(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-173895(P2016-173895A)
(43)【公開日】2016年9月29日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 33/10 20060101AFI20160902BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20160902BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20160902BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/02
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-52318(P2015-52318)
(22)【出願日】2015年3月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山崎 康夫
(72)【発明者】
【氏名】藤居 孝英
(72)【発明者】
【氏名】簡 俊賢
(72)【発明者】
【氏名】黄 家聖
(72)【発明者】
【氏名】柯 廷育
(72)【発明者】
【氏名】許 馨云
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC43
3K107CC45
3K107DD12
3K107DD17
3K107FF17
3K107GG26
3K107GG28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電子デバイス材を形成する処理中にはガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止し、且つ、処理後にはガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を可能とするガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】可撓性を有するガラスフィルム1と、これを支持する支持ガラス2とを重ね合わせて積層体3を作製する積層体作製工程と、積層体3におけるガラスフィルム1に対し、加熱を伴って有機EL素子を形成する処理工程と、支持ガラス2から有機EL素子を形成済のガラスフィルム1を剥離させてガラス基板を得る剥離工程とを含んだガラス基板の製造方法について、積層体作製工程の実行前に、ガラスフィルム1と支持ガラス2とを加熱する加熱工程を実行すると共に、積層体作製工程の実行時に、ガラスフィルム1と支持ガラス2とが加熱された状態で両者を重ね合わせた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するガラスフィルムと、該ガラスフィルムを支持する支持ガラスとを重ね合わせて積層体を作製する積層体作製工程と、前記積層体における前記ガラスフィルムに対し、加熱を伴って電子デバイス材を形成する処理工程と、前記支持ガラスから前記電子デバイス材を形成済の前記ガラスフィルムを剥離させてガラス基板を得る剥離工程とを含んだガラス基板の製造方法であって、
前記積層体作製工程の実行前に、前記ガラスフィルムと前記支持ガラスとを加熱する加熱工程を実行すると共に、前記積層体作製工程の実行時に、前記ガラスフィルムと前記支持ガラスとが加熱された状態で両者を重ね合わせることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、前記ガラスフィルム及び前記支持ガラスを100℃以上の温度まで加熱することを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記積層体作製工程おいて、前記ガラスフィルムと前記支持ガラスとを重ね合わせる際の両ガラスの温度を100℃以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィルムに液晶素子や有機EL素子等の電子デバイス材を形成することでガラス基板を製造するガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速に普及しているスマートホンや、タブレット型PC等のモバイル機器は、軽量であることが要求されるため、これらの製品に組み込まれるガラス基板においては、薄板化が推進されているのが現状である。そして、このような要求に応えるものとして、板ガラスをフィルム状にまで薄板化(例えば、厚みが300μm以下)したガラスフィルムが開発されるに至っている。このガラスフィルムは、その厚みが極めて薄いことから、可撓性に富んだ性質を有している。
【0003】
このガラスフィルムに対し、液晶素子や有機EL素子等の電子デバイス材を形成する処理を施してガラス基板を製造する際には、処理中のガラスフィルムの取り扱いを容易にするため、ガラスフィルムと、このガラスフィルムを支持する支持ガラスとを重ね合わせた積層体(特許文献1を参照)を利用する場合がある。この積層体を利用すれば、支持ガラスと重ね合わされたガラスフィルムの可撓性に富んだ性質を一時的に排除することが可能である。さらには、重ね合わせた両ガラスの間に密着力が作用するため、処理中のガラスフィルムが支持ガラスから剥離しにくくなるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−30404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような優れた機能を有する積層体であるが、処理後のガラスフィルム(電子デバイス材を形成済のガラスフィルム)をガラス基板として製品に組み込むにあたり、支持ガラスからガラスフィルムを剥離させる際には、下記のような問題を生じることがある。すなわち、積層体が高温雰囲気下に置かれるような加熱を伴った処理をガラスフィルムに施した場合には、処理中にガラスフィルムと支持ガラスとの間に作用する密着力が過剰に増大してしまう。これにより、処理後のガラスフィルムを支持ガラスから剥離させることが困難になる問題があった。
【0006】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、電子デバイス材を形成する処理中にはガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止し、且つ、処理後にはガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を可能とすることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために創案された本発明に係るガラス基板の製造方法は、可撓性を有するガラスフィルムと、ガラスフィルムを支持する支持ガラスとを重ね合わせて積層体を作製する積層体作製工程と、積層体におけるガラスフィルムに対し、加熱を伴って電子デバイス材を形成する処理工程と、支持ガラスから電子デバイス材を形成済のガラスフィルムを剥離させてガラス基板を得る剥離工程とを含んだ方法であって、積層体作製工程の実行前に、ガラスフィルムと支持ガラスとを加熱する加熱工程を実行すると共に、積層体作製工程の実行時に、ガラスフィルムと支持ガラスとが加熱された状態で両者を重ね合わせることに特徴付けられる。
【0008】
このような方法によれば、処理工程の実行中には、ガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止することができると共に、処理工程を実行後の剥離工程の実行時には、電子デバイス材を形成済のガラスフィルムを支持ガラスから剥離させることが可能となる。
【0009】
なお、上記の効果が得られるのは、下記のような理由によるものと想定される。積層体作製工程の実行により、ガラスフィルムと支持ガラスとを重ね合わせると、両ガラスの間には密着力が作用する。そして、後の処理工程の実行中には、両ガラスの間に作用する密着力の大きさが、積層体作製工程の実行直後における大きさ(以下、初期値と表記する)から増大していく。この密着力の初期値からの増大は、ガラスフィルムに電子デバイス材を形成する際に伴う加熱により、両ガラスの各々の合わせ面に存する水酸基(ヒドロキシ基)や水分が脱水縮合を起こすことに起因しているものと考えられる。ここで、上記のガラス基板の製造方法においては、積層体作製工程の実行前に、ガラスフィルムと支持ガラスとを加熱する加熱工程を実行している。この加熱工程の実行により、両ガラスの各々において合わせ面に存する水酸基や水分の一部が除去される。すなわち、脱水縮合を起こす水酸基や水分の一部が消失することになる。これにより、水酸基や水分の一部が除去された分だけ、後の処理工程の実行中における密着力の初期値からの増大が抑制される。また、上記のガラス基板の製造方法においては、積層体作製工程の実行時に、ガラスフィルムと支持ガラスとが加熱された状態で両者を重ね合わせている。ここで、両ガラスを高温で重ね合わせるほど、両ガラスの間に作用する密着力の初期値は大きくなる。従って、両ガラスが加熱された状態で両者を重ね合わせることで、これらが加熱されている分だけ、密着力の初期値が大きくなる。
【0010】
以上のことから、上記のガラス基板の製造方法では、積層体作製工程の実行前の加熱工程により、処理工程の実行中における密着力の初期値からの増大が、剥離工程の実行時にガラスフィルムを支持ガラスから剥離させることが可能な程度に抑制されているものと想定される。さらに、積層体作製工程の実行時に両ガラスが加熱されているため、密着力の初期値が、処理工程の実行中におけるガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止できる程度に大きくなっているものと考えられる。
【0011】
上記の方法では、加熱工程において、ガラスフィルム及び支持ガラスを100℃以上の温度まで加熱することが好ましい。
【0012】
このようにすれば、剥離工程の実行時に、電子デバイス材を形成済のガラスフィルムを支持ガラスからより剥離させやすくなる。
【0013】
上記の方法では、積層体作製工程おいて、ガラスフィルムと支持ガラスとを重ね合わせる際の両ガラスの温度を100℃以上とすることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、処理工程の実行中に、ガラスフィルムの支持ガラスからの剥離をより防止しやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電子デバイス材を形成する処理中にはガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止でき、且つ、処理後にはガラスフィルムを支持ガラスから剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における加熱工程を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における積層体作製工程を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における処理工程を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法について添付の図面を参照して説明する。
【0018】
図1〜
図4に示すように、本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法は、可撓性を有するガラスフィルム1と、このガラスフィルム1を支持するための支持ガラス2とを加熱する加熱工程(
図1)と、両ガラス1,2が加熱された状態で両者を重ね合わせて積層体3を作製する積層体作製工程(
図2)と、積層体3におけるガラスフィルム1に対し、加熱を伴って電子デバイス材としての有機EL素子4を形成する処理工程(
図3)と、支持ガラス2から有機EL素子4を形成済のガラスフィルム1を剥離させてガラス基板5を得る剥離工程(
図4)とを含んでいる。
【0019】
このガラス基板の製造方法では、ガラスフィルム1及び支持ガラス2として種々の組成を有したガラスを使用することができ、本実施形態においては、両ガラス1,2として共に無アルカリガラスを使用している。なお、無アルカリガラス以外のガラスを使用する場合においても、同一の組成を有したガラスフィルム1と支持ガラス2とを使用することが好ましい。このようにすれば、両ガラス1,2の間での熱膨張係数の大きさの違いに起因して、処理工程の実行中にガラスフィルム1が破損することを防止できる。
【0020】
また、ガラスフィルム1及び支持ガラス2としては、種々の成形方法で成形したガラスを使用することが可能であり、本実施形態においては、オーバーフローダウンドロー法によって成形したガラスを使用している。ガラスフィルム1の厚みとしては、例えば100μmである。一方、支持ガラス2の厚みは、ガラスフィルム1の厚みよりも大きくなっており、例えば500μmである。
【0021】
ガラスフィルム1の合わせ面1a(支持ガラス2と接触させる側の面)、及び支持ガラス2の合わせ面2a(ガラスフィルム1と接触させる側の面)における表面粗さRaの値は、それぞれ2.0nm以下とされている。なお、Raの値としては、好ましくは1.0nm以下であり、より好ましくは0.5nm以下であり、最も好ましくは0.2nm以下である。このRaの値を小さくするほど、重ね合わされたガラスフィルム1と支持ガラス2とを強固に密着させることができる。
【0022】
加熱工程では、ガラスフィルム1と支持ガラス2とを重ね合わせることなく、両ガラス1,2を個別に常温下での温度から100℃以上の温度まで加熱する。両ガラス1,2の加熱には、例えば、ホットプレートやフラッシュランプ等を使用することができる。ここで、加熱工程においては、両ガラス1,2を好ましくは150℃以上まで加熱し、より好ましは200℃以上まで加熱し、最も好ましくは300℃以上まで加熱する。加熱の上限となる温度は、使用した両ガラス1,2の各々について歪点となる温度である。より高温まで加熱するほど、剥離工程の実行時に有機EL素子4を形成済のガラスフィルム1を支持ガラス2から剥離させやすくなる。なお、両ガラス1,2は、これらが同一の温度となるように加熱してもよいし、異なる温度となるように加熱してもよい。両ガラス1,2の各々を加熱する時間としては、5min〜60minとすることが好ましく、10min〜30minとすることがより好ましい。なお、両ガラス1,2の両者の間で、加熱する時間は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
この加熱工程の実行により、ガラスフィルム1の合わせ面1a、及び支持ガラス2の合わせ面2aの拡大図(
図1のA部及びB部)に示すように、後の処理工程の実行中に脱水縮合を起こす水酸基や水分の一部が、両合わせ面1a,2aの各々から除去される。これにより、水酸基や水分の一部が除去された分だけ、後の処理工程の実行中において、密着力の初期値(積層体作製工程の実行直後における密着力の大きさ)からの増大が抑制される。この加熱工程の作用に鑑み、密着力の初期値からの増大をさらに抑制したい場合には、両ガラス1,2の各々における周辺の雰囲気を減圧(例えば1kPa以下)した状態の下や、低湿度(例えば湿度40%以下)とした状態の下で加熱工程を実行してもよい。このようにすれば、水酸基や水分をより除去しやすくなる。
【0024】
積層体作製工程では、ガラスフィルム1と支持ガラス2との温度が100℃以上に加熱された状態で両ガラス1,2を直接に重ね合わせる。ここで、ガラスフィルム1と支持ガラス2とを重ね合わせる際における両ガラス1,2の温度(以下、積層温度と表記する)は、好ましくは150℃以上であり、より好ましは200℃以上であり、最も好ましくは300℃以上である。積層温度の上限は400℃である。積層温度が高温であるほど、処理工程の実行中にガラスフィルム1の支持ガラス2からの剥離を防止しやすくなる。なお、ガラスフィルム1と支持ガラス2との積層温度は、両ガラス1,2の間で同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
また、ガラスフィルム1と支持ガラス2との積層温度は、加熱工程の実行直後における両ガラス1,2の温度(以下、予備加熱温度と表記する)と同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、両ガラス1,2の積層温度と予備加熱温度とを同一とする場合には、加熱工程の実行直後に積層体作製工程を実行し、両ガラス1,2を重ね合わせてもよい。このようにすれば、加熱工程の実行中に両ガラス1,2が得た熱エネルギーを積層体作製工程の実行時に無駄なく利用することが可能である。また、両ガラス1,2の積層温度と予備加熱温度とを同一とする場合、加熱工程の実行後に両ガラス1,2の温度を一旦は低下させた後、再び予備加熱温度と同一の温度まで加熱してから積層体作製工程を実行し、両ガラス1,2を重ね合わせてもよい。一方、両ガラス1,2の積層温度と予備加熱温度とを異ならせる場合には、加熱工程の実行後に両ガラス1,2をより高温まで加熱してから積層体作製工程を実行し、両ガラス1,2を重ね合わせてもよい(積層温度を予備加熱温度よりも高温とする場合)。また、加熱工程の実行直後よりも両ガラス1,2の温度が低下してから積層体作製工程を実行し、両ガラス1,2を重ね合わせてもよい(積層温度を予備加熱温度よりも低温とする場合)。
【0026】
この積層体作製工程の実行により、積層体3が作製されると共に、ガラスフィルム1と支持ガラス2とが加熱されている分だけ、両ガラス1,2の間に作用する密着力の初期値が大きくなる。なお、積層体作製工程は、加熱工程の実行時と同様にして、両ガラス1,2の各々における周辺の雰囲気を減圧(例えば1kPa以下)した状態の下や、低湿度(例えば湿度40%以下)とした状態の下で実行してもよい。これにより、加熱工程の実行によって両合わせ面1a,2aの各々から除去した分の水酸基や水分が、両合わせ面1a,2aに再生されることを防止しやすくなる。また、密着力の初期値を大きくするにあたっては、ガラスフィルム1と支持ガラス2とを重ね合わせた後、積層体3に対して厚み方向に圧力を加えてもよい(例えば0.0001MPa〜1MPaの範囲内で加圧)。
【0027】
処理工程では、積層体3におけるガラスフィルム1の有効面1b上に、陽極層6、正孔輸送層7、発光層8、電子輸送層9、陰極層10を順々に積層して有機EL素子4を形成すると共に、有効面1b上に形成した有機EL素子4をカバーガラス11で覆う。各層6〜10の形成には、CVD法やスパッタリング法等に代表される種々の成膜方法を用いることが可能である。なお、処理工程の実行時には積層体3の温度が、例えば300℃程度まで加熱される。カバーガラス11は、その外縁部11aをガラスフィルム1と直接に重ね合わせた後、両者が重なった箇所にレーザーを照射することでガラスフィルム1と接着させる。このカバーガラス11としては、ガラスフィルム1と同一な組成を有したガラス(本実施形態においては無アルカリガラス)を使用することが好ましい。このようにすれば、ガラスフィルム1との熱膨張係数の大きさの違いに起因して、処理工程の実行中にガラスフィルム1、或いは、カバーガラス11が破損することを防止できる。
【0028】
ここで、本実施形態においては、カバーガラス11の外縁部11aと、ガラスフィルム1とを直接に重ね合わせているが、ガラスフリットやスペーサー等を介してカバーガラス11の外縁部11aと、ガラスフィルム1とを重ね合わせてもよい。また、本実施形態においては、ガラスフィルム1の有効面1b上に、電子デバイス材として有機EL素子4を形成しているが、この限りではない。例えば、電子デバイス材として、液晶素子、タッチパネル素子、太陽電池素子、圧電素子、受光素子、リチウムイオン二次電池等の電池素子、MEMS素子、半導体素子等を形成してもよい。
【0029】
剥離工程では、種々の方法を用いて有機EL素子4を形成済のガラスフィルム1を支持ガラス2から剥離させることが可能である。例えば、両ガラス1,2の間に刃状のものを挿入して剥離させてもよいし、吸着パッド等で吸着することで剥離させてもよい。この剥離工程の完了により、有機EL素子4を形成済のガラスフィルム1がガラス基板5として得られる。
【0030】
以上に説明したガラス基板の製造方法によれば、有機EL素子4を形成する処理中にはガラスフィルム1の支持ガラス2からの剥離を防止でき、且つ、処理後にはガラスフィルム1を支持ガラス2から剥離させることが可能である。
【0031】
ここで、本発明に係るガラス基板の製造方法は、上記の実施形態で説明した態様に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態においては、積層体作製工程の実行時にガラスフィルム1と支持ガラス2とを直接に重ね合わせているが、ガラスフィルム1の合わせ面1a、或いは、支持ガラス2の合わせ面2aに有機膜や無機膜でなる中間層を形成し、この中間層を介して両ガラス1,2を重ね合わせてもよい。この場合、中間層は加熱工程の実行前に形成し、加熱工程の実行中にガラスフィルム1、或いは、支持ガラス2と共に中間層をも加熱することが好ましい。このようにすれば、中間層の表面に存する水分の一部が除去され、処理工程の実行中における密着力の初期値からの増大を抑制することができる。
【0032】
また、上記の実施形態では、加熱工程の実行中にガラスフィルム1と支持ガラス2とを100℃以上の温度まで加熱し、積層体作製工程の実行時にガラスフィルム1と支持ガラス2との温度を100℃以上とした状態で両ガラス1,2を重ね合わせているが、この限りではない。加熱工程では、ガラスフィルム1と支持ガラス2との温度を常温下での温度よりも高温となるように加熱すればよく、両ガラス1,2を100℃未満の温度までしか加熱しなくてもよいし、両ガラス1,2のうち、一方のみを100℃以上の温度まで加熱してもよい。また、積層体作製工程では、ガラスフィルム1と支持ガラス2とを常温下での温度よりも加熱された状態で重ね合わせればよく、両ガラス1,2の温度を100℃未満とした状態で重ね合わせてもよいし、両ガラス1,2のうち、一方のみの温度を100℃以上とした状態で重ね合わせてもよい。
【実施例】
【0033】
本発明の実施例として、上記の実施形態と同様の態様の下、積層体におけるガラスフィルムに対して有機EL素子を形成する処理を施すと共に、有機EL素子を形成済のガラスフィルムを支持ガラスから剥離してガラス基板を製造した。そして、処理中におけるガラスフィルムの支持ガラスからの剥離の有無と、処理後におけるガラスフィルムの支持ガラスからの剥離の可否とについて検証を行った。なお、本検証は異なった五つの条件(実施例1〜3及び比較例1,2)の下で行った。
【0034】
まず、実施例1〜3及び比較例1,2に共通した実施条件について説明する。
【0035】
ガラスフィルム及び支持ガラスとして、日本電気硝子社製の無アルカリガラス(製品名:OA−10G)を使用した。ガラスフィルムの厚みは100μm、縦×横の寸法は678mm×878mmである。一方、支持ガラスの厚みは500μm、縦×横の寸法は680mm×880mmである。
【0036】
ガラスフィルムと支持ガラスとを重ね合わせて積層体を作製した後、積層体におけるガラスフィルムに対し、スパッタリング法を用いて透明導電膜(ITO膜)を成膜する処理を施した。成膜した透明導電膜の厚みは150nmである。なお、成膜時における積層体の処理温度は300℃とした。ガラスフィルムへの透明導電膜の成膜後、真空蒸着法を用いて透明導電膜上に正孔注入層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極電極を順々に積層して有機EL素子を形成した。
【0037】
ガラスフィルムに形成した有機EL素子はカバーガラスで覆った。カバーガラスとしては、ガラスフィルム及び支持ガラスと同様に日本電気硝子社製の無アルカリガラス(製品名:OA−10G)を使用した。カバーガラスの厚みは500μm、縦×横の寸法は678mm×878mmである。その後、有機EL素子を形成済のガラスフィルムを支持ガラスから剥離させてガラス基板を得た。
【0038】
次に、実施例1〜3及び比較例1,2の間で異なった実施条件について説明する。
【0039】
実施例1〜3及び比較例2では、ガラスフィルムと支持ガラスとを重ね合わせて積層体を作製する前に両ガラスを常温下での温度(25℃)から加熱した。実施例1及び実施例2では両ガラスを300℃まで加熱し、実施例3及び比較例2では両ガラスを100℃まで加熱した。一方、比較例1では積層体を作製する前に両ガラスを加熱せずに、常温下での温度(25℃)のままとした。なお、以下において、これらの温度を予備加熱温度と表記する。
【0040】
また、実施例1〜3では、ガラスフィルムと支持ガラスとを重ね合わせて積層体を作製する際に、両ガラスが加熱された状態で両者を重ね合わせた。実施例1では重ね合わせる際の両ガラスの温度を300℃とし、実施例2及び実施例3では重ね合わせる際の両ガラスの温度を100℃とした。一方、比較例1及び比較例2では、重ね合わせる際の両ガラスの温度を常温下での温度(25℃)とし、両ガラスを加熱した状態とすることなく重ね合わせた。なお、以下において、これらの温度を積層温度と表記する。
【0041】
以下に実施例1〜3及び比較例1,2の各々における検証の結果について説明する。
【0042】
実施例1(予備加熱温度:300℃、積層温度:300℃)では、ガラスフィルムと支持ガラスとの密着力が強固であり、処理中におけるガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止できた。また、処理後においてはガラスフィルムを支持ガラスから剥離することが可能であった。
【0043】
実施例2(予備加熱温度:300℃、積層温度:100℃)では、実施例1には劣るもののガラスフィルムと支持ガラスとの密着力が強固であり、処理中におけるガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止できた。また、処理後においてはガラスフィルムを支持ガラスから剥離することが可能であった。
【0044】
実施例3(予備加熱温度:100℃、積層温度:100℃)では、実施例1には劣るもののガラスフィルムと支持ガラスとの密着力が強固であり、処理中におけるガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止できた。また、処理後においてはガラスフィルムを支持ガラスから剥離することが可能であった。
【0045】
比較例1(予備加熱温度:25℃、積層温度:25℃)では、処理中におけるガラスフィルムの支持ガラスからの剥離を防止できるものの、処理後におけるガラスフィルムと支持ガラスとの密着力が過剰に強固となり、ガラスフィルムを支持ガラスから剥離することが不可能であった。
【0046】
比較例2(予備加熱温度:100℃、積層温度:25℃)では、処理後にガラスフィルムを支持ガラスから剥離することは可能であったものの、処理中におけるガラスフィルムと支持ガラスとの密着力が弱く、ガラスフィルムの支持ガラスからの部分的な剥離が認められた。
【符号の説明】
【0047】
1 ガラスフィルム
2 支持ガラス
3 積層体
4 有機EL素子
5 ガラス基板