【解決手段】フェージングシミュレータ20は、識別子をそれぞれに付されたm個の第1の入力端で受けたm個のベースバンド信号に対してフェージング処理をしてn個のフェージング処理されたベースバンド信号を出力する演算部22と、m個の第2の入力端で前記識別子と前記ベースバンド信号の対を含む送信信号を受けて送信信号に含まれる識別子を検出して、該送信信号に含まれる識別子と同一の識別子が付された第1の入力端へ、その識別子と対のベースバンド信号を入力させる入力制御部21とを、備える。
識別子をそれぞれに付されたm個の第1の入力端を有し、該第1の入力端で受けたm個のベースバンド信号に対して指定されたフェージング処理をしてn個のフェージング信号を生成し、出力する演算部(22)と、
m個の第2の入力端を有し、該第2の入力端で前記識別子と前記ベースバンド信号を含む送信信号を受けて、前記送信信号に含まれる識別子を検出して、該送信信号に含まれる識別子と同一の識別子が付された前記第1の入力端へ、該送信信号に含まれる識別子と共に含まれたベースバンド信号を入力させる入力制御部(21)と、
を備えたことを特徴とするフェージングシミュレータ。
複数の異なるベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部(11)と、該複数のベースバンド信号を受けてそれぞれを搬送波に乗せて被試験移動体通信端末へ出力する送信部(121)と、フェージング試験モードにおいて、前記ベースバンド信号を受けて、指定されたフェージングを生じさせてフェージングが生じたフェージング信号を前記送信部へ入力させるフェージングシミュレータ(20)とを備えた移動体端末試験システムであって、
前記フェージング試験モードにおいて前記ベースバンド信号生成部は、異なるベースバンド信号ごとに異なる識別子を付した送信信号を出力し、
前記フェージングシミュレータは、
m個の識別子をそれぞれに付されたm個の第1の入力端を有し、該第1の入力端で受けた複数のベースバンド信号に対して指定されたフェージング処理をしてn個のフェージング処理された前記フェージング信号を出力する演算部(22)と、
m個の第2の入力端を有し、該第2の入力端で前記識別子と前記ベースバンド信号を含む送信信号を受けて、前記送信信号に含まれる識別子を検出して、該送信信号に含まれる識別子と同一の識別子が付された前記第1の入力端へ、該送信信号に含まれる識別子と共に含まれたベースバンド信号を入力させる入力制御部(21)と、
を備えたことを特徴とする移動体端末試験システム。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やモバイル端末等の移動体通信端末が急速に発達している。基地局から移動体通信端末に到達する電波は、その伝搬経路の地形や構造物などによる反射、散乱、あるいは回折などにより多重波になり、電波の振幅及び位相は場所によってランダムに変化する。この伝搬経路内を移動しながら基地局からの電波を受信する場合には、電波のマルチパス伝搬によるフェージングが生じる。その結果、通信はフェージングによって大きな影響を受ける。そのため、移動体通信端末の通信性能を評価する際には、基地局を模擬した基地局擬似装置とともに電波伝搬環境を模擬するフェージングシミュレータと呼ばれる装置が利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、携帯電話等に代表される移動体通信端末では、インターネットからの情報をダウンロードすることが多くなり、下りの情報伝達量がより多く要求されてきている。しかしながら、情報量を増やすために周波数帯域を広くすることは、通信可能な端末数を減少させることになり、システム全体としての情報伝達量を増加させることにならない。この問題を解決する一つの方式として、MIMO(Multiple Input Multiple Output)方式が提案されている。
【0004】
このMIMO方式は、実際の移動体通信においては、複数Mの基地局側アンテナと複数Nの端末側アンテナとの間の伝搬路がマルチパス伝搬路となり、それぞれが統計的に独立した伝送路と見なせ、その各伝送路の特性がわかれば、受信側の各アンテナで受信される合波信号から、送信側の各アンテナから出力された信号の分離が可能となるという原理に基づいている。
【0005】
MIMOを構成するマルチパス伝搬路の数は、基地局側のアンテナの数「M」と、移動体通信端末側のアンテナの数「N」との組合せの数に相当する。MIMO方式を採用する移動体通信システムを想定したフェージングシミュレータでは、生成された複数のベースバンド信号に対して、各ベースバンド信号に伝搬路に応じたフェージング処理を施してフェージング信号を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで従来技術について詳しく説明する。被試験用の移動体通信端末の受信特性の試験は、
図4に点線で示すように基地局模擬装置100を用いて、所定の通信方式に基づいて、ベースバンド信号生成部110によりm個のベースバンド信号BX1〜BXmを生成し、そのベースバンド信号BX1〜BXmを出力端X1〜Xmから送受信部120内の送信部121により搬送波に乗せて移動体通信端末300へ送り、その移動体通信端末300からの応答を受信部122で受けて、解析部130で解析することにより試験される。フェージングの試験を行う場合(以下、フェージングシミュレーションモードと言うことがある。)、フェージングシミュレータは、基地局模擬装置100のベースバンド信号生成部110からデジタルのベースバンド信号BX1〜BXmを受けて、演算部210で所望のフェージングを生じさせて、送信部121へ送る構成となっている。なお、ベースバンド信号生成部110の代わりに外部からベースバンド信号BX1〜BXmを受ける構成であってもよい。
【0008】
上記のMIMO方式の場合は、ベースバンド信号生成部110は、試験用のベースバンド信号(デジタル信号)BX1〜BXmを、基地局模擬装置100と移動体通信端末300との間でMIMOを構成する伝搬路ごとまたは送信アンテナごとに生成する。この伝搬路の数は、基地局模擬装置100が模擬する基地局側のアンテナの数mと、移動体通信端末300のアンテナの数nとの組合せの数に基づきあらかじめ決定される。例えば、基地局側のアンテナの数mが3、移動体通信端末300のアンテナの数nが2の場合、伝搬路の数はm×n=6となる。また、送信アンテナごとに生成される場合は、ベースバンド信号は、アンテナ数mごとに生成される。
【0009】
ベースバンド信号生成部110は、例えば、アンテナ数がm、異なるベースバンド信号の数がmの場合、各ベースバンド信号BX1〜BXmを、出力端X1〜Xmを介してフェージングシミュレータ200に送られる。この間の伝送形態は、例えばパケット伝送を用いて出力してもよい。また、ここで出力端(後述するフェージングシミュレータ200の入力端も同様)と称したが、ベースバンド信号BX1〜BXmを特定の形態で伝送するためにインターフェースを合わせる必要がある場合は、出力端(或いは入力端)にインターフェース(I/F)を設けてもよい。
【0010】
基地局模擬装置100の出力端(ベースバンド信号生成部110の出力端)とフェージングシミュレータ200の入力端X1〜Xmとの間の接続はケーブルで行われているのが一般的である。
【0011】
一方、演算部210は、m個のベースバンド信号BX1〜BXmを受けて、それに対して演算を施すことにより指定されたフェージング効果Hを含んだn個のフェージング信号FX1〜FXnを出力する。フェージング効果Hは、例えば、演算部210が以下の式(1)に示すような演算を実行することにより生じる。
【0012】
すなわち、入力されるベースバンド信号BX1〜BXmのそれぞれに数式(1)におけるパラメータH
11〜H
nmで表される重み付をして加算することで、n個分のフェージンングされたベースバンド帯のフェージング信号FX1〜FXnを生成している。
【0013】
【数1】
【0014】
式(1)からわかるように、例えば、演算部210の入力端へ入力されるベースバンド信号BX1〜BXmの入力位置が誤接続によって例えばベースバンド信号BX1が入力される入力端に誤ってベースバンド信号BX2が入力され、ベースバンド信号BX2が入力される場所(端子)に誤ってベースバンド信号BX1が入力された場合には、フェージング効果も変わってしまう。つまり、ベースバンド信号BX1には本来、パラメータH
11のフェージング効果が施されなければならないところ、パラメータH
12のフェージング効果が施されてしまうことになる。したがって、指定されたフェージング処理を施すにあたり、ベースバンド信号BX1〜BXmの演算部210への入力位置は一義的に定められる必要がある。しかし、ケーブル等による入力の接続においては誤接続(ヒューマンエラー)のおそれがある。
【0015】
本発明の目的は、入力の接続の仕方に依存せずに指定されたフェージング処理を施すことができるフェージングシミュレータ及び移動体端末試験システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、この請求項1に記載の発明は、識別子をそれぞれに付されたm個の第1の入力端を有し、該第1の入力端で受けたm個のベースバンド信号に対して指定されたフェージング処理をしてn個のフェージング信号を生成し、出力する演算部(22)と、m個の第2の入力端を有し、該第2の入力端で前記識別子と前記ベースバンド信号を含む送信信号を受けて、前記送信信号に含まれる識別子を検出して、該送信信号に含まれる識別子と同一の識別子が付された前記第1の入力端へ、該送信信号に含まれる識別子と共に含まれたベースバンド信号を入力させる入力制御部(21)とを、備えたことを特徴とするフェージングシミュレータである。
また、請求項2に記載の発明は、前記入力制御部は、前記m個の第2の入力端子を有し、該第2の入力端で前記識別子と前記ベースバンド信号を含む送信信号を受けて、前記送信信号に含まれる識別子を検出して、検出した該識別子とその該識別子を含む送信信号を受けた前記第2の入力端を特定する情報との組み合わせ情報を生成する入力情報検出部(21b)と、前記組み合わせ情報を参照して、前記第2の入力端で受けた前記送信信号に含まれるベースバンド信号を、当該第2の入力端を特定する情報と組み合わせられた識別子と同一の識別子が付された前記第1の入力端へ入力させる入力切換部(21a)と、を備えたことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のフェージングシミュレータであって、前記送信信号は前記識別子と該識別子に対応する前記ベースバンド信号を含むパケット信号であり、前記識別子は前記入力情報検出部に送信され、対応するベースバンド信号は前記入力切換部に送信されることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のフェージングシミュレータであって、前記演算部は、前記m個のベースバンド信号のそれぞれに対して前記n個分の重み付けをして加算する前記フェージング処理を行うことを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、複数の異なるベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部(11)と、該複数のベースバンド信号を受けてそれぞれを搬送波に乗せて被試験移動体通信端末へ出力する送信部(121)と、フェージング試験モードにおいて、前記ベースバンド信号を受けて、指定されたフェージングを生じさせてフェージングが生じたベースバンド信号を前記送信部へ入力させるフェージングシミュレータ(20)とを備えた移動体端末試験システムであって、前記フェージング試験モードにおいて前記ベースバンド信号生成部は、異なるベースバンド信号ごとに異なる識別子を付した送信信号を出力し、前記フェージングシミュレータは、m個の識別子をそれぞれに付されたm個の第1の入力端を有し、該第1の入力端で受けた複数のベースバンド信号に対して指定されたフェージング処理をしてn個のフェージング処理された前記フェージング信号を出力する演算部(22)と、m個の第2の入力端を有し、該第2の入力端で前記識別子と前記ベースバンド信号を含む送信信号を受けて、前記送信信号に含まれる識別子を検出して、該送信信号に含まれる識別子と同一の識別子が付された前記第1の入力端へ、該送信信号に含まれる識別子と共に含まれたベースバンド信号を入力させる入力制御部(21)とを備えたことを特徴とする移動体端末試験システムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るフェージングシミュレータは、演算部側に入力された識別子が付帯されたベースバンド信号を含む送信信号から識別子を検出して、その識別子が付帯したベースバンド信号をその識別子と同一に識別子の演算部の入力端へ接続する構成としたことから、該ベースバンド信号に付帯される識別子と同一の識別子が付された入力位置に確実に接続できるので、フェージング処理においてベースバンド信号の入力位置を、一義的に定めることができる。そのため、入力の接続の仕方に依存することなく送信するベースバンド信号に対してあらかじめ指定されたフェージング処理を確実に施すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について
図1を参照しながら説明する。
図1に示す移動体端末試験システムは、基地局模擬装置10とフェージングシミュレータ20で構成される。
図1の基地局模擬装置10と従来例を示す
図4の基地局模擬装置100とでは、
図1のベースバンド信号生成部11と
図4のベースバンド信号生成部110とが異なり、他の構成は、基本的に同じ機構を有する。なお、
図1の基地局模擬装置10では、
図4における受信部122や解析部130が省略されている。
【0020】
また、
図1のフェージングシミュレータ20と
図4のフェージングシミュレータ200とでは、
図1の演算部22、入力I/F、出力I/Fが
図4の演算部210、その入力端、出力端とそれぞれ同じ機能を有し、
図1の演算部22の入力端における識別子の存在や、入力切換部21a、入力情報検出部21b、出力切換部23等が
図4とは異なる。
【0021】
移動体端末試験システムは、基地局模擬装置10と、それに外付けされるフェージングシミュレータ20とで構成されている。基地局模擬装置10は、移動体通信端末300と無線または有線による通信が可能に構成されている。
【0022】
基地局模擬装置10は、ベースバンド信号生成部11と、送信部121と受信部(
図1では不図示)と解析部(不図示)を含んで構成されている。フェージングシミュレータ20は、ベースバンド信号生成部11と送信部121との間に接続される(接続関係は
図4と同様)。フェージングシミュレータ20で試験するモードでない場合は、
図4の点線で示されるように接続され、フェージングシミュレーションのモードのときは、
図4の実線のように接続される。
【0023】
ベースバンド信号生成部11は、m個の異なるデジタルのベースバンド信号BX1〜BXmを生成し、自己の出力インターフェース(出力I/F)X1〜Xmから、フェージングシミュレータ20の入力インターフェース(入力I/F)X1〜Xmへ送る。
【0024】
ここで、ベースバンド信号生成部11の出力I/FX1〜Xmとフェージングシミュレータ20の入力I/FX1〜Xmとの間では、ベースバンド信号BX1〜BXmをパケットの形態で授受する例で説明する。したがって、出力I/FX1〜Xmと入力I/FX1〜Xmは、それぞれ、出力I/Fと入力I/Fに流れるパケットのそれぞれの信号形態のインターフェースをとるとともに、出力端、入力端としての機能を有する。さらに、出力I/FX1〜Xmと入力I/FX1〜Xmは、操作者により、ケーブルで接続されるものとする。
【0025】
ベースバンド信号生成部11は、操作部26等からユーザインターフェース24を介して指定された所望のm個の異なるデジタルのベースバンド信号BX1〜BXmを生成するとともに、パケットの形態で、出力I/FX1〜Xmから出力させる。そのとき、異なるデジタルのベースバンド信号BX1〜BXmに応じて、入力させたい演算部22(後述)の入力端を識別する識別子ant1〜antmを付帯し出力させる(
図1では識別子ant1〜antmを演算部22の入力端として表現している。)。つまり、ベースバンド信号生成部11は、演算部22の所定の入力端に入力させたいベースバンド信号BX1〜BXmに、その所定の入力端に該当する識別子ant1〜antmを付帯させた送信信号を出力I/FX1〜Xmから出力させる。
【0026】
なお、この例では、演算部22の各入力端には符号X1〜Xmの順に識別子ant1〜antmが付されているとし、出力I/FX1〜Xmから出力されるベースバンド信号には、出力I/Fの符号X1〜Xmの順に識別子ant1〜antmが付帯されているものとして説明する。
【0027】
フェージングシミュレータ20の入力制御部21における入力情報検出部21bは、入力I/FX1〜Xmに入力された送信信号(ベースバンド信号BX+識別子ant)から識別子ant1〜antmを検出するとともに、入力I/FX1〜Xmとその入力I/FX1〜Xmで検出された識別子ant1〜antmとが組み合わせられた組み合わせ情報を生成して記憶する。そして、入力情報検出部21bは、その組み合わせ情報を例えば、[入力I/FXh、antk]であったとき、入力切換部21aに対して、送信信号を受けた入力I/FXhと、送信信号が有する識別子antkと同一の識別子antkを有する演算部22の入力端(antk)とを接続し、識別子antkと共に入力されたベースバンド信号BXkを演算部22の入力端(antk)へ入力させる。入力切換部21aはスイッチ機能を有し、入力情報検出部21bの指示にしたがって、演算部22の入力端(識別子ant1〜antm)に、その識別子ant1〜antmと同一の識別子ant1〜antmが付帯されたベースバンド信号BX1〜BXmを入力させる。以下、演算部22の入力端を入力端ant1〜antmという。
【0028】
以降では、フェージングシミュレータ20における入力情報検出部21b及び入力切換部21aを含む入力制御部21による切り換え制御の動作について、
図2を参照して信号の流れに沿って説明する。
図2は入力I/Fとアンテナの数(出力数)が4つの場合(4入力4出力)における入力制御部21の切り換え制御の動作を説明するための図である。
【0029】
入力情報検出部21bは、識別子を検出したときの入力I/Fの番号X1〜Xmと検出された当該識別子ant1〜antmからなる組合せ情報を生成し、その組合せ情報を入力切換部21aに出力する。
図2の例によれば、識別子ant3が付帯したベースバンド信号BX3が入力I/FX1に入力されたことが検出されると、この入力I/FX1と識別子ant3とが組合せ情報として生成される。同様に、入力I/FX2と識別子ant1を含む組合せ情報、入力I/FX4と識別子ant2を含む組合せ情報、入力I/FX3と識別子ant4を含む組合せ情報が、入力情報検出部21bにより生成され、入力切換部21aへ送られる。
【0030】
入力切換部21aは、入力情報検出部21bから、入力I/FX1と識別子ant3を含む組合せ情報を受けて、入力I/FX1に入力されたベースバンド信号BX3を、識別子ant3が付された演算部22の入力端子ant3へ入力させる。同様に、入力I/FX2と識別子ant1を含む組合せ情報を受けて、入力I/FX2に入力されたベースバンド信号BX1を、演算部22の入力端子ant1へ入力させる。入力I/FX4と識別子ant2を含む組合せ情報を受けて、入力I/FX4に入力されたベースバンド信号BX2を、演算部22の入力端子ant2へ入力させる。入力I/FX3と識別子ant4を含む組合せ情報を受けて、入力I/FX3に入力されたベースバンド信号BX4を、演算部22の入力端子ant4へ入力させる。
【0031】
入力切換部21aの切換えを行うスイッチ機構は、マトリックススイッチでもよいし、論理演算でスイッチ機能をさせる構成でもよい。
その論理演算でスイッチさせる一例を次の2個のアンテナ数、2個のベースバンド信号の場合について説明する。入力切換部21aは、以下の式(2)の論理演算を行う。
【0033】
BX1、BX2:入力I/FX1、X2のそれぞれに入力されるベースバンド信号(入力切換部21aの入力に相当)
X
1´X
2´: 演算部22の入力端ant1、ant2(入力切換部21aの出力端に相当)のそれぞれに入力されるベースバンド信号
A
11〜A
22は、入力情報検出部21bで検出し生成する組み合わせ情報を基に次のように値づけされる。
・A
11=(入力I/FX1の検出結果==識別子ant1?)
・A
12=(入力I/FX2の検出結果==識別子ant1?)
・A
21=(入力I/FX1の検出結果==識別子ant2?)
・A
22=(入力I/FX2の検出結果==識別子ant2?)
上記のカッコ内が真であれば“1”、偽であれば“0”とする。
例えば、次の場合がある。
・(a)入力I/FX1で識別子ant1、入力I/FX2で識別子ant2が検出された場合は、A
11=A
22=1、A
12=A
21=0の演算が行われ、入力I/FX1は演算部22の入力端ant1に、入力I/FX2は演算部22の入力端ant2に接続される。
・(b)入力I/FX1で識別子ant2、入力I/FX2で識別子ant1が検出された場合は、A
11=A
22=0、A
12=A
21=1の演算が行われ、入力I/FX1は演算部22の入力端ant2に、入力I/FX2は演算部22の入力端ant1に接続される。つまり上記(a)の接続と入れ替わる。
なお、上記演算は、A
11〜A
22を単純な1,0で説明したが、実際は、上記式におけるX
1、X
2、X
1´、X
2´は多ビットのデジタルデータであり、A
11〜A
22も多ビットになる。
【0034】
次に、演算部22は、その入力端ant1〜antmに入力されたベースバンド信号BX1〜BXmに対して、操作部26側から指示された演算(フェージング効果を生じさせる演算であり、以下、「フェージング演算」と呼ぶ。)を行ってN個のフェージングされたベースバンド信号をフェージング信号FX1〜FXnとして出力する。なお、演算部22の演算は、入力切換部21aによる切換え後に行われる。そのタイミングの調整は入力情報検出部21bで行ってもよいし、入力切換部21aから切換え終了指示を受ける構成にしてもよい。
【0035】
m入力×n出力におけるフェージング演算の演算式は上記式(1)のとおりであるが、ここでは
図2に示す4入力4出力(m=n=4)におけるフェージング演算について説明する。このフェージング演算は、以下の式(3)に基づいて行われる。なお、フェージング信号FX1〜FX4は後述するように送信部121でD/A変換されてアナログ信号に変換され、さらに、アップコンバートして得られる搬送波信号(RF信号)として移動体通信端末300に出力される。
【0037】
上記式(3)を展開すれば、例えばFX1は以下の式(4)により求められる。
FX1=(H
11×X
1´)+(H
12×X
2´)+(H
13×X
3´)+(H
14×X
4´)・・・(4)
【0038】
なお、X
1´〜X
4´は、それぞれ演算部22の入力端ant1〜ant4に入力された信号である。H
11〜H
44は各ベースバンド信号を重み付けしてフェージング効果を表すパラメータであり、予め演算部22で複数種類用意しておいて選択的に用いられるようにしてもよいし、操作部26等からの入力により設定される構成でもよい。FX1〜FX4は指定されたフェージング効果Hを有するフェージング信号である。また、入力端ant1〜ant4に入力されたベースバンド信号X
1´〜X
4´であるが、フェージング信号FX1、FX2だけを取り出したい場合は、パラメータH
31〜H
44を0にすればよい。
【0039】
出力切換部23は、演算部22から入力端(不図示)に入力されるn個のフェージング信号FX1〜FXnのそれぞれをアンテナA1〜Anに対応した出力I/FY1〜Ynのいずれかへ入力させるための出力の切換制御を行う。どのフェージング信号FX1〜FXnをどの出力I/F(或いはアンテナ)に出力するのかという選択は、操作部26から指示された、或いは予め設定された組み合わせ情報に基づいて行われる。
【0040】
この組合せ情報は、出力切換部23に各フェージング信号FX1〜FXnと、各出力I/FY1〜Yn(アンテナA1〜An)との接続関係を示した情報である。
【0041】
出力切換部23は、例えば、フェージング信号FX3と出力I/FY1との接続関係を示した情報を受けると、フェージング信号FX3を出力I/FY1に接続させるルーティング処理を行う。
【0042】
上記のように、出力切換部23は、各フェージング信号FX1〜FXnを任意の出力端子である出力I/FY1〜Ynから出力させることができるが、特に、次のような場合に便利である。
【0043】
例えば、フェージングシミュレータ20を用いて試験を行う場合に、
図2に示すように入力I/FX3に識別子ant1のベースバンド信号が入力されたとすると、対応してフェージング信号FX1が出力される。そこで、出力切換部23は、フェージング信号FX1が入力I/F201X3に対応するものとして、フェージング信号FX1を出力IFY3へ送り、送信部121の入力I/FY3を介してアンテナA3に送る。
次に、フェージングシミュレータ20を除いて通常の試験を行う場合に、入力I/FX3に接続されていたケーブル(識別子ant1が付帯したベースバンド信号)をそのまま送信部121の入力I/FY3を介してアンテナA3に送る。このようにすることで、フェージングシミュレーションのある試験と、無い試験とで、識別子ant1が付帯したベースバンド信号とアンテナA3との対応関係を同じにすることができる。つまり接続関係が、フェージングシミュレーションの有無のいずれの場合も同じ接続関係とすることができる。
【0044】
上記例では、いわば、出力切換部23は、入力情報検出部21bが生成した入力I/FX1〜Xmと識別子ant1〜antmとの組合せ情報を基に、入力切換部21aによって切り換えた接続関係を元に戻す切換えを行う。出力切換部23のスイッチ機構は入力切換部21aと同じ構成とすることができる。
【0045】
この上記の
図2のような例の場合、識別子ant1〜ant4を、アンテナを識別する符号A1〜A4と同一にすると、より信号関係が明確に把握できる。
【0046】
送信部121は、フェージングシミュレータ20から出力されたフェージング信号FY1〜FYnを受信し、受信されたフェージング信号FY1〜FYnをそれぞれ搬送波周波数に変換して、それらを移動体通信端末300に出力する。
【0047】
D/A変換部121aは、入力I/FY1〜Ynを介してそれぞれ入力されたフェージング信号FY1〜FYnをデジタル−アナログ変換する。F変換部121bは、D/A変換部121aでアナログに変換されたフェージング信号FY1〜FYnをそれぞれ搬送波周波数に変換して、それらを移動体通信端末300に出力する。
【0048】
表示部25は、入力情報検出部21bが検出し生成した、入力I/FX1〜Xnと、そこに入力されたベースバンド信号に付帯した識別子ant1〜antmとの組合せ情報を表示する。
【0049】
上記説明では、基地局模擬装置10とフェージングシミュレータ20とを含む移動体端末試験システムとして説明したが、フェージングシミュレータ20は、基地局模擬装置10のものとは異なる独立したベースバンド信号生成部を用いてシミュレーションすることもできるし、ベースバンド信号生成部と送信部と組みで構成したシミュレータシステムとすることもできる。
【0050】
また、上記説明では、出力I/FX1〜Xm(ベースバンド信号生成部11の出力端)と入力I/FX1〜Xm(フェージングシミュレータ20の入力端)との間は、識別子ant1〜antmとベースバンド信号を含む送信信号をパケットの形態で送る旨を説明したが、
図3に示すようなバス形式の信号でもよい。
図3は、識別子を示す信号がD0でベースバンド信号がD1、D2として、シーケンシャルに伝送する形態である。Valid信号は、データが有効であるか無効であるかを示す信号である。したがって、最初のデータD0は、入力情報検出部21bにとって有効な識別子を示すデータ、次回以降のデータは演算部22にとって有効なデータとして利用する。なお、Valid信号は必ずしも必要ではないが、
図3に示すようにベースバンド信号がD1、D2に分かれるおそれがある場合に、どの時間帯の信号が有効かを判断できるので、確実な伝送を確保できる。