【解決手段】スペーサ25を備えた逆浸透膜エレメント20を収容した膜モジュール3に原水を供給して濃縮水及び透過水を得る脱塩工程S101と、膜モジュール3を洗浄する洗浄工程S104〜S105とを含み、洗浄工程S104〜S105が、膜モジュール3の原水供給口33から洗浄薬液を供給し、膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を膜モジュール3の濃縮水排出口35から排出させる順方向洗浄工程S104と、濃縮水排出口35から洗浄薬液を供給し、膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を原水供給口33から排出させる逆方向洗浄工程S105と、を含む脱塩方法である。
前記順方向洗浄工程及び前記逆方向洗浄工程における前記洗浄薬液の流速を、前記膜モジュール内の流体解析結果からチルトンコンバーンのアナロジー式を用いて得られた物質移動速度に基づいて算出される前記逆浸透膜エレメントの汚染物の膜面濃度の算出結果に基づいて制御することを含む請求項1に記載の脱塩方法。
前記順方向洗浄工程及び前記逆方向洗浄工程の少なくともいずれかにおいて、気泡を混入させた洗浄薬液を供給することを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱塩方法。
スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールの原水供給口から洗浄薬液を供給し、前記膜モジュール内に滞留する汚染物を含む前記洗浄薬液を前記膜モジュールの濃縮水排出口から排出させる順方向洗浄工程と、
前記濃縮水排出口から洗浄薬液を供給し、前記膜モジュール内に滞留する汚染物を含む前記洗浄薬液を前記原水供給口から排出させる逆方向洗浄工程と
を含む脱塩装置の洗浄方法。
スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールであって、前記膜モジュール内に原水を供給するための原水供給口、前記原水を膜処理して得られる透過水及び濃縮水を前記膜モジュール内から排出させるための透過水排出口及び濃縮水排出口を有する前記膜モジュールと、
前記原水供給口から洗浄薬液を供給し、前記濃縮水排出口から前記膜モジュール内に滞留する汚染物を含む前記洗浄薬液を排出させるための順方向切替弁と、
前記濃縮水排出口から洗浄薬液を供給し、前記原水供給口から前記膜モジュール内に滞留する汚染物を含む前記洗浄薬液を排出させるための逆方向切替弁と、
前記順方向切替弁と前記逆方向切替弁とを制御することにより、前記洗浄薬液の供給方向を前記原水供給口側から前記濃縮水排出口側へ、或いは前記濃縮水排出口側から前記原水供給口側へと交互に切り替える制御装置と
を備える脱塩装置。
スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールであって、前記膜モジュール内に原水を供給するための原水供給口、前記原水を膜処理して得られる透過水及び濃縮水を前記膜モジュール内から排出させるための透過水排出口及び濃縮水排出口を有する前記膜モジュールと、
前記原水供給口と前記濃縮水排出口との間に接続され、洗浄薬液の供給管及びドレン管に接続された配管と、
前記配管に接続され、前記洗浄薬液を前記原水供給口及び前記濃縮水排出口を介して前記膜モジュール内に供給して洗浄する正逆運転可能な洗浄ポンプと、
前記洗浄薬液の供給方向を前記原水供給口側から前記濃縮水排出口側へ、或いは前記濃縮水排出口側から前記原水供給口側へと交互に切り替える制御装置と
を備える脱塩装置。
【背景技術】
【0002】
従来、海水或いは汽水を脱塩して、工業用水或いは飲用水を得る場合の脱塩方法として、逆浸透膜(RO:Reverse Osmosis membrane)法、電気透析法、電気式脱塩法、蒸発法などが広く知られている。これらの技術を採用する場合には、予め海水或いは汽水に含まれている濁質を除去する前処理が必要である。そのため、凝集法、砂ろ過法、加圧浮上法、精密濾過膜(MF:Micro Filtration membrane)/限外濾過膜(UF:Ultra Filtration membrane)膜法などが単独又は併用して使用されている。
【0003】
昨今、海水或いは汽水に流入する都市下水などの影響により、濁質のみならず、液中に溶解している有機物が、RO膜法、電気透析法、電気式脱塩法、蒸発法の運転において、メンテナンス及びコストに大きな影響を与えることが顕在化してきている。特に、前述したMF膜、UF膜、RO膜などの膜を用いる脱塩法では、膜表面に溶解している有機物や濁質が蓄積してファウリング(目詰まり、閉塞など)を引き起こし、膜流速の低下、逆洗頻度の増加、膜寿命の減少などが発生する問題がある。
【0004】
そこで、近年、逆浸透膜(RO)装置の前段に、原水中の濁質分をろ過する前処理膜を有する前処理装置を設ける淡水化装置が広く知られている。例えば、前処理膜として、限外濾過膜(UF)又は精密ろ過膜(MF)等の分離膜を用いることが記載されている(特許文献1)。
【0005】
或いは、脱塩効率の低下したRO膜を洗浄する方法として、膜モジュールの膜性能がゲル層により低下したときに、ポンプ駆動モータの回転数を減らし、出口弁の開度を増して、膜モジュール内の流速を増し、原水によりゲル層を除去することが知られている (特許文献2)。
【0006】
更に近年、網目状のスペーサを備えたスパイラル型の逆浸透膜エレメントを装着した膜モジュールも活用されている。脱塩効率の低下したRO膜を洗浄するために、スペーサに蓄積したスライムを除去する必要があり、ヒドラジン一水和物及びアルカリを含有する薬液を使用することが知られている(特許文献3)。
【0007】
特許第5100678号公報(特許文献4)では、RO膜に付着した付着物を効率良く除去するために、濃縮液排出口から原水供給口へ洗浄薬液を供給することによって逆浸透膜を洗浄する方法が提案されている。
【0008】
特許第4251879号公報(特許文献5)では、スパイラル型膜エレメントを装着する分離膜モジュールの運転において、原水を、分離膜モジュールの流れ方向及び流れ方向と反対方向に交互に流して複数回のフラッシングを行う方法が提案されている。
【0009】
特許第4765874号公報(特許文献6)では、逆浸透膜エレメントを収容する円筒状ハウジング内に、洗浄流体入口部から洗浄流体出口部へ向けて、原水と気体とを流通させて洗浄する方法が提案されている。
【0010】
特許第3615918号公報(特許文献7)では、膜モジュールの濃縮水が流れる配管に、濃縮水の流れ方向とは逆方向に洗浄水を流す方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されるような、逆浸透膜の前段に前処理装置を設けた場合においてもなお、逆浸透膜の表面には有機物や濁質分が蓄積するため、水透過水量や操作圧力が増加して脱塩効率が低下する場合がある。
【0013】
特許文献2に記載されるような原水を用いてポンプ駆動モータの回転数と出口弁の開度を制御して逆浸透膜表面のゲル層の除去を行う洗浄方法では、制御が複雑な割には期待した洗浄効果が得られない。特許文献3では、特殊な薬液を用いているため、洗浄のための薬液コストがかかるという問題がある。
【0014】
特許文献4及び特許文献6に記載された方法では、洗浄薬液又は洗浄水を濃縮水排水口側の一方向からしか供給していないため、膜モジュール上流側が十分に洗浄されない場合がある。同様に、特許文献7に記載された方法は、原水流入スペース側からのみ洗浄を行っているため、膜モジュール全体において十分な洗浄効果が得られない。特許文献5に記載された方法は、膜モジュールの上流側及び下流側の両方向から交互にフラッシングを行う例が開示されているが、それでもなお逆浸透膜上に付着する成分によっては洗浄効果が十分に得られない場合がある。
【0015】
上記課題を鑑み、本発明は、安価で簡単な方法で、膜モジュール内を均一に洗浄可能な脱塩方法、脱塩装置の洗浄方法及び脱塩装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールの原水供給口及び濃縮水排出口から交互に洗浄薬液を供給することにより、膜モジュール内に収容される汚染物、特にスペーサ付近に蓄積する局所的な汚染物を除去して膜モジュール全体を均一に洗浄することが可能であるとの知見を得た。
【0017】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールに原水を供給して濃縮水及び透過水を得る脱塩工程と、膜モジュールを洗浄する洗浄工程と、を含み、洗浄工程が、膜モジュールの原水供給口から洗浄薬液を供給し、膜モジュール内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を膜モジュールの濃縮水排出口から排出させる順方向洗浄工程と、濃縮水排出口から洗浄薬液を供給し、膜モジュール内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を原水供給口から排出させる逆方向洗浄工程とを含む脱塩方法が提供される。
【0018】
本発明に係る脱塩方法は一実施態様において、順方向洗浄工程及び逆方向洗浄工程における洗浄薬液の流速を、膜モジュール内の流体解析結果からチルトンコンバーンのアナロジー式を用いて得られた物質移動速度に基づいて算出される逆浸透膜エレメントの汚染物膜面濃度の算出結果を用いて制御することを含む。
【0019】
本発明に係る脱塩方法は別の一実施態様において、順方向洗浄工程及び逆方向洗浄工程を交互に繰り返すことを含む。
【0020】
本発明に係る脱塩方法は更に別の一実施態様において、順方向洗浄工程の洗浄薬液の流速が、逆方向洗浄工程の洗浄薬液の流速よりも遅いことを含む。
【0021】
本発明に係る脱塩方法は更に別の一実施態様において、順方向洗浄工程及び逆方向洗浄工程の少なくともいずれかにおいて、気泡を混入させた洗浄薬液を供給することを含む。
【0022】
本発明に係る脱塩方法は更に別の一実施態様において、脱塩工程後、洗浄工程の前に、フラッシング工程を更に含み、フラッシング工程が、原水を濃縮水排出口から供給して膜モジュール内の汚染物を原水供給口から排出させることを含む。
【0023】
本発明に係る脱塩方法は更に別の一実施態様において、洗浄薬液が、酸、水酸化ナトリウム、キレート剤、界面活性剤、酵素のうち少なくとも1種以上を含む。
【0024】
本発明は別の一側面において、スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールの原水供給口から洗浄薬液を供給し、膜モジュール内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を膜モジュールの濃縮水排出口から排出させる順方向洗浄工程と、濃縮水排出口から洗浄薬液を供給し、膜モジュール内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を原水供給口から排出させる逆方向洗浄工程とを含む脱塩装置の洗浄方法が提供される。
【0025】
本発明は更に別の一側面において、スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールであって、膜モジュール内に原水を供給するための原水供給口、原水を膜処理して得られる透過水及び濃縮水を膜モジュール内から排出させるための透過水排出口及び濃縮水排出口を有する膜モジュールと、原水供給口から洗浄薬液を供給し、濃縮水排出口から膜モジュール内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を排出させるための順方向切替弁と、濃縮水排出口から洗浄薬液を供給し、原水供給口から膜モジュール内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を排出させるための逆方向切替弁と、順方向切替弁と逆方向切替弁とを制御することにより、洗浄薬液の供給方向を原水供給口側から濃縮水排出口側へ、或いは濃縮水排出口側から原水供給口側へと交互に切り替える制御装置とを備える脱塩装置が提供される。
【0026】
本発明は更に別の一側面において、スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュールであって、膜モジュール内に原水を供給するための原水供給口、原水を膜処理して得られる透過水及び濃縮水を膜モジュール内から排出させるための透過水排出口及び濃縮水排出口を有する膜モジュールと、原水供給口と濃縮水排出口との間に接続され、洗浄薬液の供給管及びドレン管に接続された配管と、配管に接続され、洗浄薬液を原水供給口及び濃縮水排出口を介して膜モジュール内に供給して洗浄する正逆運転可能な洗浄ポンプと、洗浄薬液の供給方向を原水供給口側から濃縮水排出口側へ、或いは濃縮水排出口側から原水供給口側へと交互に切り替える制御装置とを備える脱塩装置が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、安価で簡単な方法で、膜モジュール内を均一に洗浄可能な脱塩方法、脱塩装置の洗浄方法及び脱塩装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0030】
(脱塩装置)
図1に本発明の実施の形態に係る脱塩装置の一例を示す。本発明の実施の形態に係る脱塩装置は、原水を前処理する前処理装置1と、前処理装置1で処理された前処理済みの原水を膜処理する膜モジュール3と、膜モジュール3を洗浄する洗浄薬液を貯留する貯留槽6と、前処理装置1で処理された原水及び洗浄薬液をくみ上げるポンプ4と、脱塩装置の各種動作を制御する制御装置5を備える。
【0031】
図1に示す脱塩装置は、原水及び洗浄薬液を膜モジュール3内へ供給及び排出するために、前処理装置1、ポンプ4、膜モジュール3及び貯留槽6の間に、第1の導入管11、第2の導入管12、第1の返送管13、第2の返送管14、排出管15及び洗浄薬液供給管16を備えている。第1の導入管11には、切替弁V1が配置されている。第2の導入管12には、切替弁V3が配置されている。第1の返送管13には、切替弁V4が配置されている。第2の返送管14には、切替弁V2が配置されている。排出管15には、切替弁V5が配置されている。洗浄薬液供給管16には、切替弁V6が配置されている。
【0032】
供給対象とする原水の種類は特に限定されないが、少なくとも溶解性有機物や濁質などの汚染物を含む流体が用いられる。例えば、下水の二次処理水、各種製造排水、地下水、用水、海水、汽水、廃棄物の最終処分場から発生する浸出水などが、本実施形態に係る原水として利用可能である。
【0033】
膜モジュール3の上流側には、膜モジュール3のファウリング(目詰まり、閉塞など)、膜流速の低下及び膜寿命の減少等を抑制するために、前処理装置1が配置されることが好ましい。前処理装置1で行われる前処理としては、例えば、スクリーン装置、砂ろ過装置、凝集砂ろ過、空気浮揚装置(DAF)、MF膜又はUF膜を用いた除濁膜による前処理などがあげられる。
【0034】
膜モジュール3に供給される供給水の水質としては、SDI(シルト濃度指数:FI値)が4以下となるように前処理装置1によって前処理されることが好ましい。なお、前処理前の原水のSDIが4以下の場合は、前処理装置1による処理を行わなくてもよいことは勿論である。
【0035】
膜モジュール3は、前処理装置1で得られた処理水或いは透過水を受け取り、塩類を除去して透過水とする。膜モジュール3は、スペーサを備えたスパイラル型逆浸透膜エレメントを内部に備えることが好ましい。逆浸透膜エレメントに内装される逆浸透膜は、きわめて高い脱塩率が得られる半透性の膜であって、素材としては、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどが使用される。スペーサの材料としては、ポリアミドが一般的である。
【0036】
前処理装置1から膜モジュール3に供給された供給水は全てが脱塩されるわけでなく、透過水の他に、供給水が濃縮した濃縮水が排出される。透過水と濃縮水の分配は、スケールが生成しない濃縮倍率や、膜モジュール3内の流速等を勘案し設計される。
【0037】
膜モジュール3としては、以下の構成に制限されるものではないが、例えば、
図2に示すように、筒形ケース31及び筒形ケース31の両端にそれぞれ配置された端板32a、32bが配置された圧力容器の内部にスペーサ24、25(
図3参照)を備えた逆浸透膜エレメント20を収容した膜モジュール3が利用可能である。
【0038】
図2に示すように、端板32aには原水供給口33が形成されている。端板32bには透過水排出口34及び濃縮水排出口35が形成されている。逆浸透膜エレメント20の外周面の一端部付近にはパッキン37が取り付けられており、これにより逆浸透膜エレメント20が、筒形ケース31の内部の所定の位置に装着されている。逆浸透膜エレメント20はその中心部に筒状の集水管22を有する。集水管22の一端は、透過水排出口34に接続されている。集水管22の他端には、エンドキャップ36が装着されている。
【0039】
膜モジュール3内に装着される逆浸透膜エレメント20としては、例えば
図3に示すように、スペーサ25(透過水スペーサ)の両面に逆浸透膜26を重ね合わせて3辺を接着することにより袋状膜23を形成し、その袋状膜23の開口部を、有孔中空管からなる集水管22に取りつけ、網状のスペーサ24(原水スペーサ)とともに集水管22の外周面にスパイラル状に巻回した膜エレメントが利用可能である。
【0040】
なお、本実施形態では参考のため、
図3に示す逆浸透膜エレメント20を例示しているが、本実施形態に係る逆浸透膜エレメント20の具体的構成は、
図3に示す態様のみに制限されるものではない。即ち、本実施形態では、少なくとも1のスペーサを備える逆浸透膜エレメント20であれば一定の目的を解決することができるものであって、
図3に示す構成以外のスパイラル型膜エレメントに対しても、本実施形態が適用可能であることは勿論である。
【0041】
膜モジュール3内で脱塩処理が継続されると、前処理装置1によって濁度や有機物が除去されているとはいえ、時間の経過につれて透過水量が減少し、所定の透過水量を確保するために膜モジュール3の運転圧力を上昇せざるを得なくなる。これは、膜モジュール3に収容される逆浸透膜の表面に、有機物やバクテリア、油、無機スケール等を含む汚染物が生成されることで、透水性が低下するためである。
【0042】
そこで、本実施形態に係る脱塩装置では、定期的、或いは所定の運転状態、例えば所定の操作圧、所定の透過水量まで低下した場合などの一定の基準を設け、その基準に基づいて、膜モジュール3内の逆浸透膜の洗浄を実施する。洗浄薬液は、
図1の貯留槽(洗浄タンク)6に貯留され、ポンプ4を介して膜モジュール3内に供給される。
【0043】
洗浄薬液としては、汎用の膜洗浄用薬剤を利用することができる。例えば、脱塩水或いは市水などの塩類を含まない液に対して洗浄剤を添加した液を洗浄薬液として使用することができる。洗浄薬液としては、例えば、酸、水酸化ナトリウム、キレート剤、界面活性剤、酵素のうち少なくとも1種以上を含む洗浄薬液が用いられる。より好ましくは、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸、水酸化ナトリウム、キレート剤、界面活性剤および酵素のうち少なくとも1種又は2種以上を含む洗浄薬液が用いられる。本実施形態によれば、特殊な洗浄薬液を使用しなくても、膜モジュール全体を均一に洗浄することができるため、より安価で生産性の高い膜処理を行うことができる。
【0044】
なお一層好ましい形態としては、貯留槽6内は、固液分離装置7を兼ねている。固液分離装置7は、洗浄薬液中に混入した膜モジュール3から排出された汚染物を固液分離により除去するための装置である。固液分離装置7としては、洗浄薬液中の汚染物を除去可能な機構を設けた装置であれば良い。例えば、沈殿分離、浮上分離、膜分離、凝集分離、気泡分離等を行う固液分離装置7が用いられることが好ましい。
【0045】
本実施形態によれば、汚染物を除去した洗浄薬液を再生洗浄薬液として、再度、膜モジュール3へ供給する洗浄薬液として使用できるため、膜モジュール3内に収容された逆浸透膜エレメントへの汚染物の再付着を抑制でき、洗浄効果を高めることができる。また、洗浄薬品コストも低減することができる。
【0046】
図1に示すように、固液分離装置7は、貯留槽6に配置され、両者を兼ねることが好ましい。これにより、脱塩装置全体を小型化することができる。なお、固液分離装置7を貯留槽6と別個に配置する空間が十分にある場合は、固液分離装置7と貯留槽6を兼ねなくてもよいことは勿論である。
【0047】
制御装置5は、本実施形態に係る制御アルゴリズムに基づいて所定の動作を送出する汎用又は専用の計算機(コンピュータ)で構成することができる。例えば、制御装置5は、膜モジュール3の洗浄工程を実施するタイミング、第1の導入管11、第2の導入管12、第1の返送管13、第2の返送管14、排出管15及び洗浄薬液供給管16にそれぞれ接続された切替弁V1〜V6の切替制御、膜モジュール3内へ供給する原水及び洗浄薬液の供給流速の調整等を制御することができる。
【0048】
例えば、制御装置5は、洗浄薬液の供給方向を原水供給口33側から濃縮水排出口35側とする順方向洗浄、或いは濃縮水排出口35側から原水供給口33側とする逆方向洗浄とを交互に切り替える制御を行うことができる。
【0049】
順方向洗浄において、制御装置5は、切替弁V1、V4、V6を開き、切替弁V2、V3、V5を閉じる切替制御を行う。この場合、切替弁V1、V4は、原水供給口33から洗浄薬液を供給し、濃縮水排出口35から膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を排出させるための順方向切替弁として機能する。
【0050】
逆方向洗浄において、制御装置5は、切替弁V2、V3、V6を開き、切替弁V1、V4、V5を閉じる切替制御を行う。この場合、切替弁V2、V3は、濃縮水排出口35から洗浄薬液を供給し、原水供給口33から膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を排出させるための逆方向切替弁として機能する。
【0051】
好ましい実施形態において、制御装置5は、順方向洗浄及び逆方向洗浄における洗浄薬液の流速を、膜モジュール3内の流体解析結果からチルトンコンバーンのアナロジー式を用いて得られた物質移動速度に基づいて算出される逆浸透膜エレメント20の膜面濃度の算出結果を用いて制御することができる。
【0052】
そのため、制御装置5は、例えば、
図4に示すように、入出力制御モジュール51、流体解析モジュール52、物質移動速度算出モジュール53、膜面濃度算出モジュール54、洗浄薬液モジュール55及び各種情報を記憶する記憶装置50を備えることができる。
【0053】
入出力制御モジュール51は、各種演算の前提になる情報、例えば、水量、水温、操作圧力、粘度、液密度、スペーサ厚さ、スペーサ形状などの各種条件の入力を受け付けるとともに、脱塩装置の各装置に制御信号を出力する。流体解析モジュール52は、入力された各条件に基づいて、膜モジュール3内の流体解析を実施する。物質移動速度算出モジュール53は、流体解析の結果を用いて、チルトンコンバーンのアナロジー式を用いて物質移動速度を求める。膜面濃度算出モジュール54は、物質移動速度から、膜モジュール3内に収容された逆浸透膜の汚染物の膜面濃度を算出する。洗浄薬液モジュール55は、逆浸透膜の膜面濃度に基づいて、順方向洗浄及び逆方向洗浄における洗浄薬液の流速を算出する。詳細は、後述する
図7に示すフローチャートを用いて説明する。
【0054】
図2及び
図3に示すような逆浸透膜エレメント20内に配置される網目状のスペーサ24、25は、逆浸透膜26上に供給水(原水)が通過する流路を形成し、逆浸透膜上に供給される流体の流れを乱す目的で配置される。スペーサ24、25により、逆浸透膜26表面で汚染物が蓄積することによる透過水量の低下、操作圧力の上昇、或いは脱塩効率の低下を抑制することができる。
【0055】
しかしながら、本発明者らが、数値流体力学(CFD)による流体解析結果及びその計算結果を用いた膜表面での汚染物濃度(塩類濃度)の計算をしたところ、
図5(a)、
図5(b)に示すように、それでもなお、網目状スペーサの一部(線状部分及び交点部分付近)には、液の滞留部分(よどみ部分)が局所的に生じ、汚染物の蓄積が生じることが確認された。
【0056】
このような状態においては、洗浄時において、脱塩時と同じ導入方向のみ、或いはその導入方向と逆方向からのみ洗浄薬液を通液しても、液の滞留部分には十分に洗浄薬液が届かず、有効な洗浄効果が得られないことが分かった。
【0057】
本発明の実施の形態に係る脱塩装置によれば、膜モジュール3の原水供給口33から洗浄薬液を供給し、膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を膜モジュール3の濃縮水排出口35から排出させる順方向洗浄と、濃縮水排出口35から洗浄薬液を供給し、膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を原水供給口33から排出させる逆方向洗浄の少なくとも二方向の洗浄が行われる。
【0058】
これにより、順方向洗浄で生じる液の滞留部分に発生する汚れを逆方向洗浄で洗浄することができ、逆方向洗浄で生じる液の滞留部分に発生する汚れを順方向洗浄で洗浄することができるため、膜モジュール全体をより均一に洗浄することが可能となる。なお、順方向洗浄及び逆方向洗浄は、順方向洗浄及び逆方向洗浄の組み合わせを少なくとも1セット以上、交互に繰り返すことが好ましい。
【0059】
なお、順方向洗浄及び逆方向洗浄における洗浄薬液の流速制御は、
図4に示す制御装置5によって行われる流体解析に基づく制御を行って流体解析することにより厳密に流速制御を行ってもよいし、流体解析に基づく制御を行わなくても構わない。即ち、制御装置5は、入力者から入力された所定の流速制御情報に基づいて、順方向洗浄及び逆方向洗浄における洗浄薬液の流速を制御することもできる。
【0060】
本実施形態の好ましい形態では、順方向洗浄の洗浄薬液の流速が、逆方向洗浄の洗浄薬液の流速よりも遅くなるように制御することが好ましい。
図2では、膜モジュール3内に1本の逆浸透膜エレメント20が配置される場合を示しているが、膜モジュール3内には、2〜8本程度の逆浸透膜エレメント20が直列に挿入される場合もある。このような場合、有機物や固体粒子、バクテリアなどの汚染物は、原水(供給水)が最初に導入されるエレメントが最も付着しやすい。そのため、本実施形態では、原水供給口33から洗浄薬液を供給する順方向洗浄で洗浄薬液の流速を遅くすることにより、汚染物が、2本目、3本目のエレメントに到達しにくくする。
【0061】
一方で、濃縮水排出口35から洗浄薬液を供給する逆方向洗浄では、汚染物を膜モジュール3外へと押し出しやすくするために、少なくともその前の順方向洗浄よりも洗浄薬液の流速を早くする。このようにすることで、汚染物が膜モジュール3からより流出しやすくなる。洗浄薬液の流速は任意の速度を取ることができる。流速が速いほど洗浄効果が高いが、通常は脱塩時に使用するポンプ4と併用されるため、ポンプ4の容量の範囲となる。
【0062】
好ましい洗浄薬液の流速は、順方向洗浄では脱塩時の供給水の流速に対して1/3〜2倍とし、逆方向洗浄では、脱塩時の供給時の流速に対して1/2〜3倍程度が好ましい。いずれの流速の場合も、順方向洗浄の洗浄薬液の流速よりも逆方向洗浄の洗浄薬液の流速を速くする。
【0063】
本実施形態の更に好ましい形態では、順方向洗浄と逆方向洗浄との間に膜モジュール3内を洗浄薬液で浸漬する浸漬工程を更に含むことができる。浸漬工程は、汚染した逆浸透膜エレメント20を洗浄薬液に浸した状態で、流体の流れを静止させる工程である。これにより、逆浸透膜エレメント20から汚染物を浮き出させることができるため、流速制御による洗浄がより効果的に行える。
【0064】
本実施形態の更に好ましい形態では、順方向洗浄と逆方向洗浄の少なくともいずれかにおいて、気泡を混入させた洗浄薬液を供給する。気泡径は、特に限定されるものではなく、1μm以下のウルトラファインバブル(ナノバブル)や、1〜50μmのファインバブル(マイクロバブル)、それ以上の粗大気泡でもよいが、表面の電荷がマイナスチャージに帯電しているマイクロバブルが好ましい。マイクロバブルのマイナスチャージが膜に付着した汚染物を付着し、汚染物が膜から剥がれやすくする効果がある。
【0065】
気泡を用いた洗浄時には、キレート剤などの薬品を併用することが好ましい。原水が海水や浸出水の場合には、原水にカルシウムが含有しており、膜の表面にカルシウムが蓄積しやすい。膜の表面で蓄積したカルシウムがバインダーになり、汚染物を引き寄せ、結果として、汚染物が膜に堆積することがある。キレート剤を併用することでカルシウムとキレート剤が結合し、バインダーの役割を低減するので、汚染物がはがれやすくなる。
【0066】
洗浄薬液の通水量は、任意の量をとることができるが、1回の洗浄で逆浸透膜モジュールの1倍〜10倍、好ましくは、1倍〜5倍を通水するとよい。1回の洗浄が完了したら、この洗浄方向とは逆の方向に、さらに逆浸透膜モジュールの1倍〜10倍、好ましくは、1倍〜5倍を通水する。
【0067】
本実施形態の更に好ましい形態では、供給水の脱塩処理後、順方向洗浄と逆方向洗浄を行う前に、原水を濃縮水排出口35から供給して膜モジュール3内の原水と汚染物とを原水供給口33から排出させるフラッシングを行う。フラッシング時には、制御装置5が、切替弁V2、V3を開き、切替弁V1、V4、V5、V6閉じる切替制御を行う。このように、前処理装置1から供給される供給水(原水)を濃縮水排出口35から流入させて、原水供給口33から排出させることで、スペーサ24、25の近傍で液の対流部分に蓄積していた汚染物を予め排出されることができる。この際、圧力をかけても構わないが、圧力をかけずに、そのまま通水するのみでもよい。
【0068】
膜モジュール3の洗浄前に上述のフラッシングを行うことで、洗浄薬液が膜モジュール3内の汚染物で汚染するのを抑制でき、本実施形態による洗浄効果を長期間持続させることができる。フラッシング時間は任意の時間をとることができるが、通水量が多いと、排出原水の量が多くなるので、通常は10〜180分、好ましくは、20〜120分とする。通水速度も、任意の速度をとることができるが、供給水のポンプ4と同じポンプを使用しているので、供給水と同流量、あるいは1/2〜3倍のポンプ容量に合わせた設定をすることができる。
【0069】
(脱塩方法)
本発明の実施の形態に係る脱塩方法は、スペーサ24、25を備えた逆浸透膜エレメント20を収容した膜モジュール3に原水を供給して濃縮水及び透過水を得る脱塩工程S101と、膜モジュール3を洗浄する洗浄工程S104〜S105とを含む。
【0070】
洗浄工程S104〜S105は、膜モジュール3の原水供給口33から洗浄薬液を供給し、膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を膜モジュール3の濃縮水排出口35から排出させる順方向洗浄工程S104と、濃縮水排出口35から洗浄薬液を供給し、膜モジュール3内に滞留する汚染物を含む洗浄薬液を原水供給口33から排出させる逆方向洗浄工程S105と、を含む。
【0071】
以下に、
図1及び
図6を参照しながら、本発明の実施の形態に係る脱塩方法の具体例について説明する。
【0072】
図6の工程S101において、
図1の脱塩装置が備える制御装置5が、切替弁V1、V5、V6を開き、切替弁V2、V3、V4を閉じる切替制御を実施する。これにより、原水が、前処理装置1、ポンプ4、第1の導入管11及び切替弁V1を介して膜モジュール3の原水供給口33から膜モジュール3内へ通水される。膜モジュール3内では、膜モジュール3内に装着された逆浸透膜エレメント20によって、膜モジュール3内に供給された供給水がRO処理され、透過水と濃縮水とに分離される。透過水は透過水排出口34から排出される。濃縮水は濃縮水排出口35から排出管15及び切替弁V5を介して排出される。
【0073】
工程S102において、制御装置5が、入力者から入力された条件入力値に基づいて、設定時間通水したか否かを判定する。設定時間通水されていない場合は工程S101に戻り、通水を継続する。設定時間通水完了した場合には、工程S103へ進む。
【0074】
工程S103において、制御装置5が、切替弁V2、V3を開き、切替弁V1、V4、V5、V6を閉じる切替制御を実施する。これにより、原水が、前処理装置1、ポンプ4、第1の導入管11、第2の導入管12、切替弁V3及び排出管15を介して膜モジュール3の濃縮水排出口35へ供給され、膜モジュール3内の汚染物が原水供給口33から排出させる(フラッシング工程)。なお、工程S103の実施は任意である。即ち、工程S102の直後に工程S104を実施してもよい。
【0075】
工程S104において、制御装置5が、切替弁V1、V4、V6を開き、切替弁V2、V3、V5を閉じる切替制御を実施する。これにより、貯留槽6内の洗浄薬液が、洗浄薬液供給管16、切替弁V6、ポンプ4、第1の導入管11、切替弁V1を介して膜モジュール3の原水供給口33から膜モジュール3内へ通水される。膜モジュール3内に供給された供給水は膜モジュール3内の汚染物を取り込んだ状態で、濃縮水排出口35から排出管15、第1の返送管13及び第2の返送管14を介して貯留槽6へ送られる(順方向洗浄)。貯留槽6では固液分離装置7によって、汚染物が除去され、外部へ排出される。
【0076】
工程S105において、制御装置5が、切替弁V2、V3、V6を開き、切替弁V1、V4、V5を閉じる切替制御を実施する。これにより、貯留槽6内の洗浄薬液が、洗浄薬液供給管16、切替弁V6、ポンプ4、第1の導入管11、第2の導入管12、切替弁V3、排出管15を介して膜モジュール3の濃縮水排出口35から膜モジュール3内へ通水される。膜モジュール3内に供給された供給水は膜モジュール3内の汚染物を取り込んだ状態で、原水供給口33から第1の導入管11、第2の返送管14を介して貯留槽6へ送られる(逆方向洗浄)。貯留槽6では固液分離装置7によって、汚染物が除去され、外部へ排出される。
【0077】
工程S106において、制御装置5が、入力者から入力された条件入力値に基づいて、工程S104及び工程S105が設定回数行われたか否かを判定する。設定回数行われていない場合は工程S104に戻り、通水を継続する。設定回数行われた場合には、作業を終了する。
【0078】
このように、本発明の実施の形態に係る脱塩方法によれば、膜モジュール3の順方向洗浄(工程S104)と逆方向洗浄(工程S105)とが交互に繰り返されるため、膜モジュール内全体でより均一に汚染物を除去することが可能となる。
【0079】
工程S104及び工程S105における洗浄時間はそれぞれ任意の時間を取ることができる。本実施形態では、少なくともそれぞれ30分以上とすることが好ましい。洗浄温度も、任意の温度を取ることができるが、好ましくは20〜40℃が適している。20℃以下では洗浄効果が低く、40℃以上であると、膜の損傷、膜エレメントを構成する部材の損傷が懸念される。工程S104及び工程S105の順序は逆でもよい。工程S104及び工程S105の繰り返しの上限は特に制限されないが、処理効率面を鑑みると3回程度である。
【0080】
更に好ましい実施形態においては、工程S104及び工程S105における洗浄薬液の流速を、
図4に示す制御装置5によってより厳密に制御する。制御装置5による洗浄薬液の流速制御方法について、
図7に示すフローチャートを用いて説明する。
【0081】
図7の工程S51において、演算の前提になる情報が、入力装置(図示省略)を介して入力され、入出力制御モジュール51が、入力された情報を
図4の記憶装置50へ格納する。演算の前提になる情報としては、例えば、逆浸透膜エレメント20の構成(例えばスペーサ厚さ、スペーサ形状、膜面積、膜密度等)、逆浸透膜エレメント20に流入させる供給水の物性(水量、水温、粘度、液密度等)、膜モジュール3の操作条件(操作圧力等)等が入力される。
【0082】
工程S52において、
図4の流体解析モジュール52が、膜モジュール3内の流体解析(CFD)を実施する。流体解析モジュール52は、工程S51で入力された情報に基づいて、ある空間の水量とベクトルを計算する。マクロな視点でスペーサ24、25内の流れを把握すると、一様に流れているように見えても、流体解析モジュール52によるミクロ的な視点で把握すると、流れが遅い空間と、極めて流速が早くなっている空間が計算できる。流体解析結果は記憶装置50内に格納される。
【0083】
工程S53において、
図4の物質移動速度算出モジュール53が、工程S52で得られた流体解析結果を用いて、チルトンコンバーンのアナロジー式を用いて物質移動速度を演算する。チルトンコンバーン(Chilton−Colburn)のアナロジー式とは、運動量、熱移動、物質移動の相似性を示したアナロジー式であり、以下の関係式(1)で示される。
f/2=j
H=j
D ・・・(1)
ここで、fは摩擦係数、j
Hは熱移動のj因子、j
Dは物質移動のj因子である。
【0084】
更に、j
Dは、以下の関係式(2)の関係を有する。
j
D=Sh/(Re・Sc
1/3) ・・・(2)
ここで、Shはシャーウッド数、Reはレイノルズ数、Scはシュミッド数である。このチルトンコンバーンのアナロジー式により、流体解析で求めた微小空間の流体の流れ及びベクトル(Um;m/s)からその微小空間の塩類の物質移動速度(K;m/s)が演算できる。物質移動速度の演算結果は、記憶装置50内に格納される。
【0085】
工程S54において、
図4の膜面濃度算出モジュール54が、工程S53で得られた塩類の物質移動速度の演算結果に基づいて、逆浸透膜の膜面の物質収支から、膜表面近傍での濃度分極を算出する。この計算結果により求められた汚染物の膜面濃度(膜面の塩類濃度:C[mg/L])は、空間の流体流速が遅い空間ほど、膜面の濃度分極が高く、水が透過しにくいことが計算されるとともに、汚れが蓄積しやすいことを示す。膜面濃度算出結果は、記憶装置50内に格納される。
【0086】
工程S55において、
図4の洗浄薬液モジュール55が、工程S54で得られた膜面濃度算出結果から、
図6の工程S104、S105における洗浄工程の洗浄薬液の流速を決定する。流速の決定結果は、工程S56において、入出力制御モジュール51によって、膜モジュール3内へ洗浄薬液の流速を制御する流量計(図示省略)へ出力される。流量計は、入出力制御モジュール51から出力された流速情報に基づいて、洗浄薬液の流速を制御する。
【0087】
本発明の実施の形態に係る脱塩方法によれば、順方向洗浄工程S104及び逆方向洗浄工程S105における洗浄薬液の流速を、膜モジュール3内の流体解析結果からチルトンコンバーンのアナロジー式を用いて得られた物質移動速度に基づいて算出される逆浸透膜エレメント20の汚染物の膜面濃度の算出結果を用いて制御できる。その結果、膜モジュール3内での流れが遅い空間と、極めて流速が早くなっている空間を把握することができ、その状況に適した流速で洗浄薬液を供給することができるため、従来の脱塩装置に比べて膜モジュール3内に装着された逆浸透膜エレメント20全体をより均一に洗浄することが可能となる。
【0088】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。
【0089】
(第1変形例)
第1変形例に係る脱塩装置としては、
図8に示すように、膜モジュール3を複数個並列に及び直列に配置し、上流側の膜モジュール3によって得られた濃縮水をこれに直列接続された下流側の膜モジュール3で更に脱塩処理する装置もある。この様式は、クリスマスツリー型とよばれ、後段に行くほど設置する逆浸透膜モジュール数が少なくなる。
【0090】
膜モジュール3は、前述のように、流入した原水をすべて脱塩し、透過水を得るわけでなく、一部は濃縮水として排出する。処理過程で透過水が排出されていくので、濃縮液排出側の分離膜一次側の線流速は遅くなる。そのため、濃度分極や無機スケールを生成させないようにするために、ある程度の水量(線速度)を残して、濃縮水として排出する。
【0091】
そのため、濃縮水を更に脱塩処理して、水の回収率を向上させる方法がとられる場合がある。このような場合においても、2段目の逆浸透膜の洗浄方法として、順方向洗浄と逆方向洗浄とを実施することも可能である。この場合、洗浄タンクや固液分離槽は兼用することも可能である。
【0092】
(第2変形例)
図9に示す例は、スペーサを備えた逆浸透膜エレメントを収容した膜モジュール3と、原水供給口33と濃縮水排出口35との間に接続され、洗浄薬液の供給管(洗浄薬液供給管17)及びドレン管18に接続された配管19と、配管19に接続され、洗浄薬液を原水供給口33及び濃縮水排出口35を介して膜モジュール3内に供給して洗浄する正逆運転可能な洗浄ポンプ40と、洗浄薬液の供給方向を原水供給口33側から濃縮水排出口35側へ、或いは濃縮水排出口35側から原水供給口33側へと交互に切り替える制御装置5とを備えた脱塩装置である。
【0093】
正逆運転可能な洗浄ポンプ40として、種々のポンプを用いることができるが、ロータリーポンプが好ましい。ロータリーポンプは、容積移送式であり、スクリュー型ローターの回転方向によって、正方向および逆方向に液体の移送が可能である。
図9の例は、洗浄工程に入ったら、切替弁V1、V5を閉じ、切替弁V7、V8を開いて、膜モジュール3内の液を濃縮水排出口35から排出管15及び配管19を経由して、ドレン管18より排出する。次いで、洗浄薬液を洗浄薬液供給管17より配管19へ流入させ、第1の導入管11から膜モジュール3の原水供給口33へ供給することにより、膜モジュール3内を洗浄薬液で満たす。その後、正逆運転可能な洗浄ポンプ40を稼動させて、上記したような所定の制御方法に基づいて、ポンプ40を正方向で洗浄したり、逆方向に運転させて洗浄したりして、膜モジュール3内を洗浄薬液で洗浄する。所定の洗浄が終了したら、ドレン管18から洗浄薬液を排出させることができる。
【実施例】
【0094】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0095】
(実施例1)
図1に示す本実施形態に係る脱塩装置(海水淡水化の処理装置)を用いて脱塩処理を行った。処理フローは、原水を前処理装置1において凝集ろ過したのちに、前処理装置1で得られた処理水を膜モジュール3内の逆浸透膜エレメントへ通水し脱塩処理した。逆浸透膜エレメントは、網目状スペーサを有するスパイラル型逆浸透膜(日東電工製)とした。
【0096】
通水開始から約3ヶ月後に、逆浸透膜の透水性能が初期値に比べて70%まで低下したため、逆浸透膜の洗浄を実施した。洗浄方法は、脱塩時の供給水の供給方向と同方向で原水供給口から濃縮水排出口へ洗浄薬液を通液する工程(順方向洗浄)を2時間実施し、その後続いて、脱塩時の供給水の供給方向と反対方向、即ち濃縮水排出口から原水供給口へ洗浄薬液を通液する工程(逆方向洗浄)を2時間実施した。洗浄剤はpH11のアルカリ溶液とした。洗浄後の透水性は、運転開始の90%まで回復した。洗浄を交互に実施したことで、水透過性能は良好に回復した。
【0097】
(比較例)
図10に示す比較例の海水淡水化の処理装置を用いて脱塩処理を行った。処理フローは、原水を前処理装置1において凝集ろ過したのちに、膜モジュール3内の逆浸透膜エレメントへ通水し脱塩処理した。逆浸透膜エレメントは、網目状スペーサを有するスパイラル型RO膜(日東電工製)とした。
【0098】
通水開始から約3ヶ月後に、逆浸透膜の透水性能が初期値に比べて70%まで低下したため、逆浸透膜の洗浄を実施した。洗浄方法は、洗浄薬液を貯留槽6から洗浄薬液供給管16及び第1の導入管11を介して原水供給口33から濃縮水排出口35へと供給し、排出管15及び第1の返送管13を介して貯留槽6へ戻すようにし、これを4時間実施した。洗浄剤はpH11のアルカリ溶液とした。洗浄後の透水性は、運転開始の80%までしか回復しなかった。