特開2016-176035(P2016-176035A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル電子化成株式会社の特許一覧

特開2016-176035複合微粒子および複合微粒子の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-176035(P2016-176035A)
(43)【公開日】2016年10月6日
(54)【発明の名称】複合微粒子および複合微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20160909BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20160909BHJP
【FI】
   C08F2/44 A
   C08F292/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-58731(P2015-58731)
(22)【出願日】2015年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将人
(72)【発明者】
【氏名】本田 常俊
(72)【発明者】
【氏名】大野 工司
【テーマコード(参考)】
4J011
4J026
【Fターム(参考)】
4J011PA13
4J011PB06
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC07
4J026AC00
4J026BA29
4J026DB03
4J026DB17
4J026FA02
(57)【要約】
【課題】微粒子の表面上にフッ素ポリマーが生成されている複合微粒子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】微粒子と、前記微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーとを含む複合微粒子とする。フッ素ポリマーが下記式(1)で表されるパーフルオロアルキル基を有するモノマーの重合物であることが好ましい。
2n+1−X−OCO−CY=CH ・・・(1)
但し、上記式(1)において、Xは2価の有機基、nは1〜8の整数、YはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子と、前記微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーとを含むことを特徴とする複合微粒子。
【請求項2】
前記フッ素ポリマーが下記式(1)で表されるパーフルオロアルキル基を有するモノマーの重合物であることを特徴とする請求項1に記載の複合微粒子。
2n+1−X−OCO−CY=CH ・・・(1)
但し、上記式(1)において、Xは2価の有機基、nは1〜8の整数、YはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【請求項3】
上記式(1)において、Xが下記式(2)または下記式(3)で表される有機基であることを特徴とする請求項2に記載の複合微粒子。
2a・・・(2)
SON(R)C2b・・・(3)
但し、上記式(2)において、aは1〜4の整数である。上記式(3)において、bは1〜4の整数、 RはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【請求項4】
前記微粒子上における前記フッ素ポリマーのグラフト密度が0.1/nm以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の複合微粒子。
【請求項5】
前記微粒子が、シリカまたは金属酸化物からなるものであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の複合微粒子。
【請求項6】
微粒子と重合開始剤とを反応させて、前記微粒子の表面に重合開始基を導入する重合開始基付与工程と、
前記微粒子の表面上でパーフルオロアルキル基を有するモノマーをリビングラジカル重合させることにより、前記微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーを生成させる重合工程と、を含むことを特徴とする複合微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記重合工程において、前記モノマーをフッ素系溶媒中に溶解させてリビングラジカル重合させることを特徴とする請求項6に記載の複合微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合微粒子および複合微粒子の製造方法に関し、特に、微粒子の表面にフッ素ポリマーの結合された複合微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、材料の表面上でモノマーをリビングラジカル重合させる表面開始リビングラジカル重合法を用いて、微粒子の表面上にポリマー層を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。表面開始リビングラジカル重合法を用いることで、分子量分布の狭いポリマーを、微粒子の表面から高密度で成長させることができる。
【0003】
非特許文献1および非特許文献2では、モノマーとしてメチルメタクリレートを用いることにより、微粒子の表面上に高密度でポリメチルメタクリレートを被覆させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4128027号公報
【特許文献2】特許第4982748号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromolecules 2005, 38, 2137-2142.
【非特許文献2】Macromolecules 2010, 43, 8805-8812.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、微粒子の表面上にポリマー層が形成されている複合微粒子では、ポリマー層の特性に基づく機能が付与されたものとなっている。したがって、表面開始リビングラジカル重合法を用いて微粒子の表面上にポリマーが生成されてなる複合微粒子は、重合に使用するモノマーの種類(すなわち生成されるポリマーの種類)に応じて異なる機能を有するものとなる。
しかしながら、従来、表面開始リビングラジカル重合法において使用されるモノマーは、炭化水素系の(メタ)アクリル酸エステルであり、モノマーの適用範囲の拡大が課題となっていた。
【0007】
フッ素ポリマーは、従来から、低屈折率、低誘電率で、優れた撥水撥油性や非粘着性を有する材料として知られている。よって、微粒子の表面上にフッ素ポリマーの形成された複合微粒子は、それらの機能が付与されたものとなる。
しかし、従来、微粒子の表面上にフッ素ポリマーが生成されている複合微粒子はなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、微粒子の表面上にフッ素ポリマーが生成されている複合微粒子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者は、鋭意検討を重ねた。
その結果、微粒子と重合開始剤とを反応させて微粒子の表面に重合開始基を導入してから、微粒子の表面上でパーフルオロアルキル基を有するモノマーをリビングラジカル重合させることにより、微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーを生成させることができることを見出し、本発明を想到した。本発明は以下の構成を採用した。
【0010】
[1] 微粒子と、前記微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーとを含むことを特徴とする複合微粒子。
【0011】
[2] 前記フッ素ポリマーが下記式(1)で表されるパーフルオロアルキル基を有するモノマーの重合物であることを特徴とする[1]に記載の複合微粒子。
2n+1−X−OCO−CY=CH ・・・(1)
但し、上記式(1)において、Xは2価の有機基、nは1〜8の整数、YはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0012】
[3] 上記式(1)において、Xが下記式(2)または下記式(3)で表される有機基であることを特徴とする[2]に記載の複合微粒子。
2a・・・(2)
SON(R)C2b・・・(3)
但し、上記式(2)において、aは1〜4の整数である。下記式(3)において、bは1〜4の整数、 RはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0013】
[4] 前記微粒子上における前記フッ素ポリマーのグラフト密度が0.1/nm以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の複合微粒子。
[5] 前記微粒子が、シリカまたは金属酸化物からなるものであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の複合微粒子。
【0014】
[6] 微粒子と重合開始剤とを反応させて、前記微粒子の表面に重合開始基を導入する重合開始基付与工程と、
前記微粒子の表面上でパーフルオロアルキル基を有するモノマーをリビングラジカル重合させることにより、前記微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーを生成させる重合工程と、を含むことを特徴とする複合微粒子の製造方法。
[7] 前記重合工程において、前記モノマーをフッ素系溶媒中に溶解させてリビングラジカル重合させることを特徴とする[6]に記載の複合微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合微粒子は、微粒子と、微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーとを含むものである。したがって、本発明の複合微粒子は、低屈折率、低誘電率で優れた撥水撥油性や非粘着性を有するフッ素ポリマーの特性に基づく機能が付与されたものとなる。しかも、本発明の複合微粒子は、微粒子の表面とフッ素ポリマーとが結合されているので、微粒子の表面からポリマーが剥離しにくく、フッ素ポリマーの特性に基づく機能が効果的に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について詳細に説明する。なお、本発明の技術範囲は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0017】
「複合微粒子」
本実施形態の複合微粒子は、微粒子と、微粒子の表面に共有結合により化学的に結合されたフッ素ポリマーとを含むものである。
【0018】
微粒子は、特に限定されるものではなく、複合微粒子の用途や、使用する重合開始剤の種類、生成させるフッ素ポリマーの種類等に応じて決定できる。
【0019】
微粒子の材料としては、複合微粒子の製造工程において、微粒子の表面に重合開始基を導入する際に、重合開始剤と反応するヒドロキシ基(−OH基)を供給できるものを用いることが好ましい。このような微粒子を用いることで、容易に微粒子と重合開始剤とを反応させることができ、容易に微粒子の表面に重合開始基を導入できるとともに、後述するリビングラジカル重合を行うことにより、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーが生成される。
【0020】
重合開始剤と反応するヒドロキシ基(−OH基)を供給できる微粒子としては、具体的には、例えば、シリカからなる微粒子や、酸化チタン、酸化亜鉛などの金属酸化物からなる微粒子、Au、Ag、Pt、Pdなどの貴金属、Zr、Ta、Sn、Cu、V、Sb、In、Hf、Y、Ce、Sc、La、Eu、Ni、Co、Feなどの遷移金属、それらの酸化物または窒化物などの無機物質あるいは有機物質からなる微粒子などを用いることができる。シリカからなる微粒子としては、例えば、シーホスター(商品名:日本触媒社製)、アエロジル(商品名:日本アエロジル社製)などが挙げられる。
【0021】
微粒子の粒径は、複合微粒子の用途等に応じて決定でき、特に限定されるものではないが、例えば、一次粒子径が5nm〜10μmのものを用いることができる。なお、一次粒子径とは単位粒子の直径の平均値(体積粒度分布測定による、モード径)を意味する。
【0022】
本実施形態の複合微粒子において、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーは、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むものである。
フッ素ポリマーの分子量は、特に限定されないが、1000〜100000であることが好ましい。フッ素ポリマーの分子量が上記範囲内である場合、複合微粒子の製造時にリビングラジカル重合の条件を制御することで容易に製造できるとともに、フッ素ポリマーとしての特性を十分に発揮できる複合微粒子となるため好ましい。
【0023】
フッ素ポリマーの分子量は、フッ素ポリマーを生成させるリビングラジカル重合を行う際に、微粒子量とモノマー量との割合や、使用する触媒の種類および使用量、反応温度、反応時間などを制御することによって調整できる。
また、フッ素ポリマー分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、1.0〜1.5の範囲であることが好ましい。フッ素ポリマー分子量分布が上記範囲内である場合、品質のばらつきの少ない複合微粒子となるため好ましい。
【0024】
フッ素ポリマーは、具体的には、下記式(1)で表されるパーフルオロアルキル基を有するモノマーの重合物であることが好ましい。
2n+1−X−OCO−CY=CH ・・・(1)
但し、上記式(1)において、Xは2価の有機基、nは1〜8の整数、YはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0025】
上記式(1)においては、Xが下記式(2)または下記式(3)で表される有機基であることが好ましい。
2a・・・(2)
SON(R)C2b・・・(3)
但し、上記式(2)において、aは1〜4の整数である。上記式(3)において、bは1〜4の整数、 RはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0026】
Xが上記式(2)または上記式(3)で表される有機基である場合、モノマーの合成が簡便であり、工業上容易に入手可能であるため好ましい。
【0027】
上記式(1)において、nが1であるモノマーとしては、CFCHOCOCH=CH、CFCHOCOC(CH)=CH、CFCHCHOCOCH=CH、CFCHCHOCOC(CH)=CH、CFSON(R)CHCHOCOCH=CH、CFSON(R)CHCHOCOC(CH)=CHCFO(CFCFCHOCOCH=CH、CFO(CFCFCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0028】
上記式(1)において、nが2であるモノマーとしては、CCHOCOCH=CH、CCHOCOC(CH)=CH、CCHCHOCOCH=CH、CCHCHOCOC(CH)=CH、CSON(R)CHCHOCOCH=CH、CSON(R)CHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0029】
上記式(1)において、nが3であるモノマーとしては、CCHOCOCH=CH、CCHOCOC(CH)=CH、CCHCHOCOCH=CH、CCHCHOCOC(CH)=CH、CSON(R)CHCHOCOCH=CH、CSON(R)CHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0030】
上記式(1)において、nが4であるモノマーとしては、CCHOCOCH=CH、CCHOCOC(CH)=CH、CCHCHOCOCH=CH、CCHCHOCOC(CH)=CH、CSON(R)CHCHOCOCH=CH、CSON(R)CHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0031】
上記式(1)において、nが5であるモノマーとしては、C11CHOCOCH=CH、C11CHOCOC(CH)=CH、C11CHCHOCOCH=CH、C11CHCHOCOC(CH)=CH、C11SON(R)CHCHOCOCH=CH、C11SON(R)CHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0032】
上記式(1)において、nが6であるモノマーとしては、C13CHOCOCH=CH、C13CHOCOC(CH)=CH、C13CHCHOCOCH=CH、C13CHCHOCOC(CH)=CH、C13SON(R)CHCHOCOCH=CH、C13SON(R)CHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0033】
上記式(1)において、nが7であるモノマーとしては、C15CHOCOCH=CH、C15CHOCOC(CH)=CH、C15CHCHOCOCH=CH、C15CHCHOCOC(CH)=CH、C15SON(R)CHCHOCOCH=CH、C15SON(R)CHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0034】
上記式(1)において、nが8であるモノマーとしては、C17CHOCOCH=CH、C17CHOCOC(CH)=CH、C17CHCHOCOCH=CH、C17CHCHOCOC(CH)=CH、C17SON(R)CHCHOCOCH=CH、C17SON(R)CHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである。
【0035】
上記式(1)で表されるモノマーは、上記の中でも特に、nが4であるCCHOCOCH=CH、CCHOCOC(CH)=CH、CCHCHOCOCH=CH、CCHCHOCOC(CH)=CH、CSON(R)CHCHOCOCH=CH、CSON(R)CHCHOCOC(CH)=CHであることが好ましい。上記式(1)で表されるモノマーがこれらから選ばれるいずれか一つである場合、含有するペルフルオロアルキル基の生態蓄積性が低いフッ素ポリマーを含む複合微粒子となるため好ましい。
【0036】
また、上記式(1)で表されるモノマーとしては、フッ素含有率が20重量%以上であるものを用いることが好ましく、30重量%以上であるものを用いることがより好ましい。モノマーとしてフッ素含有率が20重量%以上のものを用いることで、フッ素ポリマーを含むことによる機能がより顕著に得られる複合微粒子が得られる。
【0037】
本実施形態の複合微粒子は、微粒子上におけるフッ素ポリマーのグラフト密度が0.1/nm以上であることが好ましい。フッ素ポリマーのグラフト密度とは、微粒子の表面の1nmの面積内に存在するフッ素ポリマー(高分子)鎖の数を意味している。グラフト密度は、元素分析により求めた微粒子表面から伸長して形成されたフッ素ポリマー鎖の量(グラフト量)と、微粒子の比重(g/cm)および表面積(nm)と、フッ素ポリマーの分子量とを用いて算出される。
グラフト密度が0.1/nm以上である場合、フッ素ポリマーの特性に基づく機能がより効果的に得られる複合微粒子となる。
【0038】
グラフト密度は、フッ素ポリマーの原料であるモノマーの種類によって変化する。フッ素ポリマーが、モノマーとして上記式(1)で表される、nが1から8であるものを用いたものである場合、微粒子上におけるフッ素ポリマーのグラフト密度が高い複合微粒子となるため好ましい。
【0039】
なお、本実施形態の複合微粒子に含まれるフッ素ポリマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。また、本実施形態の複合微粒子を製造する際に、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーを生成させるモノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0040】
「製造方法」
次に、本実施形態の複合微粒子の製造方法について説明する。
本実施形態の複合微粒子を製造するには、まず、微粒子と重合開始剤とを反応させて、前記微粒子の表面に重合開始基を導入する(重合開始基付与工程)。
【0041】
重合開始剤としては、下記式(4)で表される一方の末端にハロゲンを有し、他方の末端にトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。このような重合開始剤は、微粒子の表面から供給されるヒドロキシ基(−OH基)と反応して、容易に微粒子の表面に重合開始基を導入できるものであるため、好ましい。
【0042】
【化1】
【0043】
上記式(4)中、nは3−10の整数、Rは炭素数1−3のアルキル基、Rは炭素数1−2のアルキル基、Xはハロゲン原子を表す。
【0044】
上記式(4)で表される重合開始剤としては、具体的には、(CHCHO)Si(CHOCOC(CHBr、(CHCHO)Si(CHOCOC(CHBr、(CHCHO)Si(CHOCOC(CHBr、(CHCHO)Si(CHOCOC(CHBrなどが挙げられ、中でも下記式(5)で表される重合開始剤を用いることが好ましい。下記式(5)で表される重合開始剤を用いることで、微粒子とフッ素ポリマー間の距離を短くすることができ、微粒子の表面に共有結合により化学的に結合されたフッ素ポリマーを効率よく合成でき、効率的に複合微粒子を製造できる。
【0045】
【化2】
【0046】
微粒子と反応させる重合開始剤の使用量は、重合開始剤の種類、微粒子の種類、上述したパーフルオロアルキル基を有するモノマーの種類、製造する複合微粒子に要求されるフッ素ポリマーのグラフト密度などに応じて適宜決定できる。
【0047】
微粒子と、微粒子と反応させる重合開始剤の使用量との重量比(重合開始剤/微粒子)は、0.1〜1.0の範囲であることが好ましい。重合開始剤の使用量が上記範囲であると、微粒子の表面に導入される重合開始基の数が十分に多くなるため、フッ素ポリマー鎖の数が多くなり、グラフト密度が0.1/nm以上と高くなる。なお、重合開始剤の使用量を、上記範囲を超える量としても、微粒子の表面に導入される重合開始基の数を多くする効果は向上しない。
【0048】
また、微粒子と重合開始剤とを反応させる際には、微粒子と重合開始剤との反応性を向上させるために、塩基性条件下で行うことが好ましい。
塩基としては、例えば、アンモニアやアミン化合物、第4級アンモニウム塩水酸化物、金属水酸化物などを用いることができる。
【0049】
次に、表面に重合開始基の導入された微粒子の表面上で、上述したパーフルオロアルキル基を有するモノマーをリビングラジカル重合させる(重合工程)。
本実施形態におけるリビングラジカル重合は、モノマー中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させて行ってもよいし、モノマーを溶解させた溶媒中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させて行ってもよい。
【0050】
具体的には、モノマーとして室温で液状のものを用いる場合、モノマー中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させてリビングラジカル重合させることが好ましい。
【0051】
室温で液状であるモノマーとしては、CCHOCOCH=CH、CCHOCOC(CH)=CH、CCHCHOCOCH=CH、CCHCHOCOC(CH)=CHなどが挙げられる。
【0052】
また、モノマーとして室温で固体のものを用いる場合、モノマーを溶解させた溶媒中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させてリビングラジカル重合させることが好ましい。
【0053】
室温で固体であるモノマーとしては、CSON(R)CHCHOCOCH=CH、CSON(R)CHCHOCOC(CH)=CH(上記式中RはHまたはCH、C、C、Cである)などが挙げられる。
【0054】
リビングラジカル重合させる際にモノマーを溶解させる溶媒としては、モノマーと、リビングラジカル重合後に得られるフッ素ポリマーの両方を溶解できるものを用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、α,α,α−トリフルオロトルエン、α,α,α−トリフルオロ−m−キシレン、α,α,α−トリフルオロ−p−キシレン、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロデカン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロへキサン、ペルフルオロデカリンなどのフッ素系溶媒が挙げられる。
【0055】
モノマーをフッ素系溶媒中に溶解させてリビングラジカル重合させることで、モノマーの重合反応が十分に進行し、高分子量のフッ素ポリマーで被覆された複合微粒子が得られるとともに、グラフト密度を高くすることができる。
【0056】
なお、リビングラジカル重合させる際にモノマーを溶解させる溶媒として、例えば、従来使用されているテトラヒドロフランやジメチルホルムアミドを用いた場合、重合が進行するとともに微粒子が溶媒中に分散されにくくなり、微粒子が溶媒中に沈降してしまう。その結果、リビングラジカル重合が十分に進行せず、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーを含む複合微粒子が得られない。
【0057】
また、本実施形態においては、リビングラジカル重合を促進するために、微粒子の表面に重合開始基を導入する際だけでなく、リビングラジカル重合を行う際にも、必要に応じて重合開始剤を用いることができる。
【0058】
リビングラジカル重合を行う際に使用される重合開始剤としては、重合開始末端となるハロゲンを有する化合物であれば特に限定されるものではなく、微粒子の表面に重合開始基を導入する際に用いたものと同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。具体的には、リビングラジカル重合を行う際に使用される重合開始剤として例えば、エチル−2−ブロモイソブチレート、エチル−2−クロロイソブチレート、エチル−2−ヨードイソブチレート、メチル−2−ブロモイソブチレート、メチル−2−クロロイソブチレート、メチル−2−ヨードイソブチレート、エチル−2−ブロモブチレート、エチル−2−クロロブチレート、エチル−2−ヨードブチレート、メチル−2−ブロモブチレート、メチル−2−クロロブチレート、メチル−2−ヨードブチレート、エチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−ヨードプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ヨードプロピオネートなどが挙げられる。
【0059】
本実施形態におけるリビングラジカル重合を行う際には、触媒を用いることが好ましい。触媒としては、ルテニウム、銅、鉄、チタン、モリブデン、レニウム、オスミウム、ロジウム、ニッケル、パラジウムなどを用いることが好ましい。上記の触媒の中でも2価のルテニウムや1価の銅を用いることが好ましく、特に、入手が容易であり、重合の制御が容易である1価の銅を用いることが好ましい。1価の銅触媒としては、CuCl、CuBrなどが挙げられる。
【0060】
1価の銅触媒を用いてリビングラジカル重合を行う場合、1価の銅触媒とともに配位子を用いることが好ましい。配位子としては、窒素を配位点として有する多座配位子であるピリジン系、アミン系の配位子を用いることが好ましい。配位子としては、具体的には、ビピリジン(bpy)、ジヘプチルビピリジン(dHbpy)、ジノニルビピリジン(dNbpy)、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス(2−ピリジルメチル)アミン(TPMA)、トリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン(Me6TREN)、テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)などが挙げられる。
【0061】
本実施形態におけるリビングラジカル重合における反応温度は、リビングラジカル重合に使用する溶媒やモノマー、触媒の種類などに応じて適宜決定でき、室温〜120℃の範囲であることが好ましい。上記の反応温度は、効率よくリビングラジカル重合を進行させて反応時間を短縮できるように、50℃以上であることがより好ましい。また、上記の反応温度は、副反応が起こりにくいように100℃以下であることがより好ましい。
【0062】
また、本実施形態におけるリビングラジカル重合における反応時間は、モノマーの種類や反応温度などに応じて適宜決定でき、特に限定されないが、通常1−24時間で行われる。
以上の工程により、微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーが生成される。
【0063】
なお、複合微粒子中のフッ素ポリマー層はシリカの粒径に対して非常に薄いため、複合微粒子の大きさは用いたシリカの粒径とほぼ同じとなる。すなわち、複合微粒子の大きさは、製造方法に依存するものではなく、シリカの粒径により制御される。
【0064】
本実施形態の複合微粒子は、微粒子と、微粒子の表面に結合された炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーとを含むものであり、低屈折率、低誘電率で優れた撥水撥油性や非粘着性を有するものであるフッ素ポリマーの特性に基づく機能が付与されたものである。したがって、本実施形態の複合微粒子は、例えば、撥水撥油性を有する塗膜の得られる塗料の材料などとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
「実施例1」
粒径290nmのシリカからなる微粒子(商品名:シーホスターKE−E30、日本触媒社製)と、上記式(5)で示される重合開始剤とを反応させて、微粒子の表面に重合開始基を導入した(重合開始基付与工程)。
【0066】
まず、微粒子10.0gを含むエタノール分散液100mLと、28%アンモニア水溶液29.9gとエタノール400mLと水8.6gとを混合して混合液とした。得られた混合液を40℃で2時間攪拌した後、上記式(5)で示される重合開始剤2.5g(上記非特許文献2に記載の方法に従い合成)のエタノール20mL溶液を滴下し、40℃で24時間攪拌した。その後、重合開始基の導入された微粒子を、遠心分離法を用いて回収し、エタノールおよびトリフルオロトルエンで洗浄し、トリフルオロトルエン中で保存した。
【0067】
次に、以下に示す方法により、表面に重合開始基の導入された微粒子の表面上で、下記式(6)で表されるモノマーをリビングラジカル重合させた(重合工程)。
【0068】
【化3】
【0069】
まず、上記の式(6)で表されるモノマー5.2g(米国特許第2803615号に記載の方法により合成)を溶媒であるトリフルオロトルエン5.0g(シグマアルドリッチ社製)中に溶解させた。その後、上記モノマーの溶解されたトリフルオロトルエン中に、表面に重合開始基の導入された微粒子0.1gと、銅触媒である「CuCl」9.6mg(和光純薬工業株式会社製)と、配位子であるジノニルビピリジン「dNbpy」79.6mg(和光純薬工業株式会社製)と、重合開始剤であるエチル−2−ブロモイソブチレート4.8mg(東京化成工業株式会社製)とを加えて、分散・溶解させ、窒素バブリングにより脱気し、反応温度100℃で16時間加熱して重合反応させた。その後、重合により得られた複合微粒子を、遠心分離とトリフルオロトルエンへの再分散を3回繰り返すことにより精製した。
以上の工程により、実施例1の複合微粒子を得た。
【0070】
「実施例2」
シリカからなる微粒子の粒径を130nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の複合微粒子を得た。
「実施例3」
微粒子として、粒径180nmの酸化チタンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の複合微粒子を得た。
【0071】
「実施例4」
モノマーとして、「CSON(CH)CHCHOCOCH=CH」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の複合微粒子を得た。
「実施例5」
モノマーとして、室温で液状である「CCHCHOCOCH=CH」(シグマアルドリッチ社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例5の複合微粒子を得た。
「実施例6」
モノマーとして、「CFCHOCOC(CH)=CH」(シグマアルドリッチ社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例6の複合微粒子を得た。
【0072】
「実施例7」
室温で液状のモノマーである「CCHCHOCOCH=CH」10.0g中に、実施例1の重合開始基付与工程で得られた表面に重合開始基の導入された微粒子0.1gと、銅触媒である「CuCl」9.6mgと、配位子であるジノニルビピリジン「dNbpy」79.6mgと、重合開始剤であるエチル−2−ブロモイソブチレート4.8mgとを加えて、分散・溶解させ、窒素バブリングにより脱気し、反応温度100℃で16時間加熱して重合反応させた。その後、重合により得られた複合微粒子を、遠心分離とトリフルオロトルエンへの再分散を3回繰り返すことにより精製した。
以上の工程により、実施例7の複合微粒子を得た。
【0073】
実施例1〜実施例7の複合微粒子について、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いてフッ素ポリマーの分子量を測定した。また、実施例1〜実施例7の複合微粒子について、TGA(熱重量測定)による重量減少率から、微粒子に被覆されているフッ素ポリマーの重量を算出した。
【0074】
(GPC測定条件)
「カラム」
Inertsil WP300 Diol(5μm、250×4、6mm I.D.)、Inertsil Diol(5μm、250×4.6mm I.D.)(いずれもGL Science社製)
「検出器」
高速液体クロマトグラフ用示差屈折計検出器「RID−10A」(SHIMADZU社製)
「測定条件」
カラム温度:40℃、展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:1.0ml/min
「試料」
重合工程で得られた上澄み液から再沈殿により、微粒子に被覆されていないポリマーを単離し、0.1重量%のテトラヒドロフラン溶液を調製。
「標準試料」
分子量が既知の以下の単分散ポリスチレンを用いた。「A−500」、「A−1000」、「A−2500」、「F−2」、「F−10」、「F−40」(いずれも東ソー社製)
【0075】
(TGA測定条件)
TGA装置として、「TG−DTA2000SA」(NETZSCH社製)を用いた。
【0076】
そして、得られたフッ素ポリマーの分子量(数平均分子量(Mn))と、複合微粒子中のフッ素ポリマーの重量とを用い、以下に示す式(7)を用いて、フッ素ポリマーのグラフト密度(σ)を算出した。
【0077】
σ=(w/Mn)Av/(πdc) ・・・(7)
但し、上記式(7)において、wは複合微粒子中のフッ素ポリマーの重量、Mnはフッ素ポリマーの数平均分子量、Avはアボガドロ数(6.0×1023)、dcは微粒子の直径である。
【0078】
その結果、実施例1の複合微粒子のグラフト密度は0、38、実施例2の複合微粒子のグラフト密度は0、40、実施例3の複合微粒子のグラフト密度は0、31、実施例4の複合微粒子のグラフト密度は0、66、実施例5の複合微粒子のグラフト密度は0、74、実施例6の複合微粒子のグラフト密度は1、03、実施例7の複合微粒子のグラフト密度は0、70であった。
このように実施例1〜実施例7の複合微粒子では、微粒子上におけるフッ素ポリマーのグラフト密度が、0.1/nm以上であった。