【0042】
また、好ましくは、本発明の方法は、EBを、赤血球、網状赤血球、除核細胞又はそれらの混合物に分化させるためのものであり、当該方法は;
EBを細胞培養培地中で、15〜25日、特に20日間培養する第一の工程、ここで当該細胞培養培地は、
8〜12 μg/mlの濃度のインスリン;
425〜475 μg/mlの濃度のトランスフェリン;
3%〜7%の濃度の血漿;
1.5 Ul/ml〜2.5 Ul/mlの濃度のヘパリン;
80 ng/ml〜120 ng/mlの濃度のSCF;
80 ng/ml〜120 ng/mlの濃度のTPO;
80 ng/ml〜120 ng/mlの濃度のFLT3リガンド;
8 ng/ml〜12 ng/mlの濃度のBMP4;
4 ng/ml〜6 ng/mlの濃度のVEGF-A165;
4 ng/ml〜6 ng/mlの濃度のIL-3;
4 ng/ml〜6 ng/mlの濃度のIL-6;
2.5〜3.5 Ul/mlの濃度のEpo;
を含有する;
第一の工程で取得した細胞を剥離して、当該剥離した細胞を細胞培養培地中で、6〜10日、特に8日間培養する第二の工程、ここで当該細胞培養培地は:
8〜12 μg/mlの濃度のインスリン;
425〜475 μg/mlの濃度のトランスフェリン;
8%〜12%の濃度の血漿;
2.5 Ul/ml〜3.5 Ul/mlの濃度のヘパリン;
80 ng/ml〜120 ng/mlの濃度のSCF;
4 ng/ml〜6 ng/mlの濃度のIL-3;
2.5〜3.5 Ul/mlの濃度のEpo;
を含有する;
第二の工程で取得した細胞を細胞培養培地中で、2〜4日、特に3日間培養する第三の工程、ここで当該細胞培養培地は:
8〜12 μg/mlの濃度のインスリン;
425〜475 μg/mlの濃度のトランスフェリン;
8%〜12%の濃度の血漿;
2.5 Ul/ml〜3.5 Ul/mlの濃度のヘパリン;
80 ng/ml〜120 ng/mlの濃度のSCF;
2.5〜3.5 Ul/mlの濃度のEpo;
を含有する;
第三の工程で取得した細胞を細胞培養培地中で、2〜4日、特に3日間培養する第四の工程、ここで当該細胞培養培地は:
8〜12 μg/mlの濃度のインスリン;
425〜475 μg/mlの濃度のトランスフェリン;
8%〜12%の濃度の血漿;
2.5 Ul/ml〜3.5 Ul/mlの濃度のヘパリン;
2.5〜3.5 Ul/mlの濃度のEpo;
を含有する;
第四の工程で取得した細胞を、8〜12日、特に10日間培養する第五の工程、ここで当該培養が、(i):
8〜12 μg/mlの濃度のインスリン;
425〜475 μg/mlの濃度のトランスフェリン;
8%〜12%の濃度の血漿;
2.5 Ul/ml〜3.5 Ul/mlの濃度のヘパリン;
2.5〜3.5 Ul/mlの濃度のEpo;
を含有する細胞培地中で、又は(ii)接着性ストローマ層上で実施される;
そして赤血球、網状赤血球、除核細胞、又はそれらの混合物を取得する工程;
を含む。
【実施例】
【0043】
実施例1:造血幹細胞から網状赤血球のインビトロ生産
材料及び方法
細胞培養
G-CSFで動員した正常末梢血(白血球除去輸血(LK)細胞)を、インフォームドコンセントを経た健康なドナーから取得した。Mini-MACSカラム(Miltenyi Biotech, Bergisch Glodbach, Germany)を用いた超磁性マイクロビーズ選択(supermagnetic microbead selection)により、CD34+細胞を単離した(純度94 ± 3 %)。
【0044】
細胞を、2 mM L-グルタミン(Invitrogen, Cergy-Pontoise, France)、330 μg/ml鉄飽和トランスフェリン、10 μg/mlインスリン(Sigma, Saint-Quentin Fallavier , France)、2 lU/mlヘパリンChoay (Sanofi, France)及び5%溶媒/界面活性剤ウイルス不活性化(S/D)血漿を添加したIMDM (Iscove modified Dulbecco's medium, Biochrom, Germany)中で培養した。増幅の手順は、3つの工程を含む。第一の工程(0〜7日)において、10
4/ml CD34+細胞を、10
-6 M ヒドロコルチゾン(HC) (Sigma)、100 ng/ml SCF (Amgen, Thousand Oaks, CAから拝受), 5 ng/ml IL-3 (R&D Systems, Abingdon, UK.)及び3 lU/ml Epo (Eprex, kindly provided by Janssen-Cilag, Issy-les-Moulineaux, France)の存在下で培養した。4日目に、細胞培養物を、HC、SCF、IL-3及びEpoを含有する4倍の体積の新鮮な培地で希釈した。第二の工程(3〜4日)において、細胞を、SCF及びEPOを添加した新鮮な培地中に、10
5/mlで再懸濁した。第三の工程(18〜21日目)において、細胞をEpoのみ添加した新鮮な培地中で培養した。細胞をカウントして、11日目及び14日目に、それぞれ5x10
5及び1.5x10
6細胞/mlに調整した。当該培養物を、37℃、5%CO2大気下で維持し、その結果は、プレーティング後の増幅の実際の率を単位として表現された。
【0045】
形態学的分析のため、細胞をMay-Grunwald-Giemsa及びニューメチレンブルー試薬(Sigma)で染色し、一方、除核細胞は、XE2100自動装置(Sysmex, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)をを使用して、MCV (fL)、MCHC (%)及びMCH (pg/細胞)を含む、標準的な形態パラメーターにおいてモニタリングした。
【0046】
フローサイトメトリー
細胞を、非コンジュゲート又はフルオレセインイソチオシアネート(FITC)若しくはフィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗体で標識した。CD71-FITC及びCD36-FITC (Becton Dickinson, San Jose, CA)、グリコホリンA-PE、CD45-FITC及びCD34-PE (Beckman Coulter, Marseille, France)に対する抗体を、フェのタイピングに使用した。一次ヒト抗RhD抗体及び二次ヤギPE-コンジュゲート抗ヒト抗体(Beckman Coulter)を、RhD判定に採用した。解析は、Cell Questソフトウエアを使用して、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)上で実施した。
【0047】
変形能の測定
培養18日目に取得した網状赤血球を白血球除去フィルター(Leucolab LCG2, Macopharma, Tourcoing, France)を通して除核細胞から分離し、そして除核声望を、エクタサイトメトリー、レーザー回折法により排除した。エクタサイトメーター(Technicon, Bayer Corp., Diagnostics Division, Tarrytown, NY)において、細胞を4%ポリビニルピロリドン溶液に懸濁し、そして漸増浸透圧勾配(60〜450 mOsm/Kg)に晒した。細胞のレーザー回折パターンの変化が記録された。この光学的測定は、変形能指数(D)と呼ばれるシグナルを生じる。DI曲線の解析は、170 dynes/cm2のせん断応力を定常的に加えた浸透圧の関数として、細胞膜の動的な変形能の尺度を提供する。DImaxは任意の単位で表現され、DIの最大値として定義され、通常、赤血球の平均の表面積に関連する。Ominは、低張条件でDIの最小値が取得される浸透圧を定義し、初期の表面積/体積の比率に依存する。OHyperは、DIが、前記曲線の高張領域におけるDImaxの値の半分に低下する浸透圧であり、MCHCに反比例的に関連する。
【0048】
酵素活性
白血球を枯渇させた後に得られる赤血球にディジトニンを加え(0.2%)、Drabkin's試薬を使用して、分光光度計によりHbを定量した。
Enzyme activitiesグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ及びピルビン酸キナーゼの活性は、340nmでのNADPH吸光度の増大の率を測定することにより判定された。Synchron CX4 Beckmanスペクトロフォトメーター並びにRandox Laboratories (Crumlin, UK)及びRoche Diagnostics製の試薬が使用された。結果は、Hbのグラムあたりで表された。
【0049】
Hb解析
Hbフラクションを分離し、イオン交換高性能液体クロマトグラフィーを使用して定量した。解析は、説明書に従い、洗浄した細胞ペレットにつき、Bio-Rad Variant IIデュアルプログラム(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)を使用して実施された。
【0050】
溶液中の酸素結合平衡
酸素結合曲線は、1cmパス長キュベットを取り付けた70mlトノメーター中で、トノメトリーにより判定された。Cary 50分光光度計を用いて特別な測定が実施され、温度Peltierモジュールを用いて調整された。解析は、140 mM NaCl及び 2 mMグルコースを含有する50 mM bis-Tris (pH 7.2)中で実施された。窒素下で激しく脱酸素を行い、赤血球細胞を、純粋酸素をHamiltonシリンジでゴム栓越しに既定体積注入して様々な酸素分圧にしたトノメーターで平衡化した。飽和度は、
ソフトウエアScientist (Micromath Scientific Software, Salt Lake City, UT)の最小二乗フィッティングルーティンを使用して、RBC懸濁物の完全な無酸素及び有酸素のスペクトルの線形結合として、可視及びSoret領域における吸収スペクトルのシミュレーションにより推定された。
【0051】
結果
1.1.造血幹細胞の網状赤血球への分化
健康なドナーの末梢血をG-CSFで動員したもの(LK細胞)に由来するCD34+HSCから出発して、5%溶媒/界面活性剤ウイルス不活性化血漿(S/D血漿)の存在下での三段階プロトコールが設計された。第一に、細胞の増殖及び赤血球系列へのコミットメントを、7日間、SCF、IL-3及びEpoを用いて誘導した。第二に、当該赤血球系列の増殖を、3〜4日間、SCF及びEpoを用いて増幅させた。第三の工程で、当該細胞を、18〜21日目まで、Epoのみを用いて最後まで成熟するまで維持した。18日目までには平均66,200 ± 24,000倍にまでCD34+細胞が増幅してプラトーに達し、そして18日目までには、74±5%が除核細胞となった。この段階で、全ての細胞が網状赤血球の特徴を示すことが、ポリメチン色素(XE2100-Sysmex)及びのフロー解析、及びニューブルーメチレン染色により評価された。平均細胞体積(MCV)は141±6fLで、平均粒子ヘモグロビン濃度(MCHC)が30+−%で、そして平均細胞ヘモグロビン(MCH)は42 ± 1 pgであった。この集団の免疫学的特徴は、グリコホリンA (GPA)、CD71 (トランスフェリン受容体)及びCD36 (血小板糖タンパク質IV)を、それぞれ99±1%、44±10%及び11±4%で発現しており、細胞の網状赤血球プロフィールが確認された。
【0052】
1.2.造血幹細胞から生じた網状赤血球の機能解析
正確な機能解析を実施するために、培養18日目に取得した網状赤血球を、白血球除去フィルター(Leucolab LCG, Macopharma)を通過させて、有核細胞から分離した。これらの網状赤血球はグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)を65±3単位、そしてピルビン酸キナーゼ(PK)をヘモグロビン(Hb)グラムあたり94±7単位有しており、未成熟な均一赤血球細胞集団の性質を維持していた(Jansen et al. Am J Hematol 1985; 20, 203-215)。これは、それらの細胞がグルタチオンを減少させ、ATPレベルを維持することにより、2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)の正常なレベルを確保することを示唆する。
【0053】
網状赤血球の膜の変形能は、赤血球の伸長を測定する浸透圧スキャンエクタサイトメトリー(osmotic scan ektacytometry)により解析された。この手法は変形能指数(DI)というシグナルを生じ、最大伸長(DImax)は、細胞の平均表面積に関連する(Clark et al. Blood 1983; 61 , 899-910 et Mohandas et al. J Clin Invest 1980; 66, 563-573)。より大きい平均体積を有する網状赤血球のDImax(0.63)は、予想レベルに対応し、そしてこれらの細胞の通常の変形能が確認された(
図3)。80 mOsm/kg未満のOminは、網状赤血球の表面積/体積比率の増大、及び浸透圧脆弱性の低下を示し、一方、Ohyperが通常の値(362 mOsm/kg)であることにより、正常な水和(hydratation)が確認された。これらのデータは、培養網状赤血球において、レオロジー特性が維持されていたことを示す。
【0054】
インビトロで作製した網状赤血球は、ヘモグロビンA(HbA)を含有しており(96 ± 0.1 %)、これは、これらの条件下で正常なHb合成が行われていることを示す(
図4)。
【0055】
トノメトリーによる酸素平衡測定で、網状赤血球の懸濁物は、天然のRBCの懸濁物と同様に酸素を結合及び放出することが示された。当該網状赤血球の酸素親和性(P50)は28mmHgであって、一方、天然のRBCは26 ± 1 mm Hgであり(Kister et al. J Biol Chem 1987; 262, 12085-12091 et Girard et al. Respir Physiol 1987; 68, 227-238)、また、Hill係数(n50)は、いずれのサンプルも2.4 ± 0.1であった。
図5は、MWCモデルパラメーターを使用した酸素結合曲線(Girard et al. Respir Physiol 1987; 68, 227-238)からシミュレーションした、様々なDPG/Hb4比(左から右: <0.2; 通常の比率〜1;2.4)での酸素結合等温線を表す。これらの結果は、前記網状赤血球中の2,3-DPGのレベルは、天然のRBC解糖率で観察されるように、Hbテトラマー濃度に恐らく近いことを示す。2,3-DPGの枯渇は、正常な濃度がP50を半分に減少させるのに対して、10mMグルコースでRBCをより長くインキュベーションした後の2,3-DPGの増大は、P50を約60%上昇させる。
【0056】
実施例2:胚性幹細胞からの赤血球のインビトロ生産
材料及び方法
未分化hESC培養
hES細胞株H1 (National Institute of Health [NIH] code WA01, passages 23-45)を、20%ノックアウト血清代替物(Invitrogen)及び組換えヒト(rhu)FGF2 (10 ng/mL; Peprotech, Neuilly-sur-Seine, France)を添加したノックアウトDulbecco's modified Eagle's medium (DMEM, Invitrogen, Cergy Pontoise, France)中、マイトマイシン(20 g/mL; Sigma, Saint- Quentin Fallavier, France)で処理した初代マウス胚性線維芽(MEF)フィーダー細胞上で、1週間ごとに機械的にパッセージして、未分化状態で維持した。
【0057】
胚様体(EB)形成
初日、未分化hESCをコラゲナーゼIV(1 mg/mL; Invitrogen)で処理し、低接着プレートNunc, Dutscher, Brumath, France)に移して、分化培地(20%非加熱不活性化ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、1mM L-グルタミン、及び0.1mMβ-メルカプトエタノール(Invitrogen)を添加したノックアウトDMEM)中で一昼夜インキュベーションして、胚様体(EB)を形成させた。翌日、EBを、450 g/mL鉄飽和ヒトトランスフェリン(Sigma)、10 g/mLインスリン(Sigma)、5% ヒト血漿及び2 U/mLヘパリンを含有し、SCF、TPO、FLT3リガンド(100ng/mL)、ヒト組換え骨形成タンパク質4 (BMP4; 10ng/mL)ヒト組換え VEGF-A165、IL-3、IL-6(5ng/mL) (Peprotech)及びEpo (3 U/mL) (Eprex, Janssen-Cilag, Franceより拝受)が存在する液体培養培地(LCM) (IMDM-glutamax, Biochrom, Berlin, Germany) (以下EB培地と呼称する)中に懸濁した。EBを加湿5%CO2大気中、37℃で20日間培養し、2、3日ごとに培地及びサイトカインを交換した。コラゲナーゼB(0.4 U/mL; Roche Diagnostics, Laval, QC, Canada)で37℃ウォーターバス中、30分間細胞をインキュベーションすることにより単一の細胞に解離させ、細胞解離緩衝液(Invitrogen)で10分間37℃ウォーターバス中でインキュベーションし、そして、慎重にピペッティングして、70μmメッシュに通した。
【0058】
cRBCの作製
0日〜8日:解離させたEBをカウントし、そして10%ヒト血漿及び3U/mLヘパリンを含有し、SCF (100ng/mL)、IL-3 (5ng/mL)及びEpo (3 U/mL)が存在するLCM中に1x10
6細胞/mLの密度で播種した。1日目、非接着(NA)細胞(4x10
5/mL)と接着細胞を(10
6細胞/mL)、同一の培地及びサイトカイン中で別個に播種し、8日間培養した。4日目、細胞培養培地の4倍の体積のSCF、IL-3及びEpoを含有する新鮮な培地を添加した。8日〜11日目、細胞を3x10
5 (NA)又は10
5 (AD)細胞/mLの密度で懸濁し、SCF及びEpoを添加した新鮮な培地中で培養した。11日〜15日目:細胞を1x10
6細胞/mLの密度で懸濁し(NA及びAD細胞)、Epoを添加した新鮮な培地中で培養した。15日〜25日目:NA及びAD細胞を、10%ヒト血漿及びEpoを含有するLCM中に2x10
6細胞/mLで懸濁し、又は接着性ストローマ層上で共培養した。培養は、5%CO2大気中、37℃で行われた。
【0059】
ストローマ細胞
接着細胞層の供給源として、
(i)MS-5ストローマ細胞株、(ii)10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したαMEM(Invitrogen)中で正常成人骨髄から樹立した間葉系ストローマ細胞(MSC) (Prockop Science 1997; 276, 71 -74)、及び(iii)20% FCSを含有するIMDM-glutamax中で、CD34+骨髄細胞を、SCF (50ng/mL)、FLT3-リガンド(30ng/mL)及びTPO (15ng/mL)の存在下で10日間、そしてSCF (30ng/mL)、IL-3 (30ng/mL)及びM-CSF (30ng/mL)の存在下で1週間培養して樹立したマクロファージ由来のストローマ細胞の3つが評価された。CD14及びHLA-DR発現を確認するために、接着性細胞のFACS染色が行われた。
【0060】
半固体培養アッセイ
BFU-E、CFU-E及びCFU-GM前駆細胞のメチルセルロース培養を試験した。解離したEBの濃度は1x10
5細胞/mLで、コロニーは培養4日及び14日に評点された。
【0061】
未分化hESC、hESC、EB及び分化細胞のフローサイトメトリー解析
細胞は0.1%BSAを含有するPBS中で調製され、モノクローナル抗体(mAb)のカクテルで標識された。サンプルを、CellQuest収集ソフトウエア(Becton Dickinson, San Jose, CA, USA)を有するFACSCaliburフローサイトメーターを用いて分析した。未分化hESC、回収された2日〜20日の分散されたEB及び分化の過程の赤血球系細胞のフローサイトメトリー解析のために、以下の抗体:SSEA4-PE (フィコエリトリン)及びSSEA1 -PE (Clinisciences, Montrouge, France); TRA-1-60、TRA-1 -81、ヤギ抗マウスIgM-PE及びヤギ抗マウスIgG-PE (Chemicon, Saint-Quentin enYvelines, France); CD34-PE、CD45-PE、CD45-PC7、CD117-PE、CD71-FITC、CD36-FITC及びCD235a-PE (グリコホリンA) (Beckman Coulter- Immunotech, Marseille, France); CD133-PE (Miltenyi Biotech, Glodbach, Germany)が使用された。生存細胞は解析用に選択され、正の染色及びバックグラウンドの閾値を確立するため、アイソタイプがマッチする適切なコントロールmAbによる染色が使用された。
【0062】
クロマトグラフィー及び質量分析によるcRBCのヘモグロビン組成の測定
様々なヘモグロビンフラクションのパーセンテージが、Bio-Rad Variant II Hb analyzer (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用いたCE-HPLCにより測定された。培養D15及びD25にhES細胞から取得したcRBC中に含有される異なるグロビン鎖フラクションの分離は、逆相液体クロマトグラフィー(RP-LC)及び分光分析により行われた。RP-LC解析は、C4 Uptisphere (5μmシリカビーズ;平均孔サイズ300オングストローム) (Interchim, Montlugon, France) (4.6x250 mm)上で実施された。溶出は、2つの溶媒系(A: 0.3% TFA (トリフルオロ酢酸)中10% CH3CN (アセトニトリル)、及びB: 0.3% TFA中70% CH3CN)により行われた。異なるRP-LCピークの積分は、それぞれ単独のグロビン鎖フラクションの面積のパーセンテージを決定することを可能にした。それらの特定及び同定は、グロビン鎖の分離及び回収後、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)により実施された。結果は、ヒトCD34+臍帯血細胞から作製したcRBCを用いて得たデータと比較された。
【0063】
cRBCのヘモグロビンの機能性
ヘモグロビンと一酸化炭素との結合は、4x10mm光学キュベット(透過光4mm、レーザービーム10mm)を使用する閃光光分解により試験された。端的には、Hbテトラマーに結合するCOのキネティクスが、532nmでの10nsパルスによるリガンドの光解離の後、436nmで解析された(Marden et al. Biochemistry 1988; 27, 1659-1664)。RBCは、低張緩衝溶液中、氷上で30分置いて溶解させられた。15,000xgで遠心分離した後、Hbを含有する上澄を膜及び細胞デブリから抜き取り、当該HbサンプルにIHP(イノシトールへキサリン酸1mM)を添加した。データのシミュレーションは、Scientist (Micromath)の非線形最小二乗プログラムを使用して実施された。
【0064】
結果
2.1.赤血球系コミットメント用に調整されたhESCのhEBへの分化
EB用の培養培地の確立
赤血球の分化経路は、非常に早期に誘導及び刺激された。一方、BMP4の添加は必要不可欠で(Chadwick et al. Blood 2003; 102, 906-915)、CEGF-A165も同様であり(Cerdan et al. Blood 2004; 103, 2504-2512)、8つの異なる実験が、他の2つのパラメーター、サイトカインおよび血清の種類の本質的機能を試験するために実施された。これらの実験を実施した後、EB用の培養培地は、確定した(EB培地と呼称される)調整赤血球系コミットメントであった。当該培地は5%のプールされたヒト血漿、高濃度のトランスフェリン(450 pg/mL)、並びに8つのサイトカインSCF、TPO、FLT3リガンド(100 ng/mL)、組換えヒトBMP4 (10 ng/mL)、組換えヒトVEGF-A165、IL-3、IL-6 (5 ng/mL)及びEpo (3 U/mL)のカクテルを含有する。以下に記載するように、これらの培養条件は、最大の数の成熟除核RBCを最終的に取得することを可能とする。
【0065】
2.2.hEBの赤血球系潜在力(erythroid potential)の判定
第一に、最大の赤血球系潜在力を有するhEBの分化段階を同定した。培養2日目と20日目の間のhEBの分化の動態、(1)フローサイトメトリーによる造血及び赤血球生産の特異的マーカーの発現、並びに(2)赤血球系前駆体の形成が解析された。分化の前、hESCは未分化細胞に特異的なマーカーを高レベルで発現しており、造血マーカーのレベルは低く、又は発現していない。これらの未分化細胞のマーカーは13日目まで漸進的に低下し、20日目まで僅かに陽性を維持した。CD34は2〜20日にかけて発現し、9日〜13日でピークとなった。CD45は、6日〜20日にかけて発現し、13日でピークとなった(
図7)。興味深いことに、トランスフェリン受容体CD71は培養期間中発言を持続し、6〜20日にかけて高レベルで発現した。赤血球系マーカーのCD36及びCD235aは、13日以降に弱く発現していた(
図8)。15日〜20日にかけて、hEBは、試験された造血及び赤血球系マーカー: CD45、CD34、CD71、CD36及びCD235aを顕著に発現していた。一方、CFCの数は15日で僅かにピークとなるが低調を維持し、これは、hEBのコロニー形成能力(clonogenic potential)が低いことを示す(Figure 7)。これらの結果から、赤血球系列への分化は、培養15〜20日のhEBを使用して行われた。
【0066】
2.3.hEBのcRBCへの分化/成熟-cRBC作製プロトコール
発明者らは、10%ヒト血漿及び、SCF、IL-3及びEpoをベースとする進化したサイトカインのカクテルが存在する液体培地中で培養する工程からなる、単純且つ最適な培養条件を開発した(
図6)。15日目以降の最後の相において、造血を支持することが知られている3つの異なるストローマ:マウス由来MS5、ヒト由来マクロファージ及び間葉系幹細胞(MSC)と、ストローマフリー条件の、除核に対する影響が試験された。培養15日〜20日のhEBが解離され、再懸濁され、赤芽球の分化/成熟用の液体培養プロトコールに従い培養された。一日目、非接着(NA)及び接着(AD)の2種類の細胞が区別でき、それぞれ全細胞の10%及び90%を占める。これらの2種類の細胞は、同じプロトコールを使用して並行して培養された。赤血球の成熟は、MGG染色後の細胞の形態、及びフローサイトメトリーにより決定される赤血球系膜抗原の発現に従い、通常評価された。
【0067】
2.4.15日目又は20日目から開始する成熟除核cRBCの生産
培養15日目又は20日目のhEBの赤血球系コミットメントは、液体培養後4日で終了し、95%を超える赤め球が生産された。最終分化/成熟は漸進的に達成され、11日目で除核細胞は3±2%であったのが、15日目で17±4%、18日目で31±8%、そして21日目で48±9%であった。25日目の培養終了時点で、58±2%が完全に除核されたRBCであった(
図9)。除核のレベルは、培養された細胞(NA又はAD)、培養条件(ストローマの有無)、又はストローマの性状(MS5、MSC又はマクロファージ)に拘らず全く同等であった。培養15日目又は20日目のhEBから作製した赤血球系細胞はcRBCを生産することが出来、「除核窓細胞(EWC)」と呼ばれた。これらの液体培養相の過程での唯一の顕著な相異は、NA細胞の増幅がAD細胞よりも顕著であったことである。(NAが24〜61倍、ADが4〜5倍)。故に、10
6個のhEB由来の細胞から出発して、144x10
6個、又は82x10
6個のcRBCが生産された。
【0068】
2.5.EWCから生産されたcRBCの解析-成熟cRBCの膜マーカー
生産されたcRBCの膜抗原のフローサイトメトリー解析を、それらの成熟の程度を試験するために行った。培養の終了時点で、全てのcRBCは、CD235a及びCD71を強力に発現していた。CD36の発現は細胞の成熟の進行に伴い低下し(11日目で5%±1%、25日目で7±3%)、一方、RhD抗原の発現は80%以上の細胞で亢進が認められ、cRBCの膜が高いレベルで成熟していることが確認された(
図10)。
【0069】
cRBCのサイズ
液体培養の終わりの25日目に、顕微鏡でcRBCのサイズを測定し、そして末梢血から採取したコントロール成人RBCと比較した。ストローマを用に培養したもの、又はMS5細胞、MSC又はマクロファージ上で共培養した後のものにおいて、cRBCのサイズは同等であり、平均の直径は10μmであった(
図11)。
【0070】
2.7.cRBCのヘモグロビンの解析
cRBCにより合成されたヘモグロビンの種類を解析するため、逆相HPLC及び質量分析を、HPLCによるテトラマーヘモグロビンの同定と組み合わせて、グロビン鎖の試験を行った。
【0071】
RP-LC及び質量分析によるcRBC中のグロビン鎖の同定及び定量
RP-LCによるグロビン鎖の分離により、cRBCのヘモグロビン生産の定量が可能となった:βは1〜5%、γ-Gは19〜29%、αは36〜43%、そしてγ-Aは11〜21%であった。異なる実験において強度が異なる(0〜15%未満で変動)2つの追加のピークも観察され、それらは胚性の鎖であるε及びζに対応した。ゆえに、胎性の鎖の相当に支配的な合成が認められ(35〜40%)、成体の鎖の生産は僅かで(2%)、そして胚性の鎖の合成は変動的で(10%未満)、約40%がα鎖であった。これらの結果は、RP-LCにより溶出したフラクションの質量分析による同定により確認され、臍帯血由来CD34+HSC由来のcRBCで取得されるデータと同一であった(
図12及び13)。
【0072】
CE-HPLCにより合成されたヘモグロビンの研究
CE-HPLCによるテトラマーHbの解析は、HbAが2.5%でHbFが74〜80%であることを示し、このプロフィールは、臍帯血由来CD34+HSC由来のcRBCで取得されるデータと重ね合わせられなかった(
図12及び13)。これらの結果は、RP-LC及び質量分析を使用した当方の知見と一致しており、hESC由来のcRBC中では、最初にテトラマー型の胎性ヘモグロビンが合成されることが実証される。
【0073】
2.8.cRBCヘモグロビンの機能性
cRBCヘモグロビンの機能は、閃光光分解後のリガンド結合キネティクスにより評価された(
図14)。COの光解離後の2つの分子のキネティクスは、ヘモグロビンの機能の敏感な探り針を提供する。故に、2つのヘモグロビンのリガンド結合における第4の状態に対応する2つの相が観察された。早い要素はR状態のテトラマーから生じ、遅い要素はT状態のテトラマーから生じる。高いレベルの光解離において、主要なヘモグロビンは1つ又は2つのリガンドが結合したもので、一方、低いレベルでは、主要なヘモグロビンは、3つのCOがリガンド結合したものである。故に、部分的にリガンド結合した異なるヘモグロビンにおけるアロステリック平衡は、光解離レベルを変化させることにより探られる。正常なHbAのRからTへの遷移は、第二のリガンドのHbテトラマーへの結合の後に起こる。IHP等のアロステリックエフェクターの存在下、切り替えのポイントは後に生じ、内在性のRおよびTの親和性も低下する。cRBC由来のヘモグロビンのCO再結合のキネティクス(
図14)は、cRBC中の大量のHbFの存在を示したHPLC解析の結果から予想されたように、胎性の血液のサンプルとは殆ど一致しなかった。IHPの添加後、RからTへの遷移は、胎性の血液と同等の程度まで、低親和性のテトラマーに代替された(遅いT状態再結合相と同程度)。故に、当該CO閃光光分解実験により、cRBC中のHbFが、生理的条件下だけでなく、強力なアロステリックエフェクターに応答しても動作することが確認された。