【課題】嫌気性消化処理と生物学的処理とを組み合わせた装置全体において各処理を安定的に進めることができ、既存の設備を有効に利用して省スペースで高効率な有機物回収が可能な水処理装置及び水処理方法を提供する。
【解決手段】有機性排水中の沈殿性有機物を固液分離して分離汚泥と分離液とに固液分離する第1の固液分離槽2と、分離液を生物学的処理する反応タンク3と、反応タンク3の流出水を固液分離して処理水を得る第2の固液分離槽4と、第2の固液分離槽4で得られる余剰汚泥を第1の固液分離槽2へ返送する余剰汚泥返送手段7と、分離汚泥を濃縮して汚泥濃度6wt%以上の濃縮汚泥を得る濃縮機5と、濃縮汚泥を水理学的滞留時間18日以下でメタン転換率50%以上に嫌気性消化処理する消化槽6とを備える水処理装置である。
前記消化槽から引き抜いた消化汚泥を脱水して得られる脱水ろ液を嫌気性アンモニア酸化する嫌気性アンモニア酸化装置を更に備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の水処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在提案されているいずれの処理装置及び方法も有機性排水からエネルギーとして有用なメタンを効率良く回収させるために、嫌気性消化処理工程へ送られる汚泥中の有機物濃度を高めている。その結果、その汚泥を嫌気性消化するための消化槽が大きくなるという問題がある。
【0005】
また、嫌気性消化処理工程側に有機物が濃縮されすぎた場合、生物学的処理の有機物負荷が小さくなりすぎて、嫌気性消化処理と生物学的処理とを組み合わせた装置全体としての処理安定性が損なわれる場合もある。
【0006】
更には、近年日本では自治体及び国の財政難や景気低迷による税収減、将来に渡っての人口減少のために、公共事業に投入できる資金は限られている。上水道に比べて整備の遅れた下水道設備では、土木躯体は現時点で法定耐用年数を超えておらず、そこに資金を投入して処理設備を高度化する選択肢は現実的には取り得ない。よって、今後は既存の設備を有効に利用でき、より省スペースで高効率な有機物回収が可能な処理設備及び方法の開発が望まれている。
【0007】
上記課題を鑑み、本発明は、嫌気性消化処理と生物学的処理とを組み合わせた装置全体において、各処理を安定的に進めることができ、既存の設備を有効に利用して省スペースで高効率な有機物回収が可能な水処理装置及び水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、汚泥の初期吸着機構と高濃度の汚泥を短時間で嫌気性消化可能な小型消化槽とを組み合わせることで、従来の有機性排水からのメタンガス回収量を増加させるプロセスの保有する課題、即ち、有機性排水からの有機物回収量は増加するが、それを嫌気性消化するための消化槽が従来よりも大きくなってしまうという課題を解決できるとともに、既存の設備を有効に利用でき、省スペースで高効率な有機物回収が可能な水処理装置及び水処理方法が得られることを見いだした。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、有機性排水中の沈殿性有機物を固液分離して分離汚泥と分離液とに固液分離する第1の固液分離槽と、分離液を生物学的処理する反応タンクと、反応タンクの流出水を固液分離して処理水を得る第2の固液分離槽と、第2の固液分離槽で得られる余剰汚泥を第1の固液分離槽へ返送する余剰汚泥返送手段と、分離汚泥を濃縮して汚泥濃度6wt%以上の濃縮汚泥を得る濃縮機と、濃縮汚泥を水理学的滞留時間18日以下でメタン転換率50%以上に嫌気性消化処理する消化槽と、を備える水処理装置が提供される。
【0010】
本発明に係る水処理装置は一実施態様において、余剰汚泥返送手段が、原水としての有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が0.01[kg−汚泥SS/m
3−原水]以上となるように余剰汚泥を返送することを含む。
【0011】
本発明に係る水処理装置は別の一実施態様において、余剰汚泥返送手段が、原水としての有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が1.5[kg−汚泥SS/m
3−原水]以下及び/又は3.0[kg−SS/kg−原水CODcr]以下となるように余剰汚泥を返送することを含む。
【0012】
本発明に係る水処理装置は更に別の一実施態様において、消化槽から引き抜いた消化汚泥を脱水して得られる脱水ろ液を嫌気性アンモニア酸化する嫌気性アンモニア酸化装置を更に備える。
【0013】
本発明に係る水処理装置は更に別の一実施態様において、消化槽から引き抜いた消化汚泥から溶解性リンを回収するリン回収装置を更に備える。
【0014】
本発明は、別の一側面において、生物学的処理と嫌気性消化処理とを組み合わせた水処理方法において、生物学的処理で得られる余剰汚泥を第1の固液分離槽に返送し、有機性排水中の有機物を吸着させるとともに固液分離して分離汚泥と分離液とに固液分離することと、分離汚泥を濃縮して汚泥濃度6wt%以上の濃縮汚泥を得ることと、濃縮汚泥を水理学的滞留時間18日以下でメタン転換率50%以上に嫌気性消化処理することと、分離液を生物学的処理し、該処理後の処理水を固液分離して余剰汚泥と処理水を得ることとを含む水処理方法が提供される。
【0015】
本発明に係る水処理方法は一実施態様において、原水としての有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が0.01[kg−汚泥SS/m
3−原水]以上となるように余剰汚泥を返送することを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、嫌気性消化処理と生物学的処理とを組み合わせた装置全体において各処理を安定的に進めることができ、既存の設備を有効に利用して省スペースで高効率な有機物回収が可能な水処理装置及び水処理方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る水処理装置は、有機性排水中の沈殿性有機物を固液分離して分離汚泥と分離液とに固液分離する第1の固液分離槽2と、分離液を生物学的処理する反応タンク3と、反応タンク3の流出水を固液分離して処理水を得る第2の固液分離槽4と、第2の固液分離槽4で得られる余剰汚泥を第1の固液分離槽2へ返送する余剰汚泥返送手段7と、分離汚泥を濃縮して汚泥濃度6wt%以上の濃縮汚泥を得る濃縮機5と、濃縮汚泥を水理学的滞留時間18日以下でメタン転換率50%以上に嫌気性消化処理する消化槽6とを備える。
【0020】
本実施形態に係る水処理装置に用いられる流入原水としては、下水、屎尿、厨芥などの有機性物質を含有する有機性排水が利用可能である。以下に限定されるものではないが、典型的には、流入原水の水質として生物化学的酸素要求量(BOD)が100〜1000mg/L、化学的酸素要求量(CODcr)が200〜3000mg/L、浮遊物質(SS)が100〜1000mg/L程度の有機性排水が、本実施形態に係る水処理装置に好適に供給される。
【0021】
第1の固液分離槽2としては、例えば最初沈殿池などが好適に利用される。固液分離の手段としては、重力沈降分離、遠心分離、浮上分離、凝集分離、膜分離等が利用可能である。分離効率を向上させるために、傾斜板や汚泥ブランケット層を用いてもよく、凝集剤等を使ってもよい。第1の固液分離槽2で得られた分離液は配管を介して反応タンク3へと送られる。第1の固液分離槽2で得られた分離汚泥は配管を介して濃縮機5へと送られる。
【0022】
反応タンク3は、第1の固液分離槽2で分離された分離液に好気性生物学的処理を行うための装置である。好気性生物学的処理としては、例えば、活性汚泥法(膜分離活性汚泥法、回分式活性汚泥法)、生物膜処理法(固定床型生物膜法、流動床型生物膜法)等を用いた好気性生物学的処理がある。活性汚泥法を用いる場合、第1の固液分離槽2で分離された分離液を活性汚泥と接触させて生物処理する装置が用いられ、標準活性汚泥法、嫌気好気法、循環式硝化脱窒法、ステップ流入式多段硝化脱窒法、A2O法などの従来の水処理方法を利用した装置を配置することができる。反応タンク3で処理された処理水は配管を介して第2の固液分離槽4へと送られる。
【0023】
第2の固液分離槽4としては、例えば最終沈殿池などが好適に利用される。反応タンク3から流入した流入水は第2の固液分離槽4において処理されて、消毒等することにより外部へ排出可能な処理水と分離汚泥とに固液分離される。第2の固液分離槽4の底部には、分離汚泥を抜き出すための余剰汚泥返送手段7が接続されている。余剰汚泥返送手段7は、反応タンク3及び第1の固液分離槽2の上流側に接続されており、第2の固液分離槽4で得られた余剰汚泥が、余剰汚泥返送手段7を介して第1の固液分離槽2の上流側及び反応タンク3へ返送可能である。図示していないが、余剰汚泥を系外へ排出するためのバイパスルートを設けておいてもよい。
【0024】
余剰汚泥返送手段7が第1の固液分離槽2の上流側へ接続されることにより、有機性排水中の有機物を余剰汚泥に吸着させることができるため、第1の固液分離槽2で得られる分離汚泥が持つ単位重量当たりの有機物量を増大させることができる。これにより、反応タンク3での有機物負荷が小さくなるため、反応タンク3の曝気風量を従来よりも小さくすることができ、省エネルギー化に貢献できる。余剰汚泥返送手段7から返送する余剰汚泥の添加量は、必要以上に多くしすぎても有機性排水からの有機物除去効果が高くならない場合がある。逆に、余剰汚泥の返送量を少なくしすぎると、反応タンク3での有機物負荷が小さくなりすぎて、水処理装置全体としての処理安定性が損なわれる場合もある。
【0025】
従って、余剰汚泥返送手段7を介して第1の固液分離槽2へ返送する余剰汚泥の添加量としては、有機性排水の成分によっても異なるが、一般的な下水を処理する場合には、原水としての有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が0.01[kg−汚泥SS/m
3−原水]以上となるように添加することが好ましく、より好ましくは0.05[kg−汚泥SS/m
3−原水]以上となるように添加することが好ましい。一方で、余剰汚泥の添加量を一定以上多くしすぎても、有機性排水中のCODcr除去率に大きな差は見られないことから、原水としての有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が1.5[kg−汚泥SS/m
3−原水]以下、より好ましくは1.0[kg−汚泥SS/m
3−原水]以下、更に好ましくは、0.51[kg−汚泥SS/m
3−原水]以下となるように余剰汚泥を返送することが好ましい。或いは、原水中のCODcrで余剰汚泥量を評価する場合には、3.0[kg−SS/kg−原水CODcr]以下、より好ましくは1.0[kg−SS/kg−原水CODcr]以下、更に好ましくは0.4[kg−SS/kg−原水CODcr]以下となるように返送することが好ましい。余剰汚泥量の混合比率は、0.02[kg−SS/kg−原水CODcr]以上、より好ましくは0.1[kg−SS/kg−原水CODcr]以上となるように返送することが好ましい。
【0026】
余剰汚泥返送手段7による余剰汚泥の供給は、連続的に行ってもよいし、汚泥負荷の高い時間にのみ一次的に余剰汚泥を送るようにしてもよい。連続的且つ定常的に余剰汚泥を添加する場合は、原水としての有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が0.01〜0.6[kg−汚泥SS/m
3−原水]、より好ましくは0.05〜0.2[kg−汚泥SS/m
3−原水]となるように添加することが好ましい。これにより、嫌気性消化処理と生物学的処理とを組み合わせた装置全体において、より安定的且つ効率的に処理を進めることができる。一方、汚泥負荷の高い時間にのみ余剰汚泥を返送する場合には、原水としての有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が0.1〜1.5[kg−汚泥SS/m
3−原水]、より好ましくは0.2〜1.0[kg−汚泥SS/m
3−原水]となるように添加することが好ましい。
【0027】
図1に示す例では、余剰汚泥返送手段7による余剰汚泥が第1の固液分離槽2に直接供給される例が記載されているが、余剰汚泥に有機性排水中の有機物を吸着させるための具体的態様は、
図1に示す例には限定されない。例えば、
図2に示すように、第1の固液分離槽2の前段(上流側)に、混合装置1を配置し、混合装置1において、第2の固液分離槽4から引き抜いた余剰汚泥を有機性排水と混合させてもよい。
【0028】
混合装置1を設ける場合には、混合装置1内での水理学的滞留時間(HRT)を120分以内、より好ましくは60分以内、更に好ましくは30分以内、更に好ましくは5分以内とする。有機性排水と余剰汚泥との混合時間は長くしても余剰汚泥への有機物吸着効果はあまり変わらないため、混合装置1のHRTを短くすることにより混合装置1の装置サイズを小型化することができる。その結果、装置全体としての省スペース化が図れ、装置構成面での効率化が図れる。混合装置1は、
図1の第1の固液分離槽2内に配置し、有機性排水と余剰汚泥との混合が、有機性汚泥と余剰汚泥の混合液を固液分離する第1の固液分離槽2内で行われるようにすることも好ましい。有機物吸着効果と装置小型化の両面を考慮すると、HRTの下限時間は例えば10秒以上、より好ましくは30秒以上とすることが好ましい。
【0029】
混合装置1で用いられる混合方法としては、例えば、攪拌装置による機械攪拌や、空気などを用いた散気板や水中エアレーターを通じた曝気方法、配管や水路を利用する方法、阻流壁を用いた混合方法が利用可能である。装置全体の省スペース化、装置簡略化の点を考慮すると、混合装置1内には、有機性排水と余剰汚泥を混合するための曝気装置は原則設けなくてもよいが、曝気装置を設ける場合には、混合装置1内のDOは、0.1mg/L以上、より好ましくは0.2mg/L以上となるように、混合装置1内への曝気量を調節することが好ましい。これにより、余剰汚泥が活性化して有機物除去能が向上するとともに、りんの発生を抑制できる。
【0030】
一方で、混合装置1では、有機性排水と余剰汚泥とを嫌気性条件下で混合させることも効果がある。嫌気性条件下で混合させることにより、曝気装置などの追加装置が不要となるため、装置全体をより簡略化することができる。余剰汚泥返送手段7の途中に曝気装置(図示せず)を設け、余剰汚泥を予め曝気してから嫌気性条件又は好気性条件下で有機性排水と余剰汚泥とを混合させてもよい。
【0031】
濃縮機5は、第1の固液分離槽2で得られた分離汚泥に対して例えば凝集剤等を添加することによって、濃縮処理する装置である。濃縮機5では、最終的に得られる濃縮汚泥のTS濃度が、消化槽6の処理に適切な6〜12wt%、更に好ましくは7〜10wt%となるように濃縮処理される。濃縮機5では、凝集剤の他に、pH調整剤等の他の薬剤を添加することも勿論可能である。濃縮機5に投入される凝集剤としては、例えばアジミン系凝集剤、アクリルアミド系凝集剤、アクリル酸系凝集剤の有機高分子凝集剤が利用可能であり、ポリ硫酸第二鉄、PAC、硫酸バンド等の無機系凝集剤を併用することも可能である。
【0032】
消化槽6は、濃縮機5で得られた濃縮汚泥を嫌気性消化処理し、メタンガスを発生させる装置である。現在一般的な汚泥の嫌気性消化技術では、供給汚泥のTS濃度は2〜4wt%、高くとも5wt%であるが、本実施形態では、従来よりも高濃度なTS濃度6〜12wt%の汚泥を消化槽6へ導入することで、高濃度の汚泥を小容量で投入でき、小容量の消化槽6から多量の消化ガスを発生させることができる。
【0033】
濃縮汚泥の嫌気性消化は処理温度30〜60℃、HRT(水理学的滞留時間)18日以下、より好ましくは15日以下、更に好ましくは12日以下で処理される。この場合の汚泥のメタン転換率は50%以上である。消化槽6の容量は、一般に、投入汚泥の容量とHRTにより決定される。そのため、本実施形態のようにTS濃度6〜12wt%の汚泥をHRT18日以下で実施可能な消化槽6を配置することにより、TS濃度2〜4wt%程度の汚泥を約30日かけて処理する従来の汚泥消化の消化槽よりも、消化槽6の容積を1/2.5〜1/10程度に縮小できるため、設置スペースを低減でき、システム全体の小型化が図られる。
【0034】
消化槽6で得られた消化汚泥はリン回収装置20へ送られる。リン回収装置20としては、消化槽6で得られた消化汚泥及びその分離水にマグネシウムを添加してMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)の結晶を析出させ、析出したMAPを回収する装置が好適に利用可能である。
【0035】
嫌気性消化に供する有機物量が増加すると、それを嫌気的に分解した際には、これまでよりも多くの溶解性リンが生成される場合がある。嫌気性消化汚泥及び消化液には、多くのアンモニア性窒素とオルトリン酸イオンが含まれているためにMAPを生成しやすい。嫌気性消化汚泥は、後述する脱水機30で脱水されるため、MAPを生成しやすい状況にある消化汚泥を脱水すると、脱水機30にMAPスケールが付着して脱水機30を破損したり、脱水ろ液を水処理設備へ返送する配管でMAPスケールが生成されるなどの問題が発生する。本実施形態に係る水処理装置によれば、消化槽6の後段にリン回収装置20が配置されるため、消化汚泥からMAPスケールを生成する原因となるオルトリン酸イオンを除去することができる。その結果、嫌気性消化に供する有機物量が増加しても、上述のような問題を回避することが可能となる。
【0036】
なお、リン回収装置20として、消化汚泥及びその分離水のリン濃度に応じたカルシウムを加え、pHを調整することにより、HAp(ハイドロキシアパタイト)等のリン酸カルシウムを析出させる装置を用いることもできる。或いは、HAp回収のための装置を後述する脱水機30の後段に配置し、脱水機30で得られる脱水ろ液からHApを回収するようにしてもよい。
【0037】
リン回収装置20でオルトリン酸イオンが除去された処理汚泥は、脱水機30で脱水され、脱水汚泥と脱水ろ液が得られる。脱水機30としては、特に制限されず公知の装置が利用可能である。例えば、フィルタープレス機、遠心分離機、スクリュープレス機、ベルトプレス機、真空脱水機などによって処理汚泥を脱水することができる。なお、リン回収装置20は、消化汚泥中のリン濃度に応じて省略することも可能である。その場合、消化槽6で得られた消化汚泥は、脱水機30で脱水され、そのろ液は嫌気性アンモニア酸化装置40へ供給される。
【0038】
嫌気性アンモニア酸化装置40は、脱水機30から得られた脱水ろ液を嫌気性アンモニア酸化菌を用いて嫌気性アンモニア酸化する装置である。嫌気性アンモニア酸化装置40は、脱水ろ液中に含まれるアンモニア性窒素(NH
4−N)の一部を亜硝酸菌の働きにより、亜硝酸性窒素(NO
2−N)に変換する部分亜硝酸化処理を行うための亜硝酸化槽、亜硝酸化処理液中に含まれる浮遊活性汚泥を沈降分離するための沈降槽及び浮遊活性汚泥分離後の亜硝酸化処理液中のアンモニア性窒素を、嫌気性アンモニア酸化細菌を用いて嫌気的に酸化処理するための嫌気性アンモニア酸化槽を備えることができる。
【0039】
本実施形態に係る水処理装置では、消化槽6へ供給される有機物量が多くなるため、それを嫌気的に分解した際には、これまでよりも多くのアンモニア性窒素が生成される。一般的には、嫌気性消化処理後の汚泥は脱水機30で脱水されるが、脱水ろ液に含まれるアンモニア性窒素が増加すると、水処理設備で処理しなければならないアンモニア性窒素が増加し、硝化に関わる曝気風量が増加して、電気代の増大を招くことになる。
【0040】
本実施形態に係る水処理装置によれば、嫌気性アンモニア酸化装置40が配置されることにより、脱水機30から排出される脱水ろ液中のアンモニア性窒素を嫌気的に除去することが可能となり、水処理設装置の原水へと返送する返送水に含有されるアンモニア性窒素を低減できる。そのため、嫌気性消化処理に供する有機物量が増加して、生成するアンモニア性窒素が増加しても、水処理装置へかかる窒素負荷や処理に必要となる電気エネルギーを増大させずにメタンガスの発生量を増大させることができる。
【0041】
嫌気性アンモニア酸化装置40の後段には、嫌気性アンモニア酸化装置40から得られる処理水を第1の固液分離槽2の上流側へ返送する処理水返送手段8が接続されている。嫌気性アンモニア酸化装置40で処理された処理水を第1の固液分離槽2の上流側へ返送して有機性排水と混合させることにより、有機性排水の有機物濃度に変動が生じた場合においても、処理により適切な濃度に希釈することができるため、装置全体の効率化が図れる。
【0042】
このように、本発明の実施の形態に係る水処理装置及び水処理方法によれば、活性汚泥処理で得られた余剰汚泥を原水(有機性排水)と混合させる余剰汚泥返送手段7と汚泥濃度6〜12wt%もの高濃度の濃縮汚泥を水理学的滞留時間18日以下でメタン転換率50%以上に嫌気性消化処理する消化槽6とを組み合わせることにより、メタンガスの回収量を増大させることができ、消化槽6の容量を小さくすることができる。その結果、有機性排水からの有機物回収量は増加するが、それを嫌気性消化処理するための消化槽が従来よりも大きくなってしまうという課題を解決できる。また、本発明の実施の形態に係る水処理装置及び方法によれば、最初沈殿池、反応タンク、最終沈殿池を有する既存の下水処理施設をより有効に活用することができ、装置導入のための投資コストを抑制できる。これにより、省スペースで高効率な有機物回収が可能な水処理装置及び水処理方法が得られる。
【0043】
(変形例)
図3は
図1の水処理装置の変形例に係る水処理装置の部分概略図を示す。
図3に示す水処理装置では、第2の固液分離槽4から発生する余剰汚泥を供給する配管17が反応タンク3に接続され、反応タンク3で得られた余剰汚泥を返送する余剰汚泥返送手段7が第1の固液分離槽2の上流側に接続される点が、
図1に示す水処理装置と異なる。他は実質的に
図1に示す水処理装置と同様である。
図3に示すように、反応タンク3で十分曝気が行われた後の余剰汚泥を直接余剰汚泥返送手段7を介して第1の固液分離槽2へ返送することにより、余剰汚泥が活性化して有機物除去能が向上するとともにりんの発生が抑制できる。
【0044】
図4に示すように、余剰汚泥返送手段7が返送する余剰汚泥の供給量を制御する制御装置10を更に備えていてもよい。制御装置10は、例えば水処理装置内の各所に配置された、流入水或いは処理水のMLSS濃度、供給流量、CODcr濃度、アンモニア性窒素濃度等を検出可能な第1の検出器11、第2の検出器12、第3の検出器13、第4の検出器14、第5の検出器15、第6の検出器16、第7の検出器17、第8の検出器18及び余剰汚泥の供給量を調整する余剰汚泥供給調整器7aにそれぞれ電気的に接続されており、第1〜第8の検出器11、12、13、14、15、16、17、18の少なくとも1の検出結果に基づいて、制御装置10が余剰汚泥供給調整器7aを介して余剰汚泥供給量を調整できるようになっている。装置簡略化のため、第1〜第8の検出器11〜18はすべて設置する必要はない。
図4に示す水処理装置によれば、流入原水の性状及び流量、第1の固液分離槽2から得られる分離水或いは反応タンク3の処理状況等に応じて、有機性排水に対する余剰汚泥の混合比率が上記したより好ましい比率となるように自動制御できるため、装置の自動化及び効率化が図れ、各装置においてより安定した処理を行うことが可能となる。
【0045】
反応タンク3は、第1の固液分離槽2で分離された分離液に生物学的処理するための装置であれば周知の種々の装置を適用することができる。例えば、反応タンク3において回分式活性汚泥法を適用した処理を行う場合には、処理水の排出及び汚泥の引抜がバッチ式に行われる。そのため、反応タンク3の後段に汚泥を貯蔵するための汚泥貯留槽又は濃縮槽(図示せず)を更に設け、汚泥貯留槽又は濃縮槽から余剰汚泥返送手段7を介して余剰汚泥を供給することが好ましい。
【0046】
反応タンク3において膜分離活性汚泥法を利用する場合、分離膜が反応タンク内に設置される槽一体型、反応タンクの後段に膜分離槽を設ける槽別置き型、或いは水槽を設けずにケーシング内に収納した分離膜を用いる槽外型などが用いられるが、このような生物学的処理も本水処理装置及び方法に勿論適用可能である。また、反応タンク3において固定床型生物膜法を利用する場合、第2の固液分離槽4から反応タンク3への返送汚泥を供給することは行わないが、このような生物学的処理も本水処理装置及び方法に勿論適用可能である。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0048】
<余剰汚泥の添加率と原水からのT−CODcr除去率の関係>
流入水に返送する余剰汚泥量を変えて、原水(有機性排水)からのT−CODcr除去率を測定した。尚、原水と余剰汚泥の混合は嫌気的に行った。結果を
図5に示す。
図5中「原水T−CODcr除去率」とは、原水中のT−CODcr量に対する、原水のT−CODcr量から第1の固液分離槽流出水のT−CODcr量を差し引いたT−CODcr量の比を示す。横軸の「汚泥添加率」は、原水1m
3当たりに添加する余剰汚泥の混合比率[kg−汚泥SS/m
3−原水]を示す。汚泥添加率0[kg−汚泥SS/m
3−原水]は、原水に対して余剰汚泥を投入しない状態、すなわち、従来技術の場合を表している。
【0049】
余剰汚泥の混合比率を0.01[kg−汚泥SS/m
3−原水]以上とすることによってT−CODcrの除去率の向上が認められ、0.12〜1.0[kg−汚泥SS/m
3−原水]の範囲で、5%〜25%のT−CODcr除去率の向上が認められた。一方で、余剰汚泥の混合比率が0.51[kg−汚泥SS/m
3−原水]よりも高い場合には、混合比率を増加させてもT−CODcr除去率の向上があまり認められなかった。以上の結果から、余剰汚泥を連続で定常的に添加する場合は、0.6[kg−汚泥SS/m
3−原水]以下の添加率で余剰汚泥を原水に投入することが望ましいことが分かった。また、汚濁負荷の高い時間にのみ余剰汚泥を添加する場合には、少しでも除去率を高めるために、上記数値に縛られること無く、混合比率が0.6[kg−汚泥SS/m
3−原水]よりも高い添加率、即ち、混合比率が0.1〜1.5[kg−汚泥SS/m
3−原水]で余剰汚泥を添加して、除去率の向上を目指しても良いことが分かった。
【0050】
<消化槽の容量>
余剰汚泥を原水に対して0.12[kg−汚泥SS/m
3−原水]投入した場合に設置される消化槽の大きさを、従来の消化槽と本発明の消化槽で比較した。余剰汚泥は原水に混合した後、最初沈殿池(第1の固液分離槽)へ投入した。原水量および原水水質を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
消化槽に投入される汚泥は、余剰汚泥投入有りの場合は、最初沈殿池引抜汚泥のみか、または最初沈殿池引抜汚泥と最終沈殿池引抜汚泥の混合であり、余剰汚泥投入無しの場合は最初沈殿池引抜汚泥と最終沈殿池引抜汚泥の混合である。余剰汚泥を原水に対して0.12[kg−汚泥SS/m
3−原水]投入した場合、
図5に示したように、最初沈殿池でのCODcr除去率が、余剰汚泥を原水に混入しない場合に比べて5%向上した。
【0053】
従来型の消化槽と本発明の消化槽の設計値を表2に示す。この数値を元に、(1)従来の下水処理の場合(余剰汚泥投入無しで従来型の消化槽)(2)余剰汚泥投入有りで従来型の消化槽の場合(3)本発明の場合(余剰汚泥投入有りで本発明の消化槽)の消化槽容量を比較した結果を表3に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示す通り、汚泥が保有する有機物量(T−CODcr)を増加させると、通常では消化槽容量が大きくなる。つまり、消化槽に投入する有機物量が増加した結果、メタンガス発生量は増加するものの(1)及び(2)の結果に示すように、消化槽容量が大きくなる結果となる。しかし、本発明を用いると消化槽容量を減少させることができるので、消化槽に投入する有機物量を増加してメタンガス発生量を増加させながら、消化槽容量を増やさないことが可能となる。