【解決手段】微粒子と、前記微粒子の表面に結合された炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーとを含む複合微粒子を含むことを特徴とする表面処理剤とする。フッ素ポリマーが下記式(1)で表されるパーフルオロアルキル基を有するモノマーの重合物であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について詳細に説明する。なお、本発明の技術範囲は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0018】
<表面処理剤>
本実施形態の表面処理剤は、複合微粒子を有機溶媒や水などの溶媒に分散させたものである。表面処理剤は、基材表面に塗布することにより、基材表面に撥水撥油性を付与できるものである。有機溶媒としては、α,α,α−トリフルオロトルエン、α,α,α−トリフルオロ−m−キシレン、α,α,α−トリフルオロ−p−キシレン、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロデカン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロへキサン、ペルフルオロデカリン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ハイドロフルオロエーテルなどのフッ素系溶媒が挙げられる。
【0019】
溶媒中に含まれる複合微粒子の濃度は、複合微粒子に含まれるフッ素ポリマーの種類に応じて決定でき、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。複合微粒子の濃度が10質量%以下である場合、容易に塗布できる粘度となる。また、複合微粒子の濃度が0.1質量%以上である場合、好ましい密度で複合微粒子を含む後述する撥水撥油処理面を容易に形成できる。
【0020】
また、表面処理剤は、基材表面に耐久性などの機能を付与するためや、より一層撥水撥油性を向上させるために、水系塗料や溶媒系塗料などの塗料に、添加剤として複合微粒子を添加したものであってもよい。複合微粒子の添加される塗料としては、アクリル樹脂などの光硬化性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂なの熱硬化性樹脂、その他フッ素樹脂、シリコン樹脂を含む塗料などが挙げられる。また、これらの塗料中には顔料や、レベリング剤、可塑剤、増粘剤、乳化剤などの添加剤が含まれていてもよい。また、本実施形態の表面処理剤は、テトラエトキシシランなどのアルコキシシランを主成分とするゾルゲル液に、添加剤として複合微粒子を添加したものであってもよい。
【0021】
塗料中に含まれる複合微粒子の濃度は、複合微粒子に含まれるフッ素ポリマーの種類に応じて決定でき、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。複合微粒子の濃度が10質量%以下である場合、複合微粒子を添加しても容易に塗布できる粘度となる。また、複合微粒子の濃度が0.1質量%以上である場合、表面処理剤を塗布してなる撥水撥油処理面の表面に、複合微粒子の一部が露出するものとなり、十分な撥水撥油性が得られる。
【0022】
「複合微粒子」
本実施形態の複合微粒子は、微粒子と、微粒子の表面に共有結合により化学的に結合されたフッ素ポリマーとを含むものである。
【0023】
複合微粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、複合微粒子に由来する凹凸による撥水撥油機能をより効果的に得るために、5nm〜10μmの範囲であることが好ましい。複合微粒子の粒径が、5nm以上であると、表面処理剤を基材表面の少なくとも一部に塗布することにより、優れた撥水撥油機能の得られる凹凸形状を容易に形成でき、優れた撥水撥油性を付与できる。複合微粒子の粒径が、10μm以下であると、表面処理剤が容易に均一に塗布できるものとなる。
【0024】
微粒子は、特に限定されるものではなく、表面処理剤の用途や、使用する重合開始剤の種類、生成させるフッ素ポリマーの種類等に応じて決定できる。
【0025】
微粒子の材料としては、複合微粒子の製造工程において、微粒子の表面に重合開始基を導入する際に、重合開始剤と反応するヒドロキシ基(−OH基)を供給できるものを用いることが好ましい。このような微粒子を用いることで、容易に微粒子と重合開始剤とを反応させることができ、容易に微粒子の表面に重合開始基を導入できるとともに、後述するリビングラジカル重合を行うことにより、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーが生成される。
【0026】
重合開始剤と反応するヒドロキシ基(−OH基)を供給できる微粒子としては、具体的には、例えば、シリカからなる微粒子や、酸化チタン、酸化亜鉛などの金属酸化物からなる微粒子、Au、Ag、Pt、Pdなどの貴金属、Zr、Ta、Sn、Cu、V、Sb、In、Hf、Y、Ce、Sc、La、Eu、Ni、Co、Feなどの遷移金属、それらの酸化物または窒化物などの無機物質あるいは有機物質からなる微粒子などを用いることができる。シリカからなる微粒子としては、例えば、シーホスター(商品名:日本触媒社製)、アエロジル(商品名:日本アエロジル社製)などが挙げられる。
【0027】
微粒子の粒径は、表面処理剤の用途や、複合微粒子としたときに必要な粒径等に応じて決定でき、特に限定されるものではないが、例えば、一次粒子径が5nm〜10μmのものを用いることができる。なお、一次粒子径とは単位粒子の直径の平均値(体積粒度分布測定による、モード径)を意味する。
【0028】
本実施形態の複合微粒子において、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含むものである。
フッ素ポリマーの分子量は、特に限定されないが、1000〜100000であることが好ましい。フッ素ポリマーの分子量が上記範囲内である場合、複合微粒子の製造時にリビングラジカル重合の条件を制御することで容易に製造できるとともに、フッ素ポリマーとしての特性を十分に発揮できる複合微粒子となるため好ましい。
【0029】
フッ素ポリマーの分子量は、フッ素ポリマーを生成させるリビングラジカル重合を行う際に、微粒子量とモノマー量との割合や、使用する触媒の種類および使用量、反応温度、反応時間などを制御することによって調整できる。
また、フッ素ポリマー分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、1.0〜1.5の範囲であることが好ましい。フッ素ポリマー分子量分布が上記範囲内である場合、品質のばらつきの少ない複合微粒子となるため好ましい。
【0030】
フッ素ポリマーは、具体的には、下記式(1)で表されるパーフルオロアルキル基を有するモノマーの重合物であることが好ましい。
C
nF
2n+1−X−OCO−CY=CH
2 ・・・(1)
但し、上記式(1)において、Xは2価の有機基、nは1〜6の整数、YはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0031】
上記式(1)においては、Xが下記式(2)または下記式(3)で表される有機基であることが好ましい。
C
aH
2a・・・(2)
SO
2N(R)C
bH
2b・・・(3)
但し、上記式(2)において、aは1〜4の整数である。上記式(3)において、bは1〜4の整数、 RはHまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0032】
Xが上記式(2)または上記式(3)で表される有機基である場合、モノマーの合成が簡便であり、工業上容易に入手可能であるため好ましい。
【0033】
上記式(1)において、nが1であるモノマーとしては、CF
3CH
2OCOCH=CH
2、CF
3CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、CF
3CH
2CH
2OCOCH=CH
2、CF
3CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、CF
3SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、CF
3SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2CF
3O(CF
2CF
2)
SCH
2OCOCH=CH
2、CF
3O(CF
2CF
2)
SCH
2OCOC(CH
3)=CH
2などが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9である。
【0034】
上記式(1)において、nが2であるモノマーとしては、C
2F
5CH
2OCOCH=CH
2、C
2F
5CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
2F
5CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
2F
5CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
2F
5SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
2F
5SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2などが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9である。
【0035】
上記式(1)において、nが3であるモノマーとしては、C
3F
7CH
2OCOCH=CH
2、C
3F
7CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
3F
7CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
3F
7CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
3F
7SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
3F
7SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2などが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9である。
【0036】
上記式(1)において、nが4であるモノマーとしては、C
4F
9CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
4F
9CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
4F
9SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2などが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9である。
【0037】
上記式(1)において、nが5であるモノマーとしては、C
5F
11CH
2OCOCH=CH
2、C
5F
11CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
5F
11CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
5F
11CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
5F
11SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
5F
11SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2などが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9である。
【0038】
上記式(1)において、nが6であるモノマーとしては、C
6F
13CH
2OCOCH=CH
2、C
6F
13CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
6F
13CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
6F
13CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
6F
13SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
6F
13SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2などが挙げられる。なお、上記式中RはHまたはCH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9である。
【0039】
上記式(1)で表されるモノマーは、上記の中でも特に、nが4であるC
4F
9CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
4F
9CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
4F
9SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2であることが好ましい。上記式(1)で表されるモノマーがこれらから選ばれるいずれか一つである場合、含有するペルフルオロアルキル基の生態蓄積性が低いフッ素ポリマーを含む複合微粒子となるため好ましい。
【0040】
また、上記式(1)で表されるモノマーとしては、フッ素含有率が20重量%以上であるものを用いることが好ましく、30重量%以上であるものを用いることがより好ましい。モノマーとしてフッ素含有率が20重量%以上のものを用いることで、フッ素ポリマーを含むことによる機能がより顕著に得られる複合微粒子が得られる。
【0041】
本実施形態の複合微粒子は、微粒子上におけるフッ素ポリマーのグラフト密度が0.1/nm
2以上であることが好ましい。フッ素ポリマーのグラフト密度とは、微粒子の表面の1nm
2の面積内に存在するフッ素ポリマー(高分子)鎖の数を意味している。グラフト密度は、元素分析により求めた微粒子表面から伸長して形成されたフッ素ポリマー鎖の量(グラフト量)と、微粒子の比重(g/cm
3)および表面積(nm
2)と、フッ素ポリマーの分子量とを用いて算出される。
グラフト密度が0.1/nm
2以上である場合、フッ素ポリマーの特性に基づく機能がより効果的に得られる複合微粒子となる。
【0042】
グラフト密度は、フッ素ポリマーの原料であるモノマーの種類によって変化する。フッ素ポリマーが、モノマーとして上記式(1)で表される、nが1から6であるものを用いたものである場合、微粒子上におけるフッ素ポリマーのグラフト密度が高い複合微粒子となるため好ましい。
【0043】
なお、本実施形態の複合微粒子に含まれるフッ素ポリマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。また、本実施形態の複合微粒子を製造する際に、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーを生成させるモノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
「複合微粒子の製造方法」
次に、本実施形態の複合微粒子の製造方法について説明する。
本実施形態の複合微粒子を製造するには、まず、微粒子と重合開始剤とを反応させて、前記微粒子の表面に重合開始基を導入する(重合開始基付与工程)。
【0045】
重合開始剤としては、下記式(4)で表される一方の末端にハロゲンを有し、他方の末端にトリアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。このような重合開始剤は、微粒子の表面から供給されるヒドロキシ基(−OH基)と反応して、容易に微粒子の表面に重合開始基を導入できるものであるため、好ましい。
【0047】
上記式(4)中、nは3−10の整数、R
1は炭素数1−3のアルキル基、R
2は炭素数1−2のアルキル基、Xはハロゲン原子を表す。
【0048】
上記式(4)で表される重合開始剤としては、具体的には、(CH
3CH
2O)
3Si(CH
2)
3OCOC(CH
3)
2Br、(CH
3CH
2O)
3Si(CH
2)
4OCOC(CH
3)
2Br、(CH
3CH
2O)
3Si(CH
2)
5OCOC(CH
3)
2Br、(CH
3CH
2O)
3Si(CH
2)
6OCOC(CH
3)
2Brなどが挙げられ、中でも下記式(5)で表される重合開始剤を用いることが好ましい。下記式(5)で表される重合開始剤を用いることで、微粒子とフッ素ポリマー間の距離を短くすることができ、微粒子の表面に共有結合により化学的に結合されたフッ素ポリマーを効率よく合成でき、効率的に複合微粒子を製造できる。
【0050】
微粒子と反応させる重合開始剤の使用量は、重合開始剤の種類、微粒子の種類、上述したパーフルオロアルキル基を有するモノマーの種類、製造する複合微粒子に要求されるフッ素ポリマーのグラフト密度などに応じて適宜決定できる。
【0051】
微粒子と、微粒子と反応させる重合開始剤の使用量との重量比(重合開始剤/微粒子)は、0.1〜1.0の範囲であることが好ましい。重合開始剤の使用量が上記範囲であると、微粒子の表面に導入される重合開始基の数が十分に多くなるため、フッ素ポリマー鎖の数が多くなり、グラフト密度が0.1/nm
2以上と高くなる。なお、重合開始剤の使用量を、上記範囲を超える量としても、微粒子の表面に導入される重合開始基の数を多くする効果は向上しない。
【0052】
また、微粒子と重合開始剤とを反応させる際には、微粒子と重合開始剤との反応性を向上させるために、塩基性条件下で行うことが好ましい。
塩基としては、例えば、アンモニアやアミン化合物、第4級アンモニウム塩水酸化物、金属水酸化物などを用いることができる。
【0053】
次に、表面に重合開始基の導入された微粒子の表面上で、上述したパーフルオロアルキル基を有するモノマーをリビングラジカル重合させる(重合工程)。
本実施形態におけるリビングラジカル重合は、モノマー中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させて行ってもよいし、モノマーを溶解させた溶媒中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させて行ってもよい。
【0054】
具体的には、モノマーとして室温で液状のものを用いる場合、モノマー中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させてリビングラジカル重合させることが好ましい。
【0055】
室温で液状であるモノマーとしては、C
4F
9CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9CH
2OCOC(CH
3)=CH
2、C
4F
9CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2などが挙げられる。
【0056】
また、モノマーとして室温で固体のものを用いる場合、モノマーを溶解させた溶媒中に、表面に重合開始基の導入された微粒子を分散させてリビングラジカル重合させることが好ましい。
【0057】
室温で固体であるモノマーとしては、C
4F
9SO
2N(R)CH
2CH
2OCOCH=CH
2、C
4F
9SO
2N(R)CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2(上記式中RはHまたはCH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9である)などが挙げられる。
【0058】
リビングラジカル重合させる際にモノマーを溶解させる溶媒としては、モノマーと、リビングラジカル重合後に得られるフッ素ポリマーの両方を溶解できるものを用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、α,α,α−トリフルオロトルエン、α,α,α−トリフルオロ−m−キシレン、α,α,α−トリフルオロ−p−キシレン、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロデカン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロへキサン、ペルフルオロデカリンなどのフッ素系溶媒が挙げられる。
【0059】
モノマーをフッ素系溶媒中に溶解させてリビングラジカル重合させることで、モノマーの重合反応が十分に進行し、高分子量のフッ素ポリマーで被覆された複合微粒子が得られるとともに、グラフト密度を高くすることができる。
【0060】
なお、リビングラジカル重合させる際にモノマーを溶解させる溶媒として、例えば、従来使用されているテトラヒドロフランやジメチルホルムアミドを用いた場合、重合が進行するとともに微粒子が溶媒中に分散されにくくなり、微粒子が溶媒中に沈降してしまう。その結果、リビングラジカル重合が十分に進行せず、微粒子の表面に結合されたフッ素ポリマーを含む複合微粒子が得られない。
【0061】
また、本実施形態においては、リビングラジカル重合を促進するために、微粒子の表面に重合開始基を導入する際だけでなく、リビングラジカル重合を行う際にも、必要に応じて重合開始剤を用いることができる。
【0062】
リビングラジカル重合を行う際に使用される重合開始剤としては、重合開始末端となるハロゲンを有する化合物であれば特に限定されるものではなく、微粒子の表面に重合開始基を導入する際に用いたものと同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。具体的には、リビングラジカル重合を行う際に使用される重合開始剤として例えば、エチル−2−ブロモイソブチレート、エチル−2−クロロイソブチレート、エチル−2−ヨードイソブチレート、メチル−2−ブロモイソブチレート、メチル−2−クロロイソブチレート、メチル−2−ヨードイソブチレート、エチル−2−ブロモブチレート、エチル−2−クロロブチレート、エチル−2−ヨードブチレート、メチル−2−ブロモブチレート、メチル−2−クロロブチレート、メチル−2−ヨードブチレート、エチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−ヨードプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ヨードプロピオネートなどが挙げられる。
【0063】
本実施形態におけるリビングラジカル重合を行う際には、触媒を用いることが好ましい。触媒としては、ルテニウム、銅、鉄、チタン、モリブデン、レニウム、オスミウム、ロジウム、ニッケル、パラジウムなどを用いることが好ましい。上記の触媒の中でも2価のルテニウムや1価の銅を用いることが好ましく、特に、入手が容易であり、重合の制御が容易である1価の銅を用いることが好ましい。1価の銅触媒としては、CuCl、CuBrなどが挙げられる。
【0064】
1価の銅触媒を用いてリビングラジカル重合を行う場合、1価の銅触媒とともに配位子を用いることが好ましい。配位子としては、窒素を配位点として有する多座配位子であるピリジン系、アミン系の配位子を用いることが好ましい。配位子としては、具体的には、ビピリジン(bpy)、ジヘプチルビピリジン(dHbpy)、ジノニルビピリジン(dNbpy)、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス(2−ピリジルメチル)アミン(TPMA)、トリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン(Me6TREN)、テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)などが挙げられる。
【0065】
本実施形態におけるリビングラジカル重合における反応温度は、リビングラジカル重合に使用する溶媒やモノマー、触媒の種類などに応じて適宜決定でき、室温〜120℃の範囲であることが好ましい。上記の反応温度は、効率よくリビングラジカル重合を進行させて反応時間を短縮できるように、50℃以上であることがより好ましい。また、上記の反応温度は、副反応が起こりにくいように100℃以下であることがより好ましい。
【0066】
また、本実施形態におけるリビングラジカル重合における反応時間は、モノマーの種類や反応温度などに応じて適宜決定でき、特に限定されないが、通常1−24時間で行われる。
以上の工程により、微粒子の表面に結合された炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーが生成される。
【0067】
なお、複合微粒子中のフッ素ポリマー層はシリカの粒径に対して非常に薄いため、複合微粒子の大きさは用いたシリカの粒径とほぼ同じとなる。すなわち、複合微粒子の大きさは、製造方法に依存するものではなく、シリカの粒径により制御される。
【0068】
本実施形態の複合微粒子は、微粒子と、微粒子の表面に結合された炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含むフッ素ポリマーとを含むものであり、低屈折率、低誘電率で優れた撥水撥油性や非粘着性を有するものであるフッ素ポリマーの特性に基づく機能が付与されたものである。
【0069】
<表面処理部材>
次に、本発明の表面処理部材および表面処理部材の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の表面処理部材の一例を説明するための概略図である。
図1において、符号10は表面処理部材を示している。表面処理部材10は、基材1の一方の面1aの表面全面が撥水撥油処理面2であるものである。
【0070】
撥水撥油処理面2は、基材表面(基材1の一方の面1aおよび他方の面1b)の少なくとも一部であればよく、
図1に示すように、基材1の一方の面1aの表面全面であってもよいし、基材1の一方の面1aの一部にのみであってもよいし、基材1の他方の面1bの少なくとも一部にのみであってもよいし、基材1の両面全面であってもよい。
【0071】
基材1の材料や形状は、特に限定されるものではない。基材1の材料としては、例えば、繊維、石材、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および金属酸化物、プラスチックなどが挙げられる。
また、基材1の表面は、フィルター、防塵マスク、燃料電池などの製品の外面であってもよい。
【0072】
撥水撥油処理面2は、
図1に示すように、上述した微粒子とフッ素ポリマーとを含む複合微粒子3に由来する凹部2aと凸部2bとからなる凹凸が形成されているものである。凹部2aは、周辺と比較して相対的に基材1の一方の面1a上に付着している複合微粒子3の密度が低くなっている部分である。撥水撥油処理面2全体における複合微粒子3の密度が低い場合には、凹部2aは、
図1に示すように、基材1の一方の面1a上における複合微粒子3が付着していない部分であってもよい。また、凸部2bは、周辺と比較して相対的に基材1の一方の面1a上に付着している複合微粒子3の密度が高い部分である。
【0073】
撥水撥油処理面2における複合微粒子3の密度は、1×10
5個/mm
2以上であることが好ましく、1×10
6個/mm
2以上であることがより好ましい。複合微粒子3の密度が、1×10
5個/mm
2以上であると、複合微粒子3に含まれるフッ素ポリマーによる撥水撥油機能が効果的に得られるとともに、撥水撥油処理面2の凹凸形状がより優れた撥水撥油機能の得られるものとなるため、より一層優れた撥水撥油性を付与できる。
【0074】
図1に示す表面処理部材10を製造するには、まず、上記の表面処理剤を用意する。そして、基材1の一方の面1aの表面全面に、表面処理剤を塗布する。表面処理剤の塗布方法は、特に限定されるものではなく、表面処理剤の粘度や、表面処理剤に含まれる複合微粒子3の濃度や粒径、基材1の材料や形状などに応じて、適宜決定できる。表面処理剤の塗布方法としては、具体的には、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布、滴下塗布、流延塗布(キャスト法)、スピンコートなどの既知の方法を用いることができる。なお、基材1の一方の面1aの表面の一部のみを撥水撥油処理面2とする場合には、基材1の一方の面1aの表面の一部を既知の方法を用いてマスクしてから塗布する方法などを用いることができる。
【0075】
次に、表面処理剤の塗布された基材1を乾燥させて、表面処理剤に含まれる有機溶媒や水などの溶媒を除去する。基材1を乾燥させる方法は、特に限定されるものではなく、表面処理剤に含まれる溶媒の種類などに応じて適宜決定できる。
例えば、表面処理剤が、水系塗料や溶媒系塗料などの塗料に複合微粒子を添加したものである場合、基材1を乾燥させる方法は、塗料の種類に応じて決定できる。具体的には、塗料に光硬化性樹脂が含まれている場合には、基材1を乾燥させる際に基材1の表面処理剤の塗布された部分に光を照射して、光硬化性樹脂を硬化させてもよい。また、塗料に熱硬化性樹脂が含まれている場合には、基材1を乾燥させる際に基材1を加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させてもよい。
【0076】
以上の工程により、基材1の一方の面1aの表面全面に撥水撥油処理面2を有する表面処理部材10が得られる。このようにして得られた撥水撥油処理面2は、
図1に示すように、表面処理剤に含まれる複合微粒子3に由来する凹凸が形成されているものとなる。
したがって、撥水撥油処理面2は、複合微粒子3に含まれるフッ素ポリマーによる撥水撥油機能だけでなく、複合微粒子3に由来する凹凸による撥水撥油機能が得られるものであり、これら両方の撥水撥油機能に基づく優れた撥水撥油性を有するものである。よって、本実施形態の表面処理部材10は、優れた撥水撥油性を有するものとなる。
【実施例】
【0077】
(実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例4)
以下に示す方法により、実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例4の表面処理部材を製造し、 以下に示す方法により撥水撥油性を評価した。
【0078】
(実施例1)
基材として、スライドガラスを用意した。また、表面処理剤として、表1に示す微粒子とフッ素ポリマーとを含み、以下に示す方法により製造された複合微粒子を含むものを用意し、トリフルオロトルエン中に複合微粒子の濃度が1質量%となるように分散させて使用した。
そして、基材の一方の面の表面全面に、キャスト法により表面処理剤を塗布し、大気中に放置することにより乾燥させて、実施例1の表面処理部材を得た。
【0079】
「複合微粒子の製造方法」
粒径290nmのシリカからなる微粒子(商品名:シーホスターKE−E30、日本触媒社製)と、上記式(5)で示される重合開始剤とを反応させて、微粒子の表面に重合開始基を導入した(重合開始基付与工程)。
【0080】
まず、微粒子10.0gを含むエタノール分散液100mLと、28%アンモニア水溶液29.9gとエタノール400mLと水8.6gとを混合して混合液とした。得られた混合液を40℃で2時間攪拌した後、上記式(5)で示される重合開始剤2.5g(上記非特許文献2に記載の方法に従い合成)のエタノール20mL溶液を滴下し、40℃で24時間攪拌した。その後、重合開始基の導入された微粒子を、遠心分離法を用いて回収し、エタノールおよびトリフルオロトルエンで洗浄し、トリフルオロトルエン中で保存した。
【0081】
次に、以下に示す方法により、表面に重合開始基の導入された微粒子の表面上で、下記式(6)で表されるモノマーをリビングラジカル重合させた(重合工程)。
【0082】
【化3】
【0083】
まず、上記の式(6)で表されるモノマー5.2g(米国特許第2803615号に記載の方法により合成)を溶媒であるトリフルオロトルエン5.0g(シグマアルドリッチ社製)中に溶解させた。その後、上記モノマーの溶解されたトリフルオロトルエン中に、表面に重合開始基の導入された微粒子0.1gと、銅触媒である「CuCl」9.6mg(和光純薬工業株式会社製)と、配位子であるジノニルビピリジン「dNbpy」79.6mg(和光純薬工業株式会社製)と、重合開始剤であるエチル−2−ブロモイソブチレート4.8mg(東京化成工業株式会社製)とを加えて、分散・溶解させ、窒素バブリングにより脱気し、反応温度100℃で16時間加熱して重合反応させた。その後、重合により得られた複合微粒子を、遠心分離とトリフルオロトルエンへの再分散を3回繰り返すことにより精製した。
以上の工程により、実施例1の複合微粒子を得た。
【0084】
(実施例2)
モノマーとして下記式(7)で表されるモノマーを用いたこと以外は、実施例1と同様にして表面処理部材を得た。
【0085】
【化4】
【0086】
(実施例3)
複合微粒子として、シリカからなる微粒子の粒径を130nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして製造した複合微粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして表面処理部材を得た。
【0087】
(比較例1)
トリフルオロトルエン中に複合微粒子に代えて表1に示す微粒子のみを分散させたこと以外は、実施例1と同様にして表面処理部材を得た。
【0088】
(比較例2)
トリフルオロトルエン中に複合微粒子に代えて表1に示すフッ素ポリマーのみを分散させたこと以外は、実施例1と同様にして表面処理部材を得た。
【0089】
(比較例3)
トリフルオロトルエン中に複合微粒子に代えて表1に示すフッ素ポリマーのみを分散させたこと以外は、実施例2と同様にして表面処理部材を得た。
【0090】
(比較例4)
トリフルオロトルエン中に複合微粒子に代えて、実施例1において用いた複合微粒子の材料である表1に示す微粒子とフッ素ポリマーとを反応させずに分散させたこと以外は、実施例1と同様にして表面処理部材を得た。
【0091】
【表1】
【0092】
(撥水撥油性評価方法)
水またはヘキサデカンと、表面処理部材の表面との接触角を測定することにより、評価した。接触角の測定には、協和界面科学(株)のCA−A型接触角計を使用した。水およびヘキサデカンの液滴量は20μlとし、表面処理部材上の任意の5点で接触角を測定し、その平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【0093】
また、表2には、実施例1から3については、数式(1)より算出したグラフト密度の値をあわせて示す。
σ=(w/Mn)Av/(πdc
2) ・・・(1)
但し、上記数式(1)において、wは複合微粒子中のフッ素ポリマーの重量、Mnはフッ素ポリマーの数平均分子量、Avはアボガドロ数(6、0×10
23)、dcは微粒子の直径である。
【0094】
【表2】
【0095】
表2に示すように、実施例1〜実施例3の表面処理部材では、比較例1〜比較例4の表面処理部材と比較して、接触角が大きく、撥水撥油性が優れていることが確認できた。
【0096】
また、実施例1〜3で得られた処理部材のSEM測定を行った結果、複合微粒子の密度はいずれも1×10
6個/mm
2以上であり、撥水撥油機能が効果的に付与されていることが確認された。