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特開2016-181791移動体端末試験システムおよび移動体端末のスループット試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-181791(P2016-181791A)
(43)【公開日】2016年10月13日
(54)【発明の名称】移動体端末試験システムおよび移動体端末のスループット試験方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/06 20090101AFI20160916BHJP
【FI】
   H04W24/06
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-60709(P2015-60709)
(22)【出願日】2015年3月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】松浦 美紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 快斗
(72)【発明者】
【氏名】王 岩松
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067EE02
5K067EE10
5K067FF23
5K067LL08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スループットの変動要因の特定を容易にする。
【解決手段】時間差計測手段33は、パケット送信手段31がパケットデータを送信してからパケット受信手段32が受領確認メッセージを含むパケットデータを受信するまでの時間差を計測し、スループット算出手段34は、その時間差と受領確認されたパケットの数に基づいてスループットを算出し、理想スループット算出手段42は、時間差の基準値と所定のウィンドウサイズから理論上最大となる理想スループットを算出する。また、理想ウィンドウサイズ算出手段45は、計測される時間差に対してそれぞれ理想スループットを与える理想ウィンドウサイズを順次求める。そして、表示部22には、計測された時間差が表示され、実測のスループットと理想スループットが対比可能な状態で表示され、所定のウィンドウサイズと理想ウィンドウサイズが対比可能な状態で表示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象の移動体端末との間で基地局を模擬した通信を行う通信処理部(21)と、
表示部(22)と、
操作部(23)と、
スループット試験に用いるパケットデータを所定のウィンドウサイズずつ前記通信処理部を介して前記移動体端末に送信するパケット送信手段(31)、該パケット送信手段が送信したパケットデータに対して前記移動体端末から返信される受領確認メッセージを含むパケットデータを受信するパケット受信手段(32)、前記パケット送信手段がパケットデータを送信してから前記パケット受信手段が受領確認メッセージを含むパケットデータを受信するまでの時間差を計測する時間差計測手段(33)、該時間差計測手段によって計測された時間差と前記受領確認メッセージで受領確認されたパケット数とに基づいてスループットを算出するスループット算出手段(34)、該スループット算出手段で算出されたスループットを前記表示部に表示するスループット表示手段(35)を有する試験制御部(30)とを備えた移動体端末試験システムにおいて、
前記試験制御部には、
前記時間差計測手段で順次計測される時間差を前記表示部に表示する時間差表示手段(41)と、
前記順次計測される時間差から求めた基準値と前記所定のウィンドウサイズから理論上最大となる理想スループットを算出する理想スループット算出手段(42)と、
前記理想スループット算出手段によって算出された理想スループットを、前記スループット算出手段によって得られる実測のスループットと対比可能な状態で前記表示部に表示する理想スループット表示手段(43)と、
前記所定のウィンドウサイズを前記表示部に表示するウィンドウサイズ表示手段(44)と、
前記順次計測される時間差に対してそれぞれ前記理想スループットを与える理想ウィンドウサイズを順次求める理想ウィンドウサイズ算出手段(45)と、
前記理想ウィンドウサイズ算出手段によって順次算出された理想ウィンドウサイズを前記ウィンドウサイズ表示手段によって表示される所定のウィンドウサイズと対比可能な状態で前記表示部に表示する理想ウィンドウサイズ表示手段(46)とが設けられていることを特徴とする移動体端末試験システム。
【請求項2】
前記試験制御部には、
前記所定のウィンドウサイズを前記操作部に対する操作で任意に設定させるためのウィンドウサイズ設定手段(47)が設けられていることを特徴とする請求項1記載の移動体端末試験システム。
【請求項3】
スループット試験に用いるパケットデータを所定のウィンドウサイズずつ移動体端末に送信する段階(S2)と、
該送信したパケットデータに対して前記移動体端末から返信される受領確認メッセージを含むパケットデータを受信する段階(S3)と、
前記パケットデータを送信してから前記受領確認メッセージを含むパケットデータを受信するまでの時間差を順次計測する段階(S4)と、
該順次計測された時間差と前記受領確認メッセージで受領確認されたパケット数とに基づいてスループットを算出するともに、前記順次計測された時間差から求めた基準値と前記所定のウィンドウサイズから理論上最大となる理想スループットを算出する段階(S5、S10)と、
前記順次計測される時間差に対してそれぞれ前記理想スループットを与える理想ウィンドウサイズを順次求める段階(S11)と、
前記順次計測される時間差を表示し、前記スループットと前記理想スループットとを対比可能な状態で表示し、さらに、前記所定のウィンドウサイズと前記理想ウィンドウサイズとを対比可能な状態で表示する段階(S7、S12)とを含むことを特徴とする移動体端末のスループット試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体端末のスループット試験を行なう際に、スループットの変動要因の特定を容易にするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体端末に対するスループット測定(ダウンリンク)を行なう場合、試験システム側から所定パケット数単位のパケットデータを送信し、そのパケットデータを受信した移動体端末から送られてくる受領確認メッセージ(ACKメッセージ)を受け、パケットの送信タイミングからACKメッセージを受けるまでの時間差RTT(Round Trip Time)と、受信確認されたパケットのバイト数Bと用い、次の演算でスループットを求めている。
【0003】
スループット(bps)=[受信確認されたパケットのバイト数B]×8/[RTT(秒)]
【0004】
そして、この演算で順次得られたスループットを時間経過に伴う変化などがわかるように記憶してグラフ表示している。
【0005】
なお、実測されたスループットをグラフ表示する技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開W02008/096551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のスループットの測定を行なう際に、試験システム側から送出するパケットデータのサイズ(ウィンドウサイズ)は予め設定した一定値を用いるが、仮にそのウィンドウサイズが試験対象の処理能力(バッファサイズ等)に対して大き過ぎて内部のデータ転送に時間が掛かったり、パケットがオーバーフローして損失すれば、ACKメッセージを返信するタイミングが遅れたり、受信確認できたパケット数が減少して、スループットが低下することになる。
【0008】
また、ウィンドウサイズが小さく試験対象の処理能力に対して十分余裕がある場合で、パケットデータの受信処理に支障が生じた場合も、ACKメッセージを返信するタイミングが遅れたり、受信確認できたパケット数が減少して、スループットが低下することになる。
【0009】
これに対し、従来の試験システムのように、スループットの実測結果をグラフ等で表示しているだけでは、スループット自体の時間経過に伴う変動は把握できるが、そのスループットの実測値が理想値に対してどの程度離れているかを把握できず、また、実測値の変化の要因が、移動体端末自体の能力によるものか送信側の試験条件によるものかを判別することができず、試験対象の能力をより的確に把握することが困難であった。
【0010】
本発明は、この問題を解決し、スループットの実測値の変動の要因を特定しやすくした移動体端末試験システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の移動体端末試験システムは、
試験対象の移動体端末との間で基地局を模擬した通信を行う通信処理部(21)と、
表示部(22)と、
操作部(23)と、
スループット試験に用いるパケットデータを所定のウィンドウサイズずつ前記通信処理部を介して前記移動体端末に送信するパケット送信手段(31)、該パケット送信手段が送信したパケットデータに対して前記移動体端末から返信される受領確認メッセージを含むパケットデータを受信するパケット受信手段(32)、前記パケット送信手段がパケットデータを送信してから前記パケット受信手段が受領確認メッセージを含むパケットデータを受信するまでの時間差を計測する時間差計測手段(33)、該時間差計測手段によって計測された時間差と前記受領確認メッセージで受領確認されたパケット数とに基づいてスループットを算出するスループット算出手段(34)、該スループット算出手段で算出されたスループットを前記表示部に表示するスループット表示手段(35)を有する試験制御部(30)とを備えた移動体端末試験システムにおいて、
前記試験制御部には、
前記時間差計測手段で順次計測される時間差を前記表示部に表示する時間差表示手段(41)と、
前記順次計測される時間差から求めた基準値と前記所定のウィンドウサイズから理論上最大となる理想スループットを算出する理想スループット算出手段(42)と、
前記理想スループット算出手段によって算出された理想スループットを、前記スループット算出手段によって得られる実測のスループットと対比可能な状態で前記表示部に表示する理想スループット表示手段(43)と、
前記所定のウィンドウサイズを前記表示部に表示するウィンドウサイズ表示手段(44)と、
前記順次計測される時間差に対してそれぞれ前記理想スループットを与える理想ウィンドウサイズを順次求める理想ウィンドウサイズ算出手段(45)と、
前記理想ウィンドウサイズ算出手段によって順次算出された理想ウィンドウサイズを前記ウィンドウサイズ表示手段によって表示される所定のウィンドウサイズと対比可能な状態で前記表示部に表示する理想ウィンドウサイズ表示手段(46)とが設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2記載の移動体端末試験システムは、請求項1記載の移動体端末試験システムにおいて、
前記試験制御部には、
前記所定のウィンドウサイズを前記操作部に対する操作で任意に設定させるためのウィンドウサイズ設定手段(47)が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3の移動体端末のスループット試験方法は、
スループット試験に用いるパケットデータを所定のウィンドウサイズずつ移動体端末に送信する段階(S2)と、
該送信したパケットデータに対して前記移動体端末から返信される受領確認メッセージを含むパケットデータを受信する段階(S3)と、
前記パケットデータを送信してから前記受領確認メッセージを含むパケットデータを受信するまでの時間差を順次計測する段階(S4)と、
該順次計測された時間差と前記受領確認メッセージで受領確認されたパケット数とに基づいてスループットを算出するともに、前記順次計測された時間差から求めた基準値と前記所定のウィンドウサイズから理論上最大となる理想スループットを算出する段階(S5、S10)と、
前記順次計測される時間差に対してそれぞれ前記理想スループットを与える理想ウィンドウサイズを順次求める段階(S11)と、
前記順次計測される時間差を表示し、前記スループットと前記理想スループットとを対比可能な状態で表示し、さらに、前記所定のウィンドウサイズと前記理想ウィンドウサイズとを対比可能な状態で表示する段階(S7、S12)とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
このように構成されているため、本発明の移動体端末試験システムおよび移動体端末のスループット試験方法では、スループットの実測値と理想値とを対比可能に表示するので、実測値が理想値に対してどの程度離れているかを容易に把握できる。そして、パケットデータを送信してから受領確認メッセージを受けるまでの時間差を順次表示するとともに、この時間差に基づいて得られた理想ウィンドウサイズを求めて表示しているので、スループットの実測値の変化要因の特定が容易となる。
【0015】
例えば、時間差の変動が少ない状態で、現状のウィンドウサイズが理想ウィンドウサイズに近く、スループットの実測値が理想スループットに近い場合には、移動体端末の処理能力を十分に引き出せるウィンドウサイズで試験が行なえていることがわかり、このとき、ウィンドウサイズ以外のスループット劣化要因も少ないことがわかる。
【0016】
また、時間差の変動が少ない状態で、現状のウィンドウサイズが理想ウィンドウサイズに近いにも関わらず、スループットの実測値が理想スループットより大きく低下している場合には、ウィンドウサイズ以外の要因でパケットロスが発生してスループットが劣化していることがわかる。また、時間差が大きくなっていれば、パケットロスの他にデータ遅延も要因として考えられる。
【0017】
また、時間差が小さく、現状のウィンドウサイズが理想ウィンドウサイズより大幅に低くなって、スループットの実測値が理想スループットから離れている場合には、現状のウィンドウサイズは、移動体端末の処理能力に対して余裕があり過ぎることがわかり、この場合、現状のウィンドウサイズを理想ウィンドウサイズの近くに変更して測定を行なえばよいことがわかる。
【0018】
また、時間差が大きくなり、現状のウィンドウサイズが理想ウィンドウサイズを越えている状態で、スループットの実測値が理想スループットから離れている場合には、現状のウィンドウサイズは、移動体端末の処理能力を越えていることがわかり、この場合、現状のウィンドウサイズを小さく変更して測定を行なえばよいことがわかる。
【0019】
また、本発明の請求項2のように、ウィンドウサイズの変更設定を可能にしておけば、上記したウィンドウサイズに起因するスループットの変動要因を速やかに判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態の構成を示すブロック図
図2】本発明の実施形態の要部の処理手順を示すフローチャート
図3】本発明の実施形態の測定結果の表示例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した移動体端末試験システム20の構成を示している。
【0022】
この移動体端末試験システム20は、通信処理部21、表示部22、操作部23、試験制御部30によって構成されている。
【0023】
通信処理部21は、試験対象の移動体端末1との間で基地局を模擬した通信を行う所謂擬似基地局装置で構成されている。実際の擬似基地局装置は、種々の通信方式に対応した複雑な変復調処理、周波数変換処理等を行なうが、簡単に説明すれば、試験対象の移動体端末1との間でリンクを形成してから、試験制御部30からの各種試験に必要なデータを受けて移動体端末1の通信方式に応じた変調処理を行い高周波信号に変換して送信し、移動体端末1から送信された高周波信号を受信復調して、得られたデータを試験制御部30に与える。
【0024】
表示部22は、移動体端末1の試験に必要な各種情報や測定結果などを表示するためのものであり、操作部23は、ユーザーが試験に必要な各種パラメータ等を設定するためのものである。
【0025】
試験制御部30は、通信処理部21を介して試験対象の移動体端末1との間でデータの授受を行い、移動体端末1の試験に必要な各種処理を行なうものであり、通信処理部21と一体的に構成されたものだけでなく、通信処理部21と別体の制御装置、例えばパーソナルコンピュータによって構成されている場合もある。
【0026】
この試験制御部30は、移動体端末に対して非常に多くの種類の測定を実行するように構成されているが、ここでは、移動体端末1のスループット試験を行なうための構成について説明する。なお、この試験制御部30が行なうスループットの試験結果には、試験システム全体のパケット転送に必要な遅延時間(通信処理部21の遅延時間など)の要素も含まれているものとする。
【0027】
試験制御部30のパケット送信手段31は、スループット試験に用いるパケットデータを所定のウィンドウサイズWSずつ通信処理部21を介して移動体端末1に送信する。
【0028】
このウィンドウサイズWSは、1パケット(128バイト)を256個まとめて送れば32KB(キロバイト)、512個まとめて送れば64KBとなる。この値は、後述するウィンドウサイズ設定手段47によってユーザーが任意に設定できる。
【0029】
パケット受信手段32は、パケット送信手段31が送信したパケットデータに対して移動体端末1から返信される受領確認メッセージ(以下ACKメッセージと記す)を含むパケットを受信する。
【0030】
時間差計測手段33は、パケット送信手段31がパケットデータを送信してからパケット受信手段32がACKメッセージを含むパケットを受信するまでの時間差RTTを計測する。なお、このACKメッセージには、受信確認したパケットの番号情報等が含まれているものとする。
【0031】
スループット算出手段34は、時間差計測手段33によって計測された時間差RTT(i)とACKメッセージで受領確認されたパケット数Pr(i)とに基づいてスループットTP(i)を順次算出する。
【0032】
この算出は、前記したように、
TP(i)=Pr(i)×128×8/RTT(i)
となる。ここで、iは測定回数を表す。
【0033】
スループット表示手段35は、スループット算出手段34で算出されたスループットTP(i)を表示部22に表示する。この表示形態は任意であるが、一つの好ましい形態としては、順次算出されるスループットTP(i)の値をリアルタイムに表示するとともに図示しないメモリに記憶していき、時間経過に伴う変化が把握できるように横軸時間のグラフ上に表示するものである。なお、このグラフ表示も測定中にリアルタイムに表示する場合と、所定回数の測定が終了した段階で一括に表示する場合とがある。その場合、操作部23の操作で時間を指定する(例えば時間軸に沿ってカーソルを動かす)ことで、指定した時間のスループット値を別の表示窓に表示する方法等が実現できる。
【0034】
上記構成要件は従来装置にも含まれているが、本実施例の移動体端末試験システム20の試験制御部30には、上記構成要件の他に、時間差表示手段41、理想スループット算出手段42、理想スループット表示手段43、ウィンドウサイズ表示手段44、理想ウィンドウサイズ算出手段45、理想ウィンドウサイズ表示手段46およびウィンドウサイズ設定手段47が含まれている。
【0035】
時間差表示手段41は、スループットの試験が行なわれている間に時間差計測手段33で順次計測される時間差RTT(i)を表示部22に表示する。この表示も数値表示の他にグラフ表示してもよい。
【0036】
理想スループット算出手段42は、順次計測される時間差RTT(i)から求めた基準値(RTTr)と所定のウィンドウサイズWSから、理論上最大となる理想スループットを算出する。
【0037】
ここで、一般的に理論上最大となる理想スループットTPrは、試験システムが送信するパケットデータのウィンドウサイズWS(バイト単位とする)と時間差RTTとを用いて、
TPr=WS×8/RTT
で表されるが、ウィンドウサイズWSは設定値で一定であり、時間差RTTが一定であれば理想スループットTPrも一定となって試験の指標になるが、実際のスループットの測定の際には時間差RTTが変動するので、その変動する時間差RTTを用いて求めた理想スループットTPrも変動してしまい、実測値に対する指標としては適当ではない。
【0038】
そこで、ここでは、スループットを理論上最大にするために時間差RTTの最小値や平均値等の固定された基準値RTTrを用いて、理想スループットTPrを次の演算で求めている。
TPr=WS×8/RTTr
【0039】
この基準値TPrとしては、測定の前段階の予備測定で求めた時間差RTTの最小値や平均値、測定中に連続して得られる複数Mの時間差RTTの最小値や平均値を採用することができる。後者の場合、最短でM回の測定毎に理想スループットを更新することもできる。
【0040】
また、スループットの試験が終わった段階で、時間差RTTの最小値や平均値を求めて理想スループットを算出してもよい。
【0041】
理想スループット表示手段43は、理想スループット算出手段42によって算出された理想スループットTPrを、実測のスループットTPと対比可能な状態で表示部22に表示する。上記したように、スループット表示手段35が実測のスループットTP(i)をグラフ表示するので、それと対比可能なように、理想スループットTPrも同じグラフ上に表示すればよい。ただし、実測のスループットTPと理想スループットTPrとを混同しないように、グラフの色や線種を分けて識別表示する。
【0042】
ウィンドウサイズ表示手段44は、所定のウィンドウサイズWSを表示部22に表示する。
【0043】
また、理想ウィンドウサイズ算出手段45は、順次計測される時間差RTT(i)に対してそれぞれ理想スループットTPrを与える理想ウィンドウサイズWSr(i)を次の演算によって順次求める。
WSr(i)=RTT(i)×TPr/8
=[RTT(i)/RTTr]×WS
【0044】
上記理想ウィンドウサイズWSr(i)は、測定で得られた時間差RTT(i)と時間差の基準値RTTrとの比に所定のウィンドウサイズWSを乗じたものになる。
【0045】
理想ウィンドウサイズ表示手段46は、理想ウィンドウサイズ算出手段45によって順次算出された理想ウィンドウサイズWSr(i)をウィンドウサイズ表示手段44によって表示される所定のウィンドウサイズWSと対比可能な状態で表示部22に表示する。
【0046】
ウィンドウサイズ設定手段47は、所定のウィンドウサイズWSを操作部23に対する操作で任意に設定させる。
【0047】
次に、実施形態の移動体端末試験システム20の動作を、図2のフローチャートにしたがって説明する。
【0048】
なお、図2のスループット試験の前段階として、移動体端末1との間のリンクが形成され、スループット試験に必要なウィンドウサイズWS等を含むパラメータが予め設定されているものとする。また、ここでは、理想スループットTPrを複数M回のパケット送信毎に算出して更新する場合について示すが、前記したように、予備測定の段階で求めておく方法や測定終了後に求める方法も実現できる。
【0049】
スループット試験が開始されると、測定回数を示す値iが1に初期化され(S1)、所定のウィンドウサイズWSのパケットデータP(i)が送信される(S2)。
【0050】
そして、移動体端末1からこのパケットデータP(i)に対するACKメッセージを含むパケットが返信され、試験システム側で受信されると、パケットデータの送信タイミングからACKメッセージを含むパケットの受信タイミングまでの時間差RTT(i)が求められる(S4)。
【0051】
このRTT(i)と受信確認されたパケット数に基づいてスループットTP(i)が求められ、測定回数iがMの倍数でなければ、得られた測定結果を更新表示し、次の測定に移行する(S5〜S9)。
【0052】
上記測定が繰り返されて測定回数iがMの倍数になると、それまでに得られたM個の時間差RTT(n・M+1)〜RTT(n・M+M)(nは0、1、2、……)の最小値(あるいは平均値)を基準値RTTrとして理想スループットTPrが算出され、この理想スループットTPrと時間差RTT(n・M+1)〜RTT(n・M+M)から理想ウィンドウサイズWSr(n・M+1)〜RTT(n・M+M)が算出され、スループットTP(i)とともに記憶されて更新表示され、次の測定に移行する(S10、S11)。
【0053】
このようにして得られた測定結果は、処理S7のように、1回のパケット送信が行なわれる毎に測定結果が更新されるリアルタイムモードの表示の他に、全ての測定が終了した時点で表示を行なうログ表示モードでも表示される(S12)。
【0054】
図3は、表示例を示すものであり、時間差(RTT)表示欄51、スループットの実測値(TP)表示欄52、理想値(TPr)表示欄53、ウィンドウサイズ(WS)表示欄54、理想ウィンドウサイズ(WSr)表示欄55、スループットグラフ表示欄56の各欄を表示部22に表示する。
【0055】
この表示例の場合、時間差表示欄51、スループットの実測値表示欄52、理想値表示欄53、ウィンドウサイズ表示欄54、理想ウィンドウサイズ表示欄55には、測定中の各値をリアルタイム(上記の処理例では理想ウィンドウサイズWSrはM個おき)に表示し、全ての測定が終了した時点でスループットグラフ表示欄56に、スループットの実測値TP(i)のグラフと、理論値TPrのグラフを表示し、そのグラフ中のカーソル位置(例えばi=k番目に相当する時間位置)のスループットTP(k)を下部に表示している。なお、ここでは、測定がM回行なわれる毎に理想スループットTPrを更新しているが、最初のM回の測定で得られた理想スループットTPrを更新せずに用いてもよい。
【0056】
また、スループットグラフ表示欄56は、測定中に時間経過とともにリアルタイムでスループットの実測値TP(i)のグラフと、理論値TPrのグラフを表示するようにし、グラフ中のカーソルは最新の時間に位置するとともに、そのカーソル位置のスループットTPを下部に表示するようにしてもよい。
【0057】
このように構成されているため、実施形態の移動体端末試験システム20では、スループットの変動要因の特定が格段に容易となる。
【0058】
即ち、スループットの実測値TPと理想値TPrとを対比可能に表示するので、実測値TPが理想値TPrに対してどの程度離れているかを容易に把握できる。そして、スループットの計算の基になる時間差RTTを表示するとともに、この時間差RTTに基づいて得られた理想ウィンドウサイズを表示しているので、スループットの実測値の変化要因の特定が容易となる。
【0059】
例えば、時間差RTTの変動が少ない状態で、現状のウィンドウサイズWSが理想ウィンドウサイズWSrに近く、スループットの実測値TPが理想スループットTPrに近い場合には、移動体端末1の処理能力を十分に引き出せるウィンドウサイズで試験が行なえていることがわかり、このとき、ウィンドウサイズ以外のスループット劣化要因も少ないことがわかる。
【0060】
また、時間差RTTの変動が少ない状態で、現状のウィンドウサイズWSが理想ウィンドウサイズWSrに近いにも関わらず、スループットの実測値TPが理想スループットTPrより大きく低下している場合には、ウィンドウサイズ以外の要因でパケットロスが発生してスループットが劣化していることがわかる。また、時間差RTTが大きくなっていれば、パケットロスの他にデータ遅延も要因として考えられる。
【0061】
また、時間差RTTが小さく、現状のウィンドウサイズWSが理想ウィンドウサイズWSrより大幅に低くなって、スループットの実測値TPが理想スループットTPrから離れている場合には、現状のウィンドウサイズは、移動体端末の処理能力に対して余裕があり過ぎることがわかり、この場合、現状のウィンドウサイズWSを理想ウィンドウサイズWSrの近くに変更して測定を行なえばよいことがわかる。
【0062】
また、時間差RTTが大きくなり、現状のウィンドウサイズWSが理想ウィンドウサイズWSrを越えている状態で、スループットの実測値TPが理想スループットTPrから離れている場合には、現状のウィンドウサイズは、移動体端末の処理能力を越えていることがわかり、この場合、現状のウィンドウサイズWSを小さく変更して測定を行なえばよいことがわかる。
【0063】
また、ウィンドウサイズ表示欄54の値はユーザーが任意に設定できるので、そのウィンドウサイズWSを変化させたときのスループットTPの変化などから、スループットの変動要因の特定を容易に行なうことができる。
【符号の説明】
【0064】
1……移動体端末、20……移動体端末試験システム、21……通信処理部、22……表示部、23……操作部、30……試験制御部、31……パケット送信手段、32……パケット受信手段、33……時間差計測手段、34……スループット算出手段、35……スループット表示手段、41……時間差表示手段、42……理想スループット算出手段、43……理想スループット表示手段、44……ウィンドウサイズ表示手段、45……理想ウィンドウサイズ算出手段、46……理想ウィンドウサイズ表示手段、47……ウィンドウサイズ設定手段
図1
図2
図3