【課題】モータ供給電流に含まれるノイズの影響を受けることなく高い精度でロータの位置検出を行うことができ、高速化及び回転効率の向上を図ることのできるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】電圧信号を注入する注入回路23と、電圧信号より誘起される誘起電圧からインダクタンスの検出を行う検出回路24と、インダクタンスをもとにロータ14の位置を推定するロータ位置推定部とを備え、検出回路24及び注入回路23に、励磁巻線15a、15b、15cを利用した誘導用巻線15x、15yにおいて励磁電流により誘起される電圧変化を閉じたコアにおいて磁気的に相殺する相殺部18を設け、この相殺部18を通じて誘導用巻線15x、15yへの特定の電圧信号の注入、または誘導用巻線15x、15yからのインダクタンスの検出を行うように構成し、推定したロータ位置に基づいて励磁電流を与える相の切り替えを行うように構成した。
2以上の相を構成する複数の突極を備え各突極にそれぞれ励磁巻線を並列に設けたステータと、複数の突極を備え前記ステータ内に配置されたロータとを備え、励磁電流を与える相を切り替えることでロータを回転させるモータに用いるモータ制御装置であって、
何れかの相の励磁巻線を誘導用巻線として利用してこの誘導用巻線に特定の電圧信号を注入する注入回路と、当該注入回路が電圧信号を注入する相若しくはその相とは異なる相の励磁巻線を誘導用巻線として利用して前記電圧信号より誘起される電流または誘起電圧からインダクタンスの検出を行う検出回路と、当該検出回路により得られたインダクタンスをもとにロータの位置を推定するロータ位置推定部とを備え、
検出回路及び注入回路の少なくともいずれか一方に、前記励磁巻線を利用した誘導用巻線において前記励磁電流により誘起される電圧変化を閉じたコアにおいて磁気的に相殺する相殺部を設けるとともに、
この相殺部を通じて誘導用巻線への特定の電圧信号の注入、または誘導用巻線からのインダクタンスの検出を行うように構成し、
前記ロータ位置推定部により推定したロータ位置に基づいて励磁電流を与える相の切り替えを行うようにしたことを特徴とするモータ制御装置。
各相においてそれぞれ並列をなす誘導用巻線を前記相殺部のコアに、各誘導用巻線に流れる電流によりコア内部に逆向きの磁束を生じさせるように係わり合わせるとともに、このコアに補助巻線を通じて前記電圧信号を発生する電圧信号発生手段又はインダクタンスの検出を行うインダクタンス検出手段を磁気的に結合させている請求項1に記載のモータ制御装置。
前記注入回路と前記検出回路とが共通の注入検出回路として構成されており、内部に備えるスイッチを切り替えることで前記電圧信号を発生する電圧信号発生手段又は前記インダクタンスの検出を行うインダクタンス検出手段に選択的に接続されるように構成されている請求項1又は2の何れかに記載のモータ制御装置。
前記検出回路が前記注入回路とは異なる相において機能するように構成されており、前記ロータ位置推定部は各検出回路より検出される誘起電圧から得られる相互インダクタンスの相違又は大小関係に基づいて、ロータの位置を推定するように構成されている請求項1〜3の何れかに記載のモータ制御装置。
前記検出回路が前記注入回路と同じ相において機能するように構成されており、前記ロータ位置推定部は各検出回路より検出される電流から得られる自己インダクタンスの相違又は大小関係に基づいて、ロータの位置を推定するように構成されている請求項1〜3の何れかに記載のモータ制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来より見られる多くのモータ制御装置では、モータに駆動電力を供給する電圧や電流、電流リップルの大きさによって位置を推定しており、モータ供給電流のスパイクノイズ等の様々なノイズの影響を受け、正確な位置検出を行うことができないとの問題があった。すなわち、正確な位置検出を行うことができないことにより、励磁電流の切り替えタイミングを適正化することができず、これまで以上の高速化や回転効率の向上を図ることが困難であった。
【0007】
なお、SRモータを高速回転させる場合にはインダクタンスによる電流の遅れが問題を生じることも知られており、こうした場合には励磁相を進相、すなわち励磁電流の切り替えタイミングを早くすることが適切といえることから、これを実現するためにも位置検出の精度を高めることはより重要となる。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、モータ供給電流に含まれるノイズの影響を受けることなく高い精度でロータの位置検出を行うことができ、その結果、高速化及び回転効率の向上を図るとともに、そのための解決策がモータに複雑な製造工程を要求するものとならず、S/Nの低下も回避できるようにした、モータ制御装置及びロータ位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、係る目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明のモータ制御装置は、2以上の相を構成する複数の突極を備え各突極にそれぞれ励磁巻線を並列に設けたステータと、複数の突極を備え前記ステータ内に配置されたロータとを備え、励磁電流を与える相を切り替えることでロータを回転させるモータに用いるモータ制御装置であって、何れかの相の励磁巻線を誘導用巻線として利用してこの誘導用巻線に特定の電圧信号を注入する注入回路と、当該注入回路が電圧信号を注入する相若しくはその相とは異なる相の励磁巻線を誘導用巻線として利用して前記電圧信号より誘起される電流または誘起電圧からインダクタンスの検出を行う検出回路と、当該検出回路により得られたインダクタンスをもとにロータの位置を推定するロータ位置推定部とを備え、検出回路及び注入回路の少なくともいずれか一方に、前記励磁巻線を利用した誘導用巻線において前記励磁電流により誘起される電圧変化を磁気的に相殺する閉じたコアを設けるとともに、このコアを通じて誘導用巻線への特定の電圧信号の注入、または誘導用巻線からのインダクタンスの検出を行うように構成し、前記ロータ位置推定部により推定したロータ位置に基づいて励磁電流を与える相の切り替えを行うようにしたことを特徴とする。
【0011】
このように構成すると、注入回路から誘導用巻線へ電圧信号を注入し、検出回路は誘導用巻線に現れた電磁誘導による電流または誘起電圧からインダクタンスを検出するため、検出されたインダクタンスを基にしてロータの位置を推定しつつモータを制御することが可能となる。また、検出回路及び注入回路の少なくともいずれか一方に相殺部が設けられているため、ロータを回転させるために要する励磁電流に誘起される電圧変化を相殺することで、励磁電流に起因するノイズ等の影響を小さくして検出信号の波形の乱れを抑制でき、ロータ位置検出精度を向上することが可能となる。
【0012】
しかも、各相の突極に設ける誘導用巻線すなわち励磁巻線は並列でよいため、例えば誘導用巻線(励磁巻線)を直列に接続して中性点と両端を結ぶ閉回路間で電流同士をディファレンシャルチョークコイル等で相殺させる場合に比べて励磁巻線を細くでき、モータを製造容易でコスト抑制が図れるものにすることができる。さらに、コアを用いることで、励磁電流と高周波信号成分とを分離するキャパシタが不要となるため、微分要素を排してS/N比も有効に向上させることが可能となる。
【0013】
この場合、相殺部を簡易に構成するためには、各相においてそれぞれ並列をなす誘導用巻線を前記相殺部のコアに、各誘導用巻線に流れる電流によりコア内部に逆向きの磁束を生じさせるように係わり合わせるとともに、このコアに補助巻線を通じて前記電圧信号を発生する電圧信号発生手段又はインダクタンスの検出を行うインダクタンス検出手段を磁気的に結合させていることが望ましい。
【0014】
前記注入回路と前記検出回路を共通化して簡易的な構成とするには、前記注入回路と前記検出回路とが共通の注入検出回路として構成されており、内部に備えるスイッチを切り替えることで前記電圧信号を発生する電圧信号発生手段又は前記インダクタンスの検出を行うインダクタンス検出手段に選択的に接続されるように構成することが有効である。
【0015】
また、電源からモータに供給される基準電圧が変動してもその影響を受けないようにするには、検出した誘起電圧の絶対値を得ることなく、複数を比較するのみでロータ位置を推定することが望ましく、そのためには、前記検出回路が前記注入回路とは異なる相において機能するように構成され、前記ロータ位置推定部は各検出回路より検出される誘起電圧から得られる相互インダクタンスの相違又は大小関係に基づいて、ロータの位置を推定するように構成することが好適である。
【0016】
同様の趣旨で、前記検出回路が前記注入回路と同じ相において機能するように構成され、前記ロータ位置推定部は各検出回路より検出される電流から得られる自己インダクタンスの相違又は大小関係に基づいて、ロータの位置を推定するように構成しても構わない。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した本発明によれば、簡易な構成でありながら、モータ供給電流に含まれるノイズの影響を受けることなく高い精度でロータの位置検出を行うことができ、その結果、高速化及び回転効率の向上を図ることを可能にするとともに、そのための解決策がモータに複雑な製造工程を要求するものとならず、S/Nの低下も回避できるようにした、新規有用なモータ制御装置及びロータ位置検出装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るモータ制御装置を、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1は、本発明のモータ制御装置を備えたSRモータの構成を示した簡略図である。
図1に示されたSRモータ(スイッチトリラクタンスモータ)10は、内壁面に突出した6個の突極11を有するステータ12と、ステータ12の内部で回転する4個の突極13を有するロータ14とからなり、ステータ12の突極11が60度毎に、ロータ14の突極13が90度毎にそれぞれ等間隔に設置されている。そして、ステータ12の互いに対向する突極11aと11a、11bと11b、11cと11cにはそれぞれ励磁巻線15aと15a、15bと15b、15cと15cが巻回されており、励磁巻線15a、15aが巻回された突極の対11a、11aをA相、励磁巻線15b、15bが巻回された突極の対11b、11bをB相、励磁巻線15c、15cが巻回された突極の対11c、11cをC相とする3相のステータ12を構成している。各励磁巻線15a〜15cには、励磁回路28(
図3参照)が接続され、選択的にA〜C相のいずれかに励磁電圧を印加することができるようになっている。
【0021】
各突極の対をなす励磁巻線15aと15a、15bと15b、15cと15は、それぞれ励磁回路28に並列に接続されている。具体的には、励磁回路28からの一対の給電経路には、第1のノードN1および第2のノードN2の先に、それぞれ対をなす励磁巻線15aと15a、15bと15b、15cと15cが並列に接続されている。
【0022】
ここで、
図2を用いてSRモータ10の回転原理を説明する。
図2(a)はステータ12とロータ14の突極11a〜11c、13a〜13b同士が対向しておらず磁束が流れにくい突極非整列状態にあるロータ14の位置を示していて、この時点ではステータ12の励磁巻線15a、すなわちA相が励磁している。このとき、磁束が最も流れやすい突極整列状態、すなわち突極11aとロータ14の突極13aが整列するようにロータ14にトルクが生じ、ロータ14が回転する。そして、ロータ14が
図2(b)に示す突極整列状態になるまで回転したタイミングで励磁させる相をB相に切り替えると、ステータ12の突極11bとロータ14の突極13bが整列するようにトルクが生じる。その後、ステータ12の突極11bとロータ14の突極13bが整列したタイミングで励磁させる相をC相に切り替えると、今度はステータ12の突極11cとロータ14の突極13aが整列するようにトルクが生じる。このように、ロータ14の位置に基づいて励磁相を切り替えることで、連続的な磁気吸引力によるトルクが発生し、SRモータ10が回転する。
【0023】
次に、
図3は本実施形態に係るモータ制御装置を構成する注入検出回路22の回路図である。この図に示された回路は、特定の電圧信号としての高周波信号の注入および検出の両方に用いられる注入検出回路22であって、誘導用巻線15xおよび15y、磁性材からなる閉じたコアであるトロイダルコア18a、高周波発生手段19、電圧検出手段20、スイッチ21を有している。
【0024】
単一の注入検出回路22を構成する誘導用巻線15x、15yは、1つの相を構成する励磁巻線15a(15b、15c)、15a(15b、15c)(
図1参照)と兼用されており、より簡易な構成を実現している。
【0025】
誘導用巻線15x、15yも誘導用巻線15a、15a{(15b、15)、(15c、15c)}を利用していることから、給電経路における第1のノードおよび第2のノードに対して並列に接続された関係をなしている。
【0026】
そして、A相における一対の励磁巻線15a、15a(誘導用巻線15x、15y)の各々の一端と第2のノードN2との間にトロイダルコア18aを用いた相殺部18を設け、B相、C相についても同様にトロイダルコア18aを用いた相殺部18を設けている。A相の相殺部18は、一対の励磁巻線15a、15a(誘導用巻線15x、15y)をトロイダルコア18aに対して逆方向に係わり合わせている。具体的には、一方の励磁巻線15a(誘導用巻線15x)はトロイダルコア18aの軸心方向の一方から入って他方に抜けるように、また他方の励磁巻線15a(誘導用巻線15y)はトロイダルコア18aの軸心方向の他方から入って一方に抜けるように挿し通している。B相、C相についても同様である。
【0027】
また、トロイダルコア18aには補助巻線18bが巻回してあり、高周波発生手段19から注入される高周波信号をトロイダルコア18a内で発生させる磁束を介して誘導用巻線15x、15yに注入し、あるいは誘導用巻線15x、15yに現れる誘起電圧をトロイダルコア内に発生する磁束を介してインダクタンス検出手段である電圧検出手段20で検出するように構成されている。
【0028】
そして、3つの前記注入検出回路22がA相、B相、C相のそれぞれに接続され、3相のうち励磁している相が注入回路23、残りの励磁していない2相が検出回路24として動作して、スイッチ21が作動することで注入回路23と検出回路24の何れかが入れ替わるようにしている。
【0029】
図4は、本発明の実施形態に係るモータ制御装置のブロック図を示している。ロータ位置推定部25は、A相注入検出回路22a、B相注入検出回路22b、C相注入検出回路22cのいずれか2つの回路で検出された検出電圧をもとにロータ位置を推定し、ロータ14(
図2参照)が突極整列状態に到達したタイミングで、注入検出切替部27および励磁相切替部26に切替信号を送信する。そして注入検出切替部27は切替信号を受けて注入検出回路22のスイッチ21(
図3参照)を動作させ、注入回路23と検出回路24のいずれか1つの機能を選択して切り替える。励磁相切替部26は、切替信号を受けて励磁回路28より励磁電圧を与える相を切り替える。
【0030】
そして、本実施形態では、注入回路23と接続して高周波信号を注入される相と励磁される相を同一となるようにしている(
図6参照)。高周波発生手段19は、励磁電流よりも十分に高い周波数の高周波信号を生成する。
【0031】
次に、上記の実施形態を採ったときの作用を説明する。
【0032】
注入検出回路22が注入回路23として機能する場合、高周波発生手段19によって発生する高周波信号は補助巻線18bが巻かれたトロイダルコア18a内に磁束を発生させ、これによって誘導用巻線15x、15yとトロイダルコア18aとの磁気的結合部を通じて、図中矢印Vで示すように各々の励磁巻線15a、15bに高周波信号を重畳させる。逆に、注入検出回路22が検出回路24として機能する場合、誘導用巻線15x、15yに誘起された電流は、同じく矢印V(実線と破線があるのは交流のため)で示すようにトロイダルコア18aとの磁気的結合部を通じて、電圧検出手段20に誘起電圧として検出される。検出時の誘導用巻線15xの電流と誘導用巻線15yの電流とは、ノードN1、N2においてそれぞれ矢印Vで示すように流入、流出の関係にあり打ち消し合うので、励磁回路28を通ることが回避もしくは低減される。注入時の高周波信号も同様、ノードN1、N2で消失して励磁回路28を通ることが回避もしくは低減される。
【0033】
このため、注入した高周波信号は損失なく巻線15x、15yに供給され、巻線15x、15yで発生した誘起電圧は損失なく検出されることになる。
【0034】
一方、励磁回路28から出力したモータ駆動用の励磁電流I0は、ノードN1、N2の先に並列接続した励磁巻線15aと15a(15bと15b、15cと15c)ではそれぞれI1、I2の電流となる。並列接続する2つの励磁巻線の特性をそろえることで、I1とI2はほぼ同じ値となる。
【0035】
I1とI2はトロイダルコア18aにそれぞれ磁束φ1とφ2を発生させるが、トロイダルコア18aに対して逆方向に流れるため、φ1とφ2は互いに打ち消し合う。I1=I2であれば、φ1+φ2=0となり、トロイダルコア18aには磁束が発生しない。
【0036】
このため、励磁電流が高周波発生手段19より注入する高周波信号に影響を及ぼすことが回避され、また、電圧検出手段20が検出する誘起電圧に影響を及ぼすことも回避される。
【0037】
以上のことから、注入回路23や検出回路24は、巻線15x、15yに供給されている励磁電圧やスイッチングに起因するノイズの影響を低減しつつ、巻線15x、15yに対して高周波信号を与えることができ、また巻線15x、15yに誘起される電圧を取り出すことができる。すなわち、励磁電圧の切り替えに伴って発生するスパイクノイズや、励磁電圧そのものに加わる電圧変動等による高周波信号や誘起電圧への影響を抑制することができる。
【0038】
次に、
図6〜8を用いてロータ位置推定部25の動作を説明する。
【0039】
まず、
図6に示すように、A相が励磁している場合を状態1として考える。このとき、A相の回路はスイッチ21によって高周波発生手段19に接続され、B相およびC相の回路はスイッチ21によって電圧検出手段20に接続されている。すなわち、A相が励磁しているとき、A相に接続された注入検出回路22は注入回路23として動作してA相に高周波信号が注入され、B相、C相に接続された注入検出回路22は検出回路24として動作する。このとき、検出手段24の電圧検出手段20によって検出されたB相、C相に誘起されている高周波信号は、ロータ位置推定部25を構成する比較器29によって、振幅の大きさが一致したかどうかを判定される。そして、ロータ14が回転して2つの高周波信号が一致した時、A相の突極11aとロータ14の突極13aまたは13bが整列した突極整列状態に達したと判断する。
【0040】
このことについて、
図1を参照しつつ
図5のグラフを用いて詳述する。
図5のグラフはある回転位置を基準としてロータ角を変化させた場合の、A相巻線15a、15aに生じる自己インダクタンスLa、A相とB相との間に生じる相互インダクタンスMab、及び、A相とC相との間に生じる相互インダクタンスMacの値の解析例を示している。なお、相互インダクタンスMab、Macは、検出した誘起電圧を基にして得られたものであり、電圧検出手段20で検出した相互インダクタンスと誘起電圧の変化はほとんど同一のものとなる。グラフ上でロータ角が90度付近、直線ls上にある値を見ると、A相巻線15a、15aの自己インダクタンス値Laは最大値をとり、A相とB相の間の相互インダクタンス値Mabと、A相とC相との間の相互インダクタンス値Macは等しくなっている。これはステータ12およびロータ14の対称性によるものである。そして、この性質を利用することで、B相、C相に誘起されている高周波信号が一致した時が突極整列状態であると判断しているのである。
【0041】
そして、B相とC相の電圧検出手段20で検出された電圧の振幅の大きさ(xおよびy)が異なる間、状態1を保持していたロータ位置推定部25は、ロータ14の位置が突極整列状態に達したと判断される、すなわち
図6においてx=y、z=1となった時、励磁する相をB相に切り替える(状態1→状態2)。B相が励磁されている時(
図7の状態2)、C相が励磁されている時(
図8の状態3)においても同様であり、各状態において2つの非励磁相で検出された電圧の振幅の大きさが等しくなるタイミングで次の状態に変化する構成となっている。
【0042】
この後、B相が励磁している間はA相、C相が検出回路24として動作し、ロータ位置推定部25を構成する比較器29は上記A相が励磁している場合と同様にロータ位置を推定する。このようにして、励磁する相と高周波信号を注入する相を同期して順に切り替えていくことで、ロータ14の位置を推定しつつロータ14を回転させ、モータをセンサレスで駆動させることができる。このように比較器29を用いてロータ位置の推定を行うように構成することで、高度な演算を伴うことのない簡易な構成としながら高速にロータ位置の検出を行うことが可能となる。
【0043】
以上のように、本実施形態のモータ制御装置は、2以上の相を構成する複数の突極11を備え各突極11にそれぞれ励磁巻線15a〜15cを設けたステータ12と、複数の突極13を備え前記ステータ12内に配置されたロータ14とを備え、励磁電流を与える相を切り替えることでロータ14を回転させるモータ10に用いるモータ制御装置であって、何れかの相の励磁巻線15a、15aを誘導用巻線15x、15yとして利用してこの誘導用巻線15x、15yに特定の電圧信号を注入する注入回路23と、当該注入回路23が電圧信号を注入する相とは異なる相の誘導用巻線15b、15b、15c、15cを誘導用巻線15x、15yとして利用して前記電圧信号より誘起される誘起電圧からインダクタンスの検出を行う検出回路24と、当該検出回路24により得られたインダクタンスをもとにロータ14の位置を推定するロータ位置推定部25とを備え、検出回路24及び注入回路23に、励磁巻線15a、15b、15cを利用した誘導用巻線15x、15yにおいて前記励磁電流により誘起される電圧変化を閉じたコア18aにおいて磁気的に相殺する相殺部18を設けるとともに、この相殺部18を通じて誘導用巻線15x、15yへの特定の電圧信号の注入、または誘導用巻線15x、15yからのインダクタンスの検出を行うように構成し、前記ロータ位置推定部25により推定したロータ位置に基づいて励磁電流を与える相の切り替えを行うように構成したものである。
【0044】
このように構成しているため、注入回路23から誘導用巻線15aへ電圧信号を注入し、検出回路24が誘導用巻線15b、15cに現れた電磁誘導による誘起電圧からインダクタンスを検出することによって、検出されたインダクタンスを基にしてロータ14の位置を推定しつつモータを制御することが可能となる。また、検出回路24及び注入回路23に相殺部18が設けられているため、ロータ14を回転させるために要する励磁電流により誘起される電圧変化を相殺することで、励磁電流に起因するノイズの影響を小さくして電圧波形の乱れを抑制でき、ロータ位置検出精度を向上することが可能となることから、より適切なタイミングでの励磁電流の切り替えを可能としてモータの高速化及び回転効率の向上を実現することが可能となる。
【0045】
しかも、各相の突極11に設ける誘導用巻線15x、15yすなわち励磁巻線15a、15a{(15b、15b)、(15c、15c)}は並列でよいため、例えば誘導用巻線15x、15yすなわち励磁巻線15a、15a{(15b、15b)、(15c、15c)}を直列に接続して中性点と両端を結ぶ閉回路間で電流同士をディファレンシャルチョークコイル等で相殺させるように構成する場合等に比べて、励磁巻線15a、15b、15cを細くでき、自動巻きを可能にするなどモータを製造容易でコスト抑制が図れるものにすることができる。さらに、コア18aを用いることで、励磁電流と高周波信号成分とを分離するキャパシタが不要となるため、微分要素を排してS/N比も有効に向上させることが可能となる。
【0046】
この場合、各相においてそれぞれ並列をなす誘導用巻線15x、15yを相殺部18のコア18aに、各誘導用巻線15x、15yに流れる電流I1、I2によりコア18aの内部に逆向きの磁束φ1、φ2を生じさせるように係わり合わせるとともに、このコア18aに補助巻線18bを通じて電圧信号を発生する電圧信号発生手段19および誘起電圧の検出を行う電圧検出手段20を磁気的に結合させているため、相殺部18を簡易に構成することが可能となる。
【0047】
加えて、前記注入回路23と前記検出回路24とが共通の注入検出回路22として構成されており、内部に備えるスイッチ21を切り替えることで電圧発生手段としての高周波発生手段19又はインダクタンス検出のための誘導電圧の検出を行う電圧検出手段20に選択的に接続されるように構成していることで、前記注入回路23と前記検出回路24を共通化して簡易的な構成とすることが可能となる。
【0048】
また、検出回路24が注入回路23とは異なる相において機能するように構成され、ロータ位置推定部25を構成する比較器29は各検出回路24より検出される誘起電圧すなわち相互インダクタンスの相違に基づいて、ロータ14の位置を推定するように構成しているため、電源からモータに供給される基準電圧が変動してもその影響を受けないよう、検出した誘起電圧の絶対値を得ることなく、複数を比較するのみでロータ位置を推定することが可能となる。
【0049】
さらに、コアとして、一般的にノイズ対策として使用されるトロイダルコア18aを用いているため、磁束漏れの少ない実績のあるものを採用して、本発明の特殊な目的・用途に有効に適合させることができる。
【0050】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0051】
例えば、上記実施形態ではロータ位置検出用に計測する特性として相互インダクタンスを利用したが、自己インダクタンスを利用してもよい。
【0052】
図9に、電圧信号発生手段19からみた各相の自己インダクタンスの一例を示す。
図4では、0、90、180degのときにロータがA相のステータと整列しているが、この時、B相とC相の自己インダクタンスが一致する。同様に、ロータがB相ステータと整列した時にはC相とA相、C相ステータと整列した時にはA相とB相の自己インダクタンスが一致する。
【0053】
そこで、
図10に示すように、検出回路24が注入回路23と同じ相において機能するように注入検出回路22を、電圧信号発生手段19とインダクタンス検出手段たる電流検出手段120とを直列に接続することにより構成して、電流検出手段120より検出される電流から自己インダクタンスを計測可能とし、ロータ位置推定部25には、励磁相以外の2相において各検出回路24から得られる自己インダクタンスの相違又は大小関係に基づきロータの位置を推定させるように構成することができる。すなわち、自己インダクタンスLは、注入する信号の電圧V、電流I、周波数fから、式
【0054】
L=V/(2×π×f×I)
によって求めることができ、このような自己インダクタンスLを
図9に示すように各区間で2相ずつ計測する。2相の自己インダクタンスが一致した時に、ロータ14と計測していない相のステータ12の突極同士が整列したものと判断し、計測を切り替えれば、上記実施形態と同様のモータ制御が可能となる。
【0055】
この場合、2相の自己インダクタンスを計測するために2相に信号を注入すると、モータ内部で信号が干渉する。そこで、
図11に示すように、電圧信号発生手段19から注入する信号の周波数をモータ相毎にf1、f2、f3と変えるとともに、インダクタンス検出としての電流検出部120にバンドパスフィルタBPFを設けて自相に注入した信号成分のみを取り出すように構成することで、他相の信号の影響を取り除くことができる。
【0056】
また、ロータ位置検出用信号を時間分割してモータに注入するようにしても、信号の干渉を避けることができる。
図12はその回路構成を示すもので、注入検出回路22の先にスイッチ121を設け、スイッチ121を切り換えることで、信号注入、インダクタンス計測をする相を切り換えるように構成する。例えば、
図9に示すロータ位置60〜90degの区間では、B相とC相に交互に信号を注入して自己インダクタンスを計測すれば干渉を回避することができる。
【0057】
上記以外の変形例としては、次のようなものが挙げられる。
【0058】
例えば、本実施形態のモータ制御装置はロータ14に磁石を有さないスイッチトリラクタンスモータに適用したが、突極を持つロータ14であれば、磁石を有するロータ14を備える他のモータに適用することも可能である。
【0059】
また、上述の実施形態では励磁させる相と高周波信号を注入する相を同期させる構成を説明したが、高周波信号の注入・検出の切り替えタイミングと巻線15a〜15cへの励磁相の切り替えタイミングを非同期に行う構成をとることもできる。そのため、高速回転時にモータのインダクタンス等による電流変化の遅れに対して励磁相を進相する場合もその進相制御を容易に行うことができる。
【0060】
さらに、注入する高周波信号の周波数をより高くすることで、超高速回転までセンサレスで駆動することも可能である。
【0061】
また、本実施形態記載のモータ制御装置を、さらにPWM(Pulse Width Modulation)制御が可能となるように構成してもよい。具体的には、励磁回路28によりPWM信号に応じた矩形パルス状の励磁電圧を生成させるようにするとともに、PWM信号のデューティ比を変更させることでロータの速度を調整することも可能となる。
【0062】
また、注入回路23より注入する電圧信号を高周波信号としていたが、ロータの回転速度に対して十分な分解能が得られるのであれば、高周波信号に限らず別の形態の電圧信号を用いることも可能である。
【0063】
また、注入回路23と検出回路24とを独立して設ける場合においては、いずれか一方に相殺部を設けさえすれば、注入する高周波信号あるいは検出信号の精度を高めることが可能となり、上記に類する効果を得ることが可能となる。
【0064】
また、上記の実施形態においては、位置推定部21として比較器29を導入して非励磁相における検出電圧の相違によって励磁相の切り替えを行っていたが、当該検出電圧同士が特定の電圧差になることを検知することで、突極整列状態の判定のみならず、ロータが特定の角度に位置することを検出することも可能である。こうすることで、磁束発生の遅れに対応する進相制御を行い、よりモータの回転効率を高めることも可能となる。
【0065】
また、上述のモータ制御装置より、励磁相切換部26及び励磁回路28を除いた部分は、レゾルバやエンコーダ等と同様のロータ14の位置検出装置として用いることが可能となる。この場合においても、モータ制御装置と同様、注入回路23が誘導用巻線15aへ電圧信号を注入し、検出回路24が相互誘導用巻線15b、15cに現れた電磁誘導によるインダクタンスを誘起電圧や電流を通じて検出することによって、ロータ14の位置を推定することが可能となる。しかも、検出回路24及び注入回路23にコア18aを用いた相殺部18が設けられているため、ロータ14を回転させるために要する励磁電流により誘起される電圧変化を相殺することで、励磁電流に起因するノイズの影響を小さくして電圧波形の乱れを抑制でき、S/N比の低下を回避しつつロータ位置検出精度を向上することが可能となるうえに、モータにも励磁巻線が並列巻きの製造容易で安価なものを用いることができ。
【0066】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。