【解決手段】旋回スクロール2は、基板部16の両面に渦巻き状の旋回ラップ6が設けられた旋回スクロール本体17が、旋回スクロールベース18の片面から中央部の受入穴19に着脱可能に取り付けられて構成される。固定スクロール5は、端板20の片面に渦巻き状の固定ラップ50が設けられ、固定ラップ50を旋回ラップ6と噛み合わせて、旋回スクロール2を挟むよう設けられる。クランク軸3は、旋回スクロールベース18の周方向複数箇所に設けられ、旋回スクロールベース18が旋回軸受29を介して保持される偏心軸部8を同期して回転させることで、固定スクロール5に対し旋回スクロール2を旋回させる。
基板部の両面に渦巻き状の旋回ラップが設けられた旋回スクロール本体が、旋回スクロールベースの片面から中央部の穴に着脱可能に取り付けられて構成される旋回スクロールと、
端板の片面に渦巻き状の固定ラップが設けられ、この固定ラップを前記旋回ラップと噛み合わせて、前記旋回スクロールを挟むよう設けられる一対の固定スクロールと、
前記旋回スクロールベースの周方向複数箇所に設けられ、前記旋回スクロールベースが軸受を介して保持される偏心軸部を同期して回転させることで、前記固定スクロールに対し前記旋回スクロールを旋回させる複数のクランク軸と
を備えることを特徴とするスクロール流体機械。
前記複数のクランク軸として、供給動力または回収動力にて駆動される駆動クランク軸と、この駆動クランク軸と回転同期機構を介して同期回転する従動クランク軸とを備え、
前記旋回スクロールベースに対する前記旋回スクロール本体の着脱方向と逆側に、前記回転同期機構が設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクロール流体機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、旋回スクロールは、鏡板の外周部に一体形成された張出し部に、旋回軸受の軸受穴が形成されている。そのため、旋回スクロールのラップ部のメンテナンスを行う場合には、クランク軸から旋回スクロール全体を取り外す必要があり、軸受部での着脱作業が必要となる。
【0006】
また、従来技術では、固定スクロールは、鏡板の外周部に一体形成された支持部に、主軸受の軸受穴が形成されている。そのため、固定スクロールのラップ部のメンテナンスを行う場合には、クランク軸から固定スクロール全体を取り外す必要があり、軸受部での着脱作業が必要となる。
【0007】
従って、従来技術では、表面処理や素材に起因した部品の交換や再処理、異物の噛み込みの解消、内部の清掃などを容易に行うことができない。たとえば、固定ラップや旋回ラップの先端部に設けられるチップシールは、摺動により摩耗する消耗部品であり定期的な交換が必要であるが、このチップシールを容易に交換することができない。
【0008】
さらに、従来技術では、前述したように、旋回スクロールは、鏡板の外周部に一体形成された張出し部において、旋回軸受を介してクランク軸に保持される。このような構成の場合、ラップ部からの熱が軸受部に伝わりやすく、軸受部においてグリース切れを起こすおそれがある。たとえば、スクロール流体機械を水蒸気の膨張機(つまり蒸気を用いて旋回スクロールを回転させて動力を取り出すスチームモータ)として用いる場合、旋回スクロールの中央部(鏡板やラップ部)は高温の蒸気に晒され、その熱が軸受部に伝達されて、軸受部において潤滑不良を起こすおそれがある。スクロール流体機械を圧縮機として用いる場合も同様に、圧縮熱が旋回スクロールの軸受部に伝達されて不都合を生じるおそれがある。その他、旋回スクロールの熱膨張は、スクロール流体機械の運転中の振動の原因にもなる。
【0009】
一方、固定スクロールについても同様に、固定スクロールの中央部(鏡板やラップ部)から外周部(支持部)の軸受部への伝熱により、軸受部において潤滑不良を起こすおそれがある。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、旋回スクロールの他、好ましくは固定スクロールについても、メンテナンスを容易に行うことができるスクロール流体機械を提供することにある。また、旋回スクロールの中央部から外周部への伝熱や、固定スクロールの中央部から外周部への伝熱を防止して、軸受部の保護を図ることのできるスクロール流体機械を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、基板部の両面に渦巻き状の旋回ラップが設けられた旋回スクロール本体が、旋回スクロールベースの片面から中央部の穴に着脱可能に取り付けられて構成される旋回スクロールと、端板の片面に渦巻き状の固定ラップが設けられ、この固定ラップを前記旋回ラップと噛み合わせて、前記旋回スクロールを挟むよう設けられる一対の固定スクロールと、前記旋回スクロールベースの周方向複数箇所に設けられ、前記旋回スクロールベースが軸受を介して保持される偏心軸部を同期して回転させることで、前記固定スクロールに対し前記旋回スクロールを旋回させる複数のクランク軸とを備えることを特徴とするスクロール流体機械である。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、旋回スクロールは、両面に旋回ラップを有する旋回スクロール本体と、この旋回スクロール本体が片面から着脱される旋回スクロールベースとから構成され、旋回スクロールベースがクランク軸の偏心軸部に軸受を介して保持される。旋回スクロールベースから旋回スクロール本体を取り外すことで、軸受部での分解を要することなく、旋回スクロール本体のメンテナンスを容易に行うことができる。しかも、両面に旋回ラップが設けられた旋回スクロール本体を、旋回スクロールベースの片面から一気に着脱できるので、メンテナンス時の着脱作業が容易で、作業時間を短縮することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記旋回スクロールおよび前記固定スクロールは、ハウジングに取り付けられ、このハウジングは、前記旋回ラップが旋回可能に収容される収容穴を貫通形成されると共に、この収容穴を取り囲む周方向複数箇所に前記クランク軸が収容穴の軸線と平行に設けられ、且つ、そのクランク軸の偏心軸部の収容空間が前記収容穴へ開口部を介して連通されており、前記ハウジングには、前記旋回スクロール本体の基板部が前記収容穴の軸線と垂直に配置されると共に、前記旋回スクロールベースが前記開口部を介して前記クランク軸の偏心軸部に保持され、且つ、前記旋回スクロール本体を挟むよう前記固定スクロールが着脱可能に設けられることを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械である。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、旋回スクロールは、旋回ラップをハウジングの収容穴内に配置して、ハウジングに旋回可能に保持される。一方、固定スクロールは、ハウジングの収容穴を閉じるように、ハウジングに着脱可能に設けられる。従って、ハウジングに対する旋回スクロールの軸受部を分解することなく、ハウジングから固定スクロールを容易に取り外すことができ、内部のメンテナンスも容易に行える。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記ハウジングには、前記収容穴の軸方向中途部に、一対のフランジが、前記収容穴の軸方向に離隔すると共に前記収容穴の内側へ延出して形成され、前記旋回スクロールの外周部は、前記一対のフランジ間の開口部を介して、前記ハウジングの前記収容穴よりも外側において、前記クランク軸により前記固定スクロールに対し旋回可能に保持され、前記ハウジングのフランジに前記固定スクロールの端板が重ね合わされて着脱可能に固定されることを特徴とする請求項2に記載のスクロール流体機械である。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、ハウジングの収容穴に設けたフランジに対し、固定スクロールを着脱することができる。フランジは、収容穴の軸方向中途部に設けられるので、収容穴内に固定スクロールの端板を配置して取り付けることができ、コンパクトに組み立てることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記複数のクランク軸として、供給動力または回収動力にて駆動される駆動クランク軸と、この駆動クランク軸と回転同期機構を介して同期回転する従動クランク軸とを備え、前記旋回スクロールベースに対する前記旋回スクロール本体の着脱方向と逆側に、前記回転同期機構が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、旋回スクロールベースに対する旋回スクロール本体の着脱方向は、各クランク軸同士の回転同期機構とは逆側である。従って、旋回スクロールベースに対する旋回スクロール本体の着脱を、回転同期機構で邪魔されず、容易に行うことができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記旋回スクロール本体と前記旋回スクロールベースとは、直接に接触しないように第一の中間材を介在させて一体化され、前記第一の中間材は、前記旋回スクロールベースよりも熱伝導率の低い材質から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、旋回スクロール本体と旋回スクロールベースとは、旋回スクロールベースよりも熱伝導率の低い第一の中間材を介して一体化されるので、旋回スクロール本体から旋回スクロールベースへの伝熱を防止して、旋回スクロールベースの軸受部の保護を図ることができる。また、旋回スクロールベースの熱膨張を防止して、振動の発生を防止することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記旋回スクロールおよび前記固定スクロールは、ハウジングに取り付けられ、前記固定スクロールは、前記ハウジングとは直接に接触しないように第二の中間材を介在させて固定され、前記第二の中間材は、前記ハウジングよりも熱伝導率の低い材質から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、固定スクロールは、ハウジングよりも熱伝導率の低い第二の中間材を介してハウジングに固定されるので、固定スクロールからハウジングへの伝熱を防止して、ハウジングの軸受部の保護を図ることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、前記旋回スクロールベースには、前記旋回スクロール本体の基板部を受け入れる受入穴が形成され、この受入穴の周側壁には、周方向三以上の箇所に、前記受入穴内へ先端部を突出させて支持材が設けられ、前記旋回スクロール本体の基板部は、前記受入穴に隙間をあけてはめ込まれると共に、前記支持材の先端部により前記受入穴に対する径方向の位置決めがなされることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、旋回スクロール本体の基板部は、旋回スクロールベースの受入穴に隙間をあけてはめ込まれると共に、周方向三箇所以上において支持材の先端部により受入穴に対する径方向の位置決めがなされる。つまり、旋回スクロール本体の基板部の外周面と、旋回スクロールベースの受入穴の内周面とは、当接することなく、支持材の先端部を介して位置決めされる。従って、旋回スクロール本体から旋回スクロールベースへの伝熱を防止して、旋回スクロールベースの軸受部の保護を図ることができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、前記クランク軸は、前記旋回スクロールベースの周方向三以上の箇所に設けられ、前記三以上の箇所の全てにおいて、前記軸受の外輪と前記旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に、円環状の付勢材が設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0026】
請求項8に記載の発明によれば、全てのクランク軸の偏心軸部において、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に、円環状の付勢材が設けられる。そのため、旋回スクロールの旋回時に、クランク軸に対し旋回スクロールが遠心力により振れても、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間が埋まるのを抑制して、固定ラップと旋回ラップとの側面間の隙間を所望に保つことができる。また、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間が完全に埋まるとしても、付勢材の作用により衝撃を緩和して、各ラップの破損を防止することができる。付勢材を、旋回スクロールベースよりも熱伝導率の低い材質から形成すれば、旋回スクロールベースから旋回軸受への伝熱の防止にも寄与する。
【0027】
請求項9に記載の発明は、前記旋回スクロールベースの軸受穴は、前記旋回スクロールベースの周方向等間隔に設けられると共に、前記軸受の外輪よりも大径に形成されており、前記軸受の外輪の外周面に、前記円環状の付勢材の内周部がはめ込まれる装着溝が形成されるか、前記旋回スクロールベースの軸受穴の内周面に、前記円環状の付勢材の外周部がはめ込まれる装着溝が形成されていることを特徴とする請求項8に記載のスクロール流体機械である。
【0028】
請求項9に記載の発明によれば、旋回スクロールを周方向等間隔な位置でクランク軸に保持することで、旋回スクロールの回転を円滑に保つことができる。また、軸受の外輪の外周面に装着溝を設けて、その装着溝に付勢材の内周部をはめ込むか、旋回スクロールベースの軸受穴の内周面に装着溝を設けて、その装着溝に付勢材の外周部をはめ込んでおくことで、組立作業を容易とし、取付強度も確保することができる。
【0029】
請求項10に記載の発明は、前記旋回スクロールベースの軸受穴に、円筒状のガイドリングがはめ込まれ、前記円環状の付勢材は、前記偏心軸部の軸受の外輪と前記旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に設置されることに代えて、前記偏心軸部の軸受の外輪と前記ガイドリングの内穴との隙間に設置されることを特徴とする請求項8または請求項9に記載のスクロール流体機械である。
【0030】
請求項10に記載の発明によれば、旋回スクロールベースの軸受穴に円筒状のガイドリングをはめ込んで、旋回スクロールベースとクランク軸との径方向の位置調整を図ることができる。そして、偏心軸部の軸受の外輪とガイドリングの内穴との隙間に付勢材を設けることで、請求項8または請求項9に記載の発明と同様の作用効果を奏することができる。なお、ガイドリングの内穴の内周面に装着溝を設けて、その装着溝に付勢材の外周部をはめ込んでもよい。
【0031】
請求項11に記載の発明は、前記クランク軸は、同一軸線上に配置された主軸部間に、前記偏心軸部が偏心して設けられ、前記クランク軸は、前記偏心軸部を挟んだ両側の主軸部において、前記一対の固定スクロールまたはこれと一体の部材に、軸受を介して回転可能に保持され、前記偏心軸部を挟んだ両側の主軸部の内、一方の主軸部を保持する軸受の内輪の片方の端面が当接される第一段部と、前記偏心軸部を保持する軸受の内輪の片方の端面が当接される第二段部とが、前記クランク軸に設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のスクロール流体機械である。
【0032】
請求項11に記載の発明によれば、クランク軸に第一段部と第二段部とを設け、第一段部を固定スクロール側への位置決めに用い、第二段部を旋回スクロール側への位置決めに用いることで、各クランク軸の軸方向に対する各スクロールの位置決めが容易となる。
【0033】
請求項12に記載の発明は、前記一方の主軸部を保持する軸受の内輪は、主軸部が圧入された上、主軸部にねじ込まれる第一の留めナットと前記第一段部とにより挟み込まれ、前記一方の主軸部を保持する軸受の外輪は、前記固定スクロールまたはこれと一体の部材に固定され、前記偏心軸部を保持する軸受の内輪は、偏心軸部が圧入された上、偏心軸部にねじ込まれる第二の留めナットと前記第二段部とにより挟み込まれ、前記偏心軸部を保持する軸受の外輪は、軸方向に位置決めされると共に、径方向には前記旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に円環状の付勢材を介して取り付けられることを特徴とする請求項11に記載のスクロール流体機械である。
【0034】
請求項12に記載の発明によれば、一方の主軸部を保持する軸受と、偏心軸部を保持する軸受とは、それぞれ、内輪が軸部に圧入された後、留めナットで段部に押し付けられて固定される。これにより、各軸受を各軸部に確実に固定することができる。また、一方の主軸部を保持する軸受の外輪は、固定スクロールまたはこれと一体の部材に固定されるが、偏心軸部を保持する軸受の外輪は、旋回スクロールベースに対し軸方向には位置決めされるが径方向には位置決めされることなく、旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に円環状の付勢材を介して取り付けられる。全てのクランク軸の偏心軸部において、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に、円環状の付勢材を設けておくことで、旋回スクロールの旋回時に、クランク軸に対し旋回スクロールが遠心力により振れても、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間が埋まるのを抑制して、固定ラップと旋回ラップとの側面間の隙間を所望に保つことができる。また、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間が完全に埋まるとしても、付勢材の作用により衝撃を緩和して、各ラップの破損を防止することができる。
【0035】
さらに、請求項13に記載の発明は、前記偏心軸部を保持する軸受として、複数の軸受を備え、この軸受同士は、端面同士を重ね合わされるか、端面間にアジャスタを介して重ね合わされることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のスクロール流体機械である。
【0036】
請求項13に記載の発明によれば、偏心軸部を保持する複数の軸受は、端面同士を重ね合わされるか、端面間にアジャスタを介して重ね合わされることで、旋回スクロールベースとクランク軸との軸方向の位置調整を図ることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のスクロール流体機械によれば、旋回スクロールの他、好ましくは固定スクロールについても、メンテナンスを容易に行うことができる。また、実施形態によっては、旋回スクロールの中央部から外周部への伝熱や、固定スクロールの中央部から外周部への伝熱を防止して、軸受部の保護を図ることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0040】
図1から
図4は、本発明の一実施例のスクロール流体機械1を示す概略図であり、
図1は底面図、
図2は
図1におけるII−II断面図、
図3は旋回スクロール2の分解斜視図、
図4は
図2の左端部の拡大図である。なお、以下において、説明の便宜上、
図2(厳密にはII−II断面図であるからその左半分または右半分)における上下および左右として方向を述べることがあるが、この方向はスクロール流体機械1の姿勢を限定する趣旨ではない。そのため、スクロール流体機械1の使用時、クランク軸3を上下方向に沿って配置する以外に、たとえば左右方向に沿って配置してもよい。
【0041】
本実施例のスクロール流体機械1は、ハウジング4と、このハウジング4に複数のクランク軸3を介して旋回可能に保持される旋回スクロール2と、この旋回スクロール2を挟むようにハウジング4に着脱可能に固定される一対の固定スクロール5とを備える。なお、クランク軸3は、旋回スクロール2の外周部において、少なくとも二箇所、好ましくは三箇所以上に設けられる。本実施例では、クランク軸3は、旋回スクロール2の外周部において、周方向等間隔の三箇所に設けられる。
【0042】
ハウジング4は、本実施例では、略矩形の箱状に形成され、平面視中央部には旋回スクロール2の旋回ラップ6を旋回可能に収容する収容穴7が上下に貫通して形成されている。ハウジング4には、収容穴7を取り囲む周方向複数箇所にクランク軸3が収容穴7の軸線と平行に設けられ、且つ、そのクランク軸3の偏心軸部8の収容空間9が収容穴7へ開口部10を介して連通されている。
【0043】
具体的には、本実施例のハウジング4は、略矩形の平板状の上板11と下板12とを備え、これらは互いに対応した大きさに形成されている。そして、上板11と下板12とは、上下に離隔して平行に対面して配置され、外端辺同士を適宜の側板13で接続される。この際、上板11と下板12とは、
図1の前後の端辺(つまり
図2の右側)のように、上板11の下面と下板12の上面とを、側板13で接続してもよいし、
図1の左右の端辺(つまり
図2の左側)のように、上板11の端面と下板12の端面とを、側板13で接続してもよい。また、各側板13は、
図1の右側の側板13のように、上板11および下板12の端辺の全域に設けてもよいし、
図1の左側の側板13のように、上板11および下板12の端辺の一部に設けてもよい。各板11〜13は、ボルト14を用いて着脱可能に組み立てられ、これにより、たとえば、各側板13に対し上板11を取り外すことができる。なお、前記ボルト14として、文字通りのボルトに限らず各種のネジを用いてもよく、このことは後述するその他のボルトについても同様である。
【0044】
上板11および下板12には、対応する箇所に、前記収容穴7の開口部(言い換えればハウジング4内の中空部の開口部)として、開口穴7Aが貫通形成されている。上下の開口穴7Aは、同じ大きさの丸穴から形成されている。図示例の場合、上方の開口穴7Aの周壁は、上板11の下面よりも下方へ突出しており、下方の開口穴7Aの周壁は、下板12の上面よりも上方へ突出している。
【0045】
各開口穴7Aの底部には、円環状のフランジ15が形成されている。具体的には、上方の開口穴7Aの周壁の下端部には、径方向内側へ延出してフランジ15が設けられる一方、下方の開口穴7Aの周壁の上端部には、径方向内側へ延出してフランジ15が設けられる。ハウジング4内には、各フランジ15よりも径方向外側に、環状の中空部が形成されており、この中空部が、クランク軸3の偏心軸部8の収容空間9となる。そして、この収容空間9は、一対のフランジ15間の開口部10を介して、周方向に沿って連続的に収容穴7(上下の開口穴7Aとその間を仮想的に接続した空洞部)へ開口している。
【0046】
旋回スクロール2は、
図2および
図3に示すように、基板部16の両面に渦巻き状の旋回ラップ6が設けられた旋回スクロール本体17が、旋回スクロールベース18の片面(ここでは上面)から中央部の受入穴19に着脱可能に取り付けられて構成される。
【0047】
旋回スクロール本体17は、円板状の基板部16の上面および下面に、これら面と垂直に延出して、一または複数の板状の旋回ラップ6が設けられて構成される。具体的には、基板部16の上面に、上方へ向けて旋回ラップ6が設けられる一方、基板部16の下面に、下方へ向けて旋回ラップ6が設けられる。この際、各旋回ラップ6は、基板部16の中央部から外周部へ向けて、インボリュート曲線の渦巻き状に湾曲して形成される。本実施例では、
図2から明らかなとおり、上下の旋回ラップ6は、互いに対応した形状、大きさおよび配置で形成される。
【0048】
図2に示すように、各旋回ラップ6には、基板部16からの延出先端部(上側の旋回ラップ6の上端部、下側の旋回ラップ6の下端部)に、固定スクロール5の端板20との隙間を埋めるためのチップシール21が、着脱可能に、渦巻きに沿って設けられる。なお、
図3では、チップシール21を省略して示している。
【0049】
図3に示すように、基板部16の外周部には、径方向外側への延出片22が、周方向複数箇所に設けられる。本実施例では、隣接して配置された一対の延出片22を一セットとして、このセットが周方向等間隔に複数設けられる。具体的には、一対の延出片22が三セット、120度間隔で、基板部16の外周部に一体形成される。
【0050】
各延出片22は、上面が基板部16と連続的な板状に形成され、
図2の右側に示すように、基板部16よりもやや薄く形成されている。そして、
図3に示すように、各延出片22の板面には、基板部16の周方向へ離隔して、それぞれ二つのボルト挿通穴23が上下に貫通して形成されている。また、基板部16の略径方向に対向して、二つの延出片22には、後述するロックピン24がはめ込まれるピン穴25も形成されている。
【0051】
旋回スクロールベース18は、平面視において、たとえば略円形状でもよいが、本実施例では
図3に示すように、略三角形状に形成されている。いずれにしても、旋回スクロールベース18の中央部には、旋回スクロール本体17の基板部16を受け入れる受入穴19が貫通形成されている。
【0052】
後述するように、旋回スクロール本体17から旋回スクロールベース18への伝熱を防止する場合、受入穴19の内径は基板部16の外径よりも設定寸法だけ大きい。その場合、旋回スクロールベース18の受入穴19には、旋回スクロール本体17の基板部16が、受入穴19の内周面と基板部16の外周面との間に隙間をあけてはめ込まれる。
【0053】
旋回スクロールベース18には、受入穴19の周囲に、旋回スクロール本体17の延出片22を受け入れる凹部26が、受入穴19の内周壁を切り欠くようにして、上方へ開口して形成されている。この凹部26の底面は、受入穴19の軸方向中央部に配置される。旋回スクロールベース18の凹部26に旋回スクロール本体17の延出片22をはめ込みつつ、旋回スクロールベース18の受入穴19に旋回スクロール本体17の基板部16をはめ込むことができる。
【0054】
旋回スクロールベース18の各凹部26の底面には、旋回スクロール本体17の延出片22に形成したボルト挿通穴23と対応して、ネジ穴27が形成されている。また、受入穴19の略径方向に対向した二箇所において、凹部26の底面には、ロックピン24が上方へ突出して設けられる。従って、旋回スクロールベース18の凹部26のロックピン24に、旋回スクロール本体17の延出片22のピン穴25をはめ込むことで、旋回スクロールベース18に対する旋回スクロール本体17の周方向の位置決めを図ることができる。そして、延出片22のボルト挿通穴23を介して、凹部26のネジ穴27に、ボルト28をねじ込むことで、旋回スクロール本体17を旋回スクロールベース18に着脱可能に固定することができる。但し、ロックピン24およびピン穴25は、場合により設置を省略可能である。
【0055】
詳細は後述するが、旋回スクロールベース18の三つの角部には、それぞれクランク軸3の偏心軸部8に旋回スクロールベース18を保持するために、旋回軸受29が設けられる(
図2)。この旋回軸受29の保護(より具体的にはグリース切れの防止)のために、旋回スクロール本体17から旋回スクロールベース18への伝熱を防止するのが好ましい。そのために、
図3に示すように、旋回スクロール本体17と旋回スクロールベース18とは、直接接触しないように、第一の中間材30を介して重ね合わされるのが好ましい。
【0056】
本実施例では、延出片22の下面と凹部26の底面との間に、ワッシャ状の中間材30を介在させている。つまり、旋回スクロールベース18に旋回スクロール本体17を固定するためのボルト28は、旋回スクロール本体17の延出片22のボルト挿通穴23と、中間材30の穴とを介した後、旋回スクロールベース18のネジ穴27にねじ込まれる。
【0057】
図示例では、旋回スクロール本体17は、旋回スクロールベース18に対し、12本のボルト28で固定されるが、その内、半数の箇所で、中間材30は断熱材30Aとされ、残り半分の箇所で、中間材30はスペーサ30Bとされる。具体的には、略三角形状の旋回スクロールベース18の各角部に対応して配置される一対の凹部26と、これに取り付けられる一対の延出片22との間には、受入穴19の周方向へ沿って、たとえば、スペーサ30B、断熱材30A、断熱材30Aおよびスペーサ30Bの順で、中間材30が設けられる。
【0058】
なお、本実施例では、断熱材30Aもスペーサ30Bも、互いに略同一の形状および大きさとされるが、場合により異なってもよい。断熱材30Aの厚みや硬さに応じたスペーサ30Bを用いることで、断熱材30Aの材料選定が容易となる。また、後述するようにスペーサ30Bを金属材料から形成すれば、厚み精度を出しやすく、ボルト28による締め付け荷重による変形も抑えられる。凹部26と延出片22との間に断熱材30Aだけでなく金属製スペーサ30Bも挟み込むことで、旋回スクロールベース18に対する旋回スクロール本体17の設置高さを所定に維持できるから、旋回スクロール2と固定スクロール5との上下方向の配置が所定に定まり、組立後のチップシール21,51の箇所でのクリアランス変動が抑えられ、流体漏れを防止することができる。
【0059】
いずれにしても、中間材30は、旋回スクロールベース18よりも熱伝導率の低い材質から形成される。その点からいうと、中間材30が前述したスペーサ30Bである場合も、そのスペーサ30Bは一種の断熱材としても機能する。本実施例では、旋回スクロール本体17および旋回スクロールベース18は、軽量なアルミニウム合金から形成されるが、中間材30は、たとえばセラミックもしくは合成樹脂製の断熱材30A、またはステンレス製のスペーサ30Bとされる。そして、前述したように、旋回スクロールベース18の受入穴19には、旋回スクロール本体17の基板部16が、受入穴19の内周面と基板部16の外周面との間に隙間をあけてはめ込まれる。また、旋回スクロールベース18の凹部26と旋回スクロール本体17の延出片22とは、凹部26の底面と延出片22の下面とが中間材30を介して直接接触しないだけでなく、延出片22よりも一回り大きく凹部26が形成されることで、凹部26の側面と延出片22の外縁とも直接接触しない。さらに、旋回スクロールベース18に旋回スクロール本体17を固定するのに用いるボルト28の他、好ましくはロックピン24も、旋回スクロールベース18(アルミニウム合金)よりも熱伝導率の低い材質(ここではステンレス)から形成されている。このようにして、旋回スクロール本体17から旋回スクロールベース18への伝熱を防止して、旋回軸受29の保護を図ることができる。
【0060】
ところで、旋回スクロールベース18の受入穴19に、旋回スクロール本体17の基板部16を、隙間をあけてはめ込む場合、旋回スクロールベース18に対する旋回スクロール本体17の径方向の位置決めを次のようにして行うのが好ましい。すなわち、受入穴19の周側壁には、好ましくは周方向等間隔で、周方向三箇所以上に、受入穴19内へ先端部を突出させて支持材(31)が設けられる。本実施例では、略三角形状の旋回スクロールベース18には、三つの端辺の各中央部に、径方向へ貫通してネジ穴32が形成され、そのネジ穴32に支持材としてのイモネジ31(たとえば六角穴付き止めネジ)がねじ込まれる。そして、イモネジ31の先端部は、受入穴19の周側壁から内側へ突出する。イモネジ31の先端部を、旋回スクロール本体17の基板部16の外周部に当接して、基板部16を保持(チャッキング)することで、受入穴19に対する基板部16の径方向の位置決めを行うことができる。ネジ穴32に対してイモネジ31を進退させることで、受入穴19に対する基板部16の位置を調整することができる。また、所望により、接着剤を用いて、旋回スクロールベース18に対しイモネジ31を固定してもよい。受入穴19に対する基板部16の位置をイモネジ31で確定後は、イモネジ31の位置は固定しつつ、旋回スクロールベース18に対し旋回スクロール本体17を軸方向(基板部16の板面と垂直方向)に着脱することができる。旋回スクロール本体17から旋回スクロールベース18への伝熱を防止するために、イモネジ31も、旋回スクロールベース18よりも熱伝導率の低い材質から形成されるのが好ましく、本実施例ではステンレスから形成されている。なお、このような構成を採用する場合、前述したロックピン24とピン穴25とは、隙間嵌めにてはまり合うよう構成されている。
【0061】
旋回スクロールベース18の外周部には、周方向等間隔の三箇所に、クランク軸3への軸受穴33が形成されている。本実施例では、旋回スクロールベース18は、平面視で略三角形状とされるが、その三つの角部に、軸受穴33が上下に貫通して形成されている。各軸受穴33は、段付き穴とされ、上部に大径穴33a、下部に小径穴33bが配置されている。
【0062】
旋回スクロール2は、ハウジング4の収容穴7に旋回ラップ6を配置した状態で、収容穴7の軸線と垂直に基板部16および旋回スクロールベース18が配置される。この際、旋回スクロールベース18は、ハウジング4のフランジ15間の開口部10を介して、収容穴7より外方へ延出する。これにより、旋回スクロールベース18の各軸受穴33は、ハウジング4のフランジ15よりも径方向外側に配置される。そして、軸受穴33に取り付けられる旋回軸受29を介して、旋回スクロール2はクランク軸3に保持される。この保持構造については、後述する。なお、
図1に示すように、クランク軸3は、ハウジング4の周方向等間隔の三箇所に設けられ、本実施例では互いに同一構造である。また、
図2に示すように、各クランク軸3は、その軸線を上下方向に沿って配置される。この際、各クランク軸3は、ハウジング4の中空部を上下に貫通するよう設けられる。
【0063】
図2(特に左側)および
図4に示すように、各クランク軸3は、同一軸線上に配置された主軸部34,35間に、偏心軸部8が偏心して設けられる。本実施例では、下側の主軸部35は、下方へ行くに従って段階的に縮径して、大径部35a、中径部35bおよび小径部35cに分けられる。また、偏心軸部8の下端部には、拡径部8aが同心に形成されている。
【0064】
各クランク軸3は、偏心軸部8を挟んだ両側の主軸部34,35において、ハウジング4の上板11および下板12に回転自在に保持される。本実施例では、上方の主軸部34は、上軸受36を介してハウジング4の上板11に回転自在に保持され、下方の主軸部35の中径部35bは、下軸受37を介してハウジング4の下板12に回転自在に保持される。
【0065】
各クランク軸3には、偏心軸部8を挟んだ両側の主軸部34,35の内、一方の主軸部(
図2において下方の主軸部)35の軸方向中途部に第一段部3aが設けられる。具体的には、下方の主軸部35は、前述したように段付き棒状に形成されており、大径部35aと中径部35bとの段付き部(大径部35aの下面)が第一段部3aとされる。この第一段部3aには、下軸受37の内輪の上端面が当接される。
【0066】
各クランク軸3には、偏心軸部8の内、軸方向一端部(
図2において下端部)に、第二段部3bが設けられる。具体的には、偏心軸部8は、前述したように下端部に拡径部8aが設けられており、その拡径部8aとの間の段付き部(拡径部8aの上面)が第二段部3bとされる。この第二段部3bには、旋回軸受29の内輪の下端面が当接される。なお、偏心軸部8に設ける旋回軸受29は、単数でも複数でもよく、複数の場合、最も下方に配置される旋回軸受29の内輪の下端面が、第二段部3bに当接される。図示例では、偏心軸部8には、二つの旋回軸受29が、上下に重ね合わされて設置される。
【0067】
ハウジング4の上板11および下板12には、クランク軸3の設置位置と対応した周方向三箇所において、上下に貫通して軸取付穴38,39が形成されている。ハウジング4の上板11の軸取付穴38は、段付き穴に形成されており、下方に小径穴38a、上方に大径穴38bが形成されている。ハウジング4の下板12の軸取付穴39も、段付き穴に形成されており、上方に小径穴39a、下方に大径穴39bが形成されている。
【0068】
上軸受36および下軸受37は、本実施例では、いずれも転がり軸受により構成される。転がり軸受は、周知のとおり、同心円状に配置された略円筒状の内輪と外輪との間に、その周方向へ配列されて多数の転動体が保持されて構成される。これにより、転がり軸受は、内輪と外輪とが転動体を介して回転自在とされる。なお、偏心軸部8に設けられる各旋回軸受29も、本実施例では、上軸受36および下軸受37と同様の構成とされる。
【0069】
ハウジング4の下板12への下軸受37の固定は、次のように行われる。すなわち、下板12の軸取付穴39の小径穴39aと大径穴39bとの段付き部(大径穴39bの上面)に外輪の上端面が当接するまで、大径穴39bに下軸受37の外輪を圧入する。そして、円環状の留めリング40を下板12の下面に重ね合わせてボルト41で固定する。これにより、下軸受37は、外輪が、軸取付穴39の段付き部と留めリング40との間で挟み込まれて固定される。
【0070】
下軸受37の内輪には、下方の主軸部35の中径部35bが圧入される。すなわち、第一段部3aに下軸受37の内輪の上端面が当接するまで、下軸受37の内輪に主軸部35の中径部35bを圧入する。そして、中径部35bの下端部はネジ部とされているので、そのネジ部に第一の留めナット42をねじ込む。これにより、下軸受37は、内輪が、第一段部3aと留めナット42との間で挟み込まれて固定される。
【0071】
ハウジング4の上板11への上軸受36の固定は、次のように行われる。すなわち、上軸受36は外輪が軸受ケース43に保持され、上板11の上面に軸受ケース43のフランジ下端面が当接するまで、大径穴38bに軸受ケース43がはめ込まれる。そして、軸受ケース43のフランジを上板11の上面にボルト44で固定する。一方、上軸受36の内輪には、上方の主軸部34が圧入される。
【0072】
三本のクランク軸3は、偏心軸部8の位置を揃えて(つまり位相を揃えて)、回転同期機構45により同期回転する。回転同期機構45は、歯車を用いてもよいが、本実施例ではタイミングベルト46を用いている。具体的には、各クランク軸3の下方の主軸部35(小径部35c)には、歯付きプーリ47が固定されており、これら歯付きプーリ47間をタイミングベルト46が掛け回されている。この際、
図1に示すように、タイミングベルト46は、テンションローラ48にも引っ掛けられており、テンションローラ48の位置(収容穴7の径方向に対する位置)を調整することで、タイミングベルト46の張力を調整可能とされる。
【0073】
なお、三本のクランク軸3の内、一本(本実施例では
図1において右下のクランク軸)は、外部から供給動力が入力される(または外部へ回収動力を出力する)駆動クランク軸3Aとされ、残り二本は、そのような入力(または出力)を直接には行わない従動クランク軸3Bとされる。詳細は、後述するが、スクロール流体機械1が圧縮機またはブロワの場合、駆動クランク軸3Aに外部から供給動力が与えられ(つまり動力が入力され)、それに伴い、回転同期機構45を介して従動クランク軸3Bも回転させつつ、旋回スクロール2を旋回させる。一方、スクロール流体機械1が膨張機の場合、供給される流体により旋回スクロール2を旋回させ、回転同期機構45を介して各クランク軸3を回転させて、駆動クランク軸3Aに回収動力が与えられる(つまり動力が出力される)。
【0074】
各クランク軸3には、旋回スクロール2の円滑な回転のために、ウェイトバランサ49が設けられる。本実施例では、上側の主軸部34の下端部と、下側の主軸部35の大径部35aの上端部とに、それぞれウェイトバランサ49が設けられる。
【0075】
各固定スクロール5は、円板状の端板20の片面に、その板面と垂直に、一または複数の板状の固定ラップ50が設けられている。具体的には、
図2において、上側の固定スクロール5は、端板20の下面に、下方へ向けて固定ラップ50が設けられており、下側の固定スクロール5は、端板20の上面に、上方へ向けて固定ラップ50が設けられている。この際、固定ラップ50は、旋回ラップ6と対応した個数、形状および大きさで設けられ、端板20の中央部から外周部へ向けて、インボリュート曲線の渦巻き状に湾曲して形成されている。各固定ラップ50には、端板20からの延出先端部(上側の固定ラップ50の下端部、下側の固定ラップ50の上端部)に、旋回スクロール2の基板部16との隙間を埋めるためのチップシール51が、着脱可能に、渦巻きに沿って設けられている。
【0076】
各固定スクロール5には、固定ラップ50を取り囲むように、円筒状の外周ラップ52が設けられている。具体的には、
図2において、上側の固定スクロール5は、端板20の下面に、下方へ向けて外周ラップ52が設けられており、下側の固定スクロール5は、端板20の上面に、上方へ向けて外周ラップ52が設けられている。外周ラップ52の高さ(端板20からの延出寸法)は、固定ラップ50の高さ(端板20からの延出寸法)と略対応している。各外周ラップ52には、端板20からの延出先端部(上側の外周ラップ52の下端部、下側の外周ラップ52の上端部)に、一または複数の環状の外部シール52Aが、着脱可能に、周方向に沿って設けられている。
【0077】
各固定スクロール5は、固定ラップ50を旋回ラップ6と噛み合わせた状態で、ハウジング4の上下に着脱可能に設けられる。具体的には、上側の固定スクロール5は、ハウジング4の上側のフランジ15の上面に、端板20の外周部が重ね合わされて、ボルト53により着脱可能に固定される。また、下側の固定スクロール5は、ハウジング4の下側のフランジ15の下面に、端板20の外周部が重ね合わされて、ボルト53により着脱可能に固定される。なお、ハウジング4のフランジ15には、周方向複数箇所にロックピン55が設けられており、このロックピン55が固定スクロール5の端板20に設けたピン穴にはめ込まれて、ハウジング4に対する固定スクロール5の周方向の位置決めがなされる。
【0078】
旋回スクロール2の場合と同様、固定スクロール5についても、ハウジング4に設けた上軸受36および下軸受37の保護(より具体的にはグリース切れの防止)のために、固定スクロール5からハウジング4への伝熱を防止するのが好ましい。そのために、
図2および
図4に示すように、固定スクロール5とハウジング4とは、直接接触しないように、第二の中間材54を介して重ね合わされるのが好ましい。
【0079】
具体的には、ハウジング4のフランジ15と固定スクロール5の端板20とを、中間材54を介して重ね合わさせればよい。この中間材54は、固定スクロール5の端板20をハウジング4のフランジ15に固定するためのボルト53が通されるワッシャ状でもよいし、ハウジング4のフランジ15の周方向全体に重ね合わされる円環状でもよい。また、旋回スクロール2の場合と同様、中間材54として、断熱材とスペーサとを組み合わせてもよい。いずれにしても、中間材54は、ハウジング4よりも熱伝導率の低い材質から形成される。
【0080】
そして、ハウジング4の開口穴7Aには、固定スクロール5の端板20が、開口穴7Aの内周面と端板20の外周面との間に隙間をあけてはめ込まれる。また、ハウジング4のフランジ15の箇所でも、固定スクロール5の外周ラップ52が、フランジ15の内周面と外周ラップ52の外周面との間に隙間をあけてはめ込まれる。さらに、ハウジング4に固定スクロール5を固定するのに用いるボルト53の他、好ましくはロックピン55も、ハウジング4よりも熱伝導率の低い材質(ここではステンレス)から形成されるのがよい。このようにして、固定スクロール5からハウジング4への伝熱を防止して、上軸受36および下軸受37の保護を図ることができる。
【0081】
次に、
図2および
図4に基づき、クランク軸3の偏心軸部8への旋回スクロール2の保持構造について説明する。クランク軸3の偏心軸部8には、旋回軸受29の内輪が圧入されて固定される。本実施例では、二つの旋回軸受29が上下に重ねられて、偏心軸部8に圧入される。その際、下方の旋回軸受29の内輪の下端面を、第二段部3bに当接する。そして、偏心軸部8の上端部はネジ部とされているので、そのネジ部に第二の留めナット56をねじ込む。これにより、旋回軸受29は、内輪が、第二段部3bと留めナット56との間で挟み込まれて固定される。
【0082】
一方、旋回軸受29の外輪と旋回スクロール2の軸受穴33(大径穴33a)との間には、僅かな隙間を開けると共に、その隙間には円環状の付勢材57が設けられる。この付勢材57は、弾性を有するリング(たとえばOリング)でもよいし、非弾性のリング(たとえばエンジニアリングプラスチック製の樹脂リング)でもよい。なお、付勢材57を、旋回スクロールベース18よりも熱伝導率の低い材質から形成すれば、旋回スクロールベース18から旋回軸受29への伝熱の防止にも寄与する。
【0083】
より詳細には、旋回スクロールベース18の軸受穴33の大径穴33aは、旋回軸受29の外輪よりも設定寸法だけ大径に形成されている。また、本実施例では、旋回軸受29の外輪の外周面には、付勢材57の内周部がはめ込まれる装着溝が周方向へ沿って形成されている。そして、円環状の付勢材57は、内周部が外輪の装着溝にはめ込まれる一方、外周部が旋回スクロールベース18の軸受穴33にはめ込まれる。但し、このような構成に代えて、軸受穴33の内周面に装着溝を設けて、円環状の付勢材57は、外周部が軸受穴33の装着溝にはめ込まれる一方、内周部が旋回軸受29の外輪にはめ込まれてもよい。いずれにしても、円環状の付勢材57は、旋回軸受29の外輪と旋回スクロールベース18の軸受穴33との隙間に、配置される。なお、本実施例では、各旋回軸受29は、外輪の外周面の上下二箇所において、円環状の付勢材57を介して軸受穴33に保持される。
【0084】
そして、旋回スクロールベース18には、軸受穴33の周側壁上面に、留めリング58がボルト59により固定される。この留めリング58は、外輪に対する旋回スクロール2の径方向の移動は許容しつつ、軸方向の移動は規制するのがよい。
【0085】
偏心軸部8と軸受穴33とが同心に配置され回転されるとして、旋回軸受29の外輪の外周面と、軸受穴33の大径穴33aの内周面との隙間(片側)Xは、本実施例では、固定ラップ50と旋回ラップ6との側面間の隙間(ラップの径方向の隙間)Yの最少設定値(最も近接した状態における両ラップ50,6間の設計隙間)よりも小さく、たとえば、前記最少設定値の略半分(たとえば20〜30μm)とされる。この場合、仮に、偏心軸部8に対し旋回スクロール2が遠心力により振れて、前記隙間Xが埋まり、固定ラップ50に旋回ラップ6が衝突しようとしても、旋回軸受29の外輪の外周面に軸受穴33の大径穴33aの内周面が先に当たるので、両ラップ50,6の衝突による破損を防止することができる。しかも、付勢材57により、前記隙間Xが埋まるのが防止されると共に、前記隙間Xが埋まるとしても、緩やかに埋めることができる。
【0086】
このようにして、旋回軸受29の外周面と大径穴33aの内周面との隙間を円環状の付勢材57で保持する。これにより、旋回軸受29の外輪と旋回スクロール2の軸受穴33との隙間が、付勢材57により埋められると共に、弾性変形可能な場合には、隙間の調整が可能とされる。
【0087】
一対の固定スクロール5には、
図1および
図2に示すように、それぞれ外周側に第一開口60が設けられる一方、中央部に第二開口61が設けられている。なお、第一開口60および第二開口61には、パイプ状の開口材62,63を取り付けている。また、
図2において、上下に示される第二開口61は、場合により、旋回スクロール2の基板部16の中央に貫通穴をあけて互いに連通させてもよい。
【0088】
本実施例のスクロール流体機械1の組立ては、次のように行うのが好適である。すなわち、まず、下板12に下軸受37を取り付けておく。一方、旋回スクロール2には、各クランク軸3を旋回軸受29および付勢材57を介して取り付けておく。そして、下板12の下軸受37に、旋回スクロール2の各クランク軸3をはめ込んで取り付ける。その際、各クランク軸3は、所定の態勢(つまり偏心軸部8の位置を合わせた位相差のない状態)で取り付けられる。その後、上板11を取り付けるが、その際、上板11とクランク軸3との間に上軸受36を設ける。最後に、上板11および下板12の開口穴7Aに、固定スクロール5を固定すればよい。
【0089】
本実施例のスクロール流体機械1は、以上のように構成されるので、たとえば、圧縮機またはブロワとして用いる場合、駆動クランク軸3Aを回転させればよい(つまり動力を入力する)。たとえば、駆動クランク軸3Aの一方の主軸部35には、モータ(図示省略)の出力軸が直結、つまりカップリングを介して接続される。
【0090】
これにより、固定スクロール5に対し旋回スクロール2を旋回させることができる。この際、駆動クランク軸3Aへの供給動力は、回転同期機構45を介して従動クランク軸3Bにも伝達され、三本のクランク軸3が同期回転する。固定スクロール5に対し旋回スクロール2を旋回させると、第一開口60から流体を吸入し、その流体を旋回ラップ6と固定ラップ50との間で圧縮しながら、その渦巻きの外端側から内端側へ移動させ、第二開口61から吐出させることができる。
【0091】
一方、たとえば膨張機として用いる場合、流体により旋回スクロール2を回転させて、駆動クランク軸3Aに回転駆動力が与えられる(つまり動力が出力される)。たとえば、駆動クランク軸3Aには、被動機(膨張機により駆動される機械)の入力軸が直結、つまりカップリングを介して接続される。
【0092】
そして、流体を第二開口61から流入させると、流体の力で旋回スクロール2が旋回し、流体は膨張しながら第一開口60から吐出する。これにより、旋回スクロール2の回転駆動力を、回収動力として駆動クランク軸3Aから取り出すことができる。なお、この際も、従動クランク軸3Bは、回転同期機構45を介して駆動クランク軸3Aと同期回転する。
【0093】
その他、本実施例のスクロール流体機械1は、駆動クランク軸3Aをモータにより逆方向へ回転させて、流体を第二開口61から吸入して、第一開口60へ吐出させて使用してもよい。
【0094】
このようにして、本実施例のスクロール流体機械1は、圧縮機、膨張機、ブロワ、真空ポンプなどとして用いることができる。なお、圧縮または膨張等させる流体は特に問わず、空気、蒸気、冷媒など、各種の流体に対応することができる。
【0095】
本実施例のスクロール流体機械1では、旋回スクロール2は、旋回ラップ6をハウジング4の収容穴7内に配置して、収容穴7よりも外側においてハウジング4に旋回可能に保持される。一方、固定スクロール5は、固定ラップ50をハウジング4の収容穴7内に配置して、ハウジング4の収容穴7を閉じるように、収容穴7のフランジ15に着脱可能に設けられる。その際、固定スクロール5の端板20も収容穴7内に収容することで、コンパクトな構成とできる。
【0096】
このような構成であるから、ハウジング4に対する旋回スクロール2の軸受部を分解することなく、ハウジング4から固定スクロール5を容易に取り外すことができる。これにより、表面処理や素材に起因した部品の交換や再処理、異物の噛み込みの解消、内部の清掃などを容易に行うことができる。たとえば、旋回ラップ6のチップシール21、固定ラップ50のチップシール51、および外周ラップ52の外部シール52Aの交換を容易に行うことができる。
【0097】
さらに、旋回スクロールベース18に対し旋回スクロール本体17を着脱することもできる。この場合、図示例ではハウジング4の上軸受36での多少の分解が必要になるものの、旋回軸受29での分解を要することなく、旋回スクロール本体17を旋回スクロールベース18から上方へ取り外すことができる。従って、固定スクロール5と同様に、旋回スクロール本体17のメンテナンスも容易に行うことができる。しかも、両面に旋回ラップ6が設けられた旋回スクロール本体17を、旋回スクロールベース18の上方から一気に着脱できるので、メンテナンス時の着脱作業が容易で、作業時間を短縮することができる。
【0098】
なお、旋回スクロールベース18に対し旋回スクロール本体17を着脱可能とする際、ハウジング4の収容穴7を介して、旋回スクロールベース18に対し旋回スクロール本体17を着脱可能とすれば一層好ましい。その場合、旋回スクロール本体17の基板部16の外径は、ハウジング4の収容穴7の内径、さらには収容穴7のフランジ15の内径よりも小さく形成される。従って、ハウジング4から固定スクロール5を取り外した後、旋回スクロールベース18から旋回スクロール本体17をさらに取り外すことができる。しかも、その作業をハウジング4の収容穴7を介して行うことができ、いずれの軸受部での着脱を伴わないため、作業性が一層向上する。
【0099】
また、本実施例のスクロール流体機械1によれば、全てのクランク軸3の偏心軸部8において、旋回軸受29の外輪と旋回スクロール2の軸受穴33との隙間に円環状の付勢材57が設けられる。これにより、旋回スクロール2の旋回時に、クランク軸3に対し旋回スクロール2が遠心力により振れても、旋回軸受29の外輪と旋回スクロール2の軸受穴33との隙間が埋まるのを抑制して、固定ラップ50と旋回ラップ6との側面間の隙間Yを所望に保つことができる。
【0100】
たとえば、
図2の左半分に示すように、クランク軸3の偏心軸部8が最も左側へ配置された状態では、旋回スクロール2は遠心力により左側に振れ、偏心軸部8の右側周側面では、旋回軸受29のはめ合い隙間Xが埋まるように荷重がかかり、固定ラップ50と旋回ラップ6とが近接しようとする。ところが、その荷重を付勢材57が支えることで、旋回軸受29の外輪と旋回スクロール2の軸受穴33との隙間Xが埋まるのを抑制して、固定ラップ50と旋回ラップ6との側面間の隙間Yを所望に保つことができる。また、仮に旋回軸受29の外輪と旋回スクロール2の軸受穴33との隙間Xが完全に埋まるとしても、付勢材57の作用により衝撃を緩和して、各ラップ50,6の破損を防止することができる。このような作用を、旋回スクロール2の旋回に伴い、クランク軸3の周方向に沿って順次に連続的に図ることができる。このように、ラップ50,6間の隙間Yを自動調整できるので、各部品の機械加工精度や組立精度を従前よりも緩和できる。さらに、ラップ50,6間の隙間Yが自動調整できるので、スクロール流体機械1の性能を安定させることもできる。
【0101】
また、本実施例のスクロール流体機械1によれば、クランク軸3に第一段部3aと第二段部3bとを設け、第一段部3aを固定スクロール5側への位置決めに用い、第二段部3bを旋回スクロール2側への位置決めに用いることで、各クランク軸3の軸方向に対する各スクロール2,5の位置決めが容易となる。言い換えれば、固定スクロール5を保持するハウジング4の下板12の軸受当て面(下軸受37の上端面を当接する段付き部)を基準として、各部材を組み立てていくことで、機械的に旋回スクロール2の軸方向位置が定まることになる。しかも、偏心軸部8に設ける旋回軸受29は、内輪は偏心軸部8に固定されるが、外輪は軸受穴33に固定されないので、上述したラップ50,6間の径方向の隙間Yの調整機能を阻害することがない。
【0102】
本発明のスクロール流体機械1は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。特に、(a)基板部16の両面に渦巻き状の旋回ラップ6が設けられた旋回スクロール本体17が、旋回スクロールベース18の片面から中央部の受入穴19に着脱可能に取り付けられて構成される旋回スクロール2と、(b)端板20の片面に渦巻き状の固定ラップ50が設けられ、この固定ラップ50を旋回ラップ6と噛み合わせて、旋回スクロール2を挟むよう設けられる一対の固定スクロール5と、(c)旋回スクロールベース18の周方向複数箇所に設けられ、旋回スクロールベース18が旋回軸受29を介して保持される偏心軸部8を同期して回転させることで、固定スクロール5に対し旋回スクロール2を旋回させる複数のクランク軸3と、を備えるのであれば、その他の構成は適宜に変更可能である。
【0103】
たとえば、前記実施例において、固定スクロール5とハウジング4とを一体形成してもよい。具体的には、上板11と上側の固定スクロール5とを一体形成し、下板12と下側の固定スクロール5とを一体形成してもよい。
【0104】
また、前記実施例において、旋回スクロールベース18の外周部に、冷却用のフィンを設けてもよい。たとえば、旋回スクロールベース18の外周面に、周方向等間隔で外方へ延出するフィンを設けてもよい。この際、フィンは、旋回スクロールベース18に一体形成してもよいし、旋回スクロールベース18の外周部に重ね合わされて一体化されてもよい。後者の場合、旋回スクロールベース18とフィンとの密着性を向上するために、両者の間に放熱シートを介在させてもよい。旋回スクロールベース18にフィンを設けておくことで、旋回スクロール2が旋回した際には、旋回運動により外気との強制対流熱伝達が発生し、旋回スクロール2の冷却が促進される。
【0105】
また、旋回スクロールベース18の外周部に、適宜の溝(たとえば旋回スクロールベース18の厚さ方向に離隔すると共にそれぞれ旋回スクロールベース18の周方向へ延出して矩形状溝)を形成することで、フィンと同様の作用効果を持たせてもよい。旋回スクロールベース18の外周部に多数の溝を周方向に沿って設けることで、伝熱面積を増加して、効果的に空冷を図ることができる。また、矩形状溝とすることで、強度低下も少なく、冷却空気の流れが軸方向ではなく軸と直角方向の流れとなるので、溝に対する空気の流れを阻害することなく、旋回スクロール2の空冷を効率よく行うこともできる。
【0106】
また、前記実施例において、固定スクロール5を、特に端板20において、空冷または水冷してもよい。たとえば、固定スクロール5の端板20には、固定ラップ50とは逆側の面またはこれに重ね合わされる部材との間で、通水部を形成するジャケット材を設け、その通水部に水を流通されてもよい。
【0107】
また、前記実施例において、旋回スクロールベース18に旋回スクロール本体17を取り付けた旋回スクロール2を平面視でみた場合、旋回スクロール2の理想重心位置と、旋回スクロール本体17の旋回ラップ6の重心位置とが若干異なる場合、旋回スクロールベース18に適宜のバランス調整用の余肉を設けて、旋回スクロール2の重心位置を調整してもよい。つまり、旋回スクロール本体17の重心の位置を、旋回スクロールベース18の側で調整することができる。しかも、旋回スクロールベース18の外形を拡大することなく、旋回スクロール2全体のバランス取りが可能となる。なお、旋回スクロールベース18に設けた余肉部に部品コードを表示すれば、部品管理も容易となる。
【0108】
また、前記実施例において、旋回ラップ6のチップシール21、固定ラップ50のチップシール51、および外周ラップ52の外部シール52Aの内、いずれか一以上のシールは、その設置を省略してもよい。その場合でも、ハウジング4に対する固定スクロール5の着脱や、旋回スクロールベース18に対する旋回スクロール本体17の着脱が容易であるから、内部のメンテナンスを容易に行うことができる。従って、部品の表面処理や素材への対応、異物の噛み込みの解消、内部の清掃などを容易に行うことができる。
【0109】
また、前記実施例では、ハウジング4は、平面視において、略矩形状に形成されたが、これに限らず、円形状、三角形状、その他の多角形状とされてもよい。
【0110】
また、前記実施例では、ハウジング4の収容穴7にフランジ15を設けて、そのフランジ15に固定スクロール5の端板20の外周部を重ね合わせて取り付けたが、フランジ15の設置を省略して、ハウジング4の上下面(上板11の上面、下板12の下面)に固定スクロール5の端板20の外周部を重ね合わせて取り付けるようにしてもよい。その場合も、ボルト53などを用いて、ハウジング4に対し固定スクロール5を着脱可能に構成しておけばよい。
【0111】
また、前記実施例では、クランク軸3の本数を三本としたが、四本以上とすることもできる。その場合も、その内の一本を駆動クランク軸3Aとし、残りを従動クランク軸3Bとして、回転同期機構45を介して同期回転させるのがよい。
【0112】
また、前記実施例において、旋回スクロールベース18の軸受穴33に、円筒状のガイドリングをはめ込んでもよい。その場合、円環状の付勢材57は、偏心軸部8の外輪と旋回スクロールベース18の軸受穴33との隙間に設置されることに代えて、偏心軸部8の外輪とガイドリングの内穴との隙間に設置される。このようにして、旋回スクロール2とクランク軸3との径方向の位置調整を図ることができる。
【0113】
さらに、前記実施例において、偏心軸部8を保持する軸受として、複数の旋回軸受29を備えたが、この旋回軸受29同士は、端面同士を重ね合わされる以外に、端面間にアジャスタを介して重ね合わされてもよい。アジャスタは、たとえば、円筒状に形成され、外輪に配置される。このようにして、旋回スクロール2とクランク軸3との軸方向の位置調整を図ることができる。同様に、旋回軸受29が一つの場合でも、アジャスタを用いて、旋回スクロール2とクランク軸3との軸方向の位置調整を図ることができる。
基板部の両面に渦巻き状の旋回ラップが設けられた旋回スクロール本体が、旋回スクロールベースの片面から中央部の穴に着脱可能に取り付けられて構成される旋回スクロールと、
端板の片面に渦巻き状の固定ラップが設けられ、この固定ラップを前記旋回ラップと噛み合わせて、前記旋回スクロールを挟むよう設けられる一対の固定スクロールと、
前記旋回スクロールベースの周方向複数箇所に設けられ、前記旋回スクロールベースが軸受を介して保持される偏心軸部を同期して回転させることで、前記固定スクロールに対し前記旋回スクロールを旋回させる複数のクランク軸と
を備えることを特徴とするスクロール流体機械。
前記複数のクランク軸として、供給動力または回収動力にて駆動される駆動クランク軸と、この駆動クランク軸と回転同期機構を介して同期回転する従動クランク軸とを備え、
前記旋回スクロールベースに対する前記旋回スクロール本体の着脱方向と逆側に、前記回転同期機構が設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクロール流体機械。
第一の留めナットと前記第一段部とにより挟み込まれ、前記一方の主軸部を保持する軸受の外輪は、前記固定スクロールまたはこれと一体の部材に固定され、前記偏心軸部を保持する軸受の内輪は、偏心軸部が圧入された
第二の留めナットと前記第二段部とにより挟み込まれ、前記偏心軸部を保持する軸受の外輪は、軸方向に位置決めされると共に、径方向には前記旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に円環状の付勢材を介して取り付けられることを特徴とする請求項11に記載のスクロール流体機械である。
、留めナットで段部に押し付けられて固定される。これにより、各軸受を各軸部に確実に固定することができる。また、一方の主軸部を保持する軸受の外輪は、固定スクロールまたはこれと一体の部材に固定されるが、偏心軸部を保持する軸受の外輪は、旋回スクロールベースに対し軸方向には位置決めされるが径方向には位置決めされることなく、旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に円環状の付勢材を介して取り付けられる。全てのクランク軸の偏心軸部において、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間に、円環状の付勢材を設けておくことで、旋回スクロールの旋回時に、クランク軸に対し旋回スクロールが遠心力により振れても、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間が埋まるのを抑制して、固定ラップと旋回ラップとの側面間の隙間を所望に保つことができる。また、軸受の外輪と旋回スクロールベースの軸受穴との隙間が完全に埋まるとしても、付勢材の作用により衝撃を緩和して、各ラップの破損を防止することができる。