介して連通されており、前記ハウジングには、前記旋回スクロールの基板部が前記収容穴の軸線と垂直に配置されると共に、前記旋回スクロールの外周部が前記開口部を介して前記クランク軸の偏心軸部に保持され、且つ、前記旋回スクロールを挟むよう一対の前記固定スクロールが着脱可能に設けられ、前記各固定スクロールに、前記水冷ジャケットが設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスクロール流体機械である。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、旋回スクロールは、旋回ラップをハウジングの収容穴内に配置して、ハウジングに旋回可能に保持される。一方、固定スクロールは、ハウジングの収容穴を閉じるように、ハウジングに着脱可能に設けられる。従って、ハウジングに対する旋回スクロールの軸受部を分解することなく、ハウジングから固定スクロールを容易に取り外すことができ、内部のメンテナンスも容易に行える。なお、旋回スクロールは、基板部の両面に旋回ラップが設けられ、一対の固定スクロールで挟まれるので、スラスト荷重を相殺できる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記ハウジングには、前記収容穴の軸方向中途部に、一対のフランジが、前記収容穴の軸方向に離隔すると共に前記収容穴の内側へ延出して形成され、前記旋回スクロールの外周部は、前記一対のフランジ間の開口部を介して、前記ハウジングの前記収容穴よりも外側において、前記クランク軸により前記固定スクロールに対し旋回可能に保持され、前記ハウジングのフランジに前記固定スクロールの端板が重ね合わされて着脱可能に固定されることを特徴とする請求項3に記載のスクロール流体機械である。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、ハウジングの収容穴に設けたフランジに対し、固定スクロールを着脱することができる。フランジは、収容穴の軸方向中途部に設けられるので、収容穴内に固定スクロールの端板を配置して取り付けることができ、コンパクトに組み立てることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記水冷ジャケット内に、冷却水の通水路を規定する仕切りが設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、水冷ジャケット内に所望の通水路を設けることで、固定スクロールの冷却や、通水加温による熱回収を、効果的に図ることができる。
【0018】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記水冷ジャケットには、前記固定スクロールの外周部から内周部へ冷却水が通されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、水冷ジャケットには、固定スクロールの外周部の側から内周部の側へ冷却水が通される。スクロール流体機械を圧縮機として用いる場合、外周側が吸込側、内周側が吐出側となるが、冷却水を外周側から内周側へ通すことで、固定スクロールの外周側を比較的低温の冷却水で確実に冷却でき、吸込気体の熱膨張を抑えることで、スクロール流体機械の体積効率を向上できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスクロール流体機械によれば、固定スクロールを効果的に冷却でき、所望により熱回収も可能で、また、実施の形態に応じて、冷却機構の有無を簡易に変更することも可能となる。さらに、大掛かりな分解を要することなく、容易に旋回スクロールから固定スクロールを取り外すことができ、それにより内部のメンテナンスも容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例のスクロール流体機械を示す概略平面図である。
図2図1のスクロール流体機械の底面図である。
図3図1におけるIII−III断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1から図3は、本発明の一実施例のスクロール流体機械1を示す概略図であり、図1は平面図、図2は底面図、図3図1におけるIII−III断面図である。なお、以下において、説明の便宜上、図3(厳密にはIII−III断面図であるからその左半分または右半分)における上下および左右として方向を述べることがあるが、この方向はスクロール流体機械1の姿勢を限定する趣旨ではない。そのため、スクロール流体機械1の使用時、クランク軸2を上下方向へ沿って配置する以外に、たとえば左右方向へ沿って配置してもよい。
【0024】
本実施例のスクロール流体機械1は、ハウジング3と、このハウジング3に複数のクランク軸2を介して旋回可能に保持される旋回スクロール4と、この旋回スクロール4を挟むようにハウジング3に着脱可能に固定される一対の固定スクロール5と、この固定スクロール5に設けられる水冷ジャケット6とを備える。なお、クランク軸2は、旋回スクロール4の外周部において、少なくとも二箇所、好ましくは三箇所以上に設けられる。本実施例では、クランク軸2は、旋回スクロール4の外周部において、周方向等間隔の三箇所に設けられる。
【0025】
ハウジング3は、たとえば略矩形の箱状に形成されてもよいが、本実施例では略短円筒状に形成されている。いずれにしても、ハウジング3には、平面視中央部に、旋回スクロール4の旋回ラップ7を旋回可能に収容する収容穴8が、上下に貫通して形成されている。
【0026】
具体的には、本実施例のハウジング3は、厚肉の略短円筒状に形成され、その中央の貫通穴が、旋回ラップ7の収容穴8とされる。この収容穴8には、旋回スクロール4の旋回ラップ7の他、固定スクロール5の固定ラップ9も収容される。
【0027】
ハウジング3には、収容穴8を取り囲む周方向複数箇所にクランク軸2が収容穴8の軸線と平行に設けられ、且つ、そのクランク軸2の偏心軸部10の収容空間11が収容穴8へ開口部12を介して連通されている。本実施例では、ハウジング3は、前述したように厚肉の略短円筒状に形成され、その周側壁に周方向へ沿って連続的に中空部が形成されており、この中空部がクランク軸2の偏心軸部10の収容空間11とされる。そして、この収容空間11は、収容穴8の軸方向中央部に、周方向へ沿って連続的に開口されており、その開口部12を挟んだ上下に、円環状のフランジ13が径方向内側へ延出して一体形成されている。
【0028】
なお、本実施例では、ハウジング3は、上下二つの部材から構成されている。具体的には、ハウジング3は、図3において、上方に配置される上ハウジング材3Aと、下方に配置される下ハウジング材3Bとから構成されている。前述した上下一対のフランジ13,13の内、上方のフランジ13は上ハウジング材3Aに設けられ、下方のフランジ13は下ハウジング材3Bに設けられる。両ハウジング材3A,3Bは、外周部においてボルト14(図1)により着脱可能に一体化される。なお、ボルト14として、文字通りのボルトに限らず各種のネジを用いてもよく、このことは後述するその他のボルトについても同様である。
【0029】
旋回スクロール4は、基板部15の両面に、渦巻き状の旋回ラップ7が設けられて構成される。本実施例では、旋回スクロール4は、ハウジング3に旋回可能に保持される旋回スクロールベース16と、その旋回スクロールベース16の中央部の上下に着脱可能に固定される一対の旋回スクロール本体17とから構成される。但し、場合により、旋回スクロールベース16は、一対の旋回スクロール本体17の内の一方または双方と一体形成されてもよい。
【0030】
旋回スクロールベース16は、平面視において、たとえば略三角形状でもよいが、本実施例では、略円形状に形成されている。いずれにしても、旋回スクロールベース16の中央部には、旋回スクロール本体17の端板18を受け入れる受入穴19が形成されている。本実施例では、旋回スクロールベース16の中央部には丸穴が貫通形成されており、その丸穴は上下両面において拡径されており、その拡径穴が旋回スクロール本体17の端板18の受入穴19とされる。
【0031】
旋回スクロールベース16の外周部には、周方向複数箇所に、クランク軸2への軸受穴20が上下に貫通して形成されている。本実施例では、旋回スクロールベース16の外周部には、周方向等間隔の三箇所に、取付筒21が一体形成されており、その中空穴が軸受穴20とされる。各軸受穴20は、段付き穴とされ、上部に大径穴20a、下部に小径穴20bが配置されている。
【0032】
各旋回スクロール本体17は、円板状の端板18の片面に、その板面と垂直に延出して、一または複数の板状の旋回ラップ7が設けられて構成される。具体的には、図3において、上側の旋回スクロール本体17は、端板18の上面に、上方へ向けて旋回ラップ7が設けられており、下側の旋回スクロール本体17は、端板18の下面に、下方へ向けて旋回ラップ7が設けられている。この際、各旋回ラップ7は、端板18の中央部から外周部へ向けて、インボリュート曲線の渦巻き状に湾曲して形成されている。本実施例では、図3から明らかなとおり、上下の旋回ラップ7は、互いに対応した形状、大きさおよび配置で形成されている。
【0033】
各旋回ラップ7には、端板18からの延出先端部(上側の旋回ラップ7の上端部、下側の旋回ラップ7の下端部)に、固定スクロール5の端板22との隙間を埋めるためのチップシール23が、着脱可能に、渦巻きに沿って設けられている。
【0034】
各旋回スクロール本体は17、その端板18が受入穴19にはめ込まれて、ボルト(図示省略)により旋回スクロールベース16に着脱可能に固定される。これにより、旋回スクロールベース16と旋回スクロール本体17とが一体化され、一対の端板18を含んで、旋回スクロール4の基板部15が構成される。そして、旋回スクロール4は、その基板部15の両面に、旋回ラップ7が設けられた形状となる。なお、上下の旋回スクロール本体17の端板18間には、径方向中央部に円筒状のスペーサ24が設けられ、各旋回スクロール本体17の撓みが防止される。
【0035】
旋回スクロール4は、ハウジング3の収容穴8に旋回ラップ7を配置した状態で、収容穴8の軸線と垂直に基板部15が配置される。この際、旋回スクロールベース16は、ハウジング3のフランジ13間の開口部12を介して、収容穴8より外方へ延出する。これにより、旋回スクロールベース16の各軸受穴20は、ハウジング3のフランジ13よりも径方向外側に配置される。そして、軸受穴20に取り付けられる旋回軸受25を介して、旋回スクロール4はクランク軸2に保持される。
【0036】
図1および図2に示すように、クランク軸2は、ハウジング3の周方向等間隔の三箇所に設けられ、本実施例では互いに同一構造である。また、図3に示すように、各クランク軸2は、その軸線を上下方向へ沿って配置される。この際、各クランク軸2は、ハウジング3の中空部を上下に貫通するよう設けられる。
【0037】
図3(特に左側)に示すように、各クランク軸2は、同一軸線上に配置された主軸部26,27間に、偏心軸部10が偏心して設けられる。本実施例では、下側の主軸部27は、下方へ行くに従って段階的に縮径して、大径部27a、中径部27bおよび小径部27cに分けられる。また、偏心軸部10の下端部には、拡径部10aが同心に形成されている。
【0038】
各クランク軸2は、偏心軸部10を挟んだ両側の主軸部26,27において、ハウジング3の上下に回転自在に保持される。本実施例では、上方の主軸部26は、上軸受28を介してハウジング3の上壁に回転自在に保持され、下方の主軸部27は、下軸受29を介してハウジング3の下壁に回転自在に保持される。
【0039】
上軸受28の外輪は、ハウジング3の上壁に設けた段付き穴の内、上方の大径穴に上方からはめ込まれ、大径穴の開口部に設けられる係止リング30により保持される。また、上軸受28の内輪は、クランク軸2の上方の主軸部26にはめ込まれて固定される。
【0040】
下軸受29の外輪は、ハウジング3の下壁に設けた段付き穴の内、下方の大径穴に下方からはめ込まれ、大径穴の開口部に設けられる留めリング31により保持される。また、下軸受29の内輪は、クランク軸2の下方の主軸部27の中径部27bにはめ込まれて、大径部27aと中径部27bとの段付き部(大径部27aの下端面)と中径部27bにねじ込まれる留めナット32とにより保持される。
【0041】
クランク軸2の偏心軸部10には、旋回軸受25を介して旋回スクロール4の取付筒21が保持される。本実施例では、二つの旋回軸受25が上下に重ねられて用いられる。旋回軸受25の外輪は、旋回スクロール4の取付筒21に設けた段付きの軸受穴20の内、上方の大径穴20aに上方からはめ込まれ、大径穴20aの開口部に設けられる留めリング33により保持される。また、旋回軸受25の内輪は、クランク軸2の偏心軸部10にはめ込まれて、偏心軸部10の下端部の段部(拡径部10aの上端面)と偏心軸部10にねじ込まれる留めナット34とにより保持される。
【0042】
なお、図示例では、旋回軸受25の外輪と旋回スクロール4の軸受穴20(大径穴20a)との間には、僅かな隙間を開けると共に、その隙間には円環状の付勢材35が設けられる。この付勢材35は、弾性を有するリング(たとえばOリング)でもよいし、非弾性のリング(たとえばエンジニアリングプラスチック製の樹脂リング)でもよい。付勢材35を設ける場合、軸受穴20の内周面に装着溝を形成して、その装着溝に付勢材35の外周部をはめ込んでもよいし、旋回軸受25の外輪の外周面に装着溝を形成して、その装着溝に付勢材35の内周部をはめ込んでもよい。全てのクランク軸2の偏心軸部10において、旋回軸受25の外輪と旋回スクロール4の軸受穴20との隙間に円環状の付勢材35を設けることで、旋回スクロール4の旋回時に、クランク軸2に対し旋回スクロール4が遠心力により振れても、旋回軸受25の外輪と旋回スクロール4の軸受穴20との隙間が埋まるのを抑制して、固定ラップ9と旋回ラップ7との側面間の隙間を所望に保つことができる。また、旋回軸受25の外輪と旋回スクロール4の軸受穴20との隙間が完全に埋まるとしても、付勢材35の作用により衝撃を緩和して、しかもラップ7,9間の衝突よりも先に前記隙間を埋めることで、各ラップ7,9の破損を防止することができる。
【0043】
三本のクランク軸2は、偏心軸部10の位置を揃えて(つまり位相を揃えて)、回転同期機構36により同期回転する。回転同期機構36は、歯車を用いてもよいが、本実施例ではタイミングベルト37を用いている。具体的には、各クランク軸2の下方の主軸部27(小径部27c)には、歯付きプーリ38が固定されており、これら歯付きプーリ38間をタイミングベルト37が掛け回されている。この際、図2に示すように、タイミングベルト37は、テンションローラ39にも引っ掛けられており、テンションローラ39の位置(収容穴8の径方向に対する位置)を調整することで、タイミングベルト37の張力を調整可能とされる。
【0044】
なお、三本のクランク軸2の内、一本(本実施例では図2において上部のクランク軸)は、外部から供給動力が入力される(または外部へ回収動力を出力する)駆動クランク軸2Aとされ、残り二本は、そのような入力(または出力)を直接には行わない従動クランク軸2Bとされる。詳細は、後述するが、スクロール流体機械1が圧縮機またはブロワの場合、駆動クランク軸2Aに外部から供給動力が与えられ(つまり動力が入力され)、それに伴い、回転同期機構36を介して従動クランク軸2Bも回転させつつ、旋回スクロール4を旋回させる。一方、スクロール流体機械1が膨張機の場合、供給される流体により旋回スクロール4を旋回させ、回転同期機構36を介して各クランク軸2を回転させて、駆動クランク軸2Aに回収動力が与えられる(つまり動力が出力される)。
【0045】
各クランク軸2には、旋回スクロール4の円滑な回転のために、ウェイトバランサ40が設けられる。本実施例では、上側の主軸部26の下端部と、下側の主軸部27の大径部27aの上端部とに、それぞれウェイトバランサ40が設けられる。
【0046】
各固定スクロール5は、円板状の端板22の片面に、その板面と垂直に延出して、一または複数の板状の固定ラップ9が設けられて構成される。具体的には、図3において、上側の固定スクロール5は、端板22の下面に、下方へ向けて固定ラップ9が設けられており、下側の固定スクロール5は、端板22の上面に、上方へ向けて固定ラップ9が設けられている。この際、固定ラップ9は、旋回ラップ7と対応した個数、形状および大きさで設けられ、端板22の中央部から外周部へ向けて、インボリュート曲線の渦巻き状に湾曲して形成されている。
【0047】
各固定ラップ9には、端板22からの延出先端部(上側の固定ラップ9の下端部、下側の固定ラップ9の上端部)に、旋回スクロール4の基板部15(旋回スクロール本体17の端板18)との隙間を埋めるためのチップシール41が、着脱可能に、渦巻きに沿って設けられている。
【0048】
各固定スクロール5には、固定ラップ9を取り囲むように、円筒状の外周ラップ42が設けられている。具体的には、図3において、上側の固定スクロール5は、端板22の下面に、下方へ向けて外周ラップ42が設けられており、下側の固定スクロール5は、端板22の上面に、上方へ向けて外周ラップ42が設けられている。外周ラップ42の高さ(端板22からの延出寸法)は、固定ラップ9の高さ(端板22からの延出寸法)と略対応している。各外周ラップ42には、端板22からの延出先端部(上側の外周ラップ42の下端部、下側の外周ラップ42の上端部)に、一または複数の環状の外部シール43が、着脱可能に、周方向に沿って設けられている。
【0049】
各固定スクロール5は、固定ラップ9を旋回ラップ7と噛み合わせた状態で、ハウジング3の上下に着脱可能に設けられる。具体的には、上側の固定スクロール5は、ハウジング3の上側のフランジ13の上面に、端板22の外周部が重ね合わされて、ボルト(図示省略)により着脱可能に固定される。また、下側の固定スクロール5は、ハウジング3の下側のフランジ13の下面に、端板22の外周部が重ね合わされて、ボルト(図示省略)により着脱可能に固定される。
【0050】
水冷ジャケット6は、各固定スクロール5の端板22に設けられ、冷却水の通水部を構成する。この際、水冷ジャケット6は、固定ラップ9が設けられた面とは逆側に設けられる。水冷ジャケット6は、固定スクロール5と一体形成されてもよいが、本実施例では、固定スクロール5の端板22にジャケット材44が着脱可能に設けられて構成される。そして、固定スクロール5の端板22とジャケット材44との間の空間で、通水部が構成される。
【0051】
ジャケット材44は、本実施例では、略短円筒状とされ、その一方の開口部は端壁44aにて閉じられている。具体的には、図3において、上側のジャケット材44は、上端部に端壁44aが設けられて下方へ開口する略短円筒状とされ、下側のジャケット材44は、下端部に端壁44aが設けられて上方へ開口する略短円筒状とされる。なお、本実施例では、上下のジャケット材44は、互いに対応した形状および大きさとされる。
【0052】
各ジャケット材44の外径は、本実施例では、ハウジング3の収容穴8よりも小径で、さらには固定スクロール5の端板22よりも小径とされる。図示例では、固定スクロール5の端板22には、固定ラップ9が設けられた面とは逆側面の中央部に、円形状の凹部(符号省略)が形成されており、その凹部にジャケット材44の端部(端壁44aとは逆側の端部)がはめ込まれる。
【0053】
ジャケット材44の中央部には、円筒状の筒状部44cが一体形成されている。筒状部44cの周側壁の高さ(端壁44aからの延出寸法)は、ジャケット材44の外周壁44bの高さ(端壁44aからの延出寸法)と略対応している。筒状部44cの中空穴44dは、端壁44aをも貫通して形成されている。
【0054】
ジャケット材44の外周壁44bには、周方向等間隔の複数箇所に、ジャケット材44の軸線と平行に、外ボルト挿通穴44eが貫通形成されている。また、筒状部44cの周側壁には、周方向等間隔の複数箇所に、ジャケット材44の軸線と平行に、内ボルト挿通穴44fが貫通形成されている。
【0055】
ジャケット材44の外周壁44bには、端壁44aからの延出先端面の内、各外ボルト挿通穴44eよりも内側に、第一シール材45が設けられる。一方、筒状部44cの周側壁には、端壁44aからの延出先端面の内、各内ボルト挿通穴44fよりも外側に、第二シール材46が設けられる一方、各内ボルト挿通穴44fよりも内側に、第三シール材47が設けられる。各シール材45〜47は、ジャケット材44の外周壁44bや筒状部44cと、同心円状に配置される円環状とされている。なお、各シール材45〜47は、ジャケット材44の外周壁44bや筒状部44cの端面に設けた装着溝に保持されるが、これに代えてまたはこれに加えて、固定スクロール5の端板22に設けた装着溝に保持されてもよい。
【0056】
このような構成のジャケット材44は、その外周壁44bの端部を固定スクロール5の端板22の凹部にはめ込んだ状態で、内外の各ボルト挿通穴44f,44eを介して、ボルト48,49により固定スクロール5に着脱可能に取り付けられる。この際、各ボルト48,49は、各ボルト挿通穴44f,44eを介して、固定スクロール5の端板22のネジ穴にねじ込まれる。固定スクロール5の端板22へのジャケット材44の取付状態において、ジャケット材44の外周壁44bの端面と固定スクロール5との端板22の板面との隙間が第一シール材45で封止され、ジャケット材44の筒状部44cの端面外周部と固定スクロール5の端板22の板面との隙間が第二シール材46で封止され、ジャケット材44の筒状部44cの端面内周部と固定スクロール5の端板22の板面との隙間が第三シール材47で封止される。
【0057】
固定スクロール5にジャケット材44を取り付けた状態では、固定スクロール5とジャケット材44との間に、本実施例では円環状の中空部が形成され、この中空部が水冷ジャケット(冷却水の通水部)6とされる。水冷ジャケット6に水を通すために、ジャケット材44には、適宜の位置に、給水口50と排水口51とが設けられる。給水口50と排水口51の位置は適宜に設定されるが、本実施例では好ましくは、外周部に給水口50が設けられる一方、内周部に排水口51が設けられる。給水口50および排水口51には適宜の配管(図示省略)が接続され、水冷ジャケット6内には、給水口50から冷却水が供給され、排水口51へ排出される。この際、第一シール材45と第二シール材46とにより、ジャケット材44と固定スクロール5との隙間からの水漏れが防止される。一方、第三シール材47により、ジャケット材44と固定スクロール5との隙間からの流体漏れ(スクロール流体機械1で圧縮または膨張等される流体の漏れ)が防止される。
【0058】
ところで、一対の固定スクロール5には、図1および図2に示すように、それぞれ外周側に第一開口52が設けられる一方、中央部には第二開口53が設けられている。そして、この第二開口53は、ジャケット材44の筒状部44cの中空穴44dと連通している。なお、図1および図2に示すように、パイプ材54を介して第一開口52を露出させるために、ジャケット材44の外周部を、一部において径方向内側へ凹ませている。また、図3において、上下に示される第二開口53は、場合により、旋回スクロール4の基板部15の中央に貫通穴をあけて互いに連通させてもよい。
【0059】
本実施例のスクロール流体機械1は、以上のように構成されるので、たとえば、圧縮機またはブロワとして用いる場合、駆動クランク軸2Aを回転させればよい(つまり動力を入力する)。たとえば、駆動クランク軸2Aの一方の主軸部27には、モータ(図示省略)の出力軸が直結、つまりカップリングを介して接続される。
【0060】
これにより、固定スクロール5に対し旋回スクロール4を旋回させることができる。この際、駆動クランク軸2Aへの供給動力は、回転同期機構36を介して従動クランク軸2Bにも伝達され、三本のクランク軸2が同期回転する。固定スクロール5に対し旋回スクロール4を旋回させると、第一開口52から流体を吸入し、その流体を旋回ラップ7と固定ラップ9との間で圧縮しながら、その渦巻きの外端側から内端側へ移動させ、第二開口53から吐出させることができる。
【0061】
一方、たとえば膨張機として用いる場合、流体により旋回スクロール4を回転させて、駆動クランク軸2Aに回転駆動力が与えられる(つまり動力が出力される)。たとえば、駆動クランク軸2Aには、被動機(膨張機により駆動される機械)の入力軸が直結、つまりカップリングを介して接続される。
【0062】
そして、流体を第二開口53から流入させると、流体の力で旋回スクロール4が旋回し、流体は膨張しながら第一開口52から吐出する。これにより、旋回スクロール4の回転駆動力を、回収動力として駆動クランク軸2Aから取り出すことができる。なお、この際も、従動クランク軸2Bは、回転同期機構36を介して駆動クランク軸2Aと同期回転する。
【0063】
その他、本実施例のスクロール流体機械1は、駆動クランク軸2Aをモータにより逆方向へ回転させて、流体を第二開口53から吸入して、第一開口52へ吐出させて使用してもよい。
【0064】
このようにして、本実施例のスクロール流体機械1は、圧縮機、膨張機、ブロワ、真空ポンプなどとして用いることができる。なお、圧縮または膨張等させる流体は特に問わず、空気、蒸気、冷媒など、各種の流体に対応することができる。
【0065】
スクロール流体機械1の使用中、水冷ジャケット6に冷却水を通して、スクロール流体機械1(特にその固定スクロール5)の冷却を図ることができる。特に、スクロール流体機械1を圧縮機として用いる場合、水冷ジャケット6に冷却水を通して、固定スクロール5の冷却を図るのが好ましい。その際、水冷ジャケット6に通される水は圧縮熱(流体の圧縮時に生じる熱)で加温されるが、その加温後の水(つまり水冷ジャケット6からの排水)を温水として利用(たとえばボイラ給水に利用)することで、圧縮熱の回収を図り、エネルギを有効活用することができる。
【0066】
ところで、本実施例では、水冷ジャケット6には、固定スクロール5の外周部の側から内周部の側へ冷却水が通される。スクロール流体機械1を圧縮機として用いる場合、外周側が吸込側、内周側が吐出側となるが、冷却水を外周部から内周部へ通すことで、外周部における吸込気体(典型的には空気)を比較的低温の冷却水で確実に冷却でき、スクロール流体機械1の体積効率を向上させることができる。なお、冷却水が一層確実に外周部から内周部へ流れるように、後述するように水冷ジャケット6内には適宜の仕切りを設けてもよい。また、水冷ジャケット6への通水にて圧縮熱を回収する場合において、通水量を絞れば通水出口温度(得られる温水温度)を上げることができるが、その場合でも、給水口50を外周側(吸込口となる第一開口52側)へ配置することで、吸込気体を温めて膨張させるおそれがなく、圧縮機の効率低下を防止することができる。
【0067】
一方、スクロール流体機械1を膨張機として用いる場合、必ずしも水冷ジャケット6に通水する必要はない。水冷ジャケット6に通水しない場合、固定スクロール5へのジャケット材44の設置を省略してもよい。本実施例では、固定スクロール5にジャケット材44を着脱可能に設けたので、固定スクロール5への水冷ジャケット6の設置の有無を容易に変更することができる。そのため、他の構成を共通化しつつ、水冷ジャケット6の有無を、圧縮機と膨張機とで切り替えることができる。つまり、冷却が必要な圧縮機として使用する場合には、ジャケット材44を設けるが、冷却が不要な膨張機として使用する場合には、ジャケット材44を設けず、ジャケット材44以外の構成については、圧縮機と膨張機とで部品の共通化を図ることができる。
【0068】
本実施例のスクロール流体機械1では、旋回スクロール4は、旋回ラップ7をハウジング3の収容穴8内に配置して、収容穴8よりも外側においてハウジング3に旋回可能に保持される。一方、固定スクロール5は、固定ラップ9をハウジング3の収容穴8内に配置して、ハウジング3の収容穴8を閉じるように、収容穴8のフランジ13に着脱可能に設けられる。その際、固定スクロール5の端板22も収容穴8内に収容することで、コンパクトな構成とできる。
【0069】
このような構成であるから、ハウジング3に対する旋回スクロール4の軸受部を分解することなく、ハウジング3から固定スクロール5を容易に取り外すことができる。これにより、表面処理や素材に起因した部品の交換や再処理、異物の噛み込みの解消、内部の清掃などを容易に行うことができる。たとえば、旋回ラップ7のチップシール23、固定ラップ9のチップシール41、および外周ラップ42の外部シール43の交換を容易に行うことができる。
【0070】
ところで、前記実施例では、ハウジング3に対し固定スクロール5を着脱できるが、さらに旋回スクロールベース16に対し旋回スクロール本体17を着脱することもできる。この場合、図示例ではハウジング3の上下の軸受部について多少の分解が必要になるものの、上下の旋回スクロール本体17を旋回スクロールベース16から取り外すことができる。従って、上下の旋回スクロール本体17を個別に取り扱うことができ、旋回ラップ7の不良時に、一枚単位(つまり上下の旋回スクロール本体17の片側のみ)での交換も可能となる。また、旋回ラップ7に特別な表面処理を施したい場合でも、旋回スクロールベース16と旋回スクロール本体17とを別体に構成しておけば、旋回スクロールベース16と旋回スクロール本体17とを一体に形成した場合と比較して、表面処理時のサイズを小さくでき、コスト低減を図ることもできる。
【0071】
なお、旋回スクロールベース16に対し旋回スクロール本体17を着脱可能とする際、ハウジング3の収容穴8を介して、旋回スクロールベース16に対し旋回スクロール本体17を着脱可能とすれば一層好ましい。その場合、旋回スクロール本体17の端板18の外径は、ハウジング3の収容穴8の内径、さらには収容穴8のフランジ13の内径よりも小さく形成される。従って、ハウジング3から固定スクロール5を取り外した後、旋回スクロールベース16から旋回スクロール本体17をさらに取り外すことができる。しかも、その作業をハウジング3の収容穴8を介して行うことができ、いずれの軸受部での着脱も伴わないため、作業性が一層向上する。
【0072】
次に、本実施例のスクロール流体機械1の水冷ジャケット6の変形例について、説明する。
【0073】
前記実施例では、水冷ジャケット6は、固定スクロール5の端板22にジャケット材44を着脱可能に取り付けて構成したが、固定スクロール5とジャケット材44とを一体的に構成してもよい。言い換えれば、固定スクロール5の端板22内に、空洞部を設けて、その空洞部を水冷ジャケット6としてもよい。
【0074】
また、前記実施例では、固定スクロール5の端板22にジャケット材44を取り付けて、端板22とジャケット材44との間で水冷ジャケット6を構成したが、固定スクロール5の端板22に中間材(典型的には円板状の中間材)を重ね合わせて固定すると共に、この中間材との間で水冷ジャケット6を構成するように、ジャケット材44を設けてもよい。この場合も、中間材とジャケット材44との内、少なくともジャケット材44は着脱可能に設けるのが好ましい。それにより、前述したように、膨張機として使用する場合には、ジャケット材44の設置を省略することもできる。
【0075】
なお、固定スクロール5に中間材を設ける場合、ジャケット材44は、固定スクロール5に対し直接に着脱可能であってもよいし、中間材を介して(つまり直接には中間材に着脱可能とされることで)固定スクロール5に対し着脱可能であってもよい。たとえば、固定スクロール5に中間材を設置する際、ジャケット材44の各ボルト挿通穴44e,44fに通されるボルト49,48を中間材にも通すことで、固定スクロール5に対し中間材とジャケット材44とを共通のボルトで取り付けてもよい。
【0076】
また、前記実施例およびその変形例において、水冷ジャケット6内には、適宜の仕切りやフィンなどを設けてもよい。たとえば、水冷ジャケット6内には、冷却水の通水路を規定する適宜の仕切りを設けてもよい。つまり、ジャケット材44の端壁44a、固定スクロール5の端板22(またはそれに設けられる前記中間材の板面)には、水冷ジャケット6内の空洞部を仕切る仕切りを設けることで、冷却水を設定ルートで流すようにしてもよい。一例として、図3において、上側のジャケット材44の端壁44aの下面、および下側のジャケット材44の端壁44aの上面には、平面視で、たとえばインボリュート曲線のような渦巻き状の仕切りが、固定スクロール5の端板22へ当接するよう設けられる。これにより、水冷ジャケット6内には、渦巻き状の通水路が形成され、その一端部(好ましくは外周部)が給水口50とされ、他端部(好ましくは内周部)が排水口51とされる。
【0077】
なお、このような仕切りは、前述したように、ジャケット材44に設ける以外に、これに代えてまたはこれに加えて、固定スクロール5の端板22またはこれに重ね合わされる中間材の板面に設けてもよい。その場合、固定スクロール5の端板22または中間材の板面からの仕切りは、ジャケット材44の端壁44aへ当接するよう設けられる。また、仕切りは、たとえばインボリュート曲線状の渦巻きに形成される以外に、略一周分だけ周方向一方へ進んだ後、略一周分だけ周方向他方へ行くことを繰り返しながら、水冷ジャケット6の径方向外側から内側へ行くように流路を規定するように形成されてもよい。
【0078】
さらに、前記実施例およびその変形例において、水冷ジャケット6内を複数の領域に完全に仕切ってもよい。たとえば、ジャケット材44の径方向中央部に円筒状の仕切りを設けて、内周側の水冷ジャケット6と、外周側の水冷ジャケット6とに完全に仕切る。また、それぞれの水冷ジャケット6に、給水口50と排水口51とを設ける。そして、前記実施例と同様に、給水ポンプからの冷却水を、所望により弁を介して、各水冷ジャケット6の給水口50から供給し、各水冷ジャケット6の排水口51から排出すればよい。この場合も、仕切りは、ジャケット材44に設ける以外に、固定スクロール5の端板22またはこれに重ね合わされる中間材に設けてもよい。このようにして、水冷ジャケット6内を内周側と外周側とに完全に仕切ることで、内周側を高温部、外周側を中温部として、各部にて最大限の冷却効果を得ることができる。
【0079】
本発明のスクロール流体機械1は、前記実施例(変形例を含む)の構成に限らず適宜変更可能である。特に、(a)基板部15の板面に渦巻き状の旋回ラップ7が設けられた旋回スクロール4と、(b)基板部15の外周部において旋回スクロール4を周方向複数箇所でクランク軸2により旋回可能に保持するハウジング3と、(c)端板22の片面に渦巻き状の固定ラップ9が設けられ、この固定ラップ9を旋回ラップ7と噛み合わせて、ハウジング3に着脱可能に設けられる固定スクロール5と、(d)固定スクロール5の端板22の前記片面とは逆側に、冷却水の通水部として設けられる水冷ジャケット6と、を備えるのであれば、その他の構成は適宜に変更可能である。
【0080】
たとえば、前記実施例では、旋回スクロール本体17は、端板18の片面に旋回ラップ7が設けられて構成され、旋回スクロールベース16の中央部の両面に、それぞれ旋回スクロール本体17の端板18を着脱可能に設けたが、次のように構成してもよい。すなわち、旋回スクロール本体17は、端板18の両面に旋回ラップ7が設けられて構成され、旋回スクロールベース16の中央部に貫通形成された受入穴19に、旋回スクロール本体17の端板18を着脱可能に設けてもよい。
【0081】
また、前記実施例では、旋回スクロール4は、基板部15の両面に旋回ラップ7を設けたが、片面にのみ旋回ラップ7を設けてもよい。その場合、固定スクロール5の数も一つでよい。具体的には、たとえば、図3において、上側(または下側)の旋回ラップ7と、この旋回ラップ7に噛み合う固定スクロール5と、この固定スクロール5に設けられるジャケット材44の設置は省略可能である。
【0082】
また、前記実施例において、旋回ラップ7のチップシール23、固定ラップ9のチップシール41、および外周ラップ42の外部シール43の内、いずれか一以上のシールは、その設置を省略してもよい。その場合でも、ハウジング3に対する固定スクロール5の着脱や、旋回スクロールベース16に対する旋回スクロール本体17の着脱が容易であるから、内部のメンテナンスを容易に行うことができる。従って、部品の表面処理や素材への対応、異物の噛み込みの解消、内部の清掃などを容易に行うことができる。
【0083】
また、前記実施例では、ハウジング3は、平面視において、略短円筒状に形成されたが、これに限らず、矩形状、三角形状、その他の多角形状とされてもよい。
【0084】
また、前記実施例では、ハウジング3の収容穴8にフランジ13を設けて、そのフランジ13に固定スクロール5の端板22の外周部を重ね合わせて取り付けたが、フランジ13の設置を省略して、ハウジング3の上下面(上壁の上面、下壁の下面)に固定スクロール5の端板22の外周部を重ね合わせて取り付けるようにしてもよい。その場合も、ボルトなどを用いて、ハウジング3に対し固定スクロール5を着脱可能に構成しておけばよい。
【0085】
さらに、前記実施例では、クランク軸2の本数を三本としたが、二本としたり、あるいは四本以上としたりすることもできる。その場合も、その内の一本を駆動クランク軸2Aとし、残りを従動クランク軸2Bとして、回転同期機構36を介して同期回転させるのがよい。
【符号の説明】
【0086】
1 スクロール流体機械
2 クランク軸
3 ハウジング
4 旋回スクロール
5 固定スクロール
6 水冷ジャケット
7 旋回ラップ
8 収容穴
9 固定ラップ
10 偏心軸部
11 収容空間
12 開口部
13 フランジ
15 基板部
16 旋回スクロールベース
17 旋回スクロール本体
22 端板
44 ジャケット材
50 給水口
51 排水口
52 第一開口
53 第二開口
図1
図2
図3